おはようございます。毎年年初には、金融機関などから恒例の「びっくり予想」が発表されます。今年の予想にはどのようなものがあるのでしょうか。
1. バイロン・ウィーン氏のびっくり予想
毎年年初あたりに発表される「びっくり予想」の内、代表的なものの1つがバイロン・ウィーン氏によるものです。
ウォール街のご意見番として著名な米投資ファンド大手ブラックストーンのバイロン・ウィーン氏は4日、最高投資ストラテジストのジョー・サイドル氏と共同で、毎年恒例となっている「びっくり10大予想」の2023年版を発表。「米連邦準備理事会(FRB)は金融引き締めの影響で景気後退に陥るものの、株価は年央には底打ちする」との予想を公表。
びっくり予想の定義は、平均的な投資家が発生確率を3分1程度とみる出来事で、ウィーン氏がその確率を5割以上とするもの。公表は今年で38回目となり、毎年市場関係者が注目。
10大予想の冒頭にあげたのが、24年の大統領選を前に、新顔の有力候補が登場するのとの予想。民主・共和両党とも新たな候補が登場するとの予想が当たれば、大統領選は思い寄らぬ展開を見せる可能性があります。
以上にとって今年最大の話題の1つは、FRBの利上げがいつ、どのこまで続くか。びっくり予想では、インフレとの綱引き状態が続き、金融緩和への転換は訪れないとみています。更に引き締めが長引くことで、米景気は緩やかな景気後退に移ると予想。
また、金融引き締めの継続と景気後退にもかかわらず、米株式市場は年央には底をつけ、年後半には金融危機後の09年の相場展開と似たような上昇が見込めるとしている点。そうなれば、投資家にとっては喜ばしいこととなります。
2. 独自のびっくり予想
ではここで、私なりのびっくり予想を考えてみましょう。世界、米国、日本などについて考えてみましょう。
まず、米国のインフレ率を見ると、米労働省が12日発表した12月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.5%と、伸び率は11月の同+7.1%から鈍化。23年には、さらに鈍化する可能性があります。
それにつれて、米FRBが利上げ打ち止め、秋には利下げに転じることも考えられます。また、世界全体の景気の後退、原油価格低下も予想されます。
日本は、企業による製品、サービス価格が遅れています。価格引き上げは世界の趨勢から遅れており、企業が今年に入ってからも、大幅に価格を引き上げる構え。米欧などの動きからは遅れて、CPI(消費者物価指数)上昇が今後更に加速する可能性があります。
日本ではそれにつれて、実質賃金の下落も継続。消費者の消費意欲も低下。GDP成長率がマイナスに陥ることも考えられます。それにより、株価も年央以降、軟調に展開する可能性があります。
ただ、ここに書いたのはあくまで予想。寧ろ外れてほしいものもありますね。
おはようございます。引き続き2023年を展望しましょう。今回は新興国の見通しについて。
1. IMFが23年世界の成長率見通しを+2.7%に引き下げ
まず、国際通貨基金(IMF)による昨年10月時点の世界経済見通しを見ましょう。IMFは10月11日発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、2023年の世界経済成長率見通しを+2.7%と、前回7月の予想から▲0.2%引き下げ(図表1参照)。米国と欧州、中国の経済を「失速」と表現。
インフレ抑制のために世界各国の中央銀行が利上げに動いており、翌年度の予測としてはリーマン危機の当初よりも悲観的。世界経済はインフレへの懸念から、景気後退懸念へと新たな段階に入りました。
新興国と先進国を比較すると、中国の23年予想は▲0.2%ポイント引き下げられたものの、先進国よりは高い成長率を維持。インドも同様に+6.1%と、比較的高い成長率を維持するとしています。
2. インド経済が好調維持、7-9月期成長率+6.3%
続いて、インド統計局が11月30日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比+6.3%(図表2参照)。前期の+13.5から減速。8四半期連続のプラス成長。旺盛な内需を背景として、堅調な成長が継続。2022年の名目GDPは、旧宗主国の英国を抜いて世界5位に浮上する可能性もあります。
4-6月期は+13.5%であったものの、新型コロナ・ウィルスによる打撃からの反発によるところが大きかったと言えます。インドの1日あたり新規感染者数は21年5月に一時40万人を超えたものの、足下では数百人程度で推移。
3. ロシアの低迷が継続
一方、ロシアは2月のウクライナ侵攻により、欧米などからの経済を受けることとなりました。欧州への天然ガスの輸出を停止。原油及び天然ガスなど天然資源価格低迷により、輸出が停滞し、国家財政の赤字も拡大。原油の輸出先を欧州からインド、中国などに切り替えたものの、欧州の減少分を補うほどには至っていません。
欧米から半導体などのハイテク製品が輸入しづらくなり、自動車産業など製造業の生産が落ち込みました。マクドナルドなど外資企業の撤退が相次ぎ、雇用も低迷。只、ジョージアなど周辺諸国からは、欧米の制裁を?い潜って輸入が継続されている模様。欧米からの制裁は期待したほどの効果は挙げていないとも言えます。
当局の維持策もあり、通貨ルーブル、或いは株価は昨年には安定した動き。只、ウクライナへの莫大な出費の増大、徴兵などを嫌った若者の国外への逃亡による労働力不足などが、今後ロシア経済の重石となると予想されます。
4. ブラジルは低位安定か
他方、ブラジルではこのところ物価上昇率が落ち着く傾向にあります。1月1日発表の12月消費者物価上昇率(IPCA)は+5.79%と、前月の+5.9%から減速。
更に、ブラジル中央銀行は12月の7日の金融政策委員会(COPOM)で、政策金利を13.75%に据え置くことを決定。据え置きは3会合連続。
また、ブラジル地理統計院(IBGE)は12月1日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+3.6%であったと発表(図表3参照)。上方修正されて4-6月期の+3.7%とほぼ同水準。
7四半期連続のプラス成長。10月の大統領選を前にして、ボルソナロ政権が実施した低所得者層向けの現金給付拡大や現在により、家計消費が拡大。只、需要の先取りにより、むしろ10-12月期以降への懸念が高まっています。
全国商業連合(CNC)によると、11月の世帯支出意欲指数は89.0と、20年4月の95.6以来の高い水準。新型コロナ・ウィルス禍の影響が一巡して、雇用の拡大が消費を後押し。8-10月期の失業率は8.3%と、15年3-5月の8.3%と同水準迄低下。
10-12月期以降については、成長率が低位にとどまる可能性もあります。米国の景気も23年に入って後退する可能性があり、ブラジルの景気も予断を許しません。
5. インドが人口世界一
一方、インドがすでに中国を抜いて、人口世界一となった模様。長く首位であった中国は2022年に約60年ぶりの人口減少に転じており、世界の人口動態は歴史的な転換点を迎えました。
国勢調査と人口動態を専門に扱う独立機関ワールド・ポピュレーション・レビュー(WPR)によると、インドの人口は22年末時点で14憶1700万人。中国は昨年末の人口が22年末で14億1200万人と発表。インドが約500万人上回ったことになります。
インドは人口の約半分が30歳未満であり、世界で最も急成長を遂げる大国になると見込まれています。農業から製造業やサービス業へのシフトが進むインドでは、いわゆる「人口ボーナス」を最大限活用するため、モディ政権は労働市場毎年加わる数百万人のための雇用を創出する必要があります。
6. 新興国の株価、通貨の見通し
中国の成長率は23年には回復する見込みであるものの、人口減少及び高齢化、不動産価格低迷などが、株価には重石となる可能性もあります。また、ブラジル、メキシコなどは、米国の景気が低迷すると、その影響を受けることも考えられます。
米連邦準備理事会(FRB)が引き続き金融引き締めを行うと予想されています。新興国への資金流入は期待しづらく、需給面からは新興国の株価、通貨が大きく変われる可能性が低いと予想されます。
おはようございます。引き続き、2023年を展望しましょう。今回は世界的な物価と金利の動向について。
1. 米国11月CPI+7.1%に減速
まず、米国の物価の動きを見ましょう。米労働省が13日発表した11月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.1%と、伸び率は10月の同+7.7%から鈍化。市場予想の+7.3%から下振れ。5カ月連続で伸び率が縮小。
ガソリン価格は+10.1%と、10月の+17.5%から大幅に伸び率が減速。食品は+10.5%で高い伸びが継続。変動が大きい食品とエネルギーを除く指数も+6.0%と、2か月連続で伸び率が低下。
人手不足に伴う賃金上昇が、家賃を含む住居費などサービス価格を押し上げています。
米国においては、ガソリン価格など物価が今年に入ってから、急激に上昇しました。主な要因としては、世界的にコロナに対する規制が緩和され、物と人の流れが急速に高まったこと、ロシアによるウクライナ侵攻により、原油・天然ガスの価格が上昇。また、ロシアとウクライナが農産物の主要な輸出国の一角であることにより、小麦、ひまわり油、また化学肥料などの価格が高騰。世界的にインフレ傾向が強まりました。
このような状況については、昨年12月にも報告した通りですが、問題は今後どのようになるかということです。メイン・シナリオとしては、世界的に原油などの商品市況が落ち着き、米国、ユーロ圏など世界の多くの地域において物価上昇率が緩やかに鈍化するということでしょう。
リスク・シナリオでは、米国における物価上昇率の鈍化が予想ほどではなく、インフレ率が高止まりすることがあります。欧州においても、ロシアによる欧州への天然ガスの供給停止、それに伴う天然ガス価格の高止まりのリスクがあります。ユーロ圏、また英国においても昨年12月にはインフレ率鈍化の兆しがありましたが、リスク・シナリオでは、ユーロ圏においてもインフレ率が高止まりするリスクがあります。
2. FRBが+0.5%ポイント利上げ
一方、米FRB(連邦準備理事会)は、12月14日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、+0.5%ポイントの利上げを決定。前回まで4回連続で+0.75%利上げを行ってきましたが、利上げ幅が縮小。参加者による2023年末の政策金利見通しは、中央値が9月末時点の4.6%から5.1%に上昇。
短期金利であるFFレートの誘導目標は4.25〜4.5%となりました。これまでの利上げ効果を見極めるため、利上げ幅を縮小したものの、9月時点での見通しよりインフレ率が高止まりしており、利上げの到達点は遠くなりました。
今後のメイン・シナリオとしては、FRBが利上げを23年半ばに終了して、年後半には利下げに転じるとの予想があります。
リスク・シナリオとしては、労働市場の逼迫などにより、利上げの最終地点が高くなり、年後半にも、FRBが利下げに踏み切らない可能性があります。
3. 日本11月CPIが大幅上昇
日本の総務省が12月18日発表した11月消費者物価指数(全国)において、総合指数は前年同月比+3.8%で伸び率は前月の同+3.7%から加速。「生鮮食品を除く総合指数」は同+3.7%と、前月の同+3.6%から加速。「生鮮食品を除く総合指数」は1981年12月の4.0%以来、40年11カ月ぶりの高い伸び。
円安や資源高により、食糧品やエネルギーといった生活に欠かせない品目が上昇しています。
今後のメイン・シナリオとしては、日本のインフレ率が徐々に加速、ということになります。リスク・シナリオとしては、インフレ率の大幅加速ということも考えられます。
4. 日銀は事実上利上げを継続するのか
一方、日本銀行は20日の金融政策決定会合で、長期金利を0%程度とする金利政策の変動幅を従来の±0.25%ポイントから「0.5%ポイント」に修正。大規模な金融緩和そのものは維持し、黒田総裁は記者会見で「利上げはない」と説明。金融市場では発表後、長期金利が急騰。事実上の利上げとの受け止め方が広がりました。
短期金利を▲0.1%とする性格は維持。声明文では、長期金利の変動幅の拡大について、市場金利を動き安くすることにより、「金融緩和の持続性を高める」としました。
金融市場では、日銀が金利上昇を容認したとして、金融緩和政策の修正とみなしました。発表後、長期金利は従来の上限である0.25%程度から、一次0.460%迄上昇。金利上昇により、今後、住宅ローン金利などに影響が出る可能性があります。
メイン・シナリオとしては、日銀の利上げ継続ということになります。リスク・シナリオとしては、日銀の利上げは、当初の予想よりも長引くということになります。
5. 世界の株価
米国などにおける物価上昇、世界的な金利引き上げにより、各国の株価が下落。米国の代表的な株価指数であるS&P500指数は昨年12月27日の4766ポイントから12月19日には3821ポイントに下落し、下落率は▲24.6%となりました。
米国のほか、欧州、日本など主要な株価指数が軒並み下落。米国では、これまで株価上昇に貢献してきたIT関連銘柄、ハイテク株などが特に売られました。GAFAMと呼ばれるアップル、アマゾン、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、メタなどの株価が大きく下落。これら成長株の下落が特に目立ちました。
6. 株価は反転の可能性も
メイン・シナリオとしては、米国における利上げの停止、年後半の利下げにより、米国の株価が年後半には反発すると予想されます。
リスク・シナリオとしては、米国におけるインフレ率の高止まり、利下げ開始の遅れにより、米国の株価が年後半においても低迷するということが考えられます。
昨年後半には、米国においてグロース株(成長株)が大きく下落して、相対的にバリュー株(割安株)が買われるという展開となりました。メイン・シナリオでは、年後半においては成長株が買いなおされることも考えられます。
只、米国、中国などで、年後半にはリセッションに陥る恐れもあります。その場合、株価の世界的な低迷が長引くことも考えられます。
おはようございます。2023年、令和5年が始まってから数日が経過しました。ここで、2023年の展望をしてみましょう。予測というよりは、展望です。
昨年、即ち2022年の10大ニュースの内、多くの人がトップに選んだのは、ロシアによるウクライナ侵攻でした。2023年においても、ウクライナ停戦が実現するかどうかが、世界経済に大きな影響を与える可能性があります。
1. ウクライナ戦線が膠着
最近の出来事としては、ロシア国防相が4日、昨年12月31日に同国の占領下にあるウクライナ東部マキイフカで、ウクライナ軍の攻撃によりロシアの兵士89人が死亡した事態について、ロシアの兵士が携帯電話を使用したことが主な原因であると示唆。同省は当初、死者数を65人としていましたが、89人に増加。
一方、ロシア国防相は、ウクライナ軍が12月5日午前、ロシア国内の空軍基地2か所に対してドローン(無人機)を使った攻撃を実施したと発表。同国防相は、サラトフ、リャザン両州で攻撃が実施されたが、防空システムによって迎撃したとしました。
このように、このところロシア側の被害が拡大している模様。ウクライナは南部、或いは東部で攻勢に出ているものの、決定的な勝利を収めるには至っていません。
2. ゼレンスキー大統領米国訪問
他方、ウクライナのゼレンスキー大統領が12月21日、米首都ワシントンを訪問。バイデン大統領と会談。ロシアの侵略から約300日が経過し、バイデン氏は同国の防空能力を強化するための米軍の地対空ミサイルシステム「パトリオット」を供与するなど、総額18億5000万ドル(約2440億円)の追加軍事支援を伝達。ゼレンスキー大統領は米国の支援に感謝し、ロシアの侵攻から主権と領土を守るための一層の協力を求めました。
3. 一部に支援疲れも
その後、ゼレンスキー大統領は米議会で演説。支援の継続を訴えました。これまでの支援に感謝するとともに、支援継続を訴えました。
同氏は、ウクライナは「独裁との戦いの最前線」にあり、米国の支援が不可欠であるとしました。「世界はあまりに互いに結びついていて、相互依存関係にあるため、このような戦いが続いているときに、知らないふりをして安全でいるわけにはいかない」とし、「皆さんの資金は慈善ではなく、世界の安全保障と民主主義への投資」だとしました。
只、共和党を中心として、一部にはウクライナへの支援を削減すべきであるとの意見も対応。また、欧州においても、ポーランドなど一部の避難民受入国では、負担の増大に伴い、支援体制の見直しをすべきであるとの意見も出ています。
4. 戦闘継続、膠着か
ロシア側の人的、或いは兵器の損害が拡大しており、被害はウクライナの3倍以上との推計もあります。只、プーチン大統領はあくまで戦闘を継続する姿勢を取っています。予備兵の投入など、人的損失を補う方針を堅持。また、中国、インドなどに対して、原油など天然資源の購入を働きかけており、経済の立て直しを図る姿勢。
一方、ゼレンスキー氏も、あくまでクリミアを含む領土の奪還を目指す方針。和平交渉にロシアを招く考えなないとしており、両国の直接の交渉は、少なくとも当面、なさそうな状況。
5. 商品市況への影響は低下か
ロシアの昨年2月24日のウクライナ侵攻を受けて、当初は原油価格、また小麦など章句品価格が高騰。只、その後は欧州における天然ガス価格が高止まりしているものの、原油価格は下落。また、ウクライナによる国会経由の小麦輸出の再開、ロシアの増産により、小麦価格が下落するなど、昨年秋以降には、商品市況は落ち着きを取り戻しつつあります。
ウクライナ紛争の今後の状況は予断を許さないものの、同紛争の商品市況への影響は徐々に低下する可能性もあります。商品市況の安定が、米欧日などの物価上昇率低下につながる可能性もあります。
おはようございます。引き続き、今年の振り返りをしましょう。今回は新興国の動きについて。
1. 中国の景気が減速
まず、中国の景気を見ましょう。中国の国家統計局は10月24日に今年7-9期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+3.9%と発表(図表1参照)。全四半期の+0.4%から加速して、市場予想の+3.4%から上振れ。
予想以上に景気が回復したものの、来年にかけて力強い回復を促す政府の取り組みにとって、厳しいコロナ対策や不動産市場の悪化、世界景気の後退リスクなどが立ちはだかっています。
GDP統計は当初18日に発表の予定でしたが、共産党大会は閉会後に発表。習近平総書記に対する忖度があったとの観測もあります。
2. 中国がコロナ対策で混乱
中国は「ゼロコロナ政策」を取り、今年に入ってからも新型コロナにかかった患者を厳格に隔離する政策を維持。それに対して、新疆における火災をきっかけとして、民衆が白紙を掲げて抗議。一部には習近平氏の退陣を要求する事態となりました。
中国政府はこれに慌てて、ゼロコロナ政策を突然停止。CPR検査の義務付けも中止。国外への渡航も許可するとしました。只、これにより感染者が急増。一説では、すでに3億人以上が感染したとの推定もあります。
政府は今年の国内総生産(GDP)成長率予想を+5%程度としていますが、達成はほぼ不可能な情勢。今後もコロナなどを巡って、混乱が継続する可能性があります。
3. インド7-9月期成長率+6.3%
続いて、インド統計局が11月30日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比+6.3%(図表2参照)。前期の+13.5から減速。8四半期連続のプラス成長。旺盛な内需を背景として、堅調な成長が継続。2022年の名目GDPは、旧宗主国の英国を抜いて世界5位に浮上する可能性もあります。
4-6月期は+13.5%であったものの、新型コロナ・ウィルスによる打撃からの反発によるところが大きかったと言えます。インドの1日あたり新規感染者数は21年5月に一時40万人を超えたものの、足下では数百人程度で推移。
4. インドネシアなども好調
他方、インドネシアなどASEAN(東南アジア諸国連合)諸国は、比較的好調な景気を維持。このほか、ブラジル、メキシコなども、比較的底堅い動き。一方、トルコではCPI(消費者物価指数)の高騰が続き、ロシアも、ウクライナ侵攻に対する米欧などの制裁により、景気が引き続き低迷。
5. 世界的に景気減速感が強まる可能性
このように、2022年に関しては、中国にように急速に景気が減速しつつある国、インドのように比較的景気が好調な国、またその中間のような国と、動向が様々となりました。
今後については、ウクライナ戦争の行方、米国の景気の行方、中国の動向などが焦点となります。特に中国については、ゼロコロナ政策の失敗とともに、不動産市場の価格下落が鮮明となっています。不動産バブルの崩壊などにより、中国の景気が一層低迷する可能性もあります。
おはようございます。引き続き、今年の振り返りをしましょう。今回は世界的な物価と金利の上昇について。
1. 11月CPI+7.1%に減速
まず、米国の物価の動きを見ましょう。米労働省が13日発表した11月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.1%と、伸び率は10月の同+7.7%から鈍化。市場予想の+7.3%から下振れ。5カ月連続で伸び率が縮小。
ガソリン価格は+10.1%と、10月の+17.5%から大幅に伸び率が減速。食品は+10.5%で高い伸びが継続。変動が大きい食品とエネルギーを除く指数も+6.0%と、2か月連続で伸び率が低下。
人手不足に伴う賃金上昇が、家賃を含む住居費などサービス価格を押し上げています。
米国においては、ガソリン価格など物価が今年に入ってから、急激に上昇しました。主な要因としては、世界的にコロナに対する規制が緩和され、物と人の流れが急速に高まったこと、ロシアによるウクライナ侵攻により、原油・天然ガスの価格が上昇。また、ロシアとウクライナが農産物の主要な輸出国の一角であることにより、小麦、ひまわり油、また化学肥料などの価格が高騰。世界的にインフレ傾向が強まりました。
EU(欧州連合)諸国、英国のほか、中国を除くアジア各国など、またメキシコなど中南米の国でもインフレが顕著となりました。
只、その後原油価格が80ドル近辺まで下がり、更にロシアの増産により小麦の価格が低下するなど、世界的にインフレについては峠を越えたとの見方もあります。
2. FRBが+0.5%ポイント利上げ
一方、米FRB(連邦準備理事会)は、12月14日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、+0.5%ポイントの利上げを決定。前回まで4回連続で+0.75%利上げを行ってきましたが、利上げ幅が縮小。参加者による2023年末の政策金利見通しは、中央値が9月末時点の4.6%から5.1%に上昇。
短期金利であるFFレートの誘導目標は4.25〜4.5%となりました。これまでの利上げ効果を見極めるため、利上げ幅を縮小したものの、9月時点での見通しよりインフレ率が高止まりしており、利上げの到達点は遠くなりました。
3. 日本のCPIも大幅上昇
総務省が11月18日発表した10月消費者物価指数(全国)において、総合指数は前年同月比+3.7%で伸び率は前月の同+3.0%から大幅加速。「生鮮食品を除く総合指数」は同+3.6%と、前月の同+3.0%から加速。「生鮮食品を除く総合指数」は消費税増税の影響を除くと、91年1月の+4.0%以来、31年9月ぶりの大幅上昇。
品目別では、生鮮を除く食料は+5.9%、食糧全体では+6.2%。食用湯が+35.6%、スパゲッティが+19.5%、チョコレートが+10.0%。種類は9月の▲0.2%から+5.0%の上昇に転じました。
4. 日本も事実上利上げ
一方、日本銀行は20日の金融政策決定会合で、長期金利を0%程度とする金利政策の変動幅を従来の±0.25%ポイントから「0.5%ポイント」に修正。大規模な金融緩和そのものは維持し、黒田総裁は記者会見で「利上げはない」と説明。金融市場では発表後、長期金利が急騰。事実上の利上げとの受け止め方が広がりました。
短期金利を▲0.1%とする性格は維持。声明文では、長期金利の変動幅の拡大について、市場金利を動き安くすることにより、「金融緩和の持続性を高める」としました。
金融市場では、日銀が金利上昇を容認したとして、金融緩和政策の修正とみなしました。発表後、長期金利は従来の上限である0.25%程度から、一次0.460%迄上昇。金利上昇により、今後、住宅ローン金利などに影響が出る可能性があります。
5. 世界的に株価が下落
米国などにおける物価上昇、世界的な金利引き上げにより、各国の株価が下落。米国の代表的な株価指数であるS&P500指数は昨年12月27日の4766ポイントから12月19日には3821ポイントに下落し、下落率は▲24.6%となりました。
米国のほか、欧州、日本など主要な株価指数が軒並み下落。米国では、これまで株価上昇に貢献してきたIT関連銘柄、ハイテク株などが特に売られました。GAFAMと呼ばれるアップル、アマゾン、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、メタなどの株価が大きく下落。これら成長株の下落が特に目立ちました。
6. 株価は底値模索か
米国では物価上昇に歯止めがかかりつつあるとの見方もあります。只、FRB(連邦準備理事会)は利上げを継続する構え。欧州、日本などの中銀もその動きに追随する可能性があります。
又、中国ではゼロコロナ政策の事実上の失敗により、景気が低迷。中国ではコロナに伴う厳しい移動規制を解除したものの、却って感染者が急増。医療体制が全く追いついておらず、医療崩壊も現実のものとなりつつあります。中国以外の国でも景気の低迷が目立ってきつつあり、世界的に株価にとっては重石となる可能性があります。
おはようございます。年末が近づくと、今年の10大ニュースが話題となります。世界経済、新興国などの今年の話題を考えてみましょう。まずはロシアによるウクライナ侵攻。
1. ロシアがウクライナに侵攻
ロシア軍は2月24日、ウクライナの軍事施設に対する攻撃を始めたと発表。ロシアがウクライナへの進行を開始。ウクライナ側発表によると、首都キエフ近郊、東部南部にも死傷者が出ているとしました。
一方、英国率安全保障研究所(RUSI)が、ロシアによるウクライナ侵攻について「(2月下旬開始から)10日間で作戦を終えて占領し、8月迄に全土を併合する計画だった」とする報告書を纏めました。方面によっては、ロシアの勢力が最大12倍であったにもかかわらず、首都キーウ制圧に失敗した理由を詳述。
それによると、ロシア軍参謀本部は、奇襲による「電撃酢酸」の効果を高めるべく、秘密保持を徹底。演習名目で国境付近に集結していた部隊への明理恵は、侵攻開始のわずか24時間前。これにより、「弾薬、燃料、食料、作戦へお理解」が不足する結果となったとしています。
同報告書はウクライナ軍の「判断ミス」も列挙。情報機関は侵攻開始の数日前迄東部ドンバス地方を主戦場とすると予想。戦力の半分を底に振り向けたことで、キーウ周辺の防衛が手薄になったと指摘。
2. 米欧日などが対ロ経済制裁を発動
ロシアによる侵攻に対して、米欧日などが対ロ経済制裁を発動。当初の主な制裁は、ロシアの銀行の取引制限、関係者のビザ発給停止など。
ロシアが更に侵攻を進めた場合、米国は最大手銀行も制裁対象に追加して、先端技術の輸出規制も発動するとしました。日本はクリミア併合の際にはロシアとの間に北方領土交渉を抱えて、制裁は欧米と比較して小規模でした。今回は米欧と足並みをそろえて制裁を発動する姿勢を強調。
3. 7-9月期成長率は引き続きマイナス成長
次に、ロシア経済の状況を見ましょう。ロシア連邦統計局は11月16日、7-9月期GDP(国内総生産、速報値)が前年同期比▲4.0%になったと発表(速報値)。4-6月期の確定値▲4.1%に続き、2四半期連続のマイナス成長。2四半期連続のマイナス成長は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が影響した20年10-12月期、21年1-3月期以来。
米欧などによる経済制裁により、自動車など製造業が部品不足などにより低迷。ウクライナ紛争の影響、外資のロシアからの撤退などにより個人消費も低迷。インフレ率と通貨ルーブルは落ち着きつつあるものの、今後の米欧による追加制裁や、9月末に発令された部分動員の影響により、景気がさらに下押しされる可能性もあります。
米欧などによる経済制裁が影響し、特に製造業が低迷。外資系メーカーの生産停止は部品不足により、7-9月期の自動車製造は前年同期比▲51%と低迷。
3. インフレ率が減速
国家統計局から12月9日発表された11月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+12.0%と、伸び率は前月の+12.6%から減速(図表2参照)。市場予想と一致。
5. 金利据え置き
一方、ロシア中央銀行は10月28日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも7.50%に据え置くことを決定。市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、金利を据え置いたことについて、「足下のインフレ率の伸び率は依然として低く、更に鈍化している」として、「(ウクライナ戦争に伴う予備役兵30万人の)部分的な動員が消費需要の鈍化とインフレ抑制に繋がる」として、インフレが改善方向にあることを強調。
今回の会合後に発表した中期経済予測によると、インフレ見通しについては、「金融政策の姿勢を考えると、22年末時点で+12-13%、23年末時点では+5-8%に減速するとしました。24年には物価目標の+4%に収束して、その後は+4%で推移するとしました。
6. 戦闘長期化か
このように、米欧日などによる経済制裁は、ロシア経済には当面大きな影響を及ぼしていないようにも見えます。只、外資の相次ぐロシアからの撤退、米国などからの半導体など戦略商品の輸入の低下で、自動車産業などの生産が低下。武器の生産も滞っている模様。
一方、ウクライナの徹底抗戦、米欧などによるウクライナ支援により、戦闘は長期化すル可能性もあります。その場合、ウクライナ、ロシアからの一部農産物などの輸出の停滞、商品市況への影響の長期化の可能性もあります。
おはようございます。インドの7-9月期GDPは前年同期比+6.3%と引き続き堅調。只、先行きには懸念もあります。
1. 消費者物価指数上昇率が減速
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が11月14日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.77%(図表1参照)。前月の+7.41%から減速。市場予想の+6.73%から上振れ。
2. 7-9月期成長率+6.3%
続いて、インド統計局が11月30日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比+6.3%(図表2参照)。前期の+13.5から減速。8四半期連続のプラス成長。旺盛な内需を背景として、堅調な成長が継続。2022年の名目GDPは、旧宗主国の英国を抜いて世界5位に浮上する可能性もあります。
4-6月期は+13.5%であったものの、新型コロナ・ウィルスによる打撃からの反発によるところが大きかったと言えます。インドの1日あたり新規感染者数は21年5月に一時40万人を超えたものの、足下では数百人程度で推移。
3. 政策金利を引き上げ
他方、インド準備銀行(中央銀行)は9月30日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを+0.5%ポイント引き上げて5.90%にすることを5対1の賛成多数で決定(図表3参照)。前回に続いて4会合連続で利上げ。1委員が+0.35%の利上げを主張。
市場では利上げ幅に焦点が集まっていましたが、大方の予想は+0.50%ポイント、一部では小幅な+0.35%が予想されていました。
追加利上げを決定してことについて、ジャクティカ・ダス総裁は声明文で、「インフレ率は依然として高く、物価目標のレンジの上限を超えている。地政学的な緊張(ウクライナ紛争)の継続と神経質な世界の金融市場の動向から生じる不確実性により、インフレの先行きは依然として不透明だ」としました。
更に、「物価圧力の拡大を阻止して、更にインフレの先行き期待を抑制して、第2ラウンド効果(賃金情緒によるインフレ加速)の影響を封じ込めるため、金融緩和の更なる調整が必要だと判断した」としました。
4. 先行きに懸念
同国経済は、7-9月期にも対面型サービスを中心として回復を継続したものの、今後はコロナ禍からの回復一巡により、成長率は鈍化する可能性があります。また、欧米、中国などで景気鈍化懸念が高まり、足下では輸出の鈍化傾向が強まっています。外需は来年度も成長の押し下げ要因となると予想され、内需もインフレ率の高止まり、金融引き締めの影響におり、勢いが弱まる可能性があります。
公共投資の拡大は、今後も景気を下支えると予想されます。今年度予算では、資本支出が前年度比+35.4%の7兆5000億ルピーに引き上げられており、政府は大型計画「ゲティ・シャクティ」政策を推進して、経済成長を後押しする計画。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)。2022年12月末と2022年11月末との比較では、▲9.30%の大幅下落。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、20年末の58,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。21年10月には59306ポイント迄上昇。21年12月末と22年11月末との比較では、+8.31%の小幅上昇。
6. 課題とリスク
インドの外貨準備高は国際通貨基金(IMF)が示唆する国際金融市場の動揺への耐性の有無の基準である適正水準評価からみると、外貨不足に陥るリスクは低いといえます。只、ルピーに対する売り圧力に高まりにより、昨年末以降、外貨準備高は減少しつつあります。
一方、海外における物価上昇、金利引き上げなどにより、中銀が金融緩和に動くことは難しく、財政出動の必要性が高まる可能性があります。コロナ対策を受けて過去数年の財政状況が悪化したこともあり、先行きの政策余地が狭まる可能性があります。
インドは今後も人口が拡大して、中国を抜いて世界一の人口大国になると予想されます。外交面では、中国と対立しているものの、米国、ロシアなど多方面に配慮する姿勢を取っています。
只、今後は世界景気の減速などにより、インド経済も減速する可能性があります。
おはようございます。新興国の中央銀行が、相次いで金融引き締め策を発表しています。
1. 南アの10月CPI上昇率は+7.6%に加速
まず、南アフリカ統計局は11月23日に、10月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+7.6%の上昇になったと発表図表1参照)。前月の+7.5%から加速。市場予想の+7.4%から上振れ。
2. 南ア中銀政策金利を引き上げ
続いて、南アフリカ準備銀行(中央銀行)は11月24日に、主要政策金利であるレポレートを+0.75%ポイント引き上げて7.0%にすることを決定。同国では慢性的な電力不足によりインフレ率が高止まりしています。物価上昇を抑制するため、大幅利上げを継続。通貨ランドは10月末から約+8%の上昇。
3. マレーシア中銀政策金利を引き上げ
一方、マレーシア中央銀行は11月3日の金融政策決定会合で、政策金利である翌日物政策金利(OPO)を+0.25%ポイント引き上げ、2.75%にすることを決定。引き上げはほぼ市場の予想通りで、4会合連続。
中銀は会合後に発表した声明文で、「世界的なサプライチェーンの混乱が改善したものの、強い需要とタイトな金融市場、コモディティー価格上昇などにより、インフレ圧力が予想以上に持続している」として、「多くの中銀、特に米国の説教的な利上げの継続と政策金利のピークが高まるとの憶測でドル高が進み、リンギットなどの新興国通貨に悪影響が及んでいる」としました。
利上げ継続による景気後退について、同行は「(ウクライナ戦争など)地政学的緊張など外部要因からの景気下振れリスクは依然あるものの、マレーシア経済は堅調な内需によって牽引され、7-9月期の経済活動は一段と強まっている)とし、「世帯支出は雇用市場の状況と所得見通しの改善によって引き続き下支えられる」としました。
4. ブラジル中銀利上げ、トルコ中銀利下げ
一方、ブラジル中央銀行は10月27日開催した金融政策決定会合で、政策金利を+1.5%ポイント引き上げて7.75%にすることを決定。利上げは6会合連続。2002年12月に実施した+3%ポイントの利上げ以来の大幅利上げ。旱魃や通貨安によりインフレが加速しており、中銀は金融引き締めを急いでいます。
他方、トルコ中央銀行は11月24日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を▲1.5%point引き下げて、9.00%にすることを決定。エルドアン大統領が求めていた「年内に1桁台」の政策金利が実現して、利下げを一旦停止することも表明。
5. 中国鉱工業生産の伸び率予想下回る
中国国家統計局が24日発表した統計によると、10月の鉱工業生産は前年同月比+5.0%と、9月の+6.3%から減速。市場予想の+5.2%から下振れ。
このほか、中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、10月の小売売上高は前年同期比▲0.%%と、前月の+2.5%から反落。市場予想+1.0%から下振れ。
また、国家統計局による同日発表の1-9月の固定資産投資は、前年同期比+5.8%。1-9月の+5.9%から減速。予想の+5.9%から下振れ。
更に、同国家統計局が30日発表した2022年11月の製造業購買担当者指数(PMI)は、48.0。10月から▲1.2%ポイントの低下となり、好調・不調の境目である50を2か月連続で下回りました。新型コロナ・ウィルスの感染拡大を受けて、各地で行動制限を厳しくしており、生産や消費が落ち込みました。
6. 新興国で景気後退が進展か
更に、米国、EU(欧州諸国連合)、英国、日本など先進国においても、景気の減速感が強まっています。日本では10月の総合CPIの伸び率が亢進しており、米国、欧州などでも、物価上昇率が高止まりしています。先進国、新興国ともに、景気後退と物価上昇が共存する、いわゆるスタグフレーションに陥る可能性があります。
おはようございます。国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)は11月20日、大きな進展がないまま終了しました。
1. 「損失と損害」については一定の合意
エジプトの保養地シャルム・シェイクで11月6日から開催されていた国連気候変更枠組み条約第27回締約国会議(COP27)は、11月20日に閉幕。
COP27において主要な論点となったのは、気候変動による「損失と損害(Loss and Damage)」に対する補償。「シャルム・エル・シェイク実行計画」では、気候変動の悪影響に対して脆弱な途上国を支援するための基金設立が盛り込まれました。
基金の運用については、2023年のCOP28などにおいて検討、採択される予定。基金の運用については、初めてCOPの議題の中心となった損失と損害に関する資金調達に進展があったことは、COP27の成功の中でも極めて重要な歴史的決定であるとして、成果を強調。COP27の議長を務めるエジプトのサーメハ・シュクリ外相は、閉会式で「アフリカで開催されたこのCOPは、この基金を設立する場としてふさわしい」としました。
2. 温暖化抑制で進展なし
一方、同計画では、2021年のCOP26で採用された「グラスゴー気候合意」の内容を改めで掲載。世界の平均気温の上昇を産業革命前比で+1.5度に抑制ためには、2030年迄に温室効果ガス排出量を2019年比で▲43%削減することが必要であるとしました。
更に、クリーンエネルギーによる発電やエネルギー効率化を促進して、石炭過料発電の段階的削減、化石燃料補助金の段階的廃止に向けた取り組みを加速することを明記しました。
シャクリ外相は閉会式で「会議でなされた決定は、ネットゼロと(気候変動への)強靭化に向けて前進するための入り口に等しい」として、将来のために各国がCOP27での全ての韓国と決定を考慮することの重要性を強調。
只、前回グラスゴーにおけるCOP26から、温暖化抑制については、特に進展がありませんでした。産業革命前の水準比+1.5度に平均気温上昇を抑制するため、新たな方策が必要となっています。
3. 温暖化の被害が拡大
一方、2022年6月以降、モンスーンが齎した例年の10倍以上の降雨により、パキスタンのバロチタン州、シンド州、カイバル・パクトゥンワ州、パンジャブ州で、大洪水が発生。この数巡年で最悪とされる洪水が同国を襲い、9月2日時点で子供を含む1200人以上の死者が報告されており、3300万人以上が被災、50万人以上がキャンプで生活。被災地への道路が寸断されており、全容はつかめておらず、被害状況は更に深刻であることが懸念されています。
他方、タイは、雨期の大雨により、洪水が発生。タイ内務省防災局によると、9月28日から10月2日にかけて、中部ナコンサワン、東北部チアヤプム、北部チェンマイ、西部カンジャナブリなど27県で数万世帯が浸水被害を受けて、少なくとも3人が死亡。
チェンマイ市では、市内を流れるピン川が氾濫し、一部地域で洪水が発生。
中部では、シャオプラヤ川が、ナコンサワン件、アユタヤ県、ノンタブリ県などの一部地域で氾濫。
このほか、フィリピンが頻繁に台風に見舞われるなど、途上国における気候変動の影響による災害は拡大の一途をたどっています。
先進国と比較して、これらの途上国では災害に対する耐性があまり強くなく、今後の途上国への投資に当たっては、気候変動のリスクに留意する必要あると言えます。
おはようございます。トルコには、インフレ率上昇など、課題が山積しています。
1. 10月CPI上昇率加速
トルコ統計局が11月3日に発表した10月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+85.51となり、前月の+83.45%から伸び率が加速。市場予想の+85.6からはやや下振れ。依然として98年6月の+9.55%以来、24年4か月振りの高い伸び率。
ウクライナ戦争の勃発(2月24日)と、それに伴う西側の対ロ経済制裁により、エネルギー価格が高騰。中銀の利下げに伴う通貨リラの急落により、インフレ率が加速。今回の10月CPIは、21年6月(同+17.53%)以来、16か月連続の加速。
10月の前月比は+3.51%と、9月の+3.08%を上回り、2か月連続で伸び率が加速。6月の+47.95%以来、4か月振りの高い伸び率となりました。
2. 政策金利を引下げ
一方、トルコ中央銀行は9月22日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を▲1ポイント引き下げ12.00%にすることを決定(図表2参照)。世界の中銀がインフレ対応で金融引き締めを継続する中での利下げは予想外で、通貨リラは最安値を更新。
世界的な引き締めサイクルに逆行するトルコの利下げを受けて、通貨リラは一時1ドル=18.42リラと、最安値を更新。昨年12月に本格的な通貨危機時に見舞われた際に安値を更新。
アナリストは、輸出や投資を刺激するために借り入れコストを下げようとするエルドアン大統領の意向を受けた金融緩和は持続不能と指摘。リラ相場は今後更に下落すると予想。
3. 4-6月期成長率+7.3%
他方、トルコ統計局が8月31日に発表した4-6月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+7.6% (図表3参照)。前期の同+7.3%から加速。8期連続のプラス成長となり、市場予想(+7.4〜7.5%)をも上回りました。昨年10−11月以来の高い伸び。
GDPの約70%を占める家計最終消費支出(個人消費)が、前年同期比+22.5%と、前期の同+21.5%から伸びが加速。8期連続の増加。市場では、7-9月期GDPでは、インフレ率亢進により、消費の伸びが抑えられるとみています。
4-6月期には輸出が成長を牽引。輸出は前年同期比+16.4%と、前期の同+14.8%から加速。7期連続で増加。他方、輸入は同+5.8%と、前期の+2.2%に続き3期連続の増加。輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったので、外需全体としてはGDPの押し上げに貢献。
このほか、固定資産形成は+4.7%と、前期の同+4.2%を上回り、2期連続増加。政府最終消費支出は同+2.3%と、前期の同+3.1%から鈍化。
4. 課題が山積
一方、通貨リラの下落の一因となった中銀の独立性を巡る懸念が一段と悪化。上記の通り10月のCPI上昇率が中銀の目標を大幅に上回っているにもかかわらず、中銀は金融緩和を継続。エルドアン大統領による圧力により、利下げ実施に追い込まれています。
理論的には物価上昇に対しては、中銀は金利引き上げで対応すべきであると、一般に考えられていますが、エルドアン大統領は独自の理論によりそれとは真逆の対応をしてきました。事実上の資本規制により、政府はリラ下落を抑え込む姿勢を取っています。
国際通貨基金(IMF)は先月、4条協議ミッションを派遣して、中銀の独立性と早期利上げを提言。トルコ政府はこれを無視して金融緩和を継続する構え。
トルコは外交面ではロシアとNATO(北大西洋条約機構)、イスラエルなどを仲介する役割とになっており、外交関係の悪化がリラ下落などに結びつく可能性は低いとみられます。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。21年12月末から22年10月末まででも▲40.67%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。21年12月末と22年10月末との比較では+114.18%と大幅上昇。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率亢進の可能性が高いと予想されます。
トルコ政府は昨年末にリラ相場の安定を図るべく、トルコ国民のリラ建て定期預金のハードカレンシーに対する価値を政府が保証する、事実上の米ドルペッグ制という奇策を発表。1月半ば以降は、奇策も功を奏してリラの急激な下落は一服する場面もありました。只、その後はウクライナ情勢など地政学的リスクの高まり、国際的金融環境の引き締まり、資源価格上昇などが意識され、再びリラが下落する傾向にあります。
米FRB(連邦準備理事会)は+0.75%の4回大幅利上げを実施。トルコとの金利差が拡大しており、引き続きリラ下落の要因となる可能性があります。トルコの物価上昇には歯止めがかかっておらず、国内の消費に対して下押し要因となっています。
おはようございます。メキシコでは、景気の底入れが続いています。
1. CPI上昇率は減速
メキシコ国立地理情報研究所は11月9日に、メキシコの10月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+8.41%になったと発表(図表1参照)。上昇率は前月の同+8.7%から減速。市場予想の+8.46%から下振れ。
2. 7-9月期GDPは+4.2%に加速
メキシコ統計局は10月31日に、7-9月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+4.2%になったと発表(速報値、図表2参照)。前期(4-6月期)の+2.0%から加速。市場予想の+2.8%から上振れ。
サービス業が前年同期比+4.3%(前期は同+1.2%)を大きく伸び、製造業が+3.8%(同+3.3%)、農業+3.8%(同+1.4%)。
前四半期比では+1.0%と、前期の+0.9%に続いて、4四半期連続で増加。
3. 政策金利を引き上げ
メキシコ銀行(中央銀行)は9月29日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.75%ポイント引き上げて9.25%にすることを決定(図表3参照)。利上げは11会合連続で市場の予想通り。米連邦準備理事会(FRB)による金融引き締めを受け、3会合連続となる+0.75%の利上げとなりました。
5人の委員が全員一致で+0.75%ポイントの利上げを支持。メキシコ大手銀行バノルテなど複数の金融機関は事前に発表したレポートで+0.75%ポイントの利上げを予想。メキシコ中銀は29日の声明で、「インフレを引き起こす要因の大きさと複雑さを考慮した」とし、ロシアのウクライナ侵攻による食料やエネルギー価格上昇を利上げ系座奥の理由として挙げました。
この文言について、アナリストはメキシコ中銀のフォワードガイダンスがややハト派に傾いたと指摘。中銀は前回6月の会合で「次の政策決定で政策委員会は政策金利の引き上げを継続する意向で、必要なら同様の峡谷策を取ることを検討する」としていました。
5.当面景気は底堅い動きか
米国では連邦準備理事会(FRB)が、引き続き金融引き締めの姿勢を取っており、4回連続で+0.75%の利上げを実施。メキシコでもインフレ率が高止まりしており、メキシコ中銀も引き続きタカ派的姿勢を維持するとみられています。
メキシコでは7-9月期GDPが前年同期比+4.2%と、4四半期連続プラスで推移して、底入れ感を強めています。実質GDPの水準はコロナ禍が及ぶ前の2020年1-3月期を上回りました。米国経済の好調が景気を押し上げています。
米国経済の好調により、米国からメキシコへの送金も堅調。只、先行きについては、米FRBが物価抑制を優先する姿勢を堅持しており、「何らかの痛み」を甘受する方針。米国の景気が悪化すれば、メキシコの米国への輸出減速、米国からの送金の下押し圧力となることも考えられます。
6. 為替と株価
ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、20年11月以降、対ドルで上昇傾向(図表1参照)。ロシアによるウクライナ侵攻などにより、原油など資源価格が上昇し、ペソにとっては追い風となっています。まら、米FRBの利上げの動きが強まっているものの、メキシコ中銀が追随して利上げの姿勢を示していることも、ペソの下支えとなっています。
同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、20年3月には新型コロナ・ウィルス感染拡大により大幅下落。その後は米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和、原油等商品市場の高騰もあり、株価は大幅反発。22年4月頃迄は堅調に推移。
その後は米FRBによる利上げ開始、米国およびメキシコ国内でのインフレ懸念の高まりなどで、株価は軟調な動きとなりました。直近では、9月末から株価は反発。
メキシコ国内では、インフレ懸念の高まり、景気の先行き不透明感の高まりがあり、スタグフレーションの懸念もあります。中銀は今後も米FRBに追随して利上げを継続して行くと予想され余す。中銀には米FRBに追随する余力があるとの見方もあります。
為替市場および株式市場は、当面、米国の金融政策、物価、雇用環境を睨みながら動いていくものと予想されます。米国の景気減速が鮮明になれば、メキシコ経済も影響を受けるものと予想されます。
おはようございます。ロシア経済が長期的に停滞する可能性が高まって来ました。
1. 4-6月期成長率は3.5%に鈍化
ロシア連邦統計局は8月12日、4-6月期GDP(国内総生産、速報値)が前年同期比▲4.0%になったと発表。マイナス成長は、新型コロナ・ウィルスの影響などで落ち込んだ21年1-3月期入り、5四半期ぶりにマイナス成長に転落。
ブルームバーグ・エコノミクスによると、今回のGDPの縮小を考慮すると、ロシアの経済は今や、2018年とほぼ同じ規模に相当。
ロシア担当エコノミスト・新久サンダー・イサコフ宇井は「経済は4年分の成長を失い、第2四半期に18年規模に戻る。金融緩和に支えられ、10-12月期にかけ縮小ペースが鈍ると予想。只、欧州のエネルギー禁輸で輸出が抑制されることになり、23年も▲2%のマイナス成長になるだろう」としました。
2. インフレ率が減速
国家統計局から10月7日発表された9月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+13.7%と、伸び率は前月の+14.3%から減速(図表2参照)。市場予想の+13.6%から上振れ。
3. 金利据え置き
一方、ロシア中央銀行は10月28日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも7.50%に据え置くことを決定。市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、金利を据え置いたことについて、「足下のインフレ率の伸び率は依然として低く、更に鈍化している」として、「(ウクライナ戦争に伴う予備役兵30万人の)部分的な動員が消費需要の鈍化とインフレ抑制に繋がる」として、インフレが改善方向にあることを強調。
今回の会合後に発表した中期経済予測によると、インフレ見通しについては、「金融政策の姿勢を考えると、22年末時点で+12-13%、23年末時点では+5-8%に減速するとしました。24年には物価目標の+4%に収束して、その後は+4%で推移するとしました。
4. 短期的には小康状態
中銀は先行きのインフレ見通しについて、「今年末時点で+12〜13%になる」として、9月時手(+11〜12%)から下方修正。「来年は+5〜7%になる」と見通しを据え置きました。
一方、景気動向について「足下の景気動向は想定よりも改善している」としつつ「生産及びサプライチェーンを巡る問題に加え、部分動員令の発令は労働市場の制約要因となっている」として、「今年の経済成長率は▲3.5〜▲3.0%、来年も▲4.0〜1.0%にとどまるが、再来年以降は+1.5〜2.5%に転じる」との見通しを示唆しました。
5. 長期的に低迷か
只、部分動員、若者を中心とする男性の国外への避難により、今後労働力が不足する可能性があります。また、米欧による経済制裁により、半導体など戦略商品の輸入に支障を来しています。軍事物質の生産ができないだけでなく、自動車など戦略商品の生産が今後困難になってくると予想されます。米マクドナルドなど外国企業の撤退も相次いでおり、国際的な孤立が深まると予想されます。
7. 為替
ここで、ロシアの為替の動きを見ましょう。ロシアの通貨であるロシア・ルーブルは、1月以降、対ドルで大幅に下落(図表4参照)。1月31日の1ドル=78.10ルーブルから3月9日には同130.00ルーブルへと下落。下落率は▲66.4%に達しました。ウクライナ情勢などをめぐる、上記の地政学的リスクが影響していると考えられます。
その後は中銀の介入などにより、ルーブルは対ドルでお幅反発。11月2日には1ドル=64.13ルーブル近辺迄反発しています。
8. リスク要因
リスク要因としては、欧米とのウクライナをめぐる対立により、天然ガスあるいは原油の輸出が大幅に減少する恐れがあります。輸出額に占める天然ガスと原油の比率は約6割に上っており、エネルギー産業が大きな打撃を受ける恐れがあります。
さらに、インフレ懸念が挙げられます。ルーブル相場の安定もあり、9月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+13.7%と、伸び率は前月の+14.3%から減速しました。今後、ルーブルの動向次第では、再びインフレ率が加速する可能性があります。
原油、天然ガスなど資源価格はウクライナの混乱もあり、急上昇したものの、その後一服。米欧はロシア産の原油価格に上限を設ける動きを見せています。ロシア国内には資源を除いて産業が育っておらず、自動車など製造業の発達も遅れています。長期的には単なる中国の衛星国になるとの予想もあります。
おはようございます。メキシコ経済に厳しさが増しています。
1. CPI上昇率はほぼ横這い
メキシコ国立地理情報研究所は10月7日に、メキシコの5月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+8.7%になったと発表(図表1参照)。上昇率は前月の同+8.7%から横這い。市場予想の+8.75%とほぼ一致。
2. 4-6月期GDPは+2.0%に加速
メキシコ統計局は8月25日に、4-6月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+2.0%になったと発表(確定値、図表2参照)。前期(1-3月期)の+1.6%から加速。自動車の生産台数が回復。只、米経済の減速により、先行きの不透明感が増しています。
22年1-3月期は前期比年率では+0.1%。4-6月期には分野別で、脳病や石油など第1次産業、製造業や工業など第2次産業、金融・サービス業など第3次産業が全て前期比+0.9%。
自動車の輸出額は22年1-6月期に782億9920万ドル(約10兆7000億円)と、前年同期比+11.5%。1-7月の自動車生産台数は、前年同期比+4.8%の約192万台。足下では、半導体不足が解消しつつあり、主な輸出先である米国の堅調な需要を背景として輸出が増加。
只、先行きには不透明感があります。米商務省が発表した4-6月期GDP改定値は、前期比年率換算▲0.6%。米国はメキシコの輸出の約8割を占める最大の貿易相手先。米経済の減速が続くと、メキシコ経済も打撃を受ける可能性があります。
3. 政策金利を引き上げ
メキシコ銀行(中央銀行)は9月29日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.75%ポイント引き上げて9.25%にすることを決定(図表3参照)。利上げは11会合連続で市場の予想通り。米連邦準備理事会(FRB)による金融引き締めを受け、3会合連続となる+0.75%の利上げとなりました。
5人の委員が全員一致で+0.75%ポイントの利上げを支持。メキシコ大手銀行バノルテなど複数の金融機関は事前に発表したレポートで+0.75%ポイントの利上げを予想。メキシコ中銀は29日の声明で、「インフレを引き起こす要因の大きさと複雑さを考慮した」とし、ロシアのウクライナ侵攻による食料やエネルギー価格上昇を利上げ系座奥の理由として挙げました。
この文言について、アナリストはメキシコ中銀のフォワードガイダンスがややハト派に傾いたと指摘。中銀は前回6月の会合で「次の政策決定で政策委員会は政策金利の引き上げを継続する意向で、必要なら同様の峡谷策を取ることを検討する」としていました。
5. スタグフレーションの懸念も
米国では連邦準備理事会(FRB)が、引き続き金融引き締め姿勢を維持すると予想されています。メキシコ国内でも米国と同様、インフレ率が高止まりしており、メキシコ中銀もタカ派的姿勢を維持せざるを得ない状況。政策金利を一段と引き上げるものと予想されます。
昨年後半以降の資金流出を反映して外貨準備は減少の動きを強めているものの、足下の水準は国際通貨基金(IMF)が国際金融市場の動揺への耐性の基準として示唆する適正水準に照らすと、「適正水準(100-150%)」の範囲内にあるなど、危機的状況に陥る可能性は低いとみられます。
只、米FRBが物価抑制を優先して大幅利上げを継続すれば、米国経済への依存度が高いメキシコ経済にも影響が及ぶ恐れがあります。景気減速と物価上昇が併存するスタグフレーションの懸念も高まっています。
メキシコ中銀としては独自の政策を行うことは難しく、同国経済を取り巻く環境は、急速に厳しさを増しており、中銀の政策運営の余地は狭まっています。
6. 為替と株価
ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、20年11月以降、対ドルで上昇傾向(図表1参照)。ロシアによるウクライナ侵攻などにより、原油など資源価格が上昇し、ペソにとっては追い風となっています。まら、米FRBの利上げの動きが強まっているものの、メキシコ中銀が追随して利上げの姿勢を示していることも、ペソの下支えとなっています。
同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、20年3月には新型コロナ・ウィルス感染拡大により大幅下落。その後は米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和、原油等商品市場の高騰もあり、株価は大幅反発。22年4月頃迄は堅調に推移。
その後は米FRBによる利上げ開始、米国およびメキシコ国内でのインフレ懸念の高まりなどで、株価は軟調な動きとなりました。
メキシコ国内では、インフレ懸念の高まり、景気の先行き不透明感の高まりがあり、スタグフレーションの懸念もあります。中銀は今後も米FRBに追随して利上げを継続する可能性が高く、株価の上値が重くなることも想定されます。
おはようございます。インドネシア景気の不透明感高まって来ました。
1. 7月CPI上昇率は加速
インドネシア中央統計局は10月3日に、9月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+5.95%になったと発表(図表1参照)。市場予想の+6.0%から下振れし、前月の+4.69%から大幅加速。
2. 政策金利を引き上げ
一方、インドネシア中央銀行は9月22日の理事会で、政策金利であるBIレートを+0.50%ポイント引き上げて4.25%にすると発表。市場では概ね+0.25%の引き上げを予想していたため、予想外の大幅引き上げ。今回の+0.50%ポイント引き上げは、18年半ば以来約4年ぶり。
同行は会合後に発表した声明文で、前回会合時と同様「今回の利上げ決定はインフレ期待を抑制し、コアインフレ率を23年後半に物価目標である+2〜4%に終息させるための専制的かつ前向きな措置だ。同時に、国内需要が強まる中、世界の金融市場の不確実性が高まっていることを受けて、経済のファンダメンタルズを反映するよう、通貨ルピア相場の安定化を強化する」としました。
急速なドル高を受けて、新広告の通貨が下落する中、同国も利上げで、自国通貨を高めに誘導して、インフレを抑制する戦略を継続する意図を示唆。
3. 4-6期GDP+5.44%に加速
インドネシア中央統計局(BPS)は8月5日に、4-6月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+5.44%であると発表(図表3参照)。今年第1四半期の同+5.01%から伸び率が加速。資源高を受けて輸出が堅調。5四半期連続のプラス成長で、新型コロナ・ウイルス禍から力強く回復。
GDPの約5割を占める家計消費は、前年同期比+5.51%、同様に約3割を占める投資は+3.07%。輸出は+19.74%。2月下旬のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、世界的に資源の需給が逼迫しており、石炭やパーム油など、主要輸出品目が伸びました。
4. 景気の不透明感強まる
中銀は従来、ルピア相場について周辺諸国と比較して調整圧力が緩やかとする見解を示唆してきましたが、その背後では為替介入を行っているとみられます。貿易収支が黒字を維持しているにも関わらず、昨年後半以降、外貨準備高が減少しています。
国際通貨基金(IMF)は、国際金融市場への耐性を表す適正水準評価(Assessing Reserve Adequacy)に照らすと、適正水準を下回るとしており、為替市場への耐性の低下も見られます。
中銀のペリー総裁は従来、ルピア相場の安定に自信を見せています。その背後で、着実に同国の経済変動への体力が低下しており、金融市場がこうした問題に注目する可能性があります。
今後は中銀が、物価および為替の安定のために一段とタカ派的態度を取る可能性があります。物価高、金利高により、景気の牽引役である家計消費など内需の勢いがそがれることも懸念されます。景気の先行きに対する不透明感が高まってくる可能性に留意する必要があります。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表4参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻す展開。21年後半以降は対ドルで下落に転じて、21年末から22年9月末では、▲7.32%の下落。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻す展開。その後も堅調に推移しており、21年末と22年10月末との比較では、+7.5%の小幅上昇。
6. リスク要因
ロシアによるウクライナ侵攻などにより、資源価格が幅広く上昇。同国においても、インフレ圧力が高まっており、家計消費を中心とする堅調な内需が、インフレ圧力を強める懸念があります。
そうなると、堅調な内需が輸入を押し上げるなど、対外収支を悪化させる可能性があります。経常収支、財政収支の悪化により、資金流出に見舞われることも考えられます。それに伴い通貨ルピアに対する下落圧力が強まり、輸入物価の上昇、インフレ率の上昇に繋がる恐れもあります。
米国では消費者物価指数(CPI)上昇率が高止まりしています。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、大幅利上げを続行する構え。米国の利上げにより、インドネシア中銀も通貨防衛の観点から引き続き利上げを迫られる可能性が高くなっています。インドネシアは今後、通貨下落、物価上昇、金利上昇に見舞われる可能性が高く、景気の不透明感が高まっています。
おはようございます。前回は課題とリスクについて考察しました。今回は少子高齢化の進展などを見ていきましょう。
1. 少子高齢化が進展
中国は日本を抜いて世界第2位の経済大国になりましたが、その原動力の1つは豊富な労働食です。農村から都市部に人口が移動して、農村に戸籍を持ついわゆる「民工」が中心となって重工業の発展に寄与しました。安価の労働力を求めて、外国資本もこぞって中国に工場を作り、中国はまさに「世界の工場」となりました。
ところが、所得水準が向上して人件費が上がり、少子高齢化の進展により安価な労働量が減ってくると、外交資本も向上を中国内陸部に移すだけでは対応しきれなくなり、ベトナム、南アジア諸国など別の国・地域に安価な労働力を求めるようになりました。
中国国家統計局のデータによると、2016年以降総人口の増加幅が急激に縮小しており、一部の推計ではすでに総人口が減少を始めたとの見方もあります。
また、年代別の比率を見ると、2021年において65歳以上の人口は既に全体の14.2%を占めており、日本など先進国を追いかける形で、急速に少子高齢化が進んでいます(図表2参照)。中国の東北地方など農村では若者が地元を離れて、産業の空洞化が進展しています。日本でみられた高度成長期、その後の地方の衰退の構図が中国でも見られます。
特に、今後は15-59歳のいわゆる「労働人口」も減少に転じてくるとみられます。生産人口の減少により、アウトプット、即ち生産が減少し、消費も停滞してくると予想されます。
これまで、中国経済を牽引してきたのは固定資産投資と輸出。輸出については既に対米関係の悪化などにより、これまでに高い伸びが期待できなくなっています。固定資産投資については、人口の増加を前提として鉄道、道路、空港、港湾などの建設を行ってきています。地方政府は特にインフラ整備を財源としており、固定資産投資の停滞により、地方政府、民間企業の負債の高止まりも問題となっています。
今後さらに固定資産投資を拡大すれば、需給ギャップが拡大して、景気のマイナス要因となります。人口減少により、今後は需要の減少に直面することとなります。
中国では一人っ子政策を廃止して、二人目、更に三人目も許可する政策に転換しました。只、塾など教育費の高騰、都市部におけるマンション価格の高騰により、二人目をあきらめるカップルも多く、結婚そのものにも否定的な若者が増大しています。
成長率が低下して、コロナ禍により先行きに不透明感が強まっています。若者の間では、進学、就職、結婚などに否定的な「寝そべり族」も増加。将来に希望を持てない若者が増えており、出生率の低下が進展すると予想されます。
2. 中間層の動きに注目
中国では所得水準が上がり、海外資本にとっては安い労働力という魅力は殆どなくなりましたが、消費財の市場としては、アパレル、小売、自動車産業などにとって無視できない巨大な市場となっています。すでに自動車の生産、消費は世界一となっていますが、特に中間層の動きが注目されます。
高度経済成長なほぼ終息しつつあるものの、4億人といわれる中間層の人たちが、どの程度消費を拡大していくか、それによって内需が成長を支える構図になるかどうかが問題となります。豊かな生活を放棄して昔に戻りたいかと言われれば、家や車を持ち、海外旅行を享受している中間層にとっては、豊かな生活の持続を望む可能性が高いといえます。
今後コロナが終息してくれば、再び彼らが、日本などへの海外旅行を再開し、欧米のブランド品などにも関心を高める可能性があります。
3. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表3の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落。
米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、米中貿易摩擦の影響、当局による介入などにより、為替市場は乱高下しました。20年に入り大幅に上昇し、その後急落。その後も下落傾向で、22年9月末現在では、2021年12月末との比較で▲11.97%の大幅下落。
株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。
18年に入ると下落に転じ、18年12月末には24930ポイントまで下落し、その後は回復基調。22年9月末には21年12月末と比較して▲16.90%の下落。
4. 当面の注目点は米中関係、不動産市況
当面の注目点としては、米中関係が回復するかどうか、ということがあります。米バイデン政権は、トランプ前政権と同様中国に厳しい姿勢をとるものの、二酸化酸素削減などでは、共同歩調を探る姿勢も見せています。
ウクライナ情勢を巡っては、中国がロシア寄りの姿勢を国連などで示しています。バイデン政権は中国がロシアに対して武器援助など行わないよう要求。中国はロシアをウクライナの和平の仲介の用意があるとの姿勢を示しているものの、具体
的な行動に移していません。
ペロシ下院議長の台湾訪問を契機として、米中の緊張が高まっています。ペロシ議長の訪問への対抗のため、中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を実施。その後、米国の有力議員の台湾訪問が相次いだこともあり、中国と米バイデン政権との間の緊張が高まっています。
そのほかのリスク要因として、上記の通り不動産市場の低迷、新型コロナの感染拡大による都市の閉鎖(ロックダウン)、またそれによる工場などの操業率の低下があります。
ロシアによるウクライナ侵攻の影響などにより、原油、天然ガスなど資源価格が高騰。資源輸入国である中国にとっては、輸入物価上昇、ひいては生産者物価指数(PPI)、消費者物価指数(CPI)上昇に繋がる恐れがあります。
中国共産党は2022年、+5.5%前後の国内総生産(GDP)成長率を実現する目標を掲げています。只、足下の状況を見ると、新型コロナ感染拡大による上海など主要都市の機能低下もあり、実現はかなり難しいと思われます。
おはようございます。前回は政治の現状について考察しました。今回は課題とリスクについて。
1. 国進民退を是正できるか
中国は?小平氏が改革開放を推進し、政経分離を進めて、世界第2位の経済大国になりました。習近平政権となり、逆に政治の主導色を強めた結果、国有企業が勢いを取り戻し、民間企業が衰退するという「国進民退」の状態に陥りました。
嘗ては世界の株式時価総額上位10位にアリババ、テンセントというIT企業が2社入っていましたが、IT企業を中心として株価が急落。従来は国有企業の民営化を推進してきましたが、いつの間にか国有企業が中国経済の中心となっています。
1980年代以前の政治至上主義に復帰するのか、それとも「改革・開放」路線に戻るのか、中国共産党は10月16日に、第20回全国代表大会(20大)を開催する予定。今後の経済政策も発表されるとみられますが、習政権の方針転換はないものとみられます。
2. 負債の増大
2つ目の問題として、負債が急速に生みあがっていることがあります。高度成長が続く限りは問題視されませんが、一旦成長が止まると、深刻な問題となる可能性があります。負債残高と名目GDP比を見ると、成長に伴い負債が着実に増大しています。
政府部門の債務のGDPはまだ50%を超えた程度であり、直ちに問題になるというほどではありません。今後は中国でも少子高齢化が進展して、社会保障費の増大、それに伴い政府部門の債務が膨張していくと予想されます。
政府部門よりも深刻なのが企業部門と家計部門の債務。企業部門の負債のGDP比は、2000年代半ばから上昇。日本のバブル期の比率をすでに上回っており、持続可能性に疑問があります。
次に家計部門を見ると、同様に2000年代半ばから急激に拡大。すでに日本の水準に追いつきつつあり、住宅ローンが拡大しています。今後、不動産バブルが崩壊する可能性があり、家計部の債務の不良債権化が問題となってくると予想されます。+
3. 不動産市況が悪化
北京、上海など主要都市のマンション価格は年収の何十倍にも高騰しており、若者が購入するのは困難な水準となっています。現金だけで買う若者は殆どおらず、住宅ローンを組むわけですが、収入の減少に伴い、ローンの返済に苦しむ家庭が続出。また、マンションが工事途中で止まり、完成しないことから、住宅ローンの支払い拒絶も増加。住宅ローンが不良債権化しつつあります。
一方、国家統計局が9月15日発表した2022年8月の主要70都市の新築住宅価格動向によると、8月の新築住宅価格は前月比▲0.29%。7月は▲0.11%。12か月連続で値下がり。政府が不動産市場を支援する姿勢を強化しているものの、市況回復にはかなり時間がかかることを示唆。
中国の2兆4000億ドル(約344兆円)規模の新築中額市場には、回復の兆しが殆ど見られず、同国の経済成長の一段のマイナス要因となっています。この日公表されたほかの指標によると、1-8月の住宅販売は前年同月比▲30%となり、不動産投資は▲7%あまり縮小。
地方政府はこの数週間、不動産需要の喚起策を相次いで打ち出しました。習近平総書記率いる共産党中央政治局が地方政府に対して、不動産市場を安定させるよう求めたことを受けて、中国各地で地方政府が少なくとも70の不動産規制緩和措置を決定しました。
4. 固定資産投資主導型モデルの行き詰まり
中国ではGDPに占める消費の比率が低く、輸出と固定資産投資が成長を牽引してきました。トランプ政権の登場などもあり、輸出主導の成長が難しくなっています。固定資産投資についても、地方政府による投資が主導し、鉄道、空港、港湾などのインフラ整備、また民間企業のマンション建設などが成長を主導してきました。
中国では不動産大手の経営が急速に悪化。不動産開発大手の恒大集団は、昨年12月9日に、大手格付け会社のフィッチから「一部債務不履行」に陥ったと宣言されました。同社の債務規模は約3000億ドルと世界最大規模。「第2のリーマンショック」になるのではないかとの観測もあり、注目を集めました。
不動産市況の悪化、不動産大手の経営の行き詰まり、地方政府の債務拡大などにより、固定資産投資主導のモデルは今後成り立たないと予想されます。不動産市況の低迷という点からも、今後の中国経済の成長率の低迷が予想されます。
おはようございます。前回は中国経済の現状について考察しました。今回は政治と経済の関係を見ましょう。
1. 政治至上から政経分離へ
中国は建国以来、毛沢東が主導して、政治至上の状態が続きました。ソ連との対立、冷戦、鎖国を通じて経済は停滞。文化大革命により多数の死者が発生するなど、経済の面では低迷が続きました。1976年頃迄このような状態が続き、海外との貿易も香港を通じて行うのみで、外国、特に西側との交流が殆どない状態。海外からの技術の導入が遅れました。
1980年代に入ると、?小平氏が改革開放を推進。?小平氏は「黒い猫でも白い猫でも鼠を捕るのだが良い猫だ」として、60年代から改革開放を唱えました。経済の発展と生産力の開放のためには、どのような形式も許容されるとして、特区を通じて貿易と生産の拡大を目指しました。1980年代のおわりにかけて、経済特区の設置、外資の導入が進展。政治の面では共産主義を維持するものの、経済の面では実質的に資本主義となり、政経分離が進みました。
1980年代以降には、日本企業などが多数中国に進出。日本の経団連の稲山会長も、中国の鉄鋼業の発展に尽力。その後、中国の鉄鋼産業の実力が向上し、安い製品が世界に出回り、日本の鉄鋼業は打撃を受けることとなりました。1980年代には鉄鋼、化学などいわゆる重厚長大産業が中心であったものの、その後は自動車産業も躍進。中国はその後、世界一の自動車の生産、消費台数を誇ることとなりました。
2. 政経分離から政治中心へ
2010年以降には、この流れに大きな変化が生じました。中国が世界第2位の経済大国になったため、米欧を中心として中国に対する警戒感が高まりました。特に米トランプ政権は、中国に対する関税を大幅に引き上げ、ハイテク分野における技術流出を警戒。
中国は2001年に国連の世界貿易機構(WTO)に加盟。米欧など西側諸国は、中国がWTOに加盟することにより、公正な貿易を推進することを期待。実際には中国は特定分野に多額の補助金を出すなど、西側との軋轢が高まりました。
さらに中国国内では、民進国退ではなく国進民退が進みました。即ち、1980年代以降は国有企業の民営化、香港やNY市場への上場が進められてきたものの、2000年以降は、逆に国有企業の存在が増してきました。
3. 中国ハイテク企業の株価が低迷
政治の力が増したことにより、アリババ、テンセントなど中国を代表するITなどハイテク企業の株価が低迷。アリババを巡っては、創業者のジャック・マー氏と中国の当局とが対立。アリババの金融子会社のアントの上場を巡る対立などにより、マー氏は退任。その後、アリババの株価も大きく下落することとなりました。
IT企業だけでなく、民間企業への介入を強化。中国では教育費が高騰していることから、貧富の格差が拡大。政府は塾の料金の引き下げに動き、教育関係の民間企業が打撃を受けることとなりました。また、ゲームについても規制を強化し、ゲーム関連企業の株価が大きく下落することとなりました。
4. 共同富裕を推進
1980年代以降、中国経済は大きく発展し、世界の時価総額上位に、アリババ、テンセントの2社が入っていた時期もありました。只、国民総生産(GDP)は総額をしては世界2位に上昇したものの、国内の格差が拡大。特に農村部、或いは都市部の出稼ぎである「民工」は取り残されることとなりました。
所得の格差が拡大しただけでなく、医療、就職、教育などあらゆる面で分断化が深刻になりました。沿海部と内陸部、大都市と小規模都市などの間で格差が拡大。特に大都市ではマンションなど住宅価格が高騰。更に、都市部では高度な教育、出世、結婚などをあきらめる「寝そべり族」の発生も問題視されるに至りました。
社会的格差の拡大を受けて、習近平政権は「共同富裕」を推進。民間企業への介入、国有企業の強化を行うなど、市場原理を一部否定する動きを見せています。中国企業のNY市場からの撤退を相次いでおり、上記のようなIT企業の株価の低迷にもつながっています。
おはようございます。中国経済の課題を見ましょう。まずは、最近の経済指標から。
1. 鉱工業生産の伸び率予想上回る
8月の鉱工業生産などの指標を見ておきましょう。中国国家統計局が15日発表した統計によると、8月の鉱工業生産は前年同月比+3.8%と、7月の+3.8%から加速。市場予想の+3.8%から上振れ。厳格な新型コロナ・ウィルス関連規制の影響かで、予想外の強さを示唆。只、先に発表されている貿易や与信のデータは弱く、好調は続かないと予想されています。
そのうえで、「総需要を支える財政政策が恒久的になる可能性がインフレ上振れリスクを高める」としています。
2. 8月小売売上高は加速
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、87月の小売売上高は前年同期比+5.4%と、前月の+2.7%から加速(図表2参照)。市場予想+3.5%から上振れ。2月以来の高水準。
自動車産業は工業生産と小売り売上高の両方を牽引。新エネルギー車の生産は、政府の販売奨励策に支えられて、+117%。
3. 1-8月固定資産投資加速
他方、国家統計局による同日発表の1-8月の固定資産投資は、前年同期比+5.8%。1-7月の+5.7%から加速(図表3参照)。予想の+5.5%から上振れ。
国家統計局の報道官は8月の統計について、政策支援が走行し回復したと述べましたが、回復は脆弱で、外部環境は引き続き複雑であると指摘。世界的な景気後退のリスクと、中国のコロナ抑制を巡る課題を挙げました。
債務問題を抱える不動産セクターは低迷が継続。1-8月の不動産投資は前年比▲7.4%と、1-7月の同▲6.4%から減少ペースが加速。8月の新築住宅価格は前月比▲0.3%で、21年11月以来の大幅下落。前年比でも15年8月以来最大となる▲1.3%。
4. 4-6月期GDP+0.4%
次に、4-6月期のGDP成長率を見ましょう。中国の国家統計局は7月15日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+0.4%と発表(図表1参照)。市場予想の+1.0%を下回り、今年1-3月期の+4.8%から急減速。新型コロナ・ウィルス拡大を受けた上海などでのロックダウン(都市封鎖)による行動規制で、工場などの操業率が低下。ウクライナ情勢による資源高もあり、3月の生産や消費が伸び悩みました。
この伸び率は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大を受けて、武漢で行われたおととし1-3月期以来の低さで、四半期ごとの統計が公表されている1992年以来で2番目に低い水準。
外出制限は2か月余り続き、工場の操業停止、物流の混乱も招きました。更に、飲食店の営業が規制されるなど、各地で感染対策が強化されたことで、個人消費が冷え込み、不動産業の市況も悪化。
5. 今後も低迷の可能性
先月、上海での外出規制が解除され、生産や輸出は回復傾向にあるものの、一部の都市では再び感染が拡大していて、今後の経済動向を懸念する見方もあります。
中国国家統計局の付報道官は会見で、「国内で感染拡大が多発したことなど、予想を超える突発的な要素が齎した深刻な打撃で、経済に対する下押しの圧力が明らかに増大した」としました。
今後の見通しについて「一部の地区は感染拡大で一時的に困難に直面したが、各種の経済政策の効果で景気回復は加速している」としました。
6. 構造的な転換が進展か
4−6月期GDP成長率の低迷については上記の通り、上海など主要都市におけるロックダウン(都市封鎖)により、人の流れ、また生産が制限されたことなどがあります。また、世界的に資源価格が上昇し、物価が上昇、米国などの景気の先行きに不透明感が増していることなども影響しています。
只、中国固有の要因として、少子高齢化の進展、年金など社会福祉の遅れと将来への不安、政治主導の高まりによる民間企業の萎縮などが中長期的に問題となっています。次回は構造的な転換について、考察する予定です。
おはようございます。ブラジル経済がやや持ち直しています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行8月3日の金融政策委員会で、政策金利を+0.50%ポイント引き上げて、13.75%にすることを全員一致で決定(図表1参照)。引き上げは市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利上げについて「インフレ見通しに対するリスクは上振れ・下振れ両リスクがある。コモディティ(国際商品)市況が部分的にでも元に戻る、また、予想以上の景気減速により、インフレ率が低下するリスクがある一方、世界的なインフレ圧力上昇の長期化や将来の財政見通しの不確実性(財政肥大化)と追加財政刺激策によるソブリン債のリスクプレミアム上昇(財政肥大化)によるインフレ上振れリスクがある」としました。
そのうえで、「総需要を支える財政政策が恒久的になる可能性がインフレ上振れリスクを高める」としています。
2. インフレ率が減速
一方、ブラジル地理統計院は9月9日に、7月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。8月のIPCAは前年同月比+8.73%と、前月の同+10.07%から減速(図表2参照)。市場予想の+8.72%にほぼ一致。21年6月以来の低い水準。
輸送が同+7.62%(前月は同+12.99%)、食品・非アルコール飲料が+13.43%(同+14.72)、家賃+3.83%(同+4.43%)などと軟化。
3. 4-6月期GDPは+3.2%に加速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は9月1日に、4-6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+3.2%であったと発表(図表3参照)。1-3月期の同+1.7%から加速。ボスソナロ政権が実施した現金給付策の拡充や現在策で、家計消費が堅調に推移。最も消費の先食いとの見方も多く、先行き懸念はむしろ高まっています。
景気の牽引役は家計消費で、同5.3%。全国商業連合によると、8月の世帯消費意欲指数は82.1と、20年4月の95.6以来の水準。インフレは依然として深刻である者の、5-7月期の失業率は9.1%と、2-4月期の10.5%から低下。
只、堅調消費はコロナ禍による反動という側面もあります。政府による現金給付策の拡大や現在により支えられている部部門大きくなっています。自動車や家電製品など耐久消費財の需要を先取りしている面もあり、今後の持続性には懸念もあります。
4. 大統領選でルラ氏先行
一方、2日投開票の大統領選までは残り約1か月となり、元大統領のルラ氏(76)が先行、現職のボルソナロ氏(67)が追う展開。ブラジル経済が世界的な物価上昇の波に襲われる中、両氏ともに投票の鍵となる貧困層へのばらまき政策を強めつつあります。
現職のボルソナロ氏は、就任後コロナ・ウィルスと「ただの風邪」として軽視。世界で2番目に多い68万人以上の死者を出しました。環境保全よりも開発を重視して、アマゾンの森林を破壊しているとして、国際的な非難を浴びてきました。
更に、世界的な資源価格上昇などにより、インフレ率が急上昇。7月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)は前年同月比+10.07%と、前月の同+11.89%から減速(図表2参照)。市場予想の+10.1%にほぼ一致。只、依然として高水準にあります。
苦境に立たされたボルソナロは、家族1人当たりの月収210レアル(約1.6万円)以下の低所得者向けの給付金を月400レアルから600レアルに増額する景気刺激策を可決。
景気刺激策により景気が持ち直すにつれ支持率が上昇。5月にルラ氏と21%ポイントの差が、最新の世論貯砂では13%ポイントまで縮小。在任中にやはり低所得者への給付を手厚くしたルラ氏も、同様の貧困層向けの対策を発表して対抗しています。
5. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年12月末には同5.571レアルに下落 (図表4参照)。昨年12月末から今年8月末迄では+6.%の反発。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、21年5月末には126,216ポイントに回復。
22年に入ってからは小動き。昨年12月末比で、22年8月末には+4.48%の小幅上昇。
6. 今後の景気に不透明感
大統領選を控えて、現職のボルソナロ政権が一段と財政支援の動きを強める可能性もあります。同政権はコロナ禍対策により、度重なる財政支援を行っており、すでに公的債務は大きく膨張しており、財政悪化に繋がる歳出拡大の余地は限定的であると考えられます。
米国、欧州などでは、依然としてCPI上昇率が高止まりしており、米連邦準備理事会(FRB)が引き続き大幅な金利引き上げを続けると予想されます。米国の金利上昇により、ブラジル国内からの資金の流出の可能性もあります。
今年の通年の成長率は昨年の+4.6%を下回ると予想されるものの、比較的底堅く推移すると思われます。只、先行きについては下押し材料が多く、景気の不透明感が強まっています。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。このところ、米国では長期金利が上昇し、FRBによる利上げの動向が注目されます。
おはようございます。インドの4-6月期GDPは前年同期比+13.5%と好調。只、先行きには懸念もあります。
1. 消費者物価指数上昇率が減速
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が8月12日発表した7月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.71%(図表1参照)。前月の+7.01%から加速。市場予想の+6.78%から下振れ。
2.4-6月期成長率+13.5%に加速
続いて、インド統計局が8月31日に発表した4-6月期成長率は、前年同期比+13.5%(図表2参照)。前期の+3.1から加速。7四半期連続のプラス成長。新型コロナ・ウイルスの変異種「オミクロン」の感染拡大が終息し、製造業や電力が堅調。
外需の堅調さに加えて、行動制限緩和による消費マインド向上により、家計消費や内需が押し上げられました。すべての分野で生産拡大が確認されるなど、足下のインド経済は、コロナ禍による影響を完全に克服したといえます。
3. 政策金利を引き上げ
他方、インド準備銀行(中央銀行)は8月5日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを+0.5%ポイント引き上げて5.40%にすることを全員一致で決定(図表3参照)。前回に続いて3会合連続で利上げ。利上げは市場の予想通り。
追加利上げを決定してことについて、ジャクティカ・ダス総裁は声明文で、「インフレ率は4月の急上昇から一服したものの、依然として不快なほど高く、物価目標のレンジ(+2-6%)の上限を上回っている。インフレ圧力は広範囲に及んでおり、コアインフレ率は高水準にとどまっている」としました。
4. 先行きに懸念
只、世界経済を巡る不透明感の高まりにより、外需の先行きには不透明感があります。更に、足下の家計消費はコロナの感染一服を受けた行動制限解除などにより、消費マインドが高まれているものの、今後はこの傾向の一巡が予想されます。物価上昇と金利上昇により、購買力の低下が懸念されます。
米連邦準備理事会(FRB)による利上げにより、世界的に金利引き上げの動きが続いています。FRBの利上げにより通貨ルピーに下押し圧力がかかり、インド中銀が更なる利上げに動くことも予想されます。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)。2022年12月末と2022年8月末との比較では、▲7.02%の大幅下落。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、20年末の58,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。21年10月には59306ポイント迄上昇。22年12月末と22年8月末との比較では、+0.9%の小幅上昇。
6. 課題とリスク
インドの外貨準備高は国際通貨基金(IMF)が示唆する国際金融市場の動揺への耐性の有無の基準である適正水準評価からみると、外貨不足に陥るリスクは低いといえます。只、ルピーに対する売り圧力に高まりにより、昨年末以降、外貨準備高は減少しつつあります。
一方、海外における物価上昇、金利引き上げなどにより、中銀が金融緩和に動くことは難しく、財政出動の必要性が高まる可能性があります。コロナ対策を受けて過去数年の財政状況が悪化したこともあり、先行きの政策余地が狭まる可能性があります。
インドは主要な新興国の中ではこれまで相対的に景気回復が堅調であるものの、今後はインド国内の景気の下振れリスクが高まる可能性があります。
おはようございます。インドネシアでは、今後資金流出、通貨下落などの懸念が高まっています。イ
1. 7月CPI上昇率は加速イ
インドネシア中央統計局は8月1日に、7月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+4.94%になったと発表(図表1参照)。市場予想の+4.82%から上振れし、前月の+4.35%から加速。
2.政策金利を引き上げイ
一方、インドネシア中央銀行は8月23日の理事会で、政策金利であるBIレートを+0.25%ポイント引き上げて3.75%にすると発表。利上げは概ね市場の予想外。利上げは2018年11月以来。インフレに対応するため、金融引き締めを強化。イ
中銀のペリー・ワルジョ総裁はオンライン会見で、今回の利上げについて、コアインフレの上昇リスクに先手を打つともに、ルピアの安定を強化することが狙いであると説明。食品価格上昇が「非常に高く」、補助金のない燃料価格が上昇していると述べました。
3. 4-6期GDP+5.44%に加速
インドネシア中央統計局(BPS)は8月5日に、4-6月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+5.44%であると発表(図表3参照)。今年第1四半期の同+5.01%から伸び率が加速。資源高を受けて輸出が堅調。5四半期連続のプラス成長で、新型コロナ・ウイルス禍から力強く回復。
GDPの約5割を占める家計消費は、前年同期比+5.51%、同様に約3割を占める投資は+3.07%。輸出は+19.74%。2月下旬のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、世界的に資源の需給が逼迫しており、石炭やパーム油など、主要輸出品目が伸びました。
4. 資金流出、インフレ率亢進の可能性
上記の通り、コロナ禍からの回復に加えて、世界的に商品市況の底入れもあり、インドネシア国内では、生活必需品を中心としてインフレが亢進。7月のインフレ率は前年同月比+4.94%と、中銀のインフレ目標である+3±1%を上回っています。
米連邦準備理事会(FRB)は引き続き大幅利上げを行う構えであり、金利差拡大による資金流出により、通貨下落の可能性もあります。輸入物価押し上げにより、一段のインフレ率上昇の恐れがあります。
中銀はルピア相場安定に向けて、積極的な為替介入を行っているとみられ、外貨高準備は減少の傾向にあります。7月末時点では、国際通貨基金(IMF)が国際金融市場の動揺への耐性として示唆する適正水準(ARA)が適正水準を下回ると試算されるなど、耐性が低下しつつあります。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表4参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻す展開。21年末から22年8月末では、▲4.32%と下落。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻す展開。21年末と22年8月末との比較では、+9.07の小幅上昇。
6. リスク要因
8月23日の理事会の後、中銀のペリー・ワルジョ総裁はオンライン会見で、「物価安定手段としてルピア安定策を強化する」との考えを示唆。さらに「為替介入を強化する」としました。只、上述の通り外貨準備高減少により国際金融市場の動揺に対する耐性が低下しており、為替介入により耐性の更なる低下の可能性があります。
中銀は7−9月期成長率が4-6月期の前年同期比+5.44%を上回るとするなど、堅調な景気回復を期待しています。只、同国を巡るリスクが増大しており、資金流出懸念により、今後、急速な引き締めを迫られる可能性があります。
おはようございます。タイ経済は未だコロナ禍を脱することができず、回復途上にあります。
1. 4-6月期成長率+2.52%に加速
タイ国家経済社会開発庁(NESDB)は8月15日に、4-6月期の国民総生産(GDP)成長率が前年同期比+2.5%になったと発表。前期の2.3%から加速。外国人観光客の受け入れが拡大して、飲食・宿泊などのサービス業が回復。
タイの商業施設開発大手のセントラル・パタナのワンラヤー最高経営責任者は「国内で最も選ばれるホテルを目指す」と、6月の会見で述べました。同社は26年迄に国内27県で37のホテルの開業を目指しています。ショッピングセンターも好調であり、「コロナ後」を見据えて先行投資を行っています。
2. 7月CPI伸び率は鈍化
一方、タイ商業省は8月5日に、7月の消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比+7.61%であったと発表(図表2参照)。前月の同+7.66%からわずかに減速。市場予想の+7.8%から下振れ。
3. 政策金利を引き上げ
一方、タイ中央銀行は8月10日の金融政策委員会で、政策金利である翌日物レポ金利を、過去最低の0.5%から+0.25%ポイント引き上げて0.75%としました(図表3参照)。利上げは2018年12月以来約4年ぶり。経済が回復軌道に乗り、物価高への対応に舵を切りました。
+0.25%ポイント利上げは6対1で決定。1人は+0.5%ポイントの利上げを提案。景気回復に大きな影響を与えず、後で大幅な利上げが必要となるリスクを抑制できると主張。市場予想は、0.25%ポイント利上げが優勢でした。
新型コロナ・ウィルスの流行で、主力の県工業が打撃を受けたことにより、タイ経済はアジアの各地域と比較亭回復が遅れ、これまでは景気回復の支援を政策の主軸に据えてきました。コロナ感染を抑制するための各種規制が緩和されたことにより、観光業は今年に入って回復してきています。
ピティ・ディスヤタット総裁は「海外からの訪問客が予想を上回る中、景気回復の勢いは続いている」と指摘。「タイ経済は今年末までにコロナ禍前の状態に戻る見通しであり、勢いは今後も続くだろう」としました。
4. 観光は改善も、コロナ禍からの回復途上
4-6月期GDP成長率は前期比年率+2.7%と、3四半期連続でプラスを維持したものの、前期の同+4.97%から鈍化。前期比年率でも+2.5%と、前期の同+2.3%からわずかの加速にとどまっています。実質GDPの水準はコロナ禍の影響が及ぶ直前の2019年末と比較して▲1.1%下回ると試算されるなど、体系税は引き続きコロナ禍の影響をこくるくできていないと考えられます。
国境封鎖の解除に伴い、外国人観光客は底入れの動きを強めており、観光協の回復はプラス材料。只、中国の厳格な「ゼロ・コロナ」戦略がサプライチェーンの混乱を齎しており、中国人観光客の回復が遅れています。
年明け以降には変異株の感染拡大の影響が懸念されたものの、3月末を境に感染動向は改善しつつあり、行動制限が緩和されました。家計消費が大きく改善して景気を下支えしています。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると過去1年で、タイ・バーツは昨年9月から今年2月頃まではほぼ横這い。(図表4参照)。3月以降は対ドルで下落傾向。米FRBがテーパリングが大幅な金利引き上げを継続しており、新興国から資金が流出しています。
株価について見ると、代表的な株価指数の1つであるSET指数は、20年初めには大きく下落。3月27日にはSET指数は1099.76迄下落し、その後やや回復したものの、6月初旬以降再び低迷(図表5参照)。 その後は世界経済の回復、タイ国内の景気回復などにより、株価は緩やかな上昇となりました。22年に入ると、米FRBによる利上げ、世界的な景気後退懸念などにより軟調な展開。
タイの景気は回復傾向にあるものの、通貨バーツの下落による輸入物価の上昇、経常収支と財政赤字拡大などファンダメンタルズの悪化もあり、先行きに不透明感が強まっています。中国の景気減速もあり、株価はもみ合いの展開となることも予想されます。
おはようございます。世界景気に減速感が強まっています。
1. IMFが22年世界の成長率見通しを+4.4%に引き下げ
国際通貨基金(IMF)は4月19日発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、2022年の世界経済成長率見通しを+3.6%と、前回1月の予想から▲0.8%引き下げ(図表1参照)。高インフレが続く米国と新型コロナ・ウィルス感染封じ込めを優先する中国が下振れ。ロシアのウクライナ侵攻により資源高によるインフレを加速させ、インフレ抑制のための各国の利上げが経済を冷却化させると予想。戦争が長引けば負の連鎖が発生して、経済は一段と停滞する可能性があります。
世界経済成長率は、新型コロナ・ウィルスにより20年に▲3.1%のマイナス成長に陥ったものの、21年には+6.1%に回復。22年にはコロナ禍からの回復で需給の引き締まりに、戦争による資源供給懸念が加わります。結果として発生するインフレに各国の中銀が利上げで対応することが大きなリスクとなります。
そのうえで、「総需要を支える財政政策が恒久的になる可能性がインフレ上振れリスクを高める」としています。
2. 米国消費者物価指数上昇率が一服
一方、米労働省が8月10日発表した7月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.5%と、伸び率は約40年ぶりの高い伸び率となった6月の同+9.1%から鈍化。ガソリン価格が約▲20%の下落。市場予想は+8.7%でした。
前月比では横這い。市場予想は+0.2%。6月は同+1.3%。
ガソリン価格の急落により、過去2年に亘り亢進していたインフレ率が一服。只、米連邦準備理事会(FRB)が9月も大幅利上げすべきかどうか検討している中、インフレ圧力が依然として高止まりしていることも示唆。
3. 新興国で利上げの動き
米国におけるインフレ率の高まり、米FRBによる利上げ、世界的なインフレ率の高まりに呼応して、新興国では利上げの動きが強まっています。
ブラジル中央銀行8月3日の金融政策委員会で、政策金利を+0.50%ポイント引き上げて、13.75%にすることを全員一致で決定(図表3参照)。引き上げは市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利上げについて「インフレ見通しに対するリスクは上振れ・下振れ両リスクがある。コモディティ(国際商品)市況が部分的にでも元に戻る、また、予想以上の景気減速により、インフレ率が低下するリスクがある一方、世界的なインフレ圧力上昇の長期化や将来の財政見通しの不確実性(財政肥大化)と追加財政刺激策によるソブリン債のリスクプレミアム上昇(財政肥大化)によるインフレ上振れリスクがある」としました。
そのうえで、「総需要を支える財政政策が恒久的になる可能性がインフレ上振れリスクを高める」としています。
4. 中国で景気の減速感強まる
中国の国家統計局が7月31日発表した7月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.0と、前月の50.2から低下。市場予想の50.4から下振れ。景気判断の節目となる50を再び割り込みました。新型コロナ・ウィルスの新たな感染拡大と、世界経済の見通し悪化が需要を圧迫。
国家統計局の趙慶河氏は声明で、「中国の経済繁栄の水準は低下しており、回復のための基盤を強化する必要がある」としました。ガソリン、原料炭、鉄鋼などエネルギー集約型産業が引き続き低迷して、7月の製造業PMIを押し下げる主な要因となったと分析。
一方、同日に発表された建設業とサービス業を対象とする7月の非製造業PMIは53.8と、前月の54.7から低下。製造業と非製造業を合わせた総合PMIは52.5と、前月の54.1から低下。
中国以外のトルコなどでも、景気の減速感が強まっています。特にトルコでは物価の上昇率が際立っています。トルコ統計局が8月3日発表した7月の消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+79.6%と、6月の同+78.62%から加速。トルコではインフレ率の上昇もあり、景気の減速感が強まっています。
5. 株価は底入れも
米国では、7月のCPI上昇率が+8.5%と、一服となり、長期金利も低下しました。米国の長期金利の上昇により、新興国の株式、為替市場から資金が流出する動きが継続していましたが、米国の長期金利上昇の一服により、新興国における為替市場の売りも一服となる可能性があります。
只、世界的に景気の減速感が強まっており、IMF、あるいは世銀などが今後も世界経済の見通しを下方修正してくる可能性があります。新興国の株価、為替ともに当面、上値が重い展開となる可能性もあります。
おはようございます。ブラジルでは、インフレ率が高止まりしています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行8月3日の金融政策委員会で、政策金利を+0.50%ポイント引き上げて、13.75%にすることを全員一致で決定(図表1参照)。引き上げは市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利上げについて「インフレ見通しに対するリスクは上振れ・下振れ両リスクがある。コモディティ(国際商品)市況が部分的にでも元に戻る、また、予想以上の景気減速により、インフレ率が低下するリスクがある一方、世界的なインフレ圧力上昇の長期化や将来の財政見通しの不確実性(財政肥大化)と追加財政刺激策によるソブリン債のリスクプレミアム上昇(財政肥大化)によるインフレ上振れリスクがある」としました。
そのうえで、「総需要を支える財政政策が恒久的になる可能性がインフレ上振れリスクを高める」としています。
2. インフレ率が減速
一方、ブラジル地理統計院は8月9日に、7月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。7月のIPCAは前年同月比+10.07%と、前月の同+11.89%から減速(図表2参照)。市場予想の+10.1%にほぼ一致。
昨年12月からでは最低の伸び率となり、輸送(7月には+12.99%と、6月の+20.12%から減速)、燃料(7月+7.25%、6月+26.47%)、家庭用品(同+13.32%、+14.307%)、家賃・公共料金(同+4.43%、+8.8%)などが主な要因。
3. 1-3月期GDPは+1.7%に加速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は6月2日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.7%であったと発表(図表3参照)。新型コロナ・ウィルスの変異株オミクロンの影響は限定的で、経済活動の回復でサービス業が堅調。資源価格の上昇により輸出が伸びました。
プラス成長は5四半期連続。21年10-12月期の+1.6%から、伸び率はほぼ横這い。3四半期連続でプラス成長。
前年同期比の項目別では、輸出が+8.1%、家計消費が+2.2。一方、設備投資など固定資本形成は▲7.2%。主力のサービス業は+3.7%、脳牧畜業は旱魃や大雨の影響により▲8%。
4. インフレ率は高止まりか
中銀は上記8月3日金融政策委員会会合後の声明文で、物価動向は「高い水準で推移している」としました。インフレ見通しを「税制改正を前提の、今年は+6.8%、来年は+4.6%、再来年は+3.6%」と、6月時点から短期的にインフレを下方修正する一方中長期的なインフレを上方修正しました。
更に、先行きの政策運営について「次回会合ではより小幅な利上げの必要性を検討する」と、利上げ幅の縮小を示唆。物価を巡るリスクに「追加的な景気刺激策によるリスクプレミアムの上昇を挙げるなど、10月の時期大統領選に向けてボルソナロ政権が、一段の景気刺激策に動くことを警戒。
5. 大統領選でルラ氏のリードが1桁台に縮小
一方、8日に公表された世論調査によると、10月の大統領選で、ルラ元大統領の現職ボルソナロ大統領に対する支持率の差が7%ポイントと、1桁台に縮小。
調査は投資銀行BTGパクチュアルの委託でFSB研究所が実施。それによると、ルラ氏の支持率41%、ボルソナロし34%と、先月の44%対31%から、リードが縮小。
ボルソナロ氏は、社会福祉手当支給の増額や燃料費抑制などの政策を繰り出し、世論調査では政府を「悪い」または「ひどい」と評価した回答者が6月初めの50%から44%に低下。同氏に投票しないとの回答は6月の59から53%に低下。
6. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年12月末には同5.571レアルに下落 (図表4参照)。昨年12月末から今年7月末迄では+7.1%の反発。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、21年5月末には126,216ポイントに回復。
22年に入ってからは小動き。昨年12月末比で、22年7月末には▲1.5%の小幅下落。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。このところ、米国では長期金利が上昇し、FRBによる利上げの動向が注目されます。
2022年にはブラジル国内の景気が停滞すると予想されます。さらに、ウクライナ情勢の悪化、世界的な金融引き締め動きにより、新興国からの資金流出が懸念されます。ブラジル中銀は米FRBに追随して利上げの姿勢を取っているため、通貨レアルが下げ止まってくる可能性もあります。
おはようございます。ペロシ米下院議長の訪台などを契機として、米中の対立が激化する様相を呈しています。
1. 米国2期連続でマイナス成長
まず、米国の景気の状況を見ておきましょう。米商務省が28日発表した米国の4−6月期国内総生産(GDP)は、前期比年率▲0.9%と、前期(1-3月期)の同▲0.1%に続き、2期連続のマイナス成長となりました。世界的な資源価格上昇による物価上昇で個人消費が減速し、急速な利上げにより住宅投資が落ち込みました。
2期連続でマイナス成長が続くと国際的には通常、「リセッション(景気後退)とみられます。只、米国では失業率が歴史的に低く、雇用者の時間給も上昇しており、通常のリセッションとは異なると考えられます。
2. FRBが連続0.75%ポイント利上げ
米国の連邦準備理事会(FOMC)は27日、2会合連続となる+0.75%の利上げを決定(図表1参照)。記者会見したパウエル議長は、物価上昇と抑制して、かつ景気後退も回避する軟着陸(ソフトランディング)への道が「狭くなっている」としました。次回9月の会合では+0.5%ポイント、その後は+0.25%ポイントへと、利上げの幅を緩めていくものと予想されています。
3. 米景気は息切れか
FRBによる急激な利上げ、また世界的な景気後退懸念により、企業の設備投資の息切れ気味となっています。4-6月期の企業の設備投資は▲0.1%と、2年ぶりのマイナス。
金利上昇により、住宅市場は既に減速感を強めています。中古住宅販売は6月迄5か月連続で前月を下回りました。新築戸建て販売も落ち込んでいます。4−6月期の住宅投資は▲14%と、2年ぶりの落ち込みとなりました。
FRBのエコノミストが12付で発表したレポートでは、23年末までに景気後退が起きる可能性が33%、FRBがより急激な引き締めに動くシナリオでは同66%と予想しています。
4. 4-6月期GDP+0.4%
中国の国家統計局は7月15日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+0.4%と発表(図表1参照)。市場予想の+1.0%を下回り、今年1-3月期の+4.8%から急減速。新型コロナ・ウィルス拡大を受けた上海などでのロックダウン(都市封鎖)による行動規制で、工場などの操業率が低下。ウクライナ情勢による資源高もあり、3月の生産や消費が伸び悩みました。
この伸び率は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大を受けて、武漢で行われたおととし1-3月期以来の低さで、四半期ごとの統計が公表されている1992年以来で2番目に低い水準。
外出制限は2か月余り続き、工場の操業停止、物流の混乱も招きました。更に、飲食店の営業が規制されるなど、各地で感染対策が強化されたことで、個人消費が冷え込み、不動産業の市況<も悪化。
5. 今後も低迷の可能性
先月、上海での外出規制が解除され、生産や輸出は回復傾向にあるものの、一部の都市では再び感染が拡大していて、今後の経済動向を懸念する見方もあります。
中国国家統計局の付報道官は会見で、「国内で観戦拡大が多発したことなど、予想を超える突発的な要素が齎した深刻な打撃で、経済に対する下押しの圧量が明らかに増大した」としました。
今後の見通しについて「一部の地区は感染拡大で一時的に困難に直面したが、各種の経済政策の効果で景気回復は加速している」としました。
6. ペロシ下院議長が訪台
一方、米国のペロシ下院議長が3日、訪問先の台北で蔡 英文総統と会談。ペロシ氏は米国の台湾に対する揺るぎない支持を強化する意向を表明。中国は同氏の訪台に強く反発し、台湾周辺での射撃訓練などを行う構え。
蔡 英文総統は会談で、「台湾海峡の安全は世界の焦点だ。台湾が侵略を受ければインド太平洋地域の衝撃となる。台湾は軍事的脅威に屈しない。台湾は民主主義を守り、世界の民主主義国家と協力する」としました。
ペロシ議長は「台湾が多くの挑戦を受けている中で、米台が団結することが非常に重要だ。それを外部に示すため、訪台した」と、台湾重視を強調。
ペロシ氏は、天安門事件、ウィグル問題、香港問題などで従来、対中強硬派の姿勢を取ってきました。大統領の地位承継順位では副大統領に次ぐ地位にあり、嘗て訪問したギングリッチ下院議長(当時)よりも重みがあります。
7. 米中の経済冷戦が継続か
以前ギングリッチ議長が台湾を訪問した際には、同氏が「中国が武力で台湾を侵犯する場合、アメリカは台湾の防衛を助ける」との発言を行い、当時の米国、中国、台湾県警を大きく揺るがしました。
当時、中国は米国盛会のナンバースリーの台湾訪問について、今回のペロシ下院議長の訪台のように、公的な場で大きく反発することはありませんでした。武力による威圧行為もありませんでした。
中国は今回反発を強め、台湾に対しては既に一部の品目の輸入停止を示唆。中国はそのまえにも一部高級魚の輸入を停止するなどしています。台湾は輸出の約4割、輸入の約2割を中国に依存しており、今後中国との対立が景気の下押し要因となる可能性があります。
米バイデン政権は今のところ、前トランプ政権のような対中関税引き上げなどは行っていません。今後、米中関係の悪化により、米国が中国に対するハイテク製品輸出規制に動くなどの可能性もあります。米中対立の激化は、世界全体の景気にとって、長期的に景気の下押し要因となることも考えられます。
おはようございます。フィリピン経済について、減速が懸念されています。
1. 6月CPIが加速
フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は7月5日に、6月の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比+6.1%になったと発表(図表1参照)。伸び率は前月の+5.4%から加速。市場予想の+5.9%から上振れ。
2. 政策金利を引き上げ
一方、フィリピン中央銀行は7月14日の緊急会合で、主要政策金利である翌日物借入金利を2.50%から3.25%に引き上げることを決定(図表2参照、上限を表示)。利上げは3会合連続で、利上げ幅は市場予想を上回りました。
高いインフレ率に加えて、米FRB(連邦準備理事会)による積極的な利上げ継続により、同中銀は通貨の安定を目指して利上げすることとしました。
只、就任したばかりのメダリア総裁は26日、緊急利上げを再び実施する可能性を排除して、次回8月18日の定例会議では、インフレ抑制に向けた利上げの幅が+0.75%ポイント未満になることを示唆。
3. 1-3月GDP+8.3%に回復
一方、フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は5月12日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+8.3%の伸びになったと発表(図表3参照)。10-12月期の改定値+7.7%から加速。新型コロナ・ウィルスの感染者数が減少して行動制限を緩和したことにより、個人消費が持ち直しました。
フィリピンでは、新型コロナ・ウィルス新規感染者数が1月下旬に減少に転じました。行動西岸が緩和されたことにより、原則認められていなかった子供を連れての商業施設訪問などが可能になりました。個人消費が上向き、サービス業は前年同期比+8.6%。製造業や建設業も堅調。
同日記者会見した国家経済開発庁のチュア長官は「経済も(新型コロナの)健康面の課題も克服している。1-3月期はパンデミック(世界的流行)前のGDP水準を超えた」としました。
4. 景気に後退懸念
フィリピンでは、国際商品市況の高騰が食糧品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招くとともに、商品高に伴う輸入増加が経常収支の赤字を拡大させています。コロナ禍を経た景気下支え策に加えて、足下では物価対策とする財政出動も重なり、財政赤字も拡大し、「双子の赤字」が悪化。
為替市場では米ドル高により、ペソが下落の動きを加速させており、輸入物価の上昇によりインフレ圧力が高まると予想されます。
マルコス政権発足に伴い就任したメダリア総裁は「供給要因による物価上昇圧力の緩和に向けて適時適切な介入を行う」とし、「中期的なインフレ目標実現に向けて更なる必要な行動を取る用意がある」として、追加利上げの可能性を示唆。
インフレ率上昇、金融引き締めが今後、同国経済に減速の圧力となる可能性があります。また、米国をはじめ、世界的に景気減速が懸念されており、外需の面からも、フィリピン経済に下押し圧力がかかる可能性があります。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、フィリピン・ペソは21年5月末に1ドル=47.67ペソの高値を付けたのち、対ドルで一貫して下落(図表4参照)。ペソの下落の要因としては、経常収支の悪化、資本の流出、ペソの下落についての中銀の容認などがあります。また、米連邦準備理事会(FRB)がテーパリング(資産買い入れの縮小)、利上げの意向を示唆したため、新興国から資金が流出しました。
22年に入ってからは米国の物価の大幅上昇、FRBによる大幅利上げでドルが上昇。21年12月末と22年6月末の比較では、ペソは対ドルで▲7.61%の下落。
株価は、フィリピン総合指数が20年3月31日に5,266ポイントまで下落したのち、その後は上昇に転じました。只、株価も米FRBによる大幅利上げ、世界的な商品市況高騰などにより、22年2月以降、下落基調に転じました。21年12月末と22年6月末との比較では、同指数はで▲13.57%の下落。
FRBは、今後も大幅な利上げを継続すると予想されています。世界的に景気後退懸念が強まっており、フィリピン経済にも景気減速感が強まるものと予想されます。フィリピンの為替、株価ともに、今後下押し圧力がかかる可能性があります。
おはようございます。トルコでは、引き続きインフレ率上昇、リラ下落が進行しています。
1. 6月CPI上昇率加速
トルコ統計局が7月4日に発表した6月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+78.62となり、前月の+73.5%から伸び率が加速。98年9月の+80.4%以来、約24年ぶりの高い水準。市場予想の+78.8%にほぼ一致。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻とそれに伴う西側諸国の対ロ経済制裁により、エネルギー価格が高騰。中銀利下げに伴う通貨トルコ・リラの急落もあり、インフレ率が急加速。
全指数から値動きの激しい食品やエネルギーなどを除くコアCPIは、前年同月比+57.26%と、前月の+56.04%や4月の+52.37%を上回り、8か月連続で伸び率が加速。
2. 政策金利を据え置き
一方、トルコ中央銀行は6月23日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を14.00%に据え置くことに決定(図表2参照)。据え置きは6会合連続で、市場の予想通り。
市場では、中銀の政策に介入姿勢をとるエルドアン大統領の低金利政策方針に変更はなく、今後もリラ下落とインフレ上昇に歯止めがかからず、インフレ率は今後数か月、加速するとみています。インフレ率は今後、+80%に加速すると予想されています。
中銀は会合後に発表した声明文で、現状維持を決めた理由について、「インフレ上昇は、(ウクライナ情勢など)地政学的な動向を反映した、世界的なエネルギーや食糧、農産物の価格上昇による強い供給ショックによって引き起こされている」とし、インフレ加速は国内需要の拡大よりも供給サイドに原因があると判断。利上げによる需要抑制、予冷に伴うインフレ抑制の必要性がないことを改めて示唆。
3. 1-3月期成長率+7.3%
他方、トルコ統計局が5月31日に発表した1-3月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+7.3% (図表3参照)。前期の同+9.1%から減速したものの、市場予想をわずかに上回りました。製造業がけん引。輸出を含む需要が堅調。
7-9月期の+7.5%から加速。市場予想の+9.0%から上振れ。6期連続でプラス成長が続いています。
只、政策金利を14%まで引き下げたことにより、インフレ率が約+70%へと上昇しており、今後は成長が抑制される恐れがあるとエコノミストは見ています。
前期比(季節調整済み)は+1.2%。
4. 外貨準備高が減少
中銀は上記の通り、6月23日の定例の金融政策委員会に置いて、6会合連続で金利を据え置き。通常、中銀はインフレ率が上昇すれば政策金利を引き上げるわけですが、得るドン大統領の強い意向を受けて金利を据え置き。
このため、インフレ率が亢進し、家計および企業のマインドが低下。中銀は景気下支えを重視していると考えられるものの、外貨準備高が一段と低下するなど、同国の体力は一段と低下。
5. 外交では存在感
一方、トルコのエルドアン大統領、ロシアのプーチン大統領、イランのライシ大統領は7月19日、イランの首都テヘランで会談。その前の週には米バイデン大統領がサウジアラビア、イスラエルを訪問して、イラン対する対応策を狭義。トルコ、ロシア、イランは米国をけん制するとともに、シリア問題などを話し合いました。
また、エルドアン大統領はロシアのプーチン大統領と会談して、ロシア軍による封鎖で黒海に面するウクライナの港から小麦が輸出できなくなっている状況について、事態の打開に向け動く姿勢を示唆。会談の冒頭で、プーチン大統領は、「トルコの仲介に感謝したい。我々は前進した。すべての問題が解決したわけではないが、事態が動くことはよいことだ」としました。
この問題については、ロシア、ウクライナまた仲介役のトルコと国連を交えた4者が今後協議する予定。このようにエルドアン大統領は外交で存在感を発揮しており、通貨リラの暴落を抑える役割を果たしているとみることができます。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。21年12月末から22年6月末まででも▲26.30%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。21年12月末と22年6月末との比較では+29.48%と堅調。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率亢進の可能性が高いと予想されます。
トルコ政府は昨年末にリラ相場の安定を図るべく、トルコ国民のリラ建て定期預金のハードカレンシーに対する価値を政府が保証する、事実上の米ドルペッグ制という奇策を発表。1月半ば以降は、奇策も功を奏してリラの急激な下落は一服する場面もありました。只、その後はウクライナ情勢など地政学的リスクの高まり、国際的金融環境の引き締まり、資源価格上昇などが意識され、再びリラが下落する傾向にあります。
おはようございます。世界的に物価が上昇傾向にあります。また、国連の人口統計によると、世界の人口増加のペースが鈍化しつつあります。このような状況を踏まえて、今後の投資戦略を考えてみました。
1. 米6月CPI+9.1%に加速
まず、米国の物価の状況を見ましょう。米労働省が7月13日に発表した6月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+9.1%。市場予想の+8.8%から上振れ。前月の同+8.6%からも加速となるサプライズ。インフレ抑制を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)は、インフレ抑制と景気後退懸念との兼ね合いを図ることとなりそうです。
特にガソリン価格は前年同月比+59.9%と急騰。5月からは+10%ポイント以上の加速。全米自動車協会(AAA)によると、レギュラーガソリンの平均価格は6月14日に1ガロン(約4リットル)当たり5.016ドルと、過去最高を記録。
食費とエネルギーを除く指数は、+5.9%と、3月の+6.5%以来3か月連続で鈍化。只、生鮮食品やガソリンの値上がりが続いており、消費者は物価が落ち着いたとは感じにくい状況が続いています。
2. FRBが大幅利上げ
一方、米連邦準備理事会(FRB)は、6月15-16日の公開市場委員会(FOMC)で、1994年11月以来となる+0.75%ポイントの大幅利上げを実施。事前の市場予想やパウエル議長の6月と7月におけるFOMCでの+0.5%ポイントの利上げ発言を覆しました。利上げ幅はFOMCの全会一致ではなく、苦渋の決断。
更に、FRBは7月26-27日にもFOMCを開催予定。6月のCPI発表を受けて、市場予想は+0.75%の利上げ予想が6割に低下。利上げ幅を+1%とする予想が前日の1割弱から4割へと急上昇。
3. ブラジル中銀も利上げ
利上げの動きは、新興国でも相次いでいます。ブラジル中央銀行は6月15日の金融政策委員会で、政策金利を+0.50%ポイント引き上げて、13.25%にすること決定(図表2参照)。次回の会合では同幅またはそれより小幅の利上げを示唆。当局は、目標を上回るインフレ率や低調な景気への対応を迫られています。
事前市場予想では、多くが+0.5%ポイントの利上げを予想していました。21年3月以降の利上げ幅は、今回で計+11.25%ポイントに達しました。
中銀政策委員会は声明で、「次回会合で同幅あるいはそれより小幅な新たな調整を見込んでいる」とし、「足下のシナリオの不確実性増大や、現行の金融政策サイクルが進んだ段階にあること、その影響がまだ確認されていないことで、自らの行動について更に慎重を期す日露がある」としました。
4. ドル高が加速
通貨の動きを見ると、FRBによる大幅利上げを受けて、ドル高が加速。円、ユーロなど先進国の通貨も概ね対ドルで下落していますが、新興国の一部で通貨が大幅に下落。特に下落率が大きいのがトルコリラ(図表3参照)。トルコでは、エルドアン大統領の指示により、物価が大幅に上昇しているにもかかわらず、金利を低い水準に抑え込んでいます。
5. 世界の人口増加+1%割れ
一方、世界の人口増加が鈍化。統計をさかのぼれる1950年以降で初めて+1%を割り込み、2022年には+0.83%。過去最低となったことを、国連が11日発表の統計で報告。
世界的な少子高齢化や新型コロナ・ウィルスの影響により、世界人口の増加率は初めて+1%を割り込みました。22年には+0.83%となり、+1%割れが明らかになったのは今回が初めて。
6. 物価高、人口増加鈍化にどう対処するか
このように、米国、欧州、主要な申告国では物価上昇が加速し、政策金利も引き上げられる方向にあります。原油など資源価格の上昇は一服した感もありますが、引き続き価格は高止まりする見込み。FRBなど各国の中央銀行も利上げを急いでいます。
他方、長期的には世界全体が人口増加の鈍化、その後停滞の局面に至る可能性が高まりました。世界全体のこれまでの成長を支えてきたのが、新興国を中心とする人口増加。それが止まってくれば、世界の株価の下支えが1つなくなるといえます。
原油などの資源価格高騰を背景として、エネルギー関連銘柄が年初来堅調に推移していましたが、ここにきて、同関連銘柄も下落に転じました。逆にIT関連など売られてきた成長株に一角に対する打診買いも見られますが、グロース株が本格的に上昇する局面とは言えません。
FRBによる利上げにより、ドル高が進展し、新興国からは資金が流出する可能性があります。当面、現金比率を高め、通信、食品、薬品などのいわゆるディフェンシブ銘柄にややシフトする、といった戦略が必要であるかもしれません。
おはようございます。世界的に物価が上昇傾向にあります。また、物価上昇とともに、世界全体で景気が減速する可能性が高まっています。新興国などがスタグフレーション(物価上昇と景気後退の同時発生)が起こる可能性があるのか、考察していきましょう。
1. 米5月CPI+8.6%に加速
まず、米国の物価の状況を見ましょう。米労働省が6月10日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.6%。市場予想の+8.3%から上振れ。前月の同+8.3%からも加速となるサプライズ。インフレ抑制を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)の政策に影響する可能性があります。
CPIの前年同月比上昇率は4月に+8.3%と、8か月ぶりに前月を下回り、市場では「インフレはピークを越えた」との見方も出ていました。5月には40年3か月振りのインフレ率を更新した3月の+8.5%を上回る勢いとなり、インフレが加速。
2. FRBが大幅利上げ
一方、米連邦準備理事会(FRB)は、6月15-16日の公開市場委員会(FOMC)で、1994年11月以来となる+0.75%ポイントの大幅利上げを実施。事前の市場予想やパウエル議長の6月と7月におけるFOMCでの+0.5%ポイントの利上げ発言を覆しました。利上げ幅はFOMCの前回一致ではなく、苦渋の決断。
事前の市場予想では、+0.5%ポイントの予想が優勢でした。また、カンザスシティ連銀のジョージ総裁が+0.5%の利上げを指示して、反対票を投じています。
3. ブラジルのインフレ率が減速
一方、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+11.73%と、前月の同+12.13%から減速(図表2参照)。市場予想の+11.84%から下振れ。只、インフレ率は依然として高水準にあります。
4. ブラジル1-3月期GDPは+1.7%に加速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は6月2日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.7%であったと発表(図表3参照)。新型コロナ・ウィルスの変異株オミクロンの影響は限定的で、経済活動の回復でサービス業が堅調。資源価格の上昇により輸出が伸びました。
プラス成長は5四半期連続。21年10-12月期の+1.6%から、伸び率はほぼ横這い。3四半期連続でプラス成長。
前年同期比の項目別では、輸出が+8.1%、家計消費が+2.2。一方、設備投資など固定資本形成は▲7.2%。主力のサービス業は+3.7%、脳牧畜業は旱魃や大雨の影響により▲8%。
只、原油価格など資源価格が下落に転じていることを考えると、今後、景気が減速する可能性があります。
5. メキシコ1-3月期GDPは+1.6%に加速
次に、メキシコの景気同国を見ておきましょう。メキシコ統計局は4月29日に、1-3月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+1.6%になったと発表(速報値、図表2参照)。10-12月期の+1.1%(確報値)から加速し、市場予想の+1.7%から下振れ。前四半期比では+0.9%。
米国の需要増加を背景に、工業製品や原油の輸出が堅調に推移。21年7−9月期には前四半期▲0.7%、10-12月期には0%と、低調に推移。
1-3月期の分野別では、製造業や工業などの二次産業が+1.1、金融・サービスなどの第三次産業が+1.1%。
米国、またEU(欧州連合)などでインフレ率が高止まりし、先進国でも中銀が利上げ姿勢を強めています。これに対応して新興国でも当面、利上げの動きが続く可能性があります。
只、メキシコ銀行(中央銀行)は6月23日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.75%ポイント引き上げて7.75%にすることを決定(図表3参照)。利上げは9会合連続。またインフレ抑制のために、必要なら追加利上げも行うと表明。
金利引き上げ、世界的な資源価格高騰の一服などにより、メキシコ経済にも不透明感があります。メキシコの最大の輸出相手国の米国の景気は、今後弱含む可能性があります。メキシコにおいても、スタグフレーションの可能性があります。
6. 原油価格下落も
一方、米シティ・リサーチは原油価格見通しについて、景気後退(リセッション)シナリオでは、年末までに1バレル=65ドル、来年末までに45ドルに下落する可能性があるとしました。
この見通しは、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟国で作る「OPECプラス」による対応がないことや、原油投資が減少することなどが前提。
世界的な原油需要の低迷が続けば在庫が増加し、価格は弱含みに名風呂予想。北海ブレント価格は第3四半期に99ドル、第4四半期に85ドル、2022年全体では98ドル、23年は75ドルと予想。
7. 世界の株価も弱含みか
米国でのインフレ率の高止まり、原油価格の下落などにより、米国など世界の株価が大幅下落。米国ではIT、消費関連などが先導してS&P500株価指数、NASDAQ指数などが大幅下落。最近の原油など資源価格下落を受けて、石油関連の銘柄も下落に転じました。
中国においては、不動産価格の低迷により、不動産関連銘柄などに売りがでています。インドその他の主要新興国においても、景気後退懸念などから株価は全般的に弱含み。今後も世界的に株価の調整局面が継続する可能性があります。当面の投資戦略としては、現金化比率を高め、様子見に徹することも必要であると考えられます。
おはようございます。新興国の中央銀行で、利上げが相次いでいます。
1. 5月CPI+8.6%に加速
まず、米国の消費者物価指数の動きを見ましょう。米労働省が10日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.6%。市場予想の+8.3%から上振れ。前月の同+8.3%からも加速となるサプライズ。インフレ抑制を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)の政策に影響する可能性があります。
CPIの前年同月比上昇率は4月に+8.3%と、8か月ぶりに前月を下回り、市場では「インフレはピークを越えた」との見方も出ていました。5月には40年3か月振りのインフレ率を更新した3月の+8.5%を上回る勢いとなり、インフレが加速。
ロシアのウクライナ侵攻に伴う資源価格や食料品価格の高騰が主な原因。足下で最高値を更新しているガソリン価格は+48.7%と高騰し、食料品も+10.1%。半導体不足に伴う自動車メーカーの減産で、新車は+12.6%、中古車も+10.1%。旅行シーズンを前にして、航空運賃なども大幅上昇。
5月18日、国際連合の閣僚級会合で、世界の食糧安全保障の話し合いがありました。アントニオ・グテレス国連事務総長は「(数か月以内に)何千万人もが、栄養失調や飢餓に陥る恐れがある」と、世界的な食糧危機に危機感を表明。
更に、翌19日の安全保障理事会でも、食糧危機が話題となり、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は「ロシア軍は世界とウクライナの何百万もの人々への食糧供給を人質にした」としました。
2. FRBの利上げ加速か
パウエル議長は5月4日、FOMC後の記者会見で、今後2回程度の会合で、+0.50%ポイントずつの利上げを検討すべきであるというのがFOMCのおおかたの見解であり、+0.75%の利上げは積極的な議論をしていない、としました。
FOMCは3月の+0.25%、5月に+0.50%の利上げを実施済み。同議長の発言通りであれば、6、7月にそれぞれ+0.50%の利上げとなりますが、今回の5月CPI発表を受けて、市場では+0.75%の利上げもありうるとの観測が出ています。
米国の5月CPI上昇率が加速したことにより、FRBが今後も+0.75%の大幅利上げを継続する可能性があります。先進国、新興国ともに中銀は対応を迫られることとなりそうです。
3. ブラジル中銀政策金利を引き上げ
一方、ブラジル中央銀行は6月15日の金融政策委員会で、政策金利を+0.50%ポイント引き上げて、13.25%にすること決定(図表2参照)。次回の会合では同幅またはそれより小幅の利上げを示唆。当局は、目標を上回るインフレ率や低調な景気への対応を迫られています。
事前市場予想では、多くが+0.5%ポイントの利上げを予想していました。21年3月以降の利上げ幅は、今回で計+11.25%ポイントに達しました。
中銀政策委員会は声明で、「次回会合で同幅あるいはそれより小幅な新たな調整を見込んでいる」とし、「足下のシナリオの不確実性増大や、現行の金融政策サイクルが進んだ段階にあること、その影響がまだ確認されていないことで、自らの行動について更に慎重を期す日露がある」としました。
4. メキシコ中銀政策金利を引き上げ
メキシコ銀行(中央銀行)は6月23日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.75%ポイント引き上げて7.75%にすることを決定(図表3参照)。利上げは9会合連続。またインフレ抑制のために、必要なら追加利上げも行うと表明。
今回の利上げは、メキシコ中銀が現体制となった2008年以来で最大。5人の政策委員が全員一致で賛成。
6月中旬まで1年間のインフレ率は+7.88%に達し、中央銀行の目標である+3%プラスマイナス1%を大きく上回っています。
中銀は声明で「次の政策決定で、政策委員会は政策金利の引き上げを継続する意向で、必要なら同様の強硬策を取ることを検討する」としました。
5. そのほかにも政策金利を引き上げの動き
一方、チリ中央銀行は、6月7日に、政策金利を+0.75%ポイント引き上げて9.00%にすることを決定)。利上げ幅は前回会合から▲0.50%ポイント縮小。8会合連続の利上げ。
只、利上げを見送ったり、逆に引き下げたりする動きもあります。
ロシア中央銀行は6月10日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも▲1.5ポイント引き下げて9.50%にすることを決定。市場予想は▲1.00%ポイント利下げであったため、サプライズ。
一方、トルコ中央銀行は6月23日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を14.00%に据え置くことに決定。据え置きは6会合連続で、市場の予想通り。
6. 各国でインフレ率が高止まり
このように、利上げする中銀が増えている背景として、新興国のインフレ率が高止まりしていることがあります。
例えば、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+11.73%と、前月の同+12.13%から減速。市場予想の+11.84%から下振れ。
米国、またEU(欧州連合)などでインフレ率が高止まりし、先進国でも中銀が利上げ姿勢を強めています。これに対応して新興国でも当面、利上げの動きが続く可能性があります。
7. ウクライナ情勢は一進一退か
ロシアがウクライナに2月24日に侵攻して、すでに4か月余りが経過しました。当初ロシアは短期間でウクライナの首都キーウを制圧できると考えていた節がありますが、今後戦闘が長期化する可能性があります。
ウクライナ侵攻に端を発する原油、資源価格などの高騰、小麦など食糧品価格の高騰が今後も継続する恐れがあります。ウクライナからの小麦輸出の大幅減少により、中東、アフリカなどでは食糧品価格が大幅に上昇しています。
他方、米欧を中心として、新型・コロナウィルスに対する行動規制を緩和する動きが強まっています。中国では新型・コロナウィルスに対して厳格な行動規制を行ってきましたが、今後は緩和する見込み。世界的な行動規制の緩和により、人々の旅行などが活発となり、物価を押し上げる要因となりそうです。
8. 当面の投資戦略
各国の中銀の利上げ継続、物価上昇、長期金利上昇により、米国を中心として株価の調整が続いています。IT関連など一部成長株には打診買いの動きもみられるものの、本格的な株価底入れはまだ先になる可能性もあります。
これまで買われてきたエネルギー関連株も下落に転じており、バリュー株(割安株)も含めて、当面、下値を探る展開となる可能性があります。現金比率を高めに保ちつつ、あくまで打診買いを検討する、といった姿勢が好ましいと考えられます。
おはようございます。世界的に、「食料危機」の懸念が高まっています。
1. FAO食料価格指数が高止まり
FAO(国際連合食料農業機関)が発表している食料価格指数は、2022年に入り急騰。同指数は5月には157.4と、4月から▲0.9ポイント低下して、2か月連続の下落。只、前年同月比では+29.2ポイント。5月の下落は、野菜油や酪農品指数の下落によるもの。砂糖指数も下落。一方、穀物と食肉指数は上昇。
5月18日、国際連合の閣僚級会合で、世界の食糧安全保障の話し合いがありました。アントニオ・グテレス国連事務総長は「(数か月以内に)何千万人もが、栄養失調や飢餓に陥る恐れがある」と、世界的な食糧危機に危機感を表明。
更に、翌19日の安全保障理事会でも、食糧危機が話題となり、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は「ロシア軍は世界とウクライナの何百万もの人々への食糧供給を人質にした」としました。
2. ロシアがウクライナ侵攻
米農務省によると、世界の小麦輸出市場の比率で、ロシアが17%、ウクライナが12%を占めています。今年2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始。ウクライナは従来、主に黒海を通じて小麦を輸出してきました。ロシアによるウクライナの海上輸送封鎖により、ウクライナの小麦輸出が困難になりました。
また、ウクライナのトウモロコシ輸出は16%程度で4位。ひまわり種子の輸出は年間7−19万トン、ひまわり油の輸出は530−680万トン。両方を種子換算すると1300-1700万トンに相当。ウクライナのひまわり油の不足により、インドネシア産のパーム油価格などが上昇しています。
3. インドなどが輸出規制の動き
ウクライナからの小麦の輸出減少を受けて、各国で小麦などの輸出を禁止、制限する動きが顕在化。インド商工省外国貿易部は5月14日、小麦価格の上昇抑制のために、小麦の輸出を即時禁止する通達を発表。
同省は今回、各国政府には食料安全保障のために、輸出を禁止する国際法上の権限があることを強調。さらに、小麦価格の高騰は、インドだけでなく、近隣諸国や脆弱な国々の食糧安全保障も危険にさらすと説明。同国の小麦輸出は、インドネシア、タイ、フィリピン向けも多くなっています。
一方、エジプト貿易産業省は3月11日、小麦、小麦粉、パスタなどの食品の輸出を3か月間禁止、翌12日にはトウモロコシなどの輸出禁止も発表。ウクライナ情勢の悪化を受けて、国内の食糧確保に動いています。
4. 肥料価格が上昇
ロシアとその隣国、またロシアの同盟国であるベラルーシは、カリ鉱石の主要生産国。両国はカリ鉱石を利用して作る化学肥料の1種の「カリ肥料」の主要輸出国。
各国の貿易統計を集約したOCE(The Observatory of Economic Complexity)のデータによると、世界全体に占める2つの化学肥料(カリ肥料と窒素肥料)の輸出額シェアは、2か国合わせて19.4%。ロシアはカナダに次ぐ世界2位、ベラルーシは中国に次ぐ4位(図表2参照)。
世界銀行の肥料価格指数は22年第1四半期には、前年同期比で約+10%と、過去最高を記録。主要輸出国であるロシアと中国の供給停滞が影響。世界的な食糧増産を背景として、中国は昨年秋から、自国内での流通を優先して、輸出制限を行いました。
そのため、化学肥料を輸入に頼る日本などでは、肥料価格が上昇。日本の海外依存度は、窒素が96%、燐酸がほぼ100%、カリウムもほぼ100%。ロシアによるウクライナ侵攻もあり、化学肥料の供給不足、価格上昇が、食糧の価格上昇に繋がる恐れがあります。
5. 中東、アフリカなどで食糧危機
特に小麦は、輸出量でロシアが1位、ウクライナが5位で、両国で世界の3割を占めています。その両国に、小麦輸入で大きく依存しているのが中東地域。
主食のパンの原料として小麦は必需品。両国からの輸入の割合はトルコが8割以上、エジプトで7割以上などとなっています。
ロシアによるウクライナ侵攻により、3月上場純には小麦の先物価格が、約14年ぶりの最高値を更新。さらに輸入が滞ることで、各国で供給府不安が擡頭。
例えば、レバノンの経済・貿易省によると、小麦の在庫はあと1か月足らずしかないといわれています。レバノンでは小麦の約70%をウクライナに依存。ロシアの侵攻後、輸入が停止しており、深刻な小麦不足に陥っています。
エジプトは3月に、自国の小麦輸出を禁止。パスタ、豆類の輸出も禁止しました。同国の中央動員統計局によると、2020年の小麦輸入額は32億ドル(1289万トン)で、そのうちロシアからが19億ドル(780万トン)、ウクライナからが7億5366憶万ドル(318万トン)で、小麦輸入の約9割を両国に依存しています。
このほか、アフリカ諸国の多くもロシア、ウクライナからの小麦の輸入に依存。特に南スーダンの難民キャンプでは、深刻な食糧不足が報告されています。
6. インフレ率上昇
食糧価格上昇は、世界的なインフレ率上昇の一因となっています。例えば、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+11.73%と、前月の同+12.13%から減速(図表3参照)。市場予想の+11.84%から下振れ。
一方、米労働省が10日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.6%。市場予想の+8.3%から上振れ。前月の同+8.3%からも加速となるサプライズ。インフレ抑制を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)の政策に影響する可能性があります。
このように、新興国、先進国ともにインフレ率が加速、或いは高止まりする状況にあります。資源価格上昇なども大きな要因ですが、食料品価格上昇がインフレ加速の一因となっています。
7. 恩恵を受ける銘柄も
ウクライナ危機が長期化する可能性もあり、そうなると「食料危機」も長期化する可能性があります。その場合、それにより恩恵を受ける銘柄、或いは業種も考えられます。世界的には、穀物メジャー株などが恩恵を受けると予想されます。
日本国内では、サカタのタネ(1377)、丸紅(8002)など商社株が恩恵を受ける可能性があります。
只、長期的にインフレ率の高止まり、長期金利の上昇という展開になれば、企業の業績も下方修正されるおそれがあります。その場合、米国を中心として、スタグフレーションの懸念もそうていしておく必要があるでしょう。
おはようございます。インドネシアでは新型コロナ・ウィルスの感染状況が改善し、景気回復への期待感がやや強まっています。
1. 5月CPI上昇率は加速
インドネシア中央統計局は6月2日に、5月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+3.55%になったと発表(図表1参照)。市場予想の+3.6%から下振れし、前月の+3.47%から加速。
2. 政策金利を据え置き
一方、インドネシア中央銀行は4月19日の理事会で、政策金利であるBIレートを3.50%で維持すると発表。据え置きは市場の予想通り。過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利も2.75%に、翌日物貸出ファシリティー金利は4.25%にそれぞれ据え置き。現状維持は、今回で14会合連続。
中銀は、今年の経済成長率を+4.5-5.3%と予想。従来は+4.7-5.5%としていました。世界の経済成長率いとおしについては、ウクライナでの戦争がサプライチェーンを混乱させてことにより、+4.4%から+3.5%に下方修正。
3. 1-3期GDP予想を上回る
インドネシア中央統計局(BPS)は5月9日に、1-3月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+5.01%であると発表(図表3参照)。昨年第4四半期の同+5.02%から伸び率ほぼ横這い。
GDPの約6割を占める家計消費は、前年同期比+4.34%、同様に約3割を占める投資は+4.09%。輸出は+16.22%。2月下旬のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、世界的に資源の需給が逼迫しており、石炭やパーム油など、主要輸出品目が伸びました。
4. 景気は堅調に推移か
年明け以降には、オミクロン株により感染動向が急激に悪化。只、ワクチン接種の進展により、政府は経済活動の正常化を重視。これにより上記の通り、1-3月期GDPは前年同期比+5.01%、前期比年率でも2四半期連続でプラスとなるなど、堅調に推移。
石炭禁輸などが外需の足枷となるものの、低インフレや金融緩和を追い風とする家計消費は企業の設備投資が堅調となり、景気を下支え。足下では、行動制限の緩和により、人の移動も活発化。内需を取り巻く環境は改善しつつあります。
他方、内需の堅調さにより、対外収支の悪化のリスクもあります。そうなると、金融市場の変化も相俟って、資金流出の懸念があり、早期の政策変更が必要となります。ほかの新興国と比較しても、厳しい政策運営を強いられる可能性があります。
6. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表4参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻す展開。21年末から22年5月末では、▲2.19%と若干下落。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻す展開。21年末と22年5月末との比較では、+8.6%の小幅上昇。
6. リスク要因
ロシアによるウクライナ侵攻などにより、資源価格が幅広く上昇。同国においても、インフレ圧力が高まっており、家計消費を中心とする堅調な内需が、インフレ圧力を強める懸念があります。
そうなると、堅調な内需が輸入を押し上げるなど、対外収支を悪化させる可能性があります。経常収支、財政収支の悪化により、資金流出に見舞われることも考えられます。それに伴い通貨ルピアに対する下落圧力が強まり、輸入物価の上昇、インフレ率の上昇に繋がる恐れもあります。
おはようございます。インド経済は回復が続いているものの、景気に減速感が出ています。
1. 消費者物価指数上昇率が加速
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が5月12日発表した4月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.79%(図表1参照)。前月の+6.95%から加速。市場予想の+7.5%から上振れ。
2. 1-3月期成長率+3.1%に減速
続いて、インド統計局が5月29日に発表した1-3月期成長率は、前年同期比+3.1%(図表2参照)。前期の+5.4から減速。市場予想の+2.1%から上振れ。伸び率は8年ぶりの低水準。新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)に伴い消費需要や投資が低迷。
製造セクターの1-3月期GDPは前年比▲1.4%。前期は▲0.8%。農業部門は+5.9%と、前期の+3.6%から加速。
統計・計画実施省はこの日、今年度(3月31日迄)のGDP成長率を従来+5%ら+4.2%に引下げ。少なくとも8年ぶりの低い伸びとなる見込み。
一方、エコノミストらは、今年度は40年間で最大の落ち込みとなると予想。インド経済は最大で▲5%減少する可能性があるとしています。
3. 政策金利を引き上げ
他方、インド準備銀行(中央銀行)は6月8日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを+0.5%ポイント引き上げて4.90%にすることを決定(図表3参照)。5月に続いて2会合連続で利上げ。エネルギー価格高騰を受けて中銀は、インフレ抑制のために金融引き締めをせざるを得ない状況に追い込まれています。
中銀はCPI上昇率の中期目標を+2〜6%と定めているものの、1月以降は+6%を超える水準が続いています。景気回復で需要が増加することに加えて、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い国際商品市況が高騰。石油製品のほか、熱波によるトマトの値上がりなどが響いています。
4. 景気に下振れリスク
中銀は、景気見通しについては「今年度の経済成長率は+7.2%になる」として4月会合時点の見通しを維持。その理由として「農業生産の堅調さを背景とする地方部での消費意欲の改善、都市部でも消費の回復が進む」ことを挙げました。
足下の企業マインドは、サービス業を中心として改善が続いており、家計消費などの内需の堅調さを反映。短期的には景気回復が続いているとみられます。只、今後はインフレと金利上昇の共存が企業と消費者のマインドに影響するとみられます。先行きの景気については、下振れシルクが高まっています。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)。2022年12月末と2022年5月末との比較では、▲4.2%の下落 。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、20年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。21年10月には59306ポイント迄上昇。21年12月末と22年5月末との比較では、▲4.61%の小幅下落。
6. 課題とリスク
上記の通り、新型コロナ・ウィル
スの変異種であるオミクロン株の感染拡大の懸念は収まりつつあるものの、ロシアとウクライナとの紛争も、インド経済に影を落としています。
ロシア産の原油、天然ガスの供給が減少に転じていることから、世界的に原油、天然ガスなど資源価格が高騰。インドは基本的に原油など資源を輸入に頼っており、輸入物価への影響が懸念されます。
また、米欧などによるロシアへの制裁強化により、電気自動車(EV)生産に必要な、パラジウムなど稀少金属の供給への影響、それらの要因が世界経済の下押し要因となる懸念があります。
インドは主要な新興国の中ではこれまで相対的に景気回復が堅調であるものの、今後はインド国内の景気の下振れリスクが高まる可能性があります。
おはようございます。メキシコ経済に先行き不透明感が高まり、スタグフレーションも懸念されています。
1. CPI上昇率は加速
メキシコ国立地理情報研究所は5月9日に、メキシコの3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+7.68%になったと発表(図表1参照)。前月の同+7.45%から伸び率は加速。市場予想の+7.72%から下振れ。
2. 1-3月期GDPは+1.6%に加速
メキシコ統計局は4月29日に、1-3月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+1.6%になったと発表(速報値、図表2参照)。10-12月期の+1.1%(確報値)から加速し、市場予想の+1.7%から下振れ。前四半期比では+0.9%。
米国の需要増加を背景に、工業製品や原油の輸出が堅調に推移。21年7−9月期には前四半期▲0.7%、10-12月期には0%と、低調に推移。
1-3月期の分野別では、製造業や工業などの二次産業が+1.1、金融・サービスなどの第三次産業が+1.1%。
3. 政策金利を引き上げ
メキシコ銀行(中央銀行)は5月12日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.5%ポイント引き上げて7.00%にすることを決定(図表3参照)。利上げは8会合連続。同国ではインフレ率が約21年ぶりの高水準。世界的に金融引き締めの動きが広がる中、前回と同じペースでの利上げを決定。
中銀は12日の声明で、「国際的な金融引き締めと不確実性の高まりにより、地政学的紛争、中国での新型コロナ・ウィルスの感染再拡大などによるインフレ圧力を考慮した」と指摘。インフレ率が目標上限である+4%を下回る時期は、2023年4-6月期以降になるとの見方を維持。
4. FRBが大幅利上げ
一方米連邦準備理事会(FRB)は3-4日のFOMC(米連邦準備理事会)で、政策金利であるFFレートの金利誘導目標を+0.5%ポイント大幅引き上げ。今後も継続的な利上げ実施を示唆しており、タカ派的傾斜を強めています。
を現状のゼロ金利に据え置くことを全員一致で決定。さらにテーパリング(量的緩和縮小)については、削減ペースを150億ドルから300億ドルに上げ、1月中旬以降も同額の減額を継続することを決定。
過去の米FRBの利上げ局面においては、メキシコは米国と時差が小さいこともあり、米国への資金流出が加速する傾向があり、中銀は資金流出を食い止める観点から、利上げに追い込まれる動きがありました。
5. 中国の景気失速も懸念
一方、中国の国家統計局が5月31日発表した5月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.6と、前月の47.4から上昇。市場予想の49.0から上振れ。
さらに、同日に発表された4月の非製造業PMIは47.8と、前月の41.9から大幅上昇。市場予想の45.5を上回りました。只、製造業と同様、3か月連続で50を割り組みました。
中国では、上海において新型コロナ・ウィルスに伴うロックダウン(都市封鎖)が解除されるなど、景気が上向く要素もあります。只、企業の景気マインドなどは依然低迷しており、メキシコ経済も影響を受ける可能性があります。
外需環境の不透明感の高まりと、国内の景気失速懸念、インフレの亢進により、メキシコにはスタグフレーション(景気低迷とインフレ)の懸念があります。
6. 為替と株価
ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、20年11月以降、対ドルで上昇傾向(図表1参照)。ロシアによるウクライナ侵攻などにより、原油など資源価格が上昇し、ペソにとっては追い風となっています。まら、米FRBの利上げの動きが強まっているものの、メキシコ中銀が追随して利上げの姿勢を示していることも、ペソの下支えとなっています。
同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、20年3月には新型コロナ・ウィルス感染拡大により大幅下落。その後は米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和、原油等商品市場の高騰もあり、株価は大幅反発。21年末までは株価は順調に上昇しました。
その後は米FRBによる利上げ開始、米国およびメキシコ国内でのインフレ懸念の高まりなどで、株価は軟調な動きとなりました。
メキシコ国内では、インフレ懸念の高まり、景気の先行き不透明感の高まりがあり、スタグフレーションの懸念もあります。中銀は今後も米FRBに追随して利上げを継続する可能性が高く、株価の上値が重くなることも想定されます。
おはようございます。ロシアの侵攻によるウクライナ紛争が、長期化する恐れがあります。
1. ウクライナ侵攻長期化か
ロシアは今年2月24日、ウクライナへの侵攻を開始。当初、ロシアのプーチン大統領は、数日でウクライナの首都キーウ(キエフ)が陥落させられると踏んでいた節がありますが、実際にはウクライナ側の頑強な抵抗にあった首都付近から撤退。現在は東部のドンバス地方制圧を目指しているとみられます。
プーチン大統領は、これまでも首相の時代に第二次チェチェン紛争で長期に関与してきたことがあります。また、シリアの内戦にも長期にわたって関与。現在、ウクライナにおける紛争が膠着している状態にあることなどから、ウクライナへの侵攻も長期化する恐れがあります。
2. 食品価格が高騰
紛争が長期化すれば、まず食料不足が問題となります。特に、小麦については、ロシアとウクライナを合わせて世界の輸出量の3割を占めています。米農務省(USDA)の発表によると、2021〜22年度の小麦の世界輸出が2月の予想時点からウクライナの侵攻によって360万トンげんしょうするとの予想を発表しています。
USDAの見込みでは、ロシアは世界の小麦輸出の17.1%を占めており、輸出量で世界2位、ウクライナも同11.8%を占めています。もともと穀物価格はパンデミック(世界的大流行)の影響で上昇していましたが、ロシアによるウクライナ侵攻を契機として、シカゴ商品取引所(CBOT)の小麦価格は1週間で+12%上昇(図表1参照)。
ウクライナとロシアの小麦に依存している人口は約8億人。中国、エジプト、インドネシア、トルコなどの国は両国の穀物輸入に依存しており、ウクライナが2022年の種まきシーズを逃すと、深刻な食料不足となる可能性があります。既に、エジプトなど一部の中東諸国では小麦、パンなどの価格が高騰。
さらに、世界有数の小麦輸出国であるインドは、輸出の一時停止を決定。インド政府は14日、小麦輸出停止について「国内の食料価格を抑制し、インドの食料安全保障を強める措置にあたる」としました。
米農務省の2021〜22年度の推計によると、インドの小麦生産量は1億959的。中国の1億3695万トンに次ぐ水準であり、世界の14%を占めています。輸出量も815万トンと、世界の油種送料の4%を占め、ロシア(17%)、ウクライナ(10%)などに続き輸出大国。
これまでインドの小麦はインド国内やスリランカなど近隣諸国向けの需要が大半を占めていました。ロシアのウクライナ侵攻による供給不安を踏まえて、3月以降にアフリカ諸国やトルコなどへの輸出拡大も検討していました。
3. 原油、天然ガス価格が高騰
更に、原油、天然ガスの供給にも懸念があります。プーチン大統領は、「日友好国」に指定した国への天然ガス輸出については、ロシア通貨であるルーブルでの支払いを要求し、応じなければ供給を停止するとの脅しをかけました。
一方、米国のバイデン大統領は3月8日、ロシア産の原油、天然ガス、石炭の輸入禁止など、追加の制裁措置を発表。
バイデン氏は演説で、「我々は、ロシア産の原油、天然ガス、エネルギーの輸入を全面的に禁止する」とし、「ロシア経済の大動脈を標的にする」と、制裁の意義を説明。
英国政府もこれに合わせてロシア産の原油輸入停止を発表。ただ、バイデン氏は「多くの欧州同盟国は同調しないだろう」とし、ロシアへのエネルギー依存度が高いドイツなどは、足並みがそろわないとの見通しを示唆。
他方、ドイツは5月23日、欧州連合(EU)がロシア産原油の禁輸を巡り「数日中」に合祀する可能性が高いとの見方を示唆。一方、ウクライナ侵攻を巡る欧米の制裁で孤立化するロシアは、中国との経済関係が今後拡大するとの見通しを示唆。
原油価格の代表的な指標の1つであるWTI先物は、3月8日には終値で1バレル=123.70ドルの高値を付けました。5月25日終値は同110.55ドル。
4. インフレ率が上昇
米労働省が11日に発表した4月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.3%。市場予想の+8.1%から上振れ。前月の同+8.3%から減速米国では数か月に亘り約40年ぶりの高いインフレが継続。只、市場ではインフレはピークアウトしたとの見方もあります。
米連邦準備理事会(FRB)が今月開催した会合で、異例の+0.5%ポイントの利上げと保有資産を圧縮する「量的引き締め」を同時に行うことを決定。インフレの抑え込みを急いでいます。只、ウクライナ情勢などもあり、FRBが目指す+2%の物価目標に抑えるには、数年かかるとの見方が市場で強まっています。
5. 株価調整が長期化も
国際的な資源価格上昇、また米国内の郎等需要の逼迫などにより、米長期金利が上昇。米連邦準備理事会(FRB)による金利引き上げもあり、米国の株価が下落。米国の株価の代表的指数であるS&P500指数は、特に今年3月以降に大幅下落(図表4参照)。
米国以外でも、日本、EU、英国など各国の株価が軒並み調整。新興国では、中国において新型コロナ・ウィルスの感染対策で、上海など一部都市をロックダウン(都市封鎖)。上海総合指数が大きく下落することになりました。
世界的なインフレ率上昇、資源価格上昇、米長期金利上昇などを考慮すると、世界的に株価調整が長引くことも考えられます。ウクライナにおける紛争が早期に解決するのは難しいとの見方が強まっています。米国においてはこのところITなどハイテク株の下落が特に顕著になっています。グロース株(成長株)からバリュー株(割安株)へのシフトも、今後継続していく可能性があります。
おはようございます。おはようございます。ブラジルの景気については、依然として厳しい局面が続いています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行は5月4日の金融政策委員会で、政策金利を+1.00%ポイント引き上げて、12.75%にすること全員一致で決定(図表1参照)。利上げは市場の予想通りで、10会合連続。
中銀は会合後の発表した声明文で、追加利上げについて、前回会合時と同様に、「インフレ見通しに対するリスクは上振れ、下振れ両方のリスクがある。コモディティ(国際相場商品)が元に戻り、インフレ率が低下する可能性がある一方で、財政政策(財政肥大化)による金融市場への悪影響やソブリン債のリスクプレミアムの上昇リスクがある」とし、「(インフレ見通しに対する)リスクのバランスは上向き)として、インフレ率が経済予測をオーバーシュートする懸念を表明。
2. インフレ率が加速
一方、ブラジル地理統計院は4月8日に、3月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。3月のIPCAは前年同月比+11.30%と、前月の同+10.54%から加速(図表2参照)。市場予想の+10.98%から上振れ。
3. 10-12月期GDPは+1.6%に減速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は3月4日に、10-12月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.6%であったと発表(図表3参照)。市場予想の+1.1%から上振れ。前期の4.0%から減速。
前期比では▲0.1%と、7-9月期の▲0.4%に続いて、2四半期連続のマイナス成長となり、定義上の景気後退となりました。旱魃による農産物の不振が響きました。22年10月に再選を目指すボルソナロ大統領にとっては逆風となる模様。
4期連続で前年同月比上昇となり、サービス業の+3.3%が牽引。一方、製造業が▲1.3%、農業が▲0.8%と低下。固定資産投資が+3.4%、個人消費が+2.1%、政府支出が+2.8%。
4. 資金流出の可能性
国際金融市場においては、世界経済の回復に加えて、ウクライナ情勢の悪化も加わり、国際商品市況が高騰。これを受けて米連邦準備理事会(FRB)など主要国中銀は引き締めに動いており、経済のファンダメンタルズの脆弱な新興国を取り巻く環境は厳しさを増しています。
ブラジルは経常収支と財政の慢性的な「双子の赤字」を抱えており、インフレ率も上昇。商品市況高騰にもかかわらず交易条件が悪化するなど、景気に逆風が吹いています。通貨レアルの下落もあり、インフレがさらに亢進することが懸念されます。
上記の通り中銀は5月4日の定例会合で10会合連続の利上げを決定した。先行きの運営を巡っては、利上げ幅の縮小を示唆するなど、景気に配慮する姿勢を示しています。米FRBが引き続き利上げの姿勢を示唆しており、通貨レアルの重石となる可能性があります。中銀は今後、難しい運営を迫られることとなりそうです。
6. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年12月末には同5.571レアルに下落 (図表4参照)。昨年12月末から今年4月末迄では+10.7%の反発。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、21年5月末には126,216ポイントに回復。
22年に入ってからは小動き。昨年12月末比で、22年4月末には+2.9%の小幅上昇。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。このところ、米国では長期金利が上昇し、FRBによる利上げの動向が注目されます。
2022年にはブラジル国内の景気が停滞すると予想されます。さらに、ウクライナ情勢の悪化、世界的な金融引き締め動きにより、新興国からの資金流出が懸念されます。ブラジル中銀と米FRBの方向性の違いにより、通貨レアルが下落する懸念もあります。
おはようございます。おはようございます。南アフリカ経済にとって、資源高が追い風となっています。
1. 3月CPI上昇率が加速
まず、南アの経済指標を見ましょう。南アフリカ統計局は4月20日に、3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+5.9%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+5.7%から上昇率が加速し、市場予想の+6.0%からは下振れ。
2. 政策金利を引き上げ
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は3月24日に、主要政策金利であるレポレートを+0.25%ポイント引き上げて4.25%にすることを決定。利上げは3年ぶり。インフレ圧力が強まっていると判断し、利上げで対応。
同国は新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行で打撃を受けた経済を支援するため2020年に導入した禁輸緩和の巻き戻しを継続。MPCメンバーのうち、3人が決定を支持。残りの2人は+0.5%ポイントの利上げを主張。
3. 10-12月期成長率は+1.2%
一方、南アフリカ政府統計局は3月8日に、10-12月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで+1.2%になったと発表(図表3)。また、以前に発表した7-9月期GDP成長率を▲0.2%ポイント下方修正して▲1.7%としました。
7−9月の改定値+1.7%からは減速し、市場予想の+1.3%からも下振れ。
通年では、2020年の▲6.4%に対して、2021年は+4.9%。総固定資本形成については、21年の通年の▲14.9から2020年には+2.0に回復し、過去5年間で初めてプラス成長に転じました。総固定資本形成がプラスに転じたことについて、アレクサンダー・フォーブスのエコノミストは、依然として低い数値としながらも、今後、南ア国内に投資が戻ってくる可能性があるとしています。
4. 変異種「オミクロン」の克服進む
南アではワクチン接種がほかの国と比較して遅れており、昨年末にオミクロン株を確認。感染が急拡大しました。足下でもワクチン接種は遅れているものの、新規陽性者数は昨年12月半ば以降頭打ちとなり、感染動向が改善。
更に、感染拡大に関して、政府は実体経済への影響を避けて強力
な行動制限に及び腰の対応を見せています。人の移動が底入れしており、足下では、オミクロン株への克服が進展。
5. 資源高が追い風
ロシアによるウクライナへの侵攻、それに伴う地政学リスクの高まり、インフレにたいおうした米連邦準備委員会(FRB)による利上げなど、新興国全体にとっては、厳しい局面が続いています。
他方、南アは金、プラチナ、銅、鉛、亜鉛、ニッケルなど、豊富な資源を有しています。ウクライナ情勢悪化による米欧諸国などによるロシアへの経済制裁を原因とする、ロシアからの鉱物資源輸出の減少が、南アにとって追い風となっています。
地政学リスクの高まりにより、いわゆる「有事の金」が注目され、世界有数の僅差出国である南アにとっては、輸出増加、交易条件の改善により、景気の追い風となる可能性があります。
6. 為替と株価
ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。南アフリカ・ランドは、昨年には6月から12月末にかけて下落したものの、国際的な資源価格上昇などにより、2022年に入ってからは上昇傾向が続いていました(図表4参照)。
只、4月13日には1ドル=14.48ランドの高値を付けたものの、その後は米FRBによる利上げなどにより下落。5月11日には、同16.11ランド迄下落しました。
株価は、代表的な株価指数の1つであるFTSE/JSEアフリカ全株指数でみると、18年から20年春にかけてほぼ横這いで推移(表5参照)。20年に入ると、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、株価は急落。但、3月以降には、ワクチン開発への期待、更に7-9月期GDPが急回復したことなどにより、株価も急反発。21年に入ると、国内の変異種新型コロナ・ウィルス感染拡大などにより、株価はほぼ横這いの動きとなっていましたが、秋以降に反発。22年に入ってからは、米FRBによる利上げ、世界的なインフレ率の高まり、株価下落などのより、同指数も下落。
7. リスク要因と課題
南アフリカにおいては当面、オミクロンに対する耐性が強まり、人の流れが増しつつあります。さらに、国際的な資源高により、金などの価格が上昇しており、南アの資源輸出が伸長する可能性があります。
只、中長期的には、経常収支と財政収支赤字が、国内総生産(GDP)比で大きく、通貨が売られやすい状況にあります。米連邦準備委員会(FRB)の利上げにも、注意する必要があります。
また、19-20年には計画停電が相次いで発生。国内電力供給の9割を担う国営電力会社エスコムは、政治家との癒着や放漫経営などで財政状況が悪化。企業は自家発電を導入し、家賃が上がるなどの影響が出ています。21年に入っても電力の供給が不安定であり、インフラの整備が課題となっています。
中長期的には、これらのリスク要因にも配慮しつつ、資源価格、インフレ率の動きに注意する必要があるといえるでしょう。
おはようございます。世界の中央銀行の多くが、利上げに動いています。
1. 米CPI上昇率が加速
先ず、米国の消費者物価指数(CPI)を考察しましょう。米労働省が12日に発表した3月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.5%。前月の同+7.9%から加速し、約40年ぶりの高い伸び率。市場予想は前年同月比+8.4%、前月比が+1.2%でした。
CPIは前月比でも+1.2%と、2月の+0.8から加速。2005年9月以来の大幅な伸びを記録。ガソリン価格が+18.3%と、全体の伸びの半分以上を占めました。
2. 米FRBが+0.5%ポイント利上げ
米連邦準備理事会(FRB)は4日、公開市場委員会(FOMC)において、22年ぶりとなる+0.5%ポイントの利上げを実施(図表2参照)。保有資産を圧縮する「量的引き締め(QT)」の6月開始も決定。ロシアによるウクライナ侵攻などが世界経済の先行きい影を落としており、当面、米国内で約40年ぶりの水準に達してインフレの封じ込めを優先。新型コロナ・ウィルス対策により拡大して緩和マネーの正常化を急いでいます。
短期金利の指標であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.25〜0.50%から、0.75〜1.00%に引き上げ。利上げは通常+0.25%ポイントで行われますが、0.5%ポイントの利上げは、ドットコムバブルで景気が過熱していた2000年5月以来。FRBは3月会合で+0.25%ポイントの利上げを実施し、約2年ぶりにゼロ金利を解除していました。
3. ブラジル中銀が政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行は3月16日の金融政策委員会で、政策金利を+1.00%ポイント引き上げて、11.75%にすること決定(図表3参照)。利上げは市場の予想通りで、9会合連続。
中銀は会合後の発表した声明文で、追加利上げについて、前回会合時と同様に、「インフレ見通しに対するリスクは上振れ、下振れ両方のリスクがある。コモディティ(国際相場商品)による金融市場への悪影響や、ソブリン債のリスクプレミアム(上乗せ金利)の上昇リスクがある」としました。
さらに「(インフレ見通しに対する)リスクのバランスは上向き」として、インフレ率が経済予測をオーバーシュート(加熱)する懸念を表明。
4. チリ中銀政策金利を引き上げ
一方、チリ中央銀行は、3月29日に、政策金利を+1.5%ポイント引き下げて7.00%にすることを全員一致で決定(図表4参照)。新型コロナ・ウィルスからの世界景気の回復、世界的な資源価格上昇に対応しました。
上げ幅は前回会合と同じで、全員が一致。市場の事前予想では、利上げ幅は +1.5%ポイントと、+2.0%ポイントに分かれていました。
5. 金利据え置き、引下げの中銀も
他方、インドネシア中央銀行は4月19日の理事会で、政策金利であるBIレートを3.50%で維持すると発表。据え置きは市場の予想通り。過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利も2.75%に、翌日物貸出ファシリティー金利は4.25%にそれぞれ据え置き。現状維持は、今回で14会合連続。
また、ロシア中央銀行は4月29日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも▲3.0%ポイント引き下げて14.00%にすることを決定。引き下げは2会合連続。通貨ルーブルの反発や、インフレ率の鈍化を受けて、利下げによる景気下支えを優先すると判断した模様。
このように、金利据え置き、あるいは利下げに踏み切る中銀もあり、各国の国内の事情により、必ずしもすべての中銀が利上げ一辺倒というわけでもありません。
只、世界的にインフレ率が高止まりし、原油などの商品市況も依然として高値で推移。インフレ率抑制の観点から、米欧を中心として、多くの中銀が今後も金融引き締めの姿勢を見せています。株価に対しては当面、マイナスの材料となることも考えられます。只、インフレ率が落ち着き、金利引き上げの方向性が明確になってくれば、バリュー株(割安株)を中心として、株価が反発することも考えられます。
おはようございます。世界で、米欧とロシアの対立など、世界の分断化が長期化する可能性が高まりました。
1. IMFが22年世界の成長率見通しを+4.4%に引き下げ
まず、世界経済の見通しを見ておきましょう。国際通貨基金(IMF)は4月19日発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、2022年の世界経済成長率見通しを+3.6%と、前回1月の予想から▲0.8%引き下げ(図表1参照)。高インフレが続く米国と新型コロナ・ウィルス感染封じ込めを優先する中国が下振れ。ロシアのウクライナ侵攻により資源高によるインフレを加速させ、インフレ抑制のための各国の利上げが経済を冷却化させると予想。戦争が長引けば負の連鎖が発生して、経済は一段と停滞する可能性があります。
世界経済成長率は、新型コロナ・ウィルスにより20年に▲3.1%のマイナス成長に陥ったものの、21年には+6.1%に回復。22年にはコロナ禍からの回復で需給の引き締まりに、戦争による資源供給懸念が加わります。結果として発生するインフレに各国の中銀が利上げで対応することが大きなリスクとなります。
2. 米国のインフレ、中国の都市封鎖などを懸念
ロシアのウクライナ侵攻は、欧州に大きな影響を与えています。ドイツではウクライナからの部品供給が滞り、フォルクスワーゲンなどの工場が停止。IMFによる成長率予想は+2.1%と、1月予想から▲1.7%ポイントの下方修正、ユーロ圏も+2.8%と、▲1.1%ポイントの下方修正。
米国は11月に中堅選挙を控えており、インフレ抑制が課題。IMFは米連邦準備理事会(FRB)による利上げの加速を織り込み、米国の成長率を+3.7%と、1月予想から▲0.3%ポイント下方修正。
中国は「ゼロコロナ」政策による都市封鎖(ロックダウン)が、経済の停滞を引き起こしています。21年に+8.1だった成長率は、22年には+4.4%に鈍化する見通し。中国の個人消費が落ち込めば、アジア諸国の一次産品に影響する可能性もあります。
IMFは、今回の通しは下振れ余地が大きいとしています。戦争の長期化を懸念。仮に今後の制裁拡大によりロシアの石油・天然ガス輸出がさらに減少すると、世界全体のGDPが23年に▲2%、27年に▲1%減少する影響が出ると予想。
3. G20でも分断化が進展
一方、20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が20日、米ワシントンで閉幕。ウクライナに侵攻したロシアを非難する声が相次ぎ、共同声明も出せずに終了。米国を含めた一部の代表が、ロシア側の出席に反対して途中退出する異例の会合となりました。
議長国のインドネシアのスリ・ムルヤニ財務相は会見で、参加国から「速やかな戦争の終結」を望む声があったとしました。鈴木財務相は「一刻も早く戦争を終結させるため、ロシアへのほか、中国が米欧日の制裁による経済的影響に懸念を表明。
イエレン米財務長官など、米英と韓灘の参加者は、ロシア側の発言が始まる前に体制。鈴木財務相は退席せず、最後まで参加。
4. 原油価格が高止まり
他方、米バイデン大統領は3月8日、ホワイトハウスで記者会見して、ロシア産の原油、天然ガス、石炭と関連の輸入を完全に禁止すると発表。同日に大統領令に署名して、即日発効。米国単独で禁輸に踏み切り、英国も年末までにロシアからの原油を停止。
米英が揃って、ロシアからの主要な外貨獲得手段であるエネルギーの収入を減少させ、ウクライナへの侵攻を行っているロシアに打撃を与える方針。
一方、原油価格は、代表的な指標の1つであるWTIが4月26日現在で、1バレル=101.71ドル、前日比+3.17ドルと高値圏で推移(図表2参照)。3月初旬には一時々130ドル台まで高騰したものの、最近を小動き。
5. 米3月CPI+8.5%に加速
米労働省が4月12日に発表した3月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.5%(図表3参照)。前月の同+7.9%から加速。変動の大きいエネルギーと食料品を除いた指数は同+6.5%の上昇。CPIの市場予想は+8.4%でした。CPIは1981年12月、コア指数は1982年8月以来の高い上昇幅を記録。前月比ではCPIは+1.2%、コア指数は+0.3%の上昇。
米国以外の欧州諸国などでも、インフレ率上昇が顕著となっています。英国国家統計局(ONS)は4月13日、2022年3月の消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比+7.0%と発表。1997年の統計開始以来、最も高い値。また、住宅費を含む消費者物価指数(CPIH)も、同+6.2%と、2006年の統計以降、最高値となりました。
ドイツ、フランスなどでも、原油価格高騰などによるCPI上昇率加速が堅調。日本の3月のCPI総合は前年同月比+1.2%と、2月の+0.9%から加速。生鮮品を除く総合は3月が+0.8%と、2月の同+0.6%から加速。
6. 株価の動向
ではここで米国の株価の動向を見ておきましょう。米国では昨年12月以降、連邦準備理事会(FRB)による利上げの観測が高まりました。それに加えて、2月にはロシアがウクライナに侵攻。地政学リスクの高まりもあり、代表的な株価指数の1つであるS&P500は大きく下落しました(図表4参照)。
米国以外でも、欧州、日本など先進国の株価が軒並み下落。新興国においても、特に中国は上海などのロックダウン(都市封鎖)の影響による生産、消費の停滞などにより、株価が大幅に下落。
米国などのインフ率の高まり、長期金利の上昇、原油、天然ガスなどの商品市況の高止まりにより、今後も世界の主要国の株価が軟調となる可能性があります。特に長期金利の上昇により、グロース株(成長株)に対する警戒感が高まることも考えられます。
おはようございます。ゴールドマン・サックスの経済学者(当時)、ジム・オニール氏が「BRICs」という言葉を用いてから、20年余りが経過。BRICs諸国はこの期間でどのように変貌したのでしょうか。
1. BRICs諸国の概要
まず、BRICs(Brazil、Russia、India、China)は、2000年代に著しい成長を遂げた4か国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の総称。投資銀行ゴールドマン・サックスの経済学者であるジム・オニール氏が書いた投資家向けレポート「Building Better Global Economic BRICs」で初めて用いられ、世界に広がりました。
また、BRICsに南アフリカ(South Africa)を加えた5か国はBRICSと総称されます。近年では、BRICSの表記が一般的です。
只、南アフリカは面積、人口、経済規模などで、他の4か国とは大きく異なるため、ここでは南アフリカを除くBRICsの4か国について考察することとします。
ブラジル、ロシア、インド、中国の4か国は、ジム・オニール氏が最初にBRICsとして総称した時点で、いずれも先進国ではなく発展途上国という共通性がありました。さらに、面積が大きく、人口も多く、人口構成も相対的に若く、大きな発展の可能性があると考えられました。
資源に関しては、ロシアは原油、天然ガス、金などの金属が豊富、ブラジルも鉄鉱石などの資源が豊富。一方、中国をインドは基本的に資源の輸入国であり、全体としてバランスが取れているとも言えます。
また、政治体制としては、ロシアと中国が強権的国家、インドとブラジルは民主的な国家と分類することもできます。
2. 各国の軌跡
では、これらの国は概ねどのような発展を遂げたのでしょうか。オニール氏の分析によると「中国は予想をはるかに上回り、インドは概ね予想通り、ロシアとブラジルは、前半10年は良かったものの、後半10年へ失望的」と、少し前に総括しています。
ロシアとブラジルは、資源が豊富であったため、それに頼りすぎて製造業などの発展を重視してこなかった面があるとみることもできます。また、この両国では政治があまりうまく機能していなかったとの見解をとることも可能でしょう。
中国の1-3月期GDP 成長率は+4.8%に鈍化しました。
3. 中国の1-3月期GDP+4.8%
ここで、中国の景気動向を見ておきましょう。中国の国家統計局は4月18日に今年1-3期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+4.8%と発表(図表1参照)。市場予想の+4.4%を上回り、昨年10-12月期の+4.0%から加速。インフラ投資が堅調。只、新型コロナ・ウィルス抑え込みのために上海などでロックダウン(都市封鎖)を子なっており、行動規制などにより工場の操業率などが低下。ウクライナ情勢による資源高もあり、3月の生産や消費は伸び悩やみ。
季節調整済みのGDP伸び率は前期比+1.3%。10-12月の同+1.5%から減速。年率換算では、+5.3%。
只、キャピタル・エコノミクスと野村のアナリストは、第1四半期のGDP統計の数値などは、経済の減速傾向を過小評価している可能性があるとしています。
4. インド10-12月期成長率+5.4%に減速
続いて、インド統計局が2月28日に発表した10-12月期成長率は、前年同期比+5.4%(図表2参照)。前期の+8.4から減速。市場予想の+6.0%から下振れ。22年1-3月期には、ロシアによるウクライナ侵攻により、さらに減速に恐れがあります。
原油価格が1バレル=100ドルを超えて推移する中、原油需要の80%近くを輸入に頼っているインドでは、貿易赤字拡大や外国為替市場でのルピー下落、インフレ率の上昇に直面する可能性があり、景気に打撃となることが予想されています。
インド準備銀行(中銀)は新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)による打撃を緩和するために、20年3月以降、主要レポ金利を+1.15%ポイント引き下げており、景気回復のめに金利を据え置いています。
5. 10-12月期GDPは+1.6%に減速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は3月4日に、10-12月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.6%であったと発表(図表3参照)。市場予想の+1.1%から上振れ。前期の4.0%から減速。
前期比では▲0.1%と、7-9月期の▲0.4%に続いて、2四半期連続のマイナス成長となり、定義上の景気後退となりました。旱魃による農産物の不振が響きました。22年10月に再選を目指すボルソナロ大統領にとっては逆風となる模様。
4期連続で前年同月比上昇となり、サービス業の+3.3%が牽引。一方、製造業が▲1.3%、農業が▲0.8%と低下。固定資産投資が+3.4%、個人消費が+2.1%、政府支出が+2.8%。
6. ロシアはウクライナで躓く
ロシアはほぼ一人負けの状態。2000年以降、約10年は天然ガス、原油など資源価格が堅調だったこともあり、ロシアもそれなりの成長を遂げていました。只、その後プーチン大統領がチェチェン、ウクライナのクリミア半島に侵攻したことにより、米欧を中心として西側諸国からの制裁が強まりました。国内の経済もオルガルヒと呼ばれる、プーチン氏と個人的に結びついた一部の財閥のみが発展することとなり、自動車産業など製造業の発展が遅れました。依然として天然ガス、原油など資源の輸出に依存する経済体質から脱却できていません。
更に、今年3月にロシアがウクライナに侵攻してからは、米欧日など西側諸国による経済制裁が一層厳しくなっています。ウクライナとの戦闘も長期化する可能性があり、莫大な戦費が国家財政を圧迫することにもなっています。
7. 世界の分断化がさらに進展か
ロシアのウクライナ侵攻とともに、中国と台湾との緊張も高まっています。ロシアは当初、数日でウクライナの首都キーウを陥落する予定であったと報じられていますが、実際には苦戦しています。
西側諸国のウクライナに対する経済的・軍事的支援の高まり、ロシアに対する大規模な経済制裁を見て、中国の習近平主席は台湾への侵攻には慎重な姿勢になっていることも考えられます。
一方、インドは必ずしもロシアへの経済制裁に協力しているわけではなく、ロシアから武器および原油の供給を受けるなど、むしろ両国の結びつきを深める傾向にあります。
このように、ロシアと中国は米国と対立路線をとっており、インドも必ずしも米欧に接近するという態度でもありません。今後も世界の分断化が深まっており、投資家はロシアからの資金を引き揚げる動きを見せています。米欧の投資家は中国からも一部資金を引き揚げる動きとなっています。
世界全体の分散投資においては、従来、MSCI世界株価指数などに単純に分散投資していれば、世界経済の発展を享受でき、比較的安定したリターン(成果)が長期的に得られるとの発想が主流であったといえるでしょう。今後はこのようなパッシブ(受け身)的な分散投資でよいのかどうか、再考する必要があるといえるでしょう。
おはようございます。円が独歩安の様相を強めています。
1. 米CPI上昇率が加速
先ず、円が下落する要因を順次見ましょう。最初に米国の消費者物価指数(CPI)を考察しましょう。米労働省が12日に発表した3月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.5%。前月の同+7.9%から加速し、約40年ぶりの高い伸び率。
CPIは前月比でも+1.2%と、2月の+0.8から加速。2005年9月以来の大幅な伸びを記録。ガソリン価格が+18.3%と、全体の伸びの半分以上を占めました。
市場予想は前年同月比+8.4%、前月比が+1.2%でした。
2. 米長期金利が上昇
米CPI上昇率加速などを受けて、米長期金利(10年)が上昇。10年債の利回りは、14日現在で2.703%まで上昇。これに対して、日本国債10年の利回りは13日現在で0.24%と、相対的に低い水準にとどまっています。日米の金利差拡大が日本円下落の1つの要因となっています。
3. 原油価格が高騰
他方、コロナからの世界的な景気回復、ロシアによるウクライナへの侵攻などを受けて、原油価格が急騰。原油価格の代表的な指標の1つであるWTIは、22年3月末には1バレル=95.632ドル迄上昇。3月8日には、どう124.76ドルに高値を付けました。
世界的な需給逼迫により、天然ガスなどの資源価格、鉄鉱石などの金属価格も上昇。ウクライナ危機の影響もあり、小麦粉など食品価格も高騰。商品市況全般が高騰しています。
4. 日本の経常収支が悪化
財務省が発表した国際収支統計によると、今年2月の日本の経常収支は、1兆6483億円の黒字。経常収支が黒字になるのは3か月振り。原油価格上昇などで輸入額が増加し、黒字額は去年の同じ月を▲40%あまり下回っています。経常収支が黒字になるのは3か月振り。
内訳では、輸出から輸入を差し引いた「貿易収支」は原油や天然ガスの価格上昇により輸入が増加し、▲1768億円の赤字。
一方、海外の証券投資などで獲た利子や配当のより取りである「第一次所得収支」の黒字は、米国国債の利払いが2月に行われたことなどにより、2兆2745億円の黒字となり、経常収支の黒字は確保されました。
5. 円安が加速
資源価格上昇、日米の金利差の拡大、日本の経常収支の悪化などを受けて、円安が加速。特に最近のドルに対する下落幅が大きく、3月7日の1ドル=114.823円から、4月13日には125.662円へと、大きく下落。
円安の進行により、貿易収支および経常収支の悪化、輸入物価上昇によるCPI(消費者物価指数)上昇率の加速などが予想されます。円安による日本企業の採算改善の余地は大きくなく、いわゆる「悪い円安」の進行が予想されます。ひいては、日本株の下落につながることも予想されます。
おはようございます。中国の景気に、減速感が強まっています。
1. 10-12月期GDP+4.0%
まず、中国の国家統計局は1月17日に昨年10-12期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+4.0%と発表(図表1参照)。市場予想の+5.2%を下回り、7-9月期の+4.9%から減速。中国は昨年には主要国に先駆けて新型コロナ・ウィルスの感染を抑え込んだとして、経済を再開。ただ、ここにきて景気の息切れ感が強まっています。
21年の国内GDPは、実質で+8.1%。新型コロナ・ウィルス流行の影響により経済活動が停止した前年の反動により、4年ぶりに全ン絵の成長率を上回りました。政府目標の「+6%以上」を上回り、11年の+9.6以来の伸びとなりました。
2. 3月製造業PMIは前月から上昇
続いて、中国の国家統計局が3月31日発表した3月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.5と、前月の50.2から低下。市場予想の49.8から下振れ(図表2参照)。景気の拡大・縮小の節目となる50を割り込みました。当局は、新型コロナ・ウィルス感染拡大の抑え込みのため、テクノロジーや製造業の主要生産拠点のロックダウン(都市封鎖)を行っており、景気の見通しの低下を招きました。
3. 非製造業PMIも低下
一方、同日に発表された3月の非製造業PMIは48.4と、前月の51.6から低下。市場予想の50.3を下回りました。
国家統計局の統計学者、趙慶河氏は 製造業と非製造業のPMIがいずれも低下したことについて、全般的な経済の勢いが鈍ったことを示唆するとしました。供給者の納期を測定する指数が46.5に低下し、2020年2月以来の低水準にとどまったことも述べ、ロックダウンによって「製造業のサプライチェーンの安定性」に影響が及んだとしました。
4. 不動産市場が低迷
一方、中国の新築住宅価格は2月に下落幅が再び加速。当局が梃入れに動いているものの、不動産市場の低迷が継続しています。
国家統計局が16日発表した統計によると、主要70都市の新築住宅価格(政府支援住宅を除く)は、2月に前月比▲0.13%下落。1月の下げ率▲0.04%から下げ幅が拡大。中古市場は▲0.28%と、下落ペースは1月に同じ。
中国恒大など不動産開発会社の流動性危機がデフォルト(債務不履行)に繋がり、波及懸念が業界と広範な経済全体に拡大。このところ、複数の地方政府が住宅ローンの金利や頭金要件の引き下げといった需要喚起政策を実施しています。
5. 新型コロナ・ウィルス感染が拡大
中国では新型コロナ・ウィルス感染が拡大しており、これも景気減速の要因の1つとなっています。厳しい外出制限が行われている最大都市の上海では、新に核にされた新型コロナ・ウィルス感染者が5日連続で過去最高となりました。上海市当局は市内全域で再び、検査を実施して、外出制限を続ける方針を示唆して、経済活動がさらに停滞するとの懸念が高まっています。
上海では新型コロナの感染が5日、無症状の人を中心に1万7077人確認され、5日連続で過去最高を更新。
感染の拡大に歯止めがかからない中、上海市当局は6日、市内全域で再び、ウィルス検査を実施すると発表。
6. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表3の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落。
米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、米中貿易摩擦の影響、当局による介入などにより、為替市場は乱高下しました。20年に入り大幅に上昇し、その後急落。21年に入るとやや戻し、22年3月末現在では、2020年12月末との比較で+2.87%の小幅上昇。
株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。
18年に入ると下落に転じ、18年12月末には24930ポイントまで下落し、その後は回復基調。22年3月末には20年12月末と比較して▲6.35%の小幅下落。
7. 当面の注目点は米中関係、不動産市況
当面の注目点としては、米中関係が回復するかどうか、ということがあります。米バイデン政権は、トランプ前政権と同様中国に厳しい姿勢をとるものの、二酸化酸素削減などでは、共同歩調を探る姿勢も見せています。
ウクライナ情勢を巡っては、中国がロシア寄りの姿勢を国連などで示しています。バイデン政権は中国がロシアに対して武器援助など行わないよう要求。中国はロシアをウクライナの和平の仲介の用意があるとの姿勢を示しているものの、具体的な行動に移していません。
そのほかのリスク要因として、上記の通り不動産市場の低迷、新型コロナの感染拡大による都市の閉鎖(ロックダウン)、またそれによる工場などの操業率の低下があります。
ロシアによるウクライナ侵攻の影響などにより、原油、天然ガスなど資源価格が高騰。資源輸入国である中国にとっては、輸入物価上昇、ひいては生産者物価指数(PPI)、消費者物価指数(CPI)上昇に繋がる恐れがあります。
中国共産党は2022年、+5.5%前後の国内総生産(GDP)成長率を実現する目標を掲げています。只、足下の状況を見ると、新型コロナ感染拡大による上海など主要都市の機能低下もあり、実現はかなり難しいと思われます。
おはようございます。トルコ経済の混乱が継続しています。
1. 2月CPI上昇率急加速
まず、経済指標を見ましょう。トルコ統計局が3月3日に発表した2月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+54.44%となり、前月の+48.69%から伸び率が急加速。市場予想の+52.95から上振れして、02年2月の同+65.11%以来、19年11か月振りの大幅上昇。CPI伸び率は、20年11月の同+14.03%以来、加速傾向にあります。今回の2月CPIは、21年7月の同+18.95%以来、9か月連続で加速。
エネルギー価格高騰や、通貨リラの下落により、インフレ率が加速。今後は、ロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴う西側諸国の対ロ経済制裁により、エネルギー価格などがさらに上昇すると予想されており、インフレ圧力が一段と高まる見込み。
2. 政策金利を据え置き
一方、トルコ中央銀行は3月17日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を14.00%に据え置くことに決定(図表2参照)。据え置きは3会合連続で、市場の予想通り。
中銀は現状維持とした理由について、前回2月の会合時と同様に、「インフレ率は物価と金融の持続的安定のために講じられた措置により、ディスインフレのプロセス(インフレの低下基調)が始まる」と判断していることを挙げて、インフレが減速に転換するとの見通しを示唆。
ロシアによるウクライナへの侵攻については、「地政学的リスクは、世界全体や各国の経済活動に対する下振れリスクを持続して、(景気先行きへの)不確実性を一段と高めている」と懸念を表明。
3. 10-12月期成長率+7.4%
他方、トルコ統計局が2月28日に発表した7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+9.1% (図表3参照)。7-9月期の+7.5%から加速。市場予想の+9.0%から上振れ。6期連続でプラス成長が続いています。
主な内訳では、政府最終消費支出が+21.4%と、前期の+9.1%から加速。総固定資本形成は▲0.8%と、前期の▲1.9%に続いて不振。政府最終消費支出も▲1.9%と、前期の+7.9%から3期ぶりに減少に転じました。
4. 資源価格上昇が痛手
一方、上述の通り、ロシアによるウクライナ侵攻などにより、国際的に原油・天然ガスなど資源価格が上昇。トルコは国内で消費する原油及び天然ガスの大半を中東からの輸入に依存しており、貿易収支が急速に悪化。また、海外からの観光客の4分の1はロシアとウくらいからであるため、観光業も大きな打撃を受けています。
輸入物価の大幅上昇などにより、インフレ率の亢進が続いています。しかし、エルドアン大統領の圧力により、中銀は昨年には利下げを繰り返しました。そのため、通貨リラの大幅下落を招くこととなりました。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。20年12月末から22年2月末まででも▲86.68%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。22年2月末と20年12月末との比較では+31.79%と堅調。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率の高止まりの可能性が高いと予想されます。
トルコ政府は昨年末にリラ相場の安定を図るべく、トルコ国民のリラ建て定期預金のハードカレンシーに対する価値を政府が保証する、事実上の米ドルペッグ制という奇策を発表。1月半ば以降は、奇策も功を奏してリラの急激な下落は一服する場面もありました。只、その後はウクライナ情勢など地政学的リスクの高まり、国際的金融環境の引き締まり、資源価格上昇などが意識され、再びリラが下落する傾向にあります。
おはようございます。世界で、米欧とロシアの対立など、分断化が進行しつつあります。このような状況において、どのように投資していくべきでしょうか。
1. 米欧日とロシアの対立が先鋭化
まず、地政学リスクのうち、ロシアと米欧日など西側諸国との対立を見ましょう。ロシアのウクライナへの侵攻から1か月ほどが過ぎましたが、戦況自体は膠着の度合いを深めています。ロシアのプーチン大統領は数日でウクライナを占領するともくろんでいた節がありますが、事態はそのような思惑とは反対に、長期化の可能性が高まっています。
米欧などによる制裁により、ロシア産の原油、天然ガスの輸出が減少するのでないか、との予測が浮上。事実、ロシア産の原油、天然ガスの欧州などに向けた輸出が大幅減少。
米バイデン大統領は8日、ホワイトハウスで記者会見し、ロシア産の原油、天然ガス、石炭と関連の製品の輸入を完全に禁止すると発表。同日に大統領令に署名して、即日発効。米国単独で禁輸に踏み切り、英国も年末までにロシアからの原油を停止。
米英が揃って、ロシアの主要な外貨獲得手段であるエネルギー収入を減少させ、ウクライナへの侵攻を行っているロシアに打撃を与えるという意図。
一方、原油価格は、代表的な指標の1つであるWTIが3月24日6時現在で、1バレル=114.31ドルと高値圏で推移(図表1参照)。北海ブレントは同121.33ドル。
2. 商品市況が高騰
また、ウクライナ侵攻により、同国からの小麦輸出が減少するとの予想などにより、小麦など穀物価格も上昇。アルミなど金属の上昇もあり、商品市況の代表的な指標の1つであるCRB指数も大幅上昇(図表2参照)。
3. 米中の対立が継続
一方、米中の対立も継続。バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は18日、ロシアによるウクライナ侵攻などを巡り、テレビ会議形式で協議。習氏は「全方位、無差別の制裁で被害を受けるのは一般庶民だ」として、対ロ制裁に反対。
狭義は1時間50分におよびました。米中首脳の協議は2021年11月以来で、ロシアによる侵攻後では初めて。
中国国営新華社によると、習氏は「各当事者はロシアとウクライナによる対話を指示すべきだ」としました。米国と北大西洋条約機構(NATO)に、ロシアとの直接協議を促したうえで、「ロシア・ウクライナ双方の安全保障上の懸念を解消すべきだ」としました。ロシアが批判するNATOの東方拡大などが年頭にあるとみられます。
4. OPECプラスが減産を継続
他方、産油国と原油の消費国との対立も継続。一昨年に石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど一部の非加盟国による枠組みである「OPECプラス」は、過去最大規模となる減産で合意。その後、世界経済の回復により、減産を段階的に縮小させてきました。
世界経済の回復を受けて原油需要の底入れが進み、協調減産の縮小は小幅に進められたため、さらに世界の金余りもあり、国際原油価格は上昇ペースを強めました。
OPECプラスは2月の協調減産枠を協議する合同専門委員会(JTC)および合同閣僚監視委員会(UJMCにおいて、現状維持(日量40万バレルの協調減産)を継続する方針を決定。
米国は国内のシェールガスの増産を進めるとみられるものの、国内の原油、天然ガス資源が乏しい日欧、インド、中国などは、特にOPECプラスによる原油減産継続の影響をうけるとみられます。
5. 株価の動向
ではここで米国の株価の動向を見ておきましょう。米国では昨年12月以降、連邦準備理事会(FRB)による利上げの観測が高まりました。それに加えて、2月にはロシアがウクライナに侵攻。地政学リスクの高まりもあり、代表的な株価指数の1つであるS&P500は大きく下落しました(図表3参照)。
ここにきて、ウクライナ情勢は膠着状態に陥りつつあり、原油など資源価格も高止まりしているものの、米欧日など主要国の株価は、やや落ち着いた動きを見せています。
今後も原油など資源価格の高騰、米国など主要国のインフレ率の高まりなどのリスクはあるものの、株式市場でパニック的な売りが出る可能性は低下しているようにも見えます。投資家には、冷静な行動が必要な局面であるといえるでしょう。
おはようございます。インド経済は回復が続いているものの、新型コロナ・ウィルスの新たな変異種の感染再拡大などのリスクもあります。
1. 消費者物価指数上昇率が鈍化
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が3月14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.07%(図表1参照)。前月の+6.01%からやや加速。市場予想の+5.93%から上振れ。
2. 10-12月期成長率+5.4%に減速
続いて、インド統計局が2月28日に発表した10-12月期成長率は、前年同期比+5.4%(図表2参照)。前期の+8.4から減速。市場予想の+6.0%から下振れ。22年1-3月期には、ロシアによるウクライナ侵攻により、さらに減速に恐れがあります。
原油価格が1バレル=100ドルを超えて推移する中、原油需要の80%近くを輸入に頼っているインドでは、貿易赤字拡大や外国為替市場でのルピー下落、インフレ率の上昇に直面する可能性があり、景気に打撃となることが予想されています。
インド準備銀行(中銀)は新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)による打撃を緩和するために、20年3月以降、主要レポ金利を+1.15%ポイント引き下げており、景気回復のめに金利を据え置いています。
3. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行)は2月10日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表3参照)。据え置きは市場の予想通り。据え置きは10会合連続。新型コロナ・ウィルス禍からの持続的な景気回復を確実にするために、財政支援を側面から支えることにしました。
ダス中銀総裁は、6人からなる政策委員会が緩和的姿勢を維持したと述べ、インフレ加速にも関わらず、国内経済には継続的な支援策が必要だと示唆。
4. 新たな変異株に懸念も回復へ
インドでは、2020年以降、新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、政府が都市封鎖(ロックダウン)などを実施。人流、物流が止まるなどして、経済が大きな打撃を受けました。その後、ワクチンの接種が進んだこともあり、ロックダウンを解除するなど、景気の回復が進んできました。
その後、新型コロナ・ウィルスの変異種であるデルタ株が拡大。回復が躓くこととなりましたが、ワクチン接種の強化や感染拡大による免疫獲得により、感染動向が改善。政策支援もあり、企業と消費者のマインドが回復。
一方、昨年末以降、インドでもオミクロン株の感染が拡大。政府は今月初めにオミクロン株感染拡大を理由として今年度の成長率見通しを下方修正。他方、中銀はオミクロン株の影響について「鉄砲水」と表現するとともに、内需の堅調さを楽観。
只、足下では感染拡大の動きが医療インフラの乏しい地方に拡大しているほか、年明け以降には人の移動が低下。感染が長期化すれば、景気の下押し要因となる可能性があります。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)2021年12月末と2022年2月末との比較では、▲3.3%の下落。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、2019年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。22年2月末には56,247ポイントと、20年12月末比では+17.7%と、やや上昇。
只、昨年末以降には、米連邦準備理事会(FRB)が利上げするとの観測、オミクロン株の感染拡大、さらに最近のウクライナ情勢の緊迫化もあり、株価はやや下落しています。
6. 課題とリスク
上記の通り、新型コロナ・ウィルスの変異種であるオミクロン株の感染拡大の懸念のほか、ロシアとウクライナとの紛争も、インド経済に影を落としています。
ロシア産の原油、天然ガスの供給が減少に転じていることから、世界的に原油、天然ガスなど資源価格が高騰。インドは基本的に原油など資源を輸入に頼っており、輸入物価への影響が懸念されます。
また、米欧などによるロシアへの制裁強化により、電気自動車(EV)生産に必要な、パラジウムなど稀少金属の供給への影響、それらの要因が世界経済の下押し要因となる懸念があります。
インドは主要な新興国の中では相対的に景気回復が堅調であるものの、今後は世界景気の下押しにより、インド国内の景気も影響を受けるものと予想されます。
おはようございます。ロシア経済が低迷しており、デフォルトの可能性も出てきました。
1. 7-9月期成長率+4.3%
まず、ロシアの景気の状況を見ましょう。連邦国家統計局は11月17日、7-9月期実質成長率(前年同期比、速報値)を+4.3%と発表。天然ガスや石油の価格上昇が寄与したほか、個人消費が回復。四半期ベースでは、4-6月期に続いて2四半期連続でプラス成長(図表1参照)。
前年同期は新型コロナ・ウィルスの感染拡大やエネルギー価格下落の落ち込みが響き、▲3.4%のマイナス成長となっていました。
今年秋以降には、新型コロナ・ウィルス感染がデルタ型の急増に伴い拡大し、1日当たりの死者数は過去最高の水準で推移。10-12月期の内需に影響する可能性があります。
2. インフレ率が引き続き高水準
国家統計局から3月9日発表された2月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+9.17%と、前月の+8.73%から加速(図表2参照)。引き続き高い水準を維持。
3. 政策金利を引き上げ
一方、ロシア中央銀行は2月28日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも9.5%から20%に引き上げ(図表3参照)。
ルーブルが最安値を更新する中、一連の国内市場支援策を発表したのに続き、緊急利下げを行いました。さらに中銀と財務省は、外貨建て収入の80%を売却するよう企業に指示。
ナビウリナ総裁「インフレは以前高水準だ。我々の決定は来年末までに目標値まで確実に引き下げることを目標としている」としました。インフレ率は11月の+8.14%から12月に鈍化して、22年には利上げサイクルの累積効果が完全に可視化される可能性が高い。
4. 大手格付け機関が国債の格付けを引下げ
他方、他方、ロシアのウクライナへの侵攻を受けて、格付け機関大手3社は25に、ロシアの格付けを引下げ、あるいは見直す方向であると発表。
ロシアについてS&Pは25日に「BBB-」から投機的である「BB-」に格下げ。さらに3日には信用リスクが極めて高いとされる「CCC-」まで格下げ。ムーディーズは格下げ方向であると発表。
また格付け機関大手のフィッチも、ロシアの格付けを「BBB」から投機的である「B」に引下げ、格下げ方向で見直す「レーティング・ウォッチ・ネガティブ」であるとしました。さらに3月8日にはさらに6段階臭げして「C」とし、同国が債務不履行(デフォルト)に近い状態であるとしました。
更に格付け機関大手のムーディーズ・インベスターズも3日、ロシアの長期外貨建て格付けを「Baa3」から投機的である「B3」に引下げ。ムーディーズもやはり7日、デフォルト寸前である「Ca」に格下げ。
5. デフォルトの恐れ
ロイターは2日、ロシアの中銀がルーブル建て国債を保有する外国人投資家に対する利払いを停止したと報じました。米欧の厳しい経済制裁でルーブルは暴落しており、利払いを止めて、資金流出に歯止めをかける狙いと見られます。
米欧はロシア中銀の外貨準備の取引を制限する厳しい金融規制を打ち出しています。国際的な毛細網である国際銀行間通信協会(SWIFT)から、ロシアの銀行が排除されれば、貿易による資金が入らなくなることとなります。
6.外貨不足が深刻
更に、米欧日などによる経済制裁を受けて、各国がロシア産の原油の輸入を大幅に減らしています。2月27日から3月5日のロシア国内から出航したタンカーは日量100万バレル台にとどまりました。同300万から400万バレル台であった1月と比較して6〜7割減少。
主要な収入源である原油輸出が大幅に落ち込んだことにより、外貨不足が深刻になっています。外貨準備の多くが凍結された上に、日常的な収入も減り、外貨不足が深刻。
ロシア政府の歳入は通常、3〜5割がエネルギー関連。原油、天然ガスなど資源の輸出が滞れば、政府の歳入が大幅に減少し、年金の支払い、軍事費などに影響が出る可能性があります。
7. 為替
ここで、ロシアの為替の動きを見ましょう。ロシアの通貨であるロシア・ルーブルは、1月以降、対ドルで大幅に下落(図表4参照)。1月31日の1ドル=78.10ルーブルから3月9日には同130.00ルーブルへと下落。下落率は▲66.4%に達しました。ウクライナ情勢などをめぐる、上記の地政学的リスクが影響していると考えられます。
8. リスク要因
リスク要因としては、欧米とのウクライナをめぐる対立により、天然ガスあるいは原油の輸出が大幅に減少する恐れがあります。輸出額に占める天然ガスと原油の比率は約6割に上っており、エネルギー産業が大きな打撃を受ける恐れがあります。
さらに、ルーブルの下落による物価上昇が挙げられます。2月のCPI上昇率は上記の通り+9.17%と引き続き高い水準。通貨ルーブルの下落は輸入物価を押し上げる要因となり、今後も引き続きCPI上昇率は高止まりすると予想されます。
原油、天然ガスなど資源価格はウクライナの混乱もあり、急上昇しています。只、地政学リスクの高まりなどにより、通貨ルーブルには一段の下押し圧力がかかることも考えられます。
おはようございます。IMF(国際通貨基金)が世界経済見通しを引き下げるなど、世界的に景気減速の可能性が高まっています
1. 世界の22年成長率+4.4%に引き下げ
国際通貨基金(IMF)は2022年1月発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、2022年の世界経済成長率見通しを4.4%と、前回10月の予想から▲0.5%引き下げ(図表1参照)。新型コロナ・ウィルスの変異株「オミクロン」が蔓延したことを受けて、各国は再び移動制限を拡大。エネルギー価格上昇と供給中断によって、予想以上に広範囲に渡る激しいインフレが起きており、これは米国と新興市場国・発展途上国の多くで顕著である。さらに、中国における不動産部門の減速や民間消費の予想を下回る回復により、限定的な成長見込みである、としています。
2. 商品価格が大幅上昇
米国、あるいはEU(欧州連合)、英国、新興国などで、幅広く物価が上昇。特に商品価格が世界的に著しく上昇しています。
商品(コモディティ)の代表的な指数の1つであるCRB指数は、新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)などの影響により、20年4月24日には112.75ポイントに低下(図表2参照)。2022年3月2日には289.09ポイント。今後も急激に上昇する恐れがあります。
3. 原油価格も大幅上昇
一方、原油価格も大幅上昇。代表的な原油価格の指標であるWTIは、20年4月には1バレル=16.52ドル迄下落(図表3参照)。新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)などにより、世界の景気が大きく落ち込み、原油などに対するエネルギー需要も大幅に下落。原油、天然ガスなど資源価格が大幅下落。
その後は、新型コロナ・ウィルス感染終息への期待、世界景気の回復、それに伴う原油など資源への需要の増大により、原油価格が急回復。22年3月3日7:00現在(日本時間)には1バレル=111.35ドルへと急騰。
世界的に脱酸素への動きが拡大しており、原油、天然がるなどいわゆる化石燃料への投資が大幅に落ち込んでいます。その中で世界の景気拡大、エネルギー需要の急回復により、今後、原油価格が1バレル=110ドル以上の高値安定となることも予想されます。
FRBが3月以降利上げに踏み切るとすれば、企業にとっては資金調達コストの上昇につながり、減益要因となります。特に、昨年まで買われてきた、ITなどハイテク株、あるいはグロース(成長)への売りが拡大する可能性もあります。
また、新興国にとっては、米国など先進国の利上げは、資金調達コストの上昇、企業利益の
4. 1月米CPI上昇率+7.5%
商品価格高騰などにより、各国でインフレ率が上昇。米労働省が2月10日に発表した2022年1月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.5%と、21年12月の同7.0%から加速。82年2月以来の上昇率(図表4参照)。
変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は+6.0%。市場予測はそれぞれ、+7.2%、+5.9%でした。コアCPIは1982年8月以来の上昇率。
5. 地政学リスク上昇
一方、ロシアがウクライナに侵攻するなど、地政学リスクが上昇。当初、ロシアは4日程度でウクライナ全土を掌握できると踏んでいた節がありますが、ウクライナ軍が激しく抵抗。3日現在で、ロシアはウクライナに首都キエフ、ハリコフなど主要都市への攻撃を強めていますが、当初のロシアの思惑とは異なり、戦闘が長期化する可能性もあります。
欧州とロシアとの関係が悪化したことにより、特に欧州ではロシアからの天然ガスの輸入に対するエネルギーの確保に追われています。北米、北アフリカなどから調達しても、消費量の約1割の4000万とが不足する計算。エネルギー不足により天然ガス、原油など資源価格がさらに上昇し、欧州の景気の打撃を与えると予想されます。
6. 世界的に景気減速へ
このように、原油、天然ガスなどの価格上昇にくわえて、アルミなど金属価格も大幅に上昇する傾向にあります。米欧日などによるロシアへの経済制裁の強化により、ロシアからの輸入に支障が生じることも考えられます。
また、ロシアのウクライナへの侵攻を受けて、資源に直接関連しない企業もロシアでの商行為を停止する動きが拡大。米アップルは米国時間3月1日、ロシアで製品販売を停止すると発表。同社は声明で「当社はロシアによるウクライナ侵攻を深く懸念している。破壊的行為で苦しんでいるすべての人々に寄り添う」としました。
ロシアが現地時間2月23日にウクライナへの侵攻を開始したことを受けて、これまでに複数のテック企業が対応を表明。メタが運営するフェイスブック、てぃくとく、グーグル傘下のユーチューブなどが誤情報への対応を強化し、ロシア国営メディアRTニュースなどへのアクセスを制限するなどの対応を発表。
このように、資源価格高騰、地政学リスク上昇などにより、世界的に景気が減速する恐れが高まっています。世界的に株価も、上値の重い展開となる可能性があります。
おはようございます。ロシアがウクライナに侵攻する構えを見せるなど、世界的に地政学リスクが高まっています。現在の状況と今後の見通しなどを考えてみましょう。
1. プーチン氏ウクライナ東部への派兵を要請
まず、ロシアのプーチン大統領は22日、ウクライナ東部への親露派支配地域における露軍の活動許可を露上院に申請し、上院は即日承認。ウクライナでの本格的な軍事行動着手するための国内の手続きが完了。プーチン氏は親露派支配地域への「平和維持軍」部隊派遣を国防省に銘じていました。
プーチン氏は22日の記者会見で、ウクライナ情勢の緊張緩和に関して、従来主張してきたウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟断念だけでは不十分であると指摘。中立宣言や「ウクライナにはある程度の武装解除が必要だ」との見解を示唆。新たな条件として、ロシアによるクリミア併合をウクライナが承認することも上げました。
プーチン氏が要求を一段と高めたため、米欧との外交交渉がさらに難しくなるのは必至。プーチン氏はウクライナ東部での政府軍と進路は武装集団との紛争解決に向けた「ミンスク合意」に関しては「失効した」と示唆。
2. 米欧日は経済制裁を発動
ロシアがウクライナの親露派支配地域の独立を承認し、ロシア軍の派兵を認めたことに対して、米欧と日本は経済制裁の第1弾を発表。バイデン米大統領は22日、ロシアの行動を「侵攻の始まりだ」としました。
米欧日はロシアの銀行の取引制限や政権幹部らの個人資産の凍結を決定。本格的な侵攻を抑制するために、追加制裁も検討。ウクライナ情勢いを巡るロシアと米欧との対立は新たな局面を迎えました。
バイデン大統領は22日の演説で、対ロシア政策を「第1弾」と位置づけました。インフラ整備と軍需産業の資金調達を担うロシア国営の大手2銀行が米国内で取引できないようにすると表明。
ロシアが侵攻を本格化させた場合の追加制裁として、米政府高官は22日、ロシア最大手銀行のズベルバンクなども制裁リストに加えることも検討。只、銀行間の国際的な決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアを外す制裁案は第1弾からは除外しました。
3.中台の緊張高まる
一方、中国の習近平国家主席は、台湾に対する圧力を高めており、中台の緊張が高まっています。米バイデン大統領も中台の関係にたびたび言及しており、ウクライナのような一色即発の事態には至っていませんが、緊張が高まっています。
中台の緊張が高まる中、1月6日には、台湾リグンが同国南部の高尾氏で紫外線の演習をメディアに公開。演習は「青旗」が守る市街地を「赤旗」が攻撃するシナリオに沿って実施され、赤や白の煙が流れる中、装輪装甲車の機銃音や対戦車ロケット弾などの発射音が模擬洗浄に鳴り響きました。
同様の紫外線は、照り付ける真夏の太陽の下や、極寒の中など異なる気象条件の下でも実施の予定。
他方、中国は南シナ海でも従来、軍事的存在感を高めています。人工島を造るなどして、南シナ海の大半が「九段線」と称する断続する9つの線の内側が、自国の権利が及ぶ地域であるとしています。
4. 原油価格が大幅上昇
一方、原油価格も大幅上昇。代表的な原油価格の指標であるWTIは、22日のNY市場で一時、約7年半ぶりとなる1バレル=96台まで上昇。ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部の親露派支配地域の独立を一方的に承認したことにより、産油国ロシアからの供給が減少するのではないかという懸念が浮上。原油価格の更なる上昇につながりました。
WTI先物価格は新型コロナ・ウィルスの変異種、オミクロン株への警戒感から昨年12月の初めには一時、62台まで下落していましたが、その後上昇に転じて、今月14日に95ドル台を付けていました(図表1参照)。
市場関係者は、「欧米各国などによるロシアへの制裁の内容によっては、ロシアからの原油の供給が減少すると懸念する投資家が多くなっています。原油価格は当面、制裁の内容やロシアの対応に左右されそうだ」と話しています。
5. 金価格も上昇
地金大手の田中貴金属工業は22日、金を1グラム当たり前日よりも1円値上げして7791円で販売すると決定。小売価格として2日連続で過去最高を更新。金は有事の安全資産とされており、ウクライナ情勢緊迫化におり、値上がり傾向にあります。
日本取引所グループ(JPX)傘下の大阪取引所の金先物も同日、指標価格が一時7040円に上昇して、取引時間中の最高値に迫りました
他方、米欧、日本、その他新興国などで、ウクライナ情勢の緊迫化を受けて株価は大幅に下落。22日のNY市場では、NYダウが一時▲700ドルを超える大幅下落。今後も、世界的に株価は軟調な展開となることも予想されます。
おはようございます。。世界的に物価が上昇傾向にあります。物価上昇、即ちインフレをどのように捉えるべきか、その影響などのようなものか、またどのように投資判断をすべきなのか、考えてみましょう。
1. 1月米CPI上昇率+7.5%
まず、米国の状況を見ましょう。米労働省が2月10日に発表した2022年1月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.5%と、21年12月の同7.0%から加速。82年2月以来の上昇率。
変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は+6.0%。市場予測はそれぞれ、+7.2%、+5.9%でした。コアCPIは1982年8月以来の上昇率。
2. 商品価格が大幅上昇
米国、あるいはEU(欧州連合)、英国、新興国などで、幅広く物価が上昇。特に商品価格が世界的に著しく上昇しています。
商品(コモディティ)の代表的な指数の1つであるCRB指数は、新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)などの影響により、20年4月24日には112.75ポイントに低下(図表2参照)。2022年2月15日には262.06ポイントとなっており、+132.3%の大幅上昇。
3. 原油価格も大幅上昇
一方、原油価格も大幅上昇。代表的な原油価格の指標であるWTIは、20年4月には1バレル=16.52ドル迄下落(図表3参照)。新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)などにより、世界の景気が大きく落ち込み、原油などに対するエネルギー需要も大幅に下落。原油、天然ガスなど資源価格が大幅下落。
その後は、新型コロナ・ウィルス感染終息への期待、世界景気の回復、それに伴う原油など資源への需要の増大により、原油価格が急回復。22年1月末には1バレル=83.12ドルへと急回復。
世界的に脱酸素への動きが拡大しており、原油、天然がるなどいわゆる化石燃料への投資が大幅に落ち込んでいます。その中で世界の景気拡大、エネルギー需要の急回復により、今後、原油価格が1バレル=100ドルを目指すとの予想もあります。
4. FRBは利上げへ
米国における大幅なCPI上昇、時間当たり賃金の上昇を受けて、米連邦準備理事会(FRB)はテーパリング(資産買い入れ額の縮小)に続き、3月にも利上げに踏み切ると予想されています。
FRBが3月以降利上げに踏み切るとすれば、企業にとっては資金調達コストの上昇につながり、減益要因となります。特に、昨年まで買われてきた、ITなどハイテク株、あるいはグロース(成長)への売りが拡大する可能性もあります。
また、新興国にとっては、米国など先進国の利上げは、資金調達コストの上昇、企業利益の低下、投資家の資金回収などにつながると予想されます。新興国の株式市場、為替市場は、投資家の資金引き上げなどにより、軟調な展開となる可能性があります。
おはようございます。米国では、物価と金利上昇などが焦点となっています。米国経済を点検しましょう。
1. 米CPI上昇率加速
まず、米国の物価を見ておきましょう。米労働省が12月10日発表した消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.8%(図表1参照)。変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は同+4.9%。市場予想はそれぞれ+6.7%、+4.9%でした。
各指標の伸び率を見ると、CPIは1982年6月以来、コア指数は1991年6月以来で最大。一方、前月比ではCPI上昇率が+0.8%、コアCPIが+0.5%と、前月のそれぞれ+0.9%、+0.6%から鈍化。
問題は今後もこのような高いCPI上昇率が続くかどうかですが、原油価格の高止まり、世界的な需要の回復、米国内の雇用情勢の逼迫を考えると、今後もCPIの高い伸び率が継続する可能性が高いと考えられます。
2. FRBはテーパリング終了を前倒し、利上げへ
一方、米連邦準備理事会は、12月14-15日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催して、フェデラルファンドレート(FF)レートの0.00-0.25%の誘導目標維持を決定。さらに、米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドルこうにゅうしてきた量的緩和策について、前回会合で毎月150億ドルずつの減額(テーパリング)開始を決定して今が、22年1月より売の毎月300億ドルに増額することを決定。これにより、22年6月に予定していたテーパリングの終了前倒しを決定。
更に、パウエルFRB議長は「現状は最大雇用に近づいており、加えて高インフレにある中では、リアが迄の期間は(過去のテーパリング後の利上げのように)それほど長くないだろう」として、テーパリング終了予定の22年3月以降、早期の利上げに踏み切る可能性を示唆。
3. 7-9月期GDPは+4.9%に減速
他方、米商務省が10月28日発表した7−9月期GDP成長率(速報値)は、前年同期比で+4.9%と、前期の同+12.2%から減速(図表2参照)。前月比は+2.0%と、前期の同+6.7%から減速。新型コロナ・ウィルスの感染再拡大や物価上昇、製品供給網(サプライチェーン)の目詰まりなど逆風が強まりました。
7-9月期の成長率鈍化には、個人消費が前期比+1.6%へと急減速したことが反映されています。4-6月は同+12%。原材料や人員の不足、輸送面のボトルネック、物価上昇、デルタ株の万円が財・サービス支出を抑制しました。特に自動車に対する支出のGDP寄与度が▲2.39%ポイント。自動車メーカーは、半導体不足デイ生産と在庫の増大に苦慮しています。
4. 雇用者数は堅調
米労働省は2月4日に1月の雇用統計を3日に発表し、非農業部門の雇用者数増加は前月比+46.7万人と堅調。事前に発表されたADPによる統計では、2月2日に発表された1月ぶんが▲30.1万人の減少であったため、雇用統計における非脳病部門の大幅増加はサプライズでした。
1月の失業率は4.0で、前月の3.9%から小幅上昇。FRB(連邦準備理事会)は、目標の1つである「最愛雇用」達成時の失業率を4.0%程度と見ています。
一方、時間当たり賃金は前年同月比+5.7%。賃金上昇圧力が高まっている模様。雇用環境の改善が続いています。
5. 新興国は利上げで対応
一方、新興国では利上げ圧力が高まっています。FRBが3月にも利上げに踏み切ると予想されているため、新興国では通貨下落とインフレ率上昇抑制を目指しています。原油など資源価格の先高観も強く、新興国では、物価と景気の安定の両にらみの難しい金融政策を強いられることとなりそうです。
ブラジル中銀は2日の金融政策決定会合で、政策金利を10.75%から1.5%ポイント引き上げ。利上げは8会合連続で、1月の消費者物価指数は前年同月比10.38%と高止まりしており、中銀の目標である+5%の2倍を超えました。
また、メキシコもインフレへの対応に苦慮。10-12月期GDPは全四半期比で▲0.1%であったものの10日に6会合連続の利上げが予想されます。ブラジルと同様、成長率は前期比で2期連続のマイナス。
ロシアも11日に8会合連続となる利上げが予想されています。政策金利を8.5%から9.75%に引き上げるとの観測も浮上。ウクライナを巡る地政学的リスクも高まっており、通貨ルーブルの下落が加速すれば、インフレ圧力がさらに高まることも予想されます。
おはようございます。フィリピン経済の回復が続いています。
1. 12月CPIが減速
フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は1月5日に、12月の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比+3.6%になったと発表(図表1参照)。伸び率は12か月振りの低さで、前月の+4.2%から大幅減速。市場予想の+3.9%から下振れ。
2. 政策金利を据え置き
一方、フィリピン中央銀行は12月16日の金融政策決定会合で、主要政策金利である翌日物借入金利を据え置きました(図表2参照、上限を表示)。据え置きは市場の予想通り。新型コロナ・ウィルスのオミクロン株の影響を巡る不透明感が増大する中、景気を下支えする意向。インフレ環境は引き続き「制御可能」との認識を示唆。
中銀のジョクノ総裁は会見で「総合的にみると、インフレ環境が制御可能なため、性悪手段を忍耐強く維持する余地がある」としました。また同総裁は、おミクロ株の出現で、経済成長とインフレ率の双方に下振れリスクがあると指摘。「このため、現段階では、現行の金融政策支援を維持することで、今後四半期の景気の勢いを維持できるだろう」と述べました。
3. 10-12月GDP+7.7%に回復
一方、フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は1月27日に、昨年10-12月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+7.7%の伸びになったと発表(図表3参照)。7-9月期の改定値+6.9%から加速し、市場予想の+6.0%から上振れ。クリスマス休暇前に新型コロナ・ウィルスの感染が落ち着いたことを背景に、消費支出が拡大。
21年通年のGDP成長率は+5.6%と、政府の目標である+5.0-5.5%を上回りました。第4四半期のGDPは前期比では+3.1%。
カール・ケンドリック・チュア社会経済・企画長官は会見で、「景気回復への扉は完全に開いている」とし、今年の経済成長が加速するとの見方を示唆。「底堅い回復に向けた正しい軌道をたどっている」としました。
4. ワクチン接種率は低水準
一方、ドゥテルテ大統領はワクチン接種を加速させるべく、接種拒否を理由に投獄も辞さないなど「超法規的措置」を示唆する動きを見せました。それにより、その後のワクチン接種率は加速しているものの、1月24日時点における完全接種率は515.57%と世界平均並みであり、ASEAN主要6か国の中でもインドネシアに次ぐ低水準にとどまっています。
同国経済はASEAN内でも家計消費など内需依存度が高いうえ、外国人観光客を中心とする観光関連産業の割合が高く、行動制限の長期化は景気に深刻な影響を与えます。政府は昨年8月後半以降に、首都マニラなどに貸した行動制限を緩和しました。
昨年末に南アフリカで確認された新たな変異株(オミクロン株)が世界的に急拡大して、足下ではASEAN諸国内でも感染が急拡大。なお、オミクロン株は感染力が非常に強い一方、重症化のリスクは比較的低いとみられています。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、フィリピン・ペソは21年5月末に1ドル=47.67ペソの高値を付けたのち、対ドルで一貫して下落(図表4参照)。ペソの下落の要因としては、経常収支の悪化、資本の流出、ペソの下落についての中銀の容認などがあります。また、米連邦準備理事会(FRB)がテーパリング(資産買い入れの縮小)、利上げの意向を示唆したため、新興国から資金が流出しました。22年1月末と20年12月末との比較では、ペソは対ドルで▲6.47%の下落。
株価は、フィリピン総合指数が20年3月31日に5,266ポイントまで下落したのち、その後は上昇に転じています。22年1月末と20年12月末との比較では、同指数はで+3.10%の小幅上昇。
米景気の好調、物価上昇を受けて、米連邦準備委員会(FRB)はテーパリング(資産買い入れの圧縮)を行いました。FRBは今年3月以降、年4回程度の利上げを行うと予想されています。世界的な金余りという観点からは、フィリピンの通貨、株式市場にはマイナス材料となります。国内景気は比較的良好なため、株価は当面堅調な展開となることも考えられます。
おはようございます。ロシア経済に、不透明感が増しています。
1. 7-9月期成長率+4.3%
連邦国家統計局は11月17日、7-9月期実質成長率(前年同期比、速報値)を+4.3%と発表。天然ガスや石油の価格上昇が寄与したほか、個人消費が回復。四半期ベースでは、4-6月期に続いて2四半期連続でプラス成長(図表1参照)。
前年同期は新型コロナ・ウィルスの感染拡大やエネルギー価格下落の落ち込みが響き、▲3.4%のマイナス成長となっていました。
今年秋以降には、新型コロナ・ウィルス感染がデルタ型の急増に伴い拡大し、1日当たりの死者数は過去最高の水準で推移。10-12月期の内需に影響する可能性があります。
2. インフレ率が引き続き高水準
国家統計局から1月12日発表された12月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+8.4%と、伸び率は前月と同じ(図表2参照)。市場予想の+8.2%からは上振れ。引き続き高い水準を維持。
3. 政策金利を引き上げ
一方、ロシア中央銀行は12月17日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも+1.00%ポイント引き上げて8.50%にすることを決定。利上げは今年7回目で、2017年9月以来の高水準。インフレ率が約6年ぶりの高水準に近づいていることにより、今後数か月で少なくとも1回以上の利上げを実施する可能性があるとしました。利上げは市場の予想通り。
中銀は「基本シナリオとおぢに状況が推移すれば、中銀は今後の会合での追加利上げの可能性を排除しない」と表明。
ナビウリナ総裁「インフレは以前高水準だ。我々の決定は来年末までに目標値まで確実に引き下げることを目標としている」としました。インフレ率は11月の+8.14%から12月に鈍化して、22年には利上げサイクルの累積効果が完全に可視化される可能性が高い。
4. ワクチン接種率が低迷
ロシアでは、昨年来の新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)に際して、世界初となる新型コロナウィルス向けワクチン(スプートニクV)の生産が承認されました。昨年末には接種が開始されるなど、感染収束が期待されました。
ところが接種を躊躇する動きが強く、Our World in Data の集計によると、1月27日時点での1回でも接種を受けた人の割合はロシアで52.00%にとどまっています。上位国では、中国87.59%、韓国86.92%、イタリア82.64%などとなっており、新興国の中でも低い部類となっています。
ロシア国内ではスプートニクVのみが承認されており、いまだにWHO(世界保健機構)が同ワクチンの緊急使用を承認していないなど、有効性への疑問があります。ロシア国内ではワクチン接種を躊躇する傾向が強く、接種の遅れにつながっています。
5. ウクライナ情勢緊迫化
プーチン大統領がウクライナ周辺に約10万人の軍を展開しており、欧米諸国などが反発。NATO(北大西洋条約機構)がポーランドなどに軍を派遣する事態となっています。米バイデン政権はプーチン大統領への反発を強めており、プーチン大統領自身を制裁の対象にすることも検討。
米国は世界中の銀行が決済に利用している世界銀行間通信協会(SWIFT)から、ロシアを締め出すことも検討。もしロシアの銀行がSWIFTを使えなくなれば、ロシアは天然ガス、あるいは原油などのドル決済ができなくなり、輸出が難しくなります。
6. 為替
ここで、ロシアの為替の動きを見ましょう。ロシアの通貨であるロシア・ルーブルは昨年10月以降、対ドルで大幅に下落(図表4参照)。昨年10月27日の1ドル=69.47ルーブルから今年1月27日には同78.70ルーブルへと下落。ウクライナ情勢などをめぐる、上記の地政学的リスクが影響していると考えられます。
7. リスク要因
リスク要因としては、欧米とのウクライナをめぐる対立により、天然ガスあるいは原油の輸出に支障をきたす恐れがあります。輸出額に占める天然ガスと原油の比率は約6割に上っており、エネルギー産業が大きな打撃を受ける恐れがあります。
さらに、ルーブルの下落による物価上昇が挙げられます。12月のCPI上昇率は上記の通り+8.4%と引き続き高い水準。通貨ルーブルの下落は輸入物価を押し上げる要因となり、今後も引き続きCPI上昇率は高止まりすると予想されます。
原油、天然ガスなど資源価格はウクライナの混乱もあり、高止まりしていますが、地政学リスクの高まりなどにより、通貨ルーブルには一段の下押し圧力がかかることも考えられます。
おはようございます。前回のトルコに続いて、日本を見ましょう。
1. 11月CPI上昇率急加速
総務省が12月24日に発表した11月消費者物価指数(CPI)上昇率は、総合が前年同月比+0.6%となり、前月の+0.1%から伸び率が加速(図表1参照)。生鮮食品除く総合も同+0.5%と、前月の+0.1%から加速。
一方、米労働省が1月12日発表した21年12月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.0%と、1982年以来39年6か月ぶりの高い伸び。米連邦準備理事会(FRB)がインフレ抑制に向けて、3月にも利上げに着手するとの観測が高まる可能性があります。
他方、英国率統計局(ONS)が19日発表した21年12月のCPIは同+5.4%と、約30年ぶりの大幅上昇。そのほか、EU諸国などでもCPIは大幅に上昇する傾向にあり、日本の物価の弱さが際立っています。
2. 円安が進展
次に円・ドルの動きを見ると、20年12月31日には1ドル=103.09円でしたが、22年1月4日には同116.16円へと大幅に円安となりました(図表2参照)。
日本では従来、円がドルなど主要通貨になると、輸出企業の採算が好転し、貿易黒字、経常収支黒字が拡大することが期待できるため、日本の景気、あるいは株価にとってプラス材料であるとされてきました。
現在は日本国内から米国などへの自動車等の輸出数量が減少しているため、円安が必ずしも景気、あるいは株価にとってプラス要因であるとは言えません。むしろ、原油価格など輸入品の円ベースでの上昇要因となり、「悪い円安」ととらえる向きもあります。
円のドルなど主要通貨に対する下落、あるいは上昇を「良い、悪い」と単純に論ずるのは難しい面もありますが、円の下落が企業コストの押し上げ要因、ひいては企業業績の悪化につながる可能性があるとは言えます。
3. 経常収支縮小
日本は経常収支が黒字であるものの、足下では縮小傾向にあります。昨7−9月期には輸出の伸びが大きく鈍化。世界的に部品供給が停滞して、自動車生産などが大きく下振れ。さらに、原油価格上昇により、貿易収支がほぼ均衡して、経常黒字が減少。
最近のデータでみると、財務省が1月12日発表した21年11月の国際収支統計(速報)によると、経常収支黒字は8973億円と、前年同月比▲48.2%。貿易収支は▲4313億円の赤字。前年同月は+6074億円でした。サービス収支は▲2142億円と、赤字が30.1%の拡大。
企業部門の資金余剰の減少は、企業の所得の海外への流出、あるいは減少を示唆。最近の「オミクロン株」による感染の拡大、世界経済が踊り場を迎えつつあることを考慮すると、輸出の拡大は考えにくい情勢。エネルギー価格も高止まり、あるいはさらに上昇する可能性があり、貿易収支の赤字が続くものと思われます。
財政面では、大幅な財政赤字が継続。岸田政権は、景気対策として大規模な景気対策をとっており、財政赤字が拡大。21年には財政赤字のGDP費が10%弱という高水準で推移する見通し。財政運営に対する信認が低下する恐れもあります。
4. インフレ率上昇のリスク
インフレ率が22年春から上昇するリスクもあります。22年3月迄は、携帯電話の通話料大幅引き下げの影響が継続するものの、4月からは影響が消滅。物価上昇により、日銀のイールド・カーブ(利回り曲線)コントロール政策にも影響を与える可能性があります。
物価(CPI)が+2%迄上昇しなければ日銀の政策に影響を与えないと予想されますが、市場関係者が+2%超えを見込んで行動する可能性があります。長期債が売られ、さらに為替が円安方向に振れると、株価にマイナスの影響を及ぼすとみられます。
日本の潜在成長率は低下傾向にあり、企業の技術革新がなければ、景気が停滞、円安、債券価格下落、株安という展開も可能性があります。政府が潜在成長率を高める政策を打ち出すとも考えられず、22年の日本の株式市場は控えめに見るべきでしょう。
おはようございます。前回の中国に続いて、トルコを見ましょう。
1. 12月CPI上昇率急加速
トルコ統計局が1月3日に発表した12月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+36.08%となり、前月の+21.31%から伸び率が急加速。02年9月以来の高い伸びで、市場予想の+30.6%から上振れ。CPIの伸び率は20年11月(同+14.03%)以来加速傾向にあります。
全指数から値動きの激しい食品やエネルギーなどを除くコアCPIも同+31.88%と、11月ノ+17.62%から加速。
12月のインフレ率の急加速は、主に通貨リラの急落により、輸入物価が上昇したため。12月のPPI(生産者物価指数)は前年比+79.89%、前月比でも+19.08%と、亢進しています。
2. 政策金利を引き下げ
一方、トルコ中央銀行は、12月16日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を▲1.00%ポイント引き下げて14.00%にすることを決定(図表2参照)。市場の予想通りで、4会合連続の引き下げ。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利下げを決めた理由について「オミクロン株の感染拡大による渡航禁止やロックダウン(都市封鎖)と、世界の諸苦慮・農産物価格の上昇、サプライチェーンの制約、需要の動向などの供給サイドの要因によるものだ」として、インフレ加速が一過性に終わるとの見方を示唆。
金融政策の見通しについて「インフレ加速は金融政策の制御を超えた供給サイドの要因であるため、利下げには限界があり、今回の決定で利下げ余地を使い切った」として、今後は利下げサイクルを打ち切る考えを示唆。
3. 7-9月期成長率+7.4%
他方、トルコ統計局が11月30日に発表した7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+21.7% (図表3参照)。4-6月期の+21.7%から減速。市場予想と一致。季節調整済みGDPは前期比+2.7%。
同国の7-9月期成長率は主要20か国・地域(G20)の大半のそれを上回っており、前年同期の+6.3%をも上回りました。
4. 利上げの遅れ懸念
米連邦準備理事会(FRB)がテーパリング(資産買い入れの縮小)に入り、2022年には利上げ局面にはいいると予想されることなどにより、世界全体で流動性が低下。世界経済に対して金融面から下押し圧力を齎すかどうか、注視すべき局面に入っています。そのため、実質政策金利の低下が明らかで経常収支が赤字となっているブラジルととるこの動きが注目されます。
トルコでは、中銀が利下げを継続してことなどにより、通貨が大きく下落。高いインフレ率などを考慮すると、金利水準が低すぎるといえます。エルドアン大統領の介入により、中銀が独立して金融政策を行うのが難しく、利上げは難しい状況にあります。
通貨下落、輸入物価高騰を考慮すると、22年には利上げを開始する可能性があります。そうなると、景気にはマイナスの影響を与えることとなります。もし利上げの開始時期を遅らせると、通貨下落が継続する可能性があります。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。20年12月末から21年12月末まででも▲80.34%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。21年12月末と20年12月末との比較では+22.4%と、堅調。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率の高止まりの可能性が有ります。
一方、新型コロナ・ウィルス感染は変異種「オミクロン株」の拡大により、再び増加するとようされます。欧州でも「オミクロン株」に伴い、一部の国でロックダウン(都市封鎖)が行われるなど、景気に影響が出つつあります。トルコ経済も、足踏みが続くものと予想されます。
おはようございます。前回の米国に続いて、中国を見ましょう。
1. 鉱工業生産の伸び率加速
まず、最近の経済指標を見ておきましょう。中国の国家統計局が12月15日に発表した統計によると、11月の鉱工業生産は+3.8%と、市場予想の+3.6%を上回り、前月の+3.5%から加速。政府の環境規制による電力供給制限が和らいだことなどにより、全体として底堅く推移。新エネルギー車や産業ロボットなどのハイテクセクターの生産が牽引。
2. 10月小売売上高伸び率加速
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、11月の小売売上高は前年同期比+3.9%と、10月の+4.9%から減速(図表2参照)。市場予想の+4.6%からも下振れ。新型コロナの感染再拡大の影響で飲食業などが減速。
4. 1-10月固定資産投資減速
他方、国家統計局による同日発表の1-11月の固定資産投資は、前年同期比+5.2%。今年1-10月の+6.1%から減速。予想の+5.4から下振れ(図表3参照)。政府の不動産規制や不動産大手の経営問題の影響で、不動産開発投資が引き続き減速。
中国経済は新型コロナ流行から堅調に回復したものの、その後勢いを失いつつあります。同国は2022年に向けて、不動産投資の低迷、コロナ再流行に伴う厳格な制限措置で個人消費が低迷するなど、新たな問題に直面。
11月には広告業部門の活動が上向いたものの、新型コロナの感染再拡大は、オミクロン変異株が世界経済の先行きを脅かす中、政策当局者に新たな問題をもたらしています。
4. 11月CPI加速
次に物価の動きを見ましょう。中国では国家統計局が9日に、11月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+2.3%であったと発表。前月の+1.5%から加速。20年8月以来の大きさ。野菜など食品が値上がりしたため、市場予想の+1.4%から上振れ。
CPI上昇率は9月の+0.7%から2か月連続で加速。必需品の値上がりが押し上げています。ガソリンなど交通燃料の上昇率が+36%と加速したほか、燃料高や新型コロナ・ウィルスの感染再拡大に伴う物流の混乱で生鮮野菜が+31%。
中国人の食卓に欠かせない豚肉や▲33%下落したものの、10月の同▲44%からは下落幅が縮小。冬場の需要増や価格安定目的とする政府の備蓄で前月比+12%。
5. PPIは上昇率鈍化
一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、11月の生産者物価指数(PPI)は、前年同月比+12.9%と、前月の+13.5%から鈍化。政府による商品価格高騰の抑制策が功を奏したほか、電力不足の緩和も価格鈍化につながりました。市場予想の+12.4%からは上振れ。
PPIは5月以降、商品価格高騰を背景として伸び率が加速。10月には26年ぶりの高い伸び率。企業は最終製品価格に転嫁するよう迫られました。
ただ、当局はここ数か月で価格抑制に向けた措置をとっており、石炭価格は目標設定や増産要請などにより、今冬に見込まれていた電力不足が緩和しました。
6. 不動産関連規制を導入
中国政府はミクロベースの規制を導入しており、効果が現れつつあります。
不動産業の過剰投資・過剰債務、住宅価格の高騰などを警戒し、20年夏頃から加熱抑制策を強化。住宅ローン総量規制、住宅購入規制に加えて、不動産企業の資金調達条件を厳格化。
「3つのレッド・ライン」として、不動産企業の資金調達の厳格化措置を導入、即ち、(1)負債の対資産比率70%以下、(2)純負債の対資本比率100%以下、(3)手元資金の対短期負債比率100%以上の3つのレッド・ラインに従って、不動産企業を4分類し、それぞれの債務規模を制限。
21年7月に不動産市場の秩序の乱れを是正するための通知を出しています。即ち、今後3年程度に亘り、不動産開発・仲介・賃貸関連サービスの4分野を対象に、政府方針に反する動きを厳格に取り締まるとしています。
7. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表5の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落。
米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、米中貿易摩擦の影響、当局による介入などにより、為替市場は乱高下しました。20年に入り大幅に上昇し、その後急落。21年に入るとやや戻し、21年12月末現在では、昨年12月末との比較で+2.65%の小幅上昇。
株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。
18年に入ると下落に転じ、18年12月末には24930ポイントまで下落し、その後は回復基調。21年12月末には20年12月末と比較して+4.80%の小幅上昇。
8. 当面の注目点は米中関係、不動産市況
当面の注目点としては、米中関係が回復するかどうか、ということがあります。米バイデン政権は、トランプ前政権と同様中国に厳しい姿勢をとるものの、二酸化酸素削減などでは、共同歩調を探る姿勢も見せています。
但、米国は香港、新疆などにおける人権を重視しており、米中の妥協が成立する余地は少ないとみられます。さらに、中国共産党は台湾に対する圧力を強化しており、この点でも米中の対立が激化する可能性があります。
一方、中国国内の不動産市況については、新築住宅価格の上昇が頭打ちとなり、恒大産業など不動産大手のデフォルト(債務不履行)の懸念もあります。不動産市況の悪化により、国内の消費も頭打ちとなる懸念があります。
おはようございます。2022年を展望しましょう。まず、米国経済を見ましょう。
1. 米CPI上昇率加速
まず、米国の物価を見ておきましょう。米労働省が12月10日発表した消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.8%(図表1参照)。変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は同+4.9%。市場予想はそれぞれ+6.7%、+4.9%でした。
各指標の伸び率を見ると、CPIは1982年6月以来、コア指数は1991年6月以来で最大。一方、前月比ではCPI上昇率が+0.8%、コアCPIが+0.5%と、前月のそれぞれ+0.9%、+0.6%から鈍化。
問題は今後もこのような高いCPI上昇率が続くかどうかですが、原油価格の高止まり、世界的な需要の回復、米国内の雇用情勢の逼迫を考えると、今後もCPIの高い伸び率が継続する可能性が高いと考えられます。
2. FRBはテーパリング終了を前倒し、利上げへ
一方、米連邦準備理事会は、12月14-15日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催して、フェデラルファンドレート(FF)レートの0.00-0.25%の誘導目標維持を決定。さらに、米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドルこうにゅうしてきた量的緩和策について、前回会合で毎月150億ドルずつの減額(テーパリング)開始を決定して今が、22年1月より売の毎月300億ドルに増額することを決定。これにより、22年6月に予定していたテーパリングの終了前倒しを決定。
更に、パウエルFRB議長は「現状は最大雇用に近づいており、加えて高インフレにある中では、リアが迄の期間は(過去のテーパリング後の利上げのように)それほど長くないだろう」として、テーパリング終了予定の22年3月以降、早期の利上げに踏み切る可能性を示唆。
3. 7-9月期GDPは+4.9%に減速
他方、米商務省が10月28日発表した7−9月期GDP成長率(速報値)は、前年同期比で+4.9%と、前期の同+12.2%から減速(図表2参照)。前月比は+2.0%と、前期の同+6.7%から減速。新型コロナ・ウィルスの感染再拡大や物価上昇、製品供給網(サプライチェーン)の目詰まりなど逆風が強まりました。
7-9月期の成長率鈍化には、個人消費が前期比+1.6%へと急減速したことが反映されています。4-6月は同+12%。原材料や人員の不足、輸送面のボトルネック、物価上昇、デルタ株の万円が財・サービス支出を抑制しました。特に自動車に対する支出のGDP寄与度が▲2.39%ポイント。自動車メーカーは、半導体不足デイ生産と在庫の増大に苦慮しています。
4. WTIは高値圏推移
原油価格は高値を維持。29日のニューヨーク・マーカンタル取引所(NYMEX)で、WTIの期近の22年2月物は前日比+0.58ドル(+0.8%)で取引を終了。一時77.37ドルと、期近ものとしては最高値を付けました。米国では原油とガソリンの在庫が減少して、需給悪化の懸念が和らいでいます。
米エネルギー情報局(EIA)が29日発表した週間の税石油在庫統計では、原油在庫が市場予想以上に減少し、ガソリン在庫は増加を見込んでいた市場予想に反して減少。新型コロナ・ウィルスの変異種「オミクロン株」の感染急拡大にもかかわらず、需要は底堅いとの予想が高まり、原油先物では買いが強まりました。
5. 2022年の物価・金利など見通し
2022年においては、原油、金、銅、鉄など商品市況が高止まりし、インフレ圧力となる可能性が高いでしょう。米国内においては、労働参加率が高まらず、引き続き労働需給が逼迫するものと予想されます。
米FRBはテーパリングを3月にも終了し、早期の利上げを実施する構え。ただ、このところ米長期金利の上昇は鈍く、短期金利が上昇する一方で、長期金利は上昇せず、利回り曲線はフラット化することも予想されます。
英中銀は既に利上げを行っており、米国、EUの中銀がこれに追随する動きを見せることになれば、世界の資金が新興国から先進国へと逆流する傾向が強まる可能性があります。
次回は新興国の動きなどを見る予定です。
おはようございます。ブラジルの景気は、22年に停滞すると予想されています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行は12月8日の金融政策委員会で、政策金利を+1.50%ポイント引き上げて、9.25%にすることを全員一致で決定(図表1参照)。利上げは市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、「インフレ率は依然高い伸びとなっている。物価は全体指数とコア指数の両方が高くなっている。また、コアインフレ率も物価も区報の許容レンジを超えている」としました。「インフレ見通しに対するリスクは上振れ・下振れ両リスクがあるが、パンデミックを受けた財政肥大化によりインフレ期待が上昇して、インフレ率は経済予測のシナリオをオーバーシュートとするリスクがある」として、前回会合時と同様、インフレ加速懸念を強調。
上昇は不安定な要因に牽引され、予想以上に高くなっている。また、コアインフレ率にも上昇圧力がかかり、物価上昇目標の許容レンジを超えている。」とし、更に、「インフレ見通しに対するリスクは上振れとなっており、インフレ率は経済予測の標準シナリオをオーバーシュートする可能性が高い」として、前回9月会合と同様に、インフレ加速懸念を強調。
2. インフレ率が加速
一方、ブラジル地理統計院は12月10日に、11月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。11月のIPCAは前年同月比+10.74%と、前月の同+10.67%から加速(図表2参照)。市場予想の+10.88%からは下振れ。
インフレ率は2003年11月以来の高さとなり、経済の再開、供給網の問題、通貨の弱さ、供給不足などが原因となっています。
3. 7-9月期GDPは+4.0%に減速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は12月2日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+4.0%であったと発表(図表3参照)。市場予想の+4.2%を下回り、前期の改定値+12.3%からは原則。3四半期連続のプラス成長。
前期比では▲0.1%と、7-9月期の▲0.4%に続いて、2四半期連続のマイナス成長となり、定義上の景気後退となりました。旱魃による農産物の不振が響きました。22年10月に再選を目指すボルソナロ大統領にとっては逆風となる模様。
ブラジルの景気後退は、新型コロナ・ウィルスの感染が拡大して20年1-3月、4-6月期に2四半期連続のマイナス成長となって以来。分野別では、新型コロナ・ウィルスの感染者数の減少に伴い、サービス業が全四半期比で+1.1%となったものの、農牧畜業が▲8%と大きく落ち込みました。
要因の1つは、農産物の生産低迷。ブラジル国家食料供給公社によると、2020年10月〜21年9月の穀物生産量の推定は約2億5200万トンと、前の年度比▲2%。約90年ぶりとされる歴史的な旱魃で、主力のトウモロコシや豆類などの穀物の生産が低調となりました。
4. 2022年は低成長に
一方、インフレ亢進と「制限的な領域」への金融引き締めにより、景気の下振れリスクが高まっています。
GDPは2021年4-6月期に前期比▲0.1%(1-3月同+1.2%)と、4四半期ぶりにマイナスとなりました。新型コロナ・ウィルスの第3波に対応した経済活動制限や、部材の供給制限、異常気象による農業生産への影響が重石となりました。その後、経済活動制限の緩和に伴い人流派回復していますが、生産活動は供給制約で停滞。力強い回復は期待しづらい状況。
インフレ亢進により、購買力が低下し、消費マインドが低下。小売り売上高は金額ベースでコロナ前を2割程度上回っているものの、数量(実質)ベースでは、昨年末にコロナ前水準を回復後、頭打ち。
9月の消費者信頼感指数は2か月連続で低下し、低下幅も▲6.5%ポイントと、感染が急拡大した今年3月以来の大幅低下。先行き期待が半年ぶりの大幅に悪化したほか、現状判断も3か月連続で悪化しており、インフレや金利上昇が消費者マインドに悪影響を及ぼしているとみられます。
6. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年4月末には同5.41レアルに下落。但、その後は中銀による利上げなどで持ち直し、6月末には同4.97レアル迄戻しました(図表4参照)。昨年12月末から今年11月末迄で▲8.9%の大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、20年12月末には119,306ポイントに回復。
但、21年に入ってからも回復したものの、その後反落。11月末には101,915ポイントと、昨年12月末比で▲14.5%の下落。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。21年に入り、米国では長期金利が上昇し、FRBによるテーパリング、即ち資産買い入れの縮小を決定。2022年には3回の利上げを行うと表明。
2022年にはブラジル国内の景気が停滞すると予想されます。さらに、中国では恒大産業の債務不履行の懸念があり、中国の不動産市況の低迷、ひいては中国の景気鈍化のリスクもあります。ブラジルの通貨、株価は当面、軟調に推移する可能性もあります。
おはようございます。メキシコ経済にとって、米FRBのテーパリングが重石となっています。
1. CPI上昇率は加速
メキシコ国立地理情報研究所は12 月9日に、メキシコの10月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+7.37になったと発表(図表1参照)。10月の同+6.24%から加速。市場予想の+7.22%から上振れ。
2. 7-9月期GDPは+4.8%に減速
メキシコ統計局は10月29日に、7-9月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+4.8%になったと発表(速報値)。2半期連続のプラス成長となったものの、前期の+19.5%から減速(図表2参照)。ただ、新型コロナ・ウィルスの感染再拡大や自動車生産の縮小により、20年7-9月期の落ち込み(▲8.7%)を補いきれませんでした。
メキシコ統計局は11月26日に、7-9月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、確報値で前年同期比+4.7%になったと発表。自動車産業の落ち込みが響きました。バイデン政権による国産の電気自動車(EV)優遇政策が実現すれば、さらに大きな打撃となる可能性があります。
3. 政策金利を引き上げ
メキシコ銀行(中央銀行)は11月11日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.25%ポイント引き上げて5.00%にすることを決定(図表3参照)。利上げは4会合連続市場の予想通り。決定は4対1と、全会一致ではありませんでした。
中銀は声明で「インフレ増大に繋がっている衝撃は概ね一過性と考えられるものの、影響が及ぶ可能性のある範囲は不明」と指摘。かなりの規模の影響が幅広い商品に及ぶ恐れがあり、価格改正プロセルやインフレ期待へのリスクになるとして、目標を超えて推移するインフレに懸念を表明。
10-12月期の総合インフレ率見通しは+6.8%。コアインフレ率見通しは+5.5%都市、前回見通しの+6.2%、+5.3%からそれぞれ引き上げました。
今後の会合では「インフレ圧力の動向及びインフレ見通しやインフレ期待に影響を及ぼすすべての要因を徹底的に精査する」としました。
4. FRBのテーパリングが重石に
一方米連邦準備理事会(FRB)は15日のFOMC(米連邦準備理事会)で、政策金利であるFFレートの金利誘導目標を現状のゼロ金利に据え置くことを全員一致で決定。さらにテーパリング(量的緩和縮小)については、削減ペースを150億ドルから300億ドルに上げ、1月中旬以降も同額の減額を継続することを決定。
FRBがテーパリングを加速化することを決定したことにより、メキシコをなどの新興国では世界的な金融緩和を受けた「金余り」の手仕舞いが意識されており、米国の低金利を背景として新興国への資金流入に逆風が吹くことが懸念されています。
また、中国の不動産大手の恒大産業が部分的にデフォルト(債務不履行)に陥ったことにより、中国経済が踊り場を迎えつつあるとの認識も広がっています。
さらに、南アなどで急速拡大しているコロナの変異種オミクロン株が欧州、米国、アジアなどに急速に拡大する兆しがあります。オミクロン株がコロナ禍からの回復が進んできた米国、欧州経済にとって重石となり、米国への貿易依存度が高いメキシコ経済にとって、マイナスの要因になることも考えられます。
5. 為替と株価
ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、21年に入って対ドルでやや下落(図表1参照)。その後上昇し、9月半ばまではほぼ横ばいの動き。9月下旬以降は、米FRBのテーパリングなどにより、ドルに対して下落する傾向にあります。
同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、昨年3月には新型コロナ・ウィルス感染拡大により大幅下落。その後は米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和、原油等商品市場の高騰もあり、株価は大幅反発。21年半ばまでは株価は順調に上昇しました。
その後は米FRBによるテーパリング決定などにより株価の上昇が鈍り、夏以降はほぼ横ばいの動きとなっています。
メキシコ経済はコロナ禍からは順調に回復してきたものの、「オミクロン株」の急拡大の懸念、また米FRBのテーパリング強化、米国における「オミクロン株」の拡大などのリスク要因があります。
6月初めに実施された連邦議会下院の中間選挙では、最大与党の左派MORENA(国民再生運動)が議席を減らしたものの、与党連合の枠内では議会の半数を上回る議席を確保し、事前の市場予想であった「ねじれ現象」を回避。
足下ではインフレが懸念材料となっており、ペソの下落による輸入物価上昇の懸念もあります。通貨ペソは米FRBによるテーパリングなどで軟調な展開となることも考えられます。株価の上値も重くなる可能性があります。
おはようございます。インド経済は回復が続いているものの、新型コロナ・ウィルスの新たな変異種の感染再拡大などのリスクもあります。
1. 消費者物価指数上昇率が鈍化
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が11月12日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+4.48%(図表1参照)。前月の+4.35%から加速。市場予想の+4.32%から上振れ。
食品価格が同+0.85%と、前期の+0.68%から加速。そのほか原油価格が+33.5%、燃料が+14.35%、衣服・靴が+11.4%、運輸・通信が+10.9%、医療が+7.57%など。
2. 4-6月期成長率+20.1%に加速
続いて、インド統計局が11月30日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比+8.4%(図表2参照)。前期の+20.1から減速。市場予想と一致。ただ、主要国では最大の伸び。
景気回復は、順調な個人消費を受けて強まったものの、新型コロナ・ウィルスの変異株「丘ミクロン」の出現により、将来への不安が高まっています。
新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の影響で、経済が停滞していた前年同期は▲7.4%(改定値)でした。
3. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行)は10月8日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表3参照)。据え置きは市場の予想通り。据え置きは8会合連続。
中銀は、会合後に発表した声明文で、現状維持を決定したとについて、前回会合時と同様に「今回の現状維持の決定は、経済成長を支える一方で、インフレ率についても、中期の物価木曜の+4%(レンジは+2〜6%)の達成を目指すという、我々の目的と合致する」としました。
4. 新たな変異株に懸念も回復へ
現在、インドでは新型コロナ・ウィルスの感染状況の改善により、行動規制が緩和され、感染第2波からの経済回復が継続。小売り・娯楽施設への移動は第2波の落ち込みから回復し、足下ではコロナ前の水準に回復。
インド経済監視センター(CMIE)によると、失業率は今年5月に11.9%迄上昇したものの、11月時点では7.0%に低下しており、雇用状況も改善。経済活動が正常化に向かい、消費者や企業のマインドが改善し、10-12月にも内需の回復が続くと予想されます。
一方、最近発見された新型コロナ・ウィルスの新たな変異株である「オミクロン株」が流行すれば、国内各地で感染予防を目的とする活動制限が再び厳格化され、景気回復にとって重石となることも予想されます。足下では感染状況の改善により、人手が増加し、マスク着用などの意識も低下する傾向にあり、オミクロン株の感染拡大の恐れがあります。
オミクロン株拡大による第3波到来の可能性があり、予断を許しません。インドのワクチン接種率は約3割と、先進国よりもかなり遅れています。オミクロン株には、現在用いられているワクチンが効きにくいとの報告もあり、景気の先行きには不透明感があります。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)2021年12月末と2021年11 月末との比較では、▲2.8%の小幅下落 。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、2019年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。21年11月末には57,064ポイントと、20年12月末比では+19.5%と、堅調な動き。
6. 課題とリスク
インドでは、製造業の発達が遅れていること、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が深まっていることなど、多くの課題があります。また、北部カシミール地方の領有権を巡っては、中国と外交的に対立を深めています。中国・インドの対立については、最近はやや緩和する傾向にあります。
上記の通り新型コロナ・ウィルスの変異株である「オミクロン株」が流行懸念もあります。インドでは従来、宗教行事など多数の人が集まる集会の開催により、コロナが拡大してきた経緯があります。「オミクロン株」が流行すれば、再び厳しい行動規制が課されることも考えられます。
インドの強みの1つは人口構成の若さ。今後も15-64歳のいわゆる労働人口の増加が見込まれており、その面では、有利です。一連のコロナ騒動が収まれば、再び成長軌道に復帰するとみられます。
おはようございます。南アで新型コロナの変異種であるオミクロン型が拡大しています。
1. 10月CPI上昇率は+5.0%
まず、南アの経済指標を見ましょう。南アフリカ統計局は11月17日に、10月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+5.0%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+3.1%から上昇率は横ばいで、市場予想に一致。
2. 政策金利を据え置き
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は11月18日に、主要政策金利であるレポレートを+0.25%ポイント引き上げて3.75%にすることを決定。利上げは3年ぶり。インフレ圧力が強まっていると判断し、利上げで対応。
21年の国内総生産(GDP)成長率見通しは+5.2%と、従来予想から▲0.1%ポイント引き下げ。7月に起きた大規模暴動によるマイナス影響が以前の想定よりも大きくなったとしています。22年成長率は+1.7%としました。
3. 4-6月期成長率は+1.2%
一方、南アフリカ政府統計局は9月7日に、4-6月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで+1.2%になったと発表(図表3)。今回の発表には、7月に発生した一部の州での抗議行動や暴動の影響は含まれていません。
4−6月期GDP成長率を産業別にみると、10業種のうち6業種がプラス成長で、運輸・倉庫・通信(+6.9%)、農林水産業(+6.2%)、その他サービス(+2.5%)が回復しつつあります。一方石油や化学製品、ゴム、プラスチック製品の不振で、製造業は▲0.8%。また、GDPの約2割を占める金融・保険・不動産業・企業サービスが▲+0.4%。
4. 変異種「オミクロン」が拡大。
一方、南アでは新型コロナ・ウィルスの変異種「オミクロン株」が発見され、欧米諸国などがアフリカ南部の国々からの渡航制限を強化し、同国では反発が拡大。観光業などへの影響が懸念されます。
南アの国際県警・協力省は、英国が渡航制限を発表すると、生命で「請求だ」と批判。同省のナレディ・パンドール大臣は「我々の懸念は、この決定が両国の観光業とビジネスに影響を与える損害だ」として、英国に再考を求めました。
WHO利用緊急プログラム・テクニカルチーム長のマリア・ファンケルホーフェ氏は「オミクロン」は数多くの変異が生じて、そのうちいくつかは非常に心配な特徴があります」としています。ほかの変異種と比較して、再感染するリスクが高いと指摘。南アのほぼすべての州で感染が広がっているとして、警戒を呼び掛けています。
南アの感染者数は9月をピークとして、1日100人前後まで落ち着いていましたが、11月9日にオミクロン種が見つかって以来、感染が再拡大しています。
5. 欧州などでも急拡大
南アなどで確認されたオミクロン種の感染は、欧州などでも急拡大。11月28日までに欧州でオミクロン種の感染が確認された国は英国、ドイツ、イタリアなどで、オランダでは少なくとも13人の感染を確認。英国は人口の大半を占めるイングランドで、公共交通機関や小売店内でのマスク着用を再び義務化。
オミクロン種は香港や豪州などでも感染が確認されており、アフリカではないじゃリアなどでも拡大。すでに世界各地に拡散。水際対策強化のため、米国では26日、アフリカ南部8か国への渡航中止勧告を出し、イスラエルは27日、すべての外国人の入国を禁じると発表。
オミクロン種に、現在使われているワクチンが有効かどうかはまだ明らかになっていないものの、ワクチンを製造しているビオンテックやモデルなは、新たなワクチンが必要になった場合、来年の早期に供給することが可能だとしています。
オミクロン種の拡大は、世界経済全体にとって怪奇回復の重石となる懸念があり、南アをはじめとする新興国への打撃も大きくなる可能性があります。
おはようございます。トルコ中銀は、予想通り利下げしました。
1. 10月CPI上昇率加速
トルコ統計局が11月3日に発表した10月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+19.89%となり、9月の+19.58%から伸び率が加速。市場予想の+20.4%から下振れ。19年1月以来の高い伸びで、5カ月連続で伸び率が加速しました。
2. 政策金利を引き下げ
一方、トルコ中央銀行は、11月18日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を▲1.00%ポイント引き下げて15.00%にすることを決定(図表2参照)。市場の予想通りで、3会合連続の引き下げ。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利下げを決めた理由について、「上期(1-6月)は世界景気が回復し、新型コロナ・ウィルス・ワクチン接種率が上昇したにも関わらず、デルタ株は世界景気の見通しに対する下振れリスクとなっている」と指摘。
また、前回会合時と同様「最近のインフレ委上昇は、食料と輸入物価、特にエネルギー価格の上昇、サプライチェーンのボトルネックなど、供給サイドの要因によって引き起こされている」とし、「先進国の中央銀行は、景気支援的な金融緩和姿勢と資産買い入れプログラムを継続している」として、先進国の中銀と足内を揃えたい考えを強調。
3. 4-6月期成長率+7.0%
他方、トルコ統計局が8月1日に発表した昨年4-6月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+21.7% (図表3参照)。1-3月期の+7.2%から加速して、4期連続のプラス成長。市場予想と一致。トルコのリュトフィ・エルバン財務相は約+20%と予想していましたが、これをやや上回りました。
新型コロナ・ウィルスの打撃を受けた前年同期からの反動で、輸出や消費が大幅増加。輸出が+59.9%、個人消費が+22.9%と牽引。
産業別では、サービス業が+45.8%、製造業が+43.4%と、それぞれ回復。
政府が20年9月29日に発表した21-23年の新中期3か年経済計画では、21年の成長率は標準シナリオでも+5.8%に回復し、22年と23年はいずれも+5%の安定成長に戻るとみています。一方、エルバン財務相は21年の成長率を+8%超と予想しています。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。20年12月末から今年10月末まででも▲29.19%と大幅下落。
中銀の利下げなどにより、リラの下落が加速。11月23日には対ドルで一時▲15%下落し、一時1ドル=13リラ台半ばまで下落。11月だけでも3割近くやすくなり、年初来の下落率は4割を超えました。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。今年10月末と昨年12月末との比較では+3.06%と、小幅上昇。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率の高止まりの可能性が有ります。
エルドアン大統領は「金利が下がれば物価が下落する」と、経済学の常識とは逆の主張を展開。米FRBをはじめ、世界の中銀の多くが金融引き締めへと動く中、トルコの中銀は9-11月の政策決定会合で計▲4%の利下げを行いました。
23日夜には、首都アンカラや最大都市イスタンブールで「政府は退陣しろ」とのデモが発生。政府や与党の対応に不満を募らせる若者などが政府批判を行いました。規模は数十〜数百人程度と小規模であるものの、エルドアン大統領の強権的政権が継続しているトルコでは、デモ自体が異例。直ちに政治不安に結びつく可能性は低いものの、庶民の不満が今後高まることも予想されます。
おはようございます。世界の気候変動への対応を協議する国連のCOP26が終了。世界全体が脱二酸化炭素に向かうことが鮮明となりました。
1. 主要国の二酸化炭素排出量の現状
まず、世界の主要国・地域の2酸化炭素(CO2)の排出量を見ておきましょう。2020年における主要国・地域の排出量を見ると、米国が2位で45.4億トン、EU(欧州連合)が3位で26.2億トン、日本が6位で10.6億トン。対して中国が1位で116.8億トン、インドが4位で24.1億と、ロシアが5位で16.7億トン(図表1参照)。経済規模と比較して、中国、インド、ロシアの排出量が非常に大きいことがわかります。
2. COP26開催
一方、インドのモディ首相は英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合「世界リーダーサミット」で、1日、2070年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすると表明。インドが実質ゼロの期限を明言するのは初。また、議長国・英国は20年までに世界の森林の破壊を止めるとの目標に、日本など105か国・地域が賛同したと発表。
ただ、中国とロシアは二酸化炭素の排出大国であるにもかかわらず、首脳が会議に欠席。また、サウジアラビアなど資源国も化石燃料削減には消極的な態度を表明。先進国中でも、日本の岸田首相は「化石大賞」を贈られるなど、石炭を使った火力発電所の廃止について批判を浴びました。先進国と新興国、また先進国内の分断が浮かび上がりました。
3. 脱石炭で対立
COP26では11月4日、クリーンなエネルギーへの移行について、議長国の英国が声明を発表。
声明では、主要経済国は可能な限り2030年台に、世界全体では可能な限り2040年台に、排出削減対策が取られていない石炭火力発電所から移行するため、取り組みを進めるとしています。
このような石炭火力発電所については、新規建設を中止するほか、他国での建設に対する政府による直接的な支援をやめるとしています。
声明には、40か国余りが賛同。フランスやドイツといった欧州各国のほか、韓国などアジアの国々、アフリカ、中東の各国が含まれています。
ただ、中国、米国、日本などは含まれていません。
COP26は「グラスゴー気候協定」を採択して終了。地球の気温上昇を産業各目前と比較して1.5度に抑えることの必要性を強調。来年末までに2030年までの損失効果ガス策g兼目標をより強化するよう各国に求めました。
ただ、火力発電については、草案にあった「段階的廃止への努力」という文言を、インドが土壇場で「段階的削減への努力」に弱めるよう提案。米国が容認したものの、島嶼国が不満を表明。関係国の対立が浮き彫りとなりました。
4. ESG投資が拡大
世界の資金の流れを見ると、投資に関しては、ESG(環境、社会、企業統治)を重視する傾向がますます強まっています。環境の重視という観点から、脱二酸化炭素の動きが加速しています。
欧州の主要な運用会社の1つのアムンディによると、2015年のパリ協定から「ネットゼロ」が加速。「ネットゼロ」とは、大気中に放出される温室効果ガスと大気中から除去される温室効果ガスのバランスが取れている状態。
パリ協定では、炭素排出量を2050年までにネットゼロにするとしています。過去5年間で、公的部門と民間部門の双方から、ネットゼロへのコミットメント(関与)が増大しているとしています。
ただ、2050年の達成に向けて順調かどうかという点については、同社はそうではないとし、各国政府がネットゼロの誓約の期限内での完全な履行に必要な法規制を制定したとしても、埋められる排出ギャップは40%にとどまるとしています。
5. オランダ裁判所がシェルにCO2排出削減を命じる
さらに、司法の面でも、脱二酸化炭素に向けた動きが加速。オランダ・ハーグの裁判所は5月26日、英・オランダ石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルの現行の温暖化ガス削減目標は十分でないとして、2030年迄に19年比で▲45%削減するよう命じる判決を言い渡しました。法律専門家や環境団体は、画期的な判決であると評価。
訴訟は環境保護団体グリーンピースや「地球の友」オランダ支部など7団体が、同国の1万7000人の市民を代表して2019年に提起。環境運動家が訴訟によってエネルギー大手に戦略を求める初のケースとなりました。
シェルは判決に「失望している」として、上訴する意向を提示。シェルを含むエネルギー各社には、投資家や活動家、政府から、化石燃料への投資を削減して、再生エネルギーへのシフトを加速するよう圧力が高まっています。
6. 今後の投資をどのように考えるべきか
このように、ESG投資をはじめとして、世界全体で環境に対する意識が高まっています。日米欧などでは、いわゆる「ESG投信」も多数販売されています。ESG投信が本当に環境にやさしい企業に投資しているのか、見極める必要はあるといえます。世界的な潮流であるESG、あるいは脱二酸化炭素という観点から、投資信託、個別銘柄の選定を進める必要性があるといえるでしょう。
また、ESG投資はTOPIX(東証株価指数)、あるいは米国のS&P500指数を上回る成績を収めているという調査結果も出ています。かつて日本で流行した「エコファンド」の中には、単にTOPIXを下回るパフォーマンス(成績)にとどまるものも多く見受けられました。ESGファンドの有効性の検証も必要なっていきます。
また、新興国への投資に際しての、ESGあるいは脱炭素の観点が重要となってきます。特に、ロシア、ブラジルなど資源国のファンダメンタルズに注意したいところです。
おはようございます。タイ経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が悪化しています。
1. 4-6月期成長率+7.5%に回復
タイ国家経済社会開発庁(NESDB)は8月16日に、4-6月期の国民総生産(GDP)成長率が前年同期比+7.5%になったと発表。1-3月期の同▲2.6%から回復し、6四半期ぶりのプラス成長となりました。市場予想の+6.5%からも上振れ(図表1参照)。
1-3月期GDPを需要項目別に見ると、主にない外需の回復が成長率回復に繋がったことがわかります。
民間消費は前年同期比+4.6%(1-3月期は▲0.3%)と大きく増加。政府消費は+1.1%(同+2.1%)とやや鈍化。総資本形成は同+8.1%(同+7.3%)と、小幅増加。
2. 9月CPI伸び率は加速
一方、タイ商業省は11月5日に、10月の消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比+2.38%であったと発表(図2参照)。10月の上昇率は前月の+1.68%から加速。
3. 政策金利を据え置き
一方、タイ中央銀行は9月29の金融政策委員会で、政策金利である翌日物レポ金利を、0.5%に据え置くことを4対2の賛成多数で決定。市場の大方の予想通りであったものの、一部では+0.25%ポイントの利上げを予想していました。
前回8月会合時にはデルタ株の感染拡大がピークに達して、景気への悪影響が懸念されていました。ここ数週間、感染拡大が小休止する兆しが出ています。中銀は、会合後に発表した声明文で「経済の先行き見通しは依然として、不確実性が高いものの、ワクチン接種の加速と、予定よりも早い感染拡大抑制のための経済・社会規制措置の緩和が景気回復を支援する」としました。
更に、今回の会合で発表した最新の経済予測で、21年GDP(国内総生産)成長率見通しをデルタ株感染拡大の悪影響により、前回6月時予想の+1.8%から+0.7%に下方修正。22年の見通しについては、同+3.9%から+3.7%へと上昇修正。
4. コロナ感染状況が改善
タイでは10月28日時点における完全接種率(必要な接種をすべて受けた人の割合)が22.78%と、世界平均の33.23%を大きく下回る一方、部分接種率(少なくとも1回接種を受けた人)は42.27%と世界平均44.85%をわずかに下回る水準。ワクチン接種の裾野が着実に拡大。
タイでは7月以降、変異種の流入により、新規陽性者が急拡大したものの、10月29日における人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)は174人と、ピークの半分近くの水準に低下。
新規陽性者数の急拡大により、医療が逼迫して死亡者数も増加していたものの、足下ではそのペースも鈍化し、改善の傾向にあります。政府は11月に首都バンコクを含む、感染リスクが高いと指定した地域においても、小売店や飲食店の営業制限を解除するなど、経済活動の正常化に動いています。
5. ファンダメンタルズが悪化
タイにおいては、観光関連産業が主要な産業の1つとなっていますが、コロナ感染拡大に伴い、打撃を受けています。それに伴うサービス収支の悪化により、経常収支が赤字化。
通貨バーツの対ドル下落になるなど、資金流出の動きが強まっています。バーツ下落により輸出産業の競争力が高まる一方、バーツ安により、債務負担が高まる恐れがあります。
政府は10月20日に公的債務の上限をGDP比70%に引き上げる方針を決定しており、追加的な財政出動を探っています。他方、経常収支の赤字が拡大する中、財政収支が悪化すれば、経済のファンダメンタルズに対する懸念が高まる可能性が有ります。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると過去1年で、タイ・バーツは対ドルで下落基調(図表4参照)。米FRBがテーパリング(資産の買い入れ縮小)へと動いていること、タイの経常収支の赤字などが影響していると考えられます。
株価について見ると、代表的な株価指数の1つであるSET指数は、20年初めには大きく下落。3月27日にはSET指数は1099.76迄下落し、その後やや回復したものの、6月初旬以降再び低迷(図表5参照)。 その後は世界経済の回復、タイ国内の景気回復などにより、株価は緩やかな上昇となりました。
タイの景気は回復傾向にあるものの、通貨バーツの下落による輸入物価の上昇、経常収支と財政赤字拡大などファンダメンタルズの悪化もあり、先行きに不透明感が強まっています。中国の景気減速もあり、株価はもみ合いの展開となることも予想されます。
おはようございます。ロシア経済に、やや回復する兆しがあります。
1. 4-6月期成長率+10.3%
連邦国家統計局は8月13日、4-6月期実質成長率(前年同期比、速報値)を10.3%と発表。世界的な金融緩和が発生した2009年に次ぐ落ち込みとなった2020年4-6月期以来続いてい来たマイナス成長を脱して、5四半期ぶりにプラス成長に転じました(図表1参照)。
産業別では、小売が前年同期比+23.5、鉱業同+7.8%がプラスに転じました。さらに、製造業、建設、輸送では、前期と比較して伸び率が加速。一方、農林水産業の伸び率は前期比で微減。
需要面では、実質可処分所得が前年同期比+6.8%、実質賃金が+7.7%と回復し、5四半期ぶりにプラスに転じました。20年4-6月期の落ち込みの反動増が要因とみられます。
2. インフレ率が加速
国家統計局から10月6日発表された9月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+7.4%と、伸び率は前月の+6.7%から加速(図表2参照)。市場予想の+7.1も上振れ。
2016年6月以来の高い伸び率で、食品(前年同月比+9.2%、前月は同+7.7%)、非食品(+8.1%、同+8.0%)、サービス(+4.2%、同+3.8%)などが押し上げ。
前月比では+0.6%と、8月の同+0.2%から加速。
3. 政策金利を引き上げ
一方、ロシア中央銀行は10月22日の理事会で、新型コロナ・ウィルスのパンデミックから経済活動を再開し、景気回復が進む中、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも+0.75%ポイント引き上げて7.50%にすることを決定。利上げは市場の予想の+0.50%を上回りサプライズ。これを受けて、通貨ルーブルが上昇。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利上げを決めたことについて、前回9月の会合時と同様、「インフレを持続的に押し上げる要因は依然としてかなり強い。インフレ期待が再び高まっていることを考慮すると、インフレ見通しに対するリスクは著しく大きくなる恐れがあり、物価目標から上振れする方向で乖離する可能性が有る」とし、懸念を表明。「我々の金融政策の姿勢は、こうしたインフレ上振れリスクを抑制して、インフレ率を+4%上昇(物価目標)に戻すことを目的としている」としました。
4. コロナ感染が再拡大
ロシアでは、昨年来の新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)に際して、世界初となる新型コロナウィルス向けワクチン(スプートニクV)の生産が承認されました。昨年末には接種が開始されるなど、感染収束が期待されました。
ところが接種を躊躇する動きが強く、10月23日時点では感染接種率32.83%、部分接種率36.22%に留まっています。ワクチン生産国であるにもかかわらず、世界的に見ても接種率が低位にとどまっています。
特に年明け以降、感染力が強いインドの変異種の感染が拡大。足下における人口100万人当たりの新規感染者数(7日間移動平均)は236人(10月23日時点)と、感染爆発の状態となりつつあります。ロシアではデルタ型以外の複数の変異種も確認されており、感染収束似た窓れば、底入れが期待された景気に水を差す可能性が有ります。
5. 原油価格上昇で恩恵
一方、昨年以降の新型コロナウィルスのパンデミックにより、世界経済が急減速して景気も低迷。それを受けてロシアを含む主要産油国の枠組み樽OPECプラスは、過去最大の協調減産の体制を敷きました。
ただし、昨年後半以降には、世界経済はコロナ禍から急速に回復し、中国、米国等では需要の回復が顕著となり、原油価格も騰勢を強めました。原油の主要な指標の1つでありWTI先物が1バレル=80ドルを突破するなど、原油価格の勢いがましています。
これを受けてOPECプラスも協調減産の緩和を検討してきたものの、緩和は小幅にとどまり、需給の逼迫の懸念が消えたいません。原油価格上昇はロシア経済にとってはプラスとなり、景気回復を後押ししています。
6. 為替
ここで、ロシアの為替の動きを見ましょう。ロシアの通貨であるロシア・ルーブルはここ1年で継続的に対ドルで上昇。20年11月3日の1ドル=80.49ルーブルから21年10月26日には1ドル=69.51ルーブル迄上昇。その後は対ドルでやや下落したものの、引き続き高い水準にとどまっています(図表4参照)。
ルーブルの上昇は主に原油、天然ガスなど資源価格の上昇が要因となっています。但、資源価格上昇により9月のCPI前年同月比上昇率が+7.4%に加速するなど、インフレ懸念がk強まっています。中銀は今後も引締め姿勢をとるものと予想され、高金利、インフレ率上昇が景気回復の重石となる可能性もあります。
おはようございます。世界的に商品市況全般が、騰勢を強めています。
1. IMFが世界経済見通しを引き下げ
先ず、世界景気の動向を見ておきましょう。国際通貨基金(IMF)は10月12日発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、2021年の世界経済成長率見通しを5.9%と、前回7月の予想から▲0.1%引き下げ(図表1参照)。新型コロナ・ウィルス感染再拡大による供給制約が響き、「全体として成長のリスクは下方に傾いている」としました。
世界経済の回復は勢いが弱まったと指摘。新型コロナのデルタ型の流行により、自動車関連の部材等、供給網の目詰まりが起こり、インフレ率が上昇。IMFは22年に供給制約が和らぎ、インフレ率も落ち着くと予想。現状では原油価格なども上昇しているため「インフレ先行きに大きな不確実性がある」と指摘。
IMFが指摘している通り、22年にかけて、原油価格など商品市況の上昇、またそれによるインフレの先行きの懸念があると言えます。
2. リーマン・ショック時との比較
2008年9月に発生したリーマン・ショックにおいては、世界の鉱工業生産が大きく落ち込みました。それに伴い、商品市況(コモディてぃ相場)も大きく下落。リーマン・ショックの前にコモディてぃ投資ブームが起こり、原油や貴金属の市況が高騰していました。
そのため、リーマン・ショック時からの商品市況の回復にはかなりの時間がかかり、世界の鉱工業生産がリーマン・ショック以前の水準を回復して際には、原油や金の価格上昇は一服していました。
これに対して、2020年3月以降のコロナによる世界的な鉱工業生産の落ち込みによる影響においては、それ以前に商品市況がそれほど過熱していなかったという事情があります。コロナにより生産活動が急速に低下したものの、その後は各国の中央銀行の政策もあり、生産、消費共に急速に回復。それに伴い、商品市況も急速に立ち直りました。
3. 商品市況の見通し
ここで、2018年以降の商品市況の動きを見ておきましょう。代表的な指数の1つであるCRB指数は、2018-19年にはほぼ横這いで推移。2020年に入ると下落傾向を強め、2月21日の174.64から4月24日には112.75へと大幅に下落。その後は移転して上昇し、21に入っても上昇。10月27日には238.94へと、20年4月の安値から2倍以上に上昇。
4. 原油市場動き
次に原油市場の動きを見ると、代表的な指数の1つであるWTI先物は、2020年春には暴落して▲40ドルという「マイナス価格」、即ちお金を渡して原油を引き取って貰うという状況に迄落ち込みました。北海ブレントも16ドル弱迄下落。但、その後は需要が急速に回復して、直近では1バレル=80ドルを超える水準迄上昇(図表2参照)。
2020年春には、各国が新型コロナ・ウィルス感染対策により、行動を制限。特に海外への渡航が厳しく制限されて、それに伴い原油価格も急落。その後は各国の行動制限の緩和などにより、需要が回復。WTIの価格は、21年初めにはコロナ危機以前の水準を回復しました。
5. 原油の需給動向
ここで、原油の需要を見ておくと、2020年春には、コロナ危機により石油需要が急速に落ち込み、原油の在庫が急速に積みあがりました。4月21日には米国WTIが▲40ドルという「マイナス価格」に落ちこみという異例の事態となりました。
しかし、その後は需要が急速に回復。21年にはコロナ前の水準を回復。特に最大の消費国である米国の需要が大きく回復。欧州でも回復傾向にあり、20年夏場にコロナ感染が拡大したインドにおいても、復調の傾向にあります。
次に供給を見ると、OPEC(石油輸出国機構)は2016年11月二、日量120万バレルの協調減産を発表。12月には非OPEC産油国との同180万バレルの協調減産を発表。それ以降、OPEC諸国に非OPEC諸国を加えたOPECプラスの協調体制が継続。
20年3月のOPECプラス閣僚級会合では、OPEC側の150万バレルの減産提案をロシアが拒否。その翌月の4月には日量970万バレルの協調減産を決定。
21年7月上旬にはサウジアラビアとアラブ首長国連邦との対立により、原油生産方針を巡る協議が決裂。その後7月18日のOPECプラス閣僚級会合では、減産規模を8月から日量40万バレルずつ縮小することで合意。このため、今後は緩やかな増産が見込まれます。
6. 金価格の動き
ここで、金価格の動きを見ておきましょう。金は商品の中でも最も金融商品に類似しており、長期金利やドルとの関連性が強いという特徴があります。金利のつかない金は長期金利が上昇すると投資妙味が低下して、長期金利が低下すると投資妙味が増加する傾向にあります。
金価格は20年前半には、世界的な需要の落ち込みと経済危機により買われ、大幅に上昇(図表2参照)。21年に入ると、世界的なコロナからの回復により、軟調な展開。
2020年8月には1トロイオンス=2,072ドルの高値を付けた際には、長期金利の低下やドル安が支援材料となりました。さらに、コロナ禍や米中対立などのリスクに対して、安全資産である金を買う動きとなりました。
金価格は、長期金利とも相関性が高く、インフレ率が高まると実質金利が低下して金相場を押し上げる傾向にあります。最も、足下では米国でインフレ率が高まっているものの、仮想通貨など他の資産が買われる傾向にあり、金相場は軟調な展開となっています。
7. ベースメタルの動向
景気に敏感な銅やアルミニウムなどのベースメタルの相場は、21年に入り大幅上昇。銅は5月に入ると市場最高値を更新し、アルミニウムは9月に入ると13年ぶり、ニッケルは7年ぶりの高値をつかました。特に銅は、電気自動車の普及、再生エネルギー関連の投資などにより、今後も堅調な需給関係が継続すると予想されます。
このように、原油を初め、銅などのベースメタルも堅調な価格が継続。世界経済の回復により、今後も相場は強い基調となることも予想されます。米国におけるCPI(消費者物価指数)の上昇率の高止まり、長期金利の高止まりに繋がることも予想されます。
おはようございます。中国で、景気の減速感が強まっています。
1. 景気の指標が軒並み鈍化
中国では18日に9月の主要な景気指標、また7-9月期の実質国内総生産(GDP)の前年比伸び率が発表されました。指標な景気指標は軒並み鈍化。資源価格高騰の影響で企業の収益が悪化し、雇用回復の遅れが、個人消費にも影を落としています。
2. 鉱工業生産の伸び率鈍化
先ず、9月の主な景気の指標を見ておきましょう。
中国の国家統計局が18日に発表した統計によると、9月の鉱工業生産は+3.1%と、8月の+5.3%から減速(図表1参照)。市場予想の+4.5%からも下振れ。
3. 9月小売売上高伸び率鈍化
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、9月の小売売上高は前年同期比+4.4%と、8月の+2.5%から反発(図表2参照)。市場予想の+3.3%からも下振れ。
今年夏は新型コロナ・ウィルスの感染再拡大に伴う移動制限により、外食や旅行が打撃を受けました。雇用回復の遅れも鈍い個人消費に繋がりました。
4. 1-9月固定資産投資減速
他方、国家統計局による同日発表の1-9月の固定資産投資は、前年同期比+7.3%。今年1-8月の+8.9%から減速。予想の+7.9%から下振れ(図表3参照)。
5. 7-9月期GDP+4.9%
中国の国家統計局は18日に今年7-9期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+4.9%と発表(図表4参照)。市場予想の+5.2%を下回り、4-6月期の+7.9%から減速。商品価格上昇により企業の収益が悪化。新型コロナ・ウィルスの感染再拡大を受けた移動制限により消費が低迷。景気の減速感が強まっています。
前期比伸び率は+0.2%。4-6月期の同+1.2%から減速。中国は昨年には主要国に先駆けて新型コロナ・ウィルス感染を抑え込んだとして、経済の再開を開始。ここにきて、回復の速度が一服した感があります。
6. 電力不足、不動産も不振
9月に本格化した電力不足も影響。大幅な電力不足により、多数の向上が操業停止に追い込まれ、メーカーの雇用吸収力が低下。9月の鉱工業生産は前月比で+0.05%と、ほぼ横這い。新型コロナ・ウィするが直撃した20年2月の大幅減以来の停滞。
更に、恒大産業など、大手、中堅不動産の債務問題も影を落としています。中国では、マンションなどは完成する前に販売が行われることが多いわけですが、工事が途中で止まるケースが相次いでいます。マンションを購入した個人からの苦情も増加。消費にも影を落としています。
18日には、不動産中堅の新力控股(シニック・ホールディングス)が、期限を迎えた4600万ドル(約280億円)のドル建て社債を償還できず、債務不履行(デフォルト)となりました。他の大手、中堅にも債務不履行に陥る恐れのある企業が多数あり、マンション価格等不動産市場の下落に繋がる恐れがあります。
7.「共同富裕」も影響
習近平政権は、毛沢東主席が唱えた「共同富裕」の概念を推進。中国では格差を示す「ジニ係数」などで見て、貧富の格差が拡大。そのため、同政権は塾の費用を抑えることにより、教育費の負担軽減を狙っています。それにより、学習塾各社の株価が大幅に下落。
また、アリババなど一部のIT大手に対する規制も強める姿勢も取っています。同社の金融子会社であるアントは、20年11月に上場を計画していたものの、習政権が上場を認めず、資金調達が頓挫。他のIT大手に対する締め付けも強化しており、国有企業を優先する姿勢をとっています。
8. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表4の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落(図表3参照)。
米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、米中貿易摩擦の影響、当局による介入などにより、為替市場は乱高下しました。20年に入り大幅に上昇し、その後急落。21年に入るとやや戻し、21年9月末現在では、昨年12月末との比較で+1.25%の小幅上昇。
株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。
18年に入ると下落に転じ、18年12月末には24930ポイントまで下落し、その後は回復基調。21年9月末には20年12月末と比較して+2.73%の小幅上昇。
9. 当面の注目点は米中関係
当面の注目点としては、米中関係が回復するかどうか、ということがあります。米バイデン政権は、トランプ前政権と同様中国に厳しい姿勢をとるものの、二酸化酸素削減などでは、共同歩調を探る姿勢も見せています。
但、米中関係が急速に改善する可能性は低く、中国は引き続き輸出主導経済からの脱却が課題となります。
インドの「デルタ型」の新型コロナ・ウィルス感染が一部で拡大する兆しもあり、景気の減速も懸念されています。7-9月期GDP伸び率が前期から大幅に鈍化したことから、株価も引き続き上値が重くなる可能性が有ります。
おはようございます。トルコでは高いインフレ率が継続しています。
1. 9月CPI上昇率加速
トルコ統計局が10月4日に発表した9月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+19.58%となり、8月の+19.25%から伸び率が加速。市場予想の+19.7%から下振れ。4カ月連続で伸び率が加速しました。学校再開による教育や家具、生活用品の大幅上昇が全体を押し上げました。
全体指数から値動きの激しい食品やエネルギーなどを除いたコアCPIも前年比+16.98%と、8月の+16.76%を上回り、5月(+16.99%)以来、4か月ぶりの高い伸び。パンデミック前の20年1月の+9.88%を上回っており、依然高い伸び。
2. 政策金利を引き下げ
一方、トルコ中央銀行は、9月23日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を▲1.00%ポイント引き下げて18.00%にすることを決定(図表2参照)。市場は据え置きを予想していました。
中銀は会合後に発表した声明文で、「最近のインフレ上昇は、食料と輸入物価の上昇や差サプライチェーンのボトルネックなど、供給サイドの要因や政府が法律で決める管理価格の上昇、経済再開による需要の動向によって引き起こされており、これらの影響は一時的な要因による」としました。さらに「金融引締めにより、信用や国内需要が抑制され、企業向け融資にも想定以上の悪影響が起き始めている。個人向け融資の伸びを抑制している」と、金融引締め姿勢を緩和する必要があったとしています。
3. 4-6月期成長率+7.0%
他方、トルコ統計局が8月1日に発表した昨年4-6月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+21.7% (図表3参照)。1-3月期の+7.2%から加速して、4期連続のプラス成長。市場予想と一致。トルコのリュトフィ・エルバン財務相は約+20%と予想していましたが、これをやや上回りました。
新型コロナ・ウィルスの打撃を受けた前年同期からの反動で、輸出や消費が大幅増加。輸出が+59.9%、個人消費が+22.9%と牽引。
産業別では、サービス業が+45.8%、製造業が+43.4%と、それぞれ回復。
政府が20年9月29日に発表した21-23年の新中期3か年経済計画では、21年の成長率は標準シナリオでも+5.8%に回復し、22年と23年はいずれも+5%の安定成長に戻るとみています。一方、エルバン財務相は21年の成長率を+8%超と予想しています。
4. 中央銀行が迷走か
トルコにおいては、ここ数年に亘る通貨リラ下落により、輸入物価に押し上げ圧力がかかりやすい状況が継続。昨年後半以降の国際原油価格上昇も重なり、インフレ率は中銀の定めるインフレ目標を大幅に上回る状況が続き、年明け以降にはインフレ懸念が更に強まっています。
そうした状況にもかかわらず、上記の通り中銀は9月の定例会合において、政策金利である1週間物レポ金利を▲1.00%ポイント引き上げ18.00%にするなど、インフレが加速しているにも関わらず利下げをするという、定石とは反対の行動をとっています。
エルドアン大統領が「高インフレは高金利元凶」というとんでもない理論を信奉しており、歴代中銀総裁に利下げ圧力をかけてきました。以降に沿わない総裁を次々に解任。3月二は物価抑制とリラ相場防衛を目的として利上げを実施したアーバル前総裁を更迭。
9月のインフレ率は+19.58%と、一段と加速し、リラ相場は最安値を更新。10月初めに開催された主要産油国(OPECプラス)の閣僚級会議では、小幅の協調減産の維持を決定。世界経済の回復により、原油の需給がタイトになっており、国際原油価格の上昇が継続。原油輸入国にとっては、物価上昇、貿易収支の赤字に繋がっています。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。20年12月末から今年9月末まででも▲19.55%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。今年9月末と昨年12月末との比較では▲4.76%と、やや軟調。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率の高止まりの可能性が有ります。
一方、新型コロナ・ウィルス感染は抑え込みつつあり、経済活動は今後活発化すると予想されます。欧州の景気回復は遅れているものの、米中を中心として世界経済の回復が続く見込みであり、トルコもその恩恵を受けるものと予想されます。
おはようございます。インドネシアでは新型コロナ・ウィルスの感染状況が改善し、景気回復への期待感がやや強まっています。
1. 9月CPI上昇率は+1.6%
インドネシア中央統計局は10月1日に、9月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+1.6%になったと発表(図表1参照)。市場予想の+1.69%から下振れ。前月の+1.59%からほぼ横這いで、引き続き低水準にとどまっています。
2. 政策金利を据え置き
一方、インドネシア中央銀行は9月21日の理事会で、政策金利であるBIレートを3.50%で維持すると発表。据え置きは市場の予想通り。過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利も2.75%に、翌日物貸出ファリリティー金利は4.25%にそれぞれ据え置き。
中銀は会合に発表した声明文で政策金利を据え置いたことについて、前回会合時と同様、「今回の据え置き決定は、低インフレが今後も続くと予想荒れる中、景気回復を支援する一方で、(対ドルで下落している)ルピア相場と金融システムを安定させる必要性と合致する」としました。
3. 4-6期GDP予想を上回る
インドネシア中央統計局は8月5日に、4-6月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+7.07%であると発表(図表3参照)。5四半期ぶりのプラス成長となり、リセッション(景気後退)から脱却。
成長率は2004年10-12月期以来の大幅な伸びとなり、市場予想の+6.57%から上振れ。
統計局によると、商品(コモディティー)の輸出が+56%となるなど、外需が好調。消費や投資の回復、政府支出の拡大が成長に寄与。輸出は+32%、個人消費が+5.9%。
人の移動の増加に伴い、運輸・倉庫業や食品・飲料業が最も大きな伸びとなりました。但、上率の高さは前年ベースが低かったことが影響しているとしました。
4. 新規感染者数が改善
一方、ASEAN(東南アジア諸国連合)においては、ワクチンが世界的に見て、比較的遅れる状況が続いています。感染力の強いインドのデルタ型の感染が拡大。インドネシアにおいては、6月以降に感染が拡大してことを受けて、7月初めに人口の多いジャワ島と観光地のバリ島北部を対象として「金空措置」の発動に踏み切りました。行動制限を強化して、最低限の経済活動を維持。
7月半ばにかけて急拡大した新規陽性者通はその後、移転して頭打ちとなっており、9月19日時点における人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)は12人と、7月半ばのピークの15分の1以下の水準に低下。足下では新規陽性者数も鈍化しており、感染動向は改善。
5. 政府が予算案提出
他方、政府は8月に予算案を提出し、歳出規模を2708.7億ルピアとしていました。9月14日に議会の予算員会と政府は、来年の経済成長率目標を+5.2%に設定することで合意。予算の規模も2708.7億ルピアから2714.2億ルピアに引き上げることで合意。
予算案おいては、新型コロナ対策として、検査、治療、ワクチン開発などの医療分野への歳出が拡大されるとともに、福祉関連やインフラ関連の歳出も拡充するなど、景気下支えを重視。
予算案では、歳入の前提となる経済成長率を+5.0〜5.5%としており、財政赤字のGDP比は▲4.85%となるなど、今年度予算の▲5.82%から縮小。政府は23年度の財政赤字をGDP比▲3.0%に抑制する計画を掲げるものの、来年度予算案では、財政赤字穴埋めを目的に991.3億ルピア規模の新発国債の発行を見込んでおり、利払い費の増大が将来の財政圧迫要因となる見込みです。
6.為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表4参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻す展開。20年末から21年9月末では、▲2.17%と若干下落。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻し、21年2月末には同▲0.9%まで戻っています。20年末と9月末との比較では、+4.6%の小幅上昇。
米国では、物価及び長期金利上昇への警戒感があり、株価のS&P500指数の上昇が一服。中国では、不動産大手の恒大の債務問題、習近平政権によるIT企業に対する締め付けで、株価が軟調。
インドネシアの景気も楽観はできない状況。インドネシアでは、株価、為替ともにしばらくは様子見気分が高まることも考えられます。
おはようございます。ブラジルではインフレ率が高まるなど、勢いを欠いています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行は9月22日の金融政策委員会で、政策金利を+1.00%ポイント引き上げて、6.25%にすることを全員一致で決定(図表1参照)。利上げは市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、「インフレ率は依然高い伸びとなっている。工業製品の物価はサプライチェーンのボトルネックやインプット価格(生産者物価)上昇などで沈静化していない。また、活動再開が進み、サービスセクターで急送なインフレ加速が続いている:として、追加利上げに踏み切りました。
2. インフレ率が加速
一方、ブラジル地理統計院は9月9日に、8月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。8月のIPCAは前年同月比+9.68%と、前月の同+8.99%から加速(図表2参照)。市場予想の+9.5%から上振れ。
3. 4-6月期GDPは+12.4%に加速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は9月1日に、4-6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+12.4%であったと発表(図表3参照)。市場予想を下回ったものの、前期(+0.1%)からは改善。前期比では▲0.1%と、市場予想の+0.2%を下回り、前期の同+1.2%からマイナス成長に転じました。
4-6月期の低迷は、1-3月期の成長の牽引役となった投資が4-6月期にマイナスに転じたことが大きく、またコロナ禍からの回復が滞っている要因として、消費の低迷も挙げられます。
ブラジルでは、昨年末から新型コロナの県戦車数は高めの水準で推移しているものの、急増は避けられており、経済への影響としてはインフレ率の急上昇とそれに伴う購買力の低下も影響しているとみられます。他方、輸出は好調で、主に中国向けの大豆輸出などが成長を支えています。
4. 景気持ち直しは鈍化傾向に
一方、同国では、新型コロナ・ウィルスの影響などにより、景気が昨年4-6月期に記録的な落ち込みとなりました。その後、低所得層への現金給付などの経済対策や、外需の回復、商品市況の反発などにより、景気は徐々に持ち直しに向かいました。
但、足下では、原油価格は堅調なものの、中国が鉄鋼生産を抑えているほか、中国景気に鈍化の兆候が出ていることもあり、鉄鉱石は調整局面になります。中国はブラジルの鉄鉱石の主要輸出先。
更に、高い失業率、高インフレによる個人消費の低迷、金利上昇による投資鈍化が予想され、今後景気は鈍化に向かうと予想されます。
5. 大統領選を控えて政治対立高まる
ブラジルは来年10月に大統領選を控えており、政治的対立が激化。再選を目指すボルソナロ大統領は新型コロナ・ウィルスへの対応を軽視。ワクチン調達を巡って汚職疑惑への関与が指摘され、国民の支持率が低下。
一方、左派のルラ元大統領が出馬の構えを見せています。多くの国民を貧困から救ったとして人気が高く、世論調査の支持率ではボルソナロ氏を大きくリード。同大統領は、選挙に負けても敗北を受け入れない姿勢を示唆。最高裁の指示にも従わないとするなど、言動は過激化しています。
大統領は軍の兵士の信頼が厚く、兵士や警察を味方につけた政治暴動に発展するリスクもあります。また、ルラ氏が大統領に返り咲く場合には、大衆迎合的な政策を展開することも考えられ、財政が悪化するリスクもあり、市場が警戒を強める可能性もあります。
6. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年4月末には同5.41レアルに下落。但、その後は中銀による利上げなどで持ち直し、6月末には同4.97レアル迄戻しました(図表4参照)。昨年12月末から今年8月末迄で+0.96%の小幅上昇。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、20年12月末には119,306ポイントに回復。
但、21年に入ってからも回復したものの、その後反落。8月末には118,781ポイントと、昨年12月末比で▲0.44%の小幅下落。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。21年に入り、米国では長期金利が上昇し、FRBによるテーパリング、即ち資産買い入れの縮小も予想されます。
中国では恒大産業の債務不履行の懸念があり、景気が減速。ブラジルの株価は当面、軟調に推移する可能性もあります。
おはようございます。前回はリスク要因、課題を見ましたが、今回は物価、金融政策、為替、株価について。
1. 8月CPI前月比減速
中国では国家統計局が9日に、8月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+0.9%であったと発表。前月の+1.0%から減速。市場予想の+1.0%から下振れ。政府の今年のインフレ目標である+3%を下回りました。
当局が新型コロナ・ウィルスのデルタ型感染拡大を抑制するために、行動制限を強化したため、サービス業の需要が落ち込んだことが背景にあります。但、既に中国のコロナ感染状況は落ち着きを見せています。
国家統計局薫氏は、航空券、旅行、ホテル宿泊の価格下落が月間ベースのCPI伸び鈍化に繋がったとしています。
2. PPIは大幅上昇
一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、8月の生産者物価指数(PPI)は、前年同月比+9.5%と、前月の+9.0%から大幅加速。市場予想の9.0%から上振れ。政府の抑制策にもかかわらず、コモディティー(商品)価格が高止まりしていることが影響。
商品価格上昇が、部品及び最終製品メーカーの収益を圧迫。中国の石炭は7日、過去最高値を更新。国内の主要石炭生産地で安全監査が始まり、供給に対する懸念が生じています。
但、不動産セクターの規制や信用の伸び鈍化を背景に、建設活動が減退する中、石炭や金属の価格は再び下落するとの観測もあります。
3. 預金準備率を引き下げ
中国人民銀行は7月9日に、中央銀行が強制的に預金を預かる比率である預金準備率を、大手銀行標準で▲0.5%ポイント引き下げて、12.0%にすることを決定(図表2参照)。
預金準備率の引き下げ自体は、事前に国務院常務会議において示唆されていたものの、市場では引き下げは中小銀行に限定されるとの予想が一般的でした。対象が大規模行まで拡大されたことで、想定よりも緩和的な姿勢と受け取られました。
一方、この措置により、包括的な対応が必要なほど中国景気が悪化している、との認識が広まりました。
4. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表4の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落(図表3参照)。
米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、米中貿易摩擦の影響、当局による介入などにより、為替市場は乱高下しました。20年に入り大幅に上昇し、その後急落。21年に入るとやや戻し、21年8月末現在では、昨年12月末との比較で+4.89%の上昇。
株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。
18年に入ると下落に転じ、18年12月末には24930ポイントまで下落し、その後は回復基調。21年8月末には20年12月末と比較して+2.0%の小幅上昇。
中国では、不動産大手の恒大産業の巨額の債務問題が話題となっています。同社の巨額の債務の支払い期限が次々と到来する予定であり、最近の世界的な株価下落の原因となっています。
4. 当面の注目点は米中関係
当面の注目点としては、米中関係が回復するかどうか、ということがあります。米バイデン政権は、トランプ前政権と同様中国に厳しい姿勢をとるものの、二酸化酸素削減などでは、共同歩調を探る姿勢も見せています。
但、米中関係が急速に改善する可能性は低く、中国は引き続き輸出主導経済からの脱却が課題となります。
インドの「デルタ型」の新型コロナ・ウィルス感染が一部で拡大する兆しもあり、景気の減速も懸念されています。
おはようございます。今回は、リスク要因と課題について考察します。
1. 最近の景気動向
まず、最近の景気を見ておきましょう。中国の国家統計局は15日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+7.9%と発表(図表1参照)。市場予想の+7.7%を上回り、好調な鉱工業生産などに支えられました。今後は、資源価格高騰によるPPI(卸売物価指数)上昇により、企業利益が圧迫される懸念があります。
新型コロナ・ウィルス感染による落ち込みの反動で、前年同期比+18.3%となった前期(1-3月期)からは鈍化したものの、4-6月期には比較的高い成長率を維持しました。
3月の全国人民代表者大会(全人代、国会に相当)終了後、全国的に移動制限が緩和され、経済活動が活発になりました。
2. 成長率緩やかに低下
中国では長らく一人っ子政策が推進され、2013年をピークとして生産年齢人口(15-64歳)が減少に転じました。人口構成を見ると、今後生産人口となる14歳以下の人口が少なく、定年退職が視野に入ってくる50歳代前半の人口が多くなっています(図表2参照)。すなわち、今後も生産年齢人口が減少し、経済成長率にマイナスの影響を齎すこととなるでしょう。
更に、従来の輸出と固定資産投資を牽引役とする成長モデルも限界に来ています。これまで、?小平氏による改革開放により、外資を呼び込み、農村部からの安価な労働力の供給により、中国は製造業、あるいは組み立て加工による世界の工場としての地位を確立しました。
しかし、最低賃金の上昇などにより、輸出主導型の経済は行き詰っています。また、地方政府による固定資産投資拡大は、住宅価格高騰、地方財政の悪化を招いています。今後は、個人消費主導の内需型経済への転換が期待されますが、個人消費には、景気を牽引するほどの強さはないとみられており、今後は緩やかに成長率が低下するものと予想されます。
3. 貧富の格差が拡大
中国では貧富の格差が拡大しており、習政権は「共同富裕」を掲げて、是正に乗り出しました。共同富裕とは、貧富の格差を縮小して社会全体が豊かになるという、中国共産党が掲げる目標。1953年に建国の父、毛沢東氏が提唱。78年から改革開放に着手した?小平氏が唱えた「先に豊かになれる者から豊かになりなさい」とい先富論と対比されがちではあるが、?小平氏も共同富裕を最終目標としていました。
理念とは異なり、世界第2位の経済大国に成長する過程で、貧富の格差が拡大。クレディ・スイスによると、中国富裕層の上位1%によると見の占有率は2000年に20.9%でしたが、15年には31.5%に上昇。20年には30.6%まで低下したものの、過去20年の上昇率は、日米欧、インド、ロシア、ブラジルを上回っています(図表3参照)。
4. 政治体制が硬直化
一方、中国共産党宣伝部は8月27日迄に公表した文書で、習近平党総書記を「大国の舵取り」を担う存在として、毛沢東主席と同等の扱いで紹介。強力な中央政権が安定の前提であるとして、一党支配を正当化。但、「低俗な個人崇拝」は否定し、集団指導体制は守るとしました。
但、習近平氏は、従来10年を限度としてきた国家主席の地位を今後も継続する構えであり、実質的な個人崇拝に進んでいるとの見方もあります。政治体制が硬直化することにより、政府の統制が進む恐れがあります。
5. 企業への締め付け強化
更に、中国国家市場監督監理総局は8月17日、不正競争法などに基づき、インターネット企業の不正競争行為を禁止する規制強化案を公表。アリババ集団や騰訊(テンセント)などIT大手に対する締め付けを強化するとみられます。
強化案は、ネット企業がデータやアルゴリズムを用いて利用者の選択の影響を与え、自社のサイトに留め置いたり、他社のサービスを妨害したりすることを禁じています。違反した場合、第三者や専門が調査。
このほか、習政権は学習費の高騰が少子高齢化の原因であるとして、学習塾の費用低下に乗り出しました。そのほか、共同富裕に関しては、贅沢品を狙い撃ち。国営メディアが論説や記事で、こぞって消費者保護のための監視強化を呼びかけました。
これにより、貴州茅台酒など酒造メーカーの株価が下落。また、インターネットを通じて販売される処方薬の保証強化を人民日報が呼びかけたことからオンラインヘルスケア株も下落。政府による場当たり的な政策が、企業の成長を阻害する恐れがあります。
6. 外交の摩擦増加
外交面でも西側諸国との摩擦が増大。ウィグル自治区における人権侵害を問題視して、アパレル企業などがウィグルにおける綿花の輸入を停止。共産党による香港民主派への締め付けが増大しており、欧米などとの対立も激化。
米国は南シナ海における「航行の自由」を主張し、英国も空母を南シナ海に派遣。米バイデン政権は日本、豪州、インドなどと共に中国包囲網の形成に動いています。さらに、一帯一路も必ずしも順調に進んでおらず、債務不履行のスリランカなどから港などインフレを取り上げる中国の姿勢を各国が非難。鳴り物入りで始まったアジアインフラ投資銀行(AIIB)も十分機能しているとは言えず、今後の中国の外交に懸念が高まっています。
次回は、中国経済の物価、金利、為替、株価について見る予定です。
おはようございます。前回は米中関係について考察しましたが、今回はサプライチェーンなどを見ていきましょう。
1. 「世界の工場」が曲がり角
中国は1970年代に改革開放に転換して以来、豊富な労働力と低賃金を生かして、「世界の工場」としての地位と確率。原材料、技術、部品を海外に依存しつつ、軽工業、重化学工業、加工産業へと順調に発展。
しかし、人口構成の変化などにより、農村部から都市部への安価な労働力の供給が困難となり、賃金が上昇。さらに、米中の対立、海外における保護主義の抬頭により、海外からの技術、部品の輸入に困難を来すこととなりました。
そのため中国政府は、「国内循環」を主体として、国内・国際の2つの循環が綜合に促進するという、「双循環」戦略を打ち出しています。
2. 双循環戦略
「双循環」という概念は、2020年5月14日に中国共産党中央政治常務委員会において初めて提起されました。その内容は、7月21日の企業家座談会における習近平総書記長の演説を基に、次のように求めることができます。
双循環とは、国内循環を主体として、国内と国際の2つの循環が相互に促進する新たな発展戦略。これは、中国の発展段階・環境の変化に基づいて提起されたものであり、中国の国際協力徒競走の新たな優位性を再構築するための戦略的選択。
これまで、経済のグローバル化が進んだ外部環境の下では、市場と資源を外に求めることは、中国の急速な発展に重要な役割を果たしてきました。しかし、現在のような保護主義が台頭し、グローバル市場が委縮した外部環境下では、中国は国内の巨大市場という融資性を十分生かさなければならない、としています。
3. 加工貿易を中銀とする国際循環の限界
中国が改革開放に転じて以来、国際循環の中心は加工貿易でした。輸出企業は技術や資金を大きく海外に依存し、原材料や部品などの中間財を大量に輸入して、中国で加工した完成品を海外に輸出するというビジネスモデル。
加工貿易のサプライチェーンにおける付加価値を表す「スマイルカーブ」で見ると、中国が競争力を持つのはスマイルカーブの下の部分にあたる組み立て・加工の部分。組み立ては付加価値が低く、利益が出にくくなっています(図表1参照)。
川上である研究開発、部品生産、また川下であるブランド・販売、アフターサービスは利幅が大きいものの、いずれも海外に依存するという構造。
中国が主に行っている川中の組み立て・加工においては利幅が小さく、賃金が上昇すれば、更に利益が出にくい構造となっています。
アップル社のiPhoneの3Gの価格は500ドルでしたが、その国際価格の配分では、米国331.79ドル、日独韓国が161.71ドルに対して、中国はわずか6.5ドルでした。加工を行うだけでは、高い付加価値を付けることはできず、今後中国が高い成長力を維持できないことがわかります。
4. 海外からの技術移転に支障
トランプ前大統領は、中国企業に対する締め付けを強化してきました。その象徴が、中国の通信機器大手フアェイ(華為技術)に対する制裁の強化。米商務省は20年8月17日、同社に対する追加制裁を発表。同社は外国製半導体の供給を絶たれ、深刻な打撃を受けることとなりました。
新たな制裁措置により、外国のメーカーが米国のソフトや技術を使って開発、製造した半導体を宇アウェイに供給することが禁止されました。
米政府は5月、台湾積体製造(TSMC)のような外国メーカーが、米国製の装置を使った製造した半導体をフアウェイやその子会社に無許可で供給することを禁止していました。新たな措置では、制限対象がさらに拡大。
フアェイは、高速通信規格「5G」に使われる通信機器はスマートフォンの製造に付加する部品として、外国製の半導体に依存していきました。トランプ政権は更に、中国の動画「Tic Tok」や通信アプリ「微信(ウィーチャット)」の追放を図るなど締め付けを強化。
バイデン政権も引き続き中国には厳しい態度をとっており、中国にとってのサプライチェーン(供給網)寸断が問題となります。
中国は今後、米国など海外からの半導体など部品の輸入、あるいは技術の移転に支障を来す可能性があります。また、日本、米国などにとっても、中国から突然部品、あるいは嘗てあったようにレアアースなどの原材料が突然止まるリスクがあります。先進国にとっても、中国を含めたサプライチェーンの見直しが課題となります。
5. 特許件数
このように、中国にとっては今後海外からの技術移転に苦慮する可能性が有るものの、明るい点もあります。その1つが特許件数。国別特許出願件数(PCT制度)では、2019年、2020年と、中国は米国、日本などを抑えて1位となっています(図表2参照)。
但、統計の中身には留意も必要。特許にはオリジナリティのある1次特許と、そうでない2次特許の2つがあります。1次特許の方が重要であるとされますが、両者の数字が混在しています。1次特許については、米国、日本、韓国、ドイツの方が多い可能性があります。
但、AI、ロボットなど、先端技術に関する優位な論文の数でも、最近は中国がトップに立つことが多くなっています。特許の件数の増加も、中国の国力の向上の表れととらえることができます。
次回はリスク要因、課題などを見る予定です。
おはようございます。前回は中国の経済の現状について見ましたが、今回は米中関係について考察しましょう。
1. 米国の対中財貿易赤字が縮小
トランプ前大統領は執拗に中国に対する非難を繰り返しました。根拠の1つが中国に対する巨額の財貿易赤字でした。
2020年の米国の財貿易を国・地域別に見ると、輸出では中国以外、輸入ではアジアNIES以外で前年比減少(図表1参照)。対中国では、中国国内の経済活動回復などを背景に、大豆や原油などを中心に輸出が+16.0%伸びて、輸入は▲3.7%となったことにより、赤字額は▲9.9%の減少となり、3,102億ドルとなりました。
対中赤字は減少したとは言え、20年の貿易赤字▲9,155億ドルに対して約3分の1を占めており、依然として主要な貿易赤字国となっています。
2. 中国に対する感情が悪化
先進国では、中国に対する否定的な見方が高水準にとどまっていることが、米ピュー・リサーチ・センターの最新調査で分かりました。人権問題に関する懸念が新型コロナ・ウィルス(COVID-19)対応への一定の評価を打ち消しています。
同センターが2-5月に実施した先進17か国・地域の成人約1万8900人を対象とした調査によると、15か国・地域で過半数の人々が中国を好ましくないと見ています。カナダ、ドイツ、韓国、米国では中国に対する否定的な見方が、これまでで最も高くなりました(図表2参照)。米国では2月時点で約76%が中国を好ましくないと回答しており、その割合は昨年比+3%ポイント上昇。
同調査では、2010年位には米国の「好ましい(Favorable)」が「好ましくない(Unfavorable)」を上回っていたものの、その後対中感情が悪化。特にトランプ政権発足とともに悪化してきており、バイデン政権になっても、対中感情が好転する兆しはありません。
3. 香港を巡る対立が激化
一方、中国政府が香港の民主主義運動弾圧のため「国家安全維持法(国安法)」を導入してから約1年半が経過。香港は中国への返還時にその時点の法律、自由を維持する「一国二制度」を中国共産党政府が約束したわけですが、同法により香港の政治的自由は完全に葬られることとなりました。
中国当局はこの法律を、殆どの人が想像もできなかったほどの速さと範囲で活用。香港の民主派による街頭でのデモを弾圧。活動家による外国政府への働き掛けも禁止しして、香港立法会(議会)を無力化、反対勢力の逮捕を拡大。
民主派への弾圧の象徴的な出来事の1つが蘋果日報(林檎日報)の廃刊。民主派の新聞として知られる同紙は、6月24日、最後の朝刊を発行し、26年に亘る歴史を閉じました。香港主要紙で唯一民主派支持を続けが同氏は、「一国二制度」の象徴とみなされてきましたが、当局の圧力により、廃刊に追い込まれました。
香港が返還されてからまだ30年も経過していないにも関わらず、「一国二制度」が崩壊。香港ではもはや英国法を基本とする法体系が崩壊し、議会も形骸化、政治的自由が完全丹生審査われることとなりました。
香港が国際的金融センターであり続けることは困難になると予想されます。自由を奪われたエリートあるいは富裕層の多くは英国など国外に脱出すると思われます。香港ドルと米ドルとのペッグ制の維持も困難になる可能性があります。
4. ウィグル問題でも対立
中国共産党によるウィグル人に対する弾圧は、以前から継続していたものの、習政権になってから弾圧が更に苛酷な状況となっています。
17年にトランプ政権が誕生。トランプ政権は中東などにおけるテロとの戦以上に、中国に対する強硬姿勢を維持。ウィグル問題に関しても、歴代政権以上に中国政府を強く非難。
また、ここにきてウィグル産の綿花の使用を停止する動きが世界各地で拡大。主要なアパレルメーカーも、綿花の原産地を問われることとなり、ユニクロなど主要なアパレルメーカーは原産地を開示するよう、NGOなどから強く求められることとなりました。
5. 知財、ハイテク分野でも対立が継続
また、知的財産権、ハイテク分野でも米中の対立が継続。米トランプ政権はファウェイなど一部中国企業が、米国のハイテク技術を持ち出していると強く非難。同社の副社長が、米国の要請によりカナダで逮捕される事態に発展。
更に、中国はAI(人口知能)、ロボットなど主要なハイテク分野において、高く評価される論文の数などで、急速に米国に追い付いています。バイデン政権もハイテク分野における中国の抬頭を警戒しており、トランプ政権と同様の強硬な姿勢を維持しています。
国際特許出願件数でも、中国は日本を追い越し、米国も追い抜く勢い。まだ、南シナ海、東シナ海などで海洋進出も加速。香港に続いて台湾もかねてより中国の「核心的利益」であるとして、軍事力を誇示。米中の対立は、日本、韓国などの周辺国桃着込みつつ、更に攻防が激しくなることとなりそうです。
次回はグローバル・サプライ・チェーンなどを見る予定です。
おはようございます。前回は中国の政治について見ましたが、今回は経済の現状と見通しについて考察しましょう。
1. 鉱工業生産の伸び率鈍化
まず7月の統計で、鉱工業生産などを見ておきましょう。
中国の国家統計局が8月16日に発表した統計によると、7月の鉱工業生産は+6.4%と、6月の+8.3%から減速(図表1参照)。市場予想の+7.8%からも下振れ。
2. 7月小売売上高伸び率鈍化
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、7月の小売売上高は前年同期比+8.5%と、6月の+12.1%から減速(図表2参照)。市場予想の+11.5%からも下振れ。
3. 1-7月固定資産投資減速
他方、国家統計局による同日発表の1-7月の固定資産投資は、前年同期比+10.3%。今年1-6月の+12.6%から減速。予想の+11.3%から下振れ(図表3参照)。
このように、7月の鉱工業生産、小売売上高、1-7月固定資産投資はいずれも前月、あるいは1-6月期より鈍化し、市場予想を下回りました。輸出の減速に加え、新型コロナ・ウィルスの国内感染拡大や洪水で、景気の下押し圧力が強まる兆候であると見られます。
4. 4-6月期GDP+7.9%
続いて、GDPについても見ておきましょう。中国の国家統計局は7月15日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+7.9%と発表(図表4参照)。市場予想の+7.7%を上回り、好調な鉱工業生産などに支えられました。今後は、資源価格高騰によるPPI(卸売物価指数)上昇により、企業利益が圧迫される懸念があります。
新型コロナ・ウィルス感染による落ち込みの反動で、前年同期比+18.3%となった前期(1-3月期)からは鈍化したものの、4-6月期には比較的高い成長率を維持しました。
3月の全国人民代表者大会(全人代、国会に相当)終了後、全国的に移動制限が緩和され、経済活動が活発になりました。
今後の懸念材料としては、世界的な資源価格上昇があります。中国、米国が新型コロナ・ウィルス感染による打撃からいち早く立ち直り、日本、EU等先進国も景気が回復傾向にあります。それに伴い、原油価格、銅価格などが上昇。PPIの上昇により、中国企業の収益が圧迫される可能性が有ります。
5. IMFがアジア新興・途上国・地域の見通し引き下げ
一方、国際通貨基金(IMF)は7月27日発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、アジアの新興・途上国・地域の21年のGDP成長率を+7.5%とする予測を発表。前回4月発表よりも▲1.1%ポイント引き下げ。一方、22年予測については、前回発表から+0.4%ポイント引き上げ(図表5参照)。
但、中国は21年▲0.3%ポイントの小幅引き下げにとどまっており、22年は+0.1%の小幅引き上げ。引き続き、中国の高い成長率を見込んでいます。
6. 中国経済の見通し
中国経済は、新型コロナ・ウィルスの感染の早期抑制の成功により、20年もプラス成長を維持し、21年も上記の通り高成長を維持する見込み。
従来の中国経済は、国内の固定資産投資と輸出が主導してきました。固定資産投資とは主に、鉄道、道路、空港、港湾などインフラの整備で、地方政府が主に担ってきました。但、地方政府の負債の増大などにより、固定資産投資先行の経済発展は見込みづらくなっています。
輸出についても、米国との貿易摩擦により、大きく拡大することは期待できません。最近は特に、ウィグルなどを巡って企業に対するESGの圧力も増しており、中国からの一部綿花の輸入に支障を来す事態となっています。
固定資産投資、輸出に代わって成長の牽引役となるのが期待されているのが個人消費。中国では従来貯蓄率が高く、個人消費の伸びが期待されたほどではなかったということがあります。直近では7月の個人消費は上記の通り前年同期比+8.5%と、前月の+12.1%から減速。
また、中国社会には国有企業、就業などについて様々な課題がありますが、社会の課題については、別の機会に見ることにしようと思います。
次回は米中の対立などを見る予定です。
おはようございます。中国経済は、米国に対抗しうる迄成長しました。中国経済の現状と展望、米中関係などについて考察していきます。
1. 共産党創立百周年
2021年は中国にとってどのような年でしょうか。中国共産党は、2021年7月に百周年を迎え、1日には習近平国家主席が重要演説を行いました。中国共産党の歴史振り返ると、主な出来事は図表1の通り。
共産党は1921年に創立され、その後、約28年にわたり日本および国民党を戦って政権を樹立して、現在の中華人民共和国が成立。その後27年に亘り毛沢東による統治が続きましたが、この間は文化大革命など、大きな変動がありました。数千万人が死亡したとの見方もあり、この27年間は中国の数千年の歴史の中でも、最も暗黒の時代であったとの見方もあります。
2. 改革開放
共産党は当初はソ連を手本とするマルクス・レーニン主義を掲げるものの、ソ連との関係の悪化もあり、次第に独自色を強めました。最も大きな転機となったモが1978年開始の「改革・開放」。?小平(とうしょうへい)氏は「黒い猫でも白い猫でも、鼠を捕るのが良い猫だ」として、政治的には共産主義を維持しつつも、経済は自由化するという路線を取りました。
?小平氏は1978年に夫人と共に来日。同氏は現在のパナソニックの大阪の工場を視察するために東京から大阪へと新幹線に乗りました。?小平氏は「背中を押されているようで早すぎる」との感想を述べ、非常に印象深い視察となりました。
3. 日本をモデルに発展を目指す
同じ時期に中国政府は米国、ドイツ、英国、フランスにも使節団を派遣し、その国のモデルと参考にすべきかを検討。その結果日本のモデルを採用。日本の技術水準が非常に高いこと、さらに日本の社会格差が小さいことが理由であるとされています。
4. 天安門事件
このように中国が改革・開放へと向かい、西側諸国は中国の民主化が進展するのではないかと、期待しました。民主化の期待を裏切る事件となったのが1989年の天安門事件。民主化を求める学生・市民に対して、人民解放軍が投入され、弾圧されました。
この事件により、経済の自由化は進めるものの、政治の自由化は行わないという、中国共産党のその後の路線が明確となりました。その後は共産党の一党独裁を堅持しつつも、高度な経済成長を実現し、米国に対抗しうる迄になりました。
5. 習近平政権の誕生
?小平氏は後継者として江沢民氏、胡錦濤氏を氏名し、この2人までは?小平氏の息のかかった指導者が続きました。江沢民、胡錦濤両氏とも、?小平氏の路線を引き継ぎ、経済の自由化、共産党の一党独裁の堅持をつづけました。
対外的には?小平氏の唱える「韜光養晦(とうこうようかい)」路線を保ちました。韜光養晦とは、一般に才能を隠し隠居することを示しますが、同氏の唱える韜光養晦は、実力を隠し、対外的には京証路線をとることを指します。
これに対して、2013年に誕生した習近平政権は、この路線を大きく変えようとしています。中国とアジア、欧州を結ぶ「一帯一路」を提唱。東南アジア、南アジア諸国などに経済援助をする一方、港湾施設の確保等、様々な囲い込みを推進。
軍事的にも南シナ海の軍事化を進め、太平洋進出を目指して海軍力を増強。国家安全法を成立させるなど、香港の民主化運動を弾圧。台湾に対する軍事的圧力も強化。
胡錦濤政権までは、国家主席は2期を限度とする集団指導体制でしたが、習近平氏は3期目も続投するとみられ、同氏への個人崇拝も強要する構え。?小平氏が築いた集団指導体制から大きく逸脱しようとしています。
但、?小平氏自身も、日本をモデルにするといいながら、日本の議会制、裁判については学ぶ姿勢がなく、一党独裁を堅持。現在の中国にとっての一番の課題は、政治改革、国有企業改革であると言えますが、習近平氏は、それとは全く反対の方向に進もうとしています。
次回は、中国経済の現状について探っていきます。
おはようございます。フィリピン経済は、回復の傾向を強めています。
1. 米国防長官フィリピン訪問
7月30日に、オースティン米国防長官がフィリピンを訪問。同氏は26日よりシンガポール、ベトナム、フィリピンを訪問。中国を睨み、ASEAN(東南アジア諸国連合)との関係を強化する姿勢を示唆。
同氏の訪問を受けて、フィリピンのドゥテルテ大統領は、米国との間で懸案となっていた「訪問米軍に関する地位協定(VAF)」の維持を決定し、米政府に出していた破棄通知を撤回。同国のロレンザーナ国防相が30日、フィリピンを訪問中のオースティン米国防長官との共同記者会計で明らかにしました。
同協定が破棄されれば、同盟関係に深刻な亀裂が入り、南シナ会の実効支配を進める中国を牽制するバイデン政権の戦略に狂いが生じることが懸念されていました。
2. 7月CPIが減速
フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は8月5日に、7月の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比+4.0%になったと発表(図表1参照)。伸び率は前月の+4.1%から減速。市場予想の+3.9%からは上振れ。
3. 政策金利を据え置き
一方、フィリピン中央銀行は6月24日の金融政策決定会合で、主要政策金利である翌日物借入金利を据え置きました(図表2参照、上限を表示)。据え置きは市場の予想通りで、5会合連続。経済活動は低調である者の、インフレ率が政府目標を上回る水準が続いており、利下げを見送りました。
5月には21年の国内総生産(GDP)の成長率見通しを前年比+6〜7%と、従来予想+6.5%〜7.5%から下方修正新型コロナ・ウィルスの感染再拡大を受けて、移動や行動を制限したことが響いています。
同日記者会見したジョクノ総裁は「新型コロナのワクチン接種計画を加速させることが市場の信頼感と経済回復を後押しする」と重要性を指摘。
4. 1-3月GDP+11.8%に回復
一方、フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は7月10日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+11.8%の伸びになったと発表(図表3参照)。新型コロナ・ウィルスの感染対策で厳しい行動制限を課した前年同期からの反動が大きく、6四半期ぶりにプラス成長に転じました。
他方、6日からはマニラ首都圏などで再び行動制限を実施しており、7-9月期以降には不透明感もあります。4-6月期は製造業や建設業など幅広い業種で回復傾向が強まりました。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、フィリピン・ペソは12年後半から、対ドルで一貫して下落(図表4参照)。ペソの下落の要因としては、経常収支の悪化、資本の流出、ペソの下落についての中銀の容認などがあります。18年9月30日には1ドル=54.05ペソの安値を付けました。
その後は一貫して上昇。21年5月31日には1ドル=47.67ペソの高値をつかました。その後は、新型コロナ・ウィルスの感染再拡大などにより、下落傾向を強めました。
株価は、フィリピン総合指数が18年1月31日に8,558ポイントを付けて、その後は下落。20年前半には新型コロナ・ウィルスの感染などにより下落傾向を強め、3月末には5,266ポイントの安値を付けました。その後は世界景気の回復などにより株価が回復したものの、今年に入り、下落傾向を強めていいます(図表4参照)。
米景気の好調、物価上昇を受けて、米連邦準備委員会(FRB)はテーパリング(資産買い入れの圧縮)を検討。但、FRBは当面、金勇緩和姿勢を維持すると予想されています。世界的な金余りという観点からは、フィリピンの通貨、株式市場にはプラス材料となりますが、国内景気の観点からは、通貨、株価とも、調整局面が続くことも考えられます。
おはようございます。メキシコ経済が、回復傾向にあります。
1. CPI上昇率ほぼ横這い
メキシコ国立地理情報研究所は7月8日に、メキシコの6月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+5.88%になったと発表(図表1参照)。5月の同+5.89%から伸び率はほぼ横這い。市場予想の+5.89%とほぼ一致。
2. 1-3月期確報値は前年同月比▲2.8%
メキシコ統計局は5月26日に、1-3月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲2.8%になったと発表(確報値)。速報値の▲2.9%からわずかに上方修正(図表2参照、図表2は速報値を掲載)。新型コロナ・ウィルス感染が拡大していた時期に当たり、飲食や小売店などサービス業の活動が制限されたことが響きました。
データの訴求修正に伴い、前年同期比でのマイナスは7四半期連続。分野別では、農業などの第1次産業が+2.6%。金融・サービス業などの第3次産業は▲3.4%、鉱業た製造業などの第2次産業さ▲2.0%。
世界的な半導体不足により自動車産業が打撃を受けているものの、主要輸出先である米国経済の急激な回復により、製造業は全般に持ち直しています。
3. 政策金利を引き上げ
メキシコ銀行(中央銀行)は6月24日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.25%ポイント引き上げて4.25%にすることを決定(図表3参照)。利上げは18年12月以来で、インフレ率が中銀の目標を大きく上回る水準にとどまっていることが背景。予想外の利上げをうけて、通貨ペソが上昇。
政策委員5人のうち3人が利上げを支持。インフレ率の急上昇は一時的なものだと政策当局が指摘していたこともあり、市場では政策金利を4%で据え置くと見込んでいました。
決定受けてメキシコ・ペソは対ドルで一時+2.4%冗長医、新興国の通貨上昇を牽引。短期金融市場では、インフレ率上昇や利上げ観測でスワップレートがここ数週間で上昇していましたが、今回の決定により上げが一段と加速。
4. ワクチン接種が進展
メキシコでは年明け以降、新型コロナ・ウィルスの感染者が拡大する「第2波」が健在化しました。死亡者数は他の国と比べて多く、感染者数は28人を上回る水準で推移するなど、医療現場では引き続き逼迫した状況が継続。
一方、21年に入りワクチン接種を開始。米国製の接種を開始したほか、ロシア製や中国製も持ち込むなど、なりふり構わぬワクチン接種を推進。7月26日時点での完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人)は14.66%、部分接種(少なくとも1回は接種を受けた人)は23.28%と、世界平均並み(それぞれ10.58%、22.98%)で推移。
ロペス・オブラドール大統領は、乾季入りする10月末を目途に全国民(1.26億人)に少なくとも1回はワクチン接種を終える計画を掲げています。但、足下の企業及び家計のマインドは依然としてコロナ禍以前の水準にあり、景気回復は道半ばの状況にあります。
5. 為替と株価
ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、20年9月29日には1ドル=22.36ペソでの取引でしたが、21年8月4日には1ドル=19.97ペソへと上昇。世界景気の回復により、原油等商品市況が上昇していることなどが影響しているとみられます。
同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、昨年3月には新型コロナ・ウィルス感染拡大により大幅下落。その後は米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和、原油等商品市場の高騰もあり、株価は大幅反発。8月4日時点でボルサ指数は51,195ポイント迄回復。
上記の通りメキシコ経済は依然としてコロナ禍からの回復途上にあるものの、国際金融市場では大幅な金余りが継続。昨年後半以降は主要国の景気も回復傾向にあり、通貨、株価とも堅調な展開が継続。
6月初めに実施された連邦議会下院の中間選挙では、最大与党の左派MORENA(国民再生運動)が議席を減らしたものの、与党連合の枠内では議会の半数を上回る議席を確保し、事前の市場予想であった「ねじれ現象」を回避。
足下ではインフレが懸念材料となっていますが、中銀は上記の通り6月24日の会合で利上げを実施。このような経済状況を背景として、通貨、株価ともに当面、堅調な展開となることも考えられます。
おはようございます。タイでは、新型コロナ・ウィルス感染が再拡大しています。
1. 新型コロナ・ウィルス感染が再拡大
タイでは2019年の民政移管後も事実上の軍事政権が継続しています。総選挙で躍進した新未来党はその後解党を命じられ、同党の支持者を中心に反政府デモが活発化しました。
一方、タイでは新型コロナ・ウィルスの感染はほぼ抑え込まれていましたが、今年4月頃から、感染力の強いインド型変異種を中心とする感染が再拡大して、急速に情勢が悪化しています。
タイ国内における感染再拡大の動きは、当初は刑務所でのクラスター(感染者集団)発生など局所的な動きにとどまっていたものの、その後は市中感染が急拡大。
1日当たりの新規陽性者数は1万人を上回るなど過去最高を更新。人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)も今月18日時点で145人と、マレーシア(353人)、インドネシア(185人)に次ぐ水準。死亡者数も拡大ペースが加速しており、医療の現場も逼迫しています。
2. 1-3月期成長率▲2.6%に留まる
先ず、経済指標を見ておきましょう。タイ国家経済社会開発庁(NESDB)は5月17日に、1-3月期の国民総生産(GDP)成長率が前年同期比▲2.6%になったと発表。10-12月期の同▲4.2%に続き5四半期マイナスとなったものの、マイナス幅が縮小したほか、市場予想の▲3.3%を上回りました(図表1参照)。
1-3月期GDPを需要項目別に見ると、主に消費の低迷と外需の落ち込みがマイナス成長に繋がりました。
民間消費は前年同期比▲0.5%(10-12月期は+0.9)と再び減少。政府消費は銅+2.1%(銅+2.2%)とやや鈍化。総資本形成は同+7.3%(同▲2.5%)。
3. 5月CPI伸び率は大幅加速
一方、タイ商業省は7月5日に、6月の消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比+1.25%であったと発表(図表2参照)。前月の同+2.44%から減速。市場予想の+1.14%から上振れ。
4. 政策金利を据え置き
一方、タイ中央銀行は6月23日の金融政策委員会で、政策金利である翌日物レポ金利を、0.5%に据え置くことを全員一致で決定(図表3参照)。据え置きは市場の予想通り。据え置きは9会合連続。
中銀は政策金利を据え置いたことについて、「第3波のパンデミックで国内消費が打撃を受けて、タイ経済の回復は従来予測より遅れ、一段と斑模様の回復様相となっている。タイ経済の見通しに対するリスクは依然として、かなりの景気下振れリスクだ」と景気の先行きに強い懸念を表明して、「現在の政策金利はすでに景気回復を支えるため、低水準となっている。利下げよりも的を絞った形での企業や家計部門への特別融資制度を通じた流動性の供給選択や債務再構築の方が企業や家計の債務負担を減らずことができる。最も効果的なタイミングで、限られた政策金利の調整余地を使うことを決めた」としました。
今後の金融政策については、「政府の景気対策と政府機関との政策協調が景気回復を支えるためにはきわめて重要だ」として、「我々の金融政策は引き続き緩和姿勢を維持しなければならない」とし、当面、金勇緩和の政策姿勢を維持する考えを示唆。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、タイ・バーツ昨年10以降には、対ドルで緩やかに上昇(図表4参照)。その後4月頃からは急激に下落。新型コロナ・ウィルスの感染再拡大により、観光業などが大きな影響を受けているためとみられます。
株価について見ると、代表的な株価指数の1つであるSET指数は、20年3月には、新型コロナ・ウィルスの感染拡大を受けて大きく下落。SET指数はその後上昇に転じたものの、10月30日には再び1,194ポイントまで下落(図表5参照)。その後は世界景気の回復、国内の観光業の再開などによりSET指数は情報に転じましたが、今年4月以降は、新型コロナ・ウィルスの感染再拡大により、再び下落基調。
タイの今後の政治・経済については、暫定政権のプラユット首相が新型コロナ・ウィルスの感染防止を名目に、反政府デモを取り締まっています。年明け以降は、感染拡大の「第2波」が顕在化してことを受けて、反政府デモが「一時休戦」を決定していました。
7月18日に発生した反政府デモでは、参加者と警察が衝突して複数の負傷者、逮捕者が出ました。政府側と反政府側の攻防は激化することも予想され、新型コロナ・ウィルスの感染再拡大と共に、タイ経済に影を落とす可能性が有ります。
おはようございます。世界的に脱炭素への動きが加速化することで、ロシア経済は転換を迫られています。
1. 1-3月期成長率はマイナス幅が縮小
6月15日発表されたロシアの実質国内総生産(GDP)成長率は、1-3月期に前年同期比▲0.7%と、昨年10-12月期の同▲1.8%から回復(図表1参照)。市場予想の▲1.0%からも上振れ。
GDP成長率の回復は、生産の回復、卸売りの回復によります。今後については、ロシア経済は2021年に回復する見込みで、ロシア中銀は、21年10-12月期までにコロナ危機以前の水準に戻ると予想しています。
2. インフレ率が加速
国家統計局から7月7日発表された6月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+6.5%と、伸び率は前月の+6%から加速(図表2参照)。市場予想の+6.3%からも上振れ。
6月のインフレ率は中銀の目標である+4%を遥かに上回っており、16年8月以来の高さ。食品価格(+7.9%)、非食品価格(+7.0%)、サービス(+4.0%)等がCPI上昇率を押し上げました。
3. 政策金利を引き上げ
一方、ロシア中央銀行は4月23日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも+0.5%ポイント引き上げて5.00%にすることを決定。利上げは市場の予想通り。新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)の沈静化によって国内外の経済活動規制が緩和され、景気回復が進む中、インフレ加速懸念が強まってきたことを受けて、インフレ抑制のために政策金利の引き上げに踏み切りました。
中銀は追加利下げを決めたことについて、「インフレ率や、家計と企業でのインフレ期待は依然、高水準にある。需要の回復も着々と進んでおり、一部の経済セクターでは需要が供給の拡大ペースを超えている」とし、前回会合と同様に「インフレ見通しの上振れ・下振れリスクのバランスは上振れリスクに知るとしている」として、インフレを抑制するために追加利上げに踏み切ったとしました。
4. 脱炭素への圧力強まる
一方、エネルギー輸出を主要な外貨獲得手段としているロシアは、大口輸出先の欧州連合(EU)とちゅごくが、脱炭素を加速していることに危機感を強めています。EUが検討中の「国境炭素税」を導入した場合、ロシアの損失は60億ユーロ(約7800億円)に上るとの試算がある他、中国への長期的な輸出減少も確実。
EUが2023年までの導入を目指す国境炭素税は、温室効果ガス排出対策が不十分な国からの輸入品の実質的な関税を課す仕組み。温室効果排出削減を相手国や企業に促す効果がある他、環境対策に多額の投資をしているEU域内の企業がそうでない国の企業に価格競争力で劣勢に立たされることを防ぐ意図があります。
ロシアは年間の政府歳入約20兆ルーブル(約29兆円)のうち、3-4割を石油・ガス・石炭などエネルギー産業からの税収に依存。EUの国境炭素税の導入で、同産業の経営が悪化したばし、ロシアは国家運営に重大なだが気を受ける可能性が有ります。
5. 為替の動き
ロシア・ルーブルは、昨年11月には1ドル=80.49ルーブルとなっていましたが、今年7月21日には同73.95へと上昇。NYのWTIなど原油価格がコロナ危機回復により上昇しており、原油価格、また天然ガス価格が堅調で、ロシア・ルーブルも堅調な動きとなっています。
6. 今後の課題
今後の課題、リスク要因としては、先ず人口が減少傾向にあることがあります。ウォッカの飲み過ぎなどが指摘されていますが、特に東部では減少傾向が強まっています。
また、輸出、国家財政共に天然ガスなど資源輸出に大きく依存。EU、あるいは中国が今後、脱酸素の政策を推進すると予想されており、ロシア経済にとってはマイナス要因になるとみられます。
おはようございます。インドでは変異型を中心として、新型コロナ・ウィルス感染再拡大が懸念されています。
1. 消費者物価指数上昇率が鈍化
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が7月12日発表した6月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.26%(図表1参照)。前月の+6.3%からやや鈍化。市場予想の+6.58%から下振れ。
2. 1-3月期成長率+1.4%に回復
続いて、インド統計局が5月31日に発表した1-3月期成長率は、前年同期比0.4%に回復(図表2参照)。4-6月期の+0.4から回復市場予想の+1.%からも上振れ。
インド経済は2四半期連続でプラス成長を確保したものの、昨年度(2020年4月〜21年3月)では▲7.3%と、通年としては過去最悪。市場予想は▲7.5%。インド政府は20年3月下旬から5月末に全土を封鎖し、6月より段階的に解除。4-6月期には四半期統計を開始して以来最悪の▲24.4%。7-9月期には▲7.3%と、下落幅が回復していました。
4月以降の新年度では、新型コロナ・ウィルス感染の再拡大見舞われています。
中銀は会合後に発表した声明文で、政策金利を据え置いたことについて、「今回の据え置き決定は、インフレが今後も低水準で抑制される見通しの中、(ドルに対して下落している)通貨ルピア相場を安定させて、また、景気を回復させる必要性と合致する」と、前回と同様、ルピア相場の行き過ぎた下落を阻止するとともに、景気回復を一段と進めたい考えを示唆。
3. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行)は6月4日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表3参照)。据え置きは市場の予想通り。新型コロナ・ウィルスの国内経済への影響を軽減することを目的として、金融政策も引き続き「必要な限り緩和的姿勢」を維持するとしました。据え置きは6会合連続。
また、LAFのリバースレポ金利(市中銀行のRBIへの預金金利)を3.35%に、市中銀行が資金逼迫時にRBIから政府債を担保に資金を借りることができる流動性供給スキーム「MSF」と公定歩合をそれぞれ4.25%に据え置きました。
金利政策据え置きの要因として、CPI上昇率の安定などを上げています。今後のインフレ率については、上昇か下落のいずれにも推移しうるとしてうえで、4-6月期は前年同期比+5.2%、7-9月は同+5.4%、10-12月期+4.7%と予想しました。
4. 新型コロナ・ウィルス感染拡大に懸念
一方、新型コロナ・ウィルス感染の「第2波」のピークを越えた同国で、ヒマラヤ山脈沿いの観光地を抱える北部ヒマチャルプラデシュ州当局が州越えの移動規制を緩和したとおk露、多数の観光客が押し寄せ、感染再拡大の懸念が出ています。
同州では6月14日、州に入る際にPCR監査陰性証明の提示義務が撤廃されたものの、民放では、州境に「約1キロの車列ができた」と報道。その多くは観光客の車で、36時間で5000台が通化した州境もあったとしています。
越境には、コロナ禍での移動の必要性を占める許可証が必要。観光客は何らかの手段で許可証を得ている模様。週内では夜間外出金利令が出ており、当局はマスクの着用など規律ある行動を呼びかけています。北部胡坐にある世界遺産「タージマハル廟」も16日から約2か月ぶりに再会予定。
インド政府の15日発表では、1日の新規感染者数は6万471人と、第2波のピークの6分の1にまで減少。感染防止のためのロックダウン(都市封鎖)は段階的に緩和されており、登記局は「第3波」に向け、ワクチン接種加速などの必要性を訴えています。
インドでは、ニューデリーなど都市部を中心に、新規感染者数が減少する傾向にありますが、変異型が拡大する傾向にあります。地方を中心として、再び感染が拡大する懸念があります。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)2021年6月末と2020年12月末との比較では、▲1.8%の小幅下落 。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、2019年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。21年6月末には52,482ポイントと、20年12月末比では+9.9%と、小幅上昇。
6. 課題とリスク
インドでは、製造業の発達が遅れていること、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が深まっていること、新型コロナ・ウィルス感染拡大が継続しているなど、多くの課題があります。また、北部カシミール地方の領有権を巡っては、中国と外交的に対立を深めています。中国・インドの対立については、最近はやや緩和する傾向にあります。
インドの強みの1つは人口構成の若さ。今後も15-64歳のいわゆる労働人口の増加が見込まれており、その面では、有利です。一連のコロナ騒動が収まれば、再び成長軌道に復帰するとみられます。
おはようございます。インドネシアでは新型コロナ・ウィルスの感染が再び拡大し、経済、政治ともに正念場を迎えています。
1. 5月CPI上昇率は+1.63%に加速
インドネシア中央統計局は7月1日に、6月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+1.33%になったと発表(図表1参照)。市場予想の+1.41%から下振れ。前月の+1.68%から減速し、引き続き低水準にとどまっています。
2. 政策金利を据え置き
一方、インドネシア中央銀行は6月17日の理事会で、政策金利であるBIレートを3.50%で維持すると発表。据え置きは市場の予想通り。過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利も2.75%に、翌日物貸出ファリリティー金利は4.25%にそれぞれ据え置き。据え置きは前会合に続いて4会合連続。
中銀は会合後に発表した声明文で、政策金利を据え置いたことについて、「今回の据え置き決定は、インフレが今後も低水準で抑制される見通しの中、(ドルに対して下落している)通貨ルピア相場を安定させて、また、景気を回復させる必要性と合致する」と、前回と同様、ルピア相場の行き過ぎた下落を阻止するとともに、景気回復を一段と進めたい考えを示唆。
3. 1-3期GDP予想を下回る
インドネシア中央統計局は5月5日に、1-3月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲0.74%であると発表(図表3参照)。減少幅は10-12月期の▲2.19%から縮小したものの、市場予想の▲0.65%から下振れ。
インドネシアは、新型コロナ・ウィルスのワクチン接種が東南アジアでは最も進んでいる国の1つである者の、内需の弱さが依然として続いていることが響きました。
1-3月期GDPは前期比では▲0.96%で、市場予想の▲0.85%を下回りました。
4. 新規感染者が再び増加
一方、ASEAN(東南アジア諸国連合)においては、ワクチン調達の遅れなどにより、世界の他の新興国と比較しても、新型コロナ・ウィルスの抑え込みについては、劣後する状況が継続。同地域で最大の人口を擁するインドネシアにおいても、年明け直後に「第2波」に直面。
政府は新規感染者数抑制のため、1年のうち最も人口の移動が活発化するレバラン(男児掛け大祭)期の国内移動を原則禁止したものの、実体としては人の移動が活発化して、効果が上がりませんでした。
先月以降は首都ジャカルタ及びその周辺で新規感染者が拡大。また、中国製ワクチンの接種が一部進んだものの、接種した医療従事者の間でクラスター(集団感染)が発生するなど、中国製ワクチンに対する不信感が高まっています。
5. 大統領が緊急措置を発表
一方、大統領は7月3日から20日までの期間について、人口が最も多いジャワ島と観光地のバリ島を対象として、「緊急措置」を発動する方針を発表。飛行機を使う移動制限の他、外食の禁止、ショッピングモールや宗教施設の閉鎖、エッセンシャルワーカー(最低限の社会維持のために必要な労働者)を除いて全従業員の在宅勤務の義務化といった強力な行動指針を発表。
同国では、変異株による感染拡大により首都ジャカルタの病床使用率は93%を上回っているほか、ジャワ島全域においてもほぼ満床に近づきつつあり、医療体制は崩壊に近づいています。
また、ジョコ・ウィドド大統領自身が、今年10月に政権2期目の折り返しになり、3選が憲法で禁止されているため、政権の「死に体化」の危険性もあります。与党PDI-P内部では、次期大統領選に向けて駆け引きが活発化しつつあります。
6. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表4参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻す展開。20年末から21年6月末では、▲3.61%と若干下落。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻し、21年2月末には同▲0.9%まで戻っています。20年末と6月末との比較では、▲0.3%とほぼ横這い。
米国では、株価指数S&P500指数が既に最高値を更新しており、日本など他の先進国の株価も堅調。中国の上海総合指数も19年末比で高値を更新しており、インドネシアの株価は出遅れています。但、インドネシア国内では新型コロナ・ウィルスの感染が再拡大しており、株価、為替ともに軟調に推移することも考えられます。
おはようございます。ブラジルではインフレ率が高まるなど、不透明要因が増大しています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行は6月16日の金融政策委員会で、政策金利を+0.75%ポイント引き上げて、4.25%にすることを全員一致で決定(図表1参照)。利上げは3会合連続で、利上げは市場の予想通り。
中銀は政策決定後に発表した声明文で、「次回会合については、金融刺激の度合いで同程度の追加調整を伴う部分的な正常化プロセスの継続を予想している」と説明。「但、この計画へのコミットメントはないことと、物価目標の確実な達成に向けて金融政策お今後の措置が調整されることを強調する」としました。
今回の追加利上げについて、「標準シナリオではインフレが加速する水戸市で、経済見通しに対する上振れ、下振れリスクのバランスも通常より崩れやすくなっている」し、「一時的なインフレ加速による経済ショックが広がるのを抑える調整が必要になっている」としました。
更に「追加利上げは金融政策が波及する一定の機関(22年も含む)にインフレ率が物価目標に収束させる見通しと合致する。また、物価の安定の目標を損なうことなく、雇用の最大化と経済変更の抑制に寄与する」としました。
2. インフレ率が加速
一方、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+8.06%と、前月の同+6.76%から加速(図表2参照)。市場予想の+7.93%から加速。
3. 1-3月期GDPは+1.2%に戻す
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は6月1日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.2%であったと発表(図表3参照)。国際商品市況の回復でプラスを維持したものの、新型コロナ・ウィルス再拡大により、20年10-12月期の+3.2%から伸び率は鈍化。
国際商品市況上昇により農業が+5.7%となったものの、製造業の落ち込みで鉱工業生産が+0.7%、サービス業が+0.4%と低調。新型コロナの変異ウィルスの感染拡大により、経済活動を制限したことが響きました。家計消費は▲0.1%、政府支出は▲0.8%と、ともに3期ぶりのマイナス。
4. ワクチン接種が進展
一方、ブラジル新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)の中心地となり、足下では変異株の流入を受けて感染が高止まりしています。累計の陽性者数は30日午後4時時点で、米ジョンズ・ホプキンス大学によると1,851万人と、米国の3,365万人、インドの3,036万に続いて世界第3位。死者数は51.5万人で、米国60.4万人に次ぎ、インドの39.8万人を上回っています。ブラジルの医療環境が劣悪であることが影響している可能性が有ります。
感染の対策を巡っては、地方では社会的距離(ソーシャルディスタンス)、マスク着用、都市封鎖(ロックダウン)などを実施。他方、連邦政府レベルでは、ボルソナロ大統領自身が新型コロナ・ウィルスを「ただの風邪」と称し、マスクを着用せず、自身が感染するなど、感染抑止に消極的姿勢を維持。両者のちぐはぐな対応が感染拡大を招きました。
5. 大統領選を控えて政治対立高まる
ボルソナロ大統領自身はワクチンに対しても懐疑的態度をとっており、コロナウィスルの期限を巡っては「急速に拡大する国家が仕掛けた化学兵器」との見方を示すなど、中国を揶揄する姿勢を示し、中国からのワクチンの原材料輸入が急速に先細りしました。
このような政権の不手際に対して、左派政党、労働組合、学生団体などが主導して政権のコロナへの政策への抗議集会が発生。来年の大統領選へ向けて、左派と右派の対立が先鋭化しつつあります。
このような左派の運動の活発化の背景として、18年に一時収監されて前回の大統領選に出馬できなかったルラ大統領に対して、今年2月に最高裁判所が有罪判決を無効とする判断を下し、ルラ氏が次期大統領選に出馬する可能性が高まっていることがあります。
ルラ氏は在任中に示した「ボルサ・ファミリア」と称する貧困層、低所得層に対する手厚い社会福祉政策により、労働者階級からの指示が厚く、政権奪回を狙う左派PT(労働者党)はルラ氏を中心として結束する動きを見せています。
一方、ルラ氏に対しては、後任のルセフ大統領と共に汚職の温床になったとの批判もあり、右派は汚職撲滅を掲げるボルソナロ大統領を支持。右派と左派の対立が先鋭化する可能性が有ります。
6. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年4月末には同5.41レアルに下落。但、その後は中銀による利上げなどで持ち直し、6月末には同4.97レアル迄戻しました(図表4参照)。昨年12月末から今年6月末迄で+4.29%の上昇。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、20年12月末には119,306ポイントに回復。
但、21年に入ってからも回復傾向にあり、6月末には126,801ポイントと、昨年12月末比で+6.28%の上昇で、最高値を更新。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。21年に入り、米国では長期金利が上昇し、FRBによるテーパリング、即ち資産買い入れの縮小も予想されます。但、世界的な景気回復もあり、ブラジルの株価は当面、堅調に推移する可能性もあります。
おはようございます。トルコでは感染は一服となっているものの、リラ相場を巡る不透明要因が継続しています。
1. 5月CPI上昇率市場予想下回る
トルコ統計局が6月3日に発表した5月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+16.59%となり、4月の+17.14%から伸び率が減速。市場予想の+17.25%から下振れ。通貨リラが下落する中、依然として高い伸び率を維持。
2. 政策金利を据え置き
一方、トルコ中央銀行は、6月17日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を19.00%に据え置くことを決定(図表2参照)。据え置きは市場の予想通りで、3会合連続。市場では、8月頃に利下げに転じるとの見方も出ています。
エルドアン大統領は高金利を嫌い、景気拡大のために度々中銀に利下げを求めています。3月にタカ派のアーバル前総裁を更迭し、自身の考えに近いカブジュオール総裁を任命。直後にリラが急落し、カブジュオール氏は就任以降、リラ防衛のために利下げを見送っています。
エルドアン大統領が今月初旬、7-8月頃に中銀が利下げに転じることを希望していると発言し、市場では利下げが8月にも行われるのではないかとの見方が浮上。但、足下の消費者物価指数(CPI)の上昇率は+16台、卸売物価指数(PPI)は+38%台に達しており、拙速な利下げは、更なる通貨下落、インフレを招く恐れがあります。
3. 1-3月期成長率+7.0%
他方、トルコ統計局が5月3日に発表した昨年1-3月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+7.0% (図表3参照)。10-12月期の+5.9%から加速して、3期連続のプラス成長。市場予想の+6.3〜6.7%からも上振れ。トルコのリュトフィ・エルバン財務相は同+5.5〜6.0%と予想していましたが、これも大きく上回りました。
1-3月期GDPが高い伸びとなったのは、20年12月から実施されたパンデミックによる経済活動の規制の大半が3月迄に緩和されたことや、政府の積極的な財政支援と中銀の利下げの効果で、個人消費と製造業が堅調となって他、輸出が拡大したことが寄与。
4. ワクチン接種が進展
一方、トルコにおいても今年3月以降に変異株による感染が再拡大する「第3波」が到来。政府は人の活動が活発化する夏季休暇に向けて行動制限を再強化するとともに、中国のワクチン外交も追い風としてワクチン確保を進めました。
政府はワクチン接種の裾野を広げることにより早期の集団免疫の獲得を目指しており、16日時点の完全接種率は16.70%と、世界平均の9.58%と上回り、部分接種率(少なくとも1回は接種と受けた人の割合)も28.05%と、世界平均(21.12%)を上回っており、ワクチン接種で先行。
こうした動きにより、1日当たりの新規感染者数は4月半ばを境として頭打ちとなり、死亡者数の拡大ペースも鈍化しており、新型コロナ・ウィルス対策は一定の成果を上げつつあります。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。20年12月末から今年5月まででも▲14.17%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。今年6月末と昨年12月末との比較では▲3.80%と、やや軟調。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。8月頃に中銀が利下げに踏み切る可能性があり、引き続きリラの下落、インフレ率の高止まりの可能性が有ります。
一方、新型コロナ・ウィルス感染は抑え込みつつあり、経済活動は今後活発化すると予想されます。欧州の景気回復は遅れているものの、米中を中心として世界経済の回復が続く見込みであり、トルコもその恩恵を受けるものと予想されます。
おはようございます。南アフリカにおける新型コロナ・ウィルス感染の状況と経済の現状を見ます。
1. 経済の失速が鮮明に
2000年代の南アフリカ(以下南アと表記)は、平均+3.5%という比較的高い成長率を記録。その後2010年代に入ると国内経済の構造問題(インフラ不足、高い失業率、国有企業の経営悪化に伴う財政悪化など)が顕在化し、2011-19年の平均成長率は+1.5%に、後半(16-19年)に限ると+0.6%の低下。南ア経済はコロナ禍以前から不振でした。
2020年3月から南アでも新型コロナ・ウィルスの感染が拡大し、3月27日から全土でロックダウン(都市封鎖)を実施。しかし感染は衰えず、7月上旬には1万人を上回る爆発的な感染拡大となりました。
この間経済は急激に悪化しましたが、以下最近の経済指標を見ておきましょう。
2. 4月CPI上昇率は+4.4%に加速
南アフリカ統計局は5月19日に、4月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+4.4%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+3.%から伸び率が加速し、市場予想の+4.3からも上振れ。
3. 政策金利を据え置き
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は5月20日に、主要政策金利であるレポレートを3.50%に据え置くことを決定。据え置きは5会合連続。20日発表の声明文では、金利の次の動きは利上げであるとのメッセージを維持。但現在のインフレ率は一時的なものであるとして、政策金利を維持。
南ア中銀の四半期予測モデルでは、依然として今年4-6月期と10-12月期の+0.25%ポイントの利上げを見込んでいます。クガニャゴ総裁は金利正常化の措置をとるとしても、政策姿勢は引き続き緩和的であると述べ、金融引締めは斬新的になる可能性を示唆。
3. 1-3月期成長率は+4.6%に鈍化
一方、南アフリカ政府統計局は6月8日に、1-3月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで+4.6%になったと発表(図表3)。電力不足などの問題が継続しており、新型コロナ・ウィルス感染からの回復が鈍化。足下では新型コロナ・ウィルス感染の第3波が懸念されており、コロナ以前の水準に戻るのは、25年前後になると予想されています。
新型コロナ・ウィルスの影響で南ア経済は20年4-6月期に大きく落ち込んだ後、その後は3四半期プラス成長を継続。21年1-3月期には主要産業である鉱業が+18%と好調。ロックダウン(都市封鎖)の緩和も寄与。
但、国営電力会社のエスコムの放漫経営により電力不足が慢性化しており、エスコムは7日にも週末にかけて計画停電を実施するとしています。
新型コロナ・ウィルスの第3波が懸念されるほか、1-3月の失業率も32.6%と高止まり。経済強力開発機構(OECD)では、南ア経済が新型コロナ・ウィルス感染拡大以前の状態に戻るのは、23-25年になるとの見通しを示唆。
4. 新型コロナ・ウィルス感染拡大により景気が大幅悪化
南アで新型コロナ・ウィルスの陽性が確認されたのは、2020年3月6日。感染が急速に拡大して、3月24日には1日あたり感染者数が100人を超え、リシル・ラマポーザ大統領は、3月27日より南ア全土でロックダウン(都市封鎖)を行うと発表。
ロックダウンは医療機関、薬局、スーパー、金融機関、ガソリンスタンドなど、生活に不可欠とされる業種以外の全ての営業を禁じ、通院や食料品買い出しなど限られた目的を除いての外出を禁じました。
感染の経済への打撃を和らげるために、南ア政府はGDP比で10.3%に相当する対策を発表(20年4月21日)し、順次実施。対策は企業の資金繰り支援から衛生予算の拡充まで多岐にわたっています。
ロックダウンを含め、政府の感染症対策は昨日しており、足下では新規感染者数は減少。但、ロックダウンは景気には大きなマイナスとなり、経済への影響は今後現れてくると予想されています。製造業生産の前年比は20年12月に18カ月ぶりにプラス(+0.9%)となって物の、21年1月には再び▲1.2%に悪化しました。
6. 為替と株価
ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。南アフリカ・ランドは、20年4月以降に対ドルで一貫して上昇。12月には、新型コロナ・ウィルスのワクチンへの期待が高まり上昇。8日発表の7-9月期GDPが前期比年率+66.1%と、5四半期ぶりのプラス成長となり、ランドは一段高。
21年に入ると、南アにおける新型コロナ・ウィルスの変異種の感染拡大により、政府による一段の行動規制強化を受けて景気下押し懸念が強まったことにより、ランドは一時下落。そ3月頃からは世界的な景気回復などにより、対ドルで上昇しました(図表4参照)。
株価は、代表的な株価指数の1つであるFTSE/JSEアフリカ全株指数でみると、18年から20年春にかけてほぼ横這いで推移(表5参照)。20年に入ると、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、株価は急落。但、3月以降には、ワクチン開発への期待、更に7-9月期GDPが急回復したことなどにより、株価も急反発。21年に入ると、国内の変異種新型コロナ・ウィルス感染拡大などにより、株価はほぼ横這いの動き。
5. リスク要因と課題
まず、南アフリカにおいては、経常収支と財政収支赤字が、国内総生産(GDP)比で大きく、通貨が売られやすい状況にあります。米連邦準備委員会(FRB)の利上げにも、注意する必要があります。
また、19-20年には計画停電が相次いで発生。国内電力供給の9割を担う国営電力会社エスコムは、政治家との癒着や放漫経営などで財政状況が悪化。企業は自家発電を導入し、家賃が上がるなどの影響が出ています。21年に入っても電力の供給が不安定であり、インフラの整備が課題となっています。
おはようございます。世界経済全体が、脱炭素へ向かっています。
1. 頻発する異常気象
日本で大型の台風の被害が拡大し、米国あるいは豪州などで夏に山林の火事が多発するなど、世界全体で異常気象の起こる回数が確実に増加しています。そのほか、熱波、旱魃、豪などの被害も拡大。
気象庁によると、20年の世界の平均気温は基準値に対して+0.45度高く、18891年の統計開始以来で最も高かった2016年に並びました。
長期的には、世界の平均気温は上昇基調で、100年あたり+0.75度の割合で上昇を続けています。二酸化炭素などの温暖化ガスによる気候変動を防ぐには、CO2排出を世界で大幅に減らす必要があるとの認識が拡大しており、脱炭素に向けた各国の対策が進行しています。
2. パリ協定がCO2削減を掲げる
まずパリ協定においては、産業革命以降の気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑制することを目標として掲げており、各国に削減目標の提出・更新を義務付けています。「2度未満」の達成に、2030年に10年比▲25%、「1.5度」の達成には▲45%が必要とされています。
米国ではトランプ前大統領がパリ協定からの離脱を表明したものの、バイデン大統領が就任と同時にパリ協定への復帰を表明。
パリ協定では、50年ころに世界の温暖化ガスの排出を「実質ゼロ」にする必要があるとしています。実質ゼロとは、CO2などの温暖化ガスの排出量から、森林などが吸収する量を差し引いてゼロにするという子です。欧州連合(EU)が19年に先行して50年実質ゼロの目標を立てて、現在120以上の国・地域が賛同しています。
3.パリ協定目標達成「到底覚束ない」国連報告書
2月26日の国連の報告では、パリ協定の下で、各国・地域が提出・更新した温室効果ガス排出削減目標を積み上げても、協定の掲げる気温上昇を抑制する目標達成には程遠いことが明らかになりました。
国連が昨年末までに提出・更新された世界75の国・地域の削減目標を積み上げたところ、全体で30年までに10年比▲1%の効果に留まることがわかりました。気候変動枠組み条約のエスピノーザ条約事務局長は、新型コロナ・ウィルスの世界的流行で、各国の削減目標設定が遅れていることに理解を示しつつ、「現在の削減の水準では、パリ協定の目標達成は到底、覚束ない」としています。
4.石油会社に厳しい判決
一方、オランダの裁判所は5月26日、世界的な石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルに対して、同社が計画よりも早く大幅に温暖化ガス排出量を減らすよう命じました。シェルへの打撃になるだけでなく、世界の化石燃料業界に影響が広がる可能性が有ります。
シェルは温暖化ガス排出量を2030年までに▲20%減らし、50年までに実質ゼロとする方針。それでは不十分であるとして、ハーブの裁判所は、30年までに19年ひ▲45%の排出量削減を命じました。
この判決は、シェルグループ全体に適用されると、同裁判所は説明。シェルは新たな目標を達成するために、現行の気候変動対策や資産売却を劇的に加速する必要に迫られる見通し。気候変動関連の訴訟が業界で相次ぐ中、今回の判決は他国でも注目される見通し。シェルは、判決について控訴する見通しであると明らかにしました。
5.石油大手の株価低迷
世界的な脱炭素加速の影響により、石油大手各社の株価も低迷。英国の石油大手BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)の株価を見ると、20年3月には新型コロナ・ウィルスの関連拡大、それに伴う航空需要の消滅、原油価格低迷などにより、株価は大きく下落。21年に入り、原油価格は大きく戻していますが、株価の戻りは鈍くなっています。
上記の判決などにより、石油大手も脱炭素の動きを加速させると予想されます。また、年金なども石油会社への投資を引き上げる動きを見せています。投資信託においても、国連の掲げるSDG(持続的成長)に賛同する動きが広がっており、石油大手の株価の戻りは鈍くなることも予想されます。
おはようございます。今回は、リスク要因について考察しましょう。
1. 新型コロナ・ウィルス感染継続のリスク
新型コロナ・ウィルスに対するワクチンの接種が世界的に進んでいます。100人あたり接種回数では、イスラエルが116.9、英国が97.3となるなど、世界的に進展(5月31日現在)。米国、欧州などでも接種が進んでいます。
但、先進国では日本が3%程度を大きく出遅れており、そのほかインドなどでは、引き続き新型コロナ・ウィルスが猛威を振るっており、今後インドの景気の下押し要因となると見られています。世界全体としては、収束に進むと見られており、今後は大きなリスク要因とはならない可能性もあります。
2.米長期金利上昇のリスク
今後のリスク要因として最大であるとみられるのは、米長期金利。米国ではバイデン政権が新型コロナ・ウィルス対策として、大規模な財政出動を決断。それにより景気は大きく回復する見通しであるものの、インフレの懸念が抬頭。
インフレ懸念の台頭により、米長期金利は3月15日には1.725%に上昇。但その後は雇用統計の数字などから、米国経済過熱の懸念が後退し、米長期金利はやや落ち着いて動きとなっています。
3. 物価上昇の懸念
米労働省が5月12日発表した4月の消費者物価ス数(CPI)は前年同月比+4.2%と、2008年9月以来、12年7か月ぶりの高い伸び(図表2参照)。
米国の長期金利に大きな影響を与える可能性のある物価については、異なる2つの見方があります。サマーズ氏やIMF(国際通貨基金)の元チーフエコノミストのブランシャール氏は、既にGDPギャップのマイナス幅が縮小しており、大規模な財政出動を行うと、GDPギャップのプラスが拡大して、物価上昇圧力がかかるとしています。
一方、FRBやイエレン財務長官は異なる見方をしています。物価は単にGDPギャップで反動するわけではなく、労働市場には遅れもみられます。したがって、物価は簡単には上昇しないと見ています。
パウレル議長3月のFOMC会合後の会見において、「インフレ率の前年比は、昨年3、4月が非常に低い水準であったため、今後数か月間に大きく上昇する。また主出が急速に回復する局面においては、特に供給制約が短期的に生産を制限する場合に物価の押し上げ圧力が生じる」とする一方「これらの一時的な物価上昇はインフレ率に一時的な効果しか与えない可能性が高い」としました。
大方のエコノミストは、FRBと同じ見方をしており、したがって米長期金利の上昇は緩やかになると予想。但、今後発表になる物価の指標には注意が必要であると言えます。COIが4月以降も加速を続けるとすれば、長期金利への影響、ひいては株価などへの影響も出てくる可能性が有ります。
4. 米企業業績は好調持続
米企業業績は、好調を持続。1-3月期決算シーズンは、企業の利益が非常に好調な四半期となりつつあります。
S&P500種株価指数を構成する企業の半数以上が5月初旬までに決算を発表。そのうち87%が予想を上回りました。93年以降で、最も好調な四半期となる可能性があります。但、これら企業の株価は決算発表後の取引で平均▲0.2%下落。
米国の5大テクノロジー企業の決算がS&P500種株価を押し上げるのに十分でなかったことを踏まえ、今後も株価は殆ど反応しないことも考えられます。新型コロナ・ウィルスによる業績の低迷からの回復は株価に十分反映されており、ここ1年1箇月の間のS&P500の+62%の上昇に、それらの業績が織り込まれている可能性が有ります。
米国の5大テクノロジー企業の決算がS&P500種株価指数を押し上げるのに十分でなかったことを踏まえると、このトレンドを今週無視するのは難しい。株価のさえない反応は、昨年の新型コロナ・ウイルス感染拡大に伴う業績低迷からの回復の大半は、S&P500がこの1年1カ月に62%上昇する中で十分に織り込まれていたことを示すものだ。
5. 社債スプレッド、新興国
ここで、米欧の社債スプレッドを見ると、長期金利が上昇する中でも拡大しておらず、金融環境を表すフィナンシャル・コンディション・インデックスも、現在良好な状態にあります。企業のデフォルト(債務不履行)も増加しておらず、基本的に良好な金融環境が維持されると予想できます。
また、新興国の米国国債に対するスプレッドは今のところ拡大する兆しがみられません。新興国からの資金流出は昨年の新型コロナ・ウィルス感染急拡大の時期は、リーマンショック時を上回る紀伊簿となってものの、現在は流入超に転じています。FRBによる新興国へのドル供給もあり、新興国への資金の流れは、今後も安定すると予想されます。
但、新興国は財政出動の余地が乏しいため、米長期金利が急上昇すれば資金流出に転じて、株価下落、通貨下落も恐れもあります。新興国の資金動向には注意が必要となっています。
おはようございます。今回は、新興国について考察しましょう。
1. 新興国経済の回復に格差
前回は、中国は新型コロナ・ウィルスの感染源となったものの、いちはやく抑え込みに成功し、その後も自律的な回復軌道を順調に辿っていることをご報告しました。但、中国以外の新興国経済は昨年には大きく落ち込みました(図表1参照)。
特に新型コロナ・ウィルス感染が拡大し、現在も感染が収まっていないインドでは、昨年の第2四半期(4-6月期)に景気が大きく落ち込みました。また、ブラジルも感染症拡大により大きく落ち込み、フィリピン、マレーシアも不調。一方、新型コロナ・ウィルス感染をある程度抑え込んだ韓国、台湾の落ち込みは相対的に小さなものに留まりました。
台湾では、特に世界の旺盛な半導体需要により、輸出が伸びています。韓国もIT産業を中心として堅調。他方、ASEAN(東南アジア諸国連合)のインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピンは相対的に戻りが鈍くなっています。
ASEAM諸国はタイを中心として観光業の比率が高く、新型コロナ・ウィルス感染により海外からの旅行客が事実上止まっていることが大きな打撃となっています。
2. インド、中国などが大きな伸び
ここで、新興国を先進国と比較しておきましょう。前掲載のIMFによる世界経済見通しでは、21年には中国、インドを中心に大きく回復するとしています。但、インドでは感染拡大による景気下押しのリスクが高まっています。一方、米国では上振れが予想されており、日本と欧州が出遅れる形となっています。
3. 消費関連でも格差
消費関連の指標を見ると、全体的の持ち直しているものの、インドが弱く、ASEANも小売り数量指数、消費者信頼感指数ともに弱めの数字(図表3参照)。
ASEAM諸国はタイを中心として観光業の比率が高く、新型コロナ・ウィルス感染により海外からの旅行客が事実上止まっていることが大き
4. 財政面でも問題
新興国経済は、財政面でも問題を抱えています。新興国においては、財政が悪化すると資本が流出し、通貨も下落する懸念があるため、財政出動がしにくいという、いわゆる財政の崖があります。
ブラジルが財政問題の典型。ブラジルは20年には、政府が財政赤字を拡大して景気を下支えして、その結果ある程度景気は持ち直しました。一方、通貨レアルが下落して、インフレ率も高まりました。
今後、ブラジルが更に財政赤字を拡大し、すると、資本流出、一層の通貨下落を招く恐れ場あり、米国のような大胆な財政政策はとりづらくなっています。
5. 景気回復に遅れも
このように、財政面での制約もあり、インド、ブラジル、ASEAN諸国など一部の新興国では、21年における景気回復が、中国、あるいは米国などと比較して相対的に遅れる懸念があります。株価、通貨の面でも、遅れが生じる可能性もあります。
次回は、世界経済のリスクについて見る予定です。
おはようございます。今回は、中国について考察しましょう。
1. 経済は自律的な回復軌道へ
中国は新型コロナ・ウィルスの感染源となったものの、いちはやく抑え込みに成功し、その後も自律的な回復軌道を順調にたどっていると言えます。もともと製造業た建設業も堅調でしたが、サービス関連も2020年10-12月期よりプラスとなっており、バランスの取れた成長の過程にあります。以下、最近の経済指標を見ることにします。
2. 鉱工業生産の伸び率鈍化
まず、鉱工業生産から見ましょう。中国の国家統計局が5月17日に発表した統計によると、4月の鉱工業生産は+9.8%と、3月の+14.1%から減速。市場予想と一致。
3. 4月小売売上高伸び率鈍化
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、4月の小売売上高は前年同期比+17.7%と、3月の+34.2%から減速。市場予想の+24.9%からも上振れ。
4. 1-4月固定資産投資減速
他方、国家統計局による同日発表の1-4月の固定資産投資は、前年同期比+17.7%。今年1-3月の+25.6%から減速。予想の+19.0%から下振れ(図表3参照)。
5. 4月輸出・輸入は大幅増加
一方、中国税関当局が5月7日発表した4月の貿易統計(ドル建て)では、輸出が前年同月比+32.3%の2369億ドル(約28兆円)、輸入が+43.1%の2210億ドル。輸出、輸入ともに伸び率が2桁増となるのは、1月から4箇月連続。米国との貿易が全体を牽引。
輸出から輸入を差し引ひた貿易収支は428億ドルの黒字。輸入の増加額が輸出の増加額を上回り、貿易黒字は前年同月比▲5%。
輸出を品目別で見ると、携帯電話が前エ同月比+38%、PCが+1%と、情報機器が好調。衣類や玩具も6割以上増加。新型コロナ・ウィルス感染拡大以降、輸出を牽引してきたマスクを含む織物は▲17%。
輸入は11年1月以来、10年3か月ぶりの高い伸び。最大品目である半導体が+23%。原油は7割、大豆は5割の増加。地域別では、米国や豪州からの輸入がそれぞれ5割前後増加。国際商品市況の回復により、資源国からの輸入額が増大。
6. 1-3月期GDP+18.3%
中国の国家統計局は4月16日に今年1-3期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+18.3%になったと発表(図表1参照)。成長率は、昨年10-12月期の+6.5%から加速し、1992年の統計開始以来過去最高で、4期連続のプラス。昨年1-3月期は新型コロナ・ウィルスの影響により同▲6.8%であったため、反動により大幅増加。
中国は、昨年には主要国で唯一のプラス成長となり、昨年に続いて投資が成長を牽引。1-3月期固定資産投資が前年同期比+25.6%と好調。鉱工業生産も同+224.5%。PCの輸出の伸びなどにより、輸出は1-3月期に同+49.0%と大幅増加。
7. 全人代21年成長率「+6%以上」
一方、3月5日より第13期全国人民代表者会議(全人代、国会に相当)の第4回会議が開催されました。李克強首相は所信表明にあたる政府活動報告で、2021年の実質経済成長率目標を「+6%以上」と設定。李首相は、「経済開封の基盤は未だ固まっていない」として、雇用回復の遅れや個人消費の伸び悩みを課題として挙げました。
全人代で示された経済運営方針によると、中国政府は徐々に政策による景気下支えを緩めていくものと思われます(図表5参照)。但、急激なマクロ政策の転換は行わないとしています。
経済運営方針では財政赤字のGDP比縮小に言及しているほか、金融政策については貨幣の供給量と社会融資総量の伸びを名目経済成長率に基本的に一致させ、マクロでレバレッジがかからないようにする方針です。
中国国家統計局が4月16日発表したデータによると、3月の主要70都市の新築住宅価格は前月比+0.5%と、2月の同+0.4%から加速。昨年8月以来7箇月ぶりの伸び率。政府の抑制策にも関わらず、不動産市場の過熱が継続。
このように中国の景気には、失速よりも加熱するリスクがあり、中国政府は過度の景気刺激策は行わないと予想されます。全人代においては、2035年までの長期目標で具体的な計数を設定しなかったことが注目されます。
具体的な数値は設定しなかったものの、中国政府は2035年までの15年で経済規模を倍増させることを目標としています。単純計算で年+4.7%〜+4.8%程度の成長が必要となります。
リスク要因としては、中国に対して依然としてバイデン政権が強硬策をとっており、対米関係が悪化する恐れもあります。中国と税国は完全に対立しないまでも、今後も貿易、知財権、防衛などで摩擦を続け、別々の経済圏を形成することも考えられます。
次回は、日本経済を見る予定です。
おはようございます。今回は、欧州について考察しましょう。
1. ユーロ圏景気が低迷
ユーロ圏では景気低迷が継続。2020年10-12月期には、実質GDP成長率が前年同期比▲4.9%と落ち込みました(図表1参照)。今年1-3月期には持ち直すと当初は予想されていましたが、実際には前年同期比▲1.8%と、引き続き低迷。新型コロナ・ウィルス感染がなかなか収まらない中、公衆衛生上の比較的厳しい措置が続いていることから1-3月期も低迷。回復してくるのは今年4-6月期以降と予想されています。
米国経済は順調に回復しており、その勢いは強まっています。国内総生産(GDP)前年比伸び率は、新型コロナ・ウィルス感染拡大などにより、20年4-6月期が▲9.0%、7-9月期▲2.8%、10-12月期▲2.4%と落ち込んだのに対して、21年1-3月期には+0.4%に回復。1-3月期は前期比年率換算では+4.5%であり、4-6月期には前期比年率換算で+6.6%迄回復すると民間エコノミストが予想(図表1参照)。
2. 輸出関連指標が回復
但、昨年4-6月期のようにすべてが悪いわけでもありません。ユーロ圏の輸出関連指標を見ると、世界経済の財需要回復により、名目輸出も製造業PMI新規輸出受注指数も回復傾向にあり、製造業や輸出は堅調(図表2参照)。
3.消費関連指標は再び悪化
新型コロナ・ウィルス感染対策が打たれる中、消費は一旦回復したものの、小売売上数量、新車登録台数ともに、再び悪化(図表3参照)。
これにより、企業の業況感では鉱工業で持ち直しが続いている一方、小売業は若干悪化し、サービス業(飲食・宿泊)では厳しい状況が継続。
4.復興基金に多くは期待できず
米国の大規模経済対策は、景気過熱、インフレリスクを巡る議論に発展していますが、対策が小さすぎるよりは大きすぎる方がよいという点では一致しているように見えます。米国に比べて回復が遅れる欧州でも、より大規模な対策が必要との声もあります。
復興基金「次世代EU」では、7500億ユーロの9割に相当する6725億ユーロの規模の復興・強靭化フィシリティー(RRF)の規則が2月に発効するなど、本格稼働に向けた準備の段階にあります(図表4参照)。
そもそも現段階では加盟国に配分するための資金調達も始まっていません。復興基金の財源は、欧州員会がEU債を発行して市場から調達。EU債の発行には、全加盟国の憲法上の要件に沿った批准手続きを得る必要があり、まだ完了していません。
5. 景気は4-6月期から持ち直しか
このように、ユーロ圏の経済は当初の想定よりは下押しが継続しています。但、ワクチンの接種が進むにつれて、米国ほどではないにしても、景気は勢いを取り戻すと予想されており、4-6月期以降には持ち直すものと思われます。
次回は、中国経済を見る予定です。
おはようございます。今回は、米国について考察しましょう。
1. 米景気が持ち直し
米国経済は順調に回復しており、その勢いは強まっています。国内総生産(GDP)前年比伸び率は、新型コロナ・ウィルス感染拡大などにより、20年4-6月期が▲9.0%、7-9月期▲2.8%、10-12月期▲2.4%と落ち込んだのに対して、21年1-3月期には+0.4%に回復。1-3月期は前期比年率換算では+4.5%であり、4-6月期には前期比年率換算で+6.6%迄回復すると民間エコノミストが予想(図表1参照)。
2. 設備投資、住宅投資が回復
需要国も区別に見ると、設備投資に関する資本財出荷は既に感染前の水準を完全に超えています(図表2参照)。住宅投資も寒波の影響などで多少振れがあるものの、好調を持続。住宅投資については、金利が低水準であることに加えて、感染症対策により在宅勤務が進んでおり、郊外により広い家を買う動きが広がっていることが需要を押し上げています。
3. 消費も回復
消費関連指標を見ると、小売売上高は昨年3月から4月にかけて落ち込んだものの、新型コロナ・ウィルス感染にもかかわらず比較的短期間で回復(図表3参照)。対面サービス型の飲食店は軟調であるものの、消費全体の水準は既に新型コロナ・ウィルス感染拡大前の水準を上回っています。背景としては、政府による大規模な給付金の支給、雇用の回復などがあります(図表3参照)。
4. 雇用も改善
次に、雇用を見ましょう。米労働省が3月の雇用統計を4月2日に発表し、非農業部門の雇用者数増加は前月比+91.6万人と、前月の+37.9万人から大幅増加(図表4参照)。市場予想の+67.5万人を下回り、失業率も▲0.2%ポイント低下の6.0%。新型コロナ・ウィルスのワクチン接種の拡大、政府による追加支援策が雇用の復調を支えています。
米疾病対策センター(CDC)によると、1日時点でワクチンを少なくとも1回接種した人は、全人口の30%に達しました。コロナ禍の社会を支えるエッセンシャルワーカーを中心として接種が進み、3月の雇用者数増加は、景気好調の目安とされる+20万人を大幅に上回りました。
指標を見ると、小売売上高は昨年3月から4月にかけて落ち込んだものの、新型コロナ・ウィルス感染にもかかわらず比較的短期間で回復(図表3参照)。対面サービス型の飲食店は軟調であるものの、消費全体の水準は既に新型コロナ・ウィルス感染拡大前の水準を上回っています。背景としては、政府による大規模な給付金の支給、雇用の回復などがあります(図表3参照)。
一方、米連邦準備委員会(FRB)のパウレル議長は、統計の集計の誤差が存在することや、働くころを諦めて市場から退出人が増加し、労働参加率が低下していることを考慮して、実質的な失業率は10%程度と考えており、依然として厳しい雇用情勢が継続しているとしています。
5. インフレ懸念
リスク要因としては、インフレ懸念があります。政府による大規模な給付金などの影響により、過去の平均的な貯蓄率以上に積みあがった貯蓄の額は1.8兆ドル程度。これらの強制貯蓄が今後、どの程度消費に向かうかが焦点。
消費の上振れによって景気の押し上げ効果が期待できるとともに、物価上昇、長期金利上昇に繋がる可能性が有ります。
元財務長官のサマーズ氏は、強制貯蓄がこれから消費に向かうために、景気や物価が上振れする可能性が有るとしています。但、多くのお好みストは、強制貯蓄が消費を押し上げるとしても、その効果は緩やかであり、それほど大きな影響はないとしています。
その根拠の1つは、貯蓄が富裕層に集中していること。上位20%の金持ちに貯蓄の増加が集中。これらの高所得者の消費性向(所得のうち消費に回る比率)はもともと低く、サービスの需要が回復したとしても、回復の度合いは緩やかなものとなる可能性があります。
次回は、中国経済を見る予定です。
おはようございます。今回は、財政政策などについて考察しましょう。
1. 米が200兆円経済対策
コロナ対策の財政政策で先行するのは、米国。米連邦議会下院は3月10日、バイデン大統領が提案した1.9兆ドル(約200兆円)の新型コロナ・ウィルス対策を民主動主導で可決。上院は通貨済みで、バイデン氏が12日に署名して成立することとなりました。コロナ危機による財政出動は今回が第5弾で、総額6兆ドル弱に膨らみました。1月に発足したバイデン政権は雇用を重視しており、巨額の経済対策で雇用拡大を急いでいます。
「米国救済計画」と名付けられた新対策の中心は、1人最大1400ドル(約15万円)の現金給付。年収8万ドル以上の高所得層は除外するものの、支給総額は4000億ドル規模と、巨額の支給(図表1参照)。2020年3月に決定された第1弾、12月の第2弾と合わせると支給総額は1人最大3200ドル。3回目の支給は3月中に開始。
3月13日に失効する予定であった失業給付の特例加算も9月まで延長。失業者は州・地方政府から平均で州370ドルの失業給付を受け取っているものの、連邦政府が州300ドルを上乗せ。支給総額は2500億ドル規模とみられます。
ワクチンの普及に160億ドルを充てるほか、財政難で治安や教育が揺らぐ州・地方政府に3500億ドルを支給。中小企業対策として500億ドルを用意して、航空会社は鉄道会社にも資金を投入。
対策の総額は1.9兆ドルとなり、20年3-12月に発動した1-4弾と合わせると、対策規模は5.8兆ドル程度となる見通し。名目GDP比で約28%となり、臨時の財政支出だけで通常の年間歳出(19会計年度で4.4兆ドル)を大きく上回りました。リーマン・ショック時の経済対策は08-09年に1.5兆ドル程度で、過去に例のない巨額の財政出動となります。
2. 欧州も経済対策を準備
欧州も資金繰り支援を準備。資金繰り支援の枠組みは、主に財政余地に制約のある国を支援するもので、20年4月に合意した5400億ユーロの危機対応パッケージと、20年7月に大枠合意した7500億ユーロの復興基金「次世代EU」があります。
危機対応パッケージは、雇用維持のために活用する長期低利の融資の枠組み「失業リア浮く軽減の緊急枠組み」の1000億ユーロ、最大2000億ユーロまでの中小企業の資金繰り支援効果を見込む欧州投資銀行グループの汎欧州保障などの創設、常設の資金繰り支援の枠組み・欧州安定間可児ズムによる医療、治療、予防に使途を限定したパンデミック危機支援の2400億ユーロの3本柱からなっています。
復興基金は、7500億ユーロの9割に相当する6725億ユーロの規模の復興・強靭化ファシリティー(RRF)の規則が2月に発効するなど、本格稼働に向け準備の過程にあります(図表2参照)。RRFの基金は、各国が4月末までに提出する「復興・強靭化計画」基づいて行われます。欧州員会の審査、閣僚理事会による承認手続きなどがあるため、資金の配分は早くても今年夏になるとみられます。
現時点では、加盟国に配分するための資金の調達も始まっていません。復興基金の在源は欧州委員会がEU債を発行して市場から調達することとなりますが、EU債の発効には全加盟国の憲法上の要件に従った批准手続きが必要であり、まだ完了していないため。
3.新興国は小幅な対策
新興国は小幅な対策に留まる見込み。新興国の財政政策はGDP比で3.6%程度に留まっています。財政を拡大しすぎると、財政構造脆弱化への懸念から、通貨下落や資本流出につながる懸念があります。このため、新興国は思い切った財政政策をやりにくく、景気回復が弱くなる傾向にあります。
4.リーマン・ショック時との比較
今回の世界経済の回復をリーマン・ショック時と比較すると、20年の世界経済の落ち込みは▲3.5%と、リーマン・ショック時の0%程度よりも大きな落ち込みとなったものの、21年には比較的強い回復が見込まれています。リーマン・ショック時には先進国を中心として金融が大きな打撃を受けたのに対して、今回は新興国で感染症による打撃がより大きく、回復も遅れていることが原因となっています。
世界生産と貿易量も、リーマン・ショック時と比較して今回は急速に回復。その大きな理由として感染症によりサービス業が減退する一方、需要が財にシフトしていることがあります。
特にIT関連が好調で、PC、ビデオ会議などの需要が急増。一方、自動車は米国、中国を中心に回復してきたものの、今後は一服する見込み。自動車販売は、21年には前年比+10%程度の回復が見込まれています。
資本財も米国、中国を中心に急激に回復。中国では建機などの需要が急増。そのため、リーマン・ショック時と比較すると貿易の回復も早く、既にコロナ・ショック以前の水準を上回るまで持ち直しています。
5.K字回復継続へ
但、業種別では回復の速度にはかなり差があると見込まれます。ITは絶好調で、米国企業ではアップル、フェースブック、マイクロソフト、アマゾンなどで、売り上げ、利益が大きく伸びています。
一方、世界的に人の流れはまだ停滞しており、ホテルなどの宿泊業、飲食、航空、一部の小売りは停滞。業種間の格差が拡大。また、国別でも、インドで再び感染が急拡大するなど、一部の新興国の回復が遅れると予想されます。世界全体としてK字型回復が続く見込みであり、投資戦略としても、それらの動きを踏まえることが必要となってきます。
次回から地域別経済を見る予定で、先ずは米国から見ていく予定。
おはようございます。2021年において、中国は米国と共に、世界経済を牽引するとの見通しが強まっています。中国経済の現状と見通しについて考察しましょう。
1. 展望にあたって
世界経済を展望するにあたって、重要な点を抑えておきましょう。
まず、世界経済は昨年1-3月期、あるいは4-6月期に大きく落ち込んだものの、全般に持ち直す方向にあります。特に米国では大規模な経済対策が打ち出されており、さらに世界でワクチンの接種も進んでおり、その有効性も高いことが判明してきました。
次に、地域、国により回復の度合いにかなり差があります。中国と米国が世界経済の回復を牽引することとなりそうです。中国はいち早く新型コロナ・ウィルス感染を抑え込み、景気の落ち込みも比較的小さくて済みました。米国経済も力強く回復。一方、欧州は足下で新型コロナ・ウィルス感染が再拡大しており、一部の国では再びロックダウン(都市封鎖)に踏み切りました。新興国もワクチン接種の遅れや、財政事情により、回復の鈍い国が多くなっています。
更にリスク要因としては、新興国を中心にワクチンがまだ行きわたらない国があり、新型コロナ・ウィルス感染の終息に手間取ることも予想されます。また、米国では大規模経済対策により、景気の上振れリスク、長期金利、インフレ率の上昇が懸念されます。
2. IMFによる見通し
次にIMFによる見通しを見ておきましょう。国際通貨基金(IMF)は4月6日に、世界経済見通しを改定。20年と21年の世界経済の成長見通しをそれぞれ+6.0%、+4.4%と予想。今17月時点の予想からそれぞれ+0.5%、+0.2%の上方修正。一方、各国内及び先進国と発展途上国との格差拡大や乖離に継承を鳴らしました。
IMFは今年1月に世界経済成長率を+5.5%に引き上げており、上方修正は3か月で2回目。最新予測の通り+6%成長が実現すると、1980年以降で最大の伸びとなります(図表1参照)。世界銀行の同様の統計で見ると、73年以来の高い伸び。
3. インド、中国などが大きな伸び
一方、国・地域別にみると、米国の21年成長率は+6.4%と、+1.3%ポイントの上方修正(図表2参照)。1月に発足したバイデン政権が1.9兆ドル(約200兆円)の経済対策を実現した効果を加味。中国と共に、世界経済を牽引すると予想。
22年の世界経済成長率見通しは+4.4%と、従来予想の+4.2%から+0.2%ポイント引き上げています。但、多くの先進国が22年までパンデミック前の水準に戻らず、新興国や途上国がコロナ禍前の水準に戻るのは、23年迄かかると予想。
新興国では、21年にインドが+12.5%の高い伸び。中国も+8.4%の高い伸び。中国はいち早く新型コロナ・ウイルスを抑え込み、景気の落ち込みを主要国の中では、小幅に抑え込みました。ブラジル、ロシアなど資源国も、銅などの金属、あるいは原油価格の反発などにより、21年には大きく回復する予想。
4. 世界で8億回以上の接種
では、世界全体のワクチン接種の状況はどうなっているのでしょうか。世界全体で、新型コロナ・ウィルスのワクチン接種が進展。世界全体の累計回数は、4月14日までに8億2519万回を突破。7日間の接種階数は、1日平均で1801万2201回。
国・地域別では米国、中国の接種回数が突出しており、2カ国で全体の44.6%を占めています。欧州各国でも接種が進展。日本の累計接種回数は179万9048回(図表1参照)。
5.人口100人当たりではイスラエルがトップ
但、多くのワクチンでは、免疫獲得に2回以上の接種が必要。1回の接種で免疫獲得を目指すのは、J&Jの製薬部門ヤンセンファーマなど一部に限られます。そのため、接種の進捗を見るためには、免疫獲得に必要な回数の接種を完了した人数も見る必要があります(図表2参照)。接種完了人数では、人口100人当たりでイスラエルがトップで54.7人。既に2人に1人以上が接種を終えたことになります。
7.ワクチンの契約状況
一方、各国政府はワクチンメーカーとの供給契約を急いでいます。4月2日時点で、86.2億回を超えるワクチンの契約が締結されています。うち、英アストラゼネカが24.2億回で最大のシェアで、少なくとも44か国・地域と契約。1回接種と利便性の高いJ&Jのワクチンも10億回分と多くなっています。
猶、国連はワクチンの国・地域の平等な接種を目指すCOVAXを推進。インドの強力を得て、ガーナなどアフリカの国などにワクチンを送付。ワクチンの接種は先進国を中心に進んでおり、そのままであれば、新興国、途上国に十分なワクチンが回らず、コロナの抑制が長引くと考えられます。
8.新興国遅れが長期化か
このように、先進国が十分なワクチンを確保したのに対して、新興国はワクチンの確保が送れています。そのため、世界全体としては人の流れが引き続き制限され、航空、ホテルなどの産業が引き続き打撃を受ける可能性もあります。また、地域・国別の成長率にも大きな差が出て、産業、国ともにいわゆる「K字型」回復が継続することも予想されます。
次回は、財政政策などを見る予定です。
おはようございます。2021年において、中国は米国と共に、世界経済を牽引するとの見通しが強まっています。中国経済の現状と見通しについて考察しましょう。
1. 10-12月期GDP+6.5%
まず、四半期の成長率を見ておきましょう。中国の国家統計局は1月18日に昨年10-12期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.5%になったと発表(図表1参照)。成長率は、4-6月期の+4.9%から加速し、予想の+6.1%からも上振れ。
2020年通年では実質で前年比+2.3%と、主要国の中で唯一プラスを維持したとみられます。中国は新型コロナ・ウィルスを早期に抑え込むことに成功。投資など企業部門が景気の回復を牽引。
中国の四半期成長率は昨年1-3月期の前年同期比▲6.8%と、1992年に公表を開始した四半期ベースで初のマイナス成長となりました。但、その後はコロナ・ウィルス感染拡大を抑え込み、生産を立て直し、投資、輸出が成長に寄与しました。
2. 鉱工業生産予想上回る
次に、鉱工業生産などの指標を見ましょう。中国の国家統計局が3月15日に発表した統計によると、1-2月の鉱工業生産は+35.1%と、昨年12月の+7.3%から大幅加速。市場予想の+30.0%からも上振れ。
3.1-2月小売売上高も大幅増加
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、1-2月の小売売上高は前年同期比+32.0%と、12月の+4.6%から大幅増加。市場予想の+32.0%からも上振れ。
4.1-2月固定資産投資も大幅増加
他方、国家統計局による同日発表の1-2月の固定資産投資は、前年同期比+35.0%。昨年1-12月の+2.9%から加速。予想の+40.0%からは下振れ(図表3参照)。
国家統計局の劉報道官は、統計発表後のブリーフィングで、中国経済は依然として、回復過程にあると示唆。
同報道官は第1四半期の経済は、前年同期比で急回復を見せる可能性が有るとしながらも、景気回復に不均衡がみられるために、消費への支
5. 3月製造業PMIは予想上回る
では、最近発表の指標として、3月PMIを見ましょう。中国の国家統計局が3月31日発表した3月の製造業購買担当者指数(PMI)は51.9と、前月の50.6から上昇。3か月ぶりの高水準。市場予想の51.0から上振れ。春節(旧正月)の連休の操業を停止していた工場が、需要増加に対応するために生産を再開したことが背景。
中国の工場は通常、春節の連休中は操業を停止するものの、今年は新型コロナ・ウィルス感染への懸念により多くの労働者が遠出を控えたため、通常よりも早期に操業が再開。
内訳では、生産と新規受注の指数がともに3か月ぶりの水準。輸出受注指数は、海外の需要改善で再び50を上回りました。
一方、同日に発表された3月の非製造業PMIは56.3と、前月の51.4から上昇。サービス部門は製造業部門よりも回復が遅れていたものの、このところ消費活動が活発になっています。
製造業と非製造業を合わせた総合PMIは55.3で、2月の51.6から上昇。
6. 21年は高い成長率を維持か
一方、国際通貨基金(IMF)は4月6日、最新の「世界経済見通し」を発表し、21年の世界経済の成長率を+6%と予想して、1月発表の見通しから+0.5%ポイント上昇修正しました。
中国経済の見通しは、1月に発表された前回見通しから+0.3%ポイント上方修正されて+8.4%となり、先進国は+5.1%、新興国と途上国はそれぞれ+6.7%と予想。
世界経済の見通しについては、「世界経済の前途は依然として不確実であり、新型コロナ・ウィルスの感染状況と政策支援措置の効果などにかかっている」としています。
他方、中国では4月16日に第1四半期の経済指標が発表されることとなります。3月に行われた第13期全人代(全国人民代表大会)では、21年通年の実質GDP成長率の目標を+6.0%以上としており、第1四半期の成長率が注目されます。
今後のリスク要因としては、米中の外交、貿易面での対立、新型コロナ・ウィルス感染の再拡大による世界経済への影響、資源価格上昇の影響などが考えられます。
中国税関当局が4月13日発表した3月の貿易統計では、3月のドル建て輸出は、前年同月比+30.6%。伸び率は2月の同+154.9%から鈍化して、市場予想の+35.5%からも下振れ。
輸入は同+38.1%で17年2月以来の大幅増加。伸び率は2月の+17.3%を上回り、市場予想の+23.3%からも上振れ。
貿易面から見る限り、中国経済は順調に回復の途上にあると考えられます。貿易などの好調が、中国の株価にポジティブに影響することも考えられます。
おはようございます。IMFが世界経済見通し改定し、前回1月の見通しから上方修正しました。
1. 20、21年の世界経済見通しを上方修正
国際通貨基金(IMF)は4月6日に、世界経済見通しを改定。20年と21年の世界経済の成長見通しをそれぞれ+6.0%、+4.4%と予想。今17月時点の予想からそれぞれ+0.5%、+0.2%の上方修正。一方、各国内及び先進国と発展途上国との格差拡大や乖離に継承を鳴らしました。
IMFは今年1月に世界経済成長率を+5.5%に引き上げており、上方修正は3か月で2回目。最新予測の通り+6%成長が実現すると、1980年以降で最大の伸びとなります(図表1参照)。世界銀行の同様の統計で見ると、73年以来の高い伸び。
2. インド、中国などが大きな伸び
一方、国・地域別にみると、米国の21年成長率は+6.4%と、+1.3%ポイントの上方修正(図表2参照)。1月に発足したバイデン政権が1.9兆ドル(約200兆円)の経済対策を実現した効果を加味。中国と共に、世界経済を牽引すると予想。
22年の世界経済成長率見通しは+4.4%と、従来予想の+4.2%から+0.2%ポイント引き上げています。但、多くの先進国が22年までパンデミック前の水準に戻らず、新興国や途上国がコロナ禍前の水準に戻るのは、23年迄かかると予想。
新興国では、21年にインドが+12.5%の高い伸び。中国も+8.4%の高い伸び。中国はいち早く新型コロナ・ウイルスを抑え込み、景気の落ち込みを主要国の中では、小幅に抑え込みました。ブラジル、ロシアなど資源国も、銅などの金属、あるいは原油価格の反発などにより、21年には大きく回復する予想。
おはようございます。。インドの景気が、回復の兆しを見せています。
1. 消費者物価指数上昇率が加速
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が3月12日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+5.03%(図表1参照)。前月の+4.06%から加速。市場予想の+4.83%からも上振れ。
2. 10-12月期成長率+0.4%に回復
続いて、インド統計局が2月26日に発表した10-12月期成長率は、前年同期比0.4%に回復(図表2参照)。1-3月期の+3.1から急減速し、過去最大の落ち込み。市場予想の▲18.3%からも下振れ。4-6月期及び7-9月期にはマイナス成長となっていましたが、コロナ・ウィルスの感染減少に伴う経済活動の正常化により、3四半期ぶりにプラスに転じました。
インド政府は20年3月下旬から5月末に全土封鎖を行い、6月から段階的に解除。4-6月期には四半期の統計を開始した1996年以降で最悪の▲24.4%。7-9月には▲7.3%と、下落幅が回復していました。
3. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行)は2月5日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表3参照)。据え置きは市場の予想通り。新型コロナ・ウィルスのパンデミックによる景気への打撃を抑制し、景気回復を支援。
また、LAFのリバースレポ金利(市中銀行のRBIへの預金金利)を3.35%に、市中銀行が資金逼迫時にRBIから政府債を担保に資金を借りることができる流動性供給スキーム「MSF」と公定歩合をそれぞれ4.25%に据え置きました。
RBIは「今回の現状維持の決定は、経済成長を支える一方で、インフレ率を中期の物価目標の+4%(レンジは+2%〜6%)の達成を目指すという我々の目的と合致する」としました。
4. 新型コロナ・ウィルス感染拡大に懸念
一方、米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、新型コロナ・ウィルス感染者数は、日本時間3月27日未明に1億人を突破。中国武漢で新型肺炎が確認されたのが19年12月で、世界の感染者数が5000万に達したのが11月。31日午後4時現在で、米ジョンズ・ホプキンス大学によると感染者数は12,149,335人に拡大。
インドではこのように再び感染が拡大していますが、29日にはヒンズー教の伝統の祭りに大勢の人が集まり、更なる拡大が懸念されています。29日には、色のついた水をかけあって春の訪れを祝うヒンズー教の伝統の祭り「ホーリー」が行われました。
北部のウッタルプラデシュ州では、大勢の人が集まるのを控えるよう帯びかけられているものの、自院には大勢の人が集まりました。人々は赤や緑など、鮮やかな色のついた粉や水をかけあった後、紙に祈りをささげていました。
各地の祭りでは、感染対策が徹底していないケースも多く、更なる感染の拡大に懸念が出ています。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)。但、2019年12月末と2021年3月末との比較では、+2.62%の小幅上昇。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、2019年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。21年3月末には49,509ポイントと、19年12月末比では+20.07%と、順調に回復。
6. 課題とリスク
インドでは、製造業の発達が遅れていること、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が深まっていること、新型コロナ・ウィルス感染拡大が継続しているなど、多くの課題があります。また、北部カシミール地方の領有権を巡っては、中国と外交的に対立を深めています。
インドの強みの1つは人口構成の若さ。今後も15-64歳のいわゆる労働人口の増加が見込まれており、その面では、有利です。一連のコロナ騒動が収まれが、再び成長軌道に復帰するとみられます。
おはようございます。インドネシアの景気は、緩やかに持ち直しています。
1. 2月CPI上昇率は+1.38%に減速
インドネシア中央統計局は3月1日に、2月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+1.38%になったと発表(図表1参照)。市場予想の+1.38%に一致。前月の+1.55%から減速し、引き続き低水準にとどまっています。
2. 政策金利を据え置き
一方、インドネシア中央銀行は3月18日に、政策金利であるBIレートを3.50%で維持すると発表。引据え置きは市場の予想通り。過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利も2.75%に、翌日物貸出ファリリティー金利は4.25%にそれぞれ据え置き。
中銀は政策金利を据え置いたことについて、今回の据え置き決定は(最近の米国債利回りの急上昇により)世界の金融市場の見通しが不透明になっている中、(急落している)通貨ルピア相場を安定させる必要性を考慮した」としました。さらに、「景気回復の勢いを支援するため、金融緩和的なマクロ・プルーデンス政策(金融システムの安定を目指す政策)や金融部門の進化(公開市場操作)など非伝統的な政策手段を講じていく」としました。
3. 10-12期▲2.19%成長に持ち直し
インドネシア中央統計局は2月5日に、10-12月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲2.19%であると発表(図表3参照)。減少幅は7-9月期の▲3.49%から縮小し、市場予想の▲2.3%から上振れ。
猶、2020年通年の成長率は前年比▲2.07%と、19年の同+5.02%から急減。通年のGDP成長率の縮小は、1998年以来で初めて。
10-12月期GDPを需要項目別で見ると、主に、内需の落ち込みがマイナス成長に繋がりました。
4. ジョコ政権は安定
一方、発足後1年余りを過ぎた第2期は、新型コロナ・ウィルス感染症の抑え込みには成功していないものの、社会の不満が爆発して、混乱に陥る状況にはないとみられます。背景に、政府が以前から実施している貧困層への支援策があります。
19年10月に発足した第2期ジョコ政権の最優先課題は、新型コロナ・ウィルスの抑制と経済の活性化。今のところ、感染拡大による失業者数増加や社会的制限の実施にもかかわらず、政権の支持率は高止まり。20年11月の雇用創出法の成立や、1月13日から始まった新型コロナ・ウィルス・ワクチンの早期投入の実現により、大統領の政界における求心力も高いとみられます。
地場の調査会社サイフル・ムジャニ・リサーチ・アンド・コンサルティング(SMRC)が2012月に実施した世論調査では、ジョコ大統領の実績に「非常に満足している」あるいは「満足している」と回答した人の割合は74%でした。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表4参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻し、21年2月末には同+2.8%まで戻りました。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻し、21年2月末には同▲0.9%まで戻っています。
米国では、株価指数S&P500指数が既に最高値を更新しており、日本など他の先進国の株価も堅調。中国の上海総合指数も19年末比で高値を更新しており、インドネシアの株価は出遅れています。インドネシア国内の新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まって来れば、株価、為替ともに堅調に推移することも考えられます。
おはようございます。トルコ経済に、回復の兆しがみられます。
1. 2月CPI上昇率市場予想上回る
トルコの経済指標を順次見ておきましょう。トルコ統計局が3月3日に発表した1月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+15.61%となり、1月の+14.97%から伸び率が加速。市場予想の+15.39%から上振れ。
2. 政策金利を据え置き
一方、トルコ中央銀行は、1月21日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を17.00%に据え置くことを決定(図表2参照)。12月の前回会合までは、インフレ抑制のために、2会合連続で金利を引き上げていました。据え置きは、市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、主要政策金利を据え置いたことについて、「強い内需や通貨トルコリラ安による輸入物価上昇効果、輸入食品やコモデティの価格上昇、期待インフレ率の上昇が引き続き、企業の価格設定行動やインフレの先行き見通しに悪影響を与えている」として、インフレ懸念を示唆。
一方、「20年11月と12月の過去2回の利下げによるインフレ抑制効果が表れて、内需やトルコリラ安による輸入物価常勝等によるインフレへの悪影響は徐々に緩和していく」として、当面、利下げ効果を見守るとしました。
3. 10-12月期成長率+5.9%
他方、トルコ統計局が3月1日に発表した昨年10-12月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+5.9% (図表3参照)。7-9月期の+6.3%から続いて2期連続で増加したものの、市場予想の+6.9%を大きく下回りました。政府の強力な財政支援策により、プラス成長を維持したものの、新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)の第2波感染拡大を受けて、20年12月に経済活動を再規制したことが足枷となり、市場の期待を下回りました。
20年通年のGDPは前年比+1.8%と、19年の+0.9%を上回り、18年の同+3.0%以来、2年ぶりの伸び率。IMF(交際通貨基金)が発表した新興国地域の伸び率(平均で▲2.4%)を下回りました。
トルコの20年GDP伸び率の主な内訳は、農業+4.8%、金融・保険業+21.4%、情報・通信業+13.7%と、大幅増加。製造業+2.0%、建設業▲4.3%、サービス業▲4.3%。
4. 新型コロナ・ウィルスの感染拡大
一方、トルコのエルドアン大統領は3月15日、新型コロナ・ウィルス感染が増加している中、現時点で、新たな規制は実施しないとの考えを示唆。同日に確認された感染者数は1万5503人で、今年に入って最多。
大統領社、全土の1日あたり感染者数が1万人弱であった3月1日に多くの県で規制が緩和された後に、2週間で感染が増加していることを認めました。但、一部の件で感染が増加しているものの、入院患者や集中治療室(ICU)の使用、重症者数は増加していないとしました。閣議後に、「現状の措置を継続して状況を注視する決定を下した」と述べました。
5. 外交立て直し図る
トルコは、これまで対立してきたエジプトやイスラエルとの関係縦の押しを図っています。バイデン政権がトルコに厳しい立場をとっており、イスラエルがアラブ諸国に接近していることにより、トルコの孤立感がたかまっていることが背景にあります。
トルコのチャブリオース外相は、3月12日、8年ぶりにエジプト政府と外交協議を行ったと示唆。エルドアン大統領は同日、「エジプトとは友人として付き合える」として、従来の姿勢を修正。
トルコはこれまでパレスチナを支援してきましたが、イスラエルとも接触。ネタニヤフ・イスラエル首相は11日、東地中海のガス田開発について、「トルコとも協議している。とても良い動きだ」としました。
6. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。トルコの通貨リラは、20年2月以降に一貫して下落(図表4参照)。インフレ率の上昇、地政学的リスク、エルドアン大統領と中央銀行総裁の対立などが主な要因。
トルコでは、昨年11月初めにウイサル中央銀行総裁と、エルドアン大統領の娘婿のアルバイラク財務相が相次いで辞任。それぞれの後任者が、通貨リラの価値を維持し、経済がより深い混乱に陥ることを防ぐことが期待されました。
新しい中銀総裁に就任したナジ・アーバル氏は、物価安定に狙いを定めると発言。中銀が利上げに動くと期待されました。上記の通り、その後中銀が利上げを行い、その結果リラも安定を取り戻しました。11月以降、リラは対ドルで上昇。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は、18年から19年秋ころまでは軟調。その後19年末にかけて上昇したものの、20年2月以降は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大により急落(図表4参照)。その後は、米連邦準備理事会(FRB)の大規模金融緩和などにより、株価は急激に上昇しました。
7. リスク要因と課題
通貨リラが長期的に下落傾向にあり、輸入物価上昇、消費者物価全体の上昇に繋がってきました。欧州の自動車メーカーなどが一部進出しているものの、製造業の発展が十分でなく、観光産業以外に見るべき産業もあまりありません。
エルドアン大統領に対抗する政治勢力は国内に見当たらないものの、外交面では、米国、アラブ諸国との関係改善が課題となっています。
が本気で構造改革に取り組む姿勢を見せるかどうかに注目する必要があります。東地中海のガス田開発について、欧州はトルコに批判的であり、利害関係の調整が必要となっています。
おはようございます。東日本大震災から、10年。復興はまだ道半ばですが、今後の進展に期待しましょう。さて、南アフリカの昨年10-12月期GDPが発表となり、やや明るい兆しもあります。
1. 2月CPI上昇率は+3.2%に加速
南アフリカ統計局は2月17日に、2月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+3.2%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+3.1%から伸び率が加速し、市場予想の+3.2に一致。
2. 政策金利を据え置き
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は1月21日に、主要政策金利であるレポレートを3.50%に据え置くことを決定。据え置きは3会合連続。利上げ開始の時期が、従来想定されていたよりも速まる可能性を示唆。
クガニャゴ総裁はオンライの計資金の会見で、金融政策委員会(MPC)が政策金利のレポ金利を3.5%で維持したと発表。中銀の四半期予測モデルでは、21年4-6月期と7-9月期にそれぞれ+0.25%ポイントの引き上げを示唆。これは、利下げが昨年11月時点の予測よりも速く開始される可能性が有ることを示唆。但、将来の政策決定は「見通しに対するリスクのバランスに影響されやすい」と同総裁は述べました。
3. 10-12月期成長率は+6.3%
一方、南アフリカ政府統計局は3月9日に、10-12月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで+6.3%になったと発表(図表3)。市場予想の+5.6%から上振れ。前期の同+67.3%からは鈍化したものの、プラスを維持。10-12月期は、前年同期比では▲4.1%。
通年では、前年比▲7%と、19年の+0.2%から大幅な落ち込み。1世紀前の1920年にはGDPが▲11.9%。中央銀行のデータによると、当時は第一次世界大戦の2年に亘る景気後退期。
同国は昨年に、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、100年で最大の経済縮小となりました。新型コロナ・ウィルス対策による都市封鎖と、生産と貿易に打撃を与えました。
4. 人口の約半数が新型コロナ・ウィルス感染か
南アフリカの新型コロナ・ウィルス感染者数が、推計で人口の約半数前後に上ることが、最新の研究結果などで判明。死者数も、公式発表の数字を大幅に上回るとみられます。
公式発表では、南アの感染者数は人口の2-3%に当たるや鵜150万人で、死者は約4万8500人。但、最近公表された研究によると、4週の約5000人の後退を検査すると、3263%が感染していたことが判明。
更に、南アフリカ医療研究評議会によると、昨年5月以降、過去の統計から予測される死者数を実際の死者数が上回る「超過死亡」が14万人以上に達していています。医療保険大手ディスカバリーは、このうち約9割が新型コロナ・ウィルスによるものと推定。
5. 為替と株価
ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。南アフリカ・ランドは、20年4月以降に対ドルで一貫して上昇。12月には、新型コロナ・ウィルスのワクチンへの期待が高まり上昇。8日発表の7-9月期GDPが前期比年率+66.1%と、5四半期ぶりのプラス成長となり、ランドは一段高。
21年に入ると、南アにおける新型コロナ・ウィルスの変異種の感染拡大により、政府による一段の行動規制強化を受けて景気下押し懸念が強まったことにより、ランドは一時下落しました(図表4参照)。その後、10-12月期GDP発表などを受けてやや上昇。
株価は、代表的な株価指数の1つであるFTSE/JSEアフリカ全株指数でみると、18年から20年春にかけてほぼ横這いで推移(表5参照)。20年に入ると、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、株価は急落。但、3月以降には、ワクチン開発への期待、更に7-9月期GDPが急回復したことなどにより、株価も急反発。昨年10-12月期GDPもまずまずの数字となり、続伸。
6. リスク要因と課題
まず、南アフリカにおいては、経常収支と財政収支赤字が、国内総生産(GDP)比で大きく、通貨が売られやすい状況にあります。米連邦準備委員会(FRB)の利上げにも、注意する必要があります。
また、19-20年には計画停電が相次いで発生。国内電力供給の9割を担う国営電力会社エスコムは、政治かとの癒着や放漫経営などで財政状況が悪化。企業は自家発電を導入し、家賃が上がるなどの影響が出ています。
但、世界景気の回復、自動車向け白金の需要の回復などにより、金、白金等資源への需要が回復傾向にあります。中長期では、資源への依存を低下させ、製造業の振興を図る必要があります。また、黒人を中心として失業率が高止まりしており、社会格差の縮小も課題となります。
おはようございます。レポート「脆弱5か国の近況」でブラジルについてお伝えしましたが、昨年10-12月期GDPが発表になりました。近況を見ておきましょう。
1. 政策金利を据え置き
ブラジル中央銀行は1月20日の金融政策委員会で、政策金利を2.0%に据え置くこと全員一致で決定(図表1参照)。据え置きは市場の予想通り。今回で、現状維持は4会合連続となります。
中銀は政策決定後に発表した声明文で、(物価目標など)所定の条件が満たされない限り、景気刺激姿勢を緩まないとする、フォワードガイダンス(金融政策の指針)を終了すると表明。
フォワードガイダンスについて中銀は「(低下傾向を示唆していた)期待インフレ率が上向きに転じて、インフレ見通しも十分に金融政策が波及する一定の期間内の物価目標にほぼ終息したことから、これまでのフォワードガイダンスを維持する状況にならなくなった」としました。
2. インフレ率がわずかに加速
一方、ブラジル地理統計院は2月9日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+4.56%と、前月の同+4.52%からわずかに加速(図表2参照)。
3. 10-12月期GDPは▲1.1%に戻す
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は3月2日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲1.1%であったと発表(図表3参照)。市場予想の▲1.6%から上振れ。前期の同▲3.9%からは回復し、マイナス幅を縮小。前期比伸び率(季節調製済み)は+3.2%。予想の+2.8%から上振れ。但シ、前期の同+7.7%かは伸び率が鈍化。
20年通年のGDP成長率は▲4.1%と、19年の+1.4%から低下。
需要項目別では、個人消費が+3.4%(前期は同+7.7%)、政府消費が+3.5%(同+1.1%)、投資+20.0%(同+10.7%)、輸出が▲1.4%(同▲2.0%)、輸入が+22.0%(同▲9.6%)。輸出入を除いた主要項目は、いずれも10-12月期に続いてプラスを維持。
10-12月期のブラジル経済は回復を継続したものの、 足下では変異種の流行などで新型コロナ・ウィルスの新規感染者が多い状況が継続。さらに、インフレ率は低いものの、金融市場では通貨レアルの下落が進んでおり、金融緩和余地は小さいとみられます。ブラジル経済は、今後も停滞する可能性が有ります。
4. ワクチン接種開始
一方、ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)は1月17日、ブラジルが中国のシノバック・バイオテックと共同開発した「コロナバック」と、英国おオック府フォードが抱くがアストラゼネカと共同開発した「コビシールド」の2種類のコロナ・ウィルス・ワクチンの緊急使用(合計800万回分)を承認。
サンパウロ政府はANVISAの承認後、連邦政府の接種に先立つ形で、ブラジル初の新型コロナ・ワクチン接種を開始。同州政府公式サイトによると、22までに10万人以上がッ接種。
連邦政府が当初から確保を試みていたオックスフォード・アストラゼネカのワクチンは、生産元のインドからの入手が一時阿多部まれれいたものの、22日にブラジルに到着。インドのモディ首相は、同日に、インドに謝意を表していたボルソナロ大統領に「新型コロナ対策で、ブラジルの信頼に足るパートナーになれたことは光栄だ」と表明。
一方、ブラジルの感染者数は2月17日午後4時現在で9,921,981人と、米国、インドに次いで世界第3位(ジョン部・ホプキンス大学による)。死者も55,271人と、米国の63,561人について世界第2位。ブラジルではボルソナロ大統領が「コロナは風の一種だ」として軽視したころもあり、経済に大きな打撃となっています。今後は、ワクチンの接種などにより、新型コロナ・ウィルスをどの程度抑え込めるかが、景気に大きな影響を与えることとなりそうです。
4. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年2月末には同5.59レアルと、19年末比で▲39.3%の大幅下落。国内の景気低迷などが影響しているとみられます。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、20年12月末には119,306ポイントに回復。
但、21年に入ってからは景気停滞などにより、2月末には110,035ポイントと、19年末比で▲2.1%の小幅下落へと転じました。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。このところ、米国では長期金利が上昇する傾向にあり、ブラジルの株価にも下押し圧力がかかる可能性が有ります。
おはようございます。米欧とイランの対立が継続しています。
1. イランが抜き打ち核査察拒否へ
イラン政府は国際原子力機関(IAEA)に対して、米国による経済制裁が21日迄に緩和されなければ、今後は核合意に基づく核関連施設への抜き打ち査察を認めないと、15日に通知。イランのガリブアバディ在ウィーン国際機関代表部大使が15日にツイッターで示唆。
核合意は2015年に、イランと米英独仏中露が結びました。イランの核開発を制限する一方、経済制裁の緩和が盛り込まれていました。祖語の、18年に当時のトランプ米政権が一方的に合意から離脱し、制裁を再開。
査察の受け入れ拒否は、イラン国会で多数を占める保守強硬派が主導し、昨年12月に成立した新法に基づいています。制裁が緩和されなければ、今月23日をもって抜き打ち笹s津を認めた追加議定書の履行をやめるとしています。
2. イランとIAEAが最大3か月の査察受け入れで合意
イランが未申告の核施設への抜き打ち査察受け入れを停止すると宣言してことを受けて、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は2月20日夜、イランを訪問。同氏は21日、イラン原子力庁のサレヒ長官と会談。今後の査察協力の技術的な進め方について話し合った模様。
その後21日夜に、グロッシ事務局長は、イランと核関連施設の必要な査察を最大3か月間継続することで合意したと発表。イランは23日から未申告の施設への抜き打ち査察を認める「追加議定書の在位暫定思考を停止するものの、最低限の協力姿勢を維持(図表1参照)。
IAEAはイランが23日に追加議定書の履行を停止した後も、核関連施設の必要な検証や確認作業は継続できることとなります。グロッシ氏は「これは一時的な解決策だ」と協調。「IAEAの企業は状況を安定させることだ」としました。3か月の間に、関係国の協議が進展することに期待しました。
IAEA破擦の規模縮小を予期亡くされそうで、従来よりもイランの核開発の実態の把握は難しくなると予想されます。イランはひとまず、IAEAが必要な作業を継続できるよう譲歩することにより、国際社会からの孤立を防止し、米国などの交渉を有利に進めようとの思惑があるとみられます。
3. 原油価格が上昇
一方、原油価格の代表的な指標の1つであるWTI先物は昨年11月以降上昇を続け、2月25日15:30現在では63.63ドル、前日比+0.41ドル(図表2参照)。コロナによる急落以前の、20年1月初めの水準を回復。
昨年秋以降には新型コロナ・ウィルス感染が再拡大したことにより、原油需要の回復は鈍いものの、ワクチン普及による先行きの需要回復を織り込む動き。さらに、OPECプラスによる大規模減産の継続とその遵守、米シェールガス生産の停滞による供給の抑制、金融緩和継続による投資家の資金流入などが、原油価格回復に寄与しました。
今後の注目材料としては、需要サイドとしてはワクチンの普及の速度とその効果、変異種の影響が注目されます。供給サイドでは、米シェールガスの生産動向とバイデン政権による石油開発抑制、OPECプラスによる減産縮小、減産を除外されている3か国、特にイラン制裁の動向、などが注目されます。
このような観点から、原油価格は当面、堅調に推移する可能性が高いと考えられます。ワクチンの普及が進み、米国で景気が回復し、欧州、日本などもそれに続くと予想されます。財政出動もあり、21年には、先進国を中心に景気回復が一段と進むと予想されます。今後は、OPECプラスの減産縮小、米シェールガス生産の回復などが、リスク要因と考えられます。
おはようございます。前回の南アフリカに続き、今回はブラジルです。
1. 政策金利を据え置き
ブラジル中央銀行は1月20日の金融政策委員会で、政策金利を2.0%に据え置くこと全員一致で決定(図表1参照)。据え置きは市場の予想通り。今回で、現状維持は4会合連続となります。
中銀は政策決定後に発表した声明文で、(物価目標など)所定の条件が満たされない限り、景気刺激姿勢を緩まないとする、フォワードガイダンス(金融政策の指針)を終了すると表明。
フォワードガイダンスについて中銀は「(低下傾向を示唆していた)期待インフレ率が上向きに転じて、インフレ見通しも十分に金融政策が波及する一定の期間内の物価目標にほぼ終息したことから、これまでのフォワードガイダンスを維持する状況にならなくなった」としました。
2. インフレ率がわずかに加速
一方、ブラジル地理統計院は2月9日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+4.56%と、前月の同+4.52%からわずかに加速(図表2参照)。
3. 7-9月期GDPは▲3.9%に戻す
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は12月3日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲3.9%であったと発表(図表3参照)。市場予想の▲3.5%から下振れ。前期の同▲10.9%からは回復し、マイナス幅を縮小。前期比伸び率(季節調製済み)は+7.7%。予想の+8.7%から下振れ。前期の同▲9.6%かはら反発。
需要項目別では、個人消費が+7.6%(前期は同▲11.3%)、政府消費が+3.5%(同▲7.7%)、投資+11.0%(同▲16.5%)、輸出が▲2.1%(同+1.6%)、輸入が▲9.6%(同▲12.4%)。輸出入を除いた項目は、いずれも4-6月期から反発。
足下の経済状況では、全体的な経済活動状況を把握できる経済活動指数は、前年同期比マイナス幅を縮小させており、9月には▲2.0%まで回復。ただ、経済活動の回復ペースは鈍化しており、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まらない中、景気には不透明感があります。
4. ワクチン接種開始
一方、ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)は1月17日、ブラジルが中国のシノバック・バイオテックと共同開発した「コロナバック」と、英国おオック府フォードが抱くがアストラゼネカと共同開発した「コビシールド」の2種類のコロナ・ウィルス・ワクチンの緊急使用(合計800万回分)を承認。
サンパウロ政府はANVISAの承認後、連邦政府の接種に先立つ形で、ブラジル初の新型コロナ・ワクチン接種を開始。同州政府公式サイトによると、22までに10万人以上がッ接種。
連邦政府が当初から確保を試みていたオックスフォード・アストラゼネカのワクチンは、生産元のインドからの入手が一時阿多部まれれいたものの、22日にブラジルに到着。インドのモディ首相は、同日に、インドに謝意を表していたボルソナロ大統領に「新型コロナ対策で、ブラジルの信頼に足るパートナーになれたことは光栄だ」と表明。
一方、ブラジルの感染者数は2月17日午後4時現在で9,921,981人と、米国、インドに次いで世界第3位(ジョン部・ホプキンス大学による)。死者も55,271人と、米国の63,561人について世界第2位。ブラジルではボルソナロ大統領が「コロナは風の一種だ」として軽視したころもあり、経済に大きな打撃となっています。今後は、ワクチンの接種などにより、新型コロナ・ウィルスをどの程度抑え込めるかが、景気に大きな影響を与えることとなりそうです。
4. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年1月末には同5.46レアルに留まっています。国内の景気低迷などが影響しているとみられます。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから19年3月末には74.640ポイントへと▲35.6%へと大きく下落。新型コロナ・ウィルスの感染拡大とそれに伴う外出制限で景気が大幅に悪化したことが響きました。
その後は急速に戻して、21年1月には116,007ポイントと、19年末比ではほぼ横這い。株価は回復傾向にあるものの、新型コロナ・ウィルス感染などにより、景気の見通しが不透明なことなどにより、このところはもみ合いの動き。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。
おはようございます。前回のトルコに続いて、南アフリカ経済の現状を見ます。
1. 1月CPI上昇率は+3.1%に減速
南アフリカ統計局は1月20日に、2月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+3.1%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+3.2%から伸び率が減速し、市場予想の+3.2から下振れ。
2. 政策金利を据え置き
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は1月21日に、主要政策金利であるレポレートを3.50%に据え置くことを決定。据え置きは3会合連続。利上げ開始の時期が、従来想定されていたよりも速まる可能性を示唆。
クガニャゴ総裁はオンライの計資金の会見で、金融政策委員会(MPC)が政策金利のレポ金利を3.5%で維持したと発表。中銀の四半期予測モデルでは、21年4-6月期と7-9月期にそれぞれ+0.25%ポイントの引き上げを示唆。これは、利下げが昨年11月時点の予測よりも速く開始される可能性が有ることを示唆。但、将来の政策決定は「見通しに対するリスクのバランスに影響されやすい」と同総裁は述べました。
3. 7-9月期成長率は+66.1%に回復
一方、南アフリカ政府統計局は12月8日に、7-9月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで+66.1%になったと発表(図表3)。前期の同▲51%から反発して、5期ぶりのプラス成長となりました。
ロックダウン(都市封鎖)の影響により大幅に落ち込んだ景気悪化から、反動で急速に回復。ただ、新型コロナ・ウィルスの感染拡大以前の水準には程遠く、本確定な回復には時間がかかると予想されます。
鉱業は4倍近く、製造業は3倍強それぞれ増加。6月以降、大半の企業活動を再開するなど、厳しい緩和措置を緩めたことが寄与。前年同期比では▲6%と以前低迷。国際通貨基金(IMF)は、20年通年の成長率を▲8%と予想。
4. 新型コロナ・ウィルスで新種が発生
南アフリカでは、昨年11月下旬より再び新型コロナ・ウィルス感染が拡大し、21年1月8日には1日の新たな感染者数が21,980人に達しました。その後やや低下し、2月10日の新たな感染者数は3,159人。但、累計の感染者数は約148万人に達しており、引き続き経済に対して打撃となっています。
更に、12月に入って感染力の強い「変異種」発見されました。WHO(世界保健機構)は新型コロナ・ウィルスの変異種について「過度に警戒する必要はない」との見解を示したものの「感染拡大の抑制にはより明確な情報が得られることまで人の移動を制限することが賢明である」との見方も示唆。
同国政府は11月に、低迷が続く観光関連産業や外食産業を後押しする観点から、すべの国を対象に往来を解禁する方針を示唆。必要な保険衛生上の手続きと陰性証明の提示を条件に、全ての国からの渡航者の受け入れを解禁。幅広い経済活動を「平時モード」に戻す動きを進めてきました。
しかし、南ア由来による感染力の強い変異種の誕生により、感染の再拡大に直面している英国の他、多くに国が同国からの飛行機の渡航の受け入れを一時停止する動きを広めています。足下では、感染再拡大によって、企業マインドが低下する傾向にあります。
5. 為替と株価
ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。南アフリカ・ランドは、20年4月以降に対ドルで一貫して上昇。12月には、新型コロナ・ウィルスのワクチンへの期待が高まり上昇。8日発表の7-9月期GDPが前期比年率+66.1%と、5四半期ぶりのプラス成長となり、ランドは一段高。
21年に入ると、南アにおける新型コロナ・ウィルスの変異種の感染拡大により、政府による一段の行動規制強化を受けて景気下押し懸念が強まったことにより、ランドは一時下落しました(図表4参照)。
株価は、代表的な株価指数の1つであるFTSE/JSEアフリカ全株指数でみると、18年から20年春にかけてほぼ横這いで推移(表5参照)。20年に入ると、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、株価は急落。但、3月以降には、ワクチン開発への期待、更に7-9月期GDPが急回復したことなどにより、株価も急反発。
6. リスク要因と課題
まず、南アフリカにおいては、経常収支と財政収支赤字が、国内総生産(GDP)比で大きく、通貨が売られやすい状況にあります。米連邦準備委員会(FRB)の利上げにも、注意する必要があります。
また、19-20年には計画停電が相次いで発生。国内電力供給の9割を担う国営電力会社エスコムは、政治かとの癒着や放漫経営などで財政状況が悪化。企業は自家発電を導入し、家賃が上がるなどの影響が出ています。
次回は、ブラジルを見る予定です。
おはようございます。前回のインドに続いて、今回はトルコ。
1. 12月CPI上昇率市場予想上回る
トルコ統計局が1月4日に発表した12月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+14.6%となり、11月の+14.03%から伸び率が加速。市場予想の+14.34%から上振れ。新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)が一旦ピークを過ぎ、経済活動が再開されて、景気回復が進んだことが要因。
2. 政策金利を据え置き
一方、トルコ中央銀行は、1月21日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を17.00%に据え置くことを決定(図表2参照)。12月の前回会合までは、インフレ抑制のために、2会合連続で金利を引き上げていました。据え置きは、市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、主要政策金利を据え置いたことについて、「強い内需や通貨トルコリラ安による輸入物価上昇効果、輸入食品やコモデティの価格上昇、期待インフレ率の上昇が引き続き、企業の価格設定行動やインフレの先行き見通しに悪影響を与えている」として、インフレ懸念を示唆。
一方、「20年11月と12月の過去2回の利下げによるインフレ抑制効果が表れて、内需やトルコリラ安による輸入物価常勝等によるインフレへの悪影響は徐々に緩和していく」として、当面、利下げ効果を見守るとしました。
3. 7-9月期成長率+6.7%
他方、トルコ統計局が11月30に発表した今年7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+6.7% (図表3参照)。4-6月期の▲9.9%から急回復し、市場予想の+4.8%からも上振れ。新柄コロナ・ウィルス感染抑制のためのロック・ダウン(都市封鎖)で、第2四半期は大幅なマイナス成長に陥ったものの、急回復しました。前期比(季節調整済み)では+15.6%の伸び。
エコノミストは2020年のGDP伸び率を横ばいと予想している。予想のレンジはマイナス5%からプラス0.6%。
第3・四半期は予想を上回る強い伸びを示したものの、前2四半期の落ち込みは激しく、通年の成長率は辛うじてマイナス成長を免れる程度にとどまるとみられる。また、中銀が今月利上げを行ったことも景気回復の重石になる見通し。
エコノミストは、2020年のGDP成長率を横這いと予想。第3四半期には予想を上回る伸びとなったものの、第2四半期の落ち込みが厳しく、通年の成長率は辛うじてマイナスを免れる程度と予想されます。また、中銀の今回の利上げも、景気にとって重石となる見込み。
4. 新型コロナ・ウィルスの感染拡大
一方、トルコのエルドアン大統領は11月30日、新型コロナ・ウィルス対策の行動制限を12月1日より強化すると発表。平日と夜間と週末の終日を原則として外出禁止としました。ショッピングモールへの入場者数も制限。
トルコは6月に行動制限を大幅緩和。しかし、11月にはレストランでの飲食や週末の外出を制限するなど、再び引き締めに転じました。
トルコの感染者数は11月末の足下で、1日当たり約3万人。30日の死者数は188人で、1人当たりの最多を更新。トルコは7月以降に、無症状を除く人数を感染者数として公表してきたものの、11月下旬に再び無症状を含めて公表するとしました。
エルドアン大統領は、ワクチンを調達するまで「厳しい規制で時間を稼ぐ必要がある」として、理解を求めました。トルコは11月、中国の科興控股生物技術(氏のバック・バイオテック)製ワクチン5000万回分の購入契約を結んだと明らかにしました。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。トルコの通貨リラは、20年2月以降に一貫して下落(図表4参照)。インフレ率の上昇、地政学的リスク、エルドアン大統領と中央銀行総裁の対立などが主な要因。
トルコでは、昨年11月初めにウイサル中央銀行総裁と、エルドアン大統領の娘婿のアルバイラク財務相が相次いで辞任。それぞれの後任者が、通貨リラの価値を維持し、経済がより深い混乱に陥ることを防ぐことが期待されました。
新しい中銀総裁に就任したナジ・アーバル氏は、物価安定に狙いを定めると発言。中銀が利上げに動くと期待されました。上記の通り、その後中銀が利上げを行い、その結果リラも安定を取り戻しました。11月以降、リラは対ドルで上昇。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は、18年から19年秋ころまでは軟調。その後19年末にかけて上昇したものの、20年2月以降は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大により急落(図表5参照)。その後は、米連邦準備理事会(FRB)の大規模金融緩和などにより、株価は急激に上昇しました。
上記の通り、トルコでは新型コロナ・ウィルスの感染拡大が続いており、ワクチンの接種が始まっても、直ちに終息に向かうことはなさそうです。但、米国をはじめとする先進国の金融緩和が継続し、米国等での株高が継続すれば、トルコの通貨、株価が強含むことも考えられます。
次回は、南アフリカを見る予定です。
おはようございます。前回のインドネシアに続き、今回はインド。
1. 消費者物価指数上昇率が鈍化
主要な新興国の中では、従来は中国が高い経済成長率を誇り、インドはそれに次ぐ成長を遂げてきました。インドが成長率で一時上回ることとなったものの、その後は失速しています。
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が1月12日発表した12月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+4.59%(図表1参照)。前月の+6.93%から急減速。市場予想の+5.28%からも下振れ。
2. 7-9月期成長率▲7.5%
続いて、インド統計局が11月27日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比▲7.5%(図表2参照)。過去最悪となった4-6月期の▲23.9%からは回復したものの、2四半期連続のマイナス成長で、新型コロナ・ウィルス感染の状況次第では、今後景気低迷が長期化する可能性もあります。
成長率を需要項目別に見ると、GDPの約6割を占める民間最終消費支出は、個人消費の減退により、前年同期比▲11.3%。同3割を占める総固定資本形成は▲7.3%となり、これらがGDPを大幅に引き下げました。第1四半期には唯一プラスであった政府最終消費支出は、第2四半期では▲22.2%と大幅マイナスとなりました。輸出は第1四半期から持ち直したものの、▲1.5%と依然としてマイナスにとどまっています(図表2参照)。
3. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行)は12月4日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表3参照)。インフレ率が高止まりしていることが背景。但、景気の持ち直しを維持するため、厳しい環境にあるセクターには、潤沢な資金供給をする方針を示唆。
中銀のシャクティカンタ・ダス総裁はオンライでのブリーフィングで、金融政策員会は、持続的な景気回復を支援するために、少なく元今年度と来年度に緩和姿勢を維持することを決定したとしました。
4. 新型コロナ・ウィルス感染拡大が継続
一方、米ジョンズホプキンス大学の集計によると、新型コロナ・ウィルス感染者数は、日本時間27日未明に1億人を突破。中国武漢で新型肺炎が確認されたのが19年12月で、世界の感染者数が5000万に達したのが11月。
それからわずか2か月半で倍増。各国はワクチンの接種を進めているものの、今のところ終息の兆しはありません。その一方、英国や南アフリカでは感染力の強い変異種が見つかっています。感染者数では、米国が世界全体の約25%にあたる2540万人、続いたインド1070万人、ブラクス890万人となっています。
5. 株価と為替6
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)。但、2019年12月末と2020年12月末との比較では、▲2.40%の下落にとどまっています。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、2019年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。12月末には47,751ポイントと、19年12月末比では+15.7%と、順調に回復。
6. 課題とリスク
インドでは、製造業の発達が遅れていること、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が深まっていること、新型コロナ・ウィルス感染拡大が継続しているなど、多くの課題があります。また、北部カシミール地方の領有権を巡っては、中国と外交的に対立を深めています。
インドの強みの1つは人口構成の若さ。今後も15-64歳のいわゆる労働人口の増加が見込まれており、その面では、有利です。一連のコロナ騒動が収まれが、再び成長軌道に復帰するとみられます。
次回は、トルコについて見る予定です。
おはようございます。今回から脆弱5か国の近況を個別に見ます。最初はインドネシア。
1. 新型コロナ・ウィルスの感染拡大が継続
世界的に、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が継続。米ジョンズホプキンス大学の集計によると、20日午後8時30分時点で、世界全体の感染者数は9650万人。死亡者数は205.9万人。最も振興な米国では連日15-20万人ペースで感染が拡大。世界全体の約25%に相当する2425.4万人が感染。続いてインド1059.6万人、ブラジル857.4万人等(図表1参照)。インドネシアは927,380人で第20位。但、東南アジア諸国連合(ASEAN)に限ると、首位。
インドネシアでは足下で新規感染者と死亡者数がともに増加傾向にあり、状況は悪化の一途をたどっています。首都ジャカルタでは、新規感染者の動向を見つつ行動制限の緩和と再強化を繰り返しています。10月中旬には新規感染者数の鈍化を受けて行動制限が一部緩和されたものの、その後の感染再拡大により、再び行動制限が課される展開が続いています。
2. 12月CPI上昇率は+1.68に加速
インドネシア中央統計局は1月4日に、12月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+1.68%になったと発表(図表2参照)。市場予想の+1.61%から若干上振れ。前月の+1.59%から加速したものの、引き続き低水準にとどまっています。
3. 政策金利を維持
一方、インドネシア中央銀行は1月21日に、政策金利であるBIレートを3.75%に維持すると発表。金利据え置きは市場の予想通り。
過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利は3.00%に、翌日物貸出ファリリティー金利は4.50%にそれぞれ維持。
4. 7-9期▲3.49%成長に低迷
インドネシア中央統計局11月5日に、7-9月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲3.49%であると発表(図表3参照)。伸び率は4-6月期の▲5.32%から回復したものの、2四半期連続で前年比マイナス成長となりました。
BPSによると、7-9月期は項目別では、公的支出が同+9.76%となったものの、それ以外の全てが前年同期比マイナス。GDPの約57%を占める家計消費がマイナス▲4.04%、約31%を占める固定資本形成が▲6348%で前期よりもマイナス幅が縮小したものの、引き続き厳しい状況が継続。輸出は▲10.82%、輸入が▲21.86%と2桁のマイナス成長。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表5参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻し、20年12月末には同▲0.8%まで戻りました。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻し、20年12月末には同▲4.6%までも取っています。
米国では、株価指数S&P500指数が既に最高値を苦心しており、日本など他の先進国の株価も堅調。中国の上海総合指数も19年末比で高値を更新しており、インドネシアの株価は出遅れています。インドネシア国内の新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まって来れば、株価、為替ともに堅調に推移することも考えられます。
次回はインドを見る予定です。
おはようございます。13年には、「脆弱5か国」と呼ばれた国の通貨が大きく下落しました。最近の各国の動向を考察します。
1. 脆弱5か国
米投資銀行のモルガン・スタンレーは、ブラジル、インドネシア、インド、トルコ、南アフリカを「脆弱(fragile)5か国」と呼びました。これらの国は高い成長への期待により、海外からの資金が流入してきたものの、経常収支の赤字、また経済の規模である国内総生産(GDP)に対する財政赤字の規模が大きい新興国であるとしました。
これらの国は輸出よりも輸入が大きいために経常赤字が続いており、また、外貨準備も豊富にあるわけではありません。米国など主要先進国の金融緩和によって大量の資金がこれらの新興国に流れ込んでいるものの、米国などの金融政策が変われば、外貨が流出し外貨準備で通貨を下支えするのが難しく、したがって財弱な国であるというわけです。
2. 米国金融政策の影響
そのため、これら「脆弱5か国」の通貨、株式市場は米国の金融政策から大きな影響を受けることになります。米国では、13年5月の量的緩和第3弾の縮小(テーパリング)の観測が台頭。米国ではその後量的緩和の終了、その後に利上げが行われました。続いて、世界経済の減速により、FRBが利下げに踏み切り、昨年には新型コロナ・ウィルス感染拡大により、大幅な金融緩和、資金供給を行うに至りました。
米連邦準備理事会(FRB)の金融政策は、米国の雇用統計の影響を大きく受けるので、2020年12月の雇用統計を確認しておきましょう。米労働省が12月の雇用統計を1月8日に発表し、非農業部門の雇用者数増加は前月比▲14万人と、前月の+24.5万人から減少に転じました。雇用者数の伸びがマイナスに転じるのは、新型コロナ・ウィルスの危機が深刻になった4月以来。国内で猛威を振るう新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、パンデミック(世界的大流行)からの回復が一時的に失速する可能性が有ります。
失業率は前月比横這いの6.7%。市場では、雇用者数の増加を+10万人。失業率を6.8%と見込んでいました。米失業率は4月に14.7%まで悪化して、5月以降には7カ月連続で改善。失業者数は12月時点でも1070万人と、危機前の580万人の2倍近くに上っています。
3. 脆弱5か国の財政状況
今後は米国の利上げ開始、それに伴う米国金利の上昇、更には投資家による新興国からの資金の引き上げといった動きが予想されます。では、これら5か国の財政状況はどうなのでしょうか。国際通貨基金(IMF)の今年4月のデータによると、各国の国内総生産(GDP)、つまり経済の規模に対する財政赤字の予想は図表2の通りです。
120年のデータでは、特にGDP比で、ブラジルが▲16.7%、南アが▲14.3%、インドが▲13.0と、大幅赤字。そのほかの諸国についても、21年以降財政赤字が続く見通しであり、各国の通貨、株式に影響を及ぼす可能性が有ります。
4. 脆弱5か国の経常収支
経常収支でも、これら5か国は赤字が継続(図表3参照)。20年でみると、インドが▲2.5%、南アが▲2.4%などと、2013年当時と比較すると、大幅に改善しています。
新興国においては、ドル建ての対外債務が増大する傾向にあり、外貨準備高との関係で、一部の国で通貨が対ドルで大幅下落する要因となっています。
また、これら脆弱5か国ひとまとめでは論ずることができない側面があり、個別の国のリスク要因と見る必要があります。次回以降、各国の要因を見ていく予定です。
おはようございます。ブラジル経済に、やや明るさがみられます。
1. 政策金利を据え置き
ブラジル中央銀行は12月9日の金融政策委員会で、政策金利を2.0%に据え置くことを決定(図表1参照)。据え置きは市場の予想通り。据え置きは3会合連続。同委員会の声明文では、11月の拡大消費者物価指数(IPCA)が、食品価格等の高騰により前年同月比+4.3%に加速したことについて「現在の物価常勝は一時的の判断しているものの、今後はコア・インフレの動向を引き続き注意していく」として、物価への警戒姿勢を示唆。
中銀は同声明文で、2020年8月の同委員会で表明した「特定の条件が満たされる限り、ブラジル中銀は金融緩和を縮小する意図はない」とのフォワード・ガイダンスを取り下げる可能性を示唆。インフレ期待の高まりや新型コロナ・ウィルス危機からの金融緩和を修正する準備を開始したとみられます。
2. インフレ率は低水準
一方、ブラジル地理統計院は9月9日に、8月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。2.44%と、前月の同+2.13%から加速(図表3参照)。市場予想の+2.42%とほぼ一致。
また、個人消費は回復傾向にあります。ブラジルの小売り売上高は新型コロナ・ウィルスの感染拡大による外出制限などにより、2020年4月に大きく落ち込みました。その後、9月時点で、感染拡大前の水準に回復。
3. 7-9月期GDPは▲3.9%に戻す
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は12月3日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲3.9%であったと発表(図表3参照)。市場予想の▲3.5%から下振れ。前期の同▲10.9%からは回復し、マイナス幅を縮小。前期比伸び率(季節調製済み)は+7.7%。予想の+8.7%から下振れ。前期の同▲9.6%かはら反発。
需要項目別では、個人消費が+7.6%(前期は同▲11.3%)、政府消費が+3.5%(同▲7.7%)、投資+11.0%(同▲16.5%)、輸出が▲2.1%(同+1.6%)、輸入が▲9.6%(同▲12.4%)。輸出入を除いた項目は、いずれも4-6月期から反発。
足下の経済状況では、全体的な経済活動状況を把握できる経済活動指数は、前年同期比マイナス幅を縮小させており、9月には▲2.0%まで回復。ただ、経済活動の回復ペースは鈍化しており、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まらない中、景気には不透明感があります。
4. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2011年以降に一貫して下落。特に昨年には大きく下落し、2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年10月末には同5.74レアルへと大きく下落(図表4参照)。12月末には同5.19レアルと、19年末との比較では、▲29.2%の大幅下落。ブラジル国内の景気の大幅な落ち込み、また、海外の投資家がブラジルから資金を引き揚げたことなどが影響しました。
株価も大きく変動。代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから19年3月末には74.640ポイントへと▲35.6%へと大きく下落。新型コロナ・ウィルスの感染拡大とそれに伴う外出制限で景気が大幅に悪化したことが響きました。
その後は急速に戻して、年末には119.306ポイントと、19年末比では+2.8%の小幅上昇迄、戻しました。世界的なワクチン開発と接種の期待、中国あるいは先進国の景気回復への期待などが背景にあります。
但、ブラジルでは新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まっておらず、景気の回復も必ずしも順調とは言えません。株価も、今後一本調子に上昇するかどうかは、予断を許さないと言えます。
おはようございます。中国経済は、回復を続けています。
1. 鉱工業生産が増加
先ず、直近の主な経済指標を見ておきましょう。中国の国家統計局が16日に発表した統計によると、11月の鉱工業生産は前年同期比+7.0%。8か月連続の増加。市場予想と一致して、前月の同+6.9%から加速新型コロナ・ウィルスにより打撃を受けて製造業は、堅調な輸出を受けて回復が進んでいます。
伸び率は20カ月ぶりの高水準。消費の回復と共に、主要貿易相手国が新型コロナ・ウィルスに伴う制限措置を段階的に緩和したことが寄与。
2. 11月小売売上高は予想下回る
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、20年11月の小売売上高は前年同期比+5.0%と、前月の同+4.3%から加速。但、市場予想の+5.2%からは下振れ。
3. 1-11月固定資産投資は市場予想に一致
他方、国家統計局による同日発表の20年1-11の固定資産投資は、前年同期比+2.6%となり、市場予想と一致。1-10月の+1.8%から伸び率が高まりました。
キャピタル・エコにミクスのジュリアン・エバンス・プリチャード氏はレポートにおいて「11月の中国経済はすべての分野で加速が継続。刺激策と輸出という追い風は弱まり始めるとみられるが、生産は全ての分野で今後数四半期、トレンドを上回る水準を維持すると予想している」としました。
4. 7-9月期GDP+4.9%
次に、7-9月期GDP成長率を見ておきましょう。中国の国家統計局は10月19日に今年7-9期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+4.9%になったと発表(図表1参照)。成長率は、4-6月期の+3.2%から加速し、2四半期連続のプラス。自動車などの工業生産や政府のインフラ投資が牽引。消費も緩やかに回復しつつあり、新型コロナ・ウィルスにより落ち込んだ経済の復調が鮮明になっています。
中国のGDPは新型コロナ・ウィルスの影響により、1-3月期は同▲6.8%と、統計開始以来のマイナスに落ち込みました。但、その後はコロナ・ウィルスの感染拡大の抑え込みに成功。主要国が依然として景気の低迷を続ける中、回復ぶりが際立っています。但、+6%台の成長であった19年に水準には依然届いていません。
5. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを見ましょう。為替については、最近の動きを見ると、人民元はドルに対して、19年末の1ドル=6.96元から3月には同7.07元、さらに5月には同7.13元へと小幅下落(図表3参照)。ただその後は持ち直し、11月末には同6.58元と、昨年末比+5.49%と堅調な動き。中国政府は元高を容認していると考えられます。
株価については、上海総合指数月末値でみて、20年末の3,050ポイントから2月には2,750ポイントへと▲9.8%の下落。世界の他の主要な株式市場と比較すると小幅な下落にとどまりました。11月末には3,391ポイントに回復し、昨年末比では+11.2%と堅調。
新型コロナ・ウィルスは当初、中国の武漢を中心として拡大し、その後パンデミック(世界的大流行)に発展したと考えられます。それにもかかわらず、株価の下落は小幅にとどまり、その後は景気もいわゆるV字回復を達成し、株価も堅調な戻りを見せています。中国の景気についてはこのところ一服感もありますが、引き続き政府の梃入れなどにより、順調に回復するものと予想されます。株価についても、引き続き堅調となる可能性が有ります。
おはようございます。トルコでは、7-9月期GDP成長率が予想を上回ったものの、先行きは必ずしも楽観できません。
1. 10月CPI上昇率市場予想上回る
トルコ統計局が12月3日に発表した11月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+14.03%と、10月の+11.89%から伸び率が大幅加速。但、市場予想の+12.69%から上振れ。
同国のCPIの伸び率は、18年10月に前年比+25.24%と、+25%を突破したものの、その後は政府のインフレ対策や中銀による大幅金融引締めにより低下を開始して、19年10月には+8.55%と、16年12月の+8.53%以来2年10か月ぶりの低水準となりました。
その後、コロナ・ウィルスのパンデミックにより、5月にはサプライチェーン(部品供給網)の寸断により、+11.39%と3カ月ぶりの上昇に転じて、6月には+12.62%と、2か月連続の上昇となりました。
全体指数から値動きの激しい食品やエネルギーなどを除いたコアCPIは、前年比+13.26%と、10月の同+11.48%から伸び率が急加速しました。
2. 政策金利を大幅引き上げ
一方、トルコ中央銀行は、11月19日の政策決定会合で、主要政策金利である1週間物レポ金利を+4.75%引き上げ、15.00%にすることを決定(図表2参照)。市場の大方の予想は2会合連続の利上げであったため、サプライズ。この決定後に、通貨リアらは1ドル=7.979リラと、▲2.1%の急落となり、過去最安値を更新。引き上げはほぼ市場の予想通り。市場では、+2.00%〜5.75%ポイントの利上げを予想していました。
また、中銀は主要政策金利の上下幅(コリドー)の上限となる後期流動性貸出金利も14.75%から19.50%に引き上げ。
中銀は会合後に発表した声明文で、主要再作金利を大幅に引き上げたことについて、「インフレ見通しに対するリスク(インフレ上振れリスク)を消して、インフレ期待を抑制し、ディスインフレのプロセスを回復するために、透明性の高い、かつ強力な金融引締め措置を講じることを決定した」としました。
更に、「インフレ率の恒久的な低下が達成されるまで、金融引締め措置を続ける」、「インフレ率の恒久的な低下は、カントリーリスクプレミアムに対して追加的に求められる上乗せ金利を引き下げ、また、ドル化の流れを逆転させ、外貨準備の増大と金融コストの低下を引き起こすことになり、マクロ経済と金融市場の安定に好影響を与える」としました。
3. 7-9月期成長率+6.7%
他方、トルコ統計局が11月30日に発表した今年7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+6.7% (図表3参照)。今年4-6月期の▲9.9%から大きく反発。市場予想の+5.0%からも上振れ。新型コロナ・ウィルスの世界的大流行の第1波がピークを過ぎて、経済再開が5月末から本格化。
主な内訳は、金融・保険業が前年比+41.1%、情報通信業も同+15.0%と好調。一方、家計最終庁費支出は同+9.2%、総固定資本形成も+22.5%となったものの、政府最終消費支出は+1.1%に留まりました。
市場では、20年の成長率見通しを+0.3%と予想。一方、政府が9月29日に発表した21-23年の新中期経済計画でも20年の成長率は標準シナリオで+0.3%(最悪シナリオで▲1.5%)と予想しましたが、21年に+5.8%とV字回復し、22年と23年はいずれも+5.0%の安定成長に戻るとしています。
4. 先行きに楽観は禁物
7-9月期GDP成長率が前年同期比+6.7%と、4-6月期の同▲9.9%から大きく反発したものの、先行きは必ずしも楽観許しません。ここ数年のトルコ経済は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大以前においても、国際金融情勢の影響を大きく受けるなど、外部要因の影響を受けやすい傾向にありました。
足下ではコロナ・ウィルスの感染拡大の傾向が強まっており、春先の「第1波」よりも、今後の「第2波」の方が、影響が深刻になる可能性田強まっています。
中銀も11月19日に+4.75%の大幅利上げを行い、インフレを抑制する姿勢を示し、通貨リラも下げ止まる傾向にあります。エルドアン大統領も今回の利上げについて「今の段階で必要であれば、多少の苦い薬を飲まなければならない」と、中銀の姿勢を支持しています。ただ、エルドアン大統領は度々中銀と対立して、染まぬ総裁を更迭してきました。
更に、外貨準備高は急速に減少し、国内居住者はドルなど外貨の保有を増やしています。国民の間では、経済政策に対する根強い不信感があるとみられます。
先月末には、欧州議会がトルコへの制裁導入を決議。アルメニアとアゼルバイジャンとの武力衝突は解決に向かっているものの、EUとの関係悪化という地政学的リスクは引き続きリスク要因となるとみられます。したがって、トルコ経済には、依然としてリスク要因がかなり多いと考えるべきでしょう。
おはようございます。前回の物価、金利、為替、株価に続き、インド経済のリスクと課題について探ってみます。
1. 消費者物価指数上昇率が高止まり
まず、インド統計局が11月12日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.61%(図表1参照)。9月の+7.34%から加速。市場予想の+7.30%から上振れ。インド準備銀行(中銀)のインフレ目標は+4%前後となっており、現在のインフレ率は中銀の目標の範囲を超えています。
インドでは、19年の1月にはインフレ率が+1.97%まで低下したものの、20年1月には+7.59%まで加速。その後はやや減速したものの、依然として+7%台に高止まっています。
2. 4-6月期成長率▲23.9%に落ち込む
続いて、インド統計局が8月31日に発表した4-6月期成長率は、前年同期比▲23.9%に落ち込みました(図表2参照)。1-3月期の+3.1から急減速し、過去最大の落ち込み。市場予想の▲18.3%からも下振れ。
新型コロナ・ウィルスの感染拡大を抑制するための都市封鎖により、個人消費や設備投資絵が減少。政府や中銀に対して、追加刺激策と利下げを求める圧力が強まりました。
インドは、3月下旬に非常に厳しい都市封鎖を実施。封鎖中は、個人消費や民間投資、輸出が全面的に急減。
一部のアナリストは、4月から開始した今年度は、経済が▲10%近い縮小となり、1947年の国家独立以来、最大の落ち込みとなり、何百万人もが貧困に追い込まれるとみています。
3. 世界銀行が成長率見通しを下方修正
世界銀行は10月8日に発表した2020/21年度「南アジア経済フォーカス」で、インドの2020/21年度GDP(国内総生産)成長率について、6月予測の▲3.2%から▲9.6%へと下方修正。新型コロナ・ウィルス感染対策として3月末から実施されたロックダウンによる経済の落ち込みと、それに伴う所得減少を主な原因としています。さらに、2022年までにはロックダウンなどの行動制限は解除され、経済回復が進むことを想定し、2021/22年度には+5.4%と予想。
今後の経済見通しについては、新型コロナ・ウィルス感染の封じ込め状況、各地や各産業におけるロックダウンの解除の時期、新たな財政政策の展開などに左右されるとしています。インドでは、大都市に限られていた感染が地方にも拡大しており、特に農村部などで医療タイ瀬の逼迫が懸念されるとしています。一方「新型コロナ禍」ではあるものの、2020年度のインドへの海外投資流入は順調であり、特にITなどに代表されるサービス産業などへの需要の高さに言及しています。
4. 財政赤字
インドでは、財政赤字が大きいことも問題。インドのネットの財政収支はIMFの予測では18年に国内総生産(GDP)比▲7.422%であり、他のBRICs諸国との比較ではブラジルに次ぐ低水準(図表3参照)。インドの財政赤字は大規模でかつ慢性化しており、国内のインフレ圧力を高める一因となっています。さらに、財政面の脆弱性は、インフラ整備を進める上で支障となってきます。
財政赤字の削減については、歳出・徴税効率の改善に加えて、銀行・電力・脳病などの改革を通じて同分野への補助金支出を抑制する必要があります。
5. ビジネス環境の整備
ビジネス環境の整備と、それによる対内直接投資の増加、またそれを通じた雇用の創出も課題となっています。税制簡素化、外資に対する規制の緩和、インフラ整備を推進して、さらに土地収用法や労働法関連の改正を一段と推し進める必要があります。
また、米中対立の激化により、生産拠点を中国からインドに移す動きもありますが、それを加速するために、米国との貿易摩擦を回避する必要があります。さらに、ITなど第3次産業に比べて遅れている、自動車など製造業を振興するために、外資系企業の一段の呼び込みも課題となります。
6. インド経済の展望
モディ政権は、2期目に突入。19年5月の行われた下院の総選挙で与党であるインド人民党(BJP)が圧勝。モディ政権が構造改革にどのように取り組むのか、注目されます。但、このところ地方選挙では敗北が続いており、モディ政権の求心力には陰りも見えます。
また、新型コロナ・ウィルス感染拡大も当面の懸念材料。中長期的には人口構成から考えて中長期的には人口ボーナス(労働人口の幼年・老年人口に対する相対的な拡大)が有利に働くと考えられるものの、当面は低成長が続く可能性もあります。
おはようございます。前回の政治に続き、今回は物価、金利、為替、株価を見ます。
1. 消費者物価指数上昇率が加速
まず、インド統計局が10月12日発表した8月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.34%(図表1参照)。9月の+6.69%から加速。市場予想の+6.88%からは上振れ。インド準備銀行(中銀)のインフレ目標は+4%前後となっており、現在のインフレ率は中銀の目標の範囲を超えています。
2. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行、RBI)は10月7-9日開催の金融政策決定会合で、政策金利のルポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表2参照)。また、金融姿勢も引き続き「緩和的」を維持。金利の据え置きは2会合連続。
RBIのプレスリリースによると、2020年7-8月のCPI上昇率は+6.7%でRBIの中期もう票を上回っています(上記の通り)。しかし、RBIは同指数の悪化を新型コロナ・ウィルス対策の都市封鎖による供給側の混乱によるものと分析。今後は、都市封鎖緩和が段階的に進む中で、徐々に高級不足が解消すると予想。
その理由として、雨季栽培の作物が市場に出回り、主要な野菜の価格が落ち着きを見せていることや、製造業の稼働率が20年度第3四半期(20年10-12月)から上昇し、生産量の増加により、第4四半期(21年1-3月)からは経済回復が見込まれることなどが挙げられています。
3. 株価と為替
まず、為替について、インド・ルピーはドルに対して、11年7月以来、一貫して下落(図表3参照)。19年末から20年9月にかけては、▲3.17%の小幅下落。インドでは従来、財政赤字と経常収支赤字が問題とされており、ルピーの対ドルの長期下落は、それを反映していると考えられます。
株価は、代表的な指数であるSENSEX30で見て、13年初めから順調に上昇し、19年12月末にはSENSEX30は41,253ポイントの高値をつけました。但、その後は急落。19年末から20年3月末までに同指数は▲28.56%の大幅下落。新型コロナ・ウィルスの感染拡大とそれに伴う都市封鎖、更にそれによる景気の大幅悪化の影響と考えられます。その後は回復基調に転じて、9月末にはSENSEX30は38,067ポイント迄回復。
新型コロナ・ウィルスの感染拡大は、まだ当分続く見込みであり、景気が更に悪化する恐れもあります。そのため、株価は当面、一進一退となる可能性もあります。景気の回復は、早くても来年以降になるとの予想が強まっています。
次回は、インド経済が発展するための課題とリスクについて見る予定です。
おはようございます。前回の政治に続き、今回は物価、金利、為替、株価を見ます。
1. 消費者物価指数上昇率が加速
まず、インド統計局が10月12日発表した8月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.34%(図表1参照)。9月の+6.69%から加速。市場予想の+6.88%からは上振れ。インド準備銀行(中銀)のインフレ目標は+4%前後となっており、現在のインフレ率は中銀の目標の範囲を超えています。
2. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行、RBI)は10月7-9日開催の金融政策決定会合で、政策金利のルポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表2参照)。また、金融姿勢も引き続き「緩和的」を維持。金利の据え置きは2会合連続。
RBIのプレスリリースによると、2020年7-8月のCPI上昇率は+6.7%でRBIの中期もう票を上回っています(上記の通り)。しかし、RBIは同指数の悪化を新型コロナ・ウィルス対策の都市封鎖による供給側の混乱によるものと分析。今後は、都市封鎖緩和が段階的に進む中で、徐々に高級不足が解消すると予想。
その理由として、雨季栽培の作物が市場に出回り、主要な野菜の価格が落ち着きを見せていることや、製造業の稼働率が20年度第3四半期(20年10-12月)から上昇し、生産量の増加により、第4四半期(21年1-3月)からは経済回復が見込まれることなどが挙げられています。
3. 株価と為替
まず、為替について、インド・ルピーはドルに対して、11年7月以来、一貫して下落(図表3参照)。19年末から20年9月にかけては、▲3.17%の小幅下落。インドでは従来、財政赤字と経常収支赤字が問題とされており、ルピーの対ドルの長期下落は、それを反映していると考えられます。
株価は、代表的な指数であるSENSEX30で見て、13年初めから順調に上昇し、19年12月末にはSENSEX30は41,253ポイントの高値をつけました。但、その後は急落。19年末から20年3月末までに同指数は▲28.56%の大幅下落。新型コロナ・ウィルスの感染拡大とそれに伴う都市封鎖、更にそれによる景気の大幅悪化の影響と考えられます。その後は回復基調に転じて、9月末にはSENSEX30は38,067ポイント迄回復。
新型コロナ・ウィルスの感染拡大は、まだ当分続く見込みであり、景気が更に悪化する恐れもあります。そのため、株価は当面、一進一退となる可能性もあります。景気の回復は、早くても来年以降になるとの予想が強まっています。
次回は、インド経済が発展するための課題とリスクについて見る予定です。
おはようございます。インド経済の停滞感が強まっています。インド経済の見通しを見ていきます。インド経済の展望について、今回は政治状況を見ていきます。
1. コロナ・ウィルス死者10万人突破
インドでは10月3日、新型コロナ・ウィルス感染症による死者が10万人を突破。死者数は米国、ブラジルに次いで世界3位となり、依然として感染拡大が続いています。
インド保健省によると、死者数は10万842人。感染者数は647万人。1日当たりの新規感染者数は世界で最も多くなっています。その後も拡大が続いており、ジョンズ・ホプキンス大学の調査で7日午後4時現在では、インドの感染者数は6,757,131人、死者が」104,555人に拡大。
モディ政権は3月下旬に感染防止のために、厳しいロックダウン(都市封鎖)を実施。その後、景気の大幅な悪化を受けて、経済再開に踏み切りました。そのため、感染が更に拡大することとなりました。
専門家の間では、これから冬を迎えて、11月にはヒンズー教の祭りが予定されていることもあり、感染者が急拡大する可能性があるとの意見もあります。
2. 地方選挙で敗北
一方、モディ首相率いる国政与党BJP(インド人民党)は、最近の地方選挙で負け続けています。イスラム教徒との対立をあおることにより多数派ヒンドゥー教徒の結束を訴えるのがモディ首相の常套手段ですが、より暮らしに密着した地方選では、電気台や医療費の無料化を訴える庶民目線の敵対陣営を相手に巻き返すことができずに苦戦。
2月8日に行われたデリー首都圏の議会選(70議席)で、モディ氏率いるインド人民党(BJP)が8議席にとどまり大敗。地方政党の庶民等が62議席で大勝。
昨年4-5月の総選挙では、BJPがデリー選挙区の全議席を独占。隣国パキスタンを空爆し、挑発的な態度をとって、国内に根強い反パキスタン感情に訴え、支持を拡大しました。
今回のデリー議会選でも、人気の高いモディ氏が全面に立ちました。モディ政権はイスラム教徒が多く暮らすジャム・カシミール州(当時)に与えてきた自治権を撤廃するなど、ヒンドゥー教をより重視した政策を訴えて、ヒンドゥー票固めを図りました。
3. 中印が武力衝突
一方、インドのシン国務相(道路交通担当)は、このほど中国との国境地域で発生した中印両国の軍事衝突で、中国側の兵士が少なくとも40人死亡したと表明。イスナー通信によると、中国と国境を印ラダック地方東部ガルワン渓谷で、6月15日に両軍が衝突して、それによりインド軍兵士20人が死亡、76人が負傷。中国は同国軍側に死傷者が出たことを認めているものの、現在まで正確な数字は発表していません。
中印両国は2003年以来、両国間の国境を巡って、20回以上に渡り協議を行ってきましたが、いずれも不調に終わっており、ここ数カ月は、両国の国境系擬態の間で相次いで軍事衝突が発生しています。
このように、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、多数の死者が発生し、また経済成長率も低迷し、モディ首相の人気にも陰りがみられます。
4. モディ首相の経済政策
ここで、モディ首相の主な経済政策を復習しておきましょう。まず、メーク・イン・インディア。2014年9月開始。雇用創出と輸出を促進する製造業に力を入れて、GDP(国内総生産)に占める製造業の比率を16%から25%に引き上げ、1億人の新規子要素創出することを目指しています。外資規制緩和やインフラ整備促進も含んでおり、多くの雇用を創出しました。
次に、デジタル・インディア。14年8月閣議決定。政府だけで1.13兆ルピー(約2兆円)を投資して、全国の村にブロードバンドを整備して、25万の大学や専門学校などに無線LANを設置し、行政サービスの電子化を行うことでデジタル化を実施。ITサービス強化により、1,700万の雇用創出を目指しています。
続いて、クリーン・インディア。インドでは屋外排泄が原因となり、感染症などが広がっています。モディ首相は、その対策で14年からクリーン・インディアを開始。官民の協力により、19年までに100万個のトイレを新設する計画。15年からは、財源確保のために「クリーン・インディア税」も導入。
このほか、ジャン・ダン・ヨジャナ(国民金銭計画)なども打ち出しています。モディ政権は2期目に入っていますが、政策面では、一定の成果を出していると言えます。
次回は、物価、金利、株価などを見る予定です。
おはようございます。インド経済の停滞感が強まっています。インド経済の見通しを見ていきます。
1. 新型コロナ・ウィルスの感染拡大
新型コロナ・ウィルスの感染拡大が、現在も世界で続いていますが、特にインドでは感染が急拡大。インドの感染者数はブラジルと抜いて、現在、米国に次ぐ多さとなっています(図表1参照)。但、死亡者の数は97,497人(30日午後4時現在)と、比較的少なく、致死率は約1.03%に留まっています。
インド政府は新型コロナ対策のために、3月24日より全国的な都市封鎖を決定。その後も感染は拡大したものの、4月半ばより段階的な封鎖の解除を開始。
9月6日発表のインド保健家族福祉省の統計によると、過去24時間以内に同国で確認された新型コロナ・ウィルス新規感染者数は9万632人となり、1日の増加数としては世界最多記録を更新。7日にはインドはブラジルを抜いて世界で2番目に被害が深刻な国となりました。
医療専門家らは、国内の一部地域で第2波が発生したとするとともに、感染者の像は、検査数の増加と規制緩和が原因と指摘。政府が経済支援策として企業再開を推進する中、1日当たりの新規感染者数は約1か月にわたって世界最多となりました。
2. 政府が規制を緩和
感染収束の兆しが見えないものの、致死率が低く、このまま都市封鎖を続けると経済への打撃が大きいことから、政府は帰省の解除を決定。4月半ばより岸江の対象となる経済活動の対象を緩めて、感染率の低い地域の経済活動への規制を緩めるなどの緩和措置を実施。
5月末には感染地域を除いて封鎖措置を解除する方針を示唆。6月8日より感染地以外のホテル、レストラン、ショッピング・モールの営業を再開して、州をまたぐ人や物資の移動の制限も解除。
尤も、一部の州は独自の判断で規制を維持。感染地の商業都市ムンバイを擁するマハラシュトラ州歯、6月末に都市封鎖を7月末まで延長し、7つの都市で完全封鎖措置を導入するなど、規制を強化しました。
3. 4-6月期成長率▲23.9%に落ち込む
続いて、インド統計局が8月31日に発表した4-6月期成長率は、前年同期比▲23.9%に落ち込みました(図表2参照)。1-3月期の+3.1から急減速し、過去最大の落ち込み。市場予想の▲18.3%からも下振れ。
新型コロナ・ウィルスの感染拡大を抑制するための都市封鎖により、個人消費や設備投資絵が減少。政府や中銀に対して、追加刺激策と利下げを求める圧力が強まりました。
インドは、上記の通り、3月下旬に非常に厳しい都市封鎖を実施。封鎖中は、個人消費や民間投資、輸出が全面的に急減。
一部のアナリストは、人口の多くを占める貧困層への打撃は数字に表れている以上であり、何百万人もが貧困に追い込まれるとみています。悪化を食い止めるには、ワクチンを待つしかない状況であるとみられます。
4. 景気の回復は極めて緩やかに
封鎖の解除に伴い、4月に急落した経済活動は緩やかに回復しているとみられます。5月初めより、電力消費量や鉄道輸送量、自動車登録台数などが回復。また、グーグルやアップルなどが地図アプリのユーザーの位置情報などから算出する移動量も、感染地のムンバイを除く主要都市で、5月初めより徐々に回復。
もっとも、移動量の水準はかいふくしたといっても、関瀬拡大前の変分程度に留まっています。感染の拡大に歯止めがかからず、感染防止策を講じた上での経済活動が継続し、一部の地域では封鎖の再導入もみられ、景気の回復には時間を要すると予想されます。
一方、都市部に比べて感染リスクの低い農村部では、都市部よりも景気の回復が続く見込み。小麦等を中心としてシエ府の備蓄量が増加。雨季の降雨量も十分であり、7月3日時点の作付け面積は、前年比+88.2%の大幅増加。農村部の封鎖は都市部に比べると限定的であり、政府による財政支援の恩恵も受けることとなりそうです。
おはようございます。前回はリスク要因、課題を見ましたが、今回は物価、金融政策、為替、株価について。
1. 8月CPI伸び率が減速
中国では国家統計局が9月9日に、8月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+2.4%であったと発表。前月の同+2.7%から減速(図表1参照)。市場予想に一致。
アフリカ豚熱の流行により昨年8月から急騰している豚肉価格は、前年同月比+52.6%で、7月の同+85.7%から大きく減速。
一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、8月の生産者物価指数(PPI)は、前年同月比▲2.0%。前月の▲2.4%からマイナス幅が縮小。市場予想に一致。
国家統計局は声明で、「8月は鉱工業生産が引き続き回復し、市場の需要も改善が続いた」としました。
2. 預金準備率を引き下げ
中国人民銀行は4月3日に、中央銀行が強制的に預金を預かる比率である預金準備率を、4月15日と5月15日に大手銀行標準で▲0.5%ポイント引き下げることを発表。(図表2参照)。これにより、4000億元の流動性が提供されました。
更に同行は、市中銀行の超過準備の付利を0.72%から0.35%まで引き下げることも発表しており、4月7日から適用されています。付利が引き下げられることにより、資金市場における金利引き下げを促しています。長期金利の指標となる10国債の利回りは2.50%を下回り、リーマンショック後の最低利回りを更新。
3. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ましょう。為替については、最近の動きを見ると、人民元はドルに対して、19年末から20年8月末で+1.64%の小幅上昇(図表3参照)。また、中国における新型コロナ・ウィルスの感染拡大後の安値となった5月末の1ドル=7.13元からは8月末には同6.84元に上昇しており、人民元は上昇傾向をたどっています。
株価については、上海総合指数月末値でみて、20年末の3,050ポイントから8月には3,395ポイントへと+11.32%の上昇。コロナ・ウィルスの感染拡大後の安値となった3月末の2,750ポイントからは+23.4%の大幅上昇。完全にコロナ・ウィルスの感染拡大前の水準を上回っており、株価で見る限り、中国は欧米あるいは新興国の主要国よりも、堅調な動きとなっています。
4. 当面の注目点は米中貿易摩擦
当面の注目点としては、米中貿易摩擦の懸念があります。トランプ大統領は、かねてより中国の為替、貿易について批判してきました。対中関税を引き上げるだけでなく、為替操作国に認定するなど、なりふり構わぬ手段で中国への非難を強めています。
米トランプ政権は、華為、バイトダンスといった中国の個別企業への攻撃も強めています。中国の主要企業が米国などから半導体の供給を受けられなくなるなどの、影響が出ています。
中国は「中国製造2025」という大きな目標を掲げて、ハイテク産業を中心として、産業の底上げを図る方針を取りました。そのため、却って米国の警戒を招くこととなり、貿易戦争に繋がりました。米トランプ政権は単に米国の貿易赤字の削減を目指しているのではなく、中国の産業の高度化を阻止する姿勢を見せています。そのため、知的所有権の保護を主張し、また、中国政府の国有企業などに対する補助金も問題にしています。軍事的にも、中国は空母を増強するなど、軍事力の強化に努めています。米中両国は、貿易だけでなく、産業政策、軍事面など、あらゆる分野で衝突を続けるものと予想されます。
おはようございます。前回は外交姿勢・日中関係を見ました。今回は、課題、リスクについて。
1. 米国が中国企業に対する締め付け強化
米国政府は、中国企業に対する締め付けを強化しており、いくつかの企業が狙い撃ちされています。米連邦通信委員会(FCC)は30日に、華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の中国通信機器大手2社を「安全保障上の脅威」と認定。米国の通信会社に対して、政府の補助金を使っての2社の通信機器の調達を禁じる新規制を同日施行。
高速通信網を全米の整備するため支給している年83億ドル(約9000億円)の補助金を受け取る通信会社は、2社の製品を購入できなくなります。安価な中国製品を使う地方の通信会社が影響を受けます。
一方、トランプ政権は中国への個人情報の流出を警戒し、中国の動画投稿サイト「TikTok」について、米企業への売却か利用禁止を運営会社である北京字節跳動科技(バイトダンス)に迫って来ました。
トランプ大統領は15日、「TikTok」の米国事業見直し案を検討すると表明。国際事業を統括する本社を米国に設ける一方、中国側が支配権を維持する案が有力。米IT大手のオラクルが「TikTok」買収の意向を表明しており、同社もこの案を歓迎する姿勢。
2. 外交面で先進国と摩擦
米トランプ政権は中国に対して、まず貿易戦争をしかけ、安全保障上の問題があるとして、上記の通り、中国企業に対する締め付けを強化してきました。米政権は知的財産権についても、中国政府及び中国企業の姿勢を問題視。仮に11月の大統領選で民主党のバイデン氏が大統領に当選したとしても、中国に対する厳しい姿勢を維持する可能性が高いとみられます。
米中の新冷戦は、米中の対立に留まらず、G7と中国との対立に発展する様相。英国も、香港問題などを契機として、次第に中国に厳しい姿勢を取りつつあります。独メルケル首相は中国に対して融和的である者の、今後はEU(欧州連合)全体が中国への批判を強める可能性があります。また、インドと中国の対立も高まっており、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも、特にフィリピン、ベトナムなどは中国への批判を強めています。中国は外交面で多くの課題を抱えています。
3. 長期的に成長率低下か
中国の国家統計局は7月16日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+3.2%になったと発表(図表1参照)。成長率は、市場予想の▲2.4%を上回り、1-3月期の▲6.8%からすぐにプラス転換。
中国国家統計局の劉愛報道官は16日の記者会見で、「新型コロナ・ウィルスの影響を克服し、経済の強靭さと活力を示した」としました。
但、世界的の新型コロナ・ウィルスの感染拡大もあり、今後も輸出の伸びはあまり期待できません。また、最低賃金の上昇により、中国が今後も「世界の工場」の地位を維持することも困難。繊維など軽工業に続いて、台湾の半導体メーカー、PCメーカーなども、中国内率部での生産を見直す動きを見せています。
米国、日本、欧州企業もサプライチェーン見直しにより、中国本土における生産拠点を見直しつつあります。中国としては、世界の工場から、内需を中心とする消費主導の社会に移行していきたいとするものの、依然として輸出また固定資産投資に頼った成長が続くとみられます。長期的に、成長率が低下すると予想されています。
4. 技術革新に課題
AI(人工知能)、ロボットなど最先端の分野においては、中国は南部の広州を中心として、産業・技術の集積が進んでいます。特許、論文などにおいても、既に米国とならず勢いであり、日本などを追い抜いています。
IT企業においては、アリババ、ティンセントなど、世界の時価総額上位10位に入るような巨大企業も出現。但、技術の水準では、米国等西側企業にまだ追いついていない面も多く、産業の高度化がとなっています。
次回は中国の物価、金利、株価、課題、リスクなどを見る予定です。
米中関係・香港情勢に続いて、中国の外交姿勢、日中関係を見ていきます。
1. 核心的利益
中国は2010年春頃より、対外関係においてその確保を主張する対象を「核心的利益」(核心的国家利益)と称するようになりました。中国の対外行動は、それまでのトウ小平氏の唱える「韜光養晦」(能力を隠して時を待つ)という、国際協調姿勢から、対外的な強硬路線に転換することとなりました。
核心的利益とは、中国の国益の一部であると考えることができます。日本を凌駕して国内総生産(GDP)が米国に次いで世界2位になったこと、国際政治における米国及び先進国の相対的低下と、中国など新興国の抬頭がその背景にあります。中国国内企業の技術進歩、軍事力の増強も大きな要因であり、中国が大国としての自信を深め、米国、日本などに対して遠慮しなくなっています。また、ASEAN(東南アジア諸国機構)諸国に対しても、強硬姿勢をとることとなっています。
2. 譲れない地域:核心的利益
具体的に「核心的利益」と位置付けているのは、新疆、チベット、台湾海峡、南シナ海及び東シナ海の領有権など。
先ず、新疆ウィグル自治区では、2009年に漢族とイスラム教徒のウイグル族が衝突して197人(当局発表)が死亡した「ウルムチ暴動」から、2019年7月5日で10年が経過。節目を前にして、米国などから中国政府への民族・宗教政策への批判が高まりました。
米国のシュライバー国防次官補は同月3日の記者会見で、「我々の理解では、(ウィグル族)人口約1000万にのうち300万人近くが施設に拘束されているらしい」と発言。国連の人権高等弁務官などが指摘していた「100万人以上」という数字を3倍近くに増やしました。
これに対して、中国外務省副報道局長は同月6日に、「米国は偏見を捨て去り、新疆の問題を利用して中国の内政に干渉することをやめるよう促す」としました。
3. 南シナ海で米国などと対立
中国は南シナ海でも、いわゆる「九段線」を引き、領有権を主張。周辺諸国の中でも特にベトナム、フィリピンなどと対立してきました。フィリピンは中国と領有を争っているスカボロー碓などを巡って、国際司法裁判所に提訴しました。
このフィリピンが提訴した裁判で、オランダ・ハーグの仲裁裁判所は16年7月12日二、中国が海域のほぼ全体の主権を主張する「九段線」には、国際法上の根拠がないと認定。この海域での人工島増設や軍事化を進める中国の主張に対する、初の国際的な司法裁判所の判断となりました。但、中国はこの判決を完全に無視して、その後も人工島の建設、軍事活動の強化を行いました。
その後、米国は南シナ海における「航行の自由」作戦を展開して、中国による同海域における軍事拠点化を牽制。これに対して、中国はミサイルを発射するなど、米国との対立を深めています。
4. チベットを背景にインドと対立
20年6月には、中国とインドが領有権を争っているカシミール地方で、両国が軍事衝突。インド兵士60人が死亡。インド政府によると、中国側の行動は前もって計画されていたように見えたと指摘。中国側は損害を発表していないものの、米CIAによると、 中国軍も35人の犠牲者を出した模様。
中国側としては、対立をエスカレートさせる考えはなく、中国国内の不満をそらせるため、国内のナショナリズム意識の高揚を狙ったものとみられます。
5. 日中間でサプライチェーンの見直し進む
新型コロナ・ウィルス感染拡大を契機として、日本企業による中国との間のサプライチェーン(共有網)見直しが進むこととなりそうです。これまでも、日中間で尖閣諸島問題を巡って、中国側がレアメタル(モリブデンなどの希少金属)の日本への輸出の削減などがあり、中国に原料、部品を頼る日本企業のリスクが意識されてきました。
例えば日本貿易振興協会(JETRO)では、新型コロナ・ウィルス感染拡大に関連して、海外進出日系企業向け資金繰り対策関連メニューを紹介。支援策として、具体的には親子ローン、スタンドバイ・クレジット、クロスボーダー・ローン、ツーステップ・ローンがあるとしています。
このうち、親子ローンは、日本政策金融公庫、商工中金、国際協力銀行により、国内親会社と金融機関が融資契約を締結。国内親会社より、貸付金を海外子会社に転貸するとしています(図表1参照)。
メリットとしては、現地子会社の業況に応じた弾力的な資金供給が可能であり、比較的スピーディーな与信判断が可能。デメリットとしては、国内親会社のB/S肥大化、親会社の資金回収リスク、為替リスクがあるとしています。
6. 政治面では現状維持か
政治的には、日中関係は、米国の中国に対する政策に左右されることとなりそうです。トランプ政権は少なくとも中国に対して強硬策をとっており、中国企業のフアウェイ(華為)などに対する米国の政策には、日本としては同調せざるを得ない展開が続きそうです。
11月の米大統領選で民主党のバイデン候補が当選する確率もかなり高いと考えられます。但、民主党内にも対中強硬派が多く、米中の貿易などの対立は続くと予想されます。
日本では、安倍首相が辞任を表明し、菅官房長官が次期首相になると予想されています。菅氏は基本的には安倍首相の外交路線を引き継ぐ見込みであり、大きな変化はないでしょう。また、二階俊博自民党幹事長は中国寄りとして知られており、今後も与党の要職を占める可能性が高いとみられます。したがって、政治的には、日中関係に大きな変動はないでしょう。
次回は中国の物価、金利、株価、課題、リスクなどを見る予定です。
おはようございます。前回の賃金・貯蓄率に続いて、今回は米中見解・香港情勢を見ていきます。
1. 米中が第1段階の貿易合意に署名
米中両国は1月15日に、第1段階の貿易合意に署名。中国は2年間で22兆円の追加購入を行うとしました。両国にとって包括的な貿易交渉の第1段階であると、双方が位置づけています。但、対中経済関係の切り直しを図るトランプ政権が、これ以上取り組みを前進させるかどうかについては、疑問視する向きもありました。
合意文書では、中国の企業及び政府機関による米国の技術と企業機密の接種に対して、駐豪側が取り締まりを強化するとの公約の他、対米貿易黒字の縮小に向けた中国によるコント2年間での2000億ドル(約22兆円)相当の追加購入計画の概要などが盛り込まれました。
2. トランプ政権は反中国キャンペーンを継続
米中貿易の第1段階の合意により、米トランプ政権の中国に対する圧力が低下するのではないかとの期待も一部にありましたが、トランプ政権は圧力をむしろ高める方向をとっています。
中国のIT企業のフアウェイ(華為)への圧力に続き、中国のIT企業大手のバイト・ダンスとテンセントへの圧力を強めています。
トランプ米大統領は8月6日に、米国企業に対して動画共有アプリTikTokとメッセージアプリ微信(ウィーチャット)を運営する中国企業との取引を45日以内にやめるよう命じました。大統領はこの日に、中国企業2社を狙い撃ちする2つの大統領令に署名。トランプ政権の反中国キャンペーンの高まりを示唆するものと受けとめられています。
TikTokについては、米マイクロソフトが中国のバイト・ダンスと買収交渉を進めています。トランプ大統領は交渉期限を9月15日までに設定。
今回の大統領令は、そのバイト・ダンスと、微信を運営する中国IT大手、騰訊控股(テンセント)を対象としています。
3. 輸出が回復傾向
8月7日発表の中国の貿易統計において、7月の輸出が今年最大の伸びとなり、一部素材の輸入も過去最高を記録するなど、景気の持続的な回復と共に、貿易も勢いを増しています。
税関総署の発表によると、輸出は前年比+7.2%で、7か月ぶりの大幅な伸び。輸入は前年同月比▲1.4%。市場予想は、輸出が▲0.2%、輸入が+1.0%でした。6月は輸出が+0.5%、輸入が+2.7%。7月の貿易収支は623億3000万ドルの予想で、市場予想の420億ドルの黒字、また前月の464億2000万ドルの黒字から上振れ。
新型コロナ・ウィルスにより1月末迄閉鎖していた中国の工場が2月末から3月初めにかけて稼働を開始して、1月には▲17.0%に落ち込んでいた輸出が回復傾向にあり、7月の輸出は市場2番目となる高水準。市場最高は昨年の12月でした。
中国共産党としては、米中関係の更なる悪化、サプライチェーン・バリューチェーンの寸断、世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大、人民元のドルへの連動の切り離し、世界的な食料不足などを恐れているとみられます。
人民元は現在、バスケット方式により、主に米ドルに連動。今後は、米ドル優位の情勢に対抗するために、デジタル人民元の導入を急ぐ可能性があります。米国への輸出に依存しなくて済むように、通貨の面での自立を急ぐものとみられます。
4. 香港情勢:国家安全法を施行
7月1日に国家安全法が施行され、香港の「1国2制度」が形骸化し、「1国1制度」への動きが加速化しつつあります。1997年に英国の植民地が中国に返還されたとき、「香港の中国化か中国の香港化」との議論がなされました。
中国は香港の自治をなし崩し的に否定しているものの、香港の住民は激しく抵抗。9月6日に選挙を控えていたため、同法の施行を急ぎました。民主派が選挙に勝てば、民主派による法案が可決される可能性が高まります。
英国は300万人の香港人にパスポートを与える用意があると表明。日本の安倍首相も支援を表明。ニュージーランド、豪州、米国、カナダなども同様の動きを見せています。他方、中国は外国が中国の内政に介入しているとして反発。却って、香港への介入の口実としています。
5. 民主派への弾圧を強化
一方、香港の民主活動家、アグネス・チョウ(周庭)氏が8月10日に、国家安全法違反の容疑で逮捕されました。11日深夜に保釈されたものの、今後起訴された場合、裁判を経て、有罪判決となれば、長期の有期刑の可能性もあります。
保釈された同氏は「国家安全法はまさに政治的弾圧をするためのものではないか。もともと法律は市民の権利を守るものだが、今香港政府にとって法律は市民の権利を侵害するものになってしまった」と批判。
また、2月28日には民主派メディアなどを保有している著名活動家の黎智英(71)が、違法集会と脅迫の罪で逮捕・起訴されました。同氏は昨年8月31日に政府に無許可で行われた反政府デモ行進に参加したとされています。同氏が創立したアップルデイリー紙は、香港自治政府や中国政府を繰り返して批判。
このほか、民主派の政治家李卓人氏と楊森氏の2人も、同氏と同じく反政府デモに参加したとして逮捕されました。
将来的には、香港は特別行政区から1都市に格下げとなるとみられます。米国は香港優遇措置を停止。さらに、共産党の締め付け強化により、国際金融センターとしての地位も低下し、金融機関もシンガポールなどに逃避することとなりそうです。香港の混乱により、香港ドルに売り圧力がかかっていますが、香港ドルのペッグ制(1ドル=1香港ドル)も解除される可能性があります。
また、関税の優遇措置が停止されることにより、国際的な海運物流センターしての地位も低下すると予想されます。
次回は中国の外交姿勢、日中関係などを見る予定です。
おはようございます。前回の雇用に続いて、今回は賃金・貯蓄率などを見ていきます 。
1. 最低賃金が上昇
中国のGDP(国内総生産)成長率は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大とそれに伴う都市封鎖(ロックダウン)などにより、20年1-3月期には前年同期比▲6.8%と、大きく落ち込みました。4-6月期には同+3.2%と、市場予想の▲2.4%を上回る回復を見せました。但、19年10-12月期の同+6.0%と比較すると、依然として低水準。
中国のGDP(国内総生産)成長率は、リーマン・ショックの後、10年1-3月期に同+11.9%まで高まったのちは、なだらかに低下を続けてきました。1人当たりGDPは19年に初めて1万ドルを超えました。それにより、GDPの成長率は下がってきており、いわゆる「中所得国の罠」に陥っているとの見方もあります。
中国経済は新型コロナ・ウィルスの影響がなくとも、転換点に差し掛かっていました。嘗て、中国は「世界の工場」と呼ばれ、繊維などの軽工業、それに続いて化学、鉄鋼などの重工業、更にはPCの部品、自動車などの製造業が発展してきました。
それを支えたのが、中国の低賃金でしたが、最低賃金が徐々に上昇(図表1参照)。例えば上海の最低賃金は、11年の1,280元から19年には2,480元へと大幅に上昇。他の北京、広州など主要都市も同様の動きとなっています。19年に至るまで、毎年約+10%の上昇と続けてきました。
中国は従来、輸出と国内の固定資産投資(不動産投資など)が、GDPの成長を牽引してきました。最低賃金の上昇に伴い、生産を中心とする体制から、消費主導型の社会への転換が必要であると言われてきました。今後は、賃金が上昇することにより、こうした内需主導型計税への転換がうまくいかない可能性もあります。
人件費の上昇により、企業の輸出競争力が低下していくと予想されます。1人あたりGDPが1万ドルを超えると、スマホの部品の受託の生産なども難しくなり、工場の内陸部への移転も限界となりつつあります。産業構造の高度化が必要であるものの、その遅れが目立っています。
2. 経済の回復を支える高い貯蓄率
コロナ危機からの経済の回復を支える要因としては、高い貯蓄率があります。中国の総貯蓄率は、19年に44.6%となり、18年の44.7%からはやや低下(図表2参照)。中国の総貯蓄率は年次で更新されており、1952年から2019年までの平均が36.5%、最高値は2010年の50.7%、最低値は1962年の16.5%。
家計の貯蓄率は30%程度とされており、公的セクターを合わせた総貯蓄率は、上記の通り40%を超えています。中国では従来、投資主導経済であったわけですが、貯蓄率が高いと投資が多くなり、個人消費は抑制されます。
中国は従来、輸出と国内の固定資産投資(不動産投資など)が、GDPの成長を牽引してきました。最低賃金の上昇に伴い、生産を中心とする体制から、消費主導型の社会への転換が必要であると言われてきました。今後は、賃金が上昇することにより、こうした内需主導型計税への転換がうまくいかない可能性もあります。
人件費の上昇により、企業の輸出競争力が低下していくと予想されます。1人あたりGDPが1万ドルを超えると、スマホの部品の受託の生産なども難しくなり、工場の内陸部への移転も限界となりつつあります。産業構造の高度化が必要であるものの、その遅れが目立っています。
3. 短期的に経済はリバウンドか
このように、新型コロナ・ウィルスの感染をほぼ抑え込みつつあり、また高い貯蓄率も相俟って短期的には経済のリバウンドが期待されます。但、中長期的には、国営企業の改革が進展しないなど、内部の構造問題があり、外部では米中貿易戦争による影響もあり、経済が停滞するものと予想されます。
米国は、中国に対する関税を引き上げるだけでなく、国防上の理由などにより、フアウェイ(華為)などの企業に対する制裁を強化。サプライチェーンの寸断を招いています。
サプライチェーンの寸断により、中国国内にある外資系企業が、工場を中国国外に移す動きが強まっています。
今後は失業率の上昇に加えて、食品価格も上がる可能性があります。三峡ダムを中心として、豪雨による被害も拡大。気候変動の変化により、穀物などの生産に支障が出るものと予想されます。米国からの大豆など穀物の輸入の制限もあり、秋の収穫次第では食料不測の可能性もあります。景気の停滞と、インフレが同時に起こることも考えられます。
次回は米中関係、香港情勢などを見ていく予定です。
おはようございます。前回の成長率に続いて、今回は雇用などを見ていきます 。
1. 全人代で成長率目標を提示せず
中国では5月22日から28日迄、全国人民代表大会(全人代、国会の掃討)が開催されました。20年の全人代は当初、例年通り3月5日に開会が予定されていましたが、新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、延期されていました。
今年の全人代の事前の注目点は、新型コロナ・ウィルスとの戦いについての勝利宣言の有無、経済成長率目標でした。
全人代の開幕善には、新型コロナ・ウィルスとの戦いにおける勝利宣言がなされるとの観測もありました。蓋を開けてみると、李克強首相は、政府活動報告の冒頭部分で、「重大な戦略的成果を収めた」しながらも、「感染はまだ終息していない」と、慎重な姿勢を示唆。陸上国境地域などで新たな感染者が発生していたこともあり、第二波への警戒もあったものと思われます。
例年、政府活動の報告の最大の注目点の1つは、経済成長率の年間目標の提示でした。今年は、具体的な目標数字を示しませんでした。その理由として李首相は、パンデミック(世界的大流行)の伴う経済貿易情勢に不確実性が高く、予測が困難であるとしました。
実勢1-3月の第1四半期は経済成長率が▲6.8%という未曽有の落ち込みとなり、そこからV字回復するのは困難と思われました。目標未達という事態廼回避のためには、具体的な目標の提示を取り下げざるを得なかったと言えます。
2. 雇用重視の転換か
一方、従来の全人代政府活動報告で言及された言葉の回数を2012-20年で見ると、いずれも「発展」が1位となっています。例えば、18年には「発展」が138回、「改革」が84回、「推進」が74回。19年も同様に発展134回、改革92回、加強62回となっています。
20年には発展が69回に減少し、次いで「就業」39回、「疫情」31回となりました。「就業」は日本語では雇用にあたり、明らかに成長率から雇用情勢重視へと変化がみられます。
3. 失業率が悪化
中国の失業率の統計には、都市部の調査失業率と都市部の登録失業率の2つがあります。調査失業率は習政権発足後に開始されたサンプリング調査による推計であり、2020年4月には5.8%となりました(図表1参照)。
一方、登録失業率は役所に登録された失業者の数により、算出されます。解雇されると役所で失業者として登録してもらうものの、勤務先から解雇通知書がもらえず、登録が申請できないケースも多いため、調査失業率よりも▲1%ポイントほど低い数字が出ます。
2つの数字の問題点は、都市部に限定されていること。農村から都市部に出稼ぎに来ている労働者が失業しても、この統計には現れません。中国の証券系シンクタンクの調査によると、4月の失業率は20.5%。出稼ぎ労働者は7,000万人失業しているとされ、2020年における深刻な問題の1つが雇用問題となっています。
雇用悪化の第一の原因は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大。1月下旬から2か月以上、ほぼすべての都市が閉鎖され、中小企業など様々なサービスの店舗が活動停止となり、失業者が増大。
武漢を中心に、発熱の患者が大病院に殺到し、医療崩壊が発生。日本では風邪などを引くと、先ずは、大病院ではなく、かかりつけの医師の診断を受けることになります。中国では診療所が少なく、いきなり大病院に患者が殺到することとなります。そのため、日本でいうところの町内会長が都市の封鎖を行うことおなりました。
また、中国の都市部では、集合住宅がブロックで囲まれているのが一般的であり、封鎖がしやすいこともあります。門が一か所しかなく、買い物に行くのも、家族の代表が行くことになります。家族の代表が1日に1回30分だけ門の外に出るといった風に封鎖が行われ、結果として感染防止に効果がありました。
第二の原因は、米中貿易戦争に悪化。米国の制裁により製造業を中心に企業の業績が悪化して、労働者を解雇する企業も出てきました。
第三の要因は、中小企業の倒産。特にコロナ危機の発生後、中小企業の資金繰りが悪化。日本では、中小企業に対する持続か給付金の支給、中小企業信用保証協会による融資など中小企業への手厚い政策があります。中国では中小企業に対する補償制度が整備されていないため、中小企業の流動性が悪化。そのため、雇用が急速に悪化しており、習政権への不満が高まり、政府の重要課題となっています。
次回は、賃金、貯蓄率などを見る予定です。
おはようございます。中国経済は、今年4-6月期には2四半期ぶりにプラスに転じました。米中対立、新型コロナ・ウィルスの艦船などを乗り越えて、中国経済はどのように反転していくのか、中国経済の展望、課題について考えます。
1. 成長率は20年に大幅低下
国際通貨基金(IMF)は20年4月に発表した世界経済見通しの報告書で、1920年の中国の成長率予想を+1.181%として、19年の+6.11%から大幅に低下すると予想。新型コロナ・ウィルス感染拡大、世界経済の大幅な落ち込みなどが主な原因。21年には+9.206%に回復すると予想(図表1参照)。
2. 4-6月期GDP+3.2%
中国の国家統計局は7月16日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+3.2%になったと発表(図表2参照)。成長率は、市場予想の▲2.4%を上回り、1-3月期の▲6.8%からすぐにプラス転換。
中国国家統計局の劉愛報道官は16日の記者会見で、「新型コロナ・ウィルスの影響を克服し、経済の強靭さと活力を示した」としました。
3. 鉱工業生産が増加
中国の国家統計局が7月16日に発表した統計によると、年間売上高2000万元以上の企業の6月の鉱工業生産(付加価値ベース)は前年同期比+4.8%と、5月の+4.4%から引き続き回復。市場予想の+4.7%を上回り、3か月連続で前年同月比増加となりました(図表3参照)。
4. 6月小売売上高は予想下回る
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、20年6月の小売売上高は前年同期比▲1.8%でした。市場予想の+0.3%から下振れ。小売売上高は5か月連続で減少(図表4参照)。
5. 1-6月固定資産投資は減少率が縮小
他方、国家統計局による同日発表の20年1-6月の固定資産投資は、前年同期比▲3.1%。減少幅は、市場予想の▲3.3より小幅な減少。1-5月の▲6.3%から縮小(図表5参照)。
このように、中国の5月の鉱工業生産は3か月連続で増加したものの、小売売上高や固定資産投資は引き続き減少。新型コロナ・ウィルスの危機から、景気が思うように回復していないことを示唆しました。
6. コロナ問題が景気の足枷
2020年1月に、米中貿易交渉はフェーズ1の合意に達しました。中国は米国製品・商品を大量に購入し、米国は追加的な制裁健在を行わないというもの。これを受けて株価が上昇したところで、新型コロナ・ウィルスの感染が報道されました。
1月23日に武漢市が封鎖され、その後急速に新型コロナ・ウィルスの感染が拡大しました。さらに、中国当局はコロナ・ウィルスの感染拡大を抑え込んだと発表したものの、5月には北京と周辺の河北省で第二はと疑われる感染が報告されました。5月22-28日に北京で全国人民代表者会議が開催され、3,000人の代表と多くの関係者が終結。中国各地からウィルスが持ち込まれたかのうせいがあり、今後も感染が拡大する可能性があります。
次回は、雇用情勢などを見る予定です。
おはようございます。前回の物価、金利、為替、株価に続き、インド経済のリスクと課題について探ってみます。
1. 消費者物価指数上昇率が高止まり
まず、インド統計局が7月13日発表した6月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.09%(図表1参照)。4月の+5.91%から加速。市場予想の+5.3%からは上振れ。インド準備銀行(中銀)のインフレ目標は+4%前後となっており、現在のインフレ率は中銀の目標の範囲を超えています。
インドでは、19年の1月にはインフレ率が+1.97%まで低下したものの、20年1月には+7.59%まで加速。その後はやや減速したものの、依然として+6%程度に高止まっています。
2. 成長率が低下
続いて、インド統計局が5月29日に発表した1-3月期成長率は、前年同期比+3.1%に減速(図表2参照)。10-12月期の+4.7から減速。市場予想の+2.1%からは上振れしものの、伸び率は8年ぶりの低水準。新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、消費、投資などが低迷。
インドの成長率は18年初めには+8%近くあり、中国を上回る勢いを示していました。20年1-3月期については、コロナによる都市封鎖の影響もあったわけですが、新型コロナ・ウィルスの感染拡大の影響だけでなく、成長率に陰りが見えます。
3. 近隣諸国との関係が悪化
先ず、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方での紛争が再燃。19年8月には両軍の衝突を受けて、インドのモディ政権は住民に避難勧告を出し、軍の増派を決定しました。パキスタンのカーン首相は米国に接近して、トランプ大統領による「仲裁」に期待を示すものの、インド側は第三者による介入を拒否。
印パ両国は、1947年の独立以来、カシミール地方で互いが支配権を設定して争ってきました。ここ10年間で支配地の境界線にあたる場所で衝突が激しくなっており、インド側の支配地内で、パキスタン軍兵士5人が死亡しました。
一方、インド当局は20年6月16日に、中国と国境を争うヒマラヤ地帯で両国軍が衝突して、インド丙が少なくとも20人死亡したと発表。
両国軍の衝突で死者が出たのは、過去45年以上で初めて。このところ、両国間の緊張が高まっていました。インド外務省は、ガルワン渓谷の実効支配線(LAC)を遵守するとして先週の合意を中国が破ったとしています。
それとは別に、中国は「一帯一路」政策を推し進めることにより、インド洋における存在感も増加させています。港湾建設などを通じて、中国はスリランカ、パキスタン、ミャンマーなどに接近。債務が払えなくなった場合、中国が港湾などを没収するケースもあり、中国の存在感の拡大を、インドは警戒しています。
4. 財政赤字
インドでは、財政赤字が大きいことも問題。インドのネットの財政収支はIMFの予測では18年に国内総生産(GDP)比▲7.422%であり、他のBRICs諸国との比較ではブラジルに次ぐ低水準(図表3参照)。インドの財政赤字は大規模でかつ慢性化しており、国内のインフレ圧力を高める一因となっています。さらに、財政面の脆弱性は、インフラ整備を進める上で支障となってきます。
財政赤字の削減については、歳出・徴税効率の改善に加えて、銀行・電力・脳病などの改革を通じて同分野への補助金支出を抑制する必要があります。
5. ビジネス環境の整備
ビジネス環境の整備と、それによる対内直接投資の増加、またそれを通じた雇用の創出も課題となっています。税制簡素化、外資に対する規制の緩和、インフラ整備を推進して、さらに土地収用法や労働法関連の開始絵を一段と推し進める必要があります。
また、米中対立の激化により、生産拠点を中国からインドに移す動きもありますが、それを加速するために、米国との貿易摩擦を回避する必要があります。さらに、ITなど第3次産業に比べて遅れている、自動車など製造業を振興するために、外資系企業の一段の呼び込みも課題となります。
6. インド経済の展望
モディ政権は、2期目に突入。19年5月の行われた下院の総選挙で与党であるインド人民党(BJP)が圧勝。モディ政権が構造改革にどのように取り組むのか、注目されます。但、このところ地方選挙では敗北が続いており、モディ政権の空新緑には陰りも見えます。
インド経済の最大の魅力は、市場規模とその成長性であると言えます。インドの株価も、人口構成から考えて中長期的には人口ボーナス(労働人口の幼年・老年人口に対する相対的な拡大)が有利に働くでしょう。人口はやがて中国を上回ることが確実視されており、インドは引き続き新興国投資の1つの中心であり続けると予想されます。
おはようございます。インド経済の展望について、前回の政治に続き、今回は物価、金利、為替、株価を見ます。
1. 消費者物価指数上昇率が加速
まず、インド統計局が7月13日発表した6月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.09%(図表1参照)。前月の+5.91%から加速。市場予想の+5.3%からは上振れ。インド準備銀行(中銀)のインフレ目標は+4%前後となっており、現在のインフレ率は中銀の目標の範囲を超えています。
2. 政策金利を引き下げ
他方、インド準備銀行(中央銀行、RBI)は5月22日開催の金融政策決定会合で、政策金利のルポレートを▲0.4%引き下げて4.00%にすることを決定(図表2参照)。これは2000年以降で最低の金利。リバースレポ金利は3.75%から3.35%に引き下げ。6月上旬に予定されていた定例会合に先立って開催された今回の金融政策委員騎亜(MPC)は「緩和的」姿勢を維持し、追加緩和の可能性を示唆。
「我々は今後も警戒を維持し、これから先の新型コロナ・ウィルスに伴う難題に対応するためにあらゆる必要な措置を講じる」とダス総裁は表明。
3. 株価と為替
まず、為替について、インド・ルピーはドルに対して、11年7月以来、一貫して下落(図表3参照)。19年末から20年6月にかけては、▲5.93%の大幅下落。インドでは従来、財政赤字と経常収支赤字が問題とされており、ルピーの対ドルの長期下落は、それを反映していると考えられます。
株価は、代表的な指数であるSENSEX30で見て、13年初めから順調に上昇し、19年12月末にはSENSEX30は41,253ポイントの高値をつけました。但、その後は急落。19年末から20年5月末までに同指数は▲15.3%の大幅下落。新型コロナ・ウィルスの感染拡大とそれに伴う都市封鎖、更にそれによる景気の大幅悪化の影響と考えられます。
但、今年3月末からは、株価はやや回復する傾向にあります。米FRBなど先進国における大胆な金融緩和、それによる米国株の急速な回復が影響しているとみられます。
新型コロナ・ウィルスの感染拡大は、まだ当分続く見込みであり、景気が更に悪化する恐れもあります。そのため、株価は当面、一進一退となる可能性もあります。景気の回復は、早くても来年以降になるとの予想が強まっています。
次回は、インド経済が発展するための課題とリスクについて見る予定です。
おはようございます。インド経済の展望について、今回は政治状況を見ていきます。
1. コロナ・ウィルス感染者100万人突破
インド保健・家族福祉省は17日、インドの新型コロナ・ウィルスへの感染者が累計100万3832人になったと発表(ジョンズ・ホプキンス大学によると、22日現在では119万3078人)。世界で感染者が100万人を超えたのは米国、ブラ居るに次いで3か国目。インドでは、一部の地域で経済活動を再開したことが、感染拡大に拍車をかけています。
同時点での死者数は2万5602人(同2万8732人)。商都ムンバイのあるマハラシュトラ州が全体の3割を占めて最も多く、次いで南部タミルナドゥ州、首都ニューデリーの順。インドの新規感染者は足下で1日辺り3万人強に跳ね上がっています。1か月前は同1万人台にとどまっていました。
インドは7月末迄都市封鎖を継続する予定である者の、6月上旬から感染者が少ない地域では、飲食店やショッピングモールなどの経済活動を一部再開。人が再び動き始めたことにより、地方を中心に感染が拡大。感染増加を踏まえて、南部カルナタカ州や東部ビハール州などの各地で独自に都市封鎖を導入する動きもあります。
2. 地方選挙で敗北
一方、モディ首相率いる国政与党BJP(インド人民党)は、最近の地方選挙で負け続けています。イスラム教徒との対立をあおることにより多数派ヒンドゥー教徒の結束を訴えるのがモディ首相の常套手段ですが、より暮らしに密着した地方選では、電気台や医療費の無料化を訴える庶民目線の敵対陣営を相手に巻き返すことができずに苦戦。
2月8日に行われたデリー首都圏の議会選(70議席)で、モディ氏率いるインド人民党(BJP)が8議席にとどまり大敗。地方政党の庶民等が62議席で大勝。
昨年4-5月の総選挙では、BJPがデリー選挙区の全議席を独占。隣国パキスタンを空爆し、挑発的な態度をとって、国内に根強い反パキスタン感情に訴え、支持を拡大しました。
今回のデリー議会選でも、人気の高いモディ氏が全面に立ちました。モディ政権はイスラム教徒が多く暮らすジャム・カシミール州(当時)に与えてきた自治権を撤廃するなど、ヒンドゥー教をより重視した政策を訴えて、ヒンドゥー票固めを図りました。
3. 中印が武力衝突
一方、インドのシン国務相(道路交通担当)は、このほど中国との国境地域で発生した中印両国の軍事衝突で、中国側の兵士が少なくとも40人死亡したと表明。イスナー通信によると、中国と国境を印ラダック地方東部ガルワン渓谷で、6月15日に両軍が衝突して、それによりインド軍兵士20人が死亡、76人が負傷。中国は同国軍側に死傷者が出たことを認めているものの、現在まで正確な数字は発表していません。
中印両国は2003年以来、両国間の国境を巡って、20回以上に渡り協議を行ってきましたが、いずれも不調に終わっており、ここ数カ月は、両国の国境系擬態の間で相次いでう軍事衝突が発生しています。
このように、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、多数の死者が発生し、また経済成長率も低迷し、モディ首相の人気にも陰りがみられます。
次回は、物価、金利、株価などを見る予定です。
おはようございます。インド経済が減速傾向を強めています。今後の見通しを見ていきます。
1. インドの概況
インドはアジアにおける大国の1つ。人口は12億5,840万人(2012年、出典:国連「State of World Population 2012」)で、中国の13億5,36040万人(同)に次ぎ世界第2位。面積は329万km2(日本の約9倍)。
特に若い人口が多いことが強みであり、2050年においても老齢化はそれほど進展しない見込み(図表1、2参照)。15-64歳の人たち、つまり労働人口が人口全体に対して増大する、いわゆる「人口ボーナス」が当分続く見込み。
識字率は73.0%(同)。民族はインド・アーリア族、ドラビダ族、モンゴロイド族など。連邦公用語はヒンディー語で、英語が公用語、そのほか憲法で公認されている言語が21。宗教についてはヒンドゥー教79.8%、イスラム教14.2%、キリスト教2.3%、シーク教1.7%、仏教0.7%、ジャイナ教0.4%(11年国勢調査)。
2. 成長率は20年に大幅低下
国際通貨基金(IMF)は20年4月に発表した世界経済見通しの報告書で、19年のインドの成長率予想を+1.87%として、18年の+6.12%から大幅に低下すると予想。新型コロナ・ウィルス感染拡大により、成長率の大幅低下を予想しています。20年には+7.42%に回復すると予想(図表3参照)。
インドの成長率は14年以降には中国のそれを上回っていたものの、18年には中国の成長率が+6.75%となり、再び逆転されていました。BRICs諸国と呼ばれる主要な新興国の中では、ロシア、ブラジルの両資源国よりは高い成長率を維持しているものの、以前ほどの勢いはない感もあります。
3. 1-3月期成長率+3.1%に減速
続いて、インド統計局が5月29日に発表した1-3月期成長率は、前年同期比+3.1%に減速(図表2参照)。10-12月期の+4.7から減速。市場予想の+2.1%からは上振れしものの、伸び率は8年ぶりの低水準。新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、消費、投資などが低迷。
製造業セクターの1-3月期GDPは、前年同期比▲1.4%。前四半期は▲0.8%。農業部門は+5.9%と、前四半期の+3.6%から加速。
4. 失業率が悪化
失業率は3月が8.7%、4月が23.5%と急激に悪化。雇用者数は▲1.2億人減少したとみられ、賃金カットに伴う収入減もあり、雇用環境が急速に悪化。生活困窮者の増大により、政府は食料の無料配布や現金給付を迫られることとなりました。
封鎖の解除による経済活動の正常化により雇用情勢も回復が見込まれますが、暫くは消費低迷が継続することとなりそうです。海外出稼ぎ者からの送金も減少しており、民間消費低迷の一因となりそう。
5. 政府部門の支出拡大か
政府部門は、景気悪化に伴う税収減少により歳入不足に陥るものの、政府は歳出拡大により景気の下支えを目指すものとみられます。政府は5月にGDP(国内総生産)の1割に相当する総額20兆ルピー(約28兆円)の経済対策を発表。3月と4月に発表した第1弾と第2弾の対策(合計で10兆ルピー)に更に10兆ルピーを上乗せしたもの。但、財政収支はGDP比で18年度の▲3.4%から19年度には▲4.5%に拡大しており、更なる財政支出拡大は難しいとみられます。
その結果、4-6月期には全土封鎖の影響により、成長率は2桁のマイナスに沈むと予想されます。20年度の成長率は▲1.5%と、41年ぶりのマイナス成長なると予想されます。21年度には、前年度からの反動により、高い成長率になると予想されます
次回は、インドの政治状況を見る予定です。
おはようございます。新興国で、新型肺炎の感染が拡大しています。
1. 新型肺炎の感染が拡大
先進国では、米国を除いて、日本、欧州などで新型コロナ・ウィルス(COVID-19)の感染が抑えられつつありますが、中国を除く新興国では、感染が拡大し深刻化しつつあります。
米国を除くと、7月6日現在で感染者が多いのは2位ブラジル、3位インド、4位ロシアであり、特にブラジルは感染者が160万人、インドも69万人と急拡大。ロシアも68万人、更に死者を過少申告している疑いも持たれます。それよりはかなり少ないものの、南アも感染者が19万人と拡大。これらの国では、医療体制が整っておらず、都市封鎖も十分行われていません。
2. インドが全土を封鎖
一方、インドのナレンドラ・モディ首相は3月24日に、新型コロナ・ウィルスの感染拡大のスピードを遅らせるために、25日午前0時から同国全土を封鎖すると発表。封鎖措置は21日間継続します。
同首相は24日のテレビ演説で、「インド全土を封鎖する。完全に封鎖する。インドを守り、あなたやあなたの家族、市民1人1人を守るため、あらゆる道路やあらゆる地域を封鎖する」としました。
また、この国が「21日間の封鎖期間をうまく活用できなければ、我々の国は21年分後退するだろう」とし、さらに、「これは外出禁止令だ。経済的なコストを払わなくてはならないだろう。しかしこれは全員の責任だ」としました。
3. インドが封鎖を段階的に解除
一方、インド政府は5月30日に、新型コロナ・ウィルスの感染拡大防止のために3月末から続いていた全土封鎖措置を、31日で終了すると発表。6月以降は段階的に解除するとしました。インドでは4月下旬以降、封鎖による規制を徐々に緩和してきたものの、感染拡大傾向が続いており、封鎖により歯止めがかからなくなる恐れがあります。
その後、感染者が急拡大。上記の通り、6日現在、累計で69万7千人を超える感染となり、ロシアを抜き、米国、ブラジルについて、国別で3番目の多さとなりました。
13億人超と、世界第2位の人口を抱えるインドでは、1日当たりの新規感染確認者数が2万4千人を超えており、感染拡大が続いています。
インドは6月から段階的に封鎖を解除しており、企業の事務所や大型ショッピングセンター、国内線の運航などを再々。当局は宴会場にベッドを設置して、臨時医療施設にするなど、対応に追われています。
4. ブラジルで感染が拡大
一方、ブラジルでも感染が急速に拡大。ブラジル政府は3日に、新型コロナ・ウィルスの累計の感染者数が150万人を超えて154万になったと発表。過去2週間で50万人増加して、感染拡大に歯止めがかかっていません。感染者数は米国を抜いて世界第2位となりました。その後更に拡大し、6日時点では160万人に拡大。
他方、大都市では経済活動再開が本格化しており、リオデジャネイロ市では2日二、飲食店の店内営業が再開。客席の使用率を50%以下にするといったルールがあるものの、2日夜にはバーに市民が殺到するなど、更なる感染拡大が懸念されています。
5. ブラジル大統領感染か
一方、ブラジルのボルソナロ大統領が、発熱など新型コロナ・ウィルスに感染した宇賀タイのある症状が出て、検査を受けたと明らかにしました。同大統領は国内の感染者数が160万人を超える中でも、コロナ・ウィルスを「軽い風邪だ」と主張して経済活動再開を優先する姿勢をとっており、感染状況の更なる悪化を招く懸念があります。
同大統領は6日に、地元CNNブラジルのインタビューに対して、38度の発熱など、新型コロナ・ウィルスに感染した疑いのある症状が出て、検査を受けたと明らかにしました。
その後、7日に検査で新型コロナ・ウィルスに感染していることが判明。同氏は、自分の感染をテレビ・インタビューで明らかにしました。光熱は下がり、「調子はとてもいい」と話しました。
5日に高熱や咳などの症状、また具合の悪さを自覚するようになり、6日にはさらに悪化したため、検査を受けることにしたとのことです。
大統領は、となるド・トランプ米大統領が新型コロナ・ウィルス治療薬として推進した抗マラリア薬「ヒドロキシクロロキン」や抗生物質「アジスロマイシン」を飲んでいると述べましたが、両方とも、新型コロナ・ウィルスへの効果は認められていません。最近、同氏と接触した人の追跡と検査が実施されることとなります。
6. 世界景気下押しも
国際通貨基金(IMF)、世界銀行、経済協力開発機構(OECD)などは、相次いで2020年の世界の成長率が前年比で大幅に落ち込むとの予想を既に発表しています。ブラジル、インド、ロシアなど新興国を中心として、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が続いており、それが今後世界経済の落ち込みを更に拡大する可能性もあります。
米国の連邦準備理事会(FRB)、欧州銀行(ECB)、日本銀国などによる大幅金融緩和により、先進国の株価は、2月後半から落ち込んだ動きを反転させ、急速な戻りへと結びつけました。但、上記のような新興国における新型コロナ・ウィルスの感染拡大、またそれに伴う新興国における景気回復の遅れにより、世界的に株価が下押しされる懸念もあります。
おはようございます。メキシコ経済は、当面低迷すると予想されます。
1. CPI上昇率は加速
メキシコ国立地理情報研究所は6月9日に、メキシコの5月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+2.84%になったと発表(図表1参照)。5月の同+2.15%から減速。市場予想の+2.97からは下振れ。
2. 1-3月期は▲1.4%
メキシコ統計局は4月30日に、20年1-3月期国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲1.4%になったと発表(速報値)。10-12月期の▲0.7%(確定値)からマイナス幅が拡大(図表2参照)。市場予想の▲1.6%からは上振れ。2009年1-3月の▲5.1%以来の急激な落ち込みで、新型コロナ・ウィルスの感染拡大による工場稼働停止などが影響しました。前期比では▲1.2%。
新型コロナ・ウィルス感染拡大により、4-6月期には2桁のマイナス幅に落ち込むとの予想もあります。メキシコ銀行(中央銀行)がまとめた民間銀行など38機関の20年通期の成長率見通しは▲7.27%と、3月時点の▲3.99%から大幅下方修正。19年の▲0.3%に続き、2年連続のマイナス成長となる見通し。
3. 政策金利を引き下げ
一方、メキシコ中央銀行は、5月14日の政策決定で、政策金利である翌日物貸出金利を▲0.50%ポイント引き下げて5.50%にすること決定(図表3参照)。利下げは8会合連続。5.5%は3年半ぶり。直近では、4月21日の会合で6.5%から6.0%に引き下げています。
中銀は、新型コロナ・ウィルスの感染による急激な経済活動の縮小が最大の要因であると発表。国立統計地理情報院が発表した1-3月期GDPは、上記の通り前年同期比▲1.4%と低迷。また中銀は、世界的な景気減速がいつまで続くかは予測が困難でありながらも、メキシコおいて第2四半期には更なる景気悪化と雇用喪失が確実視されており、必要な金融政策を実施する必要があるとしました。
4. 新型コロナ・ウィルスが景気を下押し
一方、新型コロナ・ウィルスの感染拡大以前の成長率低下の要因として、過去の利上げの累積的効果、景気抑制的な財政政策、トランプ大統領就任後の米国との関係の悪化などがあります。メキシコ中銀は17年頃から利上げを続け、実質金利が最大4.8%まで高まり、景気の下押し要因となりました。その後利下げに転じたものの、3月時点での実質金利は4%弱と高止まりしていました。
更に、3月下旬からは新型コロナ・ウィルスの感染が拡大し、7月1日現在で、感染者数22.1万人(世界第11位)、死亡者数2.7万人(同7位)となっています。2か月間の行動制限措置に伴う経済活動縮小を経て、6月から徐々に経済活動を再開。感染は収束せず、主な貿易相手国である米国でも感染の第2波が心配されており、同ウィルスによるメキシコ経済への悪影響は長期化すると予想されています。
失業率は3%台半ばで安定して推移。コロナ・ウィルスによる影響は、4月以降に出てくると思われます。
1-3月期の経常収支は▲10億ドルの赤字となり、前年同期の▲112億ドルと比較すると、赤字幅は大幅に縮小。
5. オブラドール大統領の支持率低下
一方、民間の調査会社コンスルタ・ミトフスキーによるオブラドール大統領の支持率に関する3月27日発表のアンケートにおいて、同大統領の支持率が初めて50%を下回りました。19年10月までは60%台を維持していたものの、その後は右肩下がり。特に2月1日〜3月27日には、過去最大の下げ幅(▲6.1%ポイント)となりました。
支持率下落の要因の1つとして、政権発足後3年間は増税を行わないという、オブラドール政権の公約と異なった税制改正案が19年11月に公表されたこと。例えば、たばこ、ビールなどに対する生産・サービス特別税(IEPS)が実質負担増となりました。
2つ目として、19年の年間正規雇用創出数も過去10年で最低の34万人強にとどまったこと。特に3月以降には新型コロナ・ウィルスの感染が拡大し、レストラン、小売店舗などを救済するための経済対策に対して、厳しい評価が下されています。
6. 為替と株価
ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、今年2月以降、対ドルで大きく下落。2月20日の1ドル=18.56ペソが3月24日には同25.34ペソへと急激に下落(図表4参照)。商品価格、特に原油価格の下落、ブラジルの通貨レアルの下落につられたことなどが主な要因。その後、6月初めにかけてやや対ドルで上昇したものの、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が止まらないことなどから、6月下旬以降は再び対ドルで軟調な傾向にあります。
同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、16年から17年半ばにかけて、上昇。原油など資源価格の回復、米国景気の拡大などが影響しました。その後、18年初からは、米国の利上げなどにより、大きく下落。19年に入っても、引き続き低迷。特に20年に入ると、原油価格が暴落し、メキシコの株価もそれに伴い大きく低迷。新型コロナ・ウィルスの感染拡大もマイナスに作用しました。
但、その後は原油価格の反発、世界的に株価が戻り歩調にあることなどから、株価は小幅に反発。今後のメキシコ国内の景気の悪化の可能性、新型コロナ・ウィルスの感染が止まっていないことなどにより、株価の上値が重くなる可能性もあります。
おはようございます。トルコでは、新型コロナ・ウィルスの感染第2波が懸念されており、更に多くの問題がみられます。
1. 5月CPI上昇率は+11.39%に加速
先ず、トルコの経済指標を見ておきましょう。トルコ統計局が6月3日に発表した5月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+11.39となり、4月の+10.94%から加速。市場予想の+10.9%からも上振れて、3か月ぶりに加速しました。
トルコのCPIの伸び率は18年1月に前年比+25.24%と、+25%と突破。その後、政府のインフレ対策や中銀による大幅な金融引き締めにより落ち着き、19年10月には+8.55%と、16年12月の+8.53%以来、2年10か月ぶりの低い伸び率となりました。その後、19年11月から20年2月まで、4カ月連続でインフレ率が加速したものの、3月と4月には2か月連続で減速していました。
政府は19年9月30日に発表した20-22年の中期3か年経済計画で、20年のインフレ率を+8.5%、21年を+6%、22年を+4.9%と予想しています。
2. 政策金利を引き下げ
一方、トルコ中央銀行は、5月21日に、新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)に伴うトルコ経済への悪影響を緩和して、引き続き景気を下支えするために、主要政策金利である1週間物レポ金利を現行の8.75%から▲0.50%ポイント引き下げて8.25%にすることを決定(図表2参照)。引き下げは、市場の予想通り。
利下げ幅については、中銀が4月30日に発表した最新の4半期インフレ報告書で、20年末時点のインフレ見通しを従来の+8.2%から+7.4%へと、大幅に下方修正したことにより、市場では▲0.50%ポイントの利下げ予想が大勢でした。
中銀は追加利下げを決定したことについて「4月のトルコ経済はパンデミックの悪影響を受けて、一段と悪化したものの、5月前半には都市封鎖(ロックダウン)の緩和による経済活動の再開により、景気が底打ちしたとみられる兆候が出てきた」とし、更に「これまでの我々による金融緩和関連政策と政府による財政刺激政策が今後、金融市場の安定やパンデミック終息後の景気回復に寄与する」として、追加利下げによよる景気支援の継続に必要性を示唆しました。
3. 1-3月期成長率+4.5%
他方、トルコ統計局が5月29に発表した今年1-3月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+4.5% (図表3参照)。昨年10-12月期の同+6.0%から減速したものの、プラス成長を維持。以上予想の+4.9%からは下振れ。新型コロナ・ウィルス感染の厳しい状況下においても、GDPは前年割れを免れました。前期比(季節調整済み)は+0.6%。1
成長率を支出項目別にみると、GDPの最大の項目である家計最終消費支出は1-12月期に前年同期比+6.8%となり、前期の同+1.9%から加速。一方、民間投資を含む総固定資本形成は7-9月期の▲12.8%から10-12月期には▲0.6%に改善。輸出は10-12月期には+4.4%と減速し、輸入は+29.3%へと急拡大しました。
アルバイラク財務相は、今年のトルコ経済成長率が通年でプラスになると繰り返し述べているものの、マイナスに陥るとの予測も増えています。また、通貨リラは対ドルで昨年末比1割以上下落しており、5月には一時、過去最低となりました。
4. 新型コロナ・ウィルス感染第2波の懸念
一方、昨年末中国で発見された新型コロナ・ウィルス(COVID-19)は、足下で感染拡大の中心地が新興国に移動しつつあり、医療インフラが脆弱な国の感染が懸念されています。
トルコでは、3月中旬に新型肺炎の患者が確認されましたが、その後移動制限の許可に留めようとするエルドアン大統領(与党AKP)と、早期の都市封鎖による封じ込めを目指す最大都市イスタンブールのイマモール市長(最大野党CHP)との対立により、有効な対策を打ち出せない状態が続きました。
その結果、4月以降には 新型肺炎の患者数が急拡大し、エルドアン大統領は主要都市を対象として、人の移動が活発になる週末の外出禁止令を発動。さらにラマダン(断食月)の時期においても、休日を対象とする外出禁止令により、封じ込めを図り、ラマダン明けには正常化を目指すこととしました。
志望者数は4月中旬を境として、頭打ちの様相を強め、新規感染者数も鈍化傾向を強めました。そのため、エルドアン政権は5月中旬以降に外出や移動制限を段階的に緩和。6月初めからは高齢者(65歳以上)と子供(18歳未満)以外の移動を大幅に緩和。
但、足下では、新規の感染者が再び増加傾向にあり、16日時点で新規感染者数が5日連続で1000人を上回っており、感染拡大の「第2波」が懸念されます。大都市部では、社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)が徹底されておらず、大都市部に集中していた感染者が地方に拡散した可能性があります。
5. 外貨建て債務拡大か
上記のように、新型コロナ・ウィルスの感染拡大の「第2波」が起こった場合、通貨リラに対する売り材料となる可能性もあります。足下ではリラの下落に歯止めがかかっているものの、リラが再び下落すれば、外貨建て債務の債務負担の拡大が懸念されます。
また、トルコは伝統的に財政赤字、経常収支赤字が国内総生産(GDP)で大きく、これまでも通貨の売りの材料となってきました。上記の通り1-3月期GDP成長率は前年同期比+4.5%となり、10-12月期の同+6.0%から減速しましたが、世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大などにより、4-6月期には、成長率が更に落ち込む可能性が高まっています。
6. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。トルコの通貨トルコ・リラは、19年初めから一貫して下落。超品市況の下落などにより、新興国の通貨が売られやすい状況が続き、財政赤字、経常収支赤字が大きいトルコの通貨は、特に下落が目立ちました。昨年12月末から今年5月末までに▲14.62%の大幅下落。直近では、新型コロナ・ウィルスの感染拡大の影響もあり、軟調な動きが継続。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は、昨年12月末から今年5月末までに、▲7.87%の小幅下落。米FRB(連邦準備理事会)による大量の資金供給もあり、株価はこのところ小反発の傾向にあります。
世界的に景気が悪化する傾向にあり、また、新興国における新型コロナ・ウィルスの感染拡大の足下の状況を考えると、株価は当面、軟調な展開となる可能性もあります。
インド経済について、今回は金利、政治情勢、株価などを見ていきます。
1. 新型コロナ・ウィルス感染が拡大
インドでは、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が継続。政府が6月に入って、感染拡大防止のための全土封鎖を大幅に緩和したこともあり、連日約1万1000人が新たに感染。地元紙は予想として、「感染のピークは11月半ば頃」と述べました。
インド政府の17日発表によると、感染者は累計で35万4000人超。死者数は約1万2000人に達しました。省都ムンバイを抱える西部マハラシュトラ州が累計感染者約11万3500人、死者5500人超といずれも最悪。首都ニューデリーでも、これまでに約4万5000人が感染して、1800人超が死亡。
インドでは、人口過密な主要都市が新型コロナ・ウィルス流行により大打撃を受けており、感染者数が急増した南部チェンナイでは、19日から新たに都市封鎖(ロックダウン)を開始することとなりました。
また、専門家は実際の感染者数ははるかに多いと指摘しており、検査件数を増やすよう求めています。
2. 中印両国がカシミールで衝突
一方、インド陸軍は16日に、中国との間で国境が未画定のカシミール地方東部で15日夜に起きた中印両国の軍事衝突により、インド側の死者が20人に上ったと発表。インド政府によると、中国側にも死傷者が出ており、対立がエスカレートする可能性もあります。
中印の国境と巡る対立で死者が出たのは1975年以来45年ぶりとされています。双方とも発砲はせず、石を投げあったり、素手で殴りあったりしたと報じられています。現地は氷点下の気温で、寒さも死傷者増加につながって可能性があります。
ナンディラ・モディ首相は17日に、オンライン会議で、「インドは平和を望むが、挑発されれば、相応の報復をする」としました。
一方、中国側は、インド側の越境が衝突の原因であるとして、責任者の処罰を求めています。王毅国務委員兼外相は17日に、インドのスプラマニヤム外相と電話で協議して、「中国の領土主権を守る意思を見くびるべきではない」と伝えました。
両国は軍事衝突の責任を擦り付け合う状態となっています。モディ政権としては、新型コロナ・ウィルスの感染により国民の不満が高まっており、強気の姿勢を見せざるを得ない状況にあります。
3. 政策金利を引き下げ
他方、インド準備銀行(中央銀行、RBI)は6月3-5日に予定されていた通常会合に先立って5月22日、政策決定会合を開催。新型コロナ・ウィルスの感染拡大によるインド経済への悪影響を制御し、景気回復を支援するため、流動性ファシフィティの主要政策金利であるレポ金利を▲0.40%ポイント引き下げて、4.00%にすることを決定(図表1参照)。引き下げは2会合連続。
利下げは全員一致。ただ、利下げ幅を巡って5人の委員が▲0.40%ポイントを支持して、1人の委員が▲0.25%を主張。
4. 株価と為替
まず、為替について、インド・ルピーはドルに対して、11年7月以来、一貫して下落(図表2参照)。19年末から20年5月にかけては、▲1.23%の小幅下落。インドでは従来、財政赤字と経常収支赤字が問題とされており、ルピーの対ドルの長期下落は、それを反映していると考えられます。
株価は、代表的な指数であるSENSEX30で見て、13年初めから順調に上昇し、19年12月末にはSENSEX30は41,253ポイントの高値をつけました。但、その後は急落。19年末から20年5月末までに同指数は▲21.4%の大幅下落。新型コロナ・ウィルスの感染拡大とそれに伴う都市封鎖、更にそれによる景気の大幅悪化の影響と考えられます。
新型コロナ・ウィルスの感染拡大は、まだ当分続く見込みであり、景気が更に悪化する恐れもあります。そのため、株価は当面、軟調な展開になる可能性もあります。景気の回復は、速くても来年以降になるとの予想が強まっています。
おはようございます。インド経済について、現状と見通しを見ていきます。今回は、景気の現状などについて。
1. 消費者物価指数上昇率が減速
まず、インド統計局が5月12日発表した4月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+5.84%(図表1参照)。前月の+5.91%から減速。市場予想の+5.68%からは上振れ。
インフレ率(CPI上昇率)は、昨年半ば迄は食品価格のデフレ圧力が弱まり、原油価格の停滞や通貨ルピーの上昇、国内経済の減速などにより、概ね+3%前後の安定した推移となっていました。
但、9月以降には急速な物価上昇となり、今年1月にはCPI上昇率は+7.59%となり、中央銀行の中期インフレ率目標である+2.0〜6.0%を上回ってきました。昨年の雨季の豪雨による作物被害により、野菜や豆類などの食品価格が上昇した影響が大きいと言えます。インド政府は玉ねぎの輸出を禁止するとともに輸入量を増やして価格安定対策を実施。現在、食品のインフレ率は落ち着きつつあります。
今後のインフレ率については、都市封鎖に伴う物流網の混乱や消費者の買いだめなどが一時的に物価を押し上げる可能性があるものの、原油価格下落や需要減少の影響により、中央銀行のインフレ目標圏内にまで、低下していくものと予想されます。
但、21年度には、景気回復による需給改善が見込まれ、インフレ率は再び上昇すると予想されます。
2. 1-3月期成長率+3.1%に減速
続いて、インド統計局が5月29日に発表した1-3月期成長率は、前年同期比+3.1%に減速(図表2参照)。10-12月期の+4.7から減速。市場予想の+2.1%からは上振れしものの、伸び率は8年ぶりの低水準。新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、消費、投資などが低迷。
製造業セクターの1-3月期GDPは、前年同期比▲1.4%。前四半期は▲0.8%。農業部門は+5.9%と、前四半期の+3.6%から加速。
3. 民間消費と投資が悪化
1-3月期のGDPを需要項目別に見ると、主に民間消費と投資需要の悪化が背町立の更なる低下に繋がりました。
インド政府は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大を警戒して、3月25日に全国的な都市封鎖を開始。食料の買い出しなどの目的を除いて、外出を禁止。1-3月期の封鎖期間は1週間ほどしかなかったものの、GDPの約6割を占める民間消費な+2.7%(前期は+6.6%)と鈍化。
国営銀行の不良債権問題とノンバンクの信用不安を背景として金融機関の貸し渋りが続き、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が追い打ちをかけ、自動車やオートバイなどの耐久消費財は一段と落ち込みました。
インド自動工業会(SIAM)の発表よると、3月のインド新車販売台数は、前年同月比▲61%の15万6041台。新型コロナ・ウィルスの感染拡大を抑制するために、インド政府は全土で都市封鎖を実施。自動車は、生産・販売ともに低迷しています。4月に入るとさらに落ち込み、3月の新車販売台数は0となりました(図表3参照)。
統計・計画実施庁は同日に、今年度(3月31日まで)のGDP成長率見通しを従来の+5%から+4.2%に下方修正。少なくとも、8年ぶりの低水準となる見込み。
インド経済は、18年1-3月期をピークとする景気の減速傾向に歯止めがかかっていません。19年には金融機関の貸し渋りを背景として、企業の投資活動が縮小して、今年は新型コロナ・ウィルスの感染拡大と行動規制により、景気が一段と悪化しています。
おはようございます。原油価格下落などにより、新興国のうち特に資源国では景気の停滞が目立っています。今回は、南アフリカ経済について見ることにしましょう。
1. 4月CPI上昇率は+4.1%に減速
南アフリカ統計局は4月22日に、3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+4.1の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+4.6から伸び率が減速し、市場予想の+4.3から下振れ。
2. 政策金利を引き下げ
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は5月21日に、4カ月で4度目の利下げを決定。深刻な景気後退が予想される国内経済を下支えするのが狙い。南アでは、新型コロナ・ウィルスの感染拡大を防止するために、全国的な都市封鎖(ロック・ダウン)を行っており、経済活動が全面的に停止しています。
クガニャゴ総裁は21日、政策金利を4.25%から3.75%へと引き下げると、金融政策委員会(MPC)が決定したと示唆。これにより、同国の政策金利は1998年の導入以来最低となりました(図表2参照)。
MPCの委員5人のうち3人が▲0.5%ポイント利下げ、2人は▲0.25%ポイント利下げを支持。市場予想も、▲0.25%ポイントから▲1.00%ポイントにわたって利下げを見込んでいました。
3. 10-12月期成長率は▲1.4%に沈む
一方、南アフリカ政府統計局は3月3日に、10-12月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで▲1.4%になったと発表(図表3)。マイナス成長は2四半期連続。
19年通期の成長率は+0.2%に留まり、10月に下方修正した政府予想ノ+0.5%からも下振れ。12月には1週間以上にわたって大規模停電が続くなど、国営電力会社エスコムの不安泳な電力供給が、経済全体の足を引っ張りました。
4. 都市封鎖を一部解除
一方、南アフリカでは6月1日に、新型コロナ・ウィルス流行に伴う2か月にわたるロック・ダウン(都市封鎖)が一部解除されました。
屋外での仕事、礼拝、運動、買い物が認められたほか、鉱業や製造業でフル操業が認められることとなります。
ラマポーザ大統領は3月末に、世界でも特に厳しい都市封鎖を実施して、有権者から幅広い支持を獲得。外出制限の他、鉱業・製造業の稼働率を半分に減らし、アルコールとたばこの販売を禁止。
南ア経済は、新型コロナの流行以前から計画停電などを背景として景気後退入りしており、ロック・ダウンの影響により、景気後退に拍車がかかっています。中央銀行は、今年の経済成長率を▲7%と予想。
政府は今回、警戒水準を5段階中の「3」に引き下げて、経済活動の再開に向けて期待を寄せています。都市封鎖の解除により、感染者の増加が予想されます。
5. 為替と株価
ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。通貨ランドは、19年7月から12月頃にはほぼ横這いで推移。今年1月1日に1ドル=14.00ランドの高値となったのち、南アの景気後退、また、3月以降には新型コロナ・ウィルスの感染により、通貨ランドは大きく下落。4月6日には1ドル=19.26ランドの安値を付けました(図表4参照)。
その後は、コロナによる都市封鎖解除への期待などにより、ランドがやや買い戻される展開となりました。
一方、株価は代表的な株価指数であるFTSE/JSE指数が、16年から18年初めにかけて上昇し、その後は18年末にかけて下落(図表5参照)19年はほぼ横這いであったものの、南アの国内景気の悪化、新型コロナ・ウィルスの感染拡大、NYなど先進国株式市場の大幅下落により、同指数も大幅下落。NY株式市場など先進国の株価が戻り歩調となり、また、米FRBなど中央銀行の大幅金融緩和もあり、同指数は5月以降には急反発(図表5参照)。
但、原油など資源価格が一時よりは回復したとはいえ依然低迷し、南アの成長率自体も、上記の通り中銀の予想で19年には通年で▲7%と予想されるなど、大きく落ち込む予想。新型コロナ・ウィルスの影響もあり、鉱業、製造業なども今のところ生産が大きく落ち込んでいます。新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まって来れば、生産活動も戻り歩調となると思われます。但、中国と除くと、世界的に先進国及び新興国の景気は当分低迷すると予想され、外需も弱いままとなると予想されます。株価も、戻りが一巡したのちは、横這い、あるいは2番底を探る展開となる可能性もあります。
おはようございます。ブラジル経済の混迷が継続しています。
1. 政策金利を引き下げ
ブラジル中央銀行は4月6日の金融政策委員会で、政策金利を▲0.75%ポイント引き下げて、過去最低水準の3.00%にすることを全員一致で決定。引き下げは市場の予想の▲0.50%ポイントを超え、想定外の大幅引き下げとなりました。前回3月に続いて、7会合連続の引き下げ。
中銀は政策決定会合後に発表した声明文で、大幅利下げを決定したことについて「ブラジルの経済活動を示唆する3月のデータは、新型コロナ・ウィルスのペンでミックの悪影響の一部だけを反映していたが、4月のデータは、ブラジル経済が前回の会合で予想した以上に大幅に縮小するン見通しを示すようになった」として、追加利下げにより、パンデミックのブラジル経済への悪影響を一段と抑制する必要があるとの認識を示唆。
インフレ見通しについては前回会合時と同様に「基調インフレ率(コアインフレ率)は、金融政策のタイム・ホライズン(20年と21年を含む時間軸)で物価目標(+4%)の達成がk脳な水準で推移している」としました。
2. インフレ率は低水準
一方、ブラジル地理統計院は5月8日に、4月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。3月のIPCAは前年同月比+2.4%と、前月の同+3.3から減速(図表3参照)。市場予想の+2.49%ら下振れ。
3. 10-12月期GDPは+1.7%に回復
他方、ブラジル地理統計院は3月4日に、10-12月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.7%であったと発表(図表3参照)。前期比年率は+2.1%と、3期連続で年率+2%となり、ブラジルの景気が緩やかな回復を継続してことを示唆。
前年同期比に対する寄与度をみると、個人消費が+1.5%、在庫投資が+0.9%と、内需の底堅さのわりに在庫が積みあがっています。これは、輸出が減少したことによる、輸出向け在庫の積み上がりとみられます。純輸出の寄与度は3期連続マイナスで、79月期以降は輸出の減少が主な要因。
4. 新型コロナ・ウィルス感染が拡大
一方、中国の武漢に端を発したと言われる新型コロナ・ウィルスの感染が、ブラジルで急拡大。米ジョンズ・ホプキンス大学のまとめによると、5月27日午後4時現在で、ブラジルの感染者は391,222人と、米国の1,681,418人に続いて世界第2位。死者の数も24,512人に達しており、感染者、死者ともに急拡大しています。
ブラジルでは、集中治療質(ICU)どころか清潔な水さえも十分にはなく、医療生体の不備が目立っています。
感染は当初、富裕層が住む地域や外国人旅行者との接触が多い主要都市に限られていたものの、内陸部にも広がり、マラニヨン州などにも拡大。リオデジャネイロ、サンパウロなど大都市では、貧民街を中心に感染が急拡大。
一方、同国のボルソナロ大統領は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大を軽視する姿勢を継続。同氏はコロナ・ウィルスが単なる風邪である都市、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)がウィルス拡散を抑える手段であるとする専門家の意見を無視。マスク無しで政治集会に参加して握手するなどしています。
マナウスのビルジリオ市長は「ウィルスだけでなく、大統領とも戦わなければならない」とし、ボルソナロ氏は、ブラジルに死者をもたらして「共犯者」であるとしました。外出禁止を巡っても、外出を抑制しようとする各州の知事と大統領が対立。
更に、新型コロナ・ウィルス対策の陣頭指揮を執っているタイシ保健相が15日に辞任。新型コロナ・ウィルスの治療法を巡って、抗マラリア薬の積極しようと求めるボルソナロ大統領と、使用に慎重なタイシ氏の対立が目立っていました。事実上の更迭で、保健相の後退は2か月で2人目となり、国内の感染が拡大する中、対策の混乱に拍車をかけることとなりそうです。
5. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。14年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、ブラジルは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は対ドルで大きく下落。15年に入っても下落が継続。16年1月末には1ドル=3.999レアル迄下落。その後は原油価格の反発などにより、レアルも対ドルで反発。16年末には、1ドル=3.255レアル迄戻しました。(図表4参照)。
その後、レアルは対ドルほぼ横ばいの動きであったものの、米長期金利の上昇、さらにアルゼンチン・ペソ、あるいはトルコ・リラといった新興国の通貨が下落したこともあり、レアルも急激に下落。20年4月末には同5.42レアル迄下落。19年12月末との比較では、▲35.0%の暴落。
株価は、16年以降順調に上昇。通貨レアルが昨年12月末から今年10月末まで▲3.41%の下落となったのに対して、代表的な株価指数であるボベスパ指数は、同じ期間に+21.99%の上昇。米連邦準備理事会(FRB)が利下げに転じたことなどを好感しました。
株価はその後も堅調で、ボベスパ指数は19年12月末には115,964ポイントの高値をつかました。20年に入ると、資源価格下落、コロナ・ウィルス感染拡大などのより、株価は急落。同指数は昨年12月末から▲30.58%の大幅下落。
ブラジルではボルソナロ大統領が、新型コロナ・ウィルスの感染拡大の防止に消極的であり、感染者が今後も拡大し、国内景気の低迷が長期化する可能性があります。原油価格が一時に比べるとやや回復したとはいえ、鉄鉱石などの資源価格も引き続き低迷。ブラジル経済の低迷は、長期化する可能性があります。
おはようございます。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大、またそれに伴う景気の失速が話題となっています。今回は、新興国の一角であるロシアの経済について見ます。ロシアでは、原油価格低迷などにより、停滞感が強まっています。
1. 1-3期GDP成長率は+1.6%に減速
ロシア連邦統計局が5月19日発表した統計によると、今年1-3期国内総生産(GDP)は、前年同期比+1.6%(図表1参照、速報値)。伸び率は、前期の+2.1%から減速。新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、原油の需要が減少し、貨物輸送などが不振。ロシアでは4月以降に外出制限が本格化しており、4月以降は成長率がさらに下押しされると予想されます。
2. インフレ率が加速
国家統計局から5月7日発表された4月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+3.1%と、伸び率は前月の+2.5%から加速(図表2参照)。市場予想の+3.1%に一致。
3. 政策金利を引き下げ
一方、ロシア中央銀行は4月24日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のたまの1週間物入札金利をいずれも▲0.50%ポイント引き下げて5.50%にすることを決定。新型コロナ・ウィルスの感染が拡大に伴う経済活動の制限により、2020年の国内総生産(GDP)成長率がマイナスに転じると予想。利下げにより景気の下支えを図ることとしました。次回会合で追加利下げする可能性も示唆。
中銀は声明で、「新型コロナ・ウィルスの感染拡大と制限措置、外需の減少や原油などの輸出品の価格下落が経済活動に悪影響を及ぼしている」と指摘。3月の前回会合では、原油価格下落により通貨ルーブルの下落が進んだことから、2月迄6会合連続で実施していた利下げを見送っていました。
4. 新型コロナ・ウィルスの感染が拡大
一方、3月頃まではロシア国内の新型コロナ・ウィルスの感染は緩やかだったものの、ここにきて急拡大。米ジョンズ・ホプキンス大学のまとめによると、20日午後4時現在で、ロシアの感染者数は299,941人と、米国の1,528,566人に次いで世界2位。3位ブラジルの271,885人、4位英国の250,138人などを上回っています。死者の数は2,837人にとどまっているものの、急速な感染拡大にプーチン大統領も危機感を強めています。
プーチン大統領は、医療従事者への追加報酬を指示したものの、至急が遅れて医師からの不満が高まっています。同大統領の支持率は200年の就任以来、初めて60%を割り込んでおり、大統領は焦りを強めています。
プーチン氏は4月に、医師は看護師、救急車の運転手らに追加報酬を3か月にわたり支給すると表明。最高額は国立病院の医師の平均月給並みの月8万ルーブル(約12万円)。今月15日迄に最初の支給をすると約束したものの、地方政府の事務の混乱などにより、至急の遅れや額の不足が相次いでいます。
5. 憲法改正の国民投票を延期
一方、プーチン大統領は今年の年次教書で、国家評議会を、が意外政策を決定する場にするなどとする憲法改正案を提起。現在は、プーチン氏は24年に大統領の人気を終えた後、現行憲法下では再選が禁止されています。
その後、3月10日にワレンチナ・テレシュコワ下院議員美提案に基づき、国家院は、新憲法下ではプーチン氏がさらに2期12年間大統領に留まることを承認。現憲法には、大統領は連続2期迄に限るとの規定があるので、国家院が承認した改正案はそれに反しています。憲法裁判所は、3月16日に憲法改正案を是認する判断を下しました。
この憲法改正案は、4月22日に国民投票にかけられる予定であったものの、新型コロナ・ウィルスの感染に伴い延期となり、実施時期は未定となりました。原油価格低迷により、ロシア経済は疲弊しており、国民が投票に行くかどうかという問題があります。投票率が50%を切れば国民投票は成立しないことになります。
ロシアは欧米による経済制裁により、国内の景気が弟妹しており、コロナ・ウィルスの感染拡大がそれに追い打ちをかけています。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非OPEC諸国による「OPECプラス」は原油減産について歩み寄りを見せているものの、本格的な原油価格の回復は難しいとみられます。プーチン大統領は引き続き、難しい政策の舵運営を担うこととなりそうです。
前回はBC(ビフォー・コロナ)、すなわちコロナ・ウィルス拡大の前において、歴史的にどのような経済的、あるいは金融の面における変動があったのかについてご報告しました。今回は、AD(アフター・ディザスター)すなわち感染拡大、またその終息後には、どのような変化が出てくるのか、また変わらない点はあるのか、更にそれに対する対象の方法について考えてみたいと思います。
1. BCにおける出来事
前回では、BC(ビフォー・コロナ)における出来事をご報告しましたが、ここでもう一度整理しておきましょう。1987年10月29日におけるNY市場での株価の大幅下落、即ちブラック・マンデー、1997-98年のアジア通貨危機、2000年3月のITバブル崩壊、2001年9月11日のNY同時多発テロの発生がありました。
更に、2009年9月15日にはリーマン・ショックが発生。当時米国第4位の投資銀行であったリーマン・ブラザーズが経営破綻し、それに端を発して世界的な金融危機が発生しました。
そして経済危機には、1987年のブラック・マンデーにおける株価の大幅下落、1997-98年のアジア通貨危機、リーマン・ショックなど、金融市場の混乱により引き起こされるものがあることを見ました。これに対して最近の新型コロナ・ウィルスの感染拡大による危機は、供給と需要が同時に停止して物であり、金融危機による経済の混乱とは異なるものであることを、前回にはご理解頂きました。
2. ADの世界:景気の大幅悪化
ではAD(アフター・ディザスター)、即ち今回の新型コロナ・ウィルスの世界的な流行及び災難、つまりパンデミック発生後の世界はどのようになるでしょうか。
新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、世界全体の人、物の流通が寸断され、生産が中止し、消費も大きく停滞しました。それにより、今後は世界的に景気が大幅に悪化すると予想されます。
ここで、国際通貨基金(IMF)による世界経済見通しを見ておきましょう。IMFは4月13日に、世界経済見通しを改定。20年と21年の世界経済の成長見通しをそれぞれ▲3.0%、+5.8%と予想。今年1月時点の予想からそれぞれ▲6.3%、+2.4%の修正。(図表1参照)。
IMFでは、感染症の世界的な大流行というシナリオは、経済政策のこれまでの議論において可能性としては取り上げられたことはあるが、それが実際に発生するとどのようになるか、またそれが経済にどのような意味を持つのか、明確に理解しているものはいなかったとしています。
3. 雇用が大幅悪化
景気の悪化により、世界的に雇用も大幅に悪化すると予想されます。ここで、米国の4月子用統計を見ておきましょう。
米労働省4月の雇用統計を5月8日に発表し、非農業部門の雇用者数増加は前月比▲2050万人(図表2参照)。市場予想の▲2200万人からは上振れ。前月の雇用者数増加は速報値の▲70.1万人から▲87万人に下方修正。
失業率は前月の4.4%から+10.3%ポイントもの上昇となり、14.7%と、戦後最悪。失業者数尾714万人から2308万人に急増。失業率は金融危機時のピークである09年10月の10.0%や、第2次大戦後の最悪期1982年12月の10.8%を超えて、大恐慌直後の40年以来、80年ぶりという歴史的な水準に悪化しました。
4. 長期金利と物価の低迷が継続
コロナ・ウィルスの感染拡大により、米FRB(連邦準備理事会)、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行などが相次いで国債・社債の購入など、大量の資金供給に動きました。
そのため、各国で長期金利が低下。特に米国では、指標となる10年国債の利回りが3月3日には市場始めて節目である1%を割り込みました(図表3参照)。5月13日現在で、米国長期金利は0.61%程度となっています。
また、物価上昇率の減速も顕著となっています。5月12日発表の米国4月消費者物価指数(CPI)総合は、前年同月比+0.3%と、15年以降で最も低い伸び率。前月比で▲0.8%。ガソリン価格が前月比▲20.6%と急落。コアCPIは前年同月比+1.4%と、2011年以来の低い伸び。また、前月比では▲0.4%。
米国だけでなく、欧州、日本また、新興国でも物価上昇率の鈍化が顕著となっています。今後も、長期金利及び物価上昇率の低迷が予想されます。
5. 中国が景気回復を先導か
では、コロナ・ウィルスの感染拡大後の世界、即ちADにおいて、景気回復が比較的早い国はどこでしょうか。中国は既に武漢などでのコロナ・ウィルス感染拡大を抑え込んだと発表しており、中国が景気回復の先頭となる可能性があります。ここで、中国の4月PMIを見ておきましょう。
中国の国家統計局が4月30日発表した4月の製造業購買担当者指数(PMI)は50.8と、前月の52.0から低下。市場予想の51.0から下振れ。新型コロナ・ウィルスの感染拡大を受けて、世界経済の大半が停止状態に陥る中、輸出受注が大幅に減少。中国の景気回復には、まだかなり時間がかかる見込みです。
4月の製造業PMIは景気判断の分かれ目となる50は上回りました。4月のPMIは前月からは反落したものの、世界的な比較では、比較的堅調な動きとなっています。
一方、同日に発表された4月の非製造業PMIは53.2と、前月の52.3から上昇。中国政府はコロナ・ウィルスにより打撃を受けた国内経済の復興において、サービス業が果たす役割に期待しているものの、外需の落ち込みや国内の消費低迷により、あまり期待できないとアナリストは予想。
6. 世界経済はU字型の回復か
上記の通り、IMFは20年の世界経済の成長率を▲3.0%、21年は+5.8%と予想。今後の世界経済の回復については、V字型回復、即ち急激な回復、U字型即ち緩慢な回復、またL字型の予想などもあります。
欧州などでは、新型コロナ・ウィルスの感染がやや収まる兆しがあり、米国の一部の州でも、外出などの行動規制を緩和するところもあります。但、早期の行動規制解除は、第2次の感染拡大のリスクを高める可能性があり、このまま世界経済がすんなりと回復するのは、可能性が低いと考えられます。今後、V字回復は望みがたく、せいぜいU字型、あるいはL字型に近い緩慢な回復に留まる可能性が高いと言えるでしょう。
また、テレワーク、電子商取引の更なる発展など、追い風を受けるセクターもあります。反対に、空運、旅行、ホテルなど、コロナ・ウィルスの感染による打撃が長引く可能性が高いセクターもあります。投資家としては、過度の悲観に陥ることは避けつつ、コロナ・ウィルスの感染の第2波にも注意する必要があるでしょう。さらに、大きく落ち込んだセクターは株価が割安に放置される可能性もあり、寧ろ打診買いの対象として検討する余地があります。今後、具体的にどのように行動すべきかについては、6月12日開催のセミナーで、お話しできればと思います。
おはようございます。2020年初めころより、新型コロナ・ウィルスが急激に拡大し、世界はコロナ・ウィルス拡大よりも以前と以後では、様相が大きく異なります。BC(ビフォー・コロナ)すなわちコロナ・ウィルス拡大の前と、AD(アフター・ディザスター)すなわち感染拡大、またその終息後とでは、どのような違いが出てくるのか、また変わらない点はあるのか、考えてみたいと思います。今回はBCについて。
1. BCとは何か
一般には、BC(ビフォー・コロナ)とAC(アフター・コロナ)という言い方がされ、今回の新型コロナの感染により、今後の世界がどのように変わるかという予想が数多くされているようです。
ここで、AC(アフター・コロナ)ではなく、AD(アフター・ディザスター)という呼び方をします。なぜなら、今後もコロナ・ウィルスのような感染症が発生する可能性があり、今回の混乱は大きな災害、即ちディザスターであるものの、いろいろな災害、あるいは大変動が今後も生じる可能性があると考えるからです。
今回は、BCすなわち今回のコロナ・ウィルス感染拡大以前に、金融あるいは経済的にどのような混乱があったのかを概観することとします。
2. 株価の大幅下落:ブラック・マンデー
経済の悪化により株価が大幅に下落した、というよりは、株価の大幅下落により、金融市場が大混乱することがあります。1929年における世界的な大恐慌も、きっかけはNY市場によける株価の暴落であるとみることもできます。そのほか、1990年以降の日本における株価暴落も、その後の日本経済のバブル崩壊、金融システムの混乱、景気の大幅悪化、土地価格の大幅下落を引き起こしたと見ることもできます。
ここでは、代表例として、1987年のブラック・マンデーを見ることにします。1987年の10月19日月曜日に、NY株式市場で市場最大規模の株価暴落が発生しました。この日は月曜日であったことにより、「ブラック・マンデー(暗黒の月曜日)」と呼ばれています。
この日に米国の代表的な株価指数である「ダウ工業株30種平均」の株価は前週末との比較で▲508ドルの下落、値下がり率は▲22.6%と、過去最高となりました(図表1参照)。その後、日本などのアジア諸国、欧州市場でも株価が大幅に下落し、世界同時株安となりました。
このブラック・マンデーが発生する以前に、米国は財政赤字と貿易赤字といういわゆる「双子の赤字」に苦しんでいました。この貿易赤字を解消するために、ドル安を誘導する必要があり、1985年9月22日の「プラザ合意」において議論が行われました。
プラザ合意では、為替をドル安に誘導することが合意されました。ただ、その後ドル安が進んでも米国の貿易赤字の改善にはあまり役立ちませんでした。ドル安を背景として、米国ではインフレ懸念が高まりました。そこで、1987年2月22日に、パリのルーブル宮殿でG7(先進7か国蔵相・中央銀行総裁)が開催され、各国は協調政策をとることで合意。
87年9月には、西ドイツが米国の反対を押し切って、インフレ対策として利上げに踏み切りました。この西独の利上げから約1か月後の10月19日にブラック・マンデーが発生。西独の利上げの他、ルーブル合意の政策協調の破綻が原因と見る向きもあります。また、システム売買が原因であるとの説もあります。但、根本的な原因は不明な面も多く、経済の実態の混乱から株価が下落したというよりも、株価の大幅下落が経済の混乱をもたらした一例と考えることができます。
3. 通貨の下落:アジア通貨危機
1997年7月二は、タイ・バーツの暴落をきっかけとして、インドネシア、韓国などの東南・東アジアを中心として、通貨危機が発生。
それまでの新興国あるいは発展途上国で発生した機器としては最大級のもので、アジアを中心に新興国から資金が大幅に流出。景気も大幅に悪化し、韓国などの格付けも大幅に悪化。深刻な通貨・経済危機となりました。
特に混乱の中心となったタイ、インドネシア、韓国では通貨が大幅に下落。通貨危機が始まった7月かが半年間で、通貨の価値が▲50%以上下落し、インドネシア・ルピアは▲81%もの暴落となりました(図表2参照)。また日本でも、アジア向けの融資が焦げ付き、97から98年にかけて金融危機が発生するきっかけとなりました。
アジア通貨危機の原因となったのは、日本、台湾、フィリピン以外の対、インドネシアなどアジアの多くが、ドルと自国通貨が連動するドルペッグ制ととっていたことです。タイ、インドネシアなどで、財政赤字、経常収支赤字が拡大し、これらの国の通貨が実態以上に過大評価されました。その矛盾を通貨の投機筋がついたことなどにより、ペッグ制が崩壊しました。
1990年代のアジアは、通貨を対ドルで安定させることにより、海外から投資を呼び込み、急速な経済成長を遂げました。海外の経営者にとっては、通貨のリスクをとることなく、安い賃金を利用して生産できたので、アジア諸国への投資が相次ぎました。
また、各国の短期の債務は大半がドル建てであったため、通貨の下落により自国通貨建ての返済の額が膨らむこととなりました。最終的には、国際通貨基金の緊急融資により、タイ、インドネシア、韓国は再生を目指すこととなりました。アジア通貨危機は、通貨下落が経済に混乱をもたらした主要な例であると言えます。
4.金融の混乱:リーマン・ショック
金融市場の混乱が実体経済に悪影響を及ぼした代表的な例としては、リーマン・ショックがあります。リーマン・ショックは2008年9月15日に、米国の当時第4位と言われる投資銀行のリーマン・ブラザーズが倒産したことを契機として発生。
ただ、その前年あたりからサブプライムローン、即ち優良でない顧客に対する住宅の貸付の焦げ付き、さらにはそれを用いた金融商品であるMBSなどの商品の安全性が問題となっていました。そのため、2007年頃から株価は大きく下落し、2008年4月には当時米国第5位のベアスターン社の経営が悪化するという問題もありました。
リーマン・ショックが起きる以前から米国の景気は後退していたものの、2008年9月15日の同社の破綻により、株価下落など金融市場の混乱が拡大。米国、さらには欧州などの銀行の信用の問題にも波及し、世界的にドル資金が急速に枯渇。それが企業の信用、生産活動に影響をもたらし、需要も後退。日米両国、あるいは欧州では、翌年の1999年には鉱工業生産が前年比▲30%程度の大幅な落ち込みとなり、世界的な不況となりました。
その後、中国が4兆元の景気対策を行い、米国、日本、欧州などの各中央銀行が大幅な金融緩和を行ったことにより、2009年4-6月期以降には各国の景気は回復基調となりました。
5. 需要と供給の同時消失:コロナ・ショック
2020年にはいってからの新型コロナ・ウィルス感染拡大による経済的混乱を、仮に「コロナ・ショック」と名付けるとすると、その特徴は需要と供給が両方とも停止したことにあります。
過去のインフレ時、即ち物価の大幅上昇時には、需要に対して供給が足りない事態が懸念されました。いわゆる「ボトル・ネック・インフレ」では、生産の阻害要因により、十分な供給がなされず、それが経済の阻害要因であるとされました。
また、日本などでデフレ傾向、つまり物価上昇率の停滞感が強まり、物の売れ行きが悪くなると、需要の不足が問題となりました。そこで、政府の財政支出、あるいは中央銀行による利下げ、あるいは量的緩和などが行われました。つまり、インフレもデフレも、需要と供給のバランスが悪いとされ、需要あるいは供給そのものが消失したわけではありませんでした。
今回のコロナ・ショックでは、金融の混乱が原因であるリーマン・ショックとも違い、また需要と供給のバランスの問題でもなく、需要と供給そのものが消失するという新たな危機のパターンであると言えます。
1987年のブラック・マンデー、1997年のアジア通貨危機、2008年のリーマン・ショックト、ほぼ10年おきに危機が発生してきました。そのため、2017〜2018年頃には警戒を強める必要があり、私自身も、投資における現金比率を上げるよう呼びかけてきました。
ほぼ10年周期で世界的な大変動が起こるようになった要因としては、グローバル化の進展により、1国あるいは1地域で発生した問題が世界的に拡散しやすくなったことがあります。アジア通貨危機では、タイ、インドネシア、韓国などの混乱は、その国あるいは地域に留まらず、世界的な混乱に繋がりました。今回のコロナ・ショックでも、中国の武漢で発見された新型コロナ・ウィルス感染が、瞬く間に世界中に拡大しました。
したがって、今後もこのような危機が度々起こる可能性があり、それに対してどのように備え、投資していくのか、考える必要があります。
次回はコロナ後の世界、つまりAD(アフター・ディザスター)がどのようになると予想されるか、またそれへの対処について考えていこうと思います。
おはようございます。IMFが世界経済見通しを改定し、20年を前回1月の見通しから大幅に下方修正しました。
1. 20年の世界経済見通しを大幅下方修正
国際通貨基金(IMF)は4月13日に、世界経済見通しを改定。20年と21年の世界経済の成長見通しをそれぞれ▲3.0%、+5.8%と予想。今年1月時点の予想からそれぞれ▲6.3%、+2.4%の修正。(図表1参照)。
IMFでは、感染症の世界的な大流行というシナリオは、経済政策のこれまでの議論において可能性としては取り上げられたことはあるが、それが実際に発生するとどのようになるか、またそれが経済にどのような意味を持つのか、明確に理解しているものはいなかったとしています。
20年の予想においては、前年比で米国▲5.9%、ユーロ圏▲7.5%、日本▲5.2%など、軒並み大幅に下方修正。新興国においても、中国を▲4.8%ポイント下方修正して+1.2%、インドを▲3.9%ポイント下方修正して+1.9%とし、ブラジルは▲7.5%ポイント、ロシアは▲7.4%ポイントの大幅下方修正。
またIMFは、「COVID-19」のパンデミック(世界的大流行)は、過去の景気後退のきっかけとはかなり異なっている。感染により労働力供給が減少。隔離、地域的な封鎖と社会的距離−これらはウィルスの封じ込めにとって重要であるが−移動を抑制し、特に社会的な交流に依存している旅行、ホテル業、娯楽など影響を与えている」と、しています(図表2参照)。
2. 商品市況が急落
世界景気の見通しの急速な悪化と、OPEC+(石油輸出国機構即ちOPECと非ロシアなどOPEC諸国)は、非OPECの協議決裂の影響を受けていると、IMFではしています。1月半ばから、継続的は需要の弱さにより、ベース・メタルは約▲15%、天然ガスは約38%、原油価格は約65%(1バレル約▲40ドル)となり、19年の平均価格から▲25%以上の下落(図表2参照)。
3. 金融環境の急速な悪化
更に2月の半ばより、COVID-19(コロナ・ウィルス)と景気後退の進行により、金融のセンチメントが悪化。3月初めの原油価格急落が追い打ちをかけて、センチメントがさらに悪化。先進国さらには新興国の金融環境が、昨年10月のIMF報告時から急速に悪化。市場では特に高利回り社債と新興国国債が売られました(図表3参照)。
おはようございます。世界景気に減速感が強まっています。
1. IMFが22年世界の成長率見通しを+4.4%に引き下げ
国際通貨基金(IMF)は4月19日発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、2022年の世界経済成長率見通しを+3.6%と、前回1月の予想から▲0.8%引き下げ(図表1参照)。高インフレが続く米国と新型コロナ・ウィルス感染封じ込めを優先する中国が下振れ。ロシアのウクライナ侵攻により資源高によるインフレを加速させ、インフレ抑制のための各国の利上げが経済を冷却化させると予想。戦争が長引けば負の連鎖が発生して、経済は一段と停滞する可能性があります。
世界経済成長率は、新型コロナ・ウィルスにより20年に▲3.1%のマイナス成長に陥ったものの、21年には+6.1%に回復。22年にはコロナ禍からの回復で需給の引き締まりに、戦争による資源供給懸念が加わります。結果として発生するインフレに各国の中銀が利上げで対応することが大きなリスクとなります。
そのうえで、「総需要を支える財政政策が恒久的になる可能性がインフレ上振れリスクを高める」としています。
2. 米国消費者物価指数上昇率が一服
一方、米労働省が8月10日発表した7月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.5%と、伸び率は約40年ぶりの高い伸び率となった6月の同+9.1%から鈍化。ガソリン価格が約▲20%の下落。市場予想は+8.7%でした。
前月比では横這い。市場予想は+0.2%。6月は同+1.3%。
ガソリン価格の急落により、過去2年に亘り亢進していたインフレ率が一服。只、米連邦準備理事会(FRB)が9月も大幅利上げすべきかどうか検討している中、インフレ圧力が依然として高止まりしていることも示唆。
3. 新興国で利上げの動き
米国におけるインフレ率の高まり、米FRBによる利上げ、世界的なインフレ率の高まりに呼応して、新興国では利上げの動きが強まっています。
ブラジル中央銀行8月3日の金融政策委員会で、政策金利を+0.50%ポイント引き上げて、13.75%にすることを全員一致で決定(図表3参照)。引き上げは市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利上げについて「インフレ見通しに対するリスクは上振れ・下振れ両リスクがある。コモディティ(国際商品)市況が部分的にでも元に戻る、また、予想以上の景気減速により、インフレ率が低下するリスクがある一方、世界的なインフレ圧力上昇の長期化や将来の財政見通しの不確実性(財政肥大化)と追加財政刺激策によるソブリン債のリスクプレミアム上昇(財政肥大化)によるインフレ上振れリスクがある」としました。
そのうえで、「総需要を支える財政政策が恒久的になる可能性がインフレ上振れリスクを高める」としています。
4. 中国で景気の減速感強まる
中国の国家統計局が7月31日発表した7月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.0と、前月の50.2から低下。市場予想の50.4から下振れ。景気判断の節目となる50を再び割り込みました。新型コロナ・ウィルスの新たな感染拡大と、世界経済の見通し悪化が需要を圧迫。
国家統計局の趙慶河氏は声明で、「中国の経済繁栄の水準は低下しており、回復のための基盤を強化する必要がある」としました。ガソリン、原料炭、鉄鋼などエネルギー集約型産業が引き続き低迷して、7月の製造業PMIを押し下げる主な要因となったと分析。
一方、同日に発表された建設業とサービス業を対象とする7月の非製造業PMIは53.8と、前月の54.7から低下。製造業と非製造業を合わせた総合PMIは52.5と、前月の54.1から低下。
中国以外のトルコなどでも、景気の減速感が強まっています。特にトルコでは物価の上昇率が際立っています。トルコ統計局が8月3日発表した7月の消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+79.6%と、6月の同+78.62%から加速。トルコではインフレ率の上昇もあり、景気の減速感が強まっています。
5. 株価は底入れも
米国では、7月のCPI上昇率が+8.5%と、一服となり、長期金利も低下しました。米国の長期金利の上昇により、新興国の株式、為替市場から資金が流出する動きが継続していましたが、米国の長期金利上昇の一服により、新興国における為替市場の売りも一服となる可能性があります。
只、世界的に景気の減速感が強まっており、IMF、あるいは世銀などが今後も世界経済の見通しを下方修正してくる可能性があります。新興国の株価、為替ともに当面、上値が重い展開となる可能性もあります。
おはようございます。ブラジルでは、インフレ率が高止まりしています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行8月3日の金融政策委員会で、政策金利を+0.50%ポイント引き上げて、13.75%にすることを全員一致で決定(図表1参照)。引き上げは市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利上げについて「インフレ見通しに対するリスクは上振れ・下振れ両リスクがある。コモディティ(国際商品)市況が部分的にでも元に戻る、また、予想以上の景気減速により、インフレ率が低下するリスクがある一方、世界的なインフレ圧力上昇の長期化や将来の財政見通しの不確実性(財政肥大化)と追加財政刺激策によるソブリン債のリスクプレミアム上昇(財政肥大化)によるインフレ上振れリスクがある」としました。
そのうえで、「総需要を支える財政政策が恒久的になる可能性がインフレ上振れリスクを高める」としています。
2. インフレ率が減速
一方、ブラジル地理統計院は8月9日に、7月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。7月のIPCAは前年同月比+10.07%と、前月の同+11.89%から減速(図表2参照)。市場予想の+10.1%にほぼ一致。
昨年12月からでは最低の伸び率となり、輸送(7月には+12.99%と、6月の+20.12%から減速)、燃料(7月+7.25%、6月+26.47%)、家庭用品(同+13.32%、+14.307%)、家賃・公共料金(同+4.43%、+8.8%)などが主な要因。
3. 1-3月期GDPは+1.7%に加速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は6月2日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.7%であったと発表(図表3参照)。新型コロナ・ウィルスの変異株オミクロンの影響は限定的で、経済活動の回復でサービス業が堅調。資源価格の上昇により輸出が伸びました。
プラス成長は5四半期連続。21年10-12月期の+1.6%から、伸び率はほぼ横這い。3四半期連続でプラス成長。
前年同期比の項目別では、輸出が+8.1%、家計消費が+2.2。一方、設備投資など固定資本形成は▲7.2%。主力のサービス業は+3.7%、脳牧畜業は旱魃や大雨の影響により▲8%。
4. インフレ率は高止まりか
中銀は上記8月3日金融政策委員会会合後の声明文で、物価動向は「高い水準で推移している」としました。インフレ見通しを「税制改正を前提の、今年は+6.8%、来年は+4.6%、再来年は+3.6%」と、6月時点から短期的にインフレを下方修正する一方中長期的なインフレを上方修正しました。
更に、先行きの政策運営について「次回会合ではより小幅な利上げの必要性を検討する」と、利上げ幅の縮小を示唆。物価を巡るリスクに「追加的な景気刺激策によるリスクプレミアムの上昇を挙げるなど、10月の時期大統領選に向けてボルソナロ政権が、一段の景気刺激策に動くことを警戒。
5. 大統領選でルラ氏のリードが1桁台に縮小
一方、8日に公表された世論調査によると、10月の大統領選で、ルラ元大統領の現職ボルソナロ大統領に対する支持率の差が7%ポイントと、1桁台に縮小。
調査は投資銀行BTGパクチュアルの委託でFSB研究所が実施。それによると、ルラ氏の支持率41%、ボルソナロし34%と、先月の44%対31%から、リードが縮小。
ボルソナロ氏は、社会福祉手当支給の増額や燃料費抑制などの政策を繰り出し、世論調査では政府を「悪い」または「ひどい」と評価した回答者が6月初めの50%から44%に低下。同氏に投票しないとの回答は6月の59から53%に低下。
6. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年12月末には同5.571レアルに下落 (図表4参照)。昨年12月末から今年7月末迄では+7.1%の反発。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、21年5月末には126,216ポイントに回復。
22年に入ってからは小動き。昨年12月末比で、22年7月末には▲1.5%の小幅下落。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。このところ、米国では長期金利が上昇し、FRBによる利上げの動向が注目されます。
2022年にはブラジル国内の景気が停滞すると予想されます。さらに、ウクライナ情勢の悪化、世界的な金融引き締め動きにより、新興国からの資金流出が懸念されます。ブラジル中銀は米FRBに追随して利上げの姿勢を取っているため、通貨レアルが下げ止まってくる可能性もあります。
おはようございます。ペロシ米下院議長の訪台などを契機として、米中の対立が激化する様相を呈しています。
1. 米国2期連続でマイナス成長
まず、米国の景気の状況を見ておきましょう。米商務省が28日発表した米国の4−6月期国内総生産(GDP)は、前期比年率▲0.9%と、前期(1-3月期)の同▲0.1%に続き、2期連続のマイナス成長となりました。世界的な資源価格上昇による物価上昇で個人消費が減速し、急速な利上げにより住宅投資が落ち込みました。
2期連続でマイナス成長が続くと国際的には通常、「リセッション(景気後退)とみられます。只、米国では失業率が歴史的に低く、雇用者の時間給も上昇しており、通常のリセッションとは異なると考えられます。
2. FRBが連続0.75%ポイント利上げ
米国の連邦準備理事会(FOMC)は27日、2会合連続となる+0.75%の利上げを決定(図表1参照)。記者会見したパウエル議長は、物価上昇と抑制して、かつ景気後退も回避する軟着陸(ソフトランディング)への道が「狭くなっている」としました。次回9月の会合では+0.5%ポイント、その後は+0.25%ポイントへと、利上げの幅を緩めていくものと予想されています。
3. 米景気は息切れか
FRBによる急激な利上げ、また世界的な景気後退懸念により、企業の設備投資の息切れ気味となっています。4-6月期の企業の設備投資は▲0.1%と、2年ぶりのマイナス。
金利上昇により、住宅市場は既に減速感を強めています。中古住宅販売は6月迄5か月連続で前月を下回りました。新築戸建て販売も落ち込んでいます。4−6月期の住宅投資は▲14%と、2年ぶりの落ち込みとなりました。
FRBのエコノミストが12付で発表したレポートでは、23年末までに景気後退が起きる可能性が33%、FRBがより急激な引き締めに動くシナリオでは同66%と予想しています。
4. 4-6月期GDP+0.4%
中国の国家統計局は7月15日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+0.4%と発表(図表1参照)。市場予想の+1.0%を下回り、今年1-3月期の+4.8%から急減速。新型コロナ・ウィルス拡大を受けた上海などでのロックダウン(都市封鎖)による行動規制で、工場などの操業率が低下。ウクライナ情勢による資源高もあり、3月の生産や消費が伸び悩みました。
この伸び率は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大を受けて、武漢で行われたおととし1-3月期以来の低さで、四半期ごとの統計が公表されている1992年以来で2番目に低い水準。
外出制限は2か月余り続き、工場の操業停止、物流の混乱も招きました。更に、飲食店の営業が規制されるなど、各地で感染対策が強化されたことで、個人消費が冷え込み、不動産業の市況<も悪化。
5. 今後も低迷の可能性
先月、上海での外出規制が解除され、生産や輸出は回復傾向にあるものの、一部の都市では再び感染が拡大していて、今後の経済動向を懸念する見方もあります。
中国国家統計局の付報道官は会見で、「国内で観戦拡大が多発したことなど、予想を超える突発的な要素が齎した深刻な打撃で、経済に対する下押しの圧量が明らかに増大した」としました。
今後の見通しについて「一部の地区は感染拡大で一時的に困難に直面したが、各種の経済政策の効果で景気回復は加速している」としました。
6. ペロシ下院議長が訪台
一方、米国のペロシ下院議長が3日、訪問先の台北で蔡 英文総統と会談。ペロシ氏は米国の台湾に対する揺るぎない支持を強化する意向を表明。中国は同氏の訪台に強く反発し、台湾周辺での射撃訓練などを行う構え。
蔡 英文総統は会談で、「台湾海峡の安全は世界の焦点だ。台湾が侵略を受ければインド太平洋地域の衝撃となる。台湾は軍事的脅威に屈しない。台湾は民主主義を守り、世界の民主主義国家と協力する」としました。
ペロシ議長は「台湾が多くの挑戦を受けている中で、米台が団結することが非常に重要だ。それを外部に示すため、訪台した」と、台湾重視を強調。
ペロシ氏は、天安門事件、ウィグル問題、香港問題などで従来、対中強硬派の姿勢を取ってきました。大統領の地位承継順位では副大統領に次ぐ地位にあり、嘗て訪問したギングリッチ下院議長(当時)よりも重みがあります。
7. 米中の経済冷戦が継続か
以前ギングリッチ議長が台湾を訪問した際には、同氏が「中国が武力で台湾を侵犯する場合、アメリカは台湾の防衛を助ける」との発言を行い、当時の米国、中国、台湾県警を大きく揺るがしました。
当時、中国は米国盛会のナンバースリーの台湾訪問について、今回のペロシ下院議長の訪台のように、公的な場で大きく反発することはありませんでした。武力による威圧行為もありませんでした。
中国は今回反発を強め、台湾に対しては既に一部の品目の輸入停止を示唆。中国はそのまえにも一部高級魚の輸入を停止するなどしています。台湾は輸出の約4割、輸入の約2割を中国に依存しており、今後中国との対立が景気の下押し要因となる可能性があります。
米バイデン政権は今のところ、前トランプ政権のような対中関税引き上げなどは行っていません。今後、米中関係の悪化により、米国が中国に対するハイテク製品輸出規制に動くなどの可能性もあります。米中対立の激化は、世界全体の景気にとって、長期的に景気の下押し要因となることも考えられます。
おはようございます。フィリピン経済について、減速が懸念されています。
1. 6月CPIが加速
フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は7月5日に、6月の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比+6.1%になったと発表(図表1参照)。伸び率は前月の+5.4%から加速。市場予想の+5.9%から上振れ。
2. 政策金利を引き上げ
一方、フィリピン中央銀行は7月14日の緊急会合で、主要政策金利である翌日物借入金利を2.50%から3.25%に引き上げることを決定(図表2参照、上限を表示)。利上げは3会合連続で、利上げ幅は市場予想を上回りました。
高いインフレ率に加えて、米FRB(連邦準備理事会)による積極的な利上げ継続により、同中銀は通貨の安定を目指して利上げすることとしました。
只、就任したばかりのメダリア総裁は26日、緊急利上げを再び実施する可能性を排除して、次回8月18日の定例会議では、インフレ抑制に向けた利上げの幅が+0.75%ポイント未満になることを示唆。
3. 1-3月GDP+8.3%に回復
一方、フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は5月12日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+8.3%の伸びになったと発表(図表3参照)。10-12月期の改定値+7.7%から加速。新型コロナ・ウィルスの感染者数が減少して行動制限を緩和したことにより、個人消費が持ち直しました。
フィリピンでは、新型コロナ・ウィルス新規感染者数が1月下旬に減少に転じました。行動西岸が緩和されたことにより、原則認められていなかった子供を連れての商業施設訪問などが可能になりました。個人消費が上向き、サービス業は前年同期比+8.6%。製造業や建設業も堅調。
同日記者会見した国家経済開発庁のチュア長官は「経済も(新型コロナの)健康面の課題も克服している。1-3月期はパンデミック(世界的流行)前のGDP水準を超えた」としました。
4. 景気に後退懸念
フィリピンでは、国際商品市況の高騰が食糧品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレを招くとともに、商品高に伴う輸入増加が経常収支の赤字を拡大させています。コロナ禍を経た景気下支え策に加えて、足下では物価対策とする財政出動も重なり、財政赤字も拡大し、「双子の赤字」が悪化。
為替市場では米ドル高により、ペソが下落の動きを加速させており、輸入物価の上昇によりインフレ圧力が高まると予想されます。
マルコス政権発足に伴い就任したメダリア総裁は「供給要因による物価上昇圧力の緩和に向けて適時適切な介入を行う」とし、「中期的なインフレ目標実現に向けて更なる必要な行動を取る用意がある」として、追加利上げの可能性を示唆。
インフレ率上昇、金融引き締めが今後、同国経済に減速の圧力となる可能性があります。また、米国をはじめ、世界的に景気減速が懸念されており、外需の面からも、フィリピン経済に下押し圧力がかかる可能性があります。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、フィリピン・ペソは21年5月末に1ドル=47.67ペソの高値を付けたのち、対ドルで一貫して下落(図表4参照)。ペソの下落の要因としては、経常収支の悪化、資本の流出、ペソの下落についての中銀の容認などがあります。また、米連邦準備理事会(FRB)がテーパリング(資産買い入れの縮小)、利上げの意向を示唆したため、新興国から資金が流出しました。
22年に入ってからは米国の物価の大幅上昇、FRBによる大幅利上げでドルが上昇。21年12月末と22年6月末の比較では、ペソは対ドルで▲7.61%の下落。
株価は、フィリピン総合指数が20年3月31日に5,266ポイントまで下落したのち、その後は上昇に転じました。只、株価も米FRBによる大幅利上げ、世界的な商品市況高騰などにより、22年2月以降、下落基調に転じました。21年12月末と22年6月末との比較では、同指数はで▲13.57%の下落。
FRBは、今後も大幅な利上げを継続すると予想されています。世界的に景気後退懸念が強まっており、フィリピン経済にも景気減速感が強まるものと予想されます。フィリピンの為替、株価ともに、今後下押し圧力がかかる可能性があります。
おはようございます。トルコでは、引き続きインフレ率上昇、リラ下落が進行しています。
1. 6月CPI上昇率加速
トルコ統計局が7月4日に発表した6月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+78.62となり、前月の+73.5%から伸び率が加速。98年9月の+80.4%以来、約24年ぶりの高い水準。市場予想の+78.8%にほぼ一致。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻とそれに伴う西側諸国の対ロ経済制裁により、エネルギー価格が高騰。中銀利下げに伴う通貨トルコ・リラの急落もあり、インフレ率が急加速。
全指数から値動きの激しい食品やエネルギーなどを除くコアCPIは、前年同月比+57.26%と、前月の+56.04%や4月の+52.37%を上回り、8か月連続で伸び率が加速。
2. 政策金利を据え置き
一方、トルコ中央銀行は6月23日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を14.00%に据え置くことに決定(図表2参照)。据え置きは6会合連続で、市場の予想通り。
市場では、中銀の政策に介入姿勢をとるエルドアン大統領の低金利政策方針に変更はなく、今後もリラ下落とインフレ上昇に歯止めがかからず、インフレ率は今後数か月、加速するとみています。インフレ率は今後、+80%に加速すると予想されています。
中銀は会合後に発表した声明文で、現状維持を決めた理由について、「インフレ上昇は、(ウクライナ情勢など)地政学的な動向を反映した、世界的なエネルギーや食糧、農産物の価格上昇による強い供給ショックによって引き起こされている」とし、インフレ加速は国内需要の拡大よりも供給サイドに原因があると判断。利上げによる需要抑制、予冷に伴うインフレ抑制の必要性がないことを改めて示唆。
3. 1-3月期成長率+7.3%
他方、トルコ統計局が5月31日に発表した1-3月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+7.3% (図表3参照)。前期の同+9.1%から減速したものの、市場予想をわずかに上回りました。製造業がけん引。輸出を含む需要が堅調。
7-9月期の+7.5%から加速。市場予想の+9.0%から上振れ。6期連続でプラス成長が続いています。
只、政策金利を14%まで引き下げたことにより、インフレ率が約+70%へと上昇しており、今後は成長が抑制される恐れがあるとエコノミストは見ています。
前期比(季節調整済み)は+1.2%。
4. 外貨準備高が減少
中銀は上記の通り、6月23日の定例の金融政策委員会に置いて、6会合連続で金利を据え置き。通常、中銀はインフレ率が上昇すれば政策金利を引き上げるわけですが、得るドン大統領の強い意向を受けて金利を据え置き。
このため、インフレ率が亢進し、家計および企業のマインドが低下。中銀は景気下支えを重視していると考えられるものの、外貨準備高が一段と低下するなど、同国の体力は一段と低下。
5. 外交では存在感
一方、トルコのエルドアン大統領、ロシアのプーチン大統領、イランのライシ大統領は7月19日、イランの首都テヘランで会談。その前の週には米バイデン大統領がサウジアラビア、イスラエルを訪問して、イラン対する対応策を狭義。トルコ、ロシア、イランは米国をけん制するとともに、シリア問題などを話し合いました。
また、エルドアン大統領はロシアのプーチン大統領と会談して、ロシア軍による封鎖で黒海に面するウクライナの港から小麦が輸出できなくなっている状況について、事態の打開に向け動く姿勢を示唆。会談の冒頭で、プーチン大統領は、「トルコの仲介に感謝したい。我々は前進した。すべての問題が解決したわけではないが、事態が動くことはよいことだ」としました。
この問題については、ロシア、ウクライナまた仲介役のトルコと国連を交えた4者が今後協議する予定。このようにエルドアン大統領は外交で存在感を発揮しており、通貨リラの暴落を抑える役割を果たしているとみることができます。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。21年12月末から22年6月末まででも▲26.30%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。21年12月末と22年6月末との比較では+29.48%と堅調。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率亢進の可能性が高いと予想されます。
トルコ政府は昨年末にリラ相場の安定を図るべく、トルコ国民のリラ建て定期預金のハードカレンシーに対する価値を政府が保証する、事実上の米ドルペッグ制という奇策を発表。1月半ば以降は、奇策も功を奏してリラの急激な下落は一服する場面もありました。只、その後はウクライナ情勢など地政学的リスクの高まり、国際的金融環境の引き締まり、資源価格上昇などが意識され、再びリラが下落する傾向にあります。
おはようございます。世界的に物価が上昇傾向にあります。また、国連の人口統計によると、世界の人口増加のペースが鈍化しつつあります。このような状況を踏まえて、今後の投資戦略を考えてみました。
1. 米6月CPI+9.1%に加速
まず、米国の物価の状況を見ましょう。米労働省が7月13日に発表した6月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+9.1%。市場予想の+8.8%から上振れ。前月の同+8.6%からも加速となるサプライズ。インフレ抑制を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)は、インフレ抑制と景気後退懸念との兼ね合いを図ることとなりそうです。
特にガソリン価格は前年同月比+59.9%と急騰。5月からは+10%ポイント以上の加速。全米自動車協会(AAA)によると、レギュラーガソリンの平均価格は6月14日に1ガロン(約4リットル)当たり5.016ドルと、過去最高を記録。
食費とエネルギーを除く指数は、+5.9%と、3月の+6.5%以来3か月連続で鈍化。只、生鮮食品やガソリンの値上がりが続いており、消費者は物価が落ち着いたとは感じにくい状況が続いています。
2. FRBが大幅利上げ
一方、米連邦準備理事会(FRB)は、6月15-16日の公開市場委員会(FOMC)で、1994年11月以来となる+0.75%ポイントの大幅利上げを実施。事前の市場予想やパウエル議長の6月と7月におけるFOMCでの+0.5%ポイントの利上げ発言を覆しました。利上げ幅はFOMCの全会一致ではなく、苦渋の決断。
更に、FRBは7月26-27日にもFOMCを開催予定。6月のCPI発表を受けて、市場予想は+0.75%の利上げ予想が6割に低下。利上げ幅を+1%とする予想が前日の1割弱から4割へと急上昇。
3. ブラジル中銀も利上げ
利上げの動きは、新興国でも相次いでいます。ブラジル中央銀行は6月15日の金融政策委員会で、政策金利を+0.50%ポイント引き上げて、13.25%にすること決定(図表2参照)。次回の会合では同幅またはそれより小幅の利上げを示唆。当局は、目標を上回るインフレ率や低調な景気への対応を迫られています。
事前市場予想では、多くが+0.5%ポイントの利上げを予想していました。21年3月以降の利上げ幅は、今回で計+11.25%ポイントに達しました。
中銀政策委員会は声明で、「次回会合で同幅あるいはそれより小幅な新たな調整を見込んでいる」とし、「足下のシナリオの不確実性増大や、現行の金融政策サイクルが進んだ段階にあること、その影響がまだ確認されていないことで、自らの行動について更に慎重を期す日露がある」としました。
4. ドル高が加速
通貨の動きを見ると、FRBによる大幅利上げを受けて、ドル高が加速。円、ユーロなど先進国の通貨も概ね対ドルで下落していますが、新興国の一部で通貨が大幅に下落。特に下落率が大きいのがトルコリラ(図表3参照)。トルコでは、エルドアン大統領の指示により、物価が大幅に上昇しているにもかかわらず、金利を低い水準に抑え込んでいます。
5. 世界の人口増加+1%割れ
一方、世界の人口増加が鈍化。統計をさかのぼれる1950年以降で初めて+1%を割り込み、2022年には+0.83%。過去最低となったことを、国連が11日発表の統計で報告。
世界的な少子高齢化や新型コロナ・ウィルスの影響により、世界人口の増加率は初めて+1%を割り込みました。22年には+0.83%となり、+1%割れが明らかになったのは今回が初めて。
6. 物価高、人口増加鈍化にどう対処するか
このように、米国、欧州、主要な申告国では物価上昇が加速し、政策金利も引き上げられる方向にあります。原油など資源価格の上昇は一服した感もありますが、引き続き価格は高止まりする見込み。FRBなど各国の中央銀行も利上げを急いでいます。
他方、長期的には世界全体が人口増加の鈍化、その後停滞の局面に至る可能性が高まりました。世界全体のこれまでの成長を支えてきたのが、新興国を中心とする人口増加。それが止まってくれば、世界の株価の下支えが1つなくなるといえます。
原油などの資源価格高騰を背景として、エネルギー関連銘柄が年初来堅調に推移していましたが、ここにきて、同関連銘柄も下落に転じました。逆にIT関連など売られてきた成長株に一角に対する打診買いも見られますが、グロース株が本格的に上昇する局面とは言えません。
FRBによる利上げにより、ドル高が進展し、新興国からは資金が流出する可能性があります。当面、現金比率を高め、通信、食品、薬品などのいわゆるディフェンシブ銘柄にややシフトする、といった戦略が必要であるかもしれません。
おはようございます。世界的に物価が上昇傾向にあります。また、物価上昇とともに、世界全体で景気が減速する可能性が高まっています。新興国などがスタグフレーション(物価上昇と景気後退の同時発生)が起こる可能性があるのか、考察していきましょう。
1. 米5月CPI+8.6%に加速
まず、米国の物価の状況を見ましょう。米労働省が6月10日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.6%。市場予想の+8.3%から上振れ。前月の同+8.3%からも加速となるサプライズ。インフレ抑制を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)の政策に影響する可能性があります。
CPIの前年同月比上昇率は4月に+8.3%と、8か月ぶりに前月を下回り、市場では「インフレはピークを越えた」との見方も出ていました。5月には40年3か月振りのインフレ率を更新した3月の+8.5%を上回る勢いとなり、インフレが加速。
2. FRBが大幅利上げ
一方、米連邦準備理事会(FRB)は、6月15-16日の公開市場委員会(FOMC)で、1994年11月以来となる+0.75%ポイントの大幅利上げを実施。事前の市場予想やパウエル議長の6月と7月におけるFOMCでの+0.5%ポイントの利上げ発言を覆しました。利上げ幅はFOMCの前回一致ではなく、苦渋の決断。
事前の市場予想では、+0.5%ポイントの予想が優勢でした。また、カンザスシティ連銀のジョージ総裁が+0.5%の利上げを指示して、反対票を投じています。
3. ブラジルのインフレ率が減速
一方、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+11.73%と、前月の同+12.13%から減速(図表2参照)。市場予想の+11.84%から下振れ。只、インフレ率は依然として高水準にあります。
4. ブラジル1-3月期GDPは+1.7%に加速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は6月2日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.7%であったと発表(図表3参照)。新型コロナ・ウィルスの変異株オミクロンの影響は限定的で、経済活動の回復でサービス業が堅調。資源価格の上昇により輸出が伸びました。
プラス成長は5四半期連続。21年10-12月期の+1.6%から、伸び率はほぼ横這い。3四半期連続でプラス成長。
前年同期比の項目別では、輸出が+8.1%、家計消費が+2.2。一方、設備投資など固定資本形成は▲7.2%。主力のサービス業は+3.7%、脳牧畜業は旱魃や大雨の影響により▲8%。
只、原油価格など資源価格が下落に転じていることを考えると、今後、景気が減速する可能性があります。
5. メキシコ1-3月期GDPは+1.6%に加速
次に、メキシコの景気同国を見ておきましょう。メキシコ統計局は4月29日に、1-3月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+1.6%になったと発表(速報値、図表2参照)。10-12月期の+1.1%(確報値)から加速し、市場予想の+1.7%から下振れ。前四半期比では+0.9%。
米国の需要増加を背景に、工業製品や原油の輸出が堅調に推移。21年7−9月期には前四半期▲0.7%、10-12月期には0%と、低調に推移。
1-3月期の分野別では、製造業や工業などの二次産業が+1.1、金融・サービスなどの第三次産業が+1.1%。
米国、またEU(欧州連合)などでインフレ率が高止まりし、先進国でも中銀が利上げ姿勢を強めています。これに対応して新興国でも当面、利上げの動きが続く可能性があります。
只、メキシコ銀行(中央銀行)は6月23日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.75%ポイント引き上げて7.75%にすることを決定(図表3参照)。利上げは9会合連続。またインフレ抑制のために、必要なら追加利上げも行うと表明。
金利引き上げ、世界的な資源価格高騰の一服などにより、メキシコ経済にも不透明感があります。メキシコの最大の輸出相手国の米国の景気は、今後弱含む可能性があります。メキシコにおいても、スタグフレーションの可能性があります。
6. 原油価格下落も
一方、米シティ・リサーチは原油価格見通しについて、景気後退(リセッション)シナリオでは、年末までに1バレル=65ドル、来年末までに45ドルに下落する可能性があるとしました。
この見通しは、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟国で作る「OPECプラス」による対応がないことや、原油投資が減少することなどが前提。
世界的な原油需要の低迷が続けば在庫が増加し、価格は弱含みに名風呂予想。北海ブレント価格は第3四半期に99ドル、第4四半期に85ドル、2022年全体では98ドル、23年は75ドルと予想。
7. 世界の株価も弱含みか
米国でのインフレ率の高止まり、原油価格の下落などにより、米国など世界の株価が大幅下落。米国ではIT、消費関連などが先導してS&P500株価指数、NASDAQ指数などが大幅下落。最近の原油など資源価格下落を受けて、石油関連の銘柄も下落に転じました。
中国においては、不動産価格の低迷により、不動産関連銘柄などに売りがでています。インドその他の主要新興国においても、景気後退懸念などから株価は全般的に弱含み。今後も世界的に株価の調整局面が継続する可能性があります。当面の投資戦略としては、現金化比率を高め、様子見に徹することも必要であると考えられます。
おはようございます。新興国の中央銀行で、利上げが相次いでいます。
1. 5月CPI+8.6%に加速
まず、米国の消費者物価指数の動きを見ましょう。米労働省が10日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.6%。市場予想の+8.3%から上振れ。前月の同+8.3%からも加速となるサプライズ。インフレ抑制を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)の政策に影響する可能性があります。
CPIの前年同月比上昇率は4月に+8.3%と、8か月ぶりに前月を下回り、市場では「インフレはピークを越えた」との見方も出ていました。5月には40年3か月振りのインフレ率を更新した3月の+8.5%を上回る勢いとなり、インフレが加速。
ロシアのウクライナ侵攻に伴う資源価格や食料品価格の高騰が主な原因。足下で最高値を更新しているガソリン価格は+48.7%と高騰し、食料品も+10.1%。半導体不足に伴う自動車メーカーの減産で、新車は+12.6%、中古車も+10.1%。旅行シーズンを前にして、航空運賃なども大幅上昇。
5月18日、国際連合の閣僚級会合で、世界の食糧安全保障の話し合いがありました。アントニオ・グテレス国連事務総長は「(数か月以内に)何千万人もが、栄養失調や飢餓に陥る恐れがある」と、世界的な食糧危機に危機感を表明。
更に、翌19日の安全保障理事会でも、食糧危機が話題となり、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は「ロシア軍は世界とウクライナの何百万もの人々への食糧供給を人質にした」としました。
2. FRBの利上げ加速か
パウエル議長は5月4日、FOMC後の記者会見で、今後2回程度の会合で、+0.50%ポイントずつの利上げを検討すべきであるというのがFOMCのおおかたの見解であり、+0.75%の利上げは積極的な議論をしていない、としました。
FOMCは3月の+0.25%、5月に+0.50%の利上げを実施済み。同議長の発言通りであれば、6、7月にそれぞれ+0.50%の利上げとなりますが、今回の5月CPI発表を受けて、市場では+0.75%の利上げもありうるとの観測が出ています。
米国の5月CPI上昇率が加速したことにより、FRBが今後も+0.75%の大幅利上げを継続する可能性があります。先進国、新興国ともに中銀は対応を迫られることとなりそうです。
3. ブラジル中銀政策金利を引き上げ
一方、ブラジル中央銀行は6月15日の金融政策委員会で、政策金利を+0.50%ポイント引き上げて、13.25%にすること決定(図表2参照)。次回の会合では同幅またはそれより小幅の利上げを示唆。当局は、目標を上回るインフレ率や低調な景気への対応を迫られています。
事前市場予想では、多くが+0.5%ポイントの利上げを予想していました。21年3月以降の利上げ幅は、今回で計+11.25%ポイントに達しました。
中銀政策委員会は声明で、「次回会合で同幅あるいはそれより小幅な新たな調整を見込んでいる」とし、「足下のシナリオの不確実性増大や、現行の金融政策サイクルが進んだ段階にあること、その影響がまだ確認されていないことで、自らの行動について更に慎重を期す日露がある」としました。
4. メキシコ中銀政策金利を引き上げ
メキシコ銀行(中央銀行)は6月23日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.75%ポイント引き上げて7.75%にすることを決定(図表3参照)。利上げは9会合連続。またインフレ抑制のために、必要なら追加利上げも行うと表明。
今回の利上げは、メキシコ中銀が現体制となった2008年以来で最大。5人の政策委員が全員一致で賛成。
6月中旬まで1年間のインフレ率は+7.88%に達し、中央銀行の目標である+3%プラスマイナス1%を大きく上回っています。
中銀は声明で「次の政策決定で、政策委員会は政策金利の引き上げを継続する意向で、必要なら同様の強硬策を取ることを検討する」としました。
5. そのほかにも政策金利を引き上げの動き
一方、チリ中央銀行は、6月7日に、政策金利を+0.75%ポイント引き上げて9.00%にすることを決定)。利上げ幅は前回会合から▲0.50%ポイント縮小。8会合連続の利上げ。
只、利上げを見送ったり、逆に引き下げたりする動きもあります。
ロシア中央銀行は6月10日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも▲1.5ポイント引き下げて9.50%にすることを決定。市場予想は▲1.00%ポイント利下げであったため、サプライズ。
一方、トルコ中央銀行は6月23日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を14.00%に据え置くことに決定。据え置きは6会合連続で、市場の予想通り。
6. 各国でインフレ率が高止まり
このように、利上げする中銀が増えている背景として、新興国のインフレ率が高止まりしていることがあります。
例えば、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+11.73%と、前月の同+12.13%から減速。市場予想の+11.84%から下振れ。
米国、またEU(欧州連合)などでインフレ率が高止まりし、先進国でも中銀が利上げ姿勢を強めています。これに対応して新興国でも当面、利上げの動きが続く可能性があります。
7. ウクライナ情勢は一進一退か
ロシアがウクライナに2月24日に侵攻して、すでに4か月余りが経過しました。当初ロシアは短期間でウクライナの首都キーウを制圧できると考えていた節がありますが、今後戦闘が長期化する可能性があります。
ウクライナ侵攻に端を発する原油、資源価格などの高騰、小麦など食糧品価格の高騰が今後も継続する恐れがあります。ウクライナからの小麦輸出の大幅減少により、中東、アフリカなどでは食糧品価格が大幅に上昇しています。
他方、米欧を中心として、新型・コロナウィルスに対する行動規制を緩和する動きが強まっています。中国では新型・コロナウィルスに対して厳格な行動規制を行ってきましたが、今後は緩和する見込み。世界的な行動規制の緩和により、人々の旅行などが活発となり、物価を押し上げる要因となりそうです。
8. 当面の投資戦略
各国の中銀の利上げ継続、物価上昇、長期金利上昇により、米国を中心として株価の調整が続いています。IT関連など一部成長株には打診買いの動きもみられるものの、本格的な株価底入れはまだ先になる可能性もあります。
これまで買われてきたエネルギー関連株も下落に転じており、バリュー株(割安株)も含めて、当面、下値を探る展開となる可能性があります。現金比率を高めに保ちつつ、あくまで打診買いを検討する、といった姿勢が好ましいと考えられます。
おはようございます。世界的に、「食料危機」の懸念が高まっています。
1. FAO食料価格指数が高止まり
FAO(国際連合食料農業機関)が発表している食料価格指数は、2022年に入り急騰。同指数は5月には157.4と、4月から▲0.9ポイント低下して、2か月連続の下落。只、前年同月比では+29.2ポイント。5月の下落は、野菜油や酪農品指数の下落によるもの。砂糖指数も下落。一方、穀物と食肉指数は上昇。
5月18日、国際連合の閣僚級会合で、世界の食糧安全保障の話し合いがありました。アントニオ・グテレス国連事務総長は「(数か月以内に)何千万人もが、栄養失調や飢餓に陥る恐れがある」と、世界的な食糧危機に危機感を表明。
更に、翌19日の安全保障理事会でも、食糧危機が話題となり、米国のアントニー・ブリンケン国務長官は「ロシア軍は世界とウクライナの何百万もの人々への食糧供給を人質にした」としました。
2. ロシアがウクライナ侵攻
米農務省によると、世界の小麦輸出市場の比率で、ロシアが17%、ウクライナが12%を占めています。今年2月24日、ロシアがウクライナへの侵攻を開始。ウクライナは従来、主に黒海を通じて小麦を輸出してきました。ロシアによるウクライナの海上輸送封鎖により、ウクライナの小麦輸出が困難になりました。
また、ウクライナのトウモロコシ輸出は16%程度で4位。ひまわり種子の輸出は年間7−19万トン、ひまわり油の輸出は530−680万トン。両方を種子換算すると1300-1700万トンに相当。ウクライナのひまわり油の不足により、インドネシア産のパーム油価格などが上昇しています。
3. インドなどが輸出規制の動き
ウクライナからの小麦の輸出減少を受けて、各国で小麦などの輸出を禁止、制限する動きが顕在化。インド商工省外国貿易部は5月14日、小麦価格の上昇抑制のために、小麦の輸出を即時禁止する通達を発表。
同省は今回、各国政府には食料安全保障のために、輸出を禁止する国際法上の権限があることを強調。さらに、小麦価格の高騰は、インドだけでなく、近隣諸国や脆弱な国々の食糧安全保障も危険にさらすと説明。同国の小麦輸出は、インドネシア、タイ、フィリピン向けも多くなっています。
一方、エジプト貿易産業省は3月11日、小麦、小麦粉、パスタなどの食品の輸出を3か月間禁止、翌12日にはトウモロコシなどの輸出禁止も発表。ウクライナ情勢の悪化を受けて、国内の食糧確保に動いています。
4. 肥料価格が上昇
ロシアとその隣国、またロシアの同盟国であるベラルーシは、カリ鉱石の主要生産国。両国はカリ鉱石を利用して作る化学肥料の1種の「カリ肥料」の主要輸出国。
各国の貿易統計を集約したOCE(The Observatory of Economic Complexity)のデータによると、世界全体に占める2つの化学肥料(カリ肥料と窒素肥料)の輸出額シェアは、2か国合わせて19.4%。ロシアはカナダに次ぐ世界2位、ベラルーシは中国に次ぐ4位(図表2参照)。
世界銀行の肥料価格指数は22年第1四半期には、前年同期比で約+10%と、過去最高を記録。主要輸出国であるロシアと中国の供給停滞が影響。世界的な食糧増産を背景として、中国は昨年秋から、自国内での流通を優先して、輸出制限を行いました。
そのため、化学肥料を輸入に頼る日本などでは、肥料価格が上昇。日本の海外依存度は、窒素が96%、燐酸がほぼ100%、カリウムもほぼ100%。ロシアによるウクライナ侵攻もあり、化学肥料の供給不足、価格上昇が、食糧の価格上昇に繋がる恐れがあります。
5. 中東、アフリカなどで食糧危機
特に小麦は、輸出量でロシアが1位、ウクライナが5位で、両国で世界の3割を占めています。その両国に、小麦輸入で大きく依存しているのが中東地域。
主食のパンの原料として小麦は必需品。両国からの輸入の割合はトルコが8割以上、エジプトで7割以上などとなっています。
ロシアによるウクライナ侵攻により、3月上場純には小麦の先物価格が、約14年ぶりの最高値を更新。さらに輸入が滞ることで、各国で供給府不安が擡頭。
例えば、レバノンの経済・貿易省によると、小麦の在庫はあと1か月足らずしかないといわれています。レバノンでは小麦の約70%をウクライナに依存。ロシアの侵攻後、輸入が停止しており、深刻な小麦不足に陥っています。
エジプトは3月に、自国の小麦輸出を禁止。パスタ、豆類の輸出も禁止しました。同国の中央動員統計局によると、2020年の小麦輸入額は32億ドル(1289万トン)で、そのうちロシアからが19億ドル(780万トン)、ウクライナからが7億5366憶万ドル(318万トン)で、小麦輸入の約9割を両国に依存しています。
このほか、アフリカ諸国の多くもロシア、ウクライナからの小麦の輸入に依存。特に南スーダンの難民キャンプでは、深刻な食糧不足が報告されています。
6. インフレ率上昇
食糧価格上昇は、世界的なインフレ率上昇の一因となっています。例えば、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+11.73%と、前月の同+12.13%から減速(図表3参照)。市場予想の+11.84%から下振れ。
一方、米労働省が10日に発表した5月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.6%。市場予想の+8.3%から上振れ。前月の同+8.3%からも加速となるサプライズ。インフレ抑制を急ぐ米連邦準備理事会(FRB)の政策に影響する可能性があります。
このように、新興国、先進国ともにインフレ率が加速、或いは高止まりする状況にあります。資源価格上昇なども大きな要因ですが、食料品価格上昇がインフレ加速の一因となっています。
7. 恩恵を受ける銘柄も
ウクライナ危機が長期化する可能性もあり、そうなると「食料危機」も長期化する可能性があります。その場合、それにより恩恵を受ける銘柄、或いは業種も考えられます。世界的には、穀物メジャー株などが恩恵を受けると予想されます。
日本国内では、サカタのタネ(1377)、丸紅(8002)など商社株が恩恵を受ける可能性があります。
只、長期的にインフレ率の高止まり、長期金利の上昇という展開になれば、企業の業績も下方修正されるおそれがあります。その場合、米国を中心として、スタグフレーションの懸念もそうていしておく必要があるでしょう。
おはようございます。インドネシアでは新型コロナ・ウィルスの感染状況が改善し、景気回復への期待感がやや強まっています。
1. 5月CPI上昇率は加速
インドネシア中央統計局は6月2日に、5月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+3.55%になったと発表(図表1参照)。市場予想の+3.6%から下振れし、前月の+3.47%から加速。
2. 政策金利を据え置き
一方、インドネシア中央銀行は4月19日の理事会で、政策金利であるBIレートを3.50%で維持すると発表。据え置きは市場の予想通り。過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利も2.75%に、翌日物貸出ファシリティー金利は4.25%にそれぞれ据え置き。現状維持は、今回で14会合連続。
中銀は、今年の経済成長率を+4.5-5.3%と予想。従来は+4.7-5.5%としていました。世界の経済成長率いとおしについては、ウクライナでの戦争がサプライチェーンを混乱させてことにより、+4.4%から+3.5%に下方修正。
3. 1-3期GDP予想を上回る
インドネシア中央統計局(BPS)は5月9日に、1-3月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+5.01%であると発表(図表3参照)。昨年第4四半期の同+5.02%から伸び率ほぼ横這い。
GDPの約6割を占める家計消費は、前年同期比+4.34%、同様に約3割を占める投資は+4.09%。輸出は+16.22%。2月下旬のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、世界的に資源の需給が逼迫しており、石炭やパーム油など、主要輸出品目が伸びました。
4. 景気は堅調に推移か
年明け以降には、オミクロン株により感染動向が急激に悪化。只、ワクチン接種の進展により、政府は経済活動の正常化を重視。これにより上記の通り、1-3月期GDPは前年同期比+5.01%、前期比年率でも2四半期連続でプラスとなるなど、堅調に推移。
石炭禁輸などが外需の足枷となるものの、低インフレや金融緩和を追い風とする家計消費は企業の設備投資が堅調となり、景気を下支え。足下では、行動制限の緩和により、人の移動も活発化。内需を取り巻く環境は改善しつつあります。
他方、内需の堅調さにより、対外収支の悪化のリスクもあります。そうなると、金融市場の変化も相俟って、資金流出の懸念があり、早期の政策変更が必要となります。ほかの新興国と比較しても、厳しい政策運営を強いられる可能性があります。
6. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表4参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻す展開。21年末から22年5月末では、▲2.19%と若干下落。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻す展開。21年末と22年5月末との比較では、+8.6%の小幅上昇。
6. リスク要因
ロシアによるウクライナ侵攻などにより、資源価格が幅広く上昇。同国においても、インフレ圧力が高まっており、家計消費を中心とする堅調な内需が、インフレ圧力を強める懸念があります。
そうなると、堅調な内需が輸入を押し上げるなど、対外収支を悪化させる可能性があります。経常収支、財政収支の悪化により、資金流出に見舞われることも考えられます。それに伴い通貨ルピアに対する下落圧力が強まり、輸入物価の上昇、インフレ率の上昇に繋がる恐れもあります。
おはようございます。インド経済は回復が続いているものの、景気に減速感が出ています。
1. 消費者物価指数上昇率が加速
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が5月12日発表した4月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.79%(図表1参照)。前月の+6.95%から加速。市場予想の+7.5%から上振れ。
2. 1-3月期成長率+3.1%に減速
続いて、インド統計局が5月29日に発表した1-3月期成長率は、前年同期比+3.1%(図表2参照)。前期の+5.4から減速。市場予想の+2.1%から上振れ。伸び率は8年ぶりの低水準。新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)に伴い消費需要や投資が低迷。
製造セクターの1-3月期GDPは前年比▲1.4%。前期は▲0.8%。農業部門は+5.9%と、前期の+3.6%から加速。
統計・計画実施省はこの日、今年度(3月31日迄)のGDP成長率を従来+5%ら+4.2%に引下げ。少なくとも8年ぶりの低い伸びとなる見込み。
一方、エコノミストらは、今年度は40年間で最大の落ち込みとなると予想。インド経済は最大で▲5%減少する可能性があるとしています。
3. 政策金利を引き上げ
他方、インド準備銀行(中央銀行)は6月8日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを+0.5%ポイント引き上げて4.90%にすることを決定(図表3参照)。5月に続いて2会合連続で利上げ。エネルギー価格高騰を受けて中銀は、インフレ抑制のために金融引き締めをせざるを得ない状況に追い込まれています。
中銀はCPI上昇率の中期目標を+2〜6%と定めているものの、1月以降は+6%を超える水準が続いています。景気回復で需要が増加することに加えて、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い国際商品市況が高騰。石油製品のほか、熱波によるトマトの値上がりなどが響いています。
4. 景気に下振れリスク
中銀は、景気見通しについては「今年度の経済成長率は+7.2%になる」として4月会合時点の見通しを維持。その理由として「農業生産の堅調さを背景とする地方部での消費意欲の改善、都市部でも消費の回復が進む」ことを挙げました。
足下の企業マインドは、サービス業を中心として改善が続いており、家計消費などの内需の堅調さを反映。短期的には景気回復が続いているとみられます。只、今後はインフレと金利上昇の共存が企業と消費者のマインドに影響するとみられます。先行きの景気については、下振れシルクが高まっています。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)。2022年12月末と2022年5月末との比較では、▲4.2%の下落 。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、20年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。21年10月には59306ポイント迄上昇。21年12月末と22年5月末との比較では、▲4.61%の小幅下落。
6. 課題とリスク
上記の通り、新型コロナ・ウィル
スの変異種であるオミクロン株の感染拡大の懸念は収まりつつあるものの、ロシアとウクライナとの紛争も、インド経済に影を落としています。
ロシア産の原油、天然ガスの供給が減少に転じていることから、世界的に原油、天然ガスなど資源価格が高騰。インドは基本的に原油など資源を輸入に頼っており、輸入物価への影響が懸念されます。
また、米欧などによるロシアへの制裁強化により、電気自動車(EV)生産に必要な、パラジウムなど稀少金属の供給への影響、それらの要因が世界経済の下押し要因となる懸念があります。
インドは主要な新興国の中ではこれまで相対的に景気回復が堅調であるものの、今後はインド国内の景気の下振れリスクが高まる可能性があります。
おはようございます。メキシコ経済に先行き不透明感が高まり、スタグフレーションも懸念されています。
1. CPI上昇率は加速
メキシコ国立地理情報研究所は5月9日に、メキシコの3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+7.68%になったと発表(図表1参照)。前月の同+7.45%から伸び率は加速。市場予想の+7.72%から下振れ。
2. 1-3月期GDPは+1.6%に加速
メキシコ統計局は4月29日に、1-3月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+1.6%になったと発表(速報値、図表2参照)。10-12月期の+1.1%(確報値)から加速し、市場予想の+1.7%から下振れ。前四半期比では+0.9%。
米国の需要増加を背景に、工業製品や原油の輸出が堅調に推移。21年7−9月期には前四半期▲0.7%、10-12月期には0%と、低調に推移。
1-3月期の分野別では、製造業や工業などの二次産業が+1.1、金融・サービスなどの第三次産業が+1.1%。
3. 政策金利を引き上げ
メキシコ銀行(中央銀行)は5月12日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.5%ポイント引き上げて7.00%にすることを決定(図表3参照)。利上げは8会合連続。同国ではインフレ率が約21年ぶりの高水準。世界的に金融引き締めの動きが広がる中、前回と同じペースでの利上げを決定。
中銀は12日の声明で、「国際的な金融引き締めと不確実性の高まりにより、地政学的紛争、中国での新型コロナ・ウィルスの感染再拡大などによるインフレ圧力を考慮した」と指摘。インフレ率が目標上限である+4%を下回る時期は、2023年4-6月期以降になるとの見方を維持。
4. FRBが大幅利上げ
一方米連邦準備理事会(FRB)は3-4日のFOMC(米連邦準備理事会)で、政策金利であるFFレートの金利誘導目標を+0.5%ポイント大幅引き上げ。今後も継続的な利上げ実施を示唆しており、タカ派的傾斜を強めています。
を現状のゼロ金利に据え置くことを全員一致で決定。さらにテーパリング(量的緩和縮小)については、削減ペースを150億ドルから300億ドルに上げ、1月中旬以降も同額の減額を継続することを決定。
過去の米FRBの利上げ局面においては、メキシコは米国と時差が小さいこともあり、米国への資金流出が加速する傾向があり、中銀は資金流出を食い止める観点から、利上げに追い込まれる動きがありました。
5. 中国の景気失速も懸念
一方、中国の国家統計局が5月31日発表した5月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.6と、前月の47.4から上昇。市場予想の49.0から上振れ。
さらに、同日に発表された4月の非製造業PMIは47.8と、前月の41.9から大幅上昇。市場予想の45.5を上回りました。只、製造業と同様、3か月連続で50を割り組みました。
中国では、上海において新型コロナ・ウィルスに伴うロックダウン(都市封鎖)が解除されるなど、景気が上向く要素もあります。只、企業の景気マインドなどは依然低迷しており、メキシコ経済も影響を受ける可能性があります。
外需環境の不透明感の高まりと、国内の景気失速懸念、インフレの亢進により、メキシコにはスタグフレーション(景気低迷とインフレ)の懸念があります。
6. 為替と株価
ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、20年11月以降、対ドルで上昇傾向(図表1参照)。ロシアによるウクライナ侵攻などにより、原油など資源価格が上昇し、ペソにとっては追い風となっています。まら、米FRBの利上げの動きが強まっているものの、メキシコ中銀が追随して利上げの姿勢を示していることも、ペソの下支えとなっています。
同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、20年3月には新型コロナ・ウィルス感染拡大により大幅下落。その後は米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和、原油等商品市場の高騰もあり、株価は大幅反発。21年末までは株価は順調に上昇しました。
その後は米FRBによる利上げ開始、米国およびメキシコ国内でのインフレ懸念の高まりなどで、株価は軟調な動きとなりました。
メキシコ国内では、インフレ懸念の高まり、景気の先行き不透明感の高まりがあり、スタグフレーションの懸念もあります。中銀は今後も米FRBに追随して利上げを継続する可能性が高く、株価の上値が重くなることも想定されます。
おはようございます。ロシアの侵攻によるウクライナ紛争が、長期化する恐れがあります。
1. ウクライナ侵攻長期化か
ロシアは今年2月24日、ウクライナへの侵攻を開始。当初、ロシアのプーチン大統領は、数日でウクライナの首都キーウ(キエフ)が陥落させられると踏んでいた節がありますが、実際にはウクライナ側の頑強な抵抗にあった首都付近から撤退。現在は東部のドンバス地方制圧を目指しているとみられます。
プーチン大統領は、これまでも首相の時代に第二次チェチェン紛争で長期に関与してきたことがあります。また、シリアの内戦にも長期にわたって関与。現在、ウクライナにおける紛争が膠着している状態にあることなどから、ウクライナへの侵攻も長期化する恐れがあります。
2. 食品価格が高騰
紛争が長期化すれば、まず食料不足が問題となります。特に、小麦については、ロシアとウクライナを合わせて世界の輸出量の3割を占めています。米農務省(USDA)の発表によると、2021〜22年度の小麦の世界輸出が2月の予想時点からウクライナの侵攻によって360万トンげんしょうするとの予想を発表しています。
USDAの見込みでは、ロシアは世界の小麦輸出の17.1%を占めており、輸出量で世界2位、ウクライナも同11.8%を占めています。もともと穀物価格はパンデミック(世界的大流行)の影響で上昇していましたが、ロシアによるウクライナ侵攻を契機として、シカゴ商品取引所(CBOT)の小麦価格は1週間で+12%上昇(図表1参照)。
ウクライナとロシアの小麦に依存している人口は約8億人。中国、エジプト、インドネシア、トルコなどの国は両国の穀物輸入に依存しており、ウクライナが2022年の種まきシーズを逃すと、深刻な食料不足となる可能性があります。既に、エジプトなど一部の中東諸国では小麦、パンなどの価格が高騰。
さらに、世界有数の小麦輸出国であるインドは、輸出の一時停止を決定。インド政府は14日、小麦輸出停止について「国内の食料価格を抑制し、インドの食料安全保障を強める措置にあたる」としました。
米農務省の2021〜22年度の推計によると、インドの小麦生産量は1億959的。中国の1億3695万トンに次ぐ水準であり、世界の14%を占めています。輸出量も815万トンと、世界の油種送料の4%を占め、ロシア(17%)、ウクライナ(10%)などに続き輸出大国。
これまでインドの小麦はインド国内やスリランカなど近隣諸国向けの需要が大半を占めていました。ロシアのウクライナ侵攻による供給不安を踏まえて、3月以降にアフリカ諸国やトルコなどへの輸出拡大も検討していました。
3. 原油、天然ガス価格が高騰
更に、原油、天然ガスの供給にも懸念があります。プーチン大統領は、「日友好国」に指定した国への天然ガス輸出については、ロシア通貨であるルーブルでの支払いを要求し、応じなければ供給を停止するとの脅しをかけました。
一方、米国のバイデン大統領は3月8日、ロシア産の原油、天然ガス、石炭の輸入禁止など、追加の制裁措置を発表。
バイデン氏は演説で、「我々は、ロシア産の原油、天然ガス、エネルギーの輸入を全面的に禁止する」とし、「ロシア経済の大動脈を標的にする」と、制裁の意義を説明。
英国政府もこれに合わせてロシア産の原油輸入停止を発表。ただ、バイデン氏は「多くの欧州同盟国は同調しないだろう」とし、ロシアへのエネルギー依存度が高いドイツなどは、足並みがそろわないとの見通しを示唆。
他方、ドイツは5月23日、欧州連合(EU)がロシア産原油の禁輸を巡り「数日中」に合祀する可能性が高いとの見方を示唆。一方、ウクライナ侵攻を巡る欧米の制裁で孤立化するロシアは、中国との経済関係が今後拡大するとの見通しを示唆。
原油価格の代表的な指標の1つであるWTI先物は、3月8日には終値で1バレル=123.70ドルの高値を付けました。5月25日終値は同110.55ドル。
4. インフレ率が上昇
米労働省が11日に発表した4月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.3%。市場予想の+8.1%から上振れ。前月の同+8.3%から減速米国では数か月に亘り約40年ぶりの高いインフレが継続。只、市場ではインフレはピークアウトしたとの見方もあります。
米連邦準備理事会(FRB)が今月開催した会合で、異例の+0.5%ポイントの利上げと保有資産を圧縮する「量的引き締め」を同時に行うことを決定。インフレの抑え込みを急いでいます。只、ウクライナ情勢などもあり、FRBが目指す+2%の物価目標に抑えるには、数年かかるとの見方が市場で強まっています。
5. 株価調整が長期化も
国際的な資源価格上昇、また米国内の郎等需要の逼迫などにより、米長期金利が上昇。米連邦準備理事会(FRB)による金利引き上げもあり、米国の株価が下落。米国の株価の代表的指数であるS&P500指数は、特に今年3月以降に大幅下落(図表4参照)。
米国以外でも、日本、EU、英国など各国の株価が軒並み調整。新興国では、中国において新型コロナ・ウィルスの感染対策で、上海など一部都市をロックダウン(都市封鎖)。上海総合指数が大きく下落することになりました。
世界的なインフレ率上昇、資源価格上昇、米長期金利上昇などを考慮すると、世界的に株価調整が長引くことも考えられます。ウクライナにおける紛争が早期に解決するのは難しいとの見方が強まっています。米国においてはこのところITなどハイテク株の下落が特に顕著になっています。グロース株(成長株)からバリュー株(割安株)へのシフトも、今後継続していく可能性があります。
おはようございます。おはようございます。ブラジルの景気については、依然として厳しい局面が続いています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行は5月4日の金融政策委員会で、政策金利を+1.00%ポイント引き上げて、12.75%にすること全員一致で決定(図表1参照)。利上げは市場の予想通りで、10会合連続。
中銀は会合後の発表した声明文で、追加利上げについて、前回会合時と同様に、「インフレ見通しに対するリスクは上振れ、下振れ両方のリスクがある。コモディティ(国際相場商品)が元に戻り、インフレ率が低下する可能性がある一方で、財政政策(財政肥大化)による金融市場への悪影響やソブリン債のリスクプレミアムの上昇リスクがある」とし、「(インフレ見通しに対する)リスクのバランスは上向き)として、インフレ率が経済予測をオーバーシュートする懸念を表明。
2. インフレ率が加速
一方、ブラジル地理統計院は4月8日に、3月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。3月のIPCAは前年同月比+11.30%と、前月の同+10.54%から加速(図表2参照)。市場予想の+10.98%から上振れ。
3. 10-12月期GDPは+1.6%に減速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は3月4日に、10-12月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.6%であったと発表(図表3参照)。市場予想の+1.1%から上振れ。前期の4.0%から減速。
前期比では▲0.1%と、7-9月期の▲0.4%に続いて、2四半期連続のマイナス成長となり、定義上の景気後退となりました。旱魃による農産物の不振が響きました。22年10月に再選を目指すボルソナロ大統領にとっては逆風となる模様。
4期連続で前年同月比上昇となり、サービス業の+3.3%が牽引。一方、製造業が▲1.3%、農業が▲0.8%と低下。固定資産投資が+3.4%、個人消費が+2.1%、政府支出が+2.8%。
4. 資金流出の可能性
国際金融市場においては、世界経済の回復に加えて、ウクライナ情勢の悪化も加わり、国際商品市況が高騰。これを受けて米連邦準備理事会(FRB)など主要国中銀は引き締めに動いており、経済のファンダメンタルズの脆弱な新興国を取り巻く環境は厳しさを増しています。
ブラジルは経常収支と財政の慢性的な「双子の赤字」を抱えており、インフレ率も上昇。商品市況高騰にもかかわらず交易条件が悪化するなど、景気に逆風が吹いています。通貨レアルの下落もあり、インフレがさらに亢進することが懸念されます。
上記の通り中銀は5月4日の定例会合で10会合連続の利上げを決定した。先行きの運営を巡っては、利上げ幅の縮小を示唆するなど、景気に配慮する姿勢を示しています。米FRBが引き続き利上げの姿勢を示唆しており、通貨レアルの重石となる可能性があります。中銀は今後、難しい運営を迫られることとなりそうです。
6. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年12月末には同5.571レアルに下落 (図表4参照)。昨年12月末から今年4月末迄では+10.7%の反発。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、21年5月末には126,216ポイントに回復。
22年に入ってからは小動き。昨年12月末比で、22年4月末には+2.9%の小幅上昇。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。このところ、米国では長期金利が上昇し、FRBによる利上げの動向が注目されます。
2022年にはブラジル国内の景気が停滞すると予想されます。さらに、ウクライナ情勢の悪化、世界的な金融引き締め動きにより、新興国からの資金流出が懸念されます。ブラジル中銀と米FRBの方向性の違いにより、通貨レアルが下落する懸念もあります。
おはようございます。おはようございます。南アフリカ経済にとって、資源高が追い風となっています。
1. 3月CPI上昇率が加速
まず、南アの経済指標を見ましょう。南アフリカ統計局は4月20日に、3月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+5.9%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+5.7%から上昇率が加速し、市場予想の+6.0%からは下振れ。
2. 政策金利を引き上げ
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は3月24日に、主要政策金利であるレポレートを+0.25%ポイント引き上げて4.25%にすることを決定。利上げは3年ぶり。インフレ圧力が強まっていると判断し、利上げで対応。
同国は新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行で打撃を受けた経済を支援するため2020年に導入した禁輸緩和の巻き戻しを継続。MPCメンバーのうち、3人が決定を支持。残りの2人は+0.5%ポイントの利上げを主張。
3. 10-12月期成長率は+1.2%
一方、南アフリカ政府統計局は3月8日に、10-12月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで+1.2%になったと発表(図表3)。また、以前に発表した7-9月期GDP成長率を▲0.2%ポイント下方修正して▲1.7%としました。
7−9月の改定値+1.7%からは減速し、市場予想の+1.3%からも下振れ。
通年では、2020年の▲6.4%に対して、2021年は+4.9%。総固定資本形成については、21年の通年の▲14.9から2020年には+2.0に回復し、過去5年間で初めてプラス成長に転じました。総固定資本形成がプラスに転じたことについて、アレクサンダー・フォーブスのエコノミストは、依然として低い数値としながらも、今後、南ア国内に投資が戻ってくる可能性があるとしています。
4. 変異種「オミクロン」の克服進む
南アではワクチン接種がほかの国と比較して遅れており、昨年末にオミクロン株を確認。感染が急拡大しました。足下でもワクチン接種は遅れているものの、新規陽性者数は昨年12月半ば以降頭打ちとなり、感染動向が改善。
更に、感染拡大に関して、政府は実体経済への影響を避けて強力
な行動制限に及び腰の対応を見せています。人の移動が底入れしており、足下では、オミクロン株への克服が進展。
5. 資源高が追い風
ロシアによるウクライナへの侵攻、それに伴う地政学リスクの高まり、インフレにたいおうした米連邦準備委員会(FRB)による利上げなど、新興国全体にとっては、厳しい局面が続いています。
他方、南アは金、プラチナ、銅、鉛、亜鉛、ニッケルなど、豊富な資源を有しています。ウクライナ情勢悪化による米欧諸国などによるロシアへの経済制裁を原因とする、ロシアからの鉱物資源輸出の減少が、南アにとって追い風となっています。
地政学リスクの高まりにより、いわゆる「有事の金」が注目され、世界有数の僅差出国である南アにとっては、輸出増加、交易条件の改善により、景気の追い風となる可能性があります。
6. 為替と株価
ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。南アフリカ・ランドは、昨年には6月から12月末にかけて下落したものの、国際的な資源価格上昇などにより、2022年に入ってからは上昇傾向が続いていました(図表4参照)。
只、4月13日には1ドル=14.48ランドの高値を付けたものの、その後は米FRBによる利上げなどにより下落。5月11日には、同16.11ランド迄下落しました。
株価は、代表的な株価指数の1つであるFTSE/JSEアフリカ全株指数でみると、18年から20年春にかけてほぼ横這いで推移(表5参照)。20年に入ると、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、株価は急落。但、3月以降には、ワクチン開発への期待、更に7-9月期GDPが急回復したことなどにより、株価も急反発。21年に入ると、国内の変異種新型コロナ・ウィルス感染拡大などにより、株価はほぼ横這いの動きとなっていましたが、秋以降に反発。22年に入ってからは、米FRBによる利上げ、世界的なインフレ率の高まり、株価下落などのより、同指数も下落。
7. リスク要因と課題
南アフリカにおいては当面、オミクロンに対する耐性が強まり、人の流れが増しつつあります。さらに、国際的な資源高により、金などの価格が上昇しており、南アの資源輸出が伸長する可能性があります。
只、中長期的には、経常収支と財政収支赤字が、国内総生産(GDP)比で大きく、通貨が売られやすい状況にあります。米連邦準備委員会(FRB)の利上げにも、注意する必要があります。
また、19-20年には計画停電が相次いで発生。国内電力供給の9割を担う国営電力会社エスコムは、政治家との癒着や放漫経営などで財政状況が悪化。企業は自家発電を導入し、家賃が上がるなどの影響が出ています。21年に入っても電力の供給が不安定であり、インフラの整備が課題となっています。
中長期的には、これらのリスク要因にも配慮しつつ、資源価格、インフレ率の動きに注意する必要があるといえるでしょう。
おはようございます。世界の中央銀行の多くが、利上げに動いています。
1. 米CPI上昇率が加速
先ず、米国の消費者物価指数(CPI)を考察しましょう。米労働省が12日に発表した3月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.5%。前月の同+7.9%から加速し、約40年ぶりの高い伸び率。市場予想は前年同月比+8.4%、前月比が+1.2%でした。
CPIは前月比でも+1.2%と、2月の+0.8から加速。2005年9月以来の大幅な伸びを記録。ガソリン価格が+18.3%と、全体の伸びの半分以上を占めました。
2. 米FRBが+0.5%ポイント利上げ
米連邦準備理事会(FRB)は4日、公開市場委員会(FOMC)において、22年ぶりとなる+0.5%ポイントの利上げを実施(図表2参照)。保有資産を圧縮する「量的引き締め(QT)」の6月開始も決定。ロシアによるウクライナ侵攻などが世界経済の先行きい影を落としており、当面、米国内で約40年ぶりの水準に達してインフレの封じ込めを優先。新型コロナ・ウィルス対策により拡大して緩和マネーの正常化を急いでいます。
短期金利の指標であるフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.25〜0.50%から、0.75〜1.00%に引き上げ。利上げは通常+0.25%ポイントで行われますが、0.5%ポイントの利上げは、ドットコムバブルで景気が過熱していた2000年5月以来。FRBは3月会合で+0.25%ポイントの利上げを実施し、約2年ぶりにゼロ金利を解除していました。
3. ブラジル中銀が政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行は3月16日の金融政策委員会で、政策金利を+1.00%ポイント引き上げて、11.75%にすること決定(図表3参照)。利上げは市場の予想通りで、9会合連続。
中銀は会合後の発表した声明文で、追加利上げについて、前回会合時と同様に、「インフレ見通しに対するリスクは上振れ、下振れ両方のリスクがある。コモディティ(国際相場商品)による金融市場への悪影響や、ソブリン債のリスクプレミアム(上乗せ金利)の上昇リスクがある」としました。
さらに「(インフレ見通しに対する)リスクのバランスは上向き」として、インフレ率が経済予測をオーバーシュート(加熱)する懸念を表明。
4. チリ中銀政策金利を引き上げ
一方、チリ中央銀行は、3月29日に、政策金利を+1.5%ポイント引き下げて7.00%にすることを全員一致で決定(図表4参照)。新型コロナ・ウィルスからの世界景気の回復、世界的な資源価格上昇に対応しました。
上げ幅は前回会合と同じで、全員が一致。市場の事前予想では、利上げ幅は +1.5%ポイントと、+2.0%ポイントに分かれていました。
5. 金利据え置き、引下げの中銀も
他方、インドネシア中央銀行は4月19日の理事会で、政策金利であるBIレートを3.50%で維持すると発表。据え置きは市場の予想通り。過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利も2.75%に、翌日物貸出ファシリティー金利は4.25%にそれぞれ据え置き。現状維持は、今回で14会合連続。
また、ロシア中央銀行は4月29日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも▲3.0%ポイント引き下げて14.00%にすることを決定。引き下げは2会合連続。通貨ルーブルの反発や、インフレ率の鈍化を受けて、利下げによる景気下支えを優先すると判断した模様。
このように、金利据え置き、あるいは利下げに踏み切る中銀もあり、各国の国内の事情により、必ずしもすべての中銀が利上げ一辺倒というわけでもありません。
只、世界的にインフレ率が高止まりし、原油などの商品市況も依然として高値で推移。インフレ率抑制の観点から、米欧を中心として、多くの中銀が今後も金融引き締めの姿勢を見せています。株価に対しては当面、マイナスの材料となることも考えられます。只、インフレ率が落ち着き、金利引き上げの方向性が明確になってくれば、バリュー株(割安株)を中心として、株価が反発することも考えられます。
おはようございます。世界で、米欧とロシアの対立など、世界の分断化が長期化する可能性が高まりました。
1. IMFが22年世界の成長率見通しを+4.4%に引き下げ
まず、世界経済の見通しを見ておきましょう。国際通貨基金(IMF)は4月19日発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、2022年の世界経済成長率見通しを+3.6%と、前回1月の予想から▲0.8%引き下げ(図表1参照)。高インフレが続く米国と新型コロナ・ウィルス感染封じ込めを優先する中国が下振れ。ロシアのウクライナ侵攻により資源高によるインフレを加速させ、インフレ抑制のための各国の利上げが経済を冷却化させると予想。戦争が長引けば負の連鎖が発生して、経済は一段と停滞する可能性があります。
世界経済成長率は、新型コロナ・ウィルスにより20年に▲3.1%のマイナス成長に陥ったものの、21年には+6.1%に回復。22年にはコロナ禍からの回復で需給の引き締まりに、戦争による資源供給懸念が加わります。結果として発生するインフレに各国の中銀が利上げで対応することが大きなリスクとなります。
2. 米国のインフレ、中国の都市封鎖などを懸念
ロシアのウクライナ侵攻は、欧州に大きな影響を与えています。ドイツではウクライナからの部品供給が滞り、フォルクスワーゲンなどの工場が停止。IMFによる成長率予想は+2.1%と、1月予想から▲1.7%ポイントの下方修正、ユーロ圏も+2.8%と、▲1.1%ポイントの下方修正。
米国は11月に中堅選挙を控えており、インフレ抑制が課題。IMFは米連邦準備理事会(FRB)による利上げの加速を織り込み、米国の成長率を+3.7%と、1月予想から▲0.3%ポイント下方修正。
中国は「ゼロコロナ」政策による都市封鎖(ロックダウン)が、経済の停滞を引き起こしています。21年に+8.1だった成長率は、22年には+4.4%に鈍化する見通し。中国の個人消費が落ち込めば、アジア諸国の一次産品に影響する可能性もあります。
IMFは、今回の通しは下振れ余地が大きいとしています。戦争の長期化を懸念。仮に今後の制裁拡大によりロシアの石油・天然ガス輸出がさらに減少すると、世界全体のGDPが23年に▲2%、27年に▲1%減少する影響が出ると予想。
3. G20でも分断化が進展
一方、20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が20日、米ワシントンで閉幕。ウクライナに侵攻したロシアを非難する声が相次ぎ、共同声明も出せずに終了。米国を含めた一部の代表が、ロシア側の出席に反対して途中退出する異例の会合となりました。
議長国のインドネシアのスリ・ムルヤニ財務相は会見で、参加国から「速やかな戦争の終結」を望む声があったとしました。鈴木財務相は「一刻も早く戦争を終結させるため、ロシアへのほか、中国が米欧日の制裁による経済的影響に懸念を表明。
イエレン米財務長官など、米英と韓灘の参加者は、ロシア側の発言が始まる前に体制。鈴木財務相は退席せず、最後まで参加。
4. 原油価格が高止まり
他方、米バイデン大統領は3月8日、ホワイトハウスで記者会見して、ロシア産の原油、天然ガス、石炭と関連の輸入を完全に禁止すると発表。同日に大統領令に署名して、即日発効。米国単独で禁輸に踏み切り、英国も年末までにロシアからの原油を停止。
米英が揃って、ロシアからの主要な外貨獲得手段であるエネルギーの収入を減少させ、ウクライナへの侵攻を行っているロシアに打撃を与える方針。
一方、原油価格は、代表的な指標の1つであるWTIが4月26日現在で、1バレル=101.71ドル、前日比+3.17ドルと高値圏で推移(図表2参照)。3月初旬には一時々130ドル台まで高騰したものの、最近を小動き。
5. 米3月CPI+8.5%に加速
米労働省が4月12日に発表した3月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.5%(図表3参照)。前月の同+7.9%から加速。変動の大きいエネルギーと食料品を除いた指数は同+6.5%の上昇。CPIの市場予想は+8.4%でした。CPIは1981年12月、コア指数は1982年8月以来の高い上昇幅を記録。前月比ではCPIは+1.2%、コア指数は+0.3%の上昇。
米国以外の欧州諸国などでも、インフレ率上昇が顕著となっています。英国国家統計局(ONS)は4月13日、2022年3月の消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比+7.0%と発表。1997年の統計開始以来、最も高い値。また、住宅費を含む消費者物価指数(CPIH)も、同+6.2%と、2006年の統計以降、最高値となりました。
ドイツ、フランスなどでも、原油価格高騰などによるCPI上昇率加速が堅調。日本の3月のCPI総合は前年同月比+1.2%と、2月の+0.9%から加速。生鮮品を除く総合は3月が+0.8%と、2月の同+0.6%から加速。
6. 株価の動向
ではここで米国の株価の動向を見ておきましょう。米国では昨年12月以降、連邦準備理事会(FRB)による利上げの観測が高まりました。それに加えて、2月にはロシアがウクライナに侵攻。地政学リスクの高まりもあり、代表的な株価指数の1つであるS&P500は大きく下落しました(図表4参照)。
米国以外でも、欧州、日本など先進国の株価が軒並み下落。新興国においても、特に中国は上海などのロックダウン(都市封鎖)の影響による生産、消費の停滞などにより、株価が大幅に下落。
米国などのインフ率の高まり、長期金利の上昇、原油、天然ガスなどの商品市況の高止まりにより、今後も世界の主要国の株価が軟調となる可能性があります。特に長期金利の上昇により、グロース株(成長株)に対する警戒感が高まることも考えられます。
おはようございます。ゴールドマン・サックスの経済学者(当時)、ジム・オニール氏が「BRICs」という言葉を用いてから、20年余りが経過。BRICs諸国はこの期間でどのように変貌したのでしょうか。
1. BRICs諸国の概要
まず、BRICs(Brazil、Russia、India、China)は、2000年代に著しい成長を遂げた4か国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の総称。投資銀行ゴールドマン・サックスの経済学者であるジム・オニール氏が書いた投資家向けレポート「Building Better Global Economic BRICs」で初めて用いられ、世界に広がりました。
また、BRICsに南アフリカ(South Africa)を加えた5か国はBRICSと総称されます。近年では、BRICSの表記が一般的です。
只、南アフリカは面積、人口、経済規模などで、他の4か国とは大きく異なるため、ここでは南アフリカを除くBRICsの4か国について考察することとします。
ブラジル、ロシア、インド、中国の4か国は、ジム・オニール氏が最初にBRICsとして総称した時点で、いずれも先進国ではなく発展途上国という共通性がありました。さらに、面積が大きく、人口も多く、人口構成も相対的に若く、大きな発展の可能性があると考えられました。
資源に関しては、ロシアは原油、天然ガス、金などの金属が豊富、ブラジルも鉄鉱石などの資源が豊富。一方、中国をインドは基本的に資源の輸入国であり、全体としてバランスが取れているとも言えます。
また、政治体制としては、ロシアと中国が強権的国家、インドとブラジルは民主的な国家と分類することもできます。
2. 各国の軌跡
では、これらの国は概ねどのような発展を遂げたのでしょうか。オニール氏の分析によると「中国は予想をはるかに上回り、インドは概ね予想通り、ロシアとブラジルは、前半10年は良かったものの、後半10年へ失望的」と、少し前に総括しています。
ロシアとブラジルは、資源が豊富であったため、それに頼りすぎて製造業などの発展を重視してこなかった面があるとみることもできます。また、この両国では政治があまりうまく機能していなかったとの見解をとることも可能でしょう。
中国の1-3月期GDP 成長率は+4.8%に鈍化しました。
3. 中国の1-3月期GDP+4.8%
ここで、中国の景気動向を見ておきましょう。中国の国家統計局は4月18日に今年1-3期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+4.8%と発表(図表1参照)。市場予想の+4.4%を上回り、昨年10-12月期の+4.0%から加速。インフラ投資が堅調。只、新型コロナ・ウィルス抑え込みのために上海などでロックダウン(都市封鎖)を子なっており、行動規制などにより工場の操業率などが低下。ウクライナ情勢による資源高もあり、3月の生産や消費は伸び悩やみ。
季節調整済みのGDP伸び率は前期比+1.3%。10-12月の同+1.5%から減速。年率換算では、+5.3%。
只、キャピタル・エコノミクスと野村のアナリストは、第1四半期のGDP統計の数値などは、経済の減速傾向を過小評価している可能性があるとしています。
4. インド10-12月期成長率+5.4%に減速
続いて、インド統計局が2月28日に発表した10-12月期成長率は、前年同期比+5.4%(図表2参照)。前期の+8.4から減速。市場予想の+6.0%から下振れ。22年1-3月期には、ロシアによるウクライナ侵攻により、さらに減速に恐れがあります。
原油価格が1バレル=100ドルを超えて推移する中、原油需要の80%近くを輸入に頼っているインドでは、貿易赤字拡大や外国為替市場でのルピー下落、インフレ率の上昇に直面する可能性があり、景気に打撃となることが予想されています。
インド準備銀行(中銀)は新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)による打撃を緩和するために、20年3月以降、主要レポ金利を+1.15%ポイント引き下げており、景気回復のめに金利を据え置いています。
5. 10-12月期GDPは+1.6%に減速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は3月4日に、10-12月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.6%であったと発表(図表3参照)。市場予想の+1.1%から上振れ。前期の4.0%から減速。
前期比では▲0.1%と、7-9月期の▲0.4%に続いて、2四半期連続のマイナス成長となり、定義上の景気後退となりました。旱魃による農産物の不振が響きました。22年10月に再選を目指すボルソナロ大統領にとっては逆風となる模様。
4期連続で前年同月比上昇となり、サービス業の+3.3%が牽引。一方、製造業が▲1.3%、農業が▲0.8%と低下。固定資産投資が+3.4%、個人消費が+2.1%、政府支出が+2.8%。
6. ロシアはウクライナで躓く
ロシアはほぼ一人負けの状態。2000年以降、約10年は天然ガス、原油など資源価格が堅調だったこともあり、ロシアもそれなりの成長を遂げていました。只、その後プーチン大統領がチェチェン、ウクライナのクリミア半島に侵攻したことにより、米欧を中心として西側諸国からの制裁が強まりました。国内の経済もオルガルヒと呼ばれる、プーチン氏と個人的に結びついた一部の財閥のみが発展することとなり、自動車産業など製造業の発展が遅れました。依然として天然ガス、原油など資源の輸出に依存する経済体質から脱却できていません。
更に、今年3月にロシアがウクライナに侵攻してからは、米欧日など西側諸国による経済制裁が一層厳しくなっています。ウクライナとの戦闘も長期化する可能性があり、莫大な戦費が国家財政を圧迫することにもなっています。
7. 世界の分断化がさらに進展か
ロシアのウクライナ侵攻とともに、中国と台湾との緊張も高まっています。ロシアは当初、数日でウクライナの首都キーウを陥落する予定であったと報じられていますが、実際には苦戦しています。
西側諸国のウクライナに対する経済的・軍事的支援の高まり、ロシアに対する大規模な経済制裁を見て、中国の習近平主席は台湾への侵攻には慎重な姿勢になっていることも考えられます。
一方、インドは必ずしもロシアへの経済制裁に協力しているわけではなく、ロシアから武器および原油の供給を受けるなど、むしろ両国の結びつきを深める傾向にあります。
このように、ロシアと中国は米国と対立路線をとっており、インドも必ずしも米欧に接近するという態度でもありません。今後も世界の分断化が深まっており、投資家はロシアからの資金を引き揚げる動きを見せています。米欧の投資家は中国からも一部資金を引き揚げる動きとなっています。
世界全体の分散投資においては、従来、MSCI世界株価指数などに単純に分散投資していれば、世界経済の発展を享受でき、比較的安定したリターン(成果)が長期的に得られるとの発想が主流であったといえるでしょう。今後はこのようなパッシブ(受け身)的な分散投資でよいのかどうか、再考する必要があるといえるでしょう。
おはようございます。円が独歩安の様相を強めています。
1. 米CPI上昇率が加速
先ず、円が下落する要因を順次見ましょう。最初に米国の消費者物価指数(CPI)を考察しましょう。米労働省が12日に発表した3月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+8.5%。前月の同+7.9%から加速し、約40年ぶりの高い伸び率。
CPIは前月比でも+1.2%と、2月の+0.8から加速。2005年9月以来の大幅な伸びを記録。ガソリン価格が+18.3%と、全体の伸びの半分以上を占めました。
市場予想は前年同月比+8.4%、前月比が+1.2%でした。
2. 米長期金利が上昇
米CPI上昇率加速などを受けて、米長期金利(10年)が上昇。10年債の利回りは、14日現在で2.703%まで上昇。これに対して、日本国債10年の利回りは13日現在で0.24%と、相対的に低い水準にとどまっています。日米の金利差拡大が日本円下落の1つの要因となっています。
3. 原油価格が高騰
他方、コロナからの世界的な景気回復、ロシアによるウクライナへの侵攻などを受けて、原油価格が急騰。原油価格の代表的な指標の1つであるWTIは、22年3月末には1バレル=95.632ドル迄上昇。3月8日には、どう124.76ドルに高値を付けました。
世界的な需給逼迫により、天然ガスなどの資源価格、鉄鉱石などの金属価格も上昇。ウクライナ危機の影響もあり、小麦粉など食品価格も高騰。商品市況全般が高騰しています。
4. 日本の経常収支が悪化
財務省が発表した国際収支統計によると、今年2月の日本の経常収支は、1兆6483億円の黒字。経常収支が黒字になるのは3か月振り。原油価格上昇などで輸入額が増加し、黒字額は去年の同じ月を▲40%あまり下回っています。経常収支が黒字になるのは3か月振り。
内訳では、輸出から輸入を差し引いた「貿易収支」は原油や天然ガスの価格上昇により輸入が増加し、▲1768億円の赤字。
一方、海外の証券投資などで獲た利子や配当のより取りである「第一次所得収支」の黒字は、米国国債の利払いが2月に行われたことなどにより、2兆2745億円の黒字となり、経常収支の黒字は確保されました。
5. 円安が加速
資源価格上昇、日米の金利差の拡大、日本の経常収支の悪化などを受けて、円安が加速。特に最近のドルに対する下落幅が大きく、3月7日の1ドル=114.823円から、4月13日には125.662円へと、大きく下落。
円安の進行により、貿易収支および経常収支の悪化、輸入物価上昇によるCPI(消費者物価指数)上昇率の加速などが予想されます。円安による日本企業の採算改善の余地は大きくなく、いわゆる「悪い円安」の進行が予想されます。ひいては、日本株の下落につながることも予想されます。
おはようございます。中国の景気に、減速感が強まっています。
1. 10-12月期GDP+4.0%
まず、中国の国家統計局は1月17日に昨年10-12期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+4.0%と発表(図表1参照)。市場予想の+5.2%を下回り、7-9月期の+4.9%から減速。中国は昨年には主要国に先駆けて新型コロナ・ウィルスの感染を抑え込んだとして、経済を再開。ただ、ここにきて景気の息切れ感が強まっています。
21年の国内GDPは、実質で+8.1%。新型コロナ・ウィルス流行の影響により経済活動が停止した前年の反動により、4年ぶりに全ン絵の成長率を上回りました。政府目標の「+6%以上」を上回り、11年の+9.6以来の伸びとなりました。
2. 3月製造業PMIは前月から上昇
続いて、中国の国家統計局が3月31日発表した3月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.5と、前月の50.2から低下。市場予想の49.8から下振れ(図表2参照)。景気の拡大・縮小の節目となる50を割り込みました。当局は、新型コロナ・ウィルス感染拡大の抑え込みのため、テクノロジーや製造業の主要生産拠点のロックダウン(都市封鎖)を行っており、景気の見通しの低下を招きました。
3. 非製造業PMIも低下
一方、同日に発表された3月の非製造業PMIは48.4と、前月の51.6から低下。市場予想の50.3を下回りました。
国家統計局の統計学者、趙慶河氏は 製造業と非製造業のPMIがいずれも低下したことについて、全般的な経済の勢いが鈍ったことを示唆するとしました。供給者の納期を測定する指数が46.5に低下し、2020年2月以来の低水準にとどまったことも述べ、ロックダウンによって「製造業のサプライチェーンの安定性」に影響が及んだとしました。
4. 不動産市場が低迷
一方、中国の新築住宅価格は2月に下落幅が再び加速。当局が梃入れに動いているものの、不動産市場の低迷が継続しています。
国家統計局が16日発表した統計によると、主要70都市の新築住宅価格(政府支援住宅を除く)は、2月に前月比▲0.13%下落。1月の下げ率▲0.04%から下げ幅が拡大。中古市場は▲0.28%と、下落ペースは1月に同じ。
中国恒大など不動産開発会社の流動性危機がデフォルト(債務不履行)に繋がり、波及懸念が業界と広範な経済全体に拡大。このところ、複数の地方政府が住宅ローンの金利や頭金要件の引き下げといった需要喚起政策を実施しています。
5. 新型コロナ・ウィルス感染が拡大
中国では新型コロナ・ウィルス感染が拡大しており、これも景気減速の要因の1つとなっています。厳しい外出制限が行われている最大都市の上海では、新に核にされた新型コロナ・ウィルス感染者が5日連続で過去最高となりました。上海市当局は市内全域で再び、検査を実施して、外出制限を続ける方針を示唆して、経済活動がさらに停滞するとの懸念が高まっています。
上海では新型コロナの感染が5日、無症状の人を中心に1万7077人確認され、5日連続で過去最高を更新。
感染の拡大に歯止めがかからない中、上海市当局は6日、市内全域で再び、ウィルス検査を実施すると発表。
6. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表3の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落。
米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、米中貿易摩擦の影響、当局による介入などにより、為替市場は乱高下しました。20年に入り大幅に上昇し、その後急落。21年に入るとやや戻し、22年3月末現在では、2020年12月末との比較で+2.87%の小幅上昇。
株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。
18年に入ると下落に転じ、18年12月末には24930ポイントまで下落し、その後は回復基調。22年3月末には20年12月末と比較して▲6.35%の小幅下落。
7. 当面の注目点は米中関係、不動産市況
当面の注目点としては、米中関係が回復するかどうか、ということがあります。米バイデン政権は、トランプ前政権と同様中国に厳しい姿勢をとるものの、二酸化酸素削減などでは、共同歩調を探る姿勢も見せています。
ウクライナ情勢を巡っては、中国がロシア寄りの姿勢を国連などで示しています。バイデン政権は中国がロシアに対して武器援助など行わないよう要求。中国はロシアをウクライナの和平の仲介の用意があるとの姿勢を示しているものの、具体的な行動に移していません。
そのほかのリスク要因として、上記の通り不動産市場の低迷、新型コロナの感染拡大による都市の閉鎖(ロックダウン)、またそれによる工場などの操業率の低下があります。
ロシアによるウクライナ侵攻の影響などにより、原油、天然ガスなど資源価格が高騰。資源輸入国である中国にとっては、輸入物価上昇、ひいては生産者物価指数(PPI)、消費者物価指数(CPI)上昇に繋がる恐れがあります。
中国共産党は2022年、+5.5%前後の国内総生産(GDP)成長率を実現する目標を掲げています。只、足下の状況を見ると、新型コロナ感染拡大による上海など主要都市の機能低下もあり、実現はかなり難しいと思われます。
おはようございます。トルコ経済の混乱が継続しています。
1. 2月CPI上昇率急加速
まず、経済指標を見ましょう。トルコ統計局が3月3日に発表した2月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+54.44%となり、前月の+48.69%から伸び率が急加速。市場予想の+52.95から上振れして、02年2月の同+65.11%以来、19年11か月振りの大幅上昇。CPI伸び率は、20年11月の同+14.03%以来、加速傾向にあります。今回の2月CPIは、21年7月の同+18.95%以来、9か月連続で加速。
エネルギー価格高騰や、通貨リラの下落により、インフレ率が加速。今後は、ロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴う西側諸国の対ロ経済制裁により、エネルギー価格などがさらに上昇すると予想されており、インフレ圧力が一段と高まる見込み。
2. 政策金利を据え置き
一方、トルコ中央銀行は3月17日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を14.00%に据え置くことに決定(図表2参照)。据え置きは3会合連続で、市場の予想通り。
中銀は現状維持とした理由について、前回2月の会合時と同様に、「インフレ率は物価と金融の持続的安定のために講じられた措置により、ディスインフレのプロセス(インフレの低下基調)が始まる」と判断していることを挙げて、インフレが減速に転換するとの見通しを示唆。
ロシアによるウクライナへの侵攻については、「地政学的リスクは、世界全体や各国の経済活動に対する下振れリスクを持続して、(景気先行きへの)不確実性を一段と高めている」と懸念を表明。
3. 10-12月期成長率+7.4%
他方、トルコ統計局が2月28日に発表した7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+9.1% (図表3参照)。7-9月期の+7.5%から加速。市場予想の+9.0%から上振れ。6期連続でプラス成長が続いています。
主な内訳では、政府最終消費支出が+21.4%と、前期の+9.1%から加速。総固定資本形成は▲0.8%と、前期の▲1.9%に続いて不振。政府最終消費支出も▲1.9%と、前期の+7.9%から3期ぶりに減少に転じました。
4. 資源価格上昇が痛手
一方、上述の通り、ロシアによるウクライナ侵攻などにより、国際的に原油・天然ガスなど資源価格が上昇。トルコは国内で消費する原油及び天然ガスの大半を中東からの輸入に依存しており、貿易収支が急速に悪化。また、海外からの観光客の4分の1はロシアとウくらいからであるため、観光業も大きな打撃を受けています。
輸入物価の大幅上昇などにより、インフレ率の亢進が続いています。しかし、エルドアン大統領の圧力により、中銀は昨年には利下げを繰り返しました。そのため、通貨リラの大幅下落を招くこととなりました。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。20年12月末から22年2月末まででも▲86.68%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。22年2月末と20年12月末との比較では+31.79%と堅調。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率の高止まりの可能性が高いと予想されます。
トルコ政府は昨年末にリラ相場の安定を図るべく、トルコ国民のリラ建て定期預金のハードカレンシーに対する価値を政府が保証する、事実上の米ドルペッグ制という奇策を発表。1月半ば以降は、奇策も功を奏してリラの急激な下落は一服する場面もありました。只、その後はウクライナ情勢など地政学的リスクの高まり、国際的金融環境の引き締まり、資源価格上昇などが意識され、再びリラが下落する傾向にあります。
おはようございます。世界で、米欧とロシアの対立など、分断化が進行しつつあります。このような状況において、どのように投資していくべきでしょうか。
1. 米欧日とロシアの対立が先鋭化
まず、地政学リスクのうち、ロシアと米欧日など西側諸国との対立を見ましょう。ロシアのウクライナへの侵攻から1か月ほどが過ぎましたが、戦況自体は膠着の度合いを深めています。ロシアのプーチン大統領は数日でウクライナを占領するともくろんでいた節がありますが、事態はそのような思惑とは反対に、長期化の可能性が高まっています。
米欧などによる制裁により、ロシア産の原油、天然ガスの輸出が減少するのでないか、との予測が浮上。事実、ロシア産の原油、天然ガスの欧州などに向けた輸出が大幅減少。
米バイデン大統領は8日、ホワイトハウスで記者会見し、ロシア産の原油、天然ガス、石炭と関連の製品の輸入を完全に禁止すると発表。同日に大統領令に署名して、即日発効。米国単独で禁輸に踏み切り、英国も年末までにロシアからの原油を停止。
米英が揃って、ロシアの主要な外貨獲得手段であるエネルギー収入を減少させ、ウクライナへの侵攻を行っているロシアに打撃を与えるという意図。
一方、原油価格は、代表的な指標の1つであるWTIが3月24日6時現在で、1バレル=114.31ドルと高値圏で推移(図表1参照)。北海ブレントは同121.33ドル。
2. 商品市況が高騰
また、ウクライナ侵攻により、同国からの小麦輸出が減少するとの予想などにより、小麦など穀物価格も上昇。アルミなど金属の上昇もあり、商品市況の代表的な指標の1つであるCRB指数も大幅上昇(図表2参照)。
3. 米中の対立が継続
一方、米中の対立も継続。バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は18日、ロシアによるウクライナ侵攻などを巡り、テレビ会議形式で協議。習氏は「全方位、無差別の制裁で被害を受けるのは一般庶民だ」として、対ロ制裁に反対。
狭義は1時間50分におよびました。米中首脳の協議は2021年11月以来で、ロシアによる侵攻後では初めて。
中国国営新華社によると、習氏は「各当事者はロシアとウクライナによる対話を指示すべきだ」としました。米国と北大西洋条約機構(NATO)に、ロシアとの直接協議を促したうえで、「ロシア・ウクライナ双方の安全保障上の懸念を解消すべきだ」としました。ロシアが批判するNATOの東方拡大などが年頭にあるとみられます。
4. OPECプラスが減産を継続
他方、産油国と原油の消費国との対立も継続。一昨年に石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど一部の非加盟国による枠組みである「OPECプラス」は、過去最大規模となる減産で合意。その後、世界経済の回復により、減産を段階的に縮小させてきました。
世界経済の回復を受けて原油需要の底入れが進み、協調減産の縮小は小幅に進められたため、さらに世界の金余りもあり、国際原油価格は上昇ペースを強めました。
OPECプラスは2月の協調減産枠を協議する合同専門委員会(JTC)および合同閣僚監視委員会(UJMCにおいて、現状維持(日量40万バレルの協調減産)を継続する方針を決定。
米国は国内のシェールガスの増産を進めるとみられるものの、国内の原油、天然ガス資源が乏しい日欧、インド、中国などは、特にOPECプラスによる原油減産継続の影響をうけるとみられます。
5. 株価の動向
ではここで米国の株価の動向を見ておきましょう。米国では昨年12月以降、連邦準備理事会(FRB)による利上げの観測が高まりました。それに加えて、2月にはロシアがウクライナに侵攻。地政学リスクの高まりもあり、代表的な株価指数の1つであるS&P500は大きく下落しました(図表3参照)。
ここにきて、ウクライナ情勢は膠着状態に陥りつつあり、原油など資源価格も高止まりしているものの、米欧日など主要国の株価は、やや落ち着いた動きを見せています。
今後も原油など資源価格の高騰、米国など主要国のインフレ率の高まりなどのリスクはあるものの、株式市場でパニック的な売りが出る可能性は低下しているようにも見えます。投資家には、冷静な行動が必要な局面であるといえるでしょう。
おはようございます。インド経済は回復が続いているものの、新型コロナ・ウィルスの新たな変異種の感染再拡大などのリスクもあります。
1. 消費者物価指数上昇率が鈍化
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が3月14日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.07%(図表1参照)。前月の+6.01%からやや加速。市場予想の+5.93%から上振れ。
2. 10-12月期成長率+5.4%に減速
続いて、インド統計局が2月28日に発表した10-12月期成長率は、前年同期比+5.4%(図表2参照)。前期の+8.4から減速。市場予想の+6.0%から下振れ。22年1-3月期には、ロシアによるウクライナ侵攻により、さらに減速に恐れがあります。
原油価格が1バレル=100ドルを超えて推移する中、原油需要の80%近くを輸入に頼っているインドでは、貿易赤字拡大や外国為替市場でのルピー下落、インフレ率の上昇に直面する可能性があり、景気に打撃となることが予想されています。
インド準備銀行(中銀)は新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)による打撃を緩和するために、20年3月以降、主要レポ金利を+1.15%ポイント引き下げており、景気回復のめに金利を据え置いています。
3. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行)は2月10日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表3参照)。据え置きは市場の予想通り。据え置きは10会合連続。新型コロナ・ウィルス禍からの持続的な景気回復を確実にするために、財政支援を側面から支えることにしました。
ダス中銀総裁は、6人からなる政策委員会が緩和的姿勢を維持したと述べ、インフレ加速にも関わらず、国内経済には継続的な支援策が必要だと示唆。
4. 新たな変異株に懸念も回復へ
インドでは、2020年以降、新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、政府が都市封鎖(ロックダウン)などを実施。人流、物流が止まるなどして、経済が大きな打撃を受けました。その後、ワクチンの接種が進んだこともあり、ロックダウンを解除するなど、景気の回復が進んできました。
その後、新型コロナ・ウィルスの変異種であるデルタ株が拡大。回復が躓くこととなりましたが、ワクチン接種の強化や感染拡大による免疫獲得により、感染動向が改善。政策支援もあり、企業と消費者のマインドが回復。
一方、昨年末以降、インドでもオミクロン株の感染が拡大。政府は今月初めにオミクロン株感染拡大を理由として今年度の成長率見通しを下方修正。他方、中銀はオミクロン株の影響について「鉄砲水」と表現するとともに、内需の堅調さを楽観。
只、足下では感染拡大の動きが医療インフラの乏しい地方に拡大しているほか、年明け以降には人の移動が低下。感染が長期化すれば、景気の下押し要因となる可能性があります。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)2021年12月末と2022年2月末との比較では、▲3.3%の下落。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、2019年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。22年2月末には56,247ポイントと、20年12月末比では+17.7%と、やや上昇。
只、昨年末以降には、米連邦準備理事会(FRB)が利上げするとの観測、オミクロン株の感染拡大、さらに最近のウクライナ情勢の緊迫化もあり、株価はやや下落しています。
6. 課題とリスク
上記の通り、新型コロナ・ウィルスの変異種であるオミクロン株の感染拡大の懸念のほか、ロシアとウクライナとの紛争も、インド経済に影を落としています。
ロシア産の原油、天然ガスの供給が減少に転じていることから、世界的に原油、天然ガスなど資源価格が高騰。インドは基本的に原油など資源を輸入に頼っており、輸入物価への影響が懸念されます。
また、米欧などによるロシアへの制裁強化により、電気自動車(EV)生産に必要な、パラジウムなど稀少金属の供給への影響、それらの要因が世界経済の下押し要因となる懸念があります。
インドは主要な新興国の中では相対的に景気回復が堅調であるものの、今後は世界景気の下押しにより、インド国内の景気も影響を受けるものと予想されます。
おはようございます。ロシア経済が低迷しており、デフォルトの可能性も出てきました。
1. 7-9月期成長率+4.3%
まず、ロシアの景気の状況を見ましょう。連邦国家統計局は11月17日、7-9月期実質成長率(前年同期比、速報値)を+4.3%と発表。天然ガスや石油の価格上昇が寄与したほか、個人消費が回復。四半期ベースでは、4-6月期に続いて2四半期連続でプラス成長(図表1参照)。
前年同期は新型コロナ・ウィルスの感染拡大やエネルギー価格下落の落ち込みが響き、▲3.4%のマイナス成長となっていました。
今年秋以降には、新型コロナ・ウィルス感染がデルタ型の急増に伴い拡大し、1日当たりの死者数は過去最高の水準で推移。10-12月期の内需に影響する可能性があります。
2. インフレ率が引き続き高水準
国家統計局から3月9日発表された2月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+9.17%と、前月の+8.73%から加速(図表2参照)。引き続き高い水準を維持。
3. 政策金利を引き上げ
一方、ロシア中央銀行は2月28日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも9.5%から20%に引き上げ(図表3参照)。
ルーブルが最安値を更新する中、一連の国内市場支援策を発表したのに続き、緊急利下げを行いました。さらに中銀と財務省は、外貨建て収入の80%を売却するよう企業に指示。
ナビウリナ総裁「インフレは以前高水準だ。我々の決定は来年末までに目標値まで確実に引き下げることを目標としている」としました。インフレ率は11月の+8.14%から12月に鈍化して、22年には利上げサイクルの累積効果が完全に可視化される可能性が高い。
4. 大手格付け機関が国債の格付けを引下げ
他方、他方、ロシアのウクライナへの侵攻を受けて、格付け機関大手3社は25に、ロシアの格付けを引下げ、あるいは見直す方向であると発表。
ロシアについてS&Pは25日に「BBB-」から投機的である「BB-」に格下げ。さらに3日には信用リスクが極めて高いとされる「CCC-」まで格下げ。ムーディーズは格下げ方向であると発表。
また格付け機関大手のフィッチも、ロシアの格付けを「BBB」から投機的である「B」に引下げ、格下げ方向で見直す「レーティング・ウォッチ・ネガティブ」であるとしました。さらに3月8日にはさらに6段階臭げして「C」とし、同国が債務不履行(デフォルト)に近い状態であるとしました。
更に格付け機関大手のムーディーズ・インベスターズも3日、ロシアの長期外貨建て格付けを「Baa3」から投機的である「B3」に引下げ。ムーディーズもやはり7日、デフォルト寸前である「Ca」に格下げ。
5. デフォルトの恐れ
ロイターは2日、ロシアの中銀がルーブル建て国債を保有する外国人投資家に対する利払いを停止したと報じました。米欧の厳しい経済制裁でルーブルは暴落しており、利払いを止めて、資金流出に歯止めをかける狙いと見られます。
米欧はロシア中銀の外貨準備の取引を制限する厳しい金融規制を打ち出しています。国際的な毛細網である国際銀行間通信協会(SWIFT)から、ロシアの銀行が排除されれば、貿易による資金が入らなくなることとなります。
6.外貨不足が深刻
更に、米欧日などによる経済制裁を受けて、各国がロシア産の原油の輸入を大幅に減らしています。2月27日から3月5日のロシア国内から出航したタンカーは日量100万バレル台にとどまりました。同300万から400万バレル台であった1月と比較して6〜7割減少。
主要な収入源である原油輸出が大幅に落ち込んだことにより、外貨不足が深刻になっています。外貨準備の多くが凍結された上に、日常的な収入も減り、外貨不足が深刻。
ロシア政府の歳入は通常、3〜5割がエネルギー関連。原油、天然ガスなど資源の輸出が滞れば、政府の歳入が大幅に減少し、年金の支払い、軍事費などに影響が出る可能性があります。
7. 為替
ここで、ロシアの為替の動きを見ましょう。ロシアの通貨であるロシア・ルーブルは、1月以降、対ドルで大幅に下落(図表4参照)。1月31日の1ドル=78.10ルーブルから3月9日には同130.00ルーブルへと下落。下落率は▲66.4%に達しました。ウクライナ情勢などをめぐる、上記の地政学的リスクが影響していると考えられます。
8. リスク要因
リスク要因としては、欧米とのウクライナをめぐる対立により、天然ガスあるいは原油の輸出が大幅に減少する恐れがあります。輸出額に占める天然ガスと原油の比率は約6割に上っており、エネルギー産業が大きな打撃を受ける恐れがあります。
さらに、ルーブルの下落による物価上昇が挙げられます。2月のCPI上昇率は上記の通り+9.17%と引き続き高い水準。通貨ルーブルの下落は輸入物価を押し上げる要因となり、今後も引き続きCPI上昇率は高止まりすると予想されます。
原油、天然ガスなど資源価格はウクライナの混乱もあり、急上昇しています。只、地政学リスクの高まりなどにより、通貨ルーブルには一段の下押し圧力がかかることも考えられます。
おはようございます。IMF(国際通貨基金)が世界経済見通しを引き下げるなど、世界的に景気減速の可能性が高まっています
1. 世界の22年成長率+4.4%に引き下げ
国際通貨基金(IMF)は2022年1月発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、2022年の世界経済成長率見通しを4.4%と、前回10月の予想から▲0.5%引き下げ(図表1参照)。新型コロナ・ウィルスの変異株「オミクロン」が蔓延したことを受けて、各国は再び移動制限を拡大。エネルギー価格上昇と供給中断によって、予想以上に広範囲に渡る激しいインフレが起きており、これは米国と新興市場国・発展途上国の多くで顕著である。さらに、中国における不動産部門の減速や民間消費の予想を下回る回復により、限定的な成長見込みである、としています。
2. 商品価格が大幅上昇
米国、あるいはEU(欧州連合)、英国、新興国などで、幅広く物価が上昇。特に商品価格が世界的に著しく上昇しています。
商品(コモディティ)の代表的な指数の1つであるCRB指数は、新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)などの影響により、20年4月24日には112.75ポイントに低下(図表2参照)。2022年3月2日には289.09ポイント。今後も急激に上昇する恐れがあります。
3. 原油価格も大幅上昇
一方、原油価格も大幅上昇。代表的な原油価格の指標であるWTIは、20年4月には1バレル=16.52ドル迄下落(図表3参照)。新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)などにより、世界の景気が大きく落ち込み、原油などに対するエネルギー需要も大幅に下落。原油、天然ガスなど資源価格が大幅下落。
その後は、新型コロナ・ウィルス感染終息への期待、世界景気の回復、それに伴う原油など資源への需要の増大により、原油価格が急回復。22年3月3日7:00現在(日本時間)には1バレル=111.35ドルへと急騰。
世界的に脱酸素への動きが拡大しており、原油、天然がるなどいわゆる化石燃料への投資が大幅に落ち込んでいます。その中で世界の景気拡大、エネルギー需要の急回復により、今後、原油価格が1バレル=110ドル以上の高値安定となることも予想されます。
FRBが3月以降利上げに踏み切るとすれば、企業にとっては資金調達コストの上昇につながり、減益要因となります。特に、昨年まで買われてきた、ITなどハイテク株、あるいはグロース(成長)への売りが拡大する可能性もあります。
また、新興国にとっては、米国など先進国の利上げは、資金調達コストの上昇、企業利益の
4. 1月米CPI上昇率+7.5%
商品価格高騰などにより、各国でインフレ率が上昇。米労働省が2月10日に発表した2022年1月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.5%と、21年12月の同7.0%から加速。82年2月以来の上昇率(図表4参照)。
変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は+6.0%。市場予測はそれぞれ、+7.2%、+5.9%でした。コアCPIは1982年8月以来の上昇率。
5. 地政学リスク上昇
一方、ロシアがウクライナに侵攻するなど、地政学リスクが上昇。当初、ロシアは4日程度でウクライナ全土を掌握できると踏んでいた節がありますが、ウクライナ軍が激しく抵抗。3日現在で、ロシアはウクライナに首都キエフ、ハリコフなど主要都市への攻撃を強めていますが、当初のロシアの思惑とは異なり、戦闘が長期化する可能性もあります。
欧州とロシアとの関係が悪化したことにより、特に欧州ではロシアからの天然ガスの輸入に対するエネルギーの確保に追われています。北米、北アフリカなどから調達しても、消費量の約1割の4000万とが不足する計算。エネルギー不足により天然ガス、原油など資源価格がさらに上昇し、欧州の景気の打撃を与えると予想されます。
6. 世界的に景気減速へ
このように、原油、天然ガスなどの価格上昇にくわえて、アルミなど金属価格も大幅に上昇する傾向にあります。米欧日などによるロシアへの経済制裁の強化により、ロシアからの輸入に支障が生じることも考えられます。
また、ロシアのウクライナへの侵攻を受けて、資源に直接関連しない企業もロシアでの商行為を停止する動きが拡大。米アップルは米国時間3月1日、ロシアで製品販売を停止すると発表。同社は声明で「当社はロシアによるウクライナ侵攻を深く懸念している。破壊的行為で苦しんでいるすべての人々に寄り添う」としました。
ロシアが現地時間2月23日にウクライナへの侵攻を開始したことを受けて、これまでに複数のテック企業が対応を表明。メタが運営するフェイスブック、てぃくとく、グーグル傘下のユーチューブなどが誤情報への対応を強化し、ロシア国営メディアRTニュースなどへのアクセスを制限するなどの対応を発表。
このように、資源価格高騰、地政学リスク上昇などにより、世界的に景気が減速する恐れが高まっています。世界的に株価も、上値の重い展開となる可能性があります。
おはようございます。ロシアがウクライナに侵攻する構えを見せるなど、世界的に地政学リスクが高まっています。現在の状況と今後の見通しなどを考えてみましょう。
1. プーチン氏ウクライナ東部への派兵を要請
まず、ロシアのプーチン大統領は22日、ウクライナ東部への親露派支配地域における露軍の活動許可を露上院に申請し、上院は即日承認。ウクライナでの本格的な軍事行動着手するための国内の手続きが完了。プーチン氏は親露派支配地域への「平和維持軍」部隊派遣を国防省に銘じていました。
プーチン氏は22日の記者会見で、ウクライナ情勢の緊張緩和に関して、従来主張してきたウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟断念だけでは不十分であると指摘。中立宣言や「ウクライナにはある程度の武装解除が必要だ」との見解を示唆。新たな条件として、ロシアによるクリミア併合をウクライナが承認することも上げました。
プーチン氏が要求を一段と高めたため、米欧との外交交渉がさらに難しくなるのは必至。プーチン氏はウクライナ東部での政府軍と進路は武装集団との紛争解決に向けた「ミンスク合意」に関しては「失効した」と示唆。
2. 米欧日は経済制裁を発動
ロシアがウクライナの親露派支配地域の独立を承認し、ロシア軍の派兵を認めたことに対して、米欧と日本は経済制裁の第1弾を発表。バイデン米大統領は22日、ロシアの行動を「侵攻の始まりだ」としました。
米欧日はロシアの銀行の取引制限や政権幹部らの個人資産の凍結を決定。本格的な侵攻を抑制するために、追加制裁も検討。ウクライナ情勢いを巡るロシアと米欧との対立は新たな局面を迎えました。
バイデン大統領は22日の演説で、対ロシア政策を「第1弾」と位置づけました。インフラ整備と軍需産業の資金調達を担うロシア国営の大手2銀行が米国内で取引できないようにすると表明。
ロシアが侵攻を本格化させた場合の追加制裁として、米政府高官は22日、ロシア最大手銀行のズベルバンクなども制裁リストに加えることも検討。只、銀行間の国際的な決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアを外す制裁案は第1弾からは除外しました。
3.中台の緊張高まる
一方、中国の習近平国家主席は、台湾に対する圧力を高めており、中台の緊張が高まっています。米バイデン大統領も中台の関係にたびたび言及しており、ウクライナのような一色即発の事態には至っていませんが、緊張が高まっています。
中台の緊張が高まる中、1月6日には、台湾リグンが同国南部の高尾氏で紫外線の演習をメディアに公開。演習は「青旗」が守る市街地を「赤旗」が攻撃するシナリオに沿って実施され、赤や白の煙が流れる中、装輪装甲車の機銃音や対戦車ロケット弾などの発射音が模擬洗浄に鳴り響きました。
同様の紫外線は、照り付ける真夏の太陽の下や、極寒の中など異なる気象条件の下でも実施の予定。
他方、中国は南シナ海でも従来、軍事的存在感を高めています。人工島を造るなどして、南シナ海の大半が「九段線」と称する断続する9つの線の内側が、自国の権利が及ぶ地域であるとしています。
4. 原油価格が大幅上昇
一方、原油価格も大幅上昇。代表的な原油価格の指標であるWTIは、22日のNY市場で一時、約7年半ぶりとなる1バレル=96台まで上昇。ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部の親露派支配地域の独立を一方的に承認したことにより、産油国ロシアからの供給が減少するのではないかという懸念が浮上。原油価格の更なる上昇につながりました。
WTI先物価格は新型コロナ・ウィルスの変異種、オミクロン株への警戒感から昨年12月の初めには一時、62台まで下落していましたが、その後上昇に転じて、今月14日に95ドル台を付けていました(図表1参照)。
市場関係者は、「欧米各国などによるロシアへの制裁の内容によっては、ロシアからの原油の供給が減少すると懸念する投資家が多くなっています。原油価格は当面、制裁の内容やロシアの対応に左右されそうだ」と話しています。
5. 金価格も上昇
地金大手の田中貴金属工業は22日、金を1グラム当たり前日よりも1円値上げして7791円で販売すると決定。小売価格として2日連続で過去最高を更新。金は有事の安全資産とされており、ウクライナ情勢緊迫化におり、値上がり傾向にあります。
日本取引所グループ(JPX)傘下の大阪取引所の金先物も同日、指標価格が一時7040円に上昇して、取引時間中の最高値に迫りました
他方、米欧、日本、その他新興国などで、ウクライナ情勢の緊迫化を受けて株価は大幅に下落。22日のNY市場では、NYダウが一時▲700ドルを超える大幅下落。今後も、世界的に株価は軟調な展開となることも予想されます。
おはようございます。。世界的に物価が上昇傾向にあります。物価上昇、即ちインフレをどのように捉えるべきか、その影響などのようなものか、またどのように投資判断をすべきなのか、考えてみましょう。
1. 1月米CPI上昇率+7.5%
まず、米国の状況を見ましょう。米労働省が2月10日に発表した2022年1月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.5%と、21年12月の同7.0%から加速。82年2月以来の上昇率。
変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は+6.0%。市場予測はそれぞれ、+7.2%、+5.9%でした。コアCPIは1982年8月以来の上昇率。
2. 商品価格が大幅上昇
米国、あるいはEU(欧州連合)、英国、新興国などで、幅広く物価が上昇。特に商品価格が世界的に著しく上昇しています。
商品(コモディティ)の代表的な指数の1つであるCRB指数は、新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)などの影響により、20年4月24日には112.75ポイントに低下(図表2参照)。2022年2月15日には262.06ポイントとなっており、+132.3%の大幅上昇。
3. 原油価格も大幅上昇
一方、原油価格も大幅上昇。代表的な原油価格の指標であるWTIは、20年4月には1バレル=16.52ドル迄下落(図表3参照)。新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)などにより、世界の景気が大きく落ち込み、原油などに対するエネルギー需要も大幅に下落。原油、天然ガスなど資源価格が大幅下落。
その後は、新型コロナ・ウィルス感染終息への期待、世界景気の回復、それに伴う原油など資源への需要の増大により、原油価格が急回復。22年1月末には1バレル=83.12ドルへと急回復。
世界的に脱酸素への動きが拡大しており、原油、天然がるなどいわゆる化石燃料への投資が大幅に落ち込んでいます。その中で世界の景気拡大、エネルギー需要の急回復により、今後、原油価格が1バレル=100ドルを目指すとの予想もあります。
4. FRBは利上げへ
米国における大幅なCPI上昇、時間当たり賃金の上昇を受けて、米連邦準備理事会(FRB)はテーパリング(資産買い入れ額の縮小)に続き、3月にも利上げに踏み切ると予想されています。
FRBが3月以降利上げに踏み切るとすれば、企業にとっては資金調達コストの上昇につながり、減益要因となります。特に、昨年まで買われてきた、ITなどハイテク株、あるいはグロース(成長)への売りが拡大する可能性もあります。
また、新興国にとっては、米国など先進国の利上げは、資金調達コストの上昇、企業利益の低下、投資家の資金回収などにつながると予想されます。新興国の株式市場、為替市場は、投資家の資金引き上げなどにより、軟調な展開となる可能性があります。
おはようございます。米国では、物価と金利上昇などが焦点となっています。米国経済を点検しましょう。
1. 米CPI上昇率加速
まず、米国の物価を見ておきましょう。米労働省が12月10日発表した消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.8%(図表1参照)。変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は同+4.9%。市場予想はそれぞれ+6.7%、+4.9%でした。
各指標の伸び率を見ると、CPIは1982年6月以来、コア指数は1991年6月以来で最大。一方、前月比ではCPI上昇率が+0.8%、コアCPIが+0.5%と、前月のそれぞれ+0.9%、+0.6%から鈍化。
問題は今後もこのような高いCPI上昇率が続くかどうかですが、原油価格の高止まり、世界的な需要の回復、米国内の雇用情勢の逼迫を考えると、今後もCPIの高い伸び率が継続する可能性が高いと考えられます。
2. FRBはテーパリング終了を前倒し、利上げへ
一方、米連邦準備理事会は、12月14-15日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催して、フェデラルファンドレート(FF)レートの0.00-0.25%の誘導目標維持を決定。さらに、米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドルこうにゅうしてきた量的緩和策について、前回会合で毎月150億ドルずつの減額(テーパリング)開始を決定して今が、22年1月より売の毎月300億ドルに増額することを決定。これにより、22年6月に予定していたテーパリングの終了前倒しを決定。
更に、パウエルFRB議長は「現状は最大雇用に近づいており、加えて高インフレにある中では、リアが迄の期間は(過去のテーパリング後の利上げのように)それほど長くないだろう」として、テーパリング終了予定の22年3月以降、早期の利上げに踏み切る可能性を示唆。
3. 7-9月期GDPは+4.9%に減速
他方、米商務省が10月28日発表した7−9月期GDP成長率(速報値)は、前年同期比で+4.9%と、前期の同+12.2%から減速(図表2参照)。前月比は+2.0%と、前期の同+6.7%から減速。新型コロナ・ウィルスの感染再拡大や物価上昇、製品供給網(サプライチェーン)の目詰まりなど逆風が強まりました。
7-9月期の成長率鈍化には、個人消費が前期比+1.6%へと急減速したことが反映されています。4-6月は同+12%。原材料や人員の不足、輸送面のボトルネック、物価上昇、デルタ株の万円が財・サービス支出を抑制しました。特に自動車に対する支出のGDP寄与度が▲2.39%ポイント。自動車メーカーは、半導体不足デイ生産と在庫の増大に苦慮しています。
4. 雇用者数は堅調
米労働省は2月4日に1月の雇用統計を3日に発表し、非農業部門の雇用者数増加は前月比+46.7万人と堅調。事前に発表されたADPによる統計では、2月2日に発表された1月ぶんが▲30.1万人の減少であったため、雇用統計における非脳病部門の大幅増加はサプライズでした。
1月の失業率は4.0で、前月の3.9%から小幅上昇。FRB(連邦準備理事会)は、目標の1つである「最愛雇用」達成時の失業率を4.0%程度と見ています。
一方、時間当たり賃金は前年同月比+5.7%。賃金上昇圧力が高まっている模様。雇用環境の改善が続いています。
5. 新興国は利上げで対応
一方、新興国では利上げ圧力が高まっています。FRBが3月にも利上げに踏み切ると予想されているため、新興国では通貨下落とインフレ率上昇抑制を目指しています。原油など資源価格の先高観も強く、新興国では、物価と景気の安定の両にらみの難しい金融政策を強いられることとなりそうです。
ブラジル中銀は2日の金融政策決定会合で、政策金利を10.75%から1.5%ポイント引き上げ。利上げは8会合連続で、1月の消費者物価指数は前年同月比10.38%と高止まりしており、中銀の目標である+5%の2倍を超えました。
また、メキシコもインフレへの対応に苦慮。10-12月期GDPは全四半期比で▲0.1%であったものの10日に6会合連続の利上げが予想されます。ブラジルと同様、成長率は前期比で2期連続のマイナス。
ロシアも11日に8会合連続となる利上げが予想されています。政策金利を8.5%から9.75%に引き上げるとの観測も浮上。ウクライナを巡る地政学的リスクも高まっており、通貨ルーブルの下落が加速すれば、インフレ圧力がさらに高まることも予想されます。
おはようございます。フィリピン経済の回復が続いています。
1. 12月CPIが減速
フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は1月5日に、12月の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比+3.6%になったと発表(図表1参照)。伸び率は12か月振りの低さで、前月の+4.2%から大幅減速。市場予想の+3.9%から下振れ。
2. 政策金利を据え置き
一方、フィリピン中央銀行は12月16日の金融政策決定会合で、主要政策金利である翌日物借入金利を据え置きました(図表2参照、上限を表示)。据え置きは市場の予想通り。新型コロナ・ウィルスのオミクロン株の影響を巡る不透明感が増大する中、景気を下支えする意向。インフレ環境は引き続き「制御可能」との認識を示唆。
中銀のジョクノ総裁は会見で「総合的にみると、インフレ環境が制御可能なため、性悪手段を忍耐強く維持する余地がある」としました。また同総裁は、おミクロ株の出現で、経済成長とインフレ率の双方に下振れリスクがあると指摘。「このため、現段階では、現行の金融政策支援を維持することで、今後四半期の景気の勢いを維持できるだろう」と述べました。
3. 10-12月GDP+7.7%に回復
一方、フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は1月27日に、昨年10-12月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+7.7%の伸びになったと発表(図表3参照)。7-9月期の改定値+6.9%から加速し、市場予想の+6.0%から上振れ。クリスマス休暇前に新型コロナ・ウィルスの感染が落ち着いたことを背景に、消費支出が拡大。
21年通年のGDP成長率は+5.6%と、政府の目標である+5.0-5.5%を上回りました。第4四半期のGDPは前期比では+3.1%。
カール・ケンドリック・チュア社会経済・企画長官は会見で、「景気回復への扉は完全に開いている」とし、今年の経済成長が加速するとの見方を示唆。「底堅い回復に向けた正しい軌道をたどっている」としました。
4. ワクチン接種率は低水準
一方、ドゥテルテ大統領はワクチン接種を加速させるべく、接種拒否を理由に投獄も辞さないなど「超法規的措置」を示唆する動きを見せました。それにより、その後のワクチン接種率は加速しているものの、1月24日時点における完全接種率は515.57%と世界平均並みであり、ASEAN主要6か国の中でもインドネシアに次ぐ低水準にとどまっています。
同国経済はASEAN内でも家計消費など内需依存度が高いうえ、外国人観光客を中心とする観光関連産業の割合が高く、行動制限の長期化は景気に深刻な影響を与えます。政府は昨年8月後半以降に、首都マニラなどに貸した行動制限を緩和しました。
昨年末に南アフリカで確認された新たな変異株(オミクロン株)が世界的に急拡大して、足下ではASEAN諸国内でも感染が急拡大。なお、オミクロン株は感染力が非常に強い一方、重症化のリスクは比較的低いとみられています。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、フィリピン・ペソは21年5月末に1ドル=47.67ペソの高値を付けたのち、対ドルで一貫して下落(図表4参照)。ペソの下落の要因としては、経常収支の悪化、資本の流出、ペソの下落についての中銀の容認などがあります。また、米連邦準備理事会(FRB)がテーパリング(資産買い入れの縮小)、利上げの意向を示唆したため、新興国から資金が流出しました。22年1月末と20年12月末との比較では、ペソは対ドルで▲6.47%の下落。
株価は、フィリピン総合指数が20年3月31日に5,266ポイントまで下落したのち、その後は上昇に転じています。22年1月末と20年12月末との比較では、同指数はで+3.10%の小幅上昇。
米景気の好調、物価上昇を受けて、米連邦準備委員会(FRB)はテーパリング(資産買い入れの圧縮)を行いました。FRBは今年3月以降、年4回程度の利上げを行うと予想されています。世界的な金余りという観点からは、フィリピンの通貨、株式市場にはマイナス材料となります。国内景気は比較的良好なため、株価は当面堅調な展開となることも考えられます。
おはようございます。ロシア経済に、不透明感が増しています。
1. 7-9月期成長率+4.3%
連邦国家統計局は11月17日、7-9月期実質成長率(前年同期比、速報値)を+4.3%と発表。天然ガスや石油の価格上昇が寄与したほか、個人消費が回復。四半期ベースでは、4-6月期に続いて2四半期連続でプラス成長(図表1参照)。
前年同期は新型コロナ・ウィルスの感染拡大やエネルギー価格下落の落ち込みが響き、▲3.4%のマイナス成長となっていました。
今年秋以降には、新型コロナ・ウィルス感染がデルタ型の急増に伴い拡大し、1日当たりの死者数は過去最高の水準で推移。10-12月期の内需に影響する可能性があります。
2. インフレ率が引き続き高水準
国家統計局から1月12日発表された12月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+8.4%と、伸び率は前月と同じ(図表2参照)。市場予想の+8.2%からは上振れ。引き続き高い水準を維持。
3. 政策金利を引き上げ
一方、ロシア中央銀行は12月17日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも+1.00%ポイント引き上げて8.50%にすることを決定。利上げは今年7回目で、2017年9月以来の高水準。インフレ率が約6年ぶりの高水準に近づいていることにより、今後数か月で少なくとも1回以上の利上げを実施する可能性があるとしました。利上げは市場の予想通り。
中銀は「基本シナリオとおぢに状況が推移すれば、中銀は今後の会合での追加利上げの可能性を排除しない」と表明。
ナビウリナ総裁「インフレは以前高水準だ。我々の決定は来年末までに目標値まで確実に引き下げることを目標としている」としました。インフレ率は11月の+8.14%から12月に鈍化して、22年には利上げサイクルの累積効果が完全に可視化される可能性が高い。
4. ワクチン接種率が低迷
ロシアでは、昨年来の新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)に際して、世界初となる新型コロナウィルス向けワクチン(スプートニクV)の生産が承認されました。昨年末には接種が開始されるなど、感染収束が期待されました。
ところが接種を躊躇する動きが強く、Our World in Data の集計によると、1月27日時点での1回でも接種を受けた人の割合はロシアで52.00%にとどまっています。上位国では、中国87.59%、韓国86.92%、イタリア82.64%などとなっており、新興国の中でも低い部類となっています。
ロシア国内ではスプートニクVのみが承認されており、いまだにWHO(世界保健機構)が同ワクチンの緊急使用を承認していないなど、有効性への疑問があります。ロシア国内ではワクチン接種を躊躇する傾向が強く、接種の遅れにつながっています。
5. ウクライナ情勢緊迫化
プーチン大統領がウクライナ周辺に約10万人の軍を展開しており、欧米諸国などが反発。NATO(北大西洋条約機構)がポーランドなどに軍を派遣する事態となっています。米バイデン政権はプーチン大統領への反発を強めており、プーチン大統領自身を制裁の対象にすることも検討。
米国は世界中の銀行が決済に利用している世界銀行間通信協会(SWIFT)から、ロシアを締め出すことも検討。もしロシアの銀行がSWIFTを使えなくなれば、ロシアは天然ガス、あるいは原油などのドル決済ができなくなり、輸出が難しくなります。
6. 為替
ここで、ロシアの為替の動きを見ましょう。ロシアの通貨であるロシア・ルーブルは昨年10月以降、対ドルで大幅に下落(図表4参照)。昨年10月27日の1ドル=69.47ルーブルから今年1月27日には同78.70ルーブルへと下落。ウクライナ情勢などをめぐる、上記の地政学的リスクが影響していると考えられます。
7. リスク要因
リスク要因としては、欧米とのウクライナをめぐる対立により、天然ガスあるいは原油の輸出に支障をきたす恐れがあります。輸出額に占める天然ガスと原油の比率は約6割に上っており、エネルギー産業が大きな打撃を受ける恐れがあります。
さらに、ルーブルの下落による物価上昇が挙げられます。12月のCPI上昇率は上記の通り+8.4%と引き続き高い水準。通貨ルーブルの下落は輸入物価を押し上げる要因となり、今後も引き続きCPI上昇率は高止まりすると予想されます。
原油、天然ガスなど資源価格はウクライナの混乱もあり、高止まりしていますが、地政学リスクの高まりなどにより、通貨ルーブルには一段の下押し圧力がかかることも考えられます。
おはようございます。前回のトルコに続いて、日本を見ましょう。
1. 11月CPI上昇率急加速
総務省が12月24日に発表した11月消費者物価指数(CPI)上昇率は、総合が前年同月比+0.6%となり、前月の+0.1%から伸び率が加速(図表1参照)。生鮮食品除く総合も同+0.5%と、前月の+0.1%から加速。
一方、米労働省が1月12日発表した21年12月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+7.0%と、1982年以来39年6か月ぶりの高い伸び。米連邦準備理事会(FRB)がインフレ抑制に向けて、3月にも利上げに着手するとの観測が高まる可能性があります。
他方、英国率統計局(ONS)が19日発表した21年12月のCPIは同+5.4%と、約30年ぶりの大幅上昇。そのほか、EU諸国などでもCPIは大幅に上昇する傾向にあり、日本の物価の弱さが際立っています。
2. 円安が進展
次に円・ドルの動きを見ると、20年12月31日には1ドル=103.09円でしたが、22年1月4日には同116.16円へと大幅に円安となりました(図表2参照)。
日本では従来、円がドルなど主要通貨になると、輸出企業の採算が好転し、貿易黒字、経常収支黒字が拡大することが期待できるため、日本の景気、あるいは株価にとってプラス材料であるとされてきました。
現在は日本国内から米国などへの自動車等の輸出数量が減少しているため、円安が必ずしも景気、あるいは株価にとってプラス要因であるとは言えません。むしろ、原油価格など輸入品の円ベースでの上昇要因となり、「悪い円安」ととらえる向きもあります。
円のドルなど主要通貨に対する下落、あるいは上昇を「良い、悪い」と単純に論ずるのは難しい面もありますが、円の下落が企業コストの押し上げ要因、ひいては企業業績の悪化につながる可能性があるとは言えます。
3. 経常収支縮小
日本は経常収支が黒字であるものの、足下では縮小傾向にあります。昨7−9月期には輸出の伸びが大きく鈍化。世界的に部品供給が停滞して、自動車生産などが大きく下振れ。さらに、原油価格上昇により、貿易収支がほぼ均衡して、経常黒字が減少。
最近のデータでみると、財務省が1月12日発表した21年11月の国際収支統計(速報)によると、経常収支黒字は8973億円と、前年同月比▲48.2%。貿易収支は▲4313億円の赤字。前年同月は+6074億円でした。サービス収支は▲2142億円と、赤字が30.1%の拡大。
企業部門の資金余剰の減少は、企業の所得の海外への流出、あるいは減少を示唆。最近の「オミクロン株」による感染の拡大、世界経済が踊り場を迎えつつあることを考慮すると、輸出の拡大は考えにくい情勢。エネルギー価格も高止まり、あるいはさらに上昇する可能性があり、貿易収支の赤字が続くものと思われます。
財政面では、大幅な財政赤字が継続。岸田政権は、景気対策として大規模な景気対策をとっており、財政赤字が拡大。21年には財政赤字のGDP費が10%弱という高水準で推移する見通し。財政運営に対する信認が低下する恐れもあります。
4. インフレ率上昇のリスク
インフレ率が22年春から上昇するリスクもあります。22年3月迄は、携帯電話の通話料大幅引き下げの影響が継続するものの、4月からは影響が消滅。物価上昇により、日銀のイールド・カーブ(利回り曲線)コントロール政策にも影響を与える可能性があります。
物価(CPI)が+2%迄上昇しなければ日銀の政策に影響を与えないと予想されますが、市場関係者が+2%超えを見込んで行動する可能性があります。長期債が売られ、さらに為替が円安方向に振れると、株価にマイナスの影響を及ぼすとみられます。
日本の潜在成長率は低下傾向にあり、企業の技術革新がなければ、景気が停滞、円安、債券価格下落、株安という展開も可能性があります。政府が潜在成長率を高める政策を打ち出すとも考えられず、22年の日本の株式市場は控えめに見るべきでしょう。
おはようございます。前回の中国に続いて、トルコを見ましょう。
1. 12月CPI上昇率急加速
トルコ統計局が1月3日に発表した12月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+36.08%となり、前月の+21.31%から伸び率が急加速。02年9月以来の高い伸びで、市場予想の+30.6%から上振れ。CPIの伸び率は20年11月(同+14.03%)以来加速傾向にあります。
全指数から値動きの激しい食品やエネルギーなどを除くコアCPIも同+31.88%と、11月ノ+17.62%から加速。
12月のインフレ率の急加速は、主に通貨リラの急落により、輸入物価が上昇したため。12月のPPI(生産者物価指数)は前年比+79.89%、前月比でも+19.08%と、亢進しています。
2. 政策金利を引き下げ
一方、トルコ中央銀行は、12月16日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を▲1.00%ポイント引き下げて14.00%にすることを決定(図表2参照)。市場の予想通りで、4会合連続の引き下げ。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利下げを決めた理由について「オミクロン株の感染拡大による渡航禁止やロックダウン(都市封鎖)と、世界の諸苦慮・農産物価格の上昇、サプライチェーンの制約、需要の動向などの供給サイドの要因によるものだ」として、インフレ加速が一過性に終わるとの見方を示唆。
金融政策の見通しについて「インフレ加速は金融政策の制御を超えた供給サイドの要因であるため、利下げには限界があり、今回の決定で利下げ余地を使い切った」として、今後は利下げサイクルを打ち切る考えを示唆。
3. 7-9月期成長率+7.4%
他方、トルコ統計局が11月30日に発表した7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+21.7% (図表3参照)。4-6月期の+21.7%から減速。市場予想と一致。季節調整済みGDPは前期比+2.7%。
同国の7-9月期成長率は主要20か国・地域(G20)の大半のそれを上回っており、前年同期の+6.3%をも上回りました。
4. 利上げの遅れ懸念
米連邦準備理事会(FRB)がテーパリング(資産買い入れの縮小)に入り、2022年には利上げ局面にはいいると予想されることなどにより、世界全体で流動性が低下。世界経済に対して金融面から下押し圧力を齎すかどうか、注視すべき局面に入っています。そのため、実質政策金利の低下が明らかで経常収支が赤字となっているブラジルととるこの動きが注目されます。
トルコでは、中銀が利下げを継続してことなどにより、通貨が大きく下落。高いインフレ率などを考慮すると、金利水準が低すぎるといえます。エルドアン大統領の介入により、中銀が独立して金融政策を行うのが難しく、利上げは難しい状況にあります。
通貨下落、輸入物価高騰を考慮すると、22年には利上げを開始する可能性があります。そうなると、景気にはマイナスの影響を与えることとなります。もし利上げの開始時期を遅らせると、通貨下落が継続する可能性があります。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。20年12月末から21年12月末まででも▲80.34%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。21年12月末と20年12月末との比較では+22.4%と、堅調。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率の高止まりの可能性が有ります。
一方、新型コロナ・ウィルス感染は変異種「オミクロン株」の拡大により、再び増加するとようされます。欧州でも「オミクロン株」に伴い、一部の国でロックダウン(都市封鎖)が行われるなど、景気に影響が出つつあります。トルコ経済も、足踏みが続くものと予想されます。
おはようございます。前回の米国に続いて、中国を見ましょう。
1. 鉱工業生産の伸び率加速
まず、最近の経済指標を見ておきましょう。中国の国家統計局が12月15日に発表した統計によると、11月の鉱工業生産は+3.8%と、市場予想の+3.6%を上回り、前月の+3.5%から加速。政府の環境規制による電力供給制限が和らいだことなどにより、全体として底堅く推移。新エネルギー車や産業ロボットなどのハイテクセクターの生産が牽引。
2. 10月小売売上高伸び率加速
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、11月の小売売上高は前年同期比+3.9%と、10月の+4.9%から減速(図表2参照)。市場予想の+4.6%からも下振れ。新型コロナの感染再拡大の影響で飲食業などが減速。
4. 1-10月固定資産投資減速
他方、国家統計局による同日発表の1-11月の固定資産投資は、前年同期比+5.2%。今年1-10月の+6.1%から減速。予想の+5.4から下振れ(図表3参照)。政府の不動産規制や不動産大手の経営問題の影響で、不動産開発投資が引き続き減速。
中国経済は新型コロナ流行から堅調に回復したものの、その後勢いを失いつつあります。同国は2022年に向けて、不動産投資の低迷、コロナ再流行に伴う厳格な制限措置で個人消費が低迷するなど、新たな問題に直面。
11月には広告業部門の活動が上向いたものの、新型コロナの感染再拡大は、オミクロン変異株が世界経済の先行きを脅かす中、政策当局者に新たな問題をもたらしています。
4. 11月CPI加速
次に物価の動きを見ましょう。中国では国家統計局が9日に、11月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+2.3%であったと発表。前月の+1.5%から加速。20年8月以来の大きさ。野菜など食品が値上がりしたため、市場予想の+1.4%から上振れ。
CPI上昇率は9月の+0.7%から2か月連続で加速。必需品の値上がりが押し上げています。ガソリンなど交通燃料の上昇率が+36%と加速したほか、燃料高や新型コロナ・ウィルスの感染再拡大に伴う物流の混乱で生鮮野菜が+31%。
中国人の食卓に欠かせない豚肉や▲33%下落したものの、10月の同▲44%からは下落幅が縮小。冬場の需要増や価格安定目的とする政府の備蓄で前月比+12%。
5. PPIは上昇率鈍化
一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、11月の生産者物価指数(PPI)は、前年同月比+12.9%と、前月の+13.5%から鈍化。政府による商品価格高騰の抑制策が功を奏したほか、電力不足の緩和も価格鈍化につながりました。市場予想の+12.4%からは上振れ。
PPIは5月以降、商品価格高騰を背景として伸び率が加速。10月には26年ぶりの高い伸び率。企業は最終製品価格に転嫁するよう迫られました。
ただ、当局はここ数か月で価格抑制に向けた措置をとっており、石炭価格は目標設定や増産要請などにより、今冬に見込まれていた電力不足が緩和しました。
6. 不動産関連規制を導入
中国政府はミクロベースの規制を導入しており、効果が現れつつあります。
不動産業の過剰投資・過剰債務、住宅価格の高騰などを警戒し、20年夏頃から加熱抑制策を強化。住宅ローン総量規制、住宅購入規制に加えて、不動産企業の資金調達条件を厳格化。
「3つのレッド・ライン」として、不動産企業の資金調達の厳格化措置を導入、即ち、(1)負債の対資産比率70%以下、(2)純負債の対資本比率100%以下、(3)手元資金の対短期負債比率100%以上の3つのレッド・ラインに従って、不動産企業を4分類し、それぞれの債務規模を制限。
21年7月に不動産市場の秩序の乱れを是正するための通知を出しています。即ち、今後3年程度に亘り、不動産開発・仲介・賃貸関連サービスの4分野を対象に、政府方針に反する動きを厳格に取り締まるとしています。
7. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表5の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落。
米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、米中貿易摩擦の影響、当局による介入などにより、為替市場は乱高下しました。20年に入り大幅に上昇し、その後急落。21年に入るとやや戻し、21年12月末現在では、昨年12月末との比較で+2.65%の小幅上昇。
株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。
18年に入ると下落に転じ、18年12月末には24930ポイントまで下落し、その後は回復基調。21年12月末には20年12月末と比較して+4.80%の小幅上昇。
8. 当面の注目点は米中関係、不動産市況
当面の注目点としては、米中関係が回復するかどうか、ということがあります。米バイデン政権は、トランプ前政権と同様中国に厳しい姿勢をとるものの、二酸化酸素削減などでは、共同歩調を探る姿勢も見せています。
但、米国は香港、新疆などにおける人権を重視しており、米中の妥協が成立する余地は少ないとみられます。さらに、中国共産党は台湾に対する圧力を強化しており、この点でも米中の対立が激化する可能性があります。
一方、中国国内の不動産市況については、新築住宅価格の上昇が頭打ちとなり、恒大産業など不動産大手のデフォルト(債務不履行)の懸念もあります。不動産市況の悪化により、国内の消費も頭打ちとなる懸念があります。
おはようございます。2022年を展望しましょう。まず、米国経済を見ましょう。
1. 米CPI上昇率加速
まず、米国の物価を見ておきましょう。米労働省が12月10日発表した消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.8%(図表1参照)。変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は同+4.9%。市場予想はそれぞれ+6.7%、+4.9%でした。
各指標の伸び率を見ると、CPIは1982年6月以来、コア指数は1991年6月以来で最大。一方、前月比ではCPI上昇率が+0.8%、コアCPIが+0.5%と、前月のそれぞれ+0.9%、+0.6%から鈍化。
問題は今後もこのような高いCPI上昇率が続くかどうかですが、原油価格の高止まり、世界的な需要の回復、米国内の雇用情勢の逼迫を考えると、今後もCPIの高い伸び率が継続する可能性が高いと考えられます。
2. FRBはテーパリング終了を前倒し、利上げへ
一方、米連邦準備理事会は、12月14-15日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催して、フェデラルファンドレート(FF)レートの0.00-0.25%の誘導目標維持を決定。さらに、米国債を月800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドルこうにゅうしてきた量的緩和策について、前回会合で毎月150億ドルずつの減額(テーパリング)開始を決定して今が、22年1月より売の毎月300億ドルに増額することを決定。これにより、22年6月に予定していたテーパリングの終了前倒しを決定。
更に、パウエルFRB議長は「現状は最大雇用に近づいており、加えて高インフレにある中では、リアが迄の期間は(過去のテーパリング後の利上げのように)それほど長くないだろう」として、テーパリング終了予定の22年3月以降、早期の利上げに踏み切る可能性を示唆。
3. 7-9月期GDPは+4.9%に減速
他方、米商務省が10月28日発表した7−9月期GDP成長率(速報値)は、前年同期比で+4.9%と、前期の同+12.2%から減速(図表2参照)。前月比は+2.0%と、前期の同+6.7%から減速。新型コロナ・ウィルスの感染再拡大や物価上昇、製品供給網(サプライチェーン)の目詰まりなど逆風が強まりました。
7-9月期の成長率鈍化には、個人消費が前期比+1.6%へと急減速したことが反映されています。4-6月は同+12%。原材料や人員の不足、輸送面のボトルネック、物価上昇、デルタ株の万円が財・サービス支出を抑制しました。特に自動車に対する支出のGDP寄与度が▲2.39%ポイント。自動車メーカーは、半導体不足デイ生産と在庫の増大に苦慮しています。
4. WTIは高値圏推移
原油価格は高値を維持。29日のニューヨーク・マーカンタル取引所(NYMEX)で、WTIの期近の22年2月物は前日比+0.58ドル(+0.8%)で取引を終了。一時77.37ドルと、期近ものとしては最高値を付けました。米国では原油とガソリンの在庫が減少して、需給悪化の懸念が和らいでいます。
米エネルギー情報局(EIA)が29日発表した週間の税石油在庫統計では、原油在庫が市場予想以上に減少し、ガソリン在庫は増加を見込んでいた市場予想に反して減少。新型コロナ・ウィルスの変異種「オミクロン株」の感染急拡大にもかかわらず、需要は底堅いとの予想が高まり、原油先物では買いが強まりました。
5. 2022年の物価・金利など見通し
2022年においては、原油、金、銅、鉄など商品市況が高止まりし、インフレ圧力となる可能性が高いでしょう。米国内においては、労働参加率が高まらず、引き続き労働需給が逼迫するものと予想されます。
米FRBはテーパリングを3月にも終了し、早期の利上げを実施する構え。ただ、このところ米長期金利の上昇は鈍く、短期金利が上昇する一方で、長期金利は上昇せず、利回り曲線はフラット化することも予想されます。
英中銀は既に利上げを行っており、米国、EUの中銀がこれに追随する動きを見せることになれば、世界の資金が新興国から先進国へと逆流する傾向が強まる可能性があります。
次回は新興国の動きなどを見る予定です。
おはようございます。ブラジルの景気は、22年に停滞すると予想されています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行は12月8日の金融政策委員会で、政策金利を+1.50%ポイント引き上げて、9.25%にすることを全員一致で決定(図表1参照)。利上げは市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、「インフレ率は依然高い伸びとなっている。物価は全体指数とコア指数の両方が高くなっている。また、コアインフレ率も物価も区報の許容レンジを超えている」としました。「インフレ見通しに対するリスクは上振れ・下振れ両リスクがあるが、パンデミックを受けた財政肥大化によりインフレ期待が上昇して、インフレ率は経済予測のシナリオをオーバーシュートとするリスクがある」として、前回会合時と同様、インフレ加速懸念を強調。
上昇は不安定な要因に牽引され、予想以上に高くなっている。また、コアインフレ率にも上昇圧力がかかり、物価上昇目標の許容レンジを超えている。」とし、更に、「インフレ見通しに対するリスクは上振れとなっており、インフレ率は経済予測の標準シナリオをオーバーシュートする可能性が高い」として、前回9月会合と同様に、インフレ加速懸念を強調。
2. インフレ率が加速
一方、ブラジル地理統計院は12月10日に、11月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。11月のIPCAは前年同月比+10.74%と、前月の同+10.67%から加速(図表2参照)。市場予想の+10.88%からは下振れ。
インフレ率は2003年11月以来の高さとなり、経済の再開、供給網の問題、通貨の弱さ、供給不足などが原因となっています。
3. 7-9月期GDPは+4.0%に減速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は12月2日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+4.0%であったと発表(図表3参照)。市場予想の+4.2%を下回り、前期の改定値+12.3%からは原則。3四半期連続のプラス成長。
前期比では▲0.1%と、7-9月期の▲0.4%に続いて、2四半期連続のマイナス成長となり、定義上の景気後退となりました。旱魃による農産物の不振が響きました。22年10月に再選を目指すボルソナロ大統領にとっては逆風となる模様。
ブラジルの景気後退は、新型コロナ・ウィルスの感染が拡大して20年1-3月、4-6月期に2四半期連続のマイナス成長となって以来。分野別では、新型コロナ・ウィルスの感染者数の減少に伴い、サービス業が全四半期比で+1.1%となったものの、農牧畜業が▲8%と大きく落ち込みました。
要因の1つは、農産物の生産低迷。ブラジル国家食料供給公社によると、2020年10月〜21年9月の穀物生産量の推定は約2億5200万トンと、前の年度比▲2%。約90年ぶりとされる歴史的な旱魃で、主力のトウモロコシや豆類などの穀物の生産が低調となりました。
4. 2022年は低成長に
一方、インフレ亢進と「制限的な領域」への金融引き締めにより、景気の下振れリスクが高まっています。
GDPは2021年4-6月期に前期比▲0.1%(1-3月同+1.2%)と、4四半期ぶりにマイナスとなりました。新型コロナ・ウィルスの第3波に対応した経済活動制限や、部材の供給制限、異常気象による農業生産への影響が重石となりました。その後、経済活動制限の緩和に伴い人流派回復していますが、生産活動は供給制約で停滞。力強い回復は期待しづらい状況。
インフレ亢進により、購買力が低下し、消費マインドが低下。小売り売上高は金額ベースでコロナ前を2割程度上回っているものの、数量(実質)ベースでは、昨年末にコロナ前水準を回復後、頭打ち。
9月の消費者信頼感指数は2か月連続で低下し、低下幅も▲6.5%ポイントと、感染が急拡大した今年3月以来の大幅低下。先行き期待が半年ぶりの大幅に悪化したほか、現状判断も3か月連続で悪化しており、インフレや金利上昇が消費者マインドに悪影響を及ぼしているとみられます。
6. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年4月末には同5.41レアルに下落。但、その後は中銀による利上げなどで持ち直し、6月末には同4.97レアル迄戻しました(図表4参照)。昨年12月末から今年11月末迄で▲8.9%の大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、20年12月末には119,306ポイントに回復。
但、21年に入ってからも回復したものの、その後反落。11月末には101,915ポイントと、昨年12月末比で▲14.5%の下落。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。21年に入り、米国では長期金利が上昇し、FRBによるテーパリング、即ち資産買い入れの縮小を決定。2022年には3回の利上げを行うと表明。
2022年にはブラジル国内の景気が停滞すると予想されます。さらに、中国では恒大産業の債務不履行の懸念があり、中国の不動産市況の低迷、ひいては中国の景気鈍化のリスクもあります。ブラジルの通貨、株価は当面、軟調に推移する可能性もあります。
おはようございます。メキシコ経済にとって、米FRBのテーパリングが重石となっています。
1. CPI上昇率は加速
メキシコ国立地理情報研究所は12 月9日に、メキシコの10月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+7.37になったと発表(図表1参照)。10月の同+6.24%から加速。市場予想の+7.22%から上振れ。
2. 7-9月期GDPは+4.8%に減速
メキシコ統計局は10月29日に、7-9月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+4.8%になったと発表(速報値)。2半期連続のプラス成長となったものの、前期の+19.5%から減速(図表2参照)。ただ、新型コロナ・ウィルスの感染再拡大や自動車生産の縮小により、20年7-9月期の落ち込み(▲8.7%)を補いきれませんでした。
メキシコ統計局は11月26日に、7-9月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、確報値で前年同期比+4.7%になったと発表。自動車産業の落ち込みが響きました。バイデン政権による国産の電気自動車(EV)優遇政策が実現すれば、さらに大きな打撃となる可能性があります。
3. 政策金利を引き上げ
メキシコ銀行(中央銀行)は11月11日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.25%ポイント引き上げて5.00%にすることを決定(図表3参照)。利上げは4会合連続市場の予想通り。決定は4対1と、全会一致ではありませんでした。
中銀は声明で「インフレ増大に繋がっている衝撃は概ね一過性と考えられるものの、影響が及ぶ可能性のある範囲は不明」と指摘。かなりの規模の影響が幅広い商品に及ぶ恐れがあり、価格改正プロセルやインフレ期待へのリスクになるとして、目標を超えて推移するインフレに懸念を表明。
10-12月期の総合インフレ率見通しは+6.8%。コアインフレ率見通しは+5.5%都市、前回見通しの+6.2%、+5.3%からそれぞれ引き上げました。
今後の会合では「インフレ圧力の動向及びインフレ見通しやインフレ期待に影響を及ぼすすべての要因を徹底的に精査する」としました。
4. FRBのテーパリングが重石に
一方米連邦準備理事会(FRB)は15日のFOMC(米連邦準備理事会)で、政策金利であるFFレートの金利誘導目標を現状のゼロ金利に据え置くことを全員一致で決定。さらにテーパリング(量的緩和縮小)については、削減ペースを150億ドルから300億ドルに上げ、1月中旬以降も同額の減額を継続することを決定。
FRBがテーパリングを加速化することを決定したことにより、メキシコをなどの新興国では世界的な金融緩和を受けた「金余り」の手仕舞いが意識されており、米国の低金利を背景として新興国への資金流入に逆風が吹くことが懸念されています。
また、中国の不動産大手の恒大産業が部分的にデフォルト(債務不履行)に陥ったことにより、中国経済が踊り場を迎えつつあるとの認識も広がっています。
さらに、南アなどで急速拡大しているコロナの変異種オミクロン株が欧州、米国、アジアなどに急速に拡大する兆しがあります。オミクロン株がコロナ禍からの回復が進んできた米国、欧州経済にとって重石となり、米国への貿易依存度が高いメキシコ経済にとって、マイナスの要因になることも考えられます。
5. 為替と株価
ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、21年に入って対ドルでやや下落(図表1参照)。その後上昇し、9月半ばまではほぼ横ばいの動き。9月下旬以降は、米FRBのテーパリングなどにより、ドルに対して下落する傾向にあります。
同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、昨年3月には新型コロナ・ウィルス感染拡大により大幅下落。その後は米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和、原油等商品市場の高騰もあり、株価は大幅反発。21年半ばまでは株価は順調に上昇しました。
その後は米FRBによるテーパリング決定などにより株価の上昇が鈍り、夏以降はほぼ横ばいの動きとなっています。
メキシコ経済はコロナ禍からは順調に回復してきたものの、「オミクロン株」の急拡大の懸念、また米FRBのテーパリング強化、米国における「オミクロン株」の拡大などのリスク要因があります。
6月初めに実施された連邦議会下院の中間選挙では、最大与党の左派MORENA(国民再生運動)が議席を減らしたものの、与党連合の枠内では議会の半数を上回る議席を確保し、事前の市場予想であった「ねじれ現象」を回避。
足下ではインフレが懸念材料となっており、ペソの下落による輸入物価上昇の懸念もあります。通貨ペソは米FRBによるテーパリングなどで軟調な展開となることも考えられます。株価の上値も重くなる可能性があります。
おはようございます。インド経済は回復が続いているものの、新型コロナ・ウィルスの新たな変異種の感染再拡大などのリスクもあります。
1. 消費者物価指数上昇率が鈍化
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が11月12日発表した10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+4.48%(図表1参照)。前月の+4.35%から加速。市場予想の+4.32%から上振れ。
食品価格が同+0.85%と、前期の+0.68%から加速。そのほか原油価格が+33.5%、燃料が+14.35%、衣服・靴が+11.4%、運輸・通信が+10.9%、医療が+7.57%など。
2. 4-6月期成長率+20.1%に加速
続いて、インド統計局が11月30日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比+8.4%(図表2参照)。前期の+20.1から減速。市場予想と一致。ただ、主要国では最大の伸び。
景気回復は、順調な個人消費を受けて強まったものの、新型コロナ・ウィルスの変異株「丘ミクロン」の出現により、将来への不安が高まっています。
新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の影響で、経済が停滞していた前年同期は▲7.4%(改定値)でした。
3. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行)は10月8日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表3参照)。据え置きは市場の予想通り。据え置きは8会合連続。
中銀は、会合後に発表した声明文で、現状維持を決定したとについて、前回会合時と同様に「今回の現状維持の決定は、経済成長を支える一方で、インフレ率についても、中期の物価木曜の+4%(レンジは+2〜6%)の達成を目指すという、我々の目的と合致する」としました。
4. 新たな変異株に懸念も回復へ
現在、インドでは新型コロナ・ウィルスの感染状況の改善により、行動規制が緩和され、感染第2波からの経済回復が継続。小売り・娯楽施設への移動は第2波の落ち込みから回復し、足下ではコロナ前の水準に回復。
インド経済監視センター(CMIE)によると、失業率は今年5月に11.9%迄上昇したものの、11月時点では7.0%に低下しており、雇用状況も改善。経済活動が正常化に向かい、消費者や企業のマインドが改善し、10-12月にも内需の回復が続くと予想されます。
一方、最近発見された新型コロナ・ウィルスの新たな変異株である「オミクロン株」が流行すれば、国内各地で感染予防を目的とする活動制限が再び厳格化され、景気回復にとって重石となることも予想されます。足下では感染状況の改善により、人手が増加し、マスク着用などの意識も低下する傾向にあり、オミクロン株の感染拡大の恐れがあります。
オミクロン株拡大による第3波到来の可能性があり、予断を許しません。インドのワクチン接種率は約3割と、先進国よりもかなり遅れています。オミクロン株には、現在用いられているワクチンが効きにくいとの報告もあり、景気の先行きには不透明感があります。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)2021年12月末と2021年11 月末との比較では、▲2.8%の小幅下落 。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、2019年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。21年11月末には57,064ポイントと、20年12月末比では+19.5%と、堅調な動き。
6. 課題とリスク
インドでは、製造業の発達が遅れていること、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が深まっていることなど、多くの課題があります。また、北部カシミール地方の領有権を巡っては、中国と外交的に対立を深めています。中国・インドの対立については、最近はやや緩和する傾向にあります。
上記の通り新型コロナ・ウィルスの変異株である「オミクロン株」が流行懸念もあります。インドでは従来、宗教行事など多数の人が集まる集会の開催により、コロナが拡大してきた経緯があります。「オミクロン株」が流行すれば、再び厳しい行動規制が課されることも考えられます。
インドの強みの1つは人口構成の若さ。今後も15-64歳のいわゆる労働人口の増加が見込まれており、その面では、有利です。一連のコロナ騒動が収まれば、再び成長軌道に復帰するとみられます。
おはようございます。南アで新型コロナの変異種であるオミクロン型が拡大しています。
1. 10月CPI上昇率は+5.0%
まず、南アの経済指標を見ましょう。南アフリカ統計局は11月17日に、10月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+5.0%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+3.1%から上昇率は横ばいで、市場予想に一致。
2. 政策金利を据え置き
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は11月18日に、主要政策金利であるレポレートを+0.25%ポイント引き上げて3.75%にすることを決定。利上げは3年ぶり。インフレ圧力が強まっていると判断し、利上げで対応。
21年の国内総生産(GDP)成長率見通しは+5.2%と、従来予想から▲0.1%ポイント引き下げ。7月に起きた大規模暴動によるマイナス影響が以前の想定よりも大きくなったとしています。22年成長率は+1.7%としました。
3. 4-6月期成長率は+1.2%
一方、南アフリカ政府統計局は9月7日に、4-6月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで+1.2%になったと発表(図表3)。今回の発表には、7月に発生した一部の州での抗議行動や暴動の影響は含まれていません。
4−6月期GDP成長率を産業別にみると、10業種のうち6業種がプラス成長で、運輸・倉庫・通信(+6.9%)、農林水産業(+6.2%)、その他サービス(+2.5%)が回復しつつあります。一方石油や化学製品、ゴム、プラスチック製品の不振で、製造業は▲0.8%。また、GDPの約2割を占める金融・保険・不動産業・企業サービスが▲+0.4%。
4. 変異種「オミクロン」が拡大。
一方、南アでは新型コロナ・ウィルスの変異種「オミクロン株」が発見され、欧米諸国などがアフリカ南部の国々からの渡航制限を強化し、同国では反発が拡大。観光業などへの影響が懸念されます。
南アの国際県警・協力省は、英国が渡航制限を発表すると、生命で「請求だ」と批判。同省のナレディ・パンドール大臣は「我々の懸念は、この決定が両国の観光業とビジネスに影響を与える損害だ」として、英国に再考を求めました。
WHO利用緊急プログラム・テクニカルチーム長のマリア・ファンケルホーフェ氏は「オミクロン」は数多くの変異が生じて、そのうちいくつかは非常に心配な特徴があります」としています。ほかの変異種と比較して、再感染するリスクが高いと指摘。南アのほぼすべての州で感染が広がっているとして、警戒を呼び掛けています。
南アの感染者数は9月をピークとして、1日100人前後まで落ち着いていましたが、11月9日にオミクロン種が見つかって以来、感染が再拡大しています。
5. 欧州などでも急拡大
南アなどで確認されたオミクロン種の感染は、欧州などでも急拡大。11月28日までに欧州でオミクロン種の感染が確認された国は英国、ドイツ、イタリアなどで、オランダでは少なくとも13人の感染を確認。英国は人口の大半を占めるイングランドで、公共交通機関や小売店内でのマスク着用を再び義務化。
オミクロン種は香港や豪州などでも感染が確認されており、アフリカではないじゃリアなどでも拡大。すでに世界各地に拡散。水際対策強化のため、米国では26日、アフリカ南部8か国への渡航中止勧告を出し、イスラエルは27日、すべての外国人の入国を禁じると発表。
オミクロン種に、現在使われているワクチンが有効かどうかはまだ明らかになっていないものの、ワクチンを製造しているビオンテックやモデルなは、新たなワクチンが必要になった場合、来年の早期に供給することが可能だとしています。
オミクロン種の拡大は、世界経済全体にとって怪奇回復の重石となる懸念があり、南アをはじめとする新興国への打撃も大きくなる可能性があります。
おはようございます。トルコ中銀は、予想通り利下げしました。
1. 10月CPI上昇率加速
トルコ統計局が11月3日に発表した10月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+19.89%となり、9月の+19.58%から伸び率が加速。市場予想の+20.4%から下振れ。19年1月以来の高い伸びで、5カ月連続で伸び率が加速しました。
2. 政策金利を引き下げ
一方、トルコ中央銀行は、11月18日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を▲1.00%ポイント引き下げて15.00%にすることを決定(図表2参照)。市場の予想通りで、3会合連続の引き下げ。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利下げを決めた理由について、「上期(1-6月)は世界景気が回復し、新型コロナ・ウィルス・ワクチン接種率が上昇したにも関わらず、デルタ株は世界景気の見通しに対する下振れリスクとなっている」と指摘。
また、前回会合時と同様「最近のインフレ委上昇は、食料と輸入物価、特にエネルギー価格の上昇、サプライチェーンのボトルネックなど、供給サイドの要因によって引き起こされている」とし、「先進国の中央銀行は、景気支援的な金融緩和姿勢と資産買い入れプログラムを継続している」として、先進国の中銀と足内を揃えたい考えを強調。
3. 4-6月期成長率+7.0%
他方、トルコ統計局が8月1日に発表した昨年4-6月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+21.7% (図表3参照)。1-3月期の+7.2%から加速して、4期連続のプラス成長。市場予想と一致。トルコのリュトフィ・エルバン財務相は約+20%と予想していましたが、これをやや上回りました。
新型コロナ・ウィルスの打撃を受けた前年同期からの反動で、輸出や消費が大幅増加。輸出が+59.9%、個人消費が+22.9%と牽引。
産業別では、サービス業が+45.8%、製造業が+43.4%と、それぞれ回復。
政府が20年9月29日に発表した21-23年の新中期3か年経済計画では、21年の成長率は標準シナリオでも+5.8%に回復し、22年と23年はいずれも+5%の安定成長に戻るとみています。一方、エルバン財務相は21年の成長率を+8%超と予想しています。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。20年12月末から今年10月末まででも▲29.19%と大幅下落。
中銀の利下げなどにより、リラの下落が加速。11月23日には対ドルで一時▲15%下落し、一時1ドル=13リラ台半ばまで下落。11月だけでも3割近くやすくなり、年初来の下落率は4割を超えました。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。今年10月末と昨年12月末との比較では+3.06%と、小幅上昇。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率の高止まりの可能性が有ります。
エルドアン大統領は「金利が下がれば物価が下落する」と、経済学の常識とは逆の主張を展開。米FRBをはじめ、世界の中銀の多くが金融引き締めへと動く中、トルコの中銀は9-11月の政策決定会合で計▲4%の利下げを行いました。
23日夜には、首都アンカラや最大都市イスタンブールで「政府は退陣しろ」とのデモが発生。政府や与党の対応に不満を募らせる若者などが政府批判を行いました。規模は数十〜数百人程度と小規模であるものの、エルドアン大統領の強権的政権が継続しているトルコでは、デモ自体が異例。直ちに政治不安に結びつく可能性は低いものの、庶民の不満が今後高まることも予想されます。
おはようございます。世界の気候変動への対応を協議する国連のCOP26が終了。世界全体が脱二酸化炭素に向かうことが鮮明となりました。
1. 主要国の二酸化炭素排出量の現状
まず、世界の主要国・地域の2酸化炭素(CO2)の排出量を見ておきましょう。2020年における主要国・地域の排出量を見ると、米国が2位で45.4億トン、EU(欧州連合)が3位で26.2億トン、日本が6位で10.6億トン。対して中国が1位で116.8億トン、インドが4位で24.1億と、ロシアが5位で16.7億トン(図表1参照)。経済規模と比較して、中国、インド、ロシアの排出量が非常に大きいことがわかります。
2. COP26開催
一方、インドのモディ首相は英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合「世界リーダーサミット」で、1日、2070年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすると表明。インドが実質ゼロの期限を明言するのは初。また、議長国・英国は20年までに世界の森林の破壊を止めるとの目標に、日本など105か国・地域が賛同したと発表。
ただ、中国とロシアは二酸化炭素の排出大国であるにもかかわらず、首脳が会議に欠席。また、サウジアラビアなど資源国も化石燃料削減には消極的な態度を表明。先進国中でも、日本の岸田首相は「化石大賞」を贈られるなど、石炭を使った火力発電所の廃止について批判を浴びました。先進国と新興国、また先進国内の分断が浮かび上がりました。
3. 脱石炭で対立
COP26では11月4日、クリーンなエネルギーへの移行について、議長国の英国が声明を発表。
声明では、主要経済国は可能な限り2030年台に、世界全体では可能な限り2040年台に、排出削減対策が取られていない石炭火力発電所から移行するため、取り組みを進めるとしています。
このような石炭火力発電所については、新規建設を中止するほか、他国での建設に対する政府による直接的な支援をやめるとしています。
声明には、40か国余りが賛同。フランスやドイツといった欧州各国のほか、韓国などアジアの国々、アフリカ、中東の各国が含まれています。
ただ、中国、米国、日本などは含まれていません。
COP26は「グラスゴー気候協定」を採択して終了。地球の気温上昇を産業各目前と比較して1.5度に抑えることの必要性を強調。来年末までに2030年までの損失効果ガス策g兼目標をより強化するよう各国に求めました。
ただ、火力発電については、草案にあった「段階的廃止への努力」という文言を、インドが土壇場で「段階的削減への努力」に弱めるよう提案。米国が容認したものの、島嶼国が不満を表明。関係国の対立が浮き彫りとなりました。
4. ESG投資が拡大
世界の資金の流れを見ると、投資に関しては、ESG(環境、社会、企業統治)を重視する傾向がますます強まっています。環境の重視という観点から、脱二酸化炭素の動きが加速しています。
欧州の主要な運用会社の1つのアムンディによると、2015年のパリ協定から「ネットゼロ」が加速。「ネットゼロ」とは、大気中に放出される温室効果ガスと大気中から除去される温室効果ガスのバランスが取れている状態。
パリ協定では、炭素排出量を2050年までにネットゼロにするとしています。過去5年間で、公的部門と民間部門の双方から、ネットゼロへのコミットメント(関与)が増大しているとしています。
ただ、2050年の達成に向けて順調かどうかという点については、同社はそうではないとし、各国政府がネットゼロの誓約の期限内での完全な履行に必要な法規制を制定したとしても、埋められる排出ギャップは40%にとどまるとしています。
5. オランダ裁判所がシェルにCO2排出削減を命じる
さらに、司法の面でも、脱二酸化炭素に向けた動きが加速。オランダ・ハーグの裁判所は5月26日、英・オランダ石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルの現行の温暖化ガス削減目標は十分でないとして、2030年迄に19年比で▲45%削減するよう命じる判決を言い渡しました。法律専門家や環境団体は、画期的な判決であると評価。
訴訟は環境保護団体グリーンピースや「地球の友」オランダ支部など7団体が、同国の1万7000人の市民を代表して2019年に提起。環境運動家が訴訟によってエネルギー大手に戦略を求める初のケースとなりました。
シェルは判決に「失望している」として、上訴する意向を提示。シェルを含むエネルギー各社には、投資家や活動家、政府から、化石燃料への投資を削減して、再生エネルギーへのシフトを加速するよう圧力が高まっています。
6. 今後の投資をどのように考えるべきか
このように、ESG投資をはじめとして、世界全体で環境に対する意識が高まっています。日米欧などでは、いわゆる「ESG投信」も多数販売されています。ESG投信が本当に環境にやさしい企業に投資しているのか、見極める必要はあるといえます。世界的な潮流であるESG、あるいは脱二酸化炭素という観点から、投資信託、個別銘柄の選定を進める必要性があるといえるでしょう。
また、ESG投資はTOPIX(東証株価指数)、あるいは米国のS&P500指数を上回る成績を収めているという調査結果も出ています。かつて日本で流行した「エコファンド」の中には、単にTOPIXを下回るパフォーマンス(成績)にとどまるものも多く見受けられました。ESGファンドの有効性の検証も必要なっていきます。
また、新興国への投資に際しての、ESGあるいは脱炭素の観点が重要となってきます。特に、ロシア、ブラジルなど資源国のファンダメンタルズに注意したいところです。
おはようございます。タイ経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が悪化しています。
1. 4-6月期成長率+7.5%に回復
タイ国家経済社会開発庁(NESDB)は8月16日に、4-6月期の国民総生産(GDP)成長率が前年同期比+7.5%になったと発表。1-3月期の同▲2.6%から回復し、6四半期ぶりのプラス成長となりました。市場予想の+6.5%からも上振れ(図表1参照)。
1-3月期GDPを需要項目別に見ると、主にない外需の回復が成長率回復に繋がったことがわかります。
民間消費は前年同期比+4.6%(1-3月期は▲0.3%)と大きく増加。政府消費は+1.1%(同+2.1%)とやや鈍化。総資本形成は同+8.1%(同+7.3%)と、小幅増加。
2. 9月CPI伸び率は加速
一方、タイ商業省は11月5日に、10月の消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比+2.38%であったと発表(図2参照)。10月の上昇率は前月の+1.68%から加速。
3. 政策金利を据え置き
一方、タイ中央銀行は9月29の金融政策委員会で、政策金利である翌日物レポ金利を、0.5%に据え置くことを4対2の賛成多数で決定。市場の大方の予想通りであったものの、一部では+0.25%ポイントの利上げを予想していました。
前回8月会合時にはデルタ株の感染拡大がピークに達して、景気への悪影響が懸念されていました。ここ数週間、感染拡大が小休止する兆しが出ています。中銀は、会合後に発表した声明文で「経済の先行き見通しは依然として、不確実性が高いものの、ワクチン接種の加速と、予定よりも早い感染拡大抑制のための経済・社会規制措置の緩和が景気回復を支援する」としました。
更に、今回の会合で発表した最新の経済予測で、21年GDP(国内総生産)成長率見通しをデルタ株感染拡大の悪影響により、前回6月時予想の+1.8%から+0.7%に下方修正。22年の見通しについては、同+3.9%から+3.7%へと上昇修正。
4. コロナ感染状況が改善
タイでは10月28日時点における完全接種率(必要な接種をすべて受けた人の割合)が22.78%と、世界平均の33.23%を大きく下回る一方、部分接種率(少なくとも1回接種を受けた人)は42.27%と世界平均44.85%をわずかに下回る水準。ワクチン接種の裾野が着実に拡大。
タイでは7月以降、変異種の流入により、新規陽性者が急拡大したものの、10月29日における人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)は174人と、ピークの半分近くの水準に低下。
新規陽性者数の急拡大により、医療が逼迫して死亡者数も増加していたものの、足下ではそのペースも鈍化し、改善の傾向にあります。政府は11月に首都バンコクを含む、感染リスクが高いと指定した地域においても、小売店や飲食店の営業制限を解除するなど、経済活動の正常化に動いています。
5. ファンダメンタルズが悪化
タイにおいては、観光関連産業が主要な産業の1つとなっていますが、コロナ感染拡大に伴い、打撃を受けています。それに伴うサービス収支の悪化により、経常収支が赤字化。
通貨バーツの対ドル下落になるなど、資金流出の動きが強まっています。バーツ下落により輸出産業の競争力が高まる一方、バーツ安により、債務負担が高まる恐れがあります。
政府は10月20日に公的債務の上限をGDP比70%に引き上げる方針を決定しており、追加的な財政出動を探っています。他方、経常収支の赤字が拡大する中、財政収支が悪化すれば、経済のファンダメンタルズに対する懸念が高まる可能性が有ります。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると過去1年で、タイ・バーツは対ドルで下落基調(図表4参照)。米FRBがテーパリング(資産の買い入れ縮小)へと動いていること、タイの経常収支の赤字などが影響していると考えられます。
株価について見ると、代表的な株価指数の1つであるSET指数は、20年初めには大きく下落。3月27日にはSET指数は1099.76迄下落し、その後やや回復したものの、6月初旬以降再び低迷(図表5参照)。 その後は世界経済の回復、タイ国内の景気回復などにより、株価は緩やかな上昇となりました。
タイの景気は回復傾向にあるものの、通貨バーツの下落による輸入物価の上昇、経常収支と財政赤字拡大などファンダメンタルズの悪化もあり、先行きに不透明感が強まっています。中国の景気減速もあり、株価はもみ合いの展開となることも予想されます。
おはようございます。ロシア経済に、やや回復する兆しがあります。
1. 4-6月期成長率+10.3%
連邦国家統計局は8月13日、4-6月期実質成長率(前年同期比、速報値)を10.3%と発表。世界的な金融緩和が発生した2009年に次ぐ落ち込みとなった2020年4-6月期以来続いてい来たマイナス成長を脱して、5四半期ぶりにプラス成長に転じました(図表1参照)。
産業別では、小売が前年同期比+23.5、鉱業同+7.8%がプラスに転じました。さらに、製造業、建設、輸送では、前期と比較して伸び率が加速。一方、農林水産業の伸び率は前期比で微減。
需要面では、実質可処分所得が前年同期比+6.8%、実質賃金が+7.7%と回復し、5四半期ぶりにプラスに転じました。20年4-6月期の落ち込みの反動増が要因とみられます。
2. インフレ率が加速
国家統計局から10月6日発表された9月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+7.4%と、伸び率は前月の+6.7%から加速(図表2参照)。市場予想の+7.1も上振れ。
2016年6月以来の高い伸び率で、食品(前年同月比+9.2%、前月は同+7.7%)、非食品(+8.1%、同+8.0%)、サービス(+4.2%、同+3.8%)などが押し上げ。
前月比では+0.6%と、8月の同+0.2%から加速。
3. 政策金利を引き上げ
一方、ロシア中央銀行は10月22日の理事会で、新型コロナ・ウィルスのパンデミックから経済活動を再開し、景気回復が進む中、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも+0.75%ポイント引き上げて7.50%にすることを決定。利上げは市場の予想の+0.50%を上回りサプライズ。これを受けて、通貨ルーブルが上昇。
中銀は会合後に発表した声明文で、追加利上げを決めたことについて、前回9月の会合時と同様、「インフレを持続的に押し上げる要因は依然としてかなり強い。インフレ期待が再び高まっていることを考慮すると、インフレ見通しに対するリスクは著しく大きくなる恐れがあり、物価目標から上振れする方向で乖離する可能性が有る」とし、懸念を表明。「我々の金融政策の姿勢は、こうしたインフレ上振れリスクを抑制して、インフレ率を+4%上昇(物価目標)に戻すことを目的としている」としました。
4. コロナ感染が再拡大
ロシアでは、昨年来の新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)に際して、世界初となる新型コロナウィルス向けワクチン(スプートニクV)の生産が承認されました。昨年末には接種が開始されるなど、感染収束が期待されました。
ところが接種を躊躇する動きが強く、10月23日時点では感染接種率32.83%、部分接種率36.22%に留まっています。ワクチン生産国であるにもかかわらず、世界的に見ても接種率が低位にとどまっています。
特に年明け以降、感染力が強いインドの変異種の感染が拡大。足下における人口100万人当たりの新規感染者数(7日間移動平均)は236人(10月23日時点)と、感染爆発の状態となりつつあります。ロシアではデルタ型以外の複数の変異種も確認されており、感染収束似た窓れば、底入れが期待された景気に水を差す可能性が有ります。
5. 原油価格上昇で恩恵
一方、昨年以降の新型コロナウィルスのパンデミックにより、世界経済が急減速して景気も低迷。それを受けてロシアを含む主要産油国の枠組み樽OPECプラスは、過去最大の協調減産の体制を敷きました。
ただし、昨年後半以降には、世界経済はコロナ禍から急速に回復し、中国、米国等では需要の回復が顕著となり、原油価格も騰勢を強めました。原油の主要な指標の1つでありWTI先物が1バレル=80ドルを突破するなど、原油価格の勢いがましています。
これを受けてOPECプラスも協調減産の緩和を検討してきたものの、緩和は小幅にとどまり、需給の逼迫の懸念が消えたいません。原油価格上昇はロシア経済にとってはプラスとなり、景気回復を後押ししています。
6. 為替
ここで、ロシアの為替の動きを見ましょう。ロシアの通貨であるロシア・ルーブルはここ1年で継続的に対ドルで上昇。20年11月3日の1ドル=80.49ルーブルから21年10月26日には1ドル=69.51ルーブル迄上昇。その後は対ドルでやや下落したものの、引き続き高い水準にとどまっています(図表4参照)。
ルーブルの上昇は主に原油、天然ガスなど資源価格の上昇が要因となっています。但、資源価格上昇により9月のCPI前年同月比上昇率が+7.4%に加速するなど、インフレ懸念がk強まっています。中銀は今後も引締め姿勢をとるものと予想され、高金利、インフレ率上昇が景気回復の重石となる可能性もあります。
おはようございます。世界的に商品市況全般が、騰勢を強めています。
1. IMFが世界経済見通しを引き下げ
先ず、世界景気の動向を見ておきましょう。国際通貨基金(IMF)は10月12日発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、2021年の世界経済成長率見通しを5.9%と、前回7月の予想から▲0.1%引き下げ(図表1参照)。新型コロナ・ウィルス感染再拡大による供給制約が響き、「全体として成長のリスクは下方に傾いている」としました。
世界経済の回復は勢いが弱まったと指摘。新型コロナのデルタ型の流行により、自動車関連の部材等、供給網の目詰まりが起こり、インフレ率が上昇。IMFは22年に供給制約が和らぎ、インフレ率も落ち着くと予想。現状では原油価格なども上昇しているため「インフレ先行きに大きな不確実性がある」と指摘。
IMFが指摘している通り、22年にかけて、原油価格など商品市況の上昇、またそれによるインフレの先行きの懸念があると言えます。
2. リーマン・ショック時との比較
2008年9月に発生したリーマン・ショックにおいては、世界の鉱工業生産が大きく落ち込みました。それに伴い、商品市況(コモディてぃ相場)も大きく下落。リーマン・ショックの前にコモディてぃ投資ブームが起こり、原油や貴金属の市況が高騰していました。
そのため、リーマン・ショック時からの商品市況の回復にはかなりの時間がかかり、世界の鉱工業生産がリーマン・ショック以前の水準を回復して際には、原油や金の価格上昇は一服していました。
これに対して、2020年3月以降のコロナによる世界的な鉱工業生産の落ち込みによる影響においては、それ以前に商品市況がそれほど過熱していなかったという事情があります。コロナにより生産活動が急速に低下したものの、その後は各国の中央銀行の政策もあり、生産、消費共に急速に回復。それに伴い、商品市況も急速に立ち直りました。
3. 商品市況の見通し
ここで、2018年以降の商品市況の動きを見ておきましょう。代表的な指数の1つであるCRB指数は、2018-19年にはほぼ横這いで推移。2020年に入ると下落傾向を強め、2月21日の174.64から4月24日には112.75へと大幅に下落。その後は移転して上昇し、21に入っても上昇。10月27日には238.94へと、20年4月の安値から2倍以上に上昇。
4. 原油市場動き
次に原油市場の動きを見ると、代表的な指数の1つであるWTI先物は、2020年春には暴落して▲40ドルという「マイナス価格」、即ちお金を渡して原油を引き取って貰うという状況に迄落ち込みました。北海ブレントも16ドル弱迄下落。但、その後は需要が急速に回復して、直近では1バレル=80ドルを超える水準迄上昇(図表2参照)。
2020年春には、各国が新型コロナ・ウィルス感染対策により、行動を制限。特に海外への渡航が厳しく制限されて、それに伴い原油価格も急落。その後は各国の行動制限の緩和などにより、需要が回復。WTIの価格は、21年初めにはコロナ危機以前の水準を回復しました。
5. 原油の需給動向
ここで、原油の需要を見ておくと、2020年春には、コロナ危機により石油需要が急速に落ち込み、原油の在庫が急速に積みあがりました。4月21日には米国WTIが▲40ドルという「マイナス価格」に落ちこみという異例の事態となりました。
しかし、その後は需要が急速に回復。21年にはコロナ前の水準を回復。特に最大の消費国である米国の需要が大きく回復。欧州でも回復傾向にあり、20年夏場にコロナ感染が拡大したインドにおいても、復調の傾向にあります。
次に供給を見ると、OPEC(石油輸出国機構)は2016年11月二、日量120万バレルの協調減産を発表。12月には非OPEC産油国との同180万バレルの協調減産を発表。それ以降、OPEC諸国に非OPEC諸国を加えたOPECプラスの協調体制が継続。
20年3月のOPECプラス閣僚級会合では、OPEC側の150万バレルの減産提案をロシアが拒否。その翌月の4月には日量970万バレルの協調減産を決定。
21年7月上旬にはサウジアラビアとアラブ首長国連邦との対立により、原油生産方針を巡る協議が決裂。その後7月18日のOPECプラス閣僚級会合では、減産規模を8月から日量40万バレルずつ縮小することで合意。このため、今後は緩やかな増産が見込まれます。
6. 金価格の動き
ここで、金価格の動きを見ておきましょう。金は商品の中でも最も金融商品に類似しており、長期金利やドルとの関連性が強いという特徴があります。金利のつかない金は長期金利が上昇すると投資妙味が低下して、長期金利が低下すると投資妙味が増加する傾向にあります。
金価格は20年前半には、世界的な需要の落ち込みと経済危機により買われ、大幅に上昇(図表2参照)。21年に入ると、世界的なコロナからの回復により、軟調な展開。
2020年8月には1トロイオンス=2,072ドルの高値を付けた際には、長期金利の低下やドル安が支援材料となりました。さらに、コロナ禍や米中対立などのリスクに対して、安全資産である金を買う動きとなりました。
金価格は、長期金利とも相関性が高く、インフレ率が高まると実質金利が低下して金相場を押し上げる傾向にあります。最も、足下では米国でインフレ率が高まっているものの、仮想通貨など他の資産が買われる傾向にあり、金相場は軟調な展開となっています。
7. ベースメタルの動向
景気に敏感な銅やアルミニウムなどのベースメタルの相場は、21年に入り大幅上昇。銅は5月に入ると市場最高値を更新し、アルミニウムは9月に入ると13年ぶり、ニッケルは7年ぶりの高値をつかました。特に銅は、電気自動車の普及、再生エネルギー関連の投資などにより、今後も堅調な需給関係が継続すると予想されます。
このように、原油を初め、銅などのベースメタルも堅調な価格が継続。世界経済の回復により、今後も相場は強い基調となることも予想されます。米国におけるCPI(消費者物価指数)の上昇率の高止まり、長期金利の高止まりに繋がることも予想されます。
おはようございます。中国で、景気の減速感が強まっています。
1. 景気の指標が軒並み鈍化
中国では18日に9月の主要な景気指標、また7-9月期の実質国内総生産(GDP)の前年比伸び率が発表されました。指標な景気指標は軒並み鈍化。資源価格高騰の影響で企業の収益が悪化し、雇用回復の遅れが、個人消費にも影を落としています。
2. 鉱工業生産の伸び率鈍化
先ず、9月の主な景気の指標を見ておきましょう。
中国の国家統計局が18日に発表した統計によると、9月の鉱工業生産は+3.1%と、8月の+5.3%から減速(図表1参照)。市場予想の+4.5%からも下振れ。
3. 9月小売売上高伸び率鈍化
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、9月の小売売上高は前年同期比+4.4%と、8月の+2.5%から反発(図表2参照)。市場予想の+3.3%からも下振れ。
今年夏は新型コロナ・ウィルスの感染再拡大に伴う移動制限により、外食や旅行が打撃を受けました。雇用回復の遅れも鈍い個人消費に繋がりました。
4. 1-9月固定資産投資減速
他方、国家統計局による同日発表の1-9月の固定資産投資は、前年同期比+7.3%。今年1-8月の+8.9%から減速。予想の+7.9%から下振れ(図表3参照)。
5. 7-9月期GDP+4.9%
中国の国家統計局は18日に今年7-9期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+4.9%と発表(図表4参照)。市場予想の+5.2%を下回り、4-6月期の+7.9%から減速。商品価格上昇により企業の収益が悪化。新型コロナ・ウィルスの感染再拡大を受けた移動制限により消費が低迷。景気の減速感が強まっています。
前期比伸び率は+0.2%。4-6月期の同+1.2%から減速。中国は昨年には主要国に先駆けて新型コロナ・ウィルス感染を抑え込んだとして、経済の再開を開始。ここにきて、回復の速度が一服した感があります。
6. 電力不足、不動産も不振
9月に本格化した電力不足も影響。大幅な電力不足により、多数の向上が操業停止に追い込まれ、メーカーの雇用吸収力が低下。9月の鉱工業生産は前月比で+0.05%と、ほぼ横這い。新型コロナ・ウィするが直撃した20年2月の大幅減以来の停滞。
更に、恒大産業など、大手、中堅不動産の債務問題も影を落としています。中国では、マンションなどは完成する前に販売が行われることが多いわけですが、工事が途中で止まるケースが相次いでいます。マンションを購入した個人からの苦情も増加。消費にも影を落としています。
18日には、不動産中堅の新力控股(シニック・ホールディングス)が、期限を迎えた4600万ドル(約280億円)のドル建て社債を償還できず、債務不履行(デフォルト)となりました。他の大手、中堅にも債務不履行に陥る恐れのある企業が多数あり、マンション価格等不動産市場の下落に繋がる恐れがあります。
7.「共同富裕」も影響
習近平政権は、毛沢東主席が唱えた「共同富裕」の概念を推進。中国では格差を示す「ジニ係数」などで見て、貧富の格差が拡大。そのため、同政権は塾の費用を抑えることにより、教育費の負担軽減を狙っています。それにより、学習塾各社の株価が大幅に下落。
また、アリババなど一部のIT大手に対する規制も強める姿勢も取っています。同社の金融子会社であるアントは、20年11月に上場を計画していたものの、習政権が上場を認めず、資金調達が頓挫。他のIT大手に対する締め付けも強化しており、国有企業を優先する姿勢をとっています。
8. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表4の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落(図表3参照)。
米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、米中貿易摩擦の影響、当局による介入などにより、為替市場は乱高下しました。20年に入り大幅に上昇し、その後急落。21年に入るとやや戻し、21年9月末現在では、昨年12月末との比較で+1.25%の小幅上昇。
株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。
18年に入ると下落に転じ、18年12月末には24930ポイントまで下落し、その後は回復基調。21年9月末には20年12月末と比較して+2.73%の小幅上昇。
9. 当面の注目点は米中関係
当面の注目点としては、米中関係が回復するかどうか、ということがあります。米バイデン政権は、トランプ前政権と同様中国に厳しい姿勢をとるものの、二酸化酸素削減などでは、共同歩調を探る姿勢も見せています。
但、米中関係が急速に改善する可能性は低く、中国は引き続き輸出主導経済からの脱却が課題となります。
インドの「デルタ型」の新型コロナ・ウィルス感染が一部で拡大する兆しもあり、景気の減速も懸念されています。7-9月期GDP伸び率が前期から大幅に鈍化したことから、株価も引き続き上値が重くなる可能性が有ります。
おはようございます。トルコでは高いインフレ率が継続しています。
1. 9月CPI上昇率加速
トルコ統計局が10月4日に発表した9月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+19.58%となり、8月の+19.25%から伸び率が加速。市場予想の+19.7%から下振れ。4カ月連続で伸び率が加速しました。学校再開による教育や家具、生活用品の大幅上昇が全体を押し上げました。
全体指数から値動きの激しい食品やエネルギーなどを除いたコアCPIも前年比+16.98%と、8月の+16.76%を上回り、5月(+16.99%)以来、4か月ぶりの高い伸び。パンデミック前の20年1月の+9.88%を上回っており、依然高い伸び。
2. 政策金利を引き下げ
一方、トルコ中央銀行は、9月23日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を▲1.00%ポイント引き下げて18.00%にすることを決定(図表2参照)。市場は据え置きを予想していました。
中銀は会合後に発表した声明文で、「最近のインフレ上昇は、食料と輸入物価の上昇や差サプライチェーンのボトルネックなど、供給サイドの要因や政府が法律で決める管理価格の上昇、経済再開による需要の動向によって引き起こされており、これらの影響は一時的な要因による」としました。さらに「金融引締めにより、信用や国内需要が抑制され、企業向け融資にも想定以上の悪影響が起き始めている。個人向け融資の伸びを抑制している」と、金融引締め姿勢を緩和する必要があったとしています。
3. 4-6月期成長率+7.0%
他方、トルコ統計局が8月1日に発表した昨年4-6月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+21.7% (図表3参照)。1-3月期の+7.2%から加速して、4期連続のプラス成長。市場予想と一致。トルコのリュトフィ・エルバン財務相は約+20%と予想していましたが、これをやや上回りました。
新型コロナ・ウィルスの打撃を受けた前年同期からの反動で、輸出や消費が大幅増加。輸出が+59.9%、個人消費が+22.9%と牽引。
産業別では、サービス業が+45.8%、製造業が+43.4%と、それぞれ回復。
政府が20年9月29日に発表した21-23年の新中期3か年経済計画では、21年の成長率は標準シナリオでも+5.8%に回復し、22年と23年はいずれも+5%の安定成長に戻るとみています。一方、エルバン財務相は21年の成長率を+8%超と予想しています。
4. 中央銀行が迷走か
トルコにおいては、ここ数年に亘る通貨リラ下落により、輸入物価に押し上げ圧力がかかりやすい状況が継続。昨年後半以降の国際原油価格上昇も重なり、インフレ率は中銀の定めるインフレ目標を大幅に上回る状況が続き、年明け以降にはインフレ懸念が更に強まっています。
そうした状況にもかかわらず、上記の通り中銀は9月の定例会合において、政策金利である1週間物レポ金利を▲1.00%ポイント引き上げ18.00%にするなど、インフレが加速しているにも関わらず利下げをするという、定石とは反対の行動をとっています。
エルドアン大統領が「高インフレは高金利元凶」というとんでもない理論を信奉しており、歴代中銀総裁に利下げ圧力をかけてきました。以降に沿わない総裁を次々に解任。3月二は物価抑制とリラ相場防衛を目的として利上げを実施したアーバル前総裁を更迭。
9月のインフレ率は+19.58%と、一段と加速し、リラ相場は最安値を更新。10月初めに開催された主要産油国(OPECプラス)の閣僚級会議では、小幅の協調減産の維持を決定。世界経済の回復により、原油の需給がタイトになっており、国際原油価格の上昇が継続。原油輸入国にとっては、物価上昇、貿易収支の赤字に繋がっています。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。20年12月末から今年9月末まででも▲19.55%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。今年9月末と昨年12月末との比較では▲4.76%と、やや軟調。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。中銀は今後も利下げを継続する可能性が有り、引き続きリラの下落、インフレ率の高止まりの可能性が有ります。
一方、新型コロナ・ウィルス感染は抑え込みつつあり、経済活動は今後活発化すると予想されます。欧州の景気回復は遅れているものの、米中を中心として世界経済の回復が続く見込みであり、トルコもその恩恵を受けるものと予想されます。
おはようございます。インドネシアでは新型コロナ・ウィルスの感染状況が改善し、景気回復への期待感がやや強まっています。
1. 9月CPI上昇率は+1.6%
インドネシア中央統計局は10月1日に、9月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+1.6%になったと発表(図表1参照)。市場予想の+1.69%から下振れ。前月の+1.59%からほぼ横這いで、引き続き低水準にとどまっています。
2. 政策金利を据え置き
一方、インドネシア中央銀行は9月21日の理事会で、政策金利であるBIレートを3.50%で維持すると発表。据え置きは市場の予想通り。過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利も2.75%に、翌日物貸出ファリリティー金利は4.25%にそれぞれ据え置き。
中銀は会合に発表した声明文で政策金利を据え置いたことについて、前回会合時と同様、「今回の据え置き決定は、低インフレが今後も続くと予想荒れる中、景気回復を支援する一方で、(対ドルで下落している)ルピア相場と金融システムを安定させる必要性と合致する」としました。
3. 4-6期GDP予想を上回る
インドネシア中央統計局は8月5日に、4-6月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比+7.07%であると発表(図表3参照)。5四半期ぶりのプラス成長となり、リセッション(景気後退)から脱却。
成長率は2004年10-12月期以来の大幅な伸びとなり、市場予想の+6.57%から上振れ。
統計局によると、商品(コモディティー)の輸出が+56%となるなど、外需が好調。消費や投資の回復、政府支出の拡大が成長に寄与。輸出は+32%、個人消費が+5.9%。
人の移動の増加に伴い、運輸・倉庫業や食品・飲料業が最も大きな伸びとなりました。但、上率の高さは前年ベースが低かったことが影響しているとしました。
4. 新規感染者数が改善
一方、ASEAN(東南アジア諸国連合)においては、ワクチンが世界的に見て、比較的遅れる状況が続いています。感染力の強いインドのデルタ型の感染が拡大。インドネシアにおいては、6月以降に感染が拡大してことを受けて、7月初めに人口の多いジャワ島と観光地のバリ島北部を対象として「金空措置」の発動に踏み切りました。行動制限を強化して、最低限の経済活動を維持。
7月半ばにかけて急拡大した新規陽性者通はその後、移転して頭打ちとなっており、9月19日時点における人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)は12人と、7月半ばのピークの15分の1以下の水準に低下。足下では新規陽性者数も鈍化しており、感染動向は改善。
5. 政府が予算案提出
他方、政府は8月に予算案を提出し、歳出規模を2708.7億ルピアとしていました。9月14日に議会の予算員会と政府は、来年の経済成長率目標を+5.2%に設定することで合意。予算の規模も2708.7億ルピアから2714.2億ルピアに引き上げることで合意。
予算案おいては、新型コロナ対策として、検査、治療、ワクチン開発などの医療分野への歳出が拡大されるとともに、福祉関連やインフラ関連の歳出も拡充するなど、景気下支えを重視。
予算案では、歳入の前提となる経済成長率を+5.0〜5.5%としており、財政赤字のGDP比は▲4.85%となるなど、今年度予算の▲5.82%から縮小。政府は23年度の財政赤字をGDP比▲3.0%に抑制する計画を掲げるものの、来年度予算案では、財政赤字穴埋めを目的に991.3億ルピア規模の新発国債の発行を見込んでおり、利払い費の増大が将来の財政圧迫要因となる見込みです。
6.為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表4参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻す展開。20年末から21年9月末では、▲2.17%と若干下落。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻し、21年2月末には同▲0.9%まで戻っています。20年末と9月末との比較では、+4.6%の小幅上昇。
米国では、物価及び長期金利上昇への警戒感があり、株価のS&P500指数の上昇が一服。中国では、不動産大手の恒大の債務問題、習近平政権によるIT企業に対する締め付けで、株価が軟調。
インドネシアの景気も楽観はできない状況。インドネシアでは、株価、為替ともにしばらくは様子見気分が高まることも考えられます。
おはようございます。ブラジルではインフレ率が高まるなど、勢いを欠いています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行は9月22日の金融政策委員会で、政策金利を+1.00%ポイント引き上げて、6.25%にすることを全員一致で決定(図表1参照)。利上げは市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、「インフレ率は依然高い伸びとなっている。工業製品の物価はサプライチェーンのボトルネックやインプット価格(生産者物価)上昇などで沈静化していない。また、活動再開が進み、サービスセクターで急送なインフレ加速が続いている:として、追加利上げに踏み切りました。
2. インフレ率が加速
一方、ブラジル地理統計院は9月9日に、8月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。8月のIPCAは前年同月比+9.68%と、前月の同+8.99%から加速(図表2参照)。市場予想の+9.5%から上振れ。
3. 4-6月期GDPは+12.4%に加速
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は9月1日に、4-6月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+12.4%であったと発表(図表3参照)。市場予想を下回ったものの、前期(+0.1%)からは改善。前期比では▲0.1%と、市場予想の+0.2%を下回り、前期の同+1.2%からマイナス成長に転じました。
4-6月期の低迷は、1-3月期の成長の牽引役となった投資が4-6月期にマイナスに転じたことが大きく、またコロナ禍からの回復が滞っている要因として、消費の低迷も挙げられます。
ブラジルでは、昨年末から新型コロナの県戦車数は高めの水準で推移しているものの、急増は避けられており、経済への影響としてはインフレ率の急上昇とそれに伴う購買力の低下も影響しているとみられます。他方、輸出は好調で、主に中国向けの大豆輸出などが成長を支えています。
4. 景気持ち直しは鈍化傾向に
一方、同国では、新型コロナ・ウィルスの影響などにより、景気が昨年4-6月期に記録的な落ち込みとなりました。その後、低所得層への現金給付などの経済対策や、外需の回復、商品市況の反発などにより、景気は徐々に持ち直しに向かいました。
但、足下では、原油価格は堅調なものの、中国が鉄鋼生産を抑えているほか、中国景気に鈍化の兆候が出ていることもあり、鉄鉱石は調整局面になります。中国はブラジルの鉄鉱石の主要輸出先。
更に、高い失業率、高インフレによる個人消費の低迷、金利上昇による投資鈍化が予想され、今後景気は鈍化に向かうと予想されます。
5. 大統領選を控えて政治対立高まる
ブラジルは来年10月に大統領選を控えており、政治的対立が激化。再選を目指すボルソナロ大統領は新型コロナ・ウィルスへの対応を軽視。ワクチン調達を巡って汚職疑惑への関与が指摘され、国民の支持率が低下。
一方、左派のルラ元大統領が出馬の構えを見せています。多くの国民を貧困から救ったとして人気が高く、世論調査の支持率ではボルソナロ氏を大きくリード。同大統領は、選挙に負けても敗北を受け入れない姿勢を示唆。最高裁の指示にも従わないとするなど、言動は過激化しています。
大統領は軍の兵士の信頼が厚く、兵士や警察を味方につけた政治暴動に発展するリスクもあります。また、ルラ氏が大統領に返り咲く場合には、大衆迎合的な政策を展開することも考えられ、財政が悪化するリスクもあり、市場が警戒を強める可能性もあります。
6. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年4月末には同5.41レアルに下落。但、その後は中銀による利上げなどで持ち直し、6月末には同4.97レアル迄戻しました(図表4参照)。昨年12月末から今年8月末迄で+0.96%の小幅上昇。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、20年12月末には119,306ポイントに回復。
但、21年に入ってからも回復したものの、その後反落。8月末には118,781ポイントと、昨年12月末比で▲0.44%の小幅下落。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。21年に入り、米国では長期金利が上昇し、FRBによるテーパリング、即ち資産買い入れの縮小も予想されます。
中国では恒大産業の債務不履行の懸念があり、景気が減速。ブラジルの株価は当面、軟調に推移する可能性もあります。
おはようございます。前回はリスク要因、課題を見ましたが、今回は物価、金融政策、為替、株価について。
1. 8月CPI前月比減速
中国では国家統計局が9日に、8月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+0.9%であったと発表。前月の+1.0%から減速。市場予想の+1.0%から下振れ。政府の今年のインフレ目標である+3%を下回りました。
当局が新型コロナ・ウィルスのデルタ型感染拡大を抑制するために、行動制限を強化したため、サービス業の需要が落ち込んだことが背景にあります。但、既に中国のコロナ感染状況は落ち着きを見せています。
国家統計局薫氏は、航空券、旅行、ホテル宿泊の価格下落が月間ベースのCPI伸び鈍化に繋がったとしています。
2. PPIは大幅上昇
一方、中国の国家統計局の同日の発表によると、8月の生産者物価指数(PPI)は、前年同月比+9.5%と、前月の+9.0%から大幅加速。市場予想の9.0%から上振れ。政府の抑制策にもかかわらず、コモディティー(商品)価格が高止まりしていることが影響。
商品価格上昇が、部品及び最終製品メーカーの収益を圧迫。中国の石炭は7日、過去最高値を更新。国内の主要石炭生産地で安全監査が始まり、供給に対する懸念が生じています。
但、不動産セクターの規制や信用の伸び鈍化を背景に、建設活動が減退する中、石炭や金属の価格は再び下落するとの観測もあります。
3. 預金準備率を引き下げ
中国人民銀行は7月9日に、中央銀行が強制的に預金を預かる比率である預金準備率を、大手銀行標準で▲0.5%ポイント引き下げて、12.0%にすることを決定(図表2参照)。
預金準備率の引き下げ自体は、事前に国務院常務会議において示唆されていたものの、市場では引き下げは中小銀行に限定されるとの予想が一般的でした。対象が大規模行まで拡大されたことで、想定よりも緩和的な姿勢と受け取られました。
一方、この措置により、包括的な対応が必要なほど中国景気が悪化している、との認識が広まりました。
4. 株価と為替
ここで、中国について株価及び為替の動きを2005年以降で見ると、図表4の通り。為替については、人民元はドルに対して、13年12月末には1ドル=6.053元の高値をつけたものの、その後は一貫して下落(図表3参照)。
米国でトランプ政権が誕生し、中国が為替操作国であるとの批判を強めました。17年にはこれに呼応する形で元高に転換し、17年末には前年比+6.3%の上昇。18年に入ると、米中貿易摩擦の影響、当局による介入などにより、為替市場は乱高下しました。20年に入り大幅に上昇し、その後急落。21年に入るとやや戻し、21年8月末現在では、昨年12月末との比較で+4.89%の上昇。
株価については、上海総合指数月末値でみて、14年半ばから15年半ばにかけて大きく上昇。15年5月には同指数が4611ポイントの高値を付けましたが、その後急落。16年2月には2687ポイントまで下落、その後は緩やかに回復。
18年に入ると下落に転じ、18年12月末には24930ポイントまで下落し、その後は回復基調。21年8月末には20年12月末と比較して+2.0%の小幅上昇。
中国では、不動産大手の恒大産業の巨額の債務問題が話題となっています。同社の巨額の債務の支払い期限が次々と到来する予定であり、最近の世界的な株価下落の原因となっています。
4. 当面の注目点は米中関係
当面の注目点としては、米中関係が回復するかどうか、ということがあります。米バイデン政権は、トランプ前政権と同様中国に厳しい姿勢をとるものの、二酸化酸素削減などでは、共同歩調を探る姿勢も見せています。
但、米中関係が急速に改善する可能性は低く、中国は引き続き輸出主導経済からの脱却が課題となります。
インドの「デルタ型」の新型コロナ・ウィルス感染が一部で拡大する兆しもあり、景気の減速も懸念されています。
おはようございます。今回は、リスク要因と課題について考察します。
1. 最近の景気動向
まず、最近の景気を見ておきましょう。中国の国家統計局は15日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+7.9%と発表(図表1参照)。市場予想の+7.7%を上回り、好調な鉱工業生産などに支えられました。今後は、資源価格高騰によるPPI(卸売物価指数)上昇により、企業利益が圧迫される懸念があります。
新型コロナ・ウィルス感染による落ち込みの反動で、前年同期比+18.3%となった前期(1-3月期)からは鈍化したものの、4-6月期には比較的高い成長率を維持しました。
3月の全国人民代表者大会(全人代、国会に相当)終了後、全国的に移動制限が緩和され、経済活動が活発になりました。
2. 成長率緩やかに低下
中国では長らく一人っ子政策が推進され、2013年をピークとして生産年齢人口(15-64歳)が減少に転じました。人口構成を見ると、今後生産人口となる14歳以下の人口が少なく、定年退職が視野に入ってくる50歳代前半の人口が多くなっています(図表2参照)。すなわち、今後も生産年齢人口が減少し、経済成長率にマイナスの影響を齎すこととなるでしょう。
更に、従来の輸出と固定資産投資を牽引役とする成長モデルも限界に来ています。これまで、?小平氏による改革開放により、外資を呼び込み、農村部からの安価な労働力の供給により、中国は製造業、あるいは組み立て加工による世界の工場としての地位を確立しました。
しかし、最低賃金の上昇などにより、輸出主導型の経済は行き詰っています。また、地方政府による固定資産投資拡大は、住宅価格高騰、地方財政の悪化を招いています。今後は、個人消費主導の内需型経済への転換が期待されますが、個人消費には、景気を牽引するほどの強さはないとみられており、今後は緩やかに成長率が低下するものと予想されます。
3. 貧富の格差が拡大
中国では貧富の格差が拡大しており、習政権は「共同富裕」を掲げて、是正に乗り出しました。共同富裕とは、貧富の格差を縮小して社会全体が豊かになるという、中国共産党が掲げる目標。1953年に建国の父、毛沢東氏が提唱。78年から改革開放に着手した?小平氏が唱えた「先に豊かになれる者から豊かになりなさい」とい先富論と対比されがちではあるが、?小平氏も共同富裕を最終目標としていました。
理念とは異なり、世界第2位の経済大国に成長する過程で、貧富の格差が拡大。クレディ・スイスによると、中国富裕層の上位1%によると見の占有率は2000年に20.9%でしたが、15年には31.5%に上昇。20年には30.6%まで低下したものの、過去20年の上昇率は、日米欧、インド、ロシア、ブラジルを上回っています(図表3参照)。
4. 政治体制が硬直化
一方、中国共産党宣伝部は8月27日迄に公表した文書で、習近平党総書記を「大国の舵取り」を担う存在として、毛沢東主席と同等の扱いで紹介。強力な中央政権が安定の前提であるとして、一党支配を正当化。但、「低俗な個人崇拝」は否定し、集団指導体制は守るとしました。
但、習近平氏は、従来10年を限度としてきた国家主席の地位を今後も継続する構えであり、実質的な個人崇拝に進んでいるとの見方もあります。政治体制が硬直化することにより、政府の統制が進む恐れがあります。
5. 企業への締め付け強化
更に、中国国家市場監督監理総局は8月17日、不正競争法などに基づき、インターネット企業の不正競争行為を禁止する規制強化案を公表。アリババ集団や騰訊(テンセント)などIT大手に対する締め付けを強化するとみられます。
強化案は、ネット企業がデータやアルゴリズムを用いて利用者の選択の影響を与え、自社のサイトに留め置いたり、他社のサービスを妨害したりすることを禁じています。違反した場合、第三者や専門が調査。
このほか、習政権は学習費の高騰が少子高齢化の原因であるとして、学習塾の費用低下に乗り出しました。そのほか、共同富裕に関しては、贅沢品を狙い撃ち。国営メディアが論説や記事で、こぞって消費者保護のための監視強化を呼びかけました。
これにより、貴州茅台酒など酒造メーカーの株価が下落。また、インターネットを通じて販売される処方薬の保証強化を人民日報が呼びかけたことからオンラインヘルスケア株も下落。政府による場当たり的な政策が、企業の成長を阻害する恐れがあります。
6. 外交の摩擦増加
外交面でも西側諸国との摩擦が増大。ウィグル自治区における人権侵害を問題視して、アパレル企業などがウィグルにおける綿花の輸入を停止。共産党による香港民主派への締め付けが増大しており、欧米などとの対立も激化。
米国は南シナ海における「航行の自由」を主張し、英国も空母を南シナ海に派遣。米バイデン政権は日本、豪州、インドなどと共に中国包囲網の形成に動いています。さらに、一帯一路も必ずしも順調に進んでおらず、債務不履行のスリランカなどから港などインフレを取り上げる中国の姿勢を各国が非難。鳴り物入りで始まったアジアインフラ投資銀行(AIIB)も十分機能しているとは言えず、今後の中国の外交に懸念が高まっています。
次回は、中国経済の物価、金利、為替、株価について見る予定です。
おはようございます。前回は米中関係について考察しましたが、今回はサプライチェーンなどを見ていきましょう。
1. 「世界の工場」が曲がり角
中国は1970年代に改革開放に転換して以来、豊富な労働力と低賃金を生かして、「世界の工場」としての地位と確率。原材料、技術、部品を海外に依存しつつ、軽工業、重化学工業、加工産業へと順調に発展。
しかし、人口構成の変化などにより、農村部から都市部への安価な労働力の供給が困難となり、賃金が上昇。さらに、米中の対立、海外における保護主義の抬頭により、海外からの技術、部品の輸入に困難を来すこととなりました。
そのため中国政府は、「国内循環」を主体として、国内・国際の2つの循環が綜合に促進するという、「双循環」戦略を打ち出しています。
2. 双循環戦略
「双循環」という概念は、2020年5月14日に中国共産党中央政治常務委員会において初めて提起されました。その内容は、7月21日の企業家座談会における習近平総書記長の演説を基に、次のように求めることができます。
双循環とは、国内循環を主体として、国内と国際の2つの循環が相互に促進する新たな発展戦略。これは、中国の発展段階・環境の変化に基づいて提起されたものであり、中国の国際協力徒競走の新たな優位性を再構築するための戦略的選択。
これまで、経済のグローバル化が進んだ外部環境の下では、市場と資源を外に求めることは、中国の急速な発展に重要な役割を果たしてきました。しかし、現在のような保護主義が台頭し、グローバル市場が委縮した外部環境下では、中国は国内の巨大市場という融資性を十分生かさなければならない、としています。
3. 加工貿易を中銀とする国際循環の限界
中国が改革開放に転じて以来、国際循環の中心は加工貿易でした。輸出企業は技術や資金を大きく海外に依存し、原材料や部品などの中間財を大量に輸入して、中国で加工した完成品を海外に輸出するというビジネスモデル。
加工貿易のサプライチェーンにおける付加価値を表す「スマイルカーブ」で見ると、中国が競争力を持つのはスマイルカーブの下の部分にあたる組み立て・加工の部分。組み立ては付加価値が低く、利益が出にくくなっています(図表1参照)。
川上である研究開発、部品生産、また川下であるブランド・販売、アフターサービスは利幅が大きいものの、いずれも海外に依存するという構造。
中国が主に行っている川中の組み立て・加工においては利幅が小さく、賃金が上昇すれば、更に利益が出にくい構造となっています。
アップル社のiPhoneの3Gの価格は500ドルでしたが、その国際価格の配分では、米国331.79ドル、日独韓国が161.71ドルに対して、中国はわずか6.5ドルでした。加工を行うだけでは、高い付加価値を付けることはできず、今後中国が高い成長力を維持できないことがわかります。
4. 海外からの技術移転に支障
トランプ前大統領は、中国企業に対する締め付けを強化してきました。その象徴が、中国の通信機器大手フアェイ(華為技術)に対する制裁の強化。米商務省は20年8月17日、同社に対する追加制裁を発表。同社は外国製半導体の供給を絶たれ、深刻な打撃を受けることとなりました。
新たな制裁措置により、外国のメーカーが米国のソフトや技術を使って開発、製造した半導体を宇アウェイに供給することが禁止されました。
米政府は5月、台湾積体製造(TSMC)のような外国メーカーが、米国製の装置を使った製造した半導体をフアウェイやその子会社に無許可で供給することを禁止していました。新たな措置では、制限対象がさらに拡大。
フアェイは、高速通信規格「5G」に使われる通信機器はスマートフォンの製造に付加する部品として、外国製の半導体に依存していきました。トランプ政権は更に、中国の動画「Tic Tok」や通信アプリ「微信(ウィーチャット)」の追放を図るなど締め付けを強化。
バイデン政権も引き続き中国には厳しい態度をとっており、中国にとってのサプライチェーン(供給網)寸断が問題となります。
中国は今後、米国など海外からの半導体など部品の輸入、あるいは技術の移転に支障を来す可能性があります。また、日本、米国などにとっても、中国から突然部品、あるいは嘗てあったようにレアアースなどの原材料が突然止まるリスクがあります。先進国にとっても、中国を含めたサプライチェーンの見直しが課題となります。
5. 特許件数
このように、中国にとっては今後海外からの技術移転に苦慮する可能性が有るものの、明るい点もあります。その1つが特許件数。国別特許出願件数(PCT制度)では、2019年、2020年と、中国は米国、日本などを抑えて1位となっています(図表2参照)。
但、統計の中身には留意も必要。特許にはオリジナリティのある1次特許と、そうでない2次特許の2つがあります。1次特許の方が重要であるとされますが、両者の数字が混在しています。1次特許については、米国、日本、韓国、ドイツの方が多い可能性があります。
但、AI、ロボットなど、先端技術に関する優位な論文の数でも、最近は中国がトップに立つことが多くなっています。特許の件数の増加も、中国の国力の向上の表れととらえることができます。
次回はリスク要因、課題などを見る予定です。
おはようございます。前回は中国の経済の現状について見ましたが、今回は米中関係について考察しましょう。
1. 米国の対中財貿易赤字が縮小
トランプ前大統領は執拗に中国に対する非難を繰り返しました。根拠の1つが中国に対する巨額の財貿易赤字でした。
2020年の米国の財貿易を国・地域別に見ると、輸出では中国以外、輸入ではアジアNIES以外で前年比減少(図表1参照)。対中国では、中国国内の経済活動回復などを背景に、大豆や原油などを中心に輸出が+16.0%伸びて、輸入は▲3.7%となったことにより、赤字額は▲9.9%の減少となり、3,102億ドルとなりました。
対中赤字は減少したとは言え、20年の貿易赤字▲9,155億ドルに対して約3分の1を占めており、依然として主要な貿易赤字国となっています。
2. 中国に対する感情が悪化
先進国では、中国に対する否定的な見方が高水準にとどまっていることが、米ピュー・リサーチ・センターの最新調査で分かりました。人権問題に関する懸念が新型コロナ・ウィルス(COVID-19)対応への一定の評価を打ち消しています。
同センターが2-5月に実施した先進17か国・地域の成人約1万8900人を対象とした調査によると、15か国・地域で過半数の人々が中国を好ましくないと見ています。カナダ、ドイツ、韓国、米国では中国に対する否定的な見方が、これまでで最も高くなりました(図表2参照)。米国では2月時点で約76%が中国を好ましくないと回答しており、その割合は昨年比+3%ポイント上昇。
同調査では、2010年位には米国の「好ましい(Favorable)」が「好ましくない(Unfavorable)」を上回っていたものの、その後対中感情が悪化。特にトランプ政権発足とともに悪化してきており、バイデン政権になっても、対中感情が好転する兆しはありません。
3. 香港を巡る対立が激化
一方、中国政府が香港の民主主義運動弾圧のため「国家安全維持法(国安法)」を導入してから約1年半が経過。香港は中国への返還時にその時点の法律、自由を維持する「一国二制度」を中国共産党政府が約束したわけですが、同法により香港の政治的自由は完全に葬られることとなりました。
中国当局はこの法律を、殆どの人が想像もできなかったほどの速さと範囲で活用。香港の民主派による街頭でのデモを弾圧。活動家による外国政府への働き掛けも禁止しして、香港立法会(議会)を無力化、反対勢力の逮捕を拡大。
民主派への弾圧の象徴的な出来事の1つが蘋果日報(林檎日報)の廃刊。民主派の新聞として知られる同紙は、6月24日、最後の朝刊を発行し、26年に亘る歴史を閉じました。香港主要紙で唯一民主派支持を続けが同氏は、「一国二制度」の象徴とみなされてきましたが、当局の圧力により、廃刊に追い込まれました。
香港が返還されてからまだ30年も経過していないにも関わらず、「一国二制度」が崩壊。香港ではもはや英国法を基本とする法体系が崩壊し、議会も形骸化、政治的自由が完全丹生審査われることとなりました。
香港が国際的金融センターであり続けることは困難になると予想されます。自由を奪われたエリートあるいは富裕層の多くは英国など国外に脱出すると思われます。香港ドルと米ドルとのペッグ制の維持も困難になる可能性があります。
4. ウィグル問題でも対立
中国共産党によるウィグル人に対する弾圧は、以前から継続していたものの、習政権になってから弾圧が更に苛酷な状況となっています。
17年にトランプ政権が誕生。トランプ政権は中東などにおけるテロとの戦以上に、中国に対する強硬姿勢を維持。ウィグル問題に関しても、歴代政権以上に中国政府を強く非難。
また、ここにきてウィグル産の綿花の使用を停止する動きが世界各地で拡大。主要なアパレルメーカーも、綿花の原産地を問われることとなり、ユニクロなど主要なアパレルメーカーは原産地を開示するよう、NGOなどから強く求められることとなりました。
5. 知財、ハイテク分野でも対立が継続
また、知的財産権、ハイテク分野でも米中の対立が継続。米トランプ政権はファウェイなど一部中国企業が、米国のハイテク技術を持ち出していると強く非難。同社の副社長が、米国の要請によりカナダで逮捕される事態に発展。
更に、中国はAI(人口知能)、ロボットなど主要なハイテク分野において、高く評価される論文の数などで、急速に米国に追い付いています。バイデン政権もハイテク分野における中国の抬頭を警戒しており、トランプ政権と同様の強硬な姿勢を維持しています。
国際特許出願件数でも、中国は日本を追い越し、米国も追い抜く勢い。まだ、南シナ海、東シナ海などで海洋進出も加速。香港に続いて台湾もかねてより中国の「核心的利益」であるとして、軍事力を誇示。米中の対立は、日本、韓国などの周辺国桃着込みつつ、更に攻防が激しくなることとなりそうです。
次回はグローバル・サプライ・チェーンなどを見る予定です。
おはようございます。前回は中国の政治について見ましたが、今回は経済の現状と見通しについて考察しましょう。
1. 鉱工業生産の伸び率鈍化
まず7月の統計で、鉱工業生産などを見ておきましょう。
中国の国家統計局が8月16日に発表した統計によると、7月の鉱工業生産は+6.4%と、6月の+8.3%から減速(図表1参照)。市場予想の+7.8%からも下振れ。
2. 7月小売売上高伸び率鈍化
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、7月の小売売上高は前年同期比+8.5%と、6月の+12.1%から減速(図表2参照)。市場予想の+11.5%からも下振れ。
3. 1-7月固定資産投資減速
他方、国家統計局による同日発表の1-7月の固定資産投資は、前年同期比+10.3%。今年1-6月の+12.6%から減速。予想の+11.3%から下振れ(図表3参照)。
このように、7月の鉱工業生産、小売売上高、1-7月固定資産投資はいずれも前月、あるいは1-6月期より鈍化し、市場予想を下回りました。輸出の減速に加え、新型コロナ・ウィルスの国内感染拡大や洪水で、景気の下押し圧力が強まる兆候であると見られます。
4. 4-6月期GDP+7.9%
続いて、GDPについても見ておきましょう。中国の国家統計局は7月15日に今年4-6期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+7.9%と発表(図表4参照)。市場予想の+7.7%を上回り、好調な鉱工業生産などに支えられました。今後は、資源価格高騰によるPPI(卸売物価指数)上昇により、企業利益が圧迫される懸念があります。
新型コロナ・ウィルス感染による落ち込みの反動で、前年同期比+18.3%となった前期(1-3月期)からは鈍化したものの、4-6月期には比較的高い成長率を維持しました。
3月の全国人民代表者大会(全人代、国会に相当)終了後、全国的に移動制限が緩和され、経済活動が活発になりました。
今後の懸念材料としては、世界的な資源価格上昇があります。中国、米国が新型コロナ・ウィルス感染による打撃からいち早く立ち直り、日本、EU等先進国も景気が回復傾向にあります。それに伴い、原油価格、銅価格などが上昇。PPIの上昇により、中国企業の収益が圧迫される可能性が有ります。
5. IMFがアジア新興・途上国・地域の見通し引き下げ
一方、国際通貨基金(IMF)は7月27日発表の「世界経済見通し(WEO、改定見通し)」で、アジアの新興・途上国・地域の21年のGDP成長率を+7.5%とする予測を発表。前回4月発表よりも▲1.1%ポイント引き下げ。一方、22年予測については、前回発表から+0.4%ポイント引き上げ(図表5参照)。
但、中国は21年▲0.3%ポイントの小幅引き下げにとどまっており、22年は+0.1%の小幅引き上げ。引き続き、中国の高い成長率を見込んでいます。
6. 中国経済の見通し
中国経済は、新型コロナ・ウィルスの感染の早期抑制の成功により、20年もプラス成長を維持し、21年も上記の通り高成長を維持する見込み。
従来の中国経済は、国内の固定資産投資と輸出が主導してきました。固定資産投資とは主に、鉄道、道路、空港、港湾などインフラの整備で、地方政府が主に担ってきました。但、地方政府の負債の増大などにより、固定資産投資先行の経済発展は見込みづらくなっています。
輸出についても、米国との貿易摩擦により、大きく拡大することは期待できません。最近は特に、ウィグルなどを巡って企業に対するESGの圧力も増しており、中国からの一部綿花の輸入に支障を来す事態となっています。
固定資産投資、輸出に代わって成長の牽引役となるのが期待されているのが個人消費。中国では従来貯蓄率が高く、個人消費の伸びが期待されたほどではなかったということがあります。直近では7月の個人消費は上記の通り前年同期比+8.5%と、前月の+12.1%から減速。
また、中国社会には国有企業、就業などについて様々な課題がありますが、社会の課題については、別の機会に見ることにしようと思います。
次回は米中の対立などを見る予定です。
おはようございます。中国経済は、米国に対抗しうる迄成長しました。中国経済の現状と展望、米中関係などについて考察していきます。
1. 共産党創立百周年
2021年は中国にとってどのような年でしょうか。中国共産党は、2021年7月に百周年を迎え、1日には習近平国家主席が重要演説を行いました。中国共産党の歴史振り返ると、主な出来事は図表1の通り。
共産党は1921年に創立され、その後、約28年にわたり日本および国民党を戦って政権を樹立して、現在の中華人民共和国が成立。その後27年に亘り毛沢東による統治が続きましたが、この間は文化大革命など、大きな変動がありました。数千万人が死亡したとの見方もあり、この27年間は中国の数千年の歴史の中でも、最も暗黒の時代であったとの見方もあります。
2. 改革開放
共産党は当初はソ連を手本とするマルクス・レーニン主義を掲げるものの、ソ連との関係の悪化もあり、次第に独自色を強めました。最も大きな転機となったモが1978年開始の「改革・開放」。?小平(とうしょうへい)氏は「黒い猫でも白い猫でも、鼠を捕るのが良い猫だ」として、政治的には共産主義を維持しつつも、経済は自由化するという路線を取りました。
?小平氏は1978年に夫人と共に来日。同氏は現在のパナソニックの大阪の工場を視察するために東京から大阪へと新幹線に乗りました。?小平氏は「背中を押されているようで早すぎる」との感想を述べ、非常に印象深い視察となりました。
3. 日本をモデルに発展を目指す
同じ時期に中国政府は米国、ドイツ、英国、フランスにも使節団を派遣し、その国のモデルと参考にすべきかを検討。その結果日本のモデルを採用。日本の技術水準が非常に高いこと、さらに日本の社会格差が小さいことが理由であるとされています。
4. 天安門事件
このように中国が改革・開放へと向かい、西側諸国は中国の民主化が進展するのではないかと、期待しました。民主化の期待を裏切る事件となったのが1989年の天安門事件。民主化を求める学生・市民に対して、人民解放軍が投入され、弾圧されました。
この事件により、経済の自由化は進めるものの、政治の自由化は行わないという、中国共産党のその後の路線が明確となりました。その後は共産党の一党独裁を堅持しつつも、高度な経済成長を実現し、米国に対抗しうる迄になりました。
5. 習近平政権の誕生
?小平氏は後継者として江沢民氏、胡錦濤氏を氏名し、この2人までは?小平氏の息のかかった指導者が続きました。江沢民、胡錦濤両氏とも、?小平氏の路線を引き継ぎ、経済の自由化、共産党の一党独裁の堅持をつづけました。
対外的には?小平氏の唱える「韜光養晦(とうこうようかい)」路線を保ちました。韜光養晦とは、一般に才能を隠し隠居することを示しますが、同氏の唱える韜光養晦は、実力を隠し、対外的には京証路線をとることを指します。
これに対して、2013年に誕生した習近平政権は、この路線を大きく変えようとしています。中国とアジア、欧州を結ぶ「一帯一路」を提唱。東南アジア、南アジア諸国などに経済援助をする一方、港湾施設の確保等、様々な囲い込みを推進。
軍事的にも南シナ海の軍事化を進め、太平洋進出を目指して海軍力を増強。国家安全法を成立させるなど、香港の民主化運動を弾圧。台湾に対する軍事的圧力も強化。
胡錦濤政権までは、国家主席は2期を限度とする集団指導体制でしたが、習近平氏は3期目も続投するとみられ、同氏への個人崇拝も強要する構え。?小平氏が築いた集団指導体制から大きく逸脱しようとしています。
但、?小平氏自身も、日本をモデルにするといいながら、日本の議会制、裁判については学ぶ姿勢がなく、一党独裁を堅持。現在の中国にとっての一番の課題は、政治改革、国有企業改革であると言えますが、習近平氏は、それとは全く反対の方向に進もうとしています。
次回は、中国経済の現状について探っていきます。
おはようございます。フィリピン経済は、回復の傾向を強めています。
1. 米国防長官フィリピン訪問
7月30日に、オースティン米国防長官がフィリピンを訪問。同氏は26日よりシンガポール、ベトナム、フィリピンを訪問。中国を睨み、ASEAN(東南アジア諸国連合)との関係を強化する姿勢を示唆。
同氏の訪問を受けて、フィリピンのドゥテルテ大統領は、米国との間で懸案となっていた「訪問米軍に関する地位協定(VAF)」の維持を決定し、米政府に出していた破棄通知を撤回。同国のロレンザーナ国防相が30日、フィリピンを訪問中のオースティン米国防長官との共同記者会計で明らかにしました。
同協定が破棄されれば、同盟関係に深刻な亀裂が入り、南シナ会の実効支配を進める中国を牽制するバイデン政権の戦略に狂いが生じることが懸念されていました。
2. 7月CPIが減速
フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は8月5日に、7月の消費者物価指数(CPI)上昇率が前年同月比+4.0%になったと発表(図表1参照)。伸び率は前月の+4.1%から減速。市場予想の+3.9%からは上振れ。
3. 政策金利を据え置き
一方、フィリピン中央銀行は6月24日の金融政策決定会合で、主要政策金利である翌日物借入金利を据え置きました(図表2参照、上限を表示)。据え置きは市場の予想通りで、5会合連続。経済活動は低調である者の、インフレ率が政府目標を上回る水準が続いており、利下げを見送りました。
5月には21年の国内総生産(GDP)の成長率見通しを前年比+6〜7%と、従来予想+6.5%〜7.5%から下方修正新型コロナ・ウィルスの感染再拡大を受けて、移動や行動を制限したことが響いています。
同日記者会見したジョクノ総裁は「新型コロナのワクチン接種計画を加速させることが市場の信頼感と経済回復を後押しする」と重要性を指摘。
4. 1-3月GDP+11.8%に回復
一方、フィリピンの国家統計調整委員会(NSCB)は7月10日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+11.8%の伸びになったと発表(図表3参照)。新型コロナ・ウィルスの感染対策で厳しい行動制限を課した前年同期からの反動が大きく、6四半期ぶりにプラス成長に転じました。
他方、6日からはマニラ首都圏などで再び行動制限を実施しており、7-9月期以降には不透明感もあります。4-6月期は製造業や建設業など幅広い業種で回復傾向が強まりました。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、フィリピン・ペソは12年後半から、対ドルで一貫して下落(図表4参照)。ペソの下落の要因としては、経常収支の悪化、資本の流出、ペソの下落についての中銀の容認などがあります。18年9月30日には1ドル=54.05ペソの安値を付けました。
その後は一貫して上昇。21年5月31日には1ドル=47.67ペソの高値をつかました。その後は、新型コロナ・ウィルスの感染再拡大などにより、下落傾向を強めました。
株価は、フィリピン総合指数が18年1月31日に8,558ポイントを付けて、その後は下落。20年前半には新型コロナ・ウィルスの感染などにより下落傾向を強め、3月末には5,266ポイントの安値を付けました。その後は世界景気の回復などにより株価が回復したものの、今年に入り、下落傾向を強めていいます(図表4参照)。
米景気の好調、物価上昇を受けて、米連邦準備委員会(FRB)はテーパリング(資産買い入れの圧縮)を検討。但、FRBは当面、金勇緩和姿勢を維持すると予想されています。世界的な金余りという観点からは、フィリピンの通貨、株式市場にはプラス材料となりますが、国内景気の観点からは、通貨、株価とも、調整局面が続くことも考えられます。
おはようございます。メキシコ経済が、回復傾向にあります。
1. CPI上昇率ほぼ横這い
メキシコ国立地理情報研究所は7月8日に、メキシコの6月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+5.88%になったと発表(図表1参照)。5月の同+5.89%から伸び率はほぼ横這い。市場予想の+5.89%とほぼ一致。
2. 1-3月期確報値は前年同月比▲2.8%
メキシコ統計局は5月26日に、1-3月期季節調整済み国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲2.8%になったと発表(確報値)。速報値の▲2.9%からわずかに上方修正(図表2参照、図表2は速報値を掲載)。新型コロナ・ウィルス感染が拡大していた時期に当たり、飲食や小売店などサービス業の活動が制限されたことが響きました。
データの訴求修正に伴い、前年同期比でのマイナスは7四半期連続。分野別では、農業などの第1次産業が+2.6%。金融・サービス業などの第3次産業は▲3.4%、鉱業た製造業などの第2次産業さ▲2.0%。
世界的な半導体不足により自動車産業が打撃を受けているものの、主要輸出先である米国経済の急激な回復により、製造業は全般に持ち直しています。
3. 政策金利を引き上げ
メキシコ銀行(中央銀行)は6月24日の金融政策決定会合で、政策金利を+0.25%ポイント引き上げて4.25%にすることを決定(図表3参照)。利上げは18年12月以来で、インフレ率が中銀の目標を大きく上回る水準にとどまっていることが背景。予想外の利上げをうけて、通貨ペソが上昇。
政策委員5人のうち3人が利上げを支持。インフレ率の急上昇は一時的なものだと政策当局が指摘していたこともあり、市場では政策金利を4%で据え置くと見込んでいました。
決定受けてメキシコ・ペソは対ドルで一時+2.4%冗長医、新興国の通貨上昇を牽引。短期金融市場では、インフレ率上昇や利上げ観測でスワップレートがここ数週間で上昇していましたが、今回の決定により上げが一段と加速。
4. ワクチン接種が進展
メキシコでは年明け以降、新型コロナ・ウィルスの感染者が拡大する「第2波」が健在化しました。死亡者数は他の国と比べて多く、感染者数は28人を上回る水準で推移するなど、医療現場では引き続き逼迫した状況が継続。
一方、21年に入りワクチン接種を開始。米国製の接種を開始したほか、ロシア製や中国製も持ち込むなど、なりふり構わぬワクチン接種を推進。7月26日時点での完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人)は14.66%、部分接種(少なくとも1回は接種を受けた人)は23.28%と、世界平均並み(それぞれ10.58%、22.98%)で推移。
ロペス・オブラドール大統領は、乾季入りする10月末を目途に全国民(1.26億人)に少なくとも1回はワクチン接種を終える計画を掲げています。但、足下の企業及び家計のマインドは依然としてコロナ禍以前の水準にあり、景気回復は道半ばの状況にあります。
5. 為替と株価
ここで、メキシコの株価及び為替の動きを見ましょう。メキシコの通貨であるメキシコ・ペソは、20年9月29日には1ドル=22.36ペソでの取引でしたが、21年8月4日には1ドル=19.97ペソへと上昇。世界景気の回復により、原油等商品市況が上昇していることなどが影響しているとみられます。
同国の代表的な株価指数の1つであるボルサ指数は、昨年3月には新型コロナ・ウィルス感染拡大により大幅下落。その後は米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和、原油等商品市場の高騰もあり、株価は大幅反発。8月4日時点でボルサ指数は51,195ポイント迄回復。
上記の通りメキシコ経済は依然としてコロナ禍からの回復途上にあるものの、国際金融市場では大幅な金余りが継続。昨年後半以降は主要国の景気も回復傾向にあり、通貨、株価とも堅調な展開が継続。
6月初めに実施された連邦議会下院の中間選挙では、最大与党の左派MORENA(国民再生運動)が議席を減らしたものの、与党連合の枠内では議会の半数を上回る議席を確保し、事前の市場予想であった「ねじれ現象」を回避。
足下ではインフレが懸念材料となっていますが、中銀は上記の通り6月24日の会合で利上げを実施。このような経済状況を背景として、通貨、株価ともに当面、堅調な展開となることも考えられます。
おはようございます。タイでは、新型コロナ・ウィルス感染が再拡大しています。
1. 新型コロナ・ウィルス感染が再拡大
タイでは2019年の民政移管後も事実上の軍事政権が継続しています。総選挙で躍進した新未来党はその後解党を命じられ、同党の支持者を中心に反政府デモが活発化しました。
一方、タイでは新型コロナ・ウィルスの感染はほぼ抑え込まれていましたが、今年4月頃から、感染力の強いインド型変異種を中心とする感染が再拡大して、急速に情勢が悪化しています。
タイ国内における感染再拡大の動きは、当初は刑務所でのクラスター(感染者集団)発生など局所的な動きにとどまっていたものの、その後は市中感染が急拡大。
1日当たりの新規陽性者数は1万人を上回るなど過去最高を更新。人口100万人当たりの新規陽性者数(7日間移動平均)も今月18日時点で145人と、マレーシア(353人)、インドネシア(185人)に次ぐ水準。死亡者数も拡大ペースが加速しており、医療の現場も逼迫しています。
2. 1-3月期成長率▲2.6%に留まる
先ず、経済指標を見ておきましょう。タイ国家経済社会開発庁(NESDB)は5月17日に、1-3月期の国民総生産(GDP)成長率が前年同期比▲2.6%になったと発表。10-12月期の同▲4.2%に続き5四半期マイナスとなったものの、マイナス幅が縮小したほか、市場予想の▲3.3%を上回りました(図表1参照)。
1-3月期GDPを需要項目別に見ると、主に消費の低迷と外需の落ち込みがマイナス成長に繋がりました。
民間消費は前年同期比▲0.5%(10-12月期は+0.9)と再び減少。政府消費は銅+2.1%(銅+2.2%)とやや鈍化。総資本形成は同+7.3%(同▲2.5%)。
3. 5月CPI伸び率は大幅加速
一方、タイ商業省は7月5日に、6月の消費者物価指数(CPI)上昇率が、前年同月比+1.25%であったと発表(図表2参照)。前月の同+2.44%から減速。市場予想の+1.14%から上振れ。
4. 政策金利を据え置き
一方、タイ中央銀行は6月23日の金融政策委員会で、政策金利である翌日物レポ金利を、0.5%に据え置くことを全員一致で決定(図表3参照)。据え置きは市場の予想通り。据え置きは9会合連続。
中銀は政策金利を据え置いたことについて、「第3波のパンデミックで国内消費が打撃を受けて、タイ経済の回復は従来予測より遅れ、一段と斑模様の回復様相となっている。タイ経済の見通しに対するリスクは依然として、かなりの景気下振れリスクだ」と景気の先行きに強い懸念を表明して、「現在の政策金利はすでに景気回復を支えるため、低水準となっている。利下げよりも的を絞った形での企業や家計部門への特別融資制度を通じた流動性の供給選択や債務再構築の方が企業や家計の債務負担を減らずことができる。最も効果的なタイミングで、限られた政策金利の調整余地を使うことを決めた」としました。
今後の金融政策については、「政府の景気対策と政府機関との政策協調が景気回復を支えるためにはきわめて重要だ」として、「我々の金融政策は引き続き緩和姿勢を維持しなければならない」とし、当面、金勇緩和の政策姿勢を維持する考えを示唆。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、タイ・バーツ昨年10以降には、対ドルで緩やかに上昇(図表4参照)。その後4月頃からは急激に下落。新型コロナ・ウィルスの感染再拡大により、観光業などが大きな影響を受けているためとみられます。
株価について見ると、代表的な株価指数の1つであるSET指数は、20年3月には、新型コロナ・ウィルスの感染拡大を受けて大きく下落。SET指数はその後上昇に転じたものの、10月30日には再び1,194ポイントまで下落(図表5参照)。その後は世界景気の回復、国内の観光業の再開などによりSET指数は情報に転じましたが、今年4月以降は、新型コロナ・ウィルスの感染再拡大により、再び下落基調。
タイの今後の政治・経済については、暫定政権のプラユット首相が新型コロナ・ウィルスの感染防止を名目に、反政府デモを取り締まっています。年明け以降は、感染拡大の「第2波」が顕在化してことを受けて、反政府デモが「一時休戦」を決定していました。
7月18日に発生した反政府デモでは、参加者と警察が衝突して複数の負傷者、逮捕者が出ました。政府側と反政府側の攻防は激化することも予想され、新型コロナ・ウィルスの感染再拡大と共に、タイ経済に影を落とす可能性が有ります。
おはようございます。世界的に脱炭素への動きが加速化することで、ロシア経済は転換を迫られています。
1. 1-3月期成長率はマイナス幅が縮小
6月15日発表されたロシアの実質国内総生産(GDP)成長率は、1-3月期に前年同期比▲0.7%と、昨年10-12月期の同▲1.8%から回復(図表1参照)。市場予想の▲1.0%からも上振れ。
GDP成長率の回復は、生産の回復、卸売りの回復によります。今後については、ロシア経済は2021年に回復する見込みで、ロシア中銀は、21年10-12月期までにコロナ危機以前の水準に戻ると予想しています。
2. インフレ率が加速
国家統計局から7月7日発表された6月の消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率は+6.5%と、伸び率は前月の+6%から加速(図表2参照)。市場予想の+6.3%からも上振れ。
6月のインフレ率は中銀の目標である+4%を遥かに上回っており、16年8月以来の高さ。食品価格(+7.9%)、非食品価格(+7.0%)、サービス(+4.0%)等がCPI上昇率を押し上げました。
3. 政策金利を引き上げ
一方、ロシア中央銀行は4月23日の理事会で、主要政策金利である資金供給のための1週間物入札レポ金利と資金吸収のための1週間物入札金利をいずれも+0.5%ポイント引き上げて5.00%にすることを決定。利上げは市場の予想通り。新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)の沈静化によって国内外の経済活動規制が緩和され、景気回復が進む中、インフレ加速懸念が強まってきたことを受けて、インフレ抑制のために政策金利の引き上げに踏み切りました。
中銀は追加利下げを決めたことについて、「インフレ率や、家計と企業でのインフレ期待は依然、高水準にある。需要の回復も着々と進んでおり、一部の経済セクターでは需要が供給の拡大ペースを超えている」とし、前回会合と同様に「インフレ見通しの上振れ・下振れリスクのバランスは上振れリスクに知るとしている」として、インフレを抑制するために追加利上げに踏み切ったとしました。
4. 脱炭素への圧力強まる
一方、エネルギー輸出を主要な外貨獲得手段としているロシアは、大口輸出先の欧州連合(EU)とちゅごくが、脱炭素を加速していることに危機感を強めています。EUが検討中の「国境炭素税」を導入した場合、ロシアの損失は60億ユーロ(約7800億円)に上るとの試算がある他、中国への長期的な輸出減少も確実。
EUが2023年までの導入を目指す国境炭素税は、温室効果ガス排出対策が不十分な国からの輸入品の実質的な関税を課す仕組み。温室効果排出削減を相手国や企業に促す効果がある他、環境対策に多額の投資をしているEU域内の企業がそうでない国の企業に価格競争力で劣勢に立たされることを防ぐ意図があります。
ロシアは年間の政府歳入約20兆ルーブル(約29兆円)のうち、3-4割を石油・ガス・石炭などエネルギー産業からの税収に依存。EUの国境炭素税の導入で、同産業の経営が悪化したばし、ロシアは国家運営に重大なだが気を受ける可能性が有ります。
5. 為替の動き
ロシア・ルーブルは、昨年11月には1ドル=80.49ルーブルとなっていましたが、今年7月21日には同73.95へと上昇。NYのWTIなど原油価格がコロナ危機回復により上昇しており、原油価格、また天然ガス価格が堅調で、ロシア・ルーブルも堅調な動きとなっています。
6. 今後の課題
今後の課題、リスク要因としては、先ず人口が減少傾向にあることがあります。ウォッカの飲み過ぎなどが指摘されていますが、特に東部では減少傾向が強まっています。
また、輸出、国家財政共に天然ガスなど資源輸出に大きく依存。EU、あるいは中国が今後、脱酸素の政策を推進すると予想されており、ロシア経済にとってはマイナス要因になるとみられます。
おはようございます。インドでは変異型を中心として、新型コロナ・ウィルス感染再拡大が懸念されています。
1. 消費者物価指数上昇率が鈍化
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が7月12日発表した6月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+6.26%(図表1参照)。前月の+6.3%からやや鈍化。市場予想の+6.58%から下振れ。
2. 1-3月期成長率+1.4%に回復
続いて、インド統計局が5月31日に発表した1-3月期成長率は、前年同期比0.4%に回復(図表2参照)。4-6月期の+0.4から回復市場予想の+1.%からも上振れ。
インド経済は2四半期連続でプラス成長を確保したものの、昨年度(2020年4月〜21年3月)では▲7.3%と、通年としては過去最悪。市場予想は▲7.5%。インド政府は20年3月下旬から5月末に全土を封鎖し、6月より段階的に解除。4-6月期には四半期統計を開始して以来最悪の▲24.4%。7-9月期には▲7.3%と、下落幅が回復していました。
4月以降の新年度では、新型コロナ・ウィルス感染の再拡大見舞われています。
中銀は会合後に発表した声明文で、政策金利を据え置いたことについて、「今回の据え置き決定は、インフレが今後も低水準で抑制される見通しの中、(ドルに対して下落している)通貨ルピア相場を安定させて、また、景気を回復させる必要性と合致する」と、前回と同様、ルピア相場の行き過ぎた下落を阻止するとともに、景気回復を一段と進めたい考えを示唆。
3. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行)は6月4日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表3参照)。据え置きは市場の予想通り。新型コロナ・ウィルスの国内経済への影響を軽減することを目的として、金融政策も引き続き「必要な限り緩和的姿勢」を維持するとしました。据え置きは6会合連続。
また、LAFのリバースレポ金利(市中銀行のRBIへの預金金利)を3.35%に、市中銀行が資金逼迫時にRBIから政府債を担保に資金を借りることができる流動性供給スキーム「MSF」と公定歩合をそれぞれ4.25%に据え置きました。
金利政策据え置きの要因として、CPI上昇率の安定などを上げています。今後のインフレ率については、上昇か下落のいずれにも推移しうるとしてうえで、4-6月期は前年同期比+5.2%、7-9月は同+5.4%、10-12月期+4.7%と予想しました。
4. 新型コロナ・ウィルス感染拡大に懸念
一方、新型コロナ・ウィルス感染の「第2波」のピークを越えた同国で、ヒマラヤ山脈沿いの観光地を抱える北部ヒマチャルプラデシュ州当局が州越えの移動規制を緩和したとおk露、多数の観光客が押し寄せ、感染再拡大の懸念が出ています。
同州では6月14日、州に入る際にPCR監査陰性証明の提示義務が撤廃されたものの、民放では、州境に「約1キロの車列ができた」と報道。その多くは観光客の車で、36時間で5000台が通化した州境もあったとしています。
越境には、コロナ禍での移動の必要性を占める許可証が必要。観光客は何らかの手段で許可証を得ている模様。週内では夜間外出金利令が出ており、当局はマスクの着用など規律ある行動を呼びかけています。北部胡坐にある世界遺産「タージマハル廟」も16日から約2か月ぶりに再会予定。
インド政府の15日発表では、1日の新規感染者数は6万471人と、第2波のピークの6分の1にまで減少。感染防止のためのロックダウン(都市封鎖)は段階的に緩和されており、登記局は「第3波」に向け、ワクチン接種加速などの必要性を訴えています。
インドでは、ニューデリーなど都市部を中心に、新規感染者数が減少する傾向にありますが、変異型が拡大する傾向にあります。地方を中心として、再び感染が拡大する懸念があります。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)2021年6月末と2020年12月末との比較では、▲1.8%の小幅下落 。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、2019年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。21年6月末には52,482ポイントと、20年12月末比では+9.9%と、小幅上昇。
6. 課題とリスク
インドでは、製造業の発達が遅れていること、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が深まっていること、新型コロナ・ウィルス感染拡大が継続しているなど、多くの課題があります。また、北部カシミール地方の領有権を巡っては、中国と外交的に対立を深めています。中国・インドの対立については、最近はやや緩和する傾向にあります。
インドの強みの1つは人口構成の若さ。今後も15-64歳のいわゆる労働人口の増加が見込まれており、その面では、有利です。一連のコロナ騒動が収まれば、再び成長軌道に復帰するとみられます。
おはようございます。インドネシアでは新型コロナ・ウィルスの感染が再び拡大し、経済、政治ともに正念場を迎えています。
1. 5月CPI上昇率は+1.63%に加速
インドネシア中央統計局は7月1日に、6月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+1.33%になったと発表(図表1参照)。市場予想の+1.41%から下振れ。前月の+1.68%から減速し、引き続き低水準にとどまっています。
2. 政策金利を据え置き
一方、インドネシア中央銀行は6月17日の理事会で、政策金利であるBIレートを3.50%で維持すると発表。据え置きは市場の予想通り。過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利も2.75%に、翌日物貸出ファリリティー金利は4.25%にそれぞれ据え置き。据え置きは前会合に続いて4会合連続。
中銀は会合後に発表した声明文で、政策金利を据え置いたことについて、「今回の据え置き決定は、インフレが今後も低水準で抑制される見通しの中、(ドルに対して下落している)通貨ルピア相場を安定させて、また、景気を回復させる必要性と合致する」と、前回と同様、ルピア相場の行き過ぎた下落を阻止するとともに、景気回復を一段と進めたい考えを示唆。
3. 1-3期GDP予想を下回る
インドネシア中央統計局は5月5日に、1-3月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲0.74%であると発表(図表3参照)。減少幅は10-12月期の▲2.19%から縮小したものの、市場予想の▲0.65%から下振れ。
インドネシアは、新型コロナ・ウィルスのワクチン接種が東南アジアでは最も進んでいる国の1つである者の、内需の弱さが依然として続いていることが響きました。
1-3月期GDPは前期比では▲0.96%で、市場予想の▲0.85%を下回りました。
4. 新規感染者が再び増加
一方、ASEAN(東南アジア諸国連合)においては、ワクチン調達の遅れなどにより、世界の他の新興国と比較しても、新型コロナ・ウィルスの抑え込みについては、劣後する状況が継続。同地域で最大の人口を擁するインドネシアにおいても、年明け直後に「第2波」に直面。
政府は新規感染者数抑制のため、1年のうち最も人口の移動が活発化するレバラン(男児掛け大祭)期の国内移動を原則禁止したものの、実体としては人の移動が活発化して、効果が上がりませんでした。
先月以降は首都ジャカルタ及びその周辺で新規感染者が拡大。また、中国製ワクチンの接種が一部進んだものの、接種した医療従事者の間でクラスター(集団感染)が発生するなど、中国製ワクチンに対する不信感が高まっています。
5. 大統領が緊急措置を発表
一方、大統領は7月3日から20日までの期間について、人口が最も多いジャワ島と観光地のバリ島を対象として、「緊急措置」を発動する方針を発表。飛行機を使う移動制限の他、外食の禁止、ショッピングモールや宗教施設の閉鎖、エッセンシャルワーカー(最低限の社会維持のために必要な労働者)を除いて全従業員の在宅勤務の義務化といった強力な行動指針を発表。
同国では、変異株による感染拡大により首都ジャカルタの病床使用率は93%を上回っているほか、ジャワ島全域においてもほぼ満床に近づきつつあり、医療体制は崩壊に近づいています。
また、ジョコ・ウィドド大統領自身が、今年10月に政権2期目の折り返しになり、3選が憲法で禁止されているため、政権の「死に体化」の危険性もあります。与党PDI-P内部では、次期大統領選に向けて駆け引きが活発化しつつあります。
6. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表4参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻す展開。20年末から21年6月末では、▲3.61%と若干下落。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻し、21年2月末には同▲0.9%まで戻っています。20年末と6月末との比較では、▲0.3%とほぼ横這い。
米国では、株価指数S&P500指数が既に最高値を更新しており、日本など他の先進国の株価も堅調。中国の上海総合指数も19年末比で高値を更新しており、インドネシアの株価は出遅れています。但、インドネシア国内では新型コロナ・ウィルスの感染が再拡大しており、株価、為替ともに軟調に推移することも考えられます。
おはようございます。ブラジルではインフレ率が高まるなど、不透明要因が増大しています。
1. 政策金利を引き上げ
ブラジル中央銀行は6月16日の金融政策委員会で、政策金利を+0.75%ポイント引き上げて、4.25%にすることを全員一致で決定(図表1参照)。利上げは3会合連続で、利上げは市場の予想通り。
中銀は政策決定後に発表した声明文で、「次回会合については、金融刺激の度合いで同程度の追加調整を伴う部分的な正常化プロセスの継続を予想している」と説明。「但、この計画へのコミットメントはないことと、物価目標の確実な達成に向けて金融政策お今後の措置が調整されることを強調する」としました。
今回の追加利上げについて、「標準シナリオではインフレが加速する水戸市で、経済見通しに対する上振れ、下振れリスクのバランスも通常より崩れやすくなっている」し、「一時的なインフレ加速による経済ショックが広がるのを抑える調整が必要になっている」としました。
更に「追加利上げは金融政策が波及する一定の機関(22年も含む)にインフレ率が物価目標に収束させる見通しと合致する。また、物価の安定の目標を損なうことなく、雇用の最大化と経済変更の抑制に寄与する」としました。
2. インフレ率が加速
一方、ブラジル地理統計院は6月9日に、5月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。5月のIPCAは前年同月比+8.06%と、前月の同+6.76%から加速(図表2参照)。市場予想の+7.93%から加速。
3. 1-3月期GDPは+1.2%に戻す
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は6月1日に、1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前期比+1.2%であったと発表(図表3参照)。国際商品市況の回復でプラスを維持したものの、新型コロナ・ウィルス再拡大により、20年10-12月期の+3.2%から伸び率は鈍化。
国際商品市況上昇により農業が+5.7%となったものの、製造業の落ち込みで鉱工業生産が+0.7%、サービス業が+0.4%と低調。新型コロナの変異ウィルスの感染拡大により、経済活動を制限したことが響きました。家計消費は▲0.1%、政府支出は▲0.8%と、ともに3期ぶりのマイナス。
4. ワクチン接種が進展
一方、ブラジル新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)の中心地となり、足下では変異株の流入を受けて感染が高止まりしています。累計の陽性者数は30日午後4時時点で、米ジョンズ・ホプキンス大学によると1,851万人と、米国の3,365万人、インドの3,036万に続いて世界第3位。死者数は51.5万人で、米国60.4万人に次ぎ、インドの39.8万人を上回っています。ブラジルの医療環境が劣悪であることが影響している可能性が有ります。
感染の対策を巡っては、地方では社会的距離(ソーシャルディスタンス)、マスク着用、都市封鎖(ロックダウン)などを実施。他方、連邦政府レベルでは、ボルソナロ大統領自身が新型コロナ・ウィルスを「ただの風邪」と称し、マスクを着用せず、自身が感染するなど、感染抑止に消極的姿勢を維持。両者のちぐはぐな対応が感染拡大を招きました。
5. 大統領選を控えて政治対立高まる
ボルソナロ大統領自身はワクチンに対しても懐疑的態度をとっており、コロナウィスルの期限を巡っては「急速に拡大する国家が仕掛けた化学兵器」との見方を示すなど、中国を揶揄する姿勢を示し、中国からのワクチンの原材料輸入が急速に先細りしました。
このような政権の不手際に対して、左派政党、労働組合、学生団体などが主導して政権のコロナへの政策への抗議集会が発生。来年の大統領選へ向けて、左派と右派の対立が先鋭化しつつあります。
このような左派の運動の活発化の背景として、18年に一時収監されて前回の大統領選に出馬できなかったルラ大統領に対して、今年2月に最高裁判所が有罪判決を無効とする判断を下し、ルラ氏が次期大統領選に出馬する可能性が高まっていることがあります。
ルラ氏は在任中に示した「ボルサ・ファミリア」と称する貧困層、低所得層に対する手厚い社会福祉政策により、労働者階級からの指示が厚く、政権奪回を狙う左派PT(労働者党)はルラ氏を中心として結束する動きを見せています。
一方、ルラ氏に対しては、後任のルセフ大統領と共に汚職の温床になったとの批判もあり、右派は汚職撲滅を掲げるボルソナロ大統領を支持。右派と左派の対立が先鋭化する可能性が有ります。
6. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年4月末には同5.41レアルに下落。但、その後は中銀による利上げなどで持ち直し、6月末には同4.97レアル迄戻しました(図表4参照)。昨年12月末から今年6月末迄で+4.29%の上昇。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、20年12月末には119,306ポイントに回復。
但、21年に入ってからも回復傾向にあり、6月末には126,801ポイントと、昨年12月末比で+6.28%の上昇で、最高値を更新。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。21年に入り、米国では長期金利が上昇し、FRBによるテーパリング、即ち資産買い入れの縮小も予想されます。但、世界的な景気回復もあり、ブラジルの株価は当面、堅調に推移する可能性もあります。
おはようございます。トルコでは感染は一服となっているものの、リラ相場を巡る不透明要因が継続しています。
1. 5月CPI上昇率市場予想下回る
トルコ統計局が6月3日に発表した5月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+16.59%となり、4月の+17.14%から伸び率が減速。市場予想の+17.25%から下振れ。通貨リラが下落する中、依然として高い伸び率を維持。
2. 政策金利を据え置き
一方、トルコ中央銀行は、6月17日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を19.00%に据え置くことを決定(図表2参照)。据え置きは市場の予想通りで、3会合連続。市場では、8月頃に利下げに転じるとの見方も出ています。
エルドアン大統領は高金利を嫌い、景気拡大のために度々中銀に利下げを求めています。3月にタカ派のアーバル前総裁を更迭し、自身の考えに近いカブジュオール総裁を任命。直後にリラが急落し、カブジュオール氏は就任以降、リラ防衛のために利下げを見送っています。
エルドアン大統領が今月初旬、7-8月頃に中銀が利下げに転じることを希望していると発言し、市場では利下げが8月にも行われるのではないかとの見方が浮上。但、足下の消費者物価指数(CPI)の上昇率は+16台、卸売物価指数(PPI)は+38%台に達しており、拙速な利下げは、更なる通貨下落、インフレを招く恐れがあります。
3. 1-3月期成長率+7.0%
他方、トルコ統計局が5月3日に発表した昨年1-3月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+7.0% (図表3参照)。10-12月期の+5.9%から加速して、3期連続のプラス成長。市場予想の+6.3〜6.7%からも上振れ。トルコのリュトフィ・エルバン財務相は同+5.5〜6.0%と予想していましたが、これも大きく上回りました。
1-3月期GDPが高い伸びとなったのは、20年12月から実施されたパンデミックによる経済活動の規制の大半が3月迄に緩和されたことや、政府の積極的な財政支援と中銀の利下げの効果で、個人消費と製造業が堅調となって他、輸出が拡大したことが寄与。
4. ワクチン接種が進展
一方、トルコにおいても今年3月以降に変異株による感染が再拡大する「第3波」が到来。政府は人の活動が活発化する夏季休暇に向けて行動制限を再強化するとともに、中国のワクチン外交も追い風としてワクチン確保を進めました。
政府はワクチン接種の裾野を広げることにより早期の集団免疫の獲得を目指しており、16日時点の完全接種率は16.70%と、世界平均の9.58%と上回り、部分接種率(少なくとも1回は接種と受けた人の割合)も28.05%と、世界平均(21.12%)を上回っており、ワクチン接種で先行。
こうした動きにより、1日当たりの新規感染者数は4月半ばを境として頭打ちとなり、死亡者数の拡大ペースも鈍化しており、新型コロナ・ウィルス対策は一定の成果を上げつつあります。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。13年には、経常収支・財政の赤字が比較的大きいとして、トルコは「脆弱5か国」の一角とされ、通貨は13-15年には対ドルで大きく下落(図表4参照)。15年以降も下落が継続。20年12月末から今年5月まででも▲14.17%と大幅下落。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は18年から20年初めにかけては軟調な動き。20年初めには新型コロナ・ウィルスの影響により株価は大きく下落したものの、その後は世界経済の回復に伴い、トルコの株価も反発。今年6月末と昨年12月末との比較では▲3.80%と、やや軟調。
6. リスク要因と課題
エルドアン大統領は、中銀に対して利下げの圧力を継続しており、短期的に中銀総裁が交代する事態が継続しています。8月頃に中銀が利下げに踏み切る可能性があり、引き続きリラの下落、インフレ率の高止まりの可能性が有ります。
一方、新型コロナ・ウィルス感染は抑え込みつつあり、経済活動は今後活発化すると予想されます。欧州の景気回復は遅れているものの、米中を中心として世界経済の回復が続く見込みであり、トルコもその恩恵を受けるものと予想されます。
おはようございます。南アフリカにおける新型コロナ・ウィルス感染の状況と経済の現状を見ます。
1. 経済の失速が鮮明に
2000年代の南アフリカ(以下南アと表記)は、平均+3.5%という比較的高い成長率を記録。その後2010年代に入ると国内経済の構造問題(インフラ不足、高い失業率、国有企業の経営悪化に伴う財政悪化など)が顕在化し、2011-19年の平均成長率は+1.5%に、後半(16-19年)に限ると+0.6%の低下。南ア経済はコロナ禍以前から不振でした。
2020年3月から南アでも新型コロナ・ウィルスの感染が拡大し、3月27日から全土でロックダウン(都市封鎖)を実施。しかし感染は衰えず、7月上旬には1万人を上回る爆発的な感染拡大となりました。
この間経済は急激に悪化しましたが、以下最近の経済指標を見ておきましょう。
2. 4月CPI上昇率は+4.4%に加速
南アフリカ統計局は5月19日に、4月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+4.4%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+3.%から伸び率が加速し、市場予想の+4.3からも上振れ。
3. 政策金利を据え置き
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は5月20日に、主要政策金利であるレポレートを3.50%に据え置くことを決定。据え置きは5会合連続。20日発表の声明文では、金利の次の動きは利上げであるとのメッセージを維持。但現在のインフレ率は一時的なものであるとして、政策金利を維持。
南ア中銀の四半期予測モデルでは、依然として今年4-6月期と10-12月期の+0.25%ポイントの利上げを見込んでいます。クガニャゴ総裁は金利正常化の措置をとるとしても、政策姿勢は引き続き緩和的であると述べ、金融引締めは斬新的になる可能性を示唆。
3. 1-3月期成長率は+4.6%に鈍化
一方、南アフリカ政府統計局は6月8日に、1-3月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで+4.6%になったと発表(図表3)。電力不足などの問題が継続しており、新型コロナ・ウィルス感染からの回復が鈍化。足下では新型コロナ・ウィルス感染の第3波が懸念されており、コロナ以前の水準に戻るのは、25年前後になると予想されています。
新型コロナ・ウィルスの影響で南ア経済は20年4-6月期に大きく落ち込んだ後、その後は3四半期プラス成長を継続。21年1-3月期には主要産業である鉱業が+18%と好調。ロックダウン(都市封鎖)の緩和も寄与。
但、国営電力会社のエスコムの放漫経営により電力不足が慢性化しており、エスコムは7日にも週末にかけて計画停電を実施するとしています。
新型コロナ・ウィルスの第3波が懸念されるほか、1-3月の失業率も32.6%と高止まり。経済強力開発機構(OECD)では、南ア経済が新型コロナ・ウィルス感染拡大以前の状態に戻るのは、23-25年になるとの見通しを示唆。
4. 新型コロナ・ウィルス感染拡大により景気が大幅悪化
南アで新型コロナ・ウィルスの陽性が確認されたのは、2020年3月6日。感染が急速に拡大して、3月24日には1日あたり感染者数が100人を超え、リシル・ラマポーザ大統領は、3月27日より南ア全土でロックダウン(都市封鎖)を行うと発表。
ロックダウンは医療機関、薬局、スーパー、金融機関、ガソリンスタンドなど、生活に不可欠とされる業種以外の全ての営業を禁じ、通院や食料品買い出しなど限られた目的を除いての外出を禁じました。
感染の経済への打撃を和らげるために、南ア政府はGDP比で10.3%に相当する対策を発表(20年4月21日)し、順次実施。対策は企業の資金繰り支援から衛生予算の拡充まで多岐にわたっています。
ロックダウンを含め、政府の感染症対策は昨日しており、足下では新規感染者数は減少。但、ロックダウンは景気には大きなマイナスとなり、経済への影響は今後現れてくると予想されています。製造業生産の前年比は20年12月に18カ月ぶりにプラス(+0.9%)となって物の、21年1月には再び▲1.2%に悪化しました。
6. 為替と株価
ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。南アフリカ・ランドは、20年4月以降に対ドルで一貫して上昇。12月には、新型コロナ・ウィルスのワクチンへの期待が高まり上昇。8日発表の7-9月期GDPが前期比年率+66.1%と、5四半期ぶりのプラス成長となり、ランドは一段高。
21年に入ると、南アにおける新型コロナ・ウィルスの変異種の感染拡大により、政府による一段の行動規制強化を受けて景気下押し懸念が強まったことにより、ランドは一時下落。そ3月頃からは世界的な景気回復などにより、対ドルで上昇しました(図表4参照)。
株価は、代表的な株価指数の1つであるFTSE/JSEアフリカ全株指数でみると、18年から20年春にかけてほぼ横這いで推移(表5参照)。20年に入ると、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、株価は急落。但、3月以降には、ワクチン開発への期待、更に7-9月期GDPが急回復したことなどにより、株価も急反発。21年に入ると、国内の変異種新型コロナ・ウィルス感染拡大などにより、株価はほぼ横這いの動き。
5. リスク要因と課題
まず、南アフリカにおいては、経常収支と財政収支赤字が、国内総生産(GDP)比で大きく、通貨が売られやすい状況にあります。米連邦準備委員会(FRB)の利上げにも、注意する必要があります。
また、19-20年には計画停電が相次いで発生。国内電力供給の9割を担う国営電力会社エスコムは、政治家との癒着や放漫経営などで財政状況が悪化。企業は自家発電を導入し、家賃が上がるなどの影響が出ています。21年に入っても電力の供給が不安定であり、インフラの整備が課題となっています。
おはようございます。世界経済全体が、脱炭素へ向かっています。
1. 頻発する異常気象
日本で大型の台風の被害が拡大し、米国あるいは豪州などで夏に山林の火事が多発するなど、世界全体で異常気象の起こる回数が確実に増加しています。そのほか、熱波、旱魃、豪などの被害も拡大。
気象庁によると、20年の世界の平均気温は基準値に対して+0.45度高く、18891年の統計開始以来で最も高かった2016年に並びました。
長期的には、世界の平均気温は上昇基調で、100年あたり+0.75度の割合で上昇を続けています。二酸化炭素などの温暖化ガスによる気候変動を防ぐには、CO2排出を世界で大幅に減らす必要があるとの認識が拡大しており、脱炭素に向けた各国の対策が進行しています。
2. パリ協定がCO2削減を掲げる
まずパリ協定においては、産業革命以降の気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑制することを目標として掲げており、各国に削減目標の提出・更新を義務付けています。「2度未満」の達成に、2030年に10年比▲25%、「1.5度」の達成には▲45%が必要とされています。
米国ではトランプ前大統領がパリ協定からの離脱を表明したものの、バイデン大統領が就任と同時にパリ協定への復帰を表明。
パリ協定では、50年ころに世界の温暖化ガスの排出を「実質ゼロ」にする必要があるとしています。実質ゼロとは、CO2などの温暖化ガスの排出量から、森林などが吸収する量を差し引いてゼロにするという子です。欧州連合(EU)が19年に先行して50年実質ゼロの目標を立てて、現在120以上の国・地域が賛同しています。
3.パリ協定目標達成「到底覚束ない」国連報告書
2月26日の国連の報告では、パリ協定の下で、各国・地域が提出・更新した温室効果ガス排出削減目標を積み上げても、協定の掲げる気温上昇を抑制する目標達成には程遠いことが明らかになりました。
国連が昨年末までに提出・更新された世界75の国・地域の削減目標を積み上げたところ、全体で30年までに10年比▲1%の効果に留まることがわかりました。気候変動枠組み条約のエスピノーザ条約事務局長は、新型コロナ・ウィルスの世界的流行で、各国の削減目標設定が遅れていることに理解を示しつつ、「現在の削減の水準では、パリ協定の目標達成は到底、覚束ない」としています。
4.石油会社に厳しい判決
一方、オランダの裁判所は5月26日、世界的な石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルに対して、同社が計画よりも早く大幅に温暖化ガス排出量を減らすよう命じました。シェルへの打撃になるだけでなく、世界の化石燃料業界に影響が広がる可能性が有ります。
シェルは温暖化ガス排出量を2030年までに▲20%減らし、50年までに実質ゼロとする方針。それでは不十分であるとして、ハーブの裁判所は、30年までに19年ひ▲45%の排出量削減を命じました。
この判決は、シェルグループ全体に適用されると、同裁判所は説明。シェルは新たな目標を達成するために、現行の気候変動対策や資産売却を劇的に加速する必要に迫られる見通し。気候変動関連の訴訟が業界で相次ぐ中、今回の判決は他国でも注目される見通し。シェルは、判決について控訴する見通しであると明らかにしました。
5.石油大手の株価低迷
世界的な脱炭素加速の影響により、石油大手各社の株価も低迷。英国の石油大手BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)の株価を見ると、20年3月には新型コロナ・ウィルスの関連拡大、それに伴う航空需要の消滅、原油価格低迷などにより、株価は大きく下落。21年に入り、原油価格は大きく戻していますが、株価の戻りは鈍くなっています。
上記の判決などにより、石油大手も脱炭素の動きを加速させると予想されます。また、年金なども石油会社への投資を引き上げる動きを見せています。投資信託においても、国連の掲げるSDG(持続的成長)に賛同する動きが広がっており、石油大手の株価の戻りは鈍くなることも予想されます。
おはようございます。今回は、リスク要因について考察しましょう。
1. 新型コロナ・ウィルス感染継続のリスク
新型コロナ・ウィルスに対するワクチンの接種が世界的に進んでいます。100人あたり接種回数では、イスラエルが116.9、英国が97.3となるなど、世界的に進展(5月31日現在)。米国、欧州などでも接種が進んでいます。
但、先進国では日本が3%程度を大きく出遅れており、そのほかインドなどでは、引き続き新型コロナ・ウィルスが猛威を振るっており、今後インドの景気の下押し要因となると見られています。世界全体としては、収束に進むと見られており、今後は大きなリスク要因とはならない可能性もあります。
2.米長期金利上昇のリスク
今後のリスク要因として最大であるとみられるのは、米長期金利。米国ではバイデン政権が新型コロナ・ウィルス対策として、大規模な財政出動を決断。それにより景気は大きく回復する見通しであるものの、インフレの懸念が抬頭。
インフレ懸念の台頭により、米長期金利は3月15日には1.725%に上昇。但その後は雇用統計の数字などから、米国経済過熱の懸念が後退し、米長期金利はやや落ち着いて動きとなっています。
3. 物価上昇の懸念
米労働省が5月12日発表した4月の消費者物価ス数(CPI)は前年同月比+4.2%と、2008年9月以来、12年7か月ぶりの高い伸び(図表2参照)。
米国の長期金利に大きな影響を与える可能性のある物価については、異なる2つの見方があります。サマーズ氏やIMF(国際通貨基金)の元チーフエコノミストのブランシャール氏は、既にGDPギャップのマイナス幅が縮小しており、大規模な財政出動を行うと、GDPギャップのプラスが拡大して、物価上昇圧力がかかるとしています。
一方、FRBやイエレン財務長官は異なる見方をしています。物価は単にGDPギャップで反動するわけではなく、労働市場には遅れもみられます。したがって、物価は簡単には上昇しないと見ています。
パウレル議長3月のFOMC会合後の会見において、「インフレ率の前年比は、昨年3、4月が非常に低い水準であったため、今後数か月間に大きく上昇する。また主出が急速に回復する局面においては、特に供給制約が短期的に生産を制限する場合に物価の押し上げ圧力が生じる」とする一方「これらの一時的な物価上昇はインフレ率に一時的な効果しか与えない可能性が高い」としました。
大方のエコノミストは、FRBと同じ見方をしており、したがって米長期金利の上昇は緩やかになると予想。但、今後発表になる物価の指標には注意が必要であると言えます。COIが4月以降も加速を続けるとすれば、長期金利への影響、ひいては株価などへの影響も出てくる可能性が有ります。
4. 米企業業績は好調持続
米企業業績は、好調を持続。1-3月期決算シーズンは、企業の利益が非常に好調な四半期となりつつあります。
S&P500種株価指数を構成する企業の半数以上が5月初旬までに決算を発表。そのうち87%が予想を上回りました。93年以降で、最も好調な四半期となる可能性があります。但、これら企業の株価は決算発表後の取引で平均▲0.2%下落。
米国の5大テクノロジー企業の決算がS&P500種株価を押し上げるのに十分でなかったことを踏まえ、今後も株価は殆ど反応しないことも考えられます。新型コロナ・ウィルスによる業績の低迷からの回復は株価に十分反映されており、ここ1年1箇月の間のS&P500の+62%の上昇に、それらの業績が織り込まれている可能性が有ります。
米国の5大テクノロジー企業の決算がS&P500種株価指数を押し上げるのに十分でなかったことを踏まえると、このトレンドを今週無視するのは難しい。株価のさえない反応は、昨年の新型コロナ・ウイルス感染拡大に伴う業績低迷からの回復の大半は、S&P500がこの1年1カ月に62%上昇する中で十分に織り込まれていたことを示すものだ。
5. 社債スプレッド、新興国
ここで、米欧の社債スプレッドを見ると、長期金利が上昇する中でも拡大しておらず、金融環境を表すフィナンシャル・コンディション・インデックスも、現在良好な状態にあります。企業のデフォルト(債務不履行)も増加しておらず、基本的に良好な金融環境が維持されると予想できます。
また、新興国の米国国債に対するスプレッドは今のところ拡大する兆しがみられません。新興国からの資金流出は昨年の新型コロナ・ウィルス感染急拡大の時期は、リーマンショック時を上回る紀伊簿となってものの、現在は流入超に転じています。FRBによる新興国へのドル供給もあり、新興国への資金の流れは、今後も安定すると予想されます。
但、新興国は財政出動の余地が乏しいため、米長期金利が急上昇すれば資金流出に転じて、株価下落、通貨下落も恐れもあります。新興国の資金動向には注意が必要となっています。
おはようございます。今回は、新興国について考察しましょう。
1. 新興国経済の回復に格差
前回は、中国は新型コロナ・ウィルスの感染源となったものの、いちはやく抑え込みに成功し、その後も自律的な回復軌道を順調に辿っていることをご報告しました。但、中国以外の新興国経済は昨年には大きく落ち込みました(図表1参照)。
特に新型コロナ・ウィルス感染が拡大し、現在も感染が収まっていないインドでは、昨年の第2四半期(4-6月期)に景気が大きく落ち込みました。また、ブラジルも感染症拡大により大きく落ち込み、フィリピン、マレーシアも不調。一方、新型コロナ・ウィルス感染をある程度抑え込んだ韓国、台湾の落ち込みは相対的に小さなものに留まりました。
台湾では、特に世界の旺盛な半導体需要により、輸出が伸びています。韓国もIT産業を中心として堅調。他方、ASEAN(東南アジア諸国連合)のインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピンは相対的に戻りが鈍くなっています。
ASEAM諸国はタイを中心として観光業の比率が高く、新型コロナ・ウィルス感染により海外からの旅行客が事実上止まっていることが大きな打撃となっています。
2. インド、中国などが大きな伸び
ここで、新興国を先進国と比較しておきましょう。前掲載のIMFによる世界経済見通しでは、21年には中国、インドを中心に大きく回復するとしています。但、インドでは感染拡大による景気下押しのリスクが高まっています。一方、米国では上振れが予想されており、日本と欧州が出遅れる形となっています。
3. 消費関連でも格差
消費関連の指標を見ると、全体的の持ち直しているものの、インドが弱く、ASEANも小売り数量指数、消費者信頼感指数ともに弱めの数字(図表3参照)。
ASEAM諸国はタイを中心として観光業の比率が高く、新型コロナ・ウィルス感染により海外からの旅行客が事実上止まっていることが大き
4. 財政面でも問題
新興国経済は、財政面でも問題を抱えています。新興国においては、財政が悪化すると資本が流出し、通貨も下落する懸念があるため、財政出動がしにくいという、いわゆる財政の崖があります。
ブラジルが財政問題の典型。ブラジルは20年には、政府が財政赤字を拡大して景気を下支えして、その結果ある程度景気は持ち直しました。一方、通貨レアルが下落して、インフレ率も高まりました。
今後、ブラジルが更に財政赤字を拡大し、すると、資本流出、一層の通貨下落を招く恐れ場あり、米国のような大胆な財政政策はとりづらくなっています。
5. 景気回復に遅れも
このように、財政面での制約もあり、インド、ブラジル、ASEAN諸国など一部の新興国では、21年における景気回復が、中国、あるいは米国などと比較して相対的に遅れる懸念があります。株価、通貨の面でも、遅れが生じる可能性もあります。
次回は、世界経済のリスクについて見る予定です。
おはようございます。今回は、中国について考察しましょう。
1. 経済は自律的な回復軌道へ
中国は新型コロナ・ウィルスの感染源となったものの、いちはやく抑え込みに成功し、その後も自律的な回復軌道を順調にたどっていると言えます。もともと製造業た建設業も堅調でしたが、サービス関連も2020年10-12月期よりプラスとなっており、バランスの取れた成長の過程にあります。以下、最近の経済指標を見ることにします。
2. 鉱工業生産の伸び率鈍化
まず、鉱工業生産から見ましょう。中国の国家統計局が5月17日に発表した統計によると、4月の鉱工業生産は+9.8%と、3月の+14.1%から減速。市場予想と一致。
3. 4月小売売上高伸び率鈍化
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、4月の小売売上高は前年同期比+17.7%と、3月の+34.2%から減速。市場予想の+24.9%からも上振れ。
4. 1-4月固定資産投資減速
他方、国家統計局による同日発表の1-4月の固定資産投資は、前年同期比+17.7%。今年1-3月の+25.6%から減速。予想の+19.0%から下振れ(図表3参照)。
5. 4月輸出・輸入は大幅増加
一方、中国税関当局が5月7日発表した4月の貿易統計(ドル建て)では、輸出が前年同月比+32.3%の2369億ドル(約28兆円)、輸入が+43.1%の2210億ドル。輸出、輸入ともに伸び率が2桁増となるのは、1月から4箇月連続。米国との貿易が全体を牽引。
輸出から輸入を差し引ひた貿易収支は428億ドルの黒字。輸入の増加額が輸出の増加額を上回り、貿易黒字は前年同月比▲5%。
輸出を品目別で見ると、携帯電話が前エ同月比+38%、PCが+1%と、情報機器が好調。衣類や玩具も6割以上増加。新型コロナ・ウィルス感染拡大以降、輸出を牽引してきたマスクを含む織物は▲17%。
輸入は11年1月以来、10年3か月ぶりの高い伸び。最大品目である半導体が+23%。原油は7割、大豆は5割の増加。地域別では、米国や豪州からの輸入がそれぞれ5割前後増加。国際商品市況の回復により、資源国からの輸入額が増大。
6. 1-3月期GDP+18.3%
中国の国家統計局は4月16日に今年1-3期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+18.3%になったと発表(図表1参照)。成長率は、昨年10-12月期の+6.5%から加速し、1992年の統計開始以来過去最高で、4期連続のプラス。昨年1-3月期は新型コロナ・ウィルスの影響により同▲6.8%であったため、反動により大幅増加。
中国は、昨年には主要国で唯一のプラス成長となり、昨年に続いて投資が成長を牽引。1-3月期固定資産投資が前年同期比+25.6%と好調。鉱工業生産も同+224.5%。PCの輸出の伸びなどにより、輸出は1-3月期に同+49.0%と大幅増加。
7. 全人代21年成長率「+6%以上」
一方、3月5日より第13期全国人民代表者会議(全人代、国会に相当)の第4回会議が開催されました。李克強首相は所信表明にあたる政府活動報告で、2021年の実質経済成長率目標を「+6%以上」と設定。李首相は、「経済開封の基盤は未だ固まっていない」として、雇用回復の遅れや個人消費の伸び悩みを課題として挙げました。
全人代で示された経済運営方針によると、中国政府は徐々に政策による景気下支えを緩めていくものと思われます(図表5参照)。但、急激なマクロ政策の転換は行わないとしています。
経済運営方針では財政赤字のGDP比縮小に言及しているほか、金融政策については貨幣の供給量と社会融資総量の伸びを名目経済成長率に基本的に一致させ、マクロでレバレッジがかからないようにする方針です。
中国国家統計局が4月16日発表したデータによると、3月の主要70都市の新築住宅価格は前月比+0.5%と、2月の同+0.4%から加速。昨年8月以来7箇月ぶりの伸び率。政府の抑制策にも関わらず、不動産市場の過熱が継続。
このように中国の景気には、失速よりも加熱するリスクがあり、中国政府は過度の景気刺激策は行わないと予想されます。全人代においては、2035年までの長期目標で具体的な計数を設定しなかったことが注目されます。
具体的な数値は設定しなかったものの、中国政府は2035年までの15年で経済規模を倍増させることを目標としています。単純計算で年+4.7%〜+4.8%程度の成長が必要となります。
リスク要因としては、中国に対して依然としてバイデン政権が強硬策をとっており、対米関係が悪化する恐れもあります。中国と税国は完全に対立しないまでも、今後も貿易、知財権、防衛などで摩擦を続け、別々の経済圏を形成することも考えられます。
次回は、日本経済を見る予定です。
おはようございます。今回は、欧州について考察しましょう。
1. ユーロ圏景気が低迷
ユーロ圏では景気低迷が継続。2020年10-12月期には、実質GDP成長率が前年同期比▲4.9%と落ち込みました(図表1参照)。今年1-3月期には持ち直すと当初は予想されていましたが、実際には前年同期比▲1.8%と、引き続き低迷。新型コロナ・ウィルス感染がなかなか収まらない中、公衆衛生上の比較的厳しい措置が続いていることから1-3月期も低迷。回復してくるのは今年4-6月期以降と予想されています。
米国経済は順調に回復しており、その勢いは強まっています。国内総生産(GDP)前年比伸び率は、新型コロナ・ウィルス感染拡大などにより、20年4-6月期が▲9.0%、7-9月期▲2.8%、10-12月期▲2.4%と落ち込んだのに対して、21年1-3月期には+0.4%に回復。1-3月期は前期比年率換算では+4.5%であり、4-6月期には前期比年率換算で+6.6%迄回復すると民間エコノミストが予想(図表1参照)。
2. 輸出関連指標が回復
但、昨年4-6月期のようにすべてが悪いわけでもありません。ユーロ圏の輸出関連指標を見ると、世界経済の財需要回復により、名目輸出も製造業PMI新規輸出受注指数も回復傾向にあり、製造業や輸出は堅調(図表2参照)。
3.消費関連指標は再び悪化
新型コロナ・ウィルス感染対策が打たれる中、消費は一旦回復したものの、小売売上数量、新車登録台数ともに、再び悪化(図表3参照)。
これにより、企業の業況感では鉱工業で持ち直しが続いている一方、小売業は若干悪化し、サービス業(飲食・宿泊)では厳しい状況が継続。
4.復興基金に多くは期待できず
米国の大規模経済対策は、景気過熱、インフレリスクを巡る議論に発展していますが、対策が小さすぎるよりは大きすぎる方がよいという点では一致しているように見えます。米国に比べて回復が遅れる欧州でも、より大規模な対策が必要との声もあります。
復興基金「次世代EU」では、7500億ユーロの9割に相当する6725億ユーロの規模の復興・強靭化フィシリティー(RRF)の規則が2月に発効するなど、本格稼働に向けた準備の段階にあります(図表4参照)。
そもそも現段階では加盟国に配分するための資金調達も始まっていません。復興基金の財源は、欧州員会がEU債を発行して市場から調達。EU債の発行には、全加盟国の憲法上の要件に沿った批准手続きを得る必要があり、まだ完了していません。
5. 景気は4-6月期から持ち直しか
このように、ユーロ圏の経済は当初の想定よりは下押しが継続しています。但、ワクチンの接種が進むにつれて、米国ほどではないにしても、景気は勢いを取り戻すと予想されており、4-6月期以降には持ち直すものと思われます。
次回は、中国経済を見る予定です。
おはようございます。今回は、米国について考察しましょう。
1. 米景気が持ち直し
米国経済は順調に回復しており、その勢いは強まっています。国内総生産(GDP)前年比伸び率は、新型コロナ・ウィルス感染拡大などにより、20年4-6月期が▲9.0%、7-9月期▲2.8%、10-12月期▲2.4%と落ち込んだのに対して、21年1-3月期には+0.4%に回復。1-3月期は前期比年率換算では+4.5%であり、4-6月期には前期比年率換算で+6.6%迄回復すると民間エコノミストが予想(図表1参照)。
2. 設備投資、住宅投資が回復
需要国も区別に見ると、設備投資に関する資本財出荷は既に感染前の水準を完全に超えています(図表2参照)。住宅投資も寒波の影響などで多少振れがあるものの、好調を持続。住宅投資については、金利が低水準であることに加えて、感染症対策により在宅勤務が進んでおり、郊外により広い家を買う動きが広がっていることが需要を押し上げています。
3. 消費も回復
消費関連指標を見ると、小売売上高は昨年3月から4月にかけて落ち込んだものの、新型コロナ・ウィルス感染にもかかわらず比較的短期間で回復(図表3参照)。対面サービス型の飲食店は軟調であるものの、消費全体の水準は既に新型コロナ・ウィルス感染拡大前の水準を上回っています。背景としては、政府による大規模な給付金の支給、雇用の回復などがあります(図表3参照)。
4. 雇用も改善
次に、雇用を見ましょう。米労働省が3月の雇用統計を4月2日に発表し、非農業部門の雇用者数増加は前月比+91.6万人と、前月の+37.9万人から大幅増加(図表4参照)。市場予想の+67.5万人を下回り、失業率も▲0.2%ポイント低下の6.0%。新型コロナ・ウィルスのワクチン接種の拡大、政府による追加支援策が雇用の復調を支えています。
米疾病対策センター(CDC)によると、1日時点でワクチンを少なくとも1回接種した人は、全人口の30%に達しました。コロナ禍の社会を支えるエッセンシャルワーカーを中心として接種が進み、3月の雇用者数増加は、景気好調の目安とされる+20万人を大幅に上回りました。
指標を見ると、小売売上高は昨年3月から4月にかけて落ち込んだものの、新型コロナ・ウィルス感染にもかかわらず比較的短期間で回復(図表3参照)。対面サービス型の飲食店は軟調であるものの、消費全体の水準は既に新型コロナ・ウィルス感染拡大前の水準を上回っています。背景としては、政府による大規模な給付金の支給、雇用の回復などがあります(図表3参照)。
一方、米連邦準備委員会(FRB)のパウレル議長は、統計の集計の誤差が存在することや、働くころを諦めて市場から退出人が増加し、労働参加率が低下していることを考慮して、実質的な失業率は10%程度と考えており、依然として厳しい雇用情勢が継続しているとしています。
5. インフレ懸念
リスク要因としては、インフレ懸念があります。政府による大規模な給付金などの影響により、過去の平均的な貯蓄率以上に積みあがった貯蓄の額は1.8兆ドル程度。これらの強制貯蓄が今後、どの程度消費に向かうかが焦点。
消費の上振れによって景気の押し上げ効果が期待できるとともに、物価上昇、長期金利上昇に繋がる可能性が有ります。
元財務長官のサマーズ氏は、強制貯蓄がこれから消費に向かうために、景気や物価が上振れする可能性が有るとしています。但、多くのお好みストは、強制貯蓄が消費を押し上げるとしても、その効果は緩やかであり、それほど大きな影響はないとしています。
その根拠の1つは、貯蓄が富裕層に集中していること。上位20%の金持ちに貯蓄の増加が集中。これらの高所得者の消費性向(所得のうち消費に回る比率)はもともと低く、サービスの需要が回復したとしても、回復の度合いは緩やかなものとなる可能性があります。
次回は、中国経済を見る予定です。
おはようございます。今回は、財政政策などについて考察しましょう。
1. 米が200兆円経済対策
コロナ対策の財政政策で先行するのは、米国。米連邦議会下院は3月10日、バイデン大統領が提案した1.9兆ドル(約200兆円)の新型コロナ・ウィルス対策を民主動主導で可決。上院は通貨済みで、バイデン氏が12日に署名して成立することとなりました。コロナ危機による財政出動は今回が第5弾で、総額6兆ドル弱に膨らみました。1月に発足したバイデン政権は雇用を重視しており、巨額の経済対策で雇用拡大を急いでいます。
「米国救済計画」と名付けられた新対策の中心は、1人最大1400ドル(約15万円)の現金給付。年収8万ドル以上の高所得層は除外するものの、支給総額は4000億ドル規模と、巨額の支給(図表1参照)。2020年3月に決定された第1弾、12月の第2弾と合わせると支給総額は1人最大3200ドル。3回目の支給は3月中に開始。
3月13日に失効する予定であった失業給付の特例加算も9月まで延長。失業者は州・地方政府から平均で州370ドルの失業給付を受け取っているものの、連邦政府が州300ドルを上乗せ。支給総額は2500億ドル規模とみられます。
ワクチンの普及に160億ドルを充てるほか、財政難で治安や教育が揺らぐ州・地方政府に3500億ドルを支給。中小企業対策として500億ドルを用意して、航空会社は鉄道会社にも資金を投入。
対策の総額は1.9兆ドルとなり、20年3-12月に発動した1-4弾と合わせると、対策規模は5.8兆ドル程度となる見通し。名目GDP比で約28%となり、臨時の財政支出だけで通常の年間歳出(19会計年度で4.4兆ドル)を大きく上回りました。リーマン・ショック時の経済対策は08-09年に1.5兆ドル程度で、過去に例のない巨額の財政出動となります。
2. 欧州も経済対策を準備
欧州も資金繰り支援を準備。資金繰り支援の枠組みは、主に財政余地に制約のある国を支援するもので、20年4月に合意した5400億ユーロの危機対応パッケージと、20年7月に大枠合意した7500億ユーロの復興基金「次世代EU」があります。
危機対応パッケージは、雇用維持のために活用する長期低利の融資の枠組み「失業リア浮く軽減の緊急枠組み」の1000億ユーロ、最大2000億ユーロまでの中小企業の資金繰り支援効果を見込む欧州投資銀行グループの汎欧州保障などの創設、常設の資金繰り支援の枠組み・欧州安定間可児ズムによる医療、治療、予防に使途を限定したパンデミック危機支援の2400億ユーロの3本柱からなっています。
復興基金は、7500億ユーロの9割に相当する6725億ユーロの規模の復興・強靭化ファシリティー(RRF)の規則が2月に発効するなど、本格稼働に向け準備の過程にあります(図表2参照)。RRFの基金は、各国が4月末までに提出する「復興・強靭化計画」基づいて行われます。欧州員会の審査、閣僚理事会による承認手続きなどがあるため、資金の配分は早くても今年夏になるとみられます。
現時点では、加盟国に配分するための資金の調達も始まっていません。復興基金の在源は欧州委員会がEU債を発行して市場から調達することとなりますが、EU債の発効には全加盟国の憲法上の要件に従った批准手続きが必要であり、まだ完了していないため。
3.新興国は小幅な対策
新興国は小幅な対策に留まる見込み。新興国の財政政策はGDP比で3.6%程度に留まっています。財政を拡大しすぎると、財政構造脆弱化への懸念から、通貨下落や資本流出につながる懸念があります。このため、新興国は思い切った財政政策をやりにくく、景気回復が弱くなる傾向にあります。
4.リーマン・ショック時との比較
今回の世界経済の回復をリーマン・ショック時と比較すると、20年の世界経済の落ち込みは▲3.5%と、リーマン・ショック時の0%程度よりも大きな落ち込みとなったものの、21年には比較的強い回復が見込まれています。リーマン・ショック時には先進国を中心として金融が大きな打撃を受けたのに対して、今回は新興国で感染症による打撃がより大きく、回復も遅れていることが原因となっています。
世界生産と貿易量も、リーマン・ショック時と比較して今回は急速に回復。その大きな理由として感染症によりサービス業が減退する一方、需要が財にシフトしていることがあります。
特にIT関連が好調で、PC、ビデオ会議などの需要が急増。一方、自動車は米国、中国を中心に回復してきたものの、今後は一服する見込み。自動車販売は、21年には前年比+10%程度の回復が見込まれています。
資本財も米国、中国を中心に急激に回復。中国では建機などの需要が急増。そのため、リーマン・ショック時と比較すると貿易の回復も早く、既にコロナ・ショック以前の水準を上回るまで持ち直しています。
5.K字回復継続へ
但、業種別では回復の速度にはかなり差があると見込まれます。ITは絶好調で、米国企業ではアップル、フェースブック、マイクロソフト、アマゾンなどで、売り上げ、利益が大きく伸びています。
一方、世界的に人の流れはまだ停滞しており、ホテルなどの宿泊業、飲食、航空、一部の小売りは停滞。業種間の格差が拡大。また、国別でも、インドで再び感染が急拡大するなど、一部の新興国の回復が遅れると予想されます。世界全体としてK字型回復が続く見込みであり、投資戦略としても、それらの動きを踏まえることが必要となってきます。
次回から地域別経済を見る予定で、先ずは米国から見ていく予定。
おはようございます。2021年において、中国は米国と共に、世界経済を牽引するとの見通しが強まっています。中国経済の現状と見通しについて考察しましょう。
1. 展望にあたって
世界経済を展望するにあたって、重要な点を抑えておきましょう。
まず、世界経済は昨年1-3月期、あるいは4-6月期に大きく落ち込んだものの、全般に持ち直す方向にあります。特に米国では大規模な経済対策が打ち出されており、さらに世界でワクチンの接種も進んでおり、その有効性も高いことが判明してきました。
次に、地域、国により回復の度合いにかなり差があります。中国と米国が世界経済の回復を牽引することとなりそうです。中国はいち早く新型コロナ・ウィルス感染を抑え込み、景気の落ち込みも比較的小さくて済みました。米国経済も力強く回復。一方、欧州は足下で新型コロナ・ウィルス感染が再拡大しており、一部の国では再びロックダウン(都市封鎖)に踏み切りました。新興国もワクチン接種の遅れや、財政事情により、回復の鈍い国が多くなっています。
更にリスク要因としては、新興国を中心にワクチンがまだ行きわたらない国があり、新型コロナ・ウィルス感染の終息に手間取ることも予想されます。また、米国では大規模経済対策により、景気の上振れリスク、長期金利、インフレ率の上昇が懸念されます。
2. IMFによる見通し
次にIMFによる見通しを見ておきましょう。国際通貨基金(IMF)は4月6日に、世界経済見通しを改定。20年と21年の世界経済の成長見通しをそれぞれ+6.0%、+4.4%と予想。今17月時点の予想からそれぞれ+0.5%、+0.2%の上方修正。一方、各国内及び先進国と発展途上国との格差拡大や乖離に継承を鳴らしました。
IMFは今年1月に世界経済成長率を+5.5%に引き上げており、上方修正は3か月で2回目。最新予測の通り+6%成長が実現すると、1980年以降で最大の伸びとなります(図表1参照)。世界銀行の同様の統計で見ると、73年以来の高い伸び。
3. インド、中国などが大きな伸び
一方、国・地域別にみると、米国の21年成長率は+6.4%と、+1.3%ポイントの上方修正(図表2参照)。1月に発足したバイデン政権が1.9兆ドル(約200兆円)の経済対策を実現した効果を加味。中国と共に、世界経済を牽引すると予想。
22年の世界経済成長率見通しは+4.4%と、従来予想の+4.2%から+0.2%ポイント引き上げています。但、多くの先進国が22年までパンデミック前の水準に戻らず、新興国や途上国がコロナ禍前の水準に戻るのは、23年迄かかると予想。
新興国では、21年にインドが+12.5%の高い伸び。中国も+8.4%の高い伸び。中国はいち早く新型コロナ・ウイルスを抑え込み、景気の落ち込みを主要国の中では、小幅に抑え込みました。ブラジル、ロシアなど資源国も、銅などの金属、あるいは原油価格の反発などにより、21年には大きく回復する予想。
4. 世界で8億回以上の接種
では、世界全体のワクチン接種の状況はどうなっているのでしょうか。世界全体で、新型コロナ・ウィルスのワクチン接種が進展。世界全体の累計回数は、4月14日までに8億2519万回を突破。7日間の接種階数は、1日平均で1801万2201回。
国・地域別では米国、中国の接種回数が突出しており、2カ国で全体の44.6%を占めています。欧州各国でも接種が進展。日本の累計接種回数は179万9048回(図表1参照)。
5.人口100人当たりではイスラエルがトップ
但、多くのワクチンでは、免疫獲得に2回以上の接種が必要。1回の接種で免疫獲得を目指すのは、J&Jの製薬部門ヤンセンファーマなど一部に限られます。そのため、接種の進捗を見るためには、免疫獲得に必要な回数の接種を完了した人数も見る必要があります(図表2参照)。接種完了人数では、人口100人当たりでイスラエルがトップで54.7人。既に2人に1人以上が接種を終えたことになります。
7.ワクチンの契約状況
一方、各国政府はワクチンメーカーとの供給契約を急いでいます。4月2日時点で、86.2億回を超えるワクチンの契約が締結されています。うち、英アストラゼネカが24.2億回で最大のシェアで、少なくとも44か国・地域と契約。1回接種と利便性の高いJ&Jのワクチンも10億回分と多くなっています。
猶、国連はワクチンの国・地域の平等な接種を目指すCOVAXを推進。インドの強力を得て、ガーナなどアフリカの国などにワクチンを送付。ワクチンの接種は先進国を中心に進んでおり、そのままであれば、新興国、途上国に十分なワクチンが回らず、コロナの抑制が長引くと考えられます。
8.新興国遅れが長期化か
このように、先進国が十分なワクチンを確保したのに対して、新興国はワクチンの確保が送れています。そのため、世界全体としては人の流れが引き続き制限され、航空、ホテルなどの産業が引き続き打撃を受ける可能性もあります。また、地域・国別の成長率にも大きな差が出て、産業、国ともにいわゆる「K字型」回復が継続することも予想されます。
次回は、財政政策などを見る予定です。
おはようございます。2021年において、中国は米国と共に、世界経済を牽引するとの見通しが強まっています。中国経済の現状と見通しについて考察しましょう。
1. 10-12月期GDP+6.5%
まず、四半期の成長率を見ておきましょう。中国の国家統計局は1月18日に昨年10-12期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比で+6.5%になったと発表(図表1参照)。成長率は、4-6月期の+4.9%から加速し、予想の+6.1%からも上振れ。
2020年通年では実質で前年比+2.3%と、主要国の中で唯一プラスを維持したとみられます。中国は新型コロナ・ウィルスを早期に抑え込むことに成功。投資など企業部門が景気の回復を牽引。
中国の四半期成長率は昨年1-3月期の前年同期比▲6.8%と、1992年に公表を開始した四半期ベースで初のマイナス成長となりました。但、その後はコロナ・ウィルス感染拡大を抑え込み、生産を立て直し、投資、輸出が成長に寄与しました。
2. 鉱工業生産予想上回る
次に、鉱工業生産などの指標を見ましょう。中国の国家統計局が3月15日に発表した統計によると、1-2月の鉱工業生産は+35.1%と、昨年12月の+7.3%から大幅加速。市場予想の+30.0%からも上振れ。
3.1-2月小売売上高も大幅増加
中国の国家統計局が同日に発表した統計によると、1-2月の小売売上高は前年同期比+32.0%と、12月の+4.6%から大幅増加。市場予想の+32.0%からも上振れ。
4.1-2月固定資産投資も大幅増加
他方、国家統計局による同日発表の1-2月の固定資産投資は、前年同期比+35.0%。昨年1-12月の+2.9%から加速。予想の+40.0%からは下振れ(図表3参照)。
国家統計局の劉報道官は、統計発表後のブリーフィングで、中国経済は依然として、回復過程にあると示唆。
同報道官は第1四半期の経済は、前年同期比で急回復を見せる可能性が有るとしながらも、景気回復に不均衡がみられるために、消費への支
5. 3月製造業PMIは予想上回る
では、最近発表の指標として、3月PMIを見ましょう。中国の国家統計局が3月31日発表した3月の製造業購買担当者指数(PMI)は51.9と、前月の50.6から上昇。3か月ぶりの高水準。市場予想の51.0から上振れ。春節(旧正月)の連休の操業を停止していた工場が、需要増加に対応するために生産を再開したことが背景。
中国の工場は通常、春節の連休中は操業を停止するものの、今年は新型コロナ・ウィルス感染への懸念により多くの労働者が遠出を控えたため、通常よりも早期に操業が再開。
内訳では、生産と新規受注の指数がともに3か月ぶりの水準。輸出受注指数は、海外の需要改善で再び50を上回りました。
一方、同日に発表された3月の非製造業PMIは56.3と、前月の51.4から上昇。サービス部門は製造業部門よりも回復が遅れていたものの、このところ消費活動が活発になっています。
製造業と非製造業を合わせた総合PMIは55.3で、2月の51.6から上昇。
6. 21年は高い成長率を維持か
一方、国際通貨基金(IMF)は4月6日、最新の「世界経済見通し」を発表し、21年の世界経済の成長率を+6%と予想して、1月発表の見通しから+0.5%ポイント上昇修正しました。
中国経済の見通しは、1月に発表された前回見通しから+0.3%ポイント上方修正されて+8.4%となり、先進国は+5.1%、新興国と途上国はそれぞれ+6.7%と予想。
世界経済の見通しについては、「世界経済の前途は依然として不確実であり、新型コロナ・ウィルスの感染状況と政策支援措置の効果などにかかっている」としています。
他方、中国では4月16日に第1四半期の経済指標が発表されることとなります。3月に行われた第13期全人代(全国人民代表大会)では、21年通年の実質GDP成長率の目標を+6.0%以上としており、第1四半期の成長率が注目されます。
今後のリスク要因としては、米中の外交、貿易面での対立、新型コロナ・ウィルス感染の再拡大による世界経済への影響、資源価格上昇の影響などが考えられます。
中国税関当局が4月13日発表した3月の貿易統計では、3月のドル建て輸出は、前年同月比+30.6%。伸び率は2月の同+154.9%から鈍化して、市場予想の+35.5%からも下振れ。
輸入は同+38.1%で17年2月以来の大幅増加。伸び率は2月の+17.3%を上回り、市場予想の+23.3%からも上振れ。
貿易面から見る限り、中国経済は順調に回復の途上にあると考えられます。貿易などの好調が、中国の株価にポジティブに影響することも考えられます。
おはようございます。IMFが世界経済見通し改定し、前回1月の見通しから上方修正しました。
1. 20、21年の世界経済見通しを上方修正
国際通貨基金(IMF)は4月6日に、世界経済見通しを改定。20年と21年の世界経済の成長見通しをそれぞれ+6.0%、+4.4%と予想。今17月時点の予想からそれぞれ+0.5%、+0.2%の上方修正。一方、各国内及び先進国と発展途上国との格差拡大や乖離に継承を鳴らしました。
IMFは今年1月に世界経済成長率を+5.5%に引き上げており、上方修正は3か月で2回目。最新予測の通り+6%成長が実現すると、1980年以降で最大の伸びとなります(図表1参照)。世界銀行の同様の統計で見ると、73年以来の高い伸び。
2. インド、中国などが大きな伸び
一方、国・地域別にみると、米国の21年成長率は+6.4%と、+1.3%ポイントの上方修正(図表2参照)。1月に発足したバイデン政権が1.9兆ドル(約200兆円)の経済対策を実現した効果を加味。中国と共に、世界経済を牽引すると予想。
22年の世界経済成長率見通しは+4.4%と、従来予想の+4.2%から+0.2%ポイント引き上げています。但、多くの先進国が22年までパンデミック前の水準に戻らず、新興国や途上国がコロナ禍前の水準に戻るのは、23年迄かかると予想。
新興国では、21年にインドが+12.5%の高い伸び。中国も+8.4%の高い伸び。中国はいち早く新型コロナ・ウイルスを抑え込み、景気の落ち込みを主要国の中では、小幅に抑え込みました。ブラジル、ロシアなど資源国も、銅などの金属、あるいは原油価格の反発などにより、21年には大きく回復する予想。
おはようございます。。インドの景気が、回復の兆しを見せています。
1. 消費者物価指数上昇率が加速
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が3月12日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+5.03%(図表1参照)。前月の+4.06%から加速。市場予想の+4.83%からも上振れ。
2. 10-12月期成長率+0.4%に回復
続いて、インド統計局が2月26日に発表した10-12月期成長率は、前年同期比0.4%に回復(図表2参照)。1-3月期の+3.1から急減速し、過去最大の落ち込み。市場予想の▲18.3%からも下振れ。4-6月期及び7-9月期にはマイナス成長となっていましたが、コロナ・ウィルスの感染減少に伴う経済活動の正常化により、3四半期ぶりにプラスに転じました。
インド政府は20年3月下旬から5月末に全土封鎖を行い、6月から段階的に解除。4-6月期には四半期の統計を開始した1996年以降で最悪の▲24.4%。7-9月には▲7.3%と、下落幅が回復していました。
3. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行)は2月5日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表3参照)。据え置きは市場の予想通り。新型コロナ・ウィルスのパンデミックによる景気への打撃を抑制し、景気回復を支援。
また、LAFのリバースレポ金利(市中銀行のRBIへの預金金利)を3.35%に、市中銀行が資金逼迫時にRBIから政府債を担保に資金を借りることができる流動性供給スキーム「MSF」と公定歩合をそれぞれ4.25%に据え置きました。
RBIは「今回の現状維持の決定は、経済成長を支える一方で、インフレ率を中期の物価目標の+4%(レンジは+2%〜6%)の達成を目指すという我々の目的と合致する」としました。
4. 新型コロナ・ウィルス感染拡大に懸念
一方、米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、新型コロナ・ウィルス感染者数は、日本時間3月27日未明に1億人を突破。中国武漢で新型肺炎が確認されたのが19年12月で、世界の感染者数が5000万に達したのが11月。31日午後4時現在で、米ジョンズ・ホプキンス大学によると感染者数は12,149,335人に拡大。
インドではこのように再び感染が拡大していますが、29日にはヒンズー教の伝統の祭りに大勢の人が集まり、更なる拡大が懸念されています。29日には、色のついた水をかけあって春の訪れを祝うヒンズー教の伝統の祭り「ホーリー」が行われました。
北部のウッタルプラデシュ州では、大勢の人が集まるのを控えるよう帯びかけられているものの、自院には大勢の人が集まりました。人々は赤や緑など、鮮やかな色のついた粉や水をかけあった後、紙に祈りをささげていました。
各地の祭りでは、感染対策が徹底していないケースも多く、更なる感染の拡大に懸念が出ています。
5. 株価と為替
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)。但、2019年12月末と2021年3月末との比較では、+2.62%の小幅上昇。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、2019年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。21年3月末には49,509ポイントと、19年12月末比では+20.07%と、順調に回復。
6. 課題とリスク
インドでは、製造業の発達が遅れていること、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が深まっていること、新型コロナ・ウィルス感染拡大が継続しているなど、多くの課題があります。また、北部カシミール地方の領有権を巡っては、中国と外交的に対立を深めています。
インドの強みの1つは人口構成の若さ。今後も15-64歳のいわゆる労働人口の増加が見込まれており、その面では、有利です。一連のコロナ騒動が収まれが、再び成長軌道に復帰するとみられます。
おはようございます。インドネシアの景気は、緩やかに持ち直しています。
1. 2月CPI上昇率は+1.38%に減速
インドネシア中央統計局は3月1日に、2月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+1.38%になったと発表(図表1参照)。市場予想の+1.38%に一致。前月の+1.55%から減速し、引き続き低水準にとどまっています。
2. 政策金利を据え置き
一方、インドネシア中央銀行は3月18日に、政策金利であるBIレートを3.50%で維持すると発表。引据え置きは市場の予想通り。過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利も2.75%に、翌日物貸出ファリリティー金利は4.25%にそれぞれ据え置き。
中銀は政策金利を据え置いたことについて、今回の据え置き決定は(最近の米国債利回りの急上昇により)世界の金融市場の見通しが不透明になっている中、(急落している)通貨ルピア相場を安定させる必要性を考慮した」としました。さらに、「景気回復の勢いを支援するため、金融緩和的なマクロ・プルーデンス政策(金融システムの安定を目指す政策)や金融部門の進化(公開市場操作)など非伝統的な政策手段を講じていく」としました。
3. 10-12期▲2.19%成長に持ち直し
インドネシア中央統計局は2月5日に、10-12月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲2.19%であると発表(図表3参照)。減少幅は7-9月期の▲3.49%から縮小し、市場予想の▲2.3%から上振れ。
猶、2020年通年の成長率は前年比▲2.07%と、19年の同+5.02%から急減。通年のGDP成長率の縮小は、1998年以来で初めて。
10-12月期GDPを需要項目別で見ると、主に、内需の落ち込みがマイナス成長に繋がりました。
4. ジョコ政権は安定
一方、発足後1年余りを過ぎた第2期は、新型コロナ・ウィルス感染症の抑え込みには成功していないものの、社会の不満が爆発して、混乱に陥る状況にはないとみられます。背景に、政府が以前から実施している貧困層への支援策があります。
19年10月に発足した第2期ジョコ政権の最優先課題は、新型コロナ・ウィルスの抑制と経済の活性化。今のところ、感染拡大による失業者数増加や社会的制限の実施にもかかわらず、政権の支持率は高止まり。20年11月の雇用創出法の成立や、1月13日から始まった新型コロナ・ウィルス・ワクチンの早期投入の実現により、大統領の政界における求心力も高いとみられます。
地場の調査会社サイフル・ムジャニ・リサーチ・アンド・コンサルティング(SMRC)が2012月に実施した世論調査では、ジョコ大統領の実績に「非常に満足している」あるいは「満足している」と回答した人の割合は74%でした。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表4参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻し、21年2月末には同+2.8%まで戻りました。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻し、21年2月末には同▲0.9%まで戻っています。
米国では、株価指数S&P500指数が既に最高値を更新しており、日本など他の先進国の株価も堅調。中国の上海総合指数も19年末比で高値を更新しており、インドネシアの株価は出遅れています。インドネシア国内の新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まって来れば、株価、為替ともに堅調に推移することも考えられます。
おはようございます。トルコ経済に、回復の兆しがみられます。
1. 2月CPI上昇率市場予想上回る
トルコの経済指標を順次見ておきましょう。トルコ統計局が3月3日に発表した1月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+15.61%となり、1月の+14.97%から伸び率が加速。市場予想の+15.39%から上振れ。
2. 政策金利を据え置き
一方、トルコ中央銀行は、1月21日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を17.00%に据え置くことを決定(図表2参照)。12月の前回会合までは、インフレ抑制のために、2会合連続で金利を引き上げていました。据え置きは、市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、主要政策金利を据え置いたことについて、「強い内需や通貨トルコリラ安による輸入物価上昇効果、輸入食品やコモデティの価格上昇、期待インフレ率の上昇が引き続き、企業の価格設定行動やインフレの先行き見通しに悪影響を与えている」として、インフレ懸念を示唆。
一方、「20年11月と12月の過去2回の利下げによるインフレ抑制効果が表れて、内需やトルコリラ安による輸入物価常勝等によるインフレへの悪影響は徐々に緩和していく」として、当面、利下げ効果を見守るとしました。
3. 10-12月期成長率+5.9%
他方、トルコ統計局が3月1日に発表した昨年10-12月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+5.9% (図表3参照)。7-9月期の+6.3%から続いて2期連続で増加したものの、市場予想の+6.9%を大きく下回りました。政府の強力な財政支援策により、プラス成長を維持したものの、新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)の第2波感染拡大を受けて、20年12月に経済活動を再規制したことが足枷となり、市場の期待を下回りました。
20年通年のGDPは前年比+1.8%と、19年の+0.9%を上回り、18年の同+3.0%以来、2年ぶりの伸び率。IMF(交際通貨基金)が発表した新興国地域の伸び率(平均で▲2.4%)を下回りました。
トルコの20年GDP伸び率の主な内訳は、農業+4.8%、金融・保険業+21.4%、情報・通信業+13.7%と、大幅増加。製造業+2.0%、建設業▲4.3%、サービス業▲4.3%。
4. 新型コロナ・ウィルスの感染拡大
一方、トルコのエルドアン大統領は3月15日、新型コロナ・ウィルス感染が増加している中、現時点で、新たな規制は実施しないとの考えを示唆。同日に確認された感染者数は1万5503人で、今年に入って最多。
大統領社、全土の1日あたり感染者数が1万人弱であった3月1日に多くの県で規制が緩和された後に、2週間で感染が増加していることを認めました。但、一部の件で感染が増加しているものの、入院患者や集中治療室(ICU)の使用、重症者数は増加していないとしました。閣議後に、「現状の措置を継続して状況を注視する決定を下した」と述べました。
5. 外交立て直し図る
トルコは、これまで対立してきたエジプトやイスラエルとの関係縦の押しを図っています。バイデン政権がトルコに厳しい立場をとっており、イスラエルがアラブ諸国に接近していることにより、トルコの孤立感がたかまっていることが背景にあります。
トルコのチャブリオース外相は、3月12日、8年ぶりにエジプト政府と外交協議を行ったと示唆。エルドアン大統領は同日、「エジプトとは友人として付き合える」として、従来の姿勢を修正。
トルコはこれまでパレスチナを支援してきましたが、イスラエルとも接触。ネタニヤフ・イスラエル首相は11日、東地中海のガス田開発について、「トルコとも協議している。とても良い動きだ」としました。
6. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。トルコの通貨リラは、20年2月以降に一貫して下落(図表4参照)。インフレ率の上昇、地政学的リスク、エルドアン大統領と中央銀行総裁の対立などが主な要因。
トルコでは、昨年11月初めにウイサル中央銀行総裁と、エルドアン大統領の娘婿のアルバイラク財務相が相次いで辞任。それぞれの後任者が、通貨リラの価値を維持し、経済がより深い混乱に陥ることを防ぐことが期待されました。
新しい中銀総裁に就任したナジ・アーバル氏は、物価安定に狙いを定めると発言。中銀が利上げに動くと期待されました。上記の通り、その後中銀が利上げを行い、その結果リラも安定を取り戻しました。11月以降、リラは対ドルで上昇。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は、18年から19年秋ころまでは軟調。その後19年末にかけて上昇したものの、20年2月以降は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大により急落(図表4参照)。その後は、米連邦準備理事会(FRB)の大規模金融緩和などにより、株価は急激に上昇しました。
7. リスク要因と課題
通貨リラが長期的に下落傾向にあり、輸入物価上昇、消費者物価全体の上昇に繋がってきました。欧州の自動車メーカーなどが一部進出しているものの、製造業の発展が十分でなく、観光産業以外に見るべき産業もあまりありません。
エルドアン大統領に対抗する政治勢力は国内に見当たらないものの、外交面では、米国、アラブ諸国との関係改善が課題となっています。
が本気で構造改革に取り組む姿勢を見せるかどうかに注目する必要があります。東地中海のガス田開発について、欧州はトルコに批判的であり、利害関係の調整が必要となっています。
おはようございます。東日本大震災から、10年。復興はまだ道半ばですが、今後の進展に期待しましょう。さて、南アフリカの昨年10-12月期GDPが発表となり、やや明るい兆しもあります。
1. 2月CPI上昇率は+3.2%に加速
南アフリカ統計局は2月17日に、2月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+3.2%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+3.1%から伸び率が加速し、市場予想の+3.2に一致。
2. 政策金利を据え置き
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は1月21日に、主要政策金利であるレポレートを3.50%に据え置くことを決定。据え置きは3会合連続。利上げ開始の時期が、従来想定されていたよりも速まる可能性を示唆。
クガニャゴ総裁はオンライの計資金の会見で、金融政策委員会(MPC)が政策金利のレポ金利を3.5%で維持したと発表。中銀の四半期予測モデルでは、21年4-6月期と7-9月期にそれぞれ+0.25%ポイントの引き上げを示唆。これは、利下げが昨年11月時点の予測よりも速く開始される可能性が有ることを示唆。但、将来の政策決定は「見通しに対するリスクのバランスに影響されやすい」と同総裁は述べました。
3. 10-12月期成長率は+6.3%
一方、南アフリカ政府統計局は3月9日に、10-12月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで+6.3%になったと発表(図表3)。市場予想の+5.6%から上振れ。前期の同+67.3%からは鈍化したものの、プラスを維持。10-12月期は、前年同期比では▲4.1%。
通年では、前年比▲7%と、19年の+0.2%から大幅な落ち込み。1世紀前の1920年にはGDPが▲11.9%。中央銀行のデータによると、当時は第一次世界大戦の2年に亘る景気後退期。
同国は昨年に、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、100年で最大の経済縮小となりました。新型コロナ・ウィルス対策による都市封鎖と、生産と貿易に打撃を与えました。
4. 人口の約半数が新型コロナ・ウィルス感染か
南アフリカの新型コロナ・ウィルス感染者数が、推計で人口の約半数前後に上ることが、最新の研究結果などで判明。死者数も、公式発表の数字を大幅に上回るとみられます。
公式発表では、南アの感染者数は人口の2-3%に当たるや鵜150万人で、死者は約4万8500人。但、最近公表された研究によると、4週の約5000人の後退を検査すると、3263%が感染していたことが判明。
更に、南アフリカ医療研究評議会によると、昨年5月以降、過去の統計から予測される死者数を実際の死者数が上回る「超過死亡」が14万人以上に達していています。医療保険大手ディスカバリーは、このうち約9割が新型コロナ・ウィルスによるものと推定。
5. 為替と株価
ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。南アフリカ・ランドは、20年4月以降に対ドルで一貫して上昇。12月には、新型コロナ・ウィルスのワクチンへの期待が高まり上昇。8日発表の7-9月期GDPが前期比年率+66.1%と、5四半期ぶりのプラス成長となり、ランドは一段高。
21年に入ると、南アにおける新型コロナ・ウィルスの変異種の感染拡大により、政府による一段の行動規制強化を受けて景気下押し懸念が強まったことにより、ランドは一時下落しました(図表4参照)。その後、10-12月期GDP発表などを受けてやや上昇。
株価は、代表的な株価指数の1つであるFTSE/JSEアフリカ全株指数でみると、18年から20年春にかけてほぼ横這いで推移(表5参照)。20年に入ると、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、株価は急落。但、3月以降には、ワクチン開発への期待、更に7-9月期GDPが急回復したことなどにより、株価も急反発。昨年10-12月期GDPもまずまずの数字となり、続伸。
6. リスク要因と課題
まず、南アフリカにおいては、経常収支と財政収支赤字が、国内総生産(GDP)比で大きく、通貨が売られやすい状況にあります。米連邦準備委員会(FRB)の利上げにも、注意する必要があります。
また、19-20年には計画停電が相次いで発生。国内電力供給の9割を担う国営電力会社エスコムは、政治かとの癒着や放漫経営などで財政状況が悪化。企業は自家発電を導入し、家賃が上がるなどの影響が出ています。
但、世界景気の回復、自動車向け白金の需要の回復などにより、金、白金等資源への需要が回復傾向にあります。中長期では、資源への依存を低下させ、製造業の振興を図る必要があります。また、黒人を中心として失業率が高止まりしており、社会格差の縮小も課題となります。
おはようございます。レポート「脆弱5か国の近況」でブラジルについてお伝えしましたが、昨年10-12月期GDPが発表になりました。近況を見ておきましょう。
1. 政策金利を据え置き
ブラジル中央銀行は1月20日の金融政策委員会で、政策金利を2.0%に据え置くこと全員一致で決定(図表1参照)。据え置きは市場の予想通り。今回で、現状維持は4会合連続となります。
中銀は政策決定後に発表した声明文で、(物価目標など)所定の条件が満たされない限り、景気刺激姿勢を緩まないとする、フォワードガイダンス(金融政策の指針)を終了すると表明。
フォワードガイダンスについて中銀は「(低下傾向を示唆していた)期待インフレ率が上向きに転じて、インフレ見通しも十分に金融政策が波及する一定の期間内の物価目標にほぼ終息したことから、これまでのフォワードガイダンスを維持する状況にならなくなった」としました。
2. インフレ率がわずかに加速
一方、ブラジル地理統計院は2月9日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+4.56%と、前月の同+4.52%からわずかに加速(図表2参照)。
3. 10-12月期GDPは▲1.1%に戻す
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は3月2日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲1.1%であったと発表(図表3参照)。市場予想の▲1.6%から上振れ。前期の同▲3.9%からは回復し、マイナス幅を縮小。前期比伸び率(季節調製済み)は+3.2%。予想の+2.8%から上振れ。但シ、前期の同+7.7%かは伸び率が鈍化。
20年通年のGDP成長率は▲4.1%と、19年の+1.4%から低下。
需要項目別では、個人消費が+3.4%(前期は同+7.7%)、政府消費が+3.5%(同+1.1%)、投資+20.0%(同+10.7%)、輸出が▲1.4%(同▲2.0%)、輸入が+22.0%(同▲9.6%)。輸出入を除いた主要項目は、いずれも10-12月期に続いてプラスを維持。
10-12月期のブラジル経済は回復を継続したものの、 足下では変異種の流行などで新型コロナ・ウィルスの新規感染者が多い状況が継続。さらに、インフレ率は低いものの、金融市場では通貨レアルの下落が進んでおり、金融緩和余地は小さいとみられます。ブラジル経済は、今後も停滞する可能性が有ります。
4. ワクチン接種開始
一方、ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)は1月17日、ブラジルが中国のシノバック・バイオテックと共同開発した「コロナバック」と、英国おオック府フォードが抱くがアストラゼネカと共同開発した「コビシールド」の2種類のコロナ・ウィルス・ワクチンの緊急使用(合計800万回分)を承認。
サンパウロ政府はANVISAの承認後、連邦政府の接種に先立つ形で、ブラジル初の新型コロナ・ワクチン接種を開始。同州政府公式サイトによると、22までに10万人以上がッ接種。
連邦政府が当初から確保を試みていたオックスフォード・アストラゼネカのワクチンは、生産元のインドからの入手が一時阿多部まれれいたものの、22日にブラジルに到着。インドのモディ首相は、同日に、インドに謝意を表していたボルソナロ大統領に「新型コロナ対策で、ブラジルの信頼に足るパートナーになれたことは光栄だ」と表明。
一方、ブラジルの感染者数は2月17日午後4時現在で9,921,981人と、米国、インドに次いで世界第3位(ジョン部・ホプキンス大学による)。死者も55,271人と、米国の63,561人について世界第2位。ブラジルではボルソナロ大統領が「コロナは風の一種だ」として軽視したころもあり、経済に大きな打撃となっています。今後は、ワクチンの接種などにより、新型コロナ・ウィルスをどの程度抑え込めるかが、景気に大きな影響を与えることとなりそうです。
4. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年2月末には同5.59レアルと、19年末比で▲39.3%の大幅下落。国内の景気低迷などが影響しているとみられます。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから20年3月には74,640ポイントへと大幅下落。その後、20年12月末には119,306ポイントに回復。
但、21年に入ってからは景気停滞などにより、2月末には110,035ポイントと、19年末比で▲2.1%の小幅下落へと転じました。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。このところ、米国では長期金利が上昇する傾向にあり、ブラジルの株価にも下押し圧力がかかる可能性が有ります。
おはようございます。米欧とイランの対立が継続しています。
1. イランが抜き打ち核査察拒否へ
イラン政府は国際原子力機関(IAEA)に対して、米国による経済制裁が21日迄に緩和されなければ、今後は核合意に基づく核関連施設への抜き打ち査察を認めないと、15日に通知。イランのガリブアバディ在ウィーン国際機関代表部大使が15日にツイッターで示唆。
核合意は2015年に、イランと米英独仏中露が結びました。イランの核開発を制限する一方、経済制裁の緩和が盛り込まれていました。祖語の、18年に当時のトランプ米政権が一方的に合意から離脱し、制裁を再開。
査察の受け入れ拒否は、イラン国会で多数を占める保守強硬派が主導し、昨年12月に成立した新法に基づいています。制裁が緩和されなければ、今月23日をもって抜き打ち笹s津を認めた追加議定書の履行をやめるとしています。
2. イランとIAEAが最大3か月の査察受け入れで合意
イランが未申告の核施設への抜き打ち査察受け入れを停止すると宣言してことを受けて、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長は2月20日夜、イランを訪問。同氏は21日、イラン原子力庁のサレヒ長官と会談。今後の査察協力の技術的な進め方について話し合った模様。
その後21日夜に、グロッシ事務局長は、イランと核関連施設の必要な査察を最大3か月間継続することで合意したと発表。イランは23日から未申告の施設への抜き打ち査察を認める「追加議定書の在位暫定思考を停止するものの、最低限の協力姿勢を維持(図表1参照)。
IAEAはイランが23日に追加議定書の履行を停止した後も、核関連施設の必要な検証や確認作業は継続できることとなります。グロッシ氏は「これは一時的な解決策だ」と協調。「IAEAの企業は状況を安定させることだ」としました。3か月の間に、関係国の協議が進展することに期待しました。
IAEA破擦の規模縮小を予期亡くされそうで、従来よりもイランの核開発の実態の把握は難しくなると予想されます。イランはひとまず、IAEAが必要な作業を継続できるよう譲歩することにより、国際社会からの孤立を防止し、米国などの交渉を有利に進めようとの思惑があるとみられます。
3. 原油価格が上昇
一方、原油価格の代表的な指標の1つであるWTI先物は昨年11月以降上昇を続け、2月25日15:30現在では63.63ドル、前日比+0.41ドル(図表2参照)。コロナによる急落以前の、20年1月初めの水準を回復。
昨年秋以降には新型コロナ・ウィルス感染が再拡大したことにより、原油需要の回復は鈍いものの、ワクチン普及による先行きの需要回復を織り込む動き。さらに、OPECプラスによる大規模減産の継続とその遵守、米シェールガス生産の停滞による供給の抑制、金融緩和継続による投資家の資金流入などが、原油価格回復に寄与しました。
今後の注目材料としては、需要サイドとしてはワクチンの普及の速度とその効果、変異種の影響が注目されます。供給サイドでは、米シェールガスの生産動向とバイデン政権による石油開発抑制、OPECプラスによる減産縮小、減産を除外されている3か国、特にイラン制裁の動向、などが注目されます。
このような観点から、原油価格は当面、堅調に推移する可能性が高いと考えられます。ワクチンの普及が進み、米国で景気が回復し、欧州、日本などもそれに続くと予想されます。財政出動もあり、21年には、先進国を中心に景気回復が一段と進むと予想されます。今後は、OPECプラスの減産縮小、米シェールガス生産の回復などが、リスク要因と考えられます。
おはようございます。前回の南アフリカに続き、今回はブラジルです。
1. 政策金利を据え置き
ブラジル中央銀行は1月20日の金融政策委員会で、政策金利を2.0%に据え置くこと全員一致で決定(図表1参照)。据え置きは市場の予想通り。今回で、現状維持は4会合連続となります。
中銀は政策決定後に発表した声明文で、(物価目標など)所定の条件が満たされない限り、景気刺激姿勢を緩まないとする、フォワードガイダンス(金融政策の指針)を終了すると表明。
フォワードガイダンスについて中銀は「(低下傾向を示唆していた)期待インフレ率が上向きに転じて、インフレ見通しも十分に金融政策が波及する一定の期間内の物価目標にほぼ終息したことから、これまでのフォワードガイダンスを維持する状況にならなくなった」としました。
2. インフレ率がわずかに加速
一方、ブラジル地理統計院は2月9日に、1月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。1月のIPCAは前年同月比+4.56%と、前月の同+4.52%からわずかに加速(図表2参照)。
3. 7-9月期GDPは▲3.9%に戻す
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は12月3日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲3.9%であったと発表(図表3参照)。市場予想の▲3.5%から下振れ。前期の同▲10.9%からは回復し、マイナス幅を縮小。前期比伸び率(季節調製済み)は+7.7%。予想の+8.7%から下振れ。前期の同▲9.6%かはら反発。
需要項目別では、個人消費が+7.6%(前期は同▲11.3%)、政府消費が+3.5%(同▲7.7%)、投資+11.0%(同▲16.5%)、輸出が▲2.1%(同+1.6%)、輸入が▲9.6%(同▲12.4%)。輸出入を除いた項目は、いずれも4-6月期から反発。
足下の経済状況では、全体的な経済活動状況を把握できる経済活動指数は、前年同期比マイナス幅を縮小させており、9月には▲2.0%まで回復。ただ、経済活動の回復ペースは鈍化しており、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まらない中、景気には不透明感があります。
4. ワクチン接種開始
一方、ブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)は1月17日、ブラジルが中国のシノバック・バイオテックと共同開発した「コロナバック」と、英国おオック府フォードが抱くがアストラゼネカと共同開発した「コビシールド」の2種類のコロナ・ウィルス・ワクチンの緊急使用(合計800万回分)を承認。
サンパウロ政府はANVISAの承認後、連邦政府の接種に先立つ形で、ブラジル初の新型コロナ・ワクチン接種を開始。同州政府公式サイトによると、22までに10万人以上がッ接種。
連邦政府が当初から確保を試みていたオックスフォード・アストラゼネカのワクチンは、生産元のインドからの入手が一時阿多部まれれいたものの、22日にブラジルに到着。インドのモディ首相は、同日に、インドに謝意を表していたボルソナロ大統領に「新型コロナ対策で、ブラジルの信頼に足るパートナーになれたことは光栄だ」と表明。
一方、ブラジルの感染者数は2月17日午後4時現在で9,921,981人と、米国、インドに次いで世界第3位(ジョン部・ホプキンス大学による)。死者も55,271人と、米国の63,561人について世界第2位。ブラジルではボルソナロ大統領が「コロナは風の一種だ」として軽視したころもあり、経済に大きな打撃となっています。今後は、ワクチンの接種などにより、新型コロナ・ウィルスをどの程度抑え込めるかが、景気に大きな影響を与えることとなりそうです。
4. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年にはほぼ一貫して下落し、10月末には同5.74レアル迄下落。その後やや持ち直したものの、21年1月末には同5.46レアルに留まっています。国内の景気低迷などが影響しているとみられます。
一方、代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから19年3月末には74.640ポイントへと▲35.6%へと大きく下落。新型コロナ・ウィルスの感染拡大とそれに伴う外出制限で景気が大幅に悪化したことが響きました。
その後は急速に戻して、21年1月には116,007ポイントと、19年末比ではほぼ横這い。株価は回復傾向にあるものの、新型コロナ・ウィルス感染などにより、景気の見通しが不透明なことなどにより、このところはもみ合いの動き。
今後の株価の動きについては、国内の景気、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策、米国景気などが影響を与えることとなりそうです。
おはようございます。前回のトルコに続いて、南アフリカ経済の現状を見ます。
1. 1月CPI上昇率は+3.1%に減速
南アフリカ統計局は1月20日に、2月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+3.1%の上昇になったと発表(図表1参照)。前月の+3.2%から伸び率が減速し、市場予想の+3.2から下振れ。
2. 政策金利を据え置き
南アフリカ準備銀行(中央銀行)は1月21日に、主要政策金利であるレポレートを3.50%に据え置くことを決定。据え置きは3会合連続。利上げ開始の時期が、従来想定されていたよりも速まる可能性を示唆。
クガニャゴ総裁はオンライの計資金の会見で、金融政策委員会(MPC)が政策金利のレポ金利を3.5%で維持したと発表。中銀の四半期予測モデルでは、21年4-6月期と7-9月期にそれぞれ+0.25%ポイントの引き上げを示唆。これは、利下げが昨年11月時点の予測よりも速く開始される可能性が有ることを示唆。但、将来の政策決定は「見通しに対するリスクのバランスに影響されやすい」と同総裁は述べました。
3. 7-9月期成長率は+66.1%に回復
一方、南アフリカ政府統計局は12月8日に、7-9月期国内総生産(GDP)が前期比年率季節調整済みで+66.1%になったと発表(図表3)。前期の同▲51%から反発して、5期ぶりのプラス成長となりました。
ロックダウン(都市封鎖)の影響により大幅に落ち込んだ景気悪化から、反動で急速に回復。ただ、新型コロナ・ウィルスの感染拡大以前の水準には程遠く、本確定な回復には時間がかかると予想されます。
鉱業は4倍近く、製造業は3倍強それぞれ増加。6月以降、大半の企業活動を再開するなど、厳しい緩和措置を緩めたことが寄与。前年同期比では▲6%と以前低迷。国際通貨基金(IMF)は、20年通年の成長率を▲8%と予想。
4. 新型コロナ・ウィルスで新種が発生
南アフリカでは、昨年11月下旬より再び新型コロナ・ウィルス感染が拡大し、21年1月8日には1日の新たな感染者数が21,980人に達しました。その後やや低下し、2月10日の新たな感染者数は3,159人。但、累計の感染者数は約148万人に達しており、引き続き経済に対して打撃となっています。
更に、12月に入って感染力の強い「変異種」発見されました。WHO(世界保健機構)は新型コロナ・ウィルスの変異種について「過度に警戒する必要はない」との見解を示したものの「感染拡大の抑制にはより明確な情報が得られることまで人の移動を制限することが賢明である」との見方も示唆。
同国政府は11月に、低迷が続く観光関連産業や外食産業を後押しする観点から、すべの国を対象に往来を解禁する方針を示唆。必要な保険衛生上の手続きと陰性証明の提示を条件に、全ての国からの渡航者の受け入れを解禁。幅広い経済活動を「平時モード」に戻す動きを進めてきました。
しかし、南ア由来による感染力の強い変異種の誕生により、感染の再拡大に直面している英国の他、多くに国が同国からの飛行機の渡航の受け入れを一時停止する動きを広めています。足下では、感染再拡大によって、企業マインドが低下する傾向にあります。
5. 為替と株価
ここで、南アフリカの為替と株価を見ましょう。南アフリカ・ランドは、20年4月以降に対ドルで一貫して上昇。12月には、新型コロナ・ウィルスのワクチンへの期待が高まり上昇。8日発表の7-9月期GDPが前期比年率+66.1%と、5四半期ぶりのプラス成長となり、ランドは一段高。
21年に入ると、南アにおける新型コロナ・ウィルスの変異種の感染拡大により、政府による一段の行動規制強化を受けて景気下押し懸念が強まったことにより、ランドは一時下落しました(図表4参照)。
株価は、代表的な株価指数の1つであるFTSE/JSEアフリカ全株指数でみると、18年から20年春にかけてほぼ横這いで推移(表5参照)。20年に入ると、新型コロナ・ウィルス感染拡大により、株価は急落。但、3月以降には、ワクチン開発への期待、更に7-9月期GDPが急回復したことなどにより、株価も急反発。
6. リスク要因と課題
まず、南アフリカにおいては、経常収支と財政収支赤字が、国内総生産(GDP)比で大きく、通貨が売られやすい状況にあります。米連邦準備委員会(FRB)の利上げにも、注意する必要があります。
また、19-20年には計画停電が相次いで発生。国内電力供給の9割を担う国営電力会社エスコムは、政治かとの癒着や放漫経営などで財政状況が悪化。企業は自家発電を導入し、家賃が上がるなどの影響が出ています。
次回は、ブラジルを見る予定です。
おはようございます。前回のインドに続いて、今回はトルコ。
1. 12月CPI上昇率市場予想上回る
トルコ統計局が1月4日に発表した12月消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同月比+14.6%となり、11月の+14.03%から伸び率が加速。市場予想の+14.34%から上振れ。新型コロナ・ウィルスのパンデミック(世界的大流行)が一旦ピークを過ぎ、経済活動が再開されて、景気回復が進んだことが要因。
2. 政策金利を据え置き
一方、トルコ中央銀行は、1月21日に、主要政策金利である1週間物レポ金利を17.00%に据え置くことを決定(図表2参照)。12月の前回会合までは、インフレ抑制のために、2会合連続で金利を引き上げていました。据え置きは、市場の予想通り。
中銀は会合後に発表した声明文で、主要政策金利を据え置いたことについて、「強い内需や通貨トルコリラ安による輸入物価上昇効果、輸入食品やコモデティの価格上昇、期待インフレ率の上昇が引き続き、企業の価格設定行動やインフレの先行き見通しに悪影響を与えている」として、インフレ懸念を示唆。
一方、「20年11月と12月の過去2回の利下げによるインフレ抑制効果が表れて、内需やトルコリラ安による輸入物価常勝等によるインフレへの悪影響は徐々に緩和していく」として、当面、利下げ効果を見守るとしました。
3. 7-9月期成長率+6.7%
他方、トルコ統計局が11月30に発表した今年7-9月期GDP(国内総生産)は、前年同期比+6.7% (図表3参照)。4-6月期の▲9.9%から急回復し、市場予想の+4.8%からも上振れ。新柄コロナ・ウィルス感染抑制のためのロック・ダウン(都市封鎖)で、第2四半期は大幅なマイナス成長に陥ったものの、急回復しました。前期比(季節調整済み)では+15.6%の伸び。
エコノミストは2020年のGDP伸び率を横ばいと予想している。予想のレンジはマイナス5%からプラス0.6%。
第3・四半期は予想を上回る強い伸びを示したものの、前2四半期の落ち込みは激しく、通年の成長率は辛うじてマイナス成長を免れる程度にとどまるとみられる。また、中銀が今月利上げを行ったことも景気回復の重石になる見通し。
エコノミストは、2020年のGDP成長率を横這いと予想。第3四半期には予想を上回る伸びとなったものの、第2四半期の落ち込みが厳しく、通年の成長率は辛うじてマイナスを免れる程度と予想されます。また、中銀の今回の利上げも、景気にとって重石となる見込み。
4. 新型コロナ・ウィルスの感染拡大
一方、トルコのエルドアン大統領は11月30日、新型コロナ・ウィルス対策の行動制限を12月1日より強化すると発表。平日と夜間と週末の終日を原則として外出禁止としました。ショッピングモールへの入場者数も制限。
トルコは6月に行動制限を大幅緩和。しかし、11月にはレストランでの飲食や週末の外出を制限するなど、再び引き締めに転じました。
トルコの感染者数は11月末の足下で、1日当たり約3万人。30日の死者数は188人で、1人当たりの最多を更新。トルコは7月以降に、無症状を除く人数を感染者数として公表してきたものの、11月下旬に再び無症状を含めて公表するとしました。
エルドアン大統領は、ワクチンを調達するまで「厳しい規制で時間を稼ぐ必要がある」として、理解を求めました。トルコは11月、中国の科興控股生物技術(氏のバック・バイオテック)製ワクチン5000万回分の購入契約を結んだと明らかにしました。
5. 為替と株価
ここで、トルコの為替と株価を見ましょう。トルコの通貨リラは、20年2月以降に一貫して下落(図表4参照)。インフレ率の上昇、地政学的リスク、エルドアン大統領と中央銀行総裁の対立などが主な要因。
トルコでは、昨年11月初めにウイサル中央銀行総裁と、エルドアン大統領の娘婿のアルバイラク財務相が相次いで辞任。それぞれの後任者が、通貨リラの価値を維持し、経済がより深い混乱に陥ることを防ぐことが期待されました。
新しい中銀総裁に就任したナジ・アーバル氏は、物価安定に狙いを定めると発言。中銀が利上げに動くと期待されました。上記の通り、その後中銀が利上げを行い、その結果リラも安定を取り戻しました。11月以降、リラは対ドルで上昇。
一方、代表的な株価指数の1つであるイスタンブール100指数は、18年から19年秋ころまでは軟調。その後19年末にかけて上昇したものの、20年2月以降は、新型コロナ・ウィルスの感染拡大により急落(図表5参照)。その後は、米連邦準備理事会(FRB)の大規模金融緩和などにより、株価は急激に上昇しました。
上記の通り、トルコでは新型コロナ・ウィルスの感染拡大が続いており、ワクチンの接種が始まっても、直ちに終息に向かうことはなさそうです。但、米国をはじめとする先進国の金融緩和が継続し、米国等での株高が継続すれば、トルコの通貨、株価が強含むことも考えられます。
次回は、南アフリカを見る予定です。
おはようございます。前回のインドネシアに続き、今回はインド。
1. 消費者物価指数上昇率が鈍化
主要な新興国の中では、従来は中国が高い経済成長率を誇り、インドはそれに次ぐ成長を遂げてきました。インドが成長率で一時上回ることとなったものの、その後は失速しています。
まず、消費者物価指数(CPI)を見ましょう。インド統計局が1月12日発表した12月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+4.59%(図表1参照)。前月の+6.93%から急減速。市場予想の+5.28%からも下振れ。
2. 7-9月期成長率▲7.5%
続いて、インド統計局が11月27日に発表した7-9月期成長率は、前年同期比▲7.5%(図表2参照)。過去最悪となった4-6月期の▲23.9%からは回復したものの、2四半期連続のマイナス成長で、新型コロナ・ウィルス感染の状況次第では、今後景気低迷が長期化する可能性もあります。
成長率を需要項目別に見ると、GDPの約6割を占める民間最終消費支出は、個人消費の減退により、前年同期比▲11.3%。同3割を占める総固定資本形成は▲7.3%となり、これらがGDPを大幅に引き下げました。第1四半期には唯一プラスであった政府最終消費支出は、第2四半期では▲22.2%と大幅マイナスとなりました。輸出は第1四半期から持ち直したものの、▲1.5%と依然としてマイナスにとどまっています(図表2参照)。
3. 政策金利を据え置き
他方、インド準備銀行(中央銀行)は12月4日開催の金融政策決定会合で、政策金利のレポレートを4.00%に据え置くことを決定(図表3参照)。インフレ率が高止まりしていることが背景。但、景気の持ち直しを維持するため、厳しい環境にあるセクターには、潤沢な資金供給をする方針を示唆。
中銀のシャクティカンタ・ダス総裁はオンライでのブリーフィングで、金融政策員会は、持続的な景気回復を支援するために、少なく元今年度と来年度に緩和姿勢を維持することを決定したとしました。
4. 新型コロナ・ウィルス感染拡大が継続
一方、米ジョンズホプキンス大学の集計によると、新型コロナ・ウィルス感染者数は、日本時間27日未明に1億人を突破。中国武漢で新型肺炎が確認されたのが19年12月で、世界の感染者数が5000万に達したのが11月。
それからわずか2か月半で倍増。各国はワクチンの接種を進めているものの、今のところ終息の兆しはありません。その一方、英国や南アフリカでは感染力の強い変異種が見つかっています。感染者数では、米国が世界全体の約25%にあたる2540万人、続いたインド1070万人、ブラクス890万人となっています。
5. 株価と為替6
まず、為替については、インド・ルピーはドルに対して、2007年以降に一貫して下落(図表4参照)。但、2019年12月末と2020年12月末との比較では、▲2.40%の下落にとどまっています。
株価は代表的な株価指数の1つであるSENSEX30指数が、2019年末の41,253ポイントから3月末には29,468ポイントへと急落。但、その後は米FRBによる金融緩和、ワクチンの開発進展などにより、急回復。12月末には47,751ポイントと、19年12月末比では+15.7%と、順調に回復。
6. 課題とリスク
インドでは、製造業の発達が遅れていること、ヒンズー教徒とイスラム教徒の対立が深まっていること、新型コロナ・ウィルス感染拡大が継続しているなど、多くの課題があります。また、北部カシミール地方の領有権を巡っては、中国と外交的に対立を深めています。
インドの強みの1つは人口構成の若さ。今後も15-64歳のいわゆる労働人口の増加が見込まれており、その面では、有利です。一連のコロナ騒動が収まれが、再び成長軌道に復帰するとみられます。
次回は、トルコについて見る予定です。
おはようございます。今回から脆弱5か国の近況を個別に見ます。最初はインドネシア。
1. 新型コロナ・ウィルスの感染拡大が継続
世界的に、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が継続。米ジョンズホプキンス大学の集計によると、20日午後8時30分時点で、世界全体の感染者数は9650万人。死亡者数は205.9万人。最も振興な米国では連日15-20万人ペースで感染が拡大。世界全体の約25%に相当する2425.4万人が感染。続いてインド1059.6万人、ブラジル857.4万人等(図表1参照)。インドネシアは927,380人で第20位。但、東南アジア諸国連合(ASEAN)に限ると、首位。
インドネシアでは足下で新規感染者と死亡者数がともに増加傾向にあり、状況は悪化の一途をたどっています。首都ジャカルタでは、新規感染者の動向を見つつ行動制限の緩和と再強化を繰り返しています。10月中旬には新規感染者数の鈍化を受けて行動制限が一部緩和されたものの、その後の感染再拡大により、再び行動制限が課される展開が続いています。
2. 12月CPI上昇率は+1.68に加速
インドネシア中央統計局は1月4日に、12月の消費者物価指数(CPI)が、前年同月比+1.68%になったと発表(図表2参照)。市場予想の+1.61%から若干上振れ。前月の+1.59%から加速したものの、引き続き低水準にとどまっています。
3. 政策金利を維持
一方、インドネシア中央銀行は1月21日に、政策金利であるBIレートを3.75%に維持すると発表。金利据え置きは市場の予想通り。
過剰流動性を吸収するために、翌日物預金ファシリティー金利は3.00%に、翌日物貸出ファリリティー金利は4.50%にそれぞれ維持。
4. 7-9期▲3.49%成長に低迷
インドネシア中央統計局11月5日に、7-9月期の国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲3.49%であると発表(図表3参照)。伸び率は4-6月期の▲5.32%から回復したものの、2四半期連続で前年比マイナス成長となりました。
BPSによると、7-9月期は項目別では、公的支出が同+9.76%となったものの、それ以外の全てが前年同期比マイナス。GDPの約57%を占める家計消費がマイナス▲4.04%、約31%を占める固定資本形成が▲6348%で前期よりもマイナス幅が縮小したものの、引き続き厳しい状況が継続。輸出は▲10.82%、輸入が▲21.86%と2桁のマイナス成長。
5. 為替と株価の動向
次に、為替を見ると、インドネシア・ルピアは2019年12月末から20年3月末にかけて▲17.4%の大幅下落。世界的な新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、投資家が新興国から資金を引き揚げたことなどが響きました(図表5参照)。その後、米連邦準備理事会(FRB)による大幅金融緩和などにより、ルピアは対ドルで急激に戻し、20年12月末には同▲0.8%まで戻りました。
株価についても、ジャカルタ総合指数は19年末から20年3月末まで▲27.9%の大幅下落。その後は一転して急速に戻し、20年12月末には同▲4.6%までも取っています。
米国では、株価指数S&P500指数が既に最高値を苦心しており、日本など他の先進国の株価も堅調。中国の上海総合指数も19年末比で高値を更新しており、インドネシアの株価は出遅れています。インドネシア国内の新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まって来れば、株価、為替ともに堅調に推移することも考えられます。
次回はインドを見る予定です。
おはようございます。13年には、「脆弱5か国」と呼ばれた国の通貨が大きく下落しました。最近の各国の動向を考察します。
1. 脆弱5か国
米投資銀行のモルガン・スタンレーは、ブラジル、インドネシア、インド、トルコ、南アフリカを「脆弱(fragile)5か国」と呼びました。これらの国は高い成長への期待により、海外からの資金が流入してきたものの、経常収支の赤字、また経済の規模である国内総生産(GDP)に対する財政赤字の規模が大きい新興国であるとしました。
これらの国は輸出よりも輸入が大きいために経常赤字が続いており、また、外貨準備も豊富にあるわけではありません。米国など主要先進国の金融緩和によって大量の資金がこれらの新興国に流れ込んでいるものの、米国などの金融政策が変われば、外貨が流出し外貨準備で通貨を下支えするのが難しく、したがって財弱な国であるというわけです。
2. 米国金融政策の影響
そのため、これら「脆弱5か国」の通貨、株式市場は米国の金融政策から大きな影響を受けることになります。米国では、13年5月の量的緩和第3弾の縮小(テーパリング)の観測が台頭。米国ではその後量的緩和の終了、その後に利上げが行われました。続いて、世界経済の減速により、FRBが利下げに踏み切り、昨年には新型コロナ・ウィルス感染拡大により、大幅な金融緩和、資金供給を行うに至りました。
米連邦準備理事会(FRB)の金融政策は、米国の雇用統計の影響を大きく受けるので、2020年12月の雇用統計を確認しておきましょう。米労働省が12月の雇用統計を1月8日に発表し、非農業部門の雇用者数増加は前月比▲14万人と、前月の+24.5万人から減少に転じました。雇用者数の伸びがマイナスに転じるのは、新型コロナ・ウィルスの危機が深刻になった4月以来。国内で猛威を振るう新型コロナ・ウィルスの感染拡大により、パンデミック(世界的大流行)からの回復が一時的に失速する可能性が有ります。
失業率は前月比横這いの6.7%。市場では、雇用者数の増加を+10万人。失業率を6.8%と見込んでいました。米失業率は4月に14.7%まで悪化して、5月以降には7カ月連続で改善。失業者数は12月時点でも1070万人と、危機前の580万人の2倍近くに上っています。
3. 脆弱5か国の財政状況
今後は米国の利上げ開始、それに伴う米国金利の上昇、更には投資家による新興国からの資金の引き上げといった動きが予想されます。では、これら5か国の財政状況はどうなのでしょうか。国際通貨基金(IMF)の今年4月のデータによると、各国の国内総生産(GDP)、つまり経済の規模に対する財政赤字の予想は図表2の通りです。
120年のデータでは、特にGDP比で、ブラジルが▲16.7%、南アが▲14.3%、インドが▲13.0と、大幅赤字。そのほかの諸国についても、21年以降財政赤字が続く見通しであり、各国の通貨、株式に影響を及ぼす可能性が有ります。
4. 脆弱5か国の経常収支
経常収支でも、これら5か国は赤字が継続(図表3参照)。20年でみると、インドが▲2.5%、南アが▲2.4%などと、2013年当時と比較すると、大幅に改善しています。
新興国においては、ドル建ての対外債務が増大する傾向にあり、外貨準備高との関係で、一部の国で通貨が対ドルで大幅下落する要因となっています。
また、これら脆弱5か国ひとまとめでは論ずることができない側面があり、個別の国のリスク要因と見る必要があります。次回以降、各国の要因を見ていく予定です。
おはようございます。ブラジル経済に、やや明るさがみられます。
1. 政策金利を据え置き
ブラジル中央銀行は12月9日の金融政策委員会で、政策金利を2.0%に据え置くことを決定(図表1参照)。据え置きは市場の予想通り。据え置きは3会合連続。同委員会の声明文では、11月の拡大消費者物価指数(IPCA)が、食品価格等の高騰により前年同月比+4.3%に加速したことについて「現在の物価常勝は一時的の判断しているものの、今後はコア・インフレの動向を引き続き注意していく」として、物価への警戒姿勢を示唆。
中銀は同声明文で、2020年8月の同委員会で表明した「特定の条件が満たされる限り、ブラジル中銀は金融緩和を縮小する意図はない」とのフォワード・ガイダンスを取り下げる可能性を示唆。インフレ期待の高まりや新型コロナ・ウィルス危機からの金融緩和を修正する準備を開始したとみられます。
2. インフレ率は低水準
一方、ブラジル地理統計院は9月9日に、8月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)を発表。2.44%と、前月の同+2.13%から加速(図表3参照)。市場予想の+2.42%とほぼ一致。
また、個人消費は回復傾向にあります。ブラジルの小売り売上高は新型コロナ・ウィルスの感染拡大による外出制限などにより、2020年4月に大きく落ち込みました。その後、9月時点で、感染拡大前の水準に回復。
3. 7-9月期GDPは▲3.9%に戻す
他方、ブラジル地理統計院(IBGE)は12月3日に、7-9月期の実質国内総生産(GDP)成長率が、前年同期比▲3.9%であったと発表(図表3参照)。市場予想の▲3.5%から下振れ。前期の同▲10.9%からは回復し、マイナス幅を縮小。前期比伸び率(季節調製済み)は+7.7%。予想の+8.7%から下振れ。前期の同▲9.6%かはら反発。
需要項目別では、個人消費が+7.6%(前期は同▲11.3%)、政府消費が+3.5%(同▲7.7%)、投資+11.0%(同▲16.5%)、輸出が▲2.1%(同+1.6%)、輸入が▲9.6%(同▲12.4%)。輸出入を除いた項目は、いずれも4-6月期から反発。
足下の経済状況では、全体的な経済活動状況を把握できる経済活動指数は、前年同期比マイナス幅を縮小させており、9月には▲2.0%まで回復。ただ、経済活動の回復ペースは鈍化しており、新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まらない中、景気には不透明感があります。
4. 為替と株価
ここで、ブラジルについて株価及び為替の動きを見ましょう。ブラジル・レアルは2011年以降に一貫して下落。特に昨年には大きく下落し、2019年12月末の1ドル=4.01レアルから、20年10月末には同5.74レアルへと大きく下落(図表4参照)。12月末には同5.19レアルと、19年末との比較では、▲29.2%の大幅下落。ブラジル国内の景気の大幅な落ち込み、また、海外の投資家がブラジルから資金を引き揚げたことなどが影響しました。
株価も大きく変動。代表的な株価指数の1つであるボベスパ指数は、19年末の115,964ポイントから19年3月末には74.640ポイントへと▲35.6%へと大きく下落。新型コロナ・ウィルスの感染拡大とそれに伴う外出制限で景気が大幅に悪化したことが響きました。
その後は急速に戻して、年末には119.306ポイントと、19年末比では+2.8%の小幅上昇迄、戻しました。世界的なワクチン開発と接種の期待、中国あるいは先進国の景気回復への期待などが背景にあります。
但、ブラジルでは新型コロナ・ウィルスの感染拡大が収まっておらず、景気の回復も必ずしも順調とは言えません。株価も、今後一本調子に上昇するかどうかは、予断を許さないと言えます。
おはようございます。中国経済は、回復を続けています。
1. 鉱工業生産が増加
先ず、直近の主な経済指標を見ておきましょう。中国の国家統計局が16日に発表した統計によると、11月の鉱工業生産は前年同期比+7.0%。8か月連続の増加。市場予想